東京えっちナイト 【最終回】
- 2016年09月11日
- 小説, 東京スペシャルナイト
すべてが終わって帰るところなのだろう。
少し待っていると、裏の出口から出た宇宙と遼一が、表通りに出てきた。
遼一は少し足取りがフラフラしている宇宙の腰を支えるようにして歩いている。
二人の顔には、幸せが滲み出ていた。
愛される喜びを噛みしめている宇宙と、愛する者と一緒にいられる喜びに浸っている遼一。
桜庭は、しばらくそんな二人の後ろ姿を眺めていた。
一度は断り、父親の跡はつがないと断言した遼一だが、一度目覚めてしまった修羅の心はいつか必ず生まれた場所に戻ってくる。
修羅の群れの中に戻ってくるのだ。
桜庭には、それがよく分かっていた。
血が血を引き寄せるとでもいうのだろうか。
今は嫌だと言っても、一年後は分からない。
三年後はもっと分からない。
「もう行っていい」
桜庭は運転手にそう言うと、静かに車を発進させた。
二人の横を通り過ぎる時、桜庭は不思議と藤堂四代目とその恋人である真琴の出会いを思い出していた。
どんなに逃げようともがき苦しんでも、真琴は決して藤堂の腕から逃れられなかった。
そして最後には自らの運命を受け入れ、藤堂を求めるようになった。
今では、裏の世界の人間なら誰でも聞いたことがある真琴も、数年前は田舎から出てきたばかりの何も知らない一般人だった。
三年間の間にきっと紅林組の組長を継ぐようにしてみせる。
きっとだ。
桜庭は心の中でそう呟いた。
そしてそんなこととはまったく知らない遼一は、最愛の宇宙の腰を抱きしめながら歩道を歩いていた。
今日はオープン初日を祝して、イタリアンレストランで食事をする約束をしているのだ。
だがウルトラスペシャルマッサージを受けた宇宙の足腰がフラフラで、今にも倒れてしまいそうである。
顔も上気していて、目は虚ろで、イッてしまったままの状態だった。
「大丈夫か?」
と、遼一が聞くと、宇宙は「うん、うん」と言って力なく頷いた。
これは大丈夫ではない。
イタリアンレストランは諦めたほうがよさそうである。
遼一は進路を変更して、コンビニに寄った。
そこでシャンパンとチーズ、クラッカー、生ハムなどを買い込むとそのまま帰路についた。
アパートで二人だけでのお祝いをしようと考えたのだ。
「イタリアンレストランに行かないの?」
まだ目が虚ろな宇宙が、コンビニで買い物をしている遼一に向かって聞く。
遼一は会計を済ませると、宇宙の手を引っ張ってそのままコンビニを出た。
「誰かさんの目が虚ろだからね。色っぽい顔をしてるし、その顔に誰かがそそられないとも限らない」
「・・・だって・・・それは・・・」
それは遼一の責任だよと、言いかけてやめた。
そんなことを言っても、遼一には勝てないことを知っている。
宇宙はそっと遼一の腕に手を絡ませた。
「アパートに着いたら二人だけでお祝いしよう」
「ああ、そうしよう」
遼一が優しく笑って頷く。
その男らしい笑顔を見て、宇宙は心の底からこの男性に出会えてよかったと思っていた。
巡り合えて愛し合えて本当によかった。
これから先、遼一と自分にどんな運命が待ち受けているか分からないが、ずっと遼一についていこうと心に誓った。
「ね、遼一。僕のこと愛してる?」
宇宙の可愛い問いに、遼一はふふっと笑った。
「さー、どうだろう?宇宙はどう思う?」
「もちろん、愛してる」
自信満々の宇宙の答えに、遼一はただ朗らかに笑っていた。
空には満天の星が輝いていた。