「あぁぁ・・・堂本さんが・・・・・」
「それができなきゃ、途中でやめるぞ。いいのか?」
堂本は冷たい口調でそう言って、乳首と分身のピアスを引っ張るのをやめてしまう。
とたんに由一は『いやいやっ』と言いながら、腰を引き上げた。
「私のお◯んちんを好きなようにしてください。舐めて・・・しゃぶって・・・噛んでください。ああっ・・・ピアスを引っ張ってください」
由一は、涙をポロポロと零しながら、切なげな表情で訴える。
すると堂本は、分身のピアスを握り締めると、強引に扱きながら由一の唇にキスをした。
ピアスを皮で被せるようにして上下に扱かれると、由一は堪らなく感じてしまうのだ。
ピアスの硬い感触が時々当たって、クラッとするぐらいの快感を由一に与えてくれる。
「あぁぁ・・・あっ・・・あっ・・・いいっ」
「どんなふうにいいんだ?」
「ピアスが当たって・・・ああっゴリゴリしてて・・・気持ちいい・・・」
と、呻くように叫んだとたん、由一はピクンッと内股を震わせる。
これは、もうすぐイッてしまうという由一の合図だった。
堂本はその合図を無視して、由一の下着を足首まで下ろし、両足を広げた。
そしてそのまま一気に、由一の蕾に向かって堂本自身を突き立てる。
「あぁぁぁーーーーっ」
由一は、ここが車の後部座席であることなどを忘れて、喘ぎまくった。
白い足が、車の天井に向かって伸びている。
その間で、分身だけを露出した堂本が激しく身体を上下させている。
「あっ・・・あっ・・・ああーーーーーっ」
由一は、無我夢中で堂本の高価な上着にしがみつき、快感を貪っていく。
「堂本さんっ・・・ああっ・・・もう・・・・・」
そして堂本が由一の乳首をピアスごと口中に含んだとたん、由一は頂点を極めていく。
「あぁぁぁぁーーーーーっ」
白い飛沫が勢いよくピュッと飛んで、黒い革のシートをちょっとだけ汚してしまう。
堂本は、イク時の由一の顔を見つめながら、激しい飛沫を由一の中に放出していた。
ドクンドクンッと、堂本の熱さが伝わってくる。
由一は、この瞬間が好きだった。
堂本の愛情を一身に受けるこの瞬間が堪らなく好きだった。
そして抱かれれば抱かれるほど、どんどん堂本の魅力に捕らわれていくこの身が、好きだった。
「・・・・・愛してる」
堂本はイッた瞬間、由一の耳元で小さな声で囁いた。
それは、どんなに哀願しても普段はあまり口にしてくれない、言葉だった。
由一は、心の中に染み込んでくるその言葉を真底嬉しく思いながら、これからの一生を堂本に捧げる覚悟を決めていた。
この先、どんなにつらいことがあっても堂本についていく。
私は、どんな時でも堂本の情夫であり続けたい。
そしてそんな自分を、いつでも誇らしく思っていたい。
それは、いつの間にか由一の最大の願いとなっていた。
「そろそろ、到着しますが・・・」
助手席のヤクザが、下を向いたまま言う。
だがその声は、喘ぎ続けている由一には、聞こえなかった。
「分かった」
堂本は冷静な声でそう答えると、ぐったりとしている由一の身体から離れていった。
由一が、一瞬とても切なそうな顔をする。
もっとこうして抱かれていたい・・・そう思ったのに。
「堂本さん・・・」
最後に囁いてくれた、堂本の言葉をもう一度聞きたい。
そう思った由一だったが、黙ったまま身支度を整えていく堂本を見つめるしかなかった。
堂本はこれから、木城組就任の挨拶のために都内のホテルに向かっていた。
今日は、堂本には特別な日だったのだ。
もちろん、総本家の藤堂四代目も出席する。
だとすれば、真琴様もきっと来るに違いない。
そう思った由一は、ホテルまで同伴したいと我が儘を言ったのだが、その途中、白樺に寄ってどうしても佐川にあの時のメモを返しておきたかったのだ。
以前までの自分に別れを告げるために。
そして、これからの自分に向き合うために。
「どうする?一緒に降りるか?」
ホテルのロビーの前で停車したベンツの中で、堂本は聞いた。
エルメスのネクタイをきちんと締めている堂本は、少しの乱れも残していなかった。
由一は、まだ支度に手間取っている。
「いいえ。地下の駐車場まで行きます。まだ・・・全然支度が間に合わないし・・・」
由一は、一生懸命にYシャツのボタンを嵌めているが、まだ絶頂の余韻のためか、指がもったりとしている。
それを見た堂本は、何も言わずに先にベンツから降りた。
堂本が降りると、左右に分かれて待っていたヤクザたちが一斉に頭を下げる。
堂本はその間を、ゆっくりとした足取りで進んでいった。
そんな勇ましい後ろ姿に、由一は思わずじっと見入ってしまう。
ホテルの地下に進んでいくベンツの後部座席で、由一はずっと堂本を見つめていた。
「愛しています、堂本さん」
由一は、そっと呟いてみる。
すると不思議なことに、心の中がジーンと熱くなってきた。
ああ、これが愛なんだ
由一は、実感する。
そして、フラワーショップ白樺で働いていたからこそ堂本と知り合えたのだと思うと、運命の絆を感じずにはいられなかった。
人の運命は、まったく分からない。
明日のことだって、分からない。
ううん、だからこそ一生懸命生きているんだ。
由一は心の中でそう悟ると、地下の駐車場に降り立った。
「由一様ですね?」
そこには、由一の到着を待っていたスーツ姿のヤクザたちが数人、立っていた。
「はい」
「こちらからどうぞ」
堂本の情夫としての特別な人生を歩き出した由一は、今胸を張って、大きな一歩を踏み出していった。
「これは十六年前、私と母がこの白樺を出るときに、佐川さんからもらったメモです。いつでも、困ったことがあったら電話しろよ、ここに来いよと言って、渡してくれたんです」
由一の言葉を聞き、佐川が昔の記憶を呼び起こす。
十六年前・・・・・そういえば・・・・・まだ小学生くらいの子供と路頭に迷っていた母親を、この白樺の二階に三日間だけ泊めたことがあった。
どうしても一人で頑張りたいと言ってここを出て行く時に、確かにノートを破ってそれを手渡した。
『困ったことがあったら、いつでも来いよ』
と、小学生の可愛い子供の頭を撫でると、その子はニッコリと天使のような笑みを見せて笑ったのだ。
あの時の紙切れを、どうして由一が持っているんだ?
まだか・・・・・まさか・・・・・。
「あの時、佐川さんはわたしの名前を聞かなかったでしょう?」
「じゃあ・・・やっぱりあの時の・・・?」
またビックリ仰天した佐川は、思わず近くにあったパイプ椅子にガクンッと腰を下ろしてしまった。
あの時の小学生が、由一?
「この電話番号の書いてある紙切れはどうしても捨てることができませんでした。ずっと大切に持っていました。つらいことがあった時も、母が亡くなった時も、ずっと持っていました。私にも帰れる場所があるって・・・自分にそう言い聞かせて・・・・・」
「由一・・・お前・・・。じゃあ・・・ここに来て花屋を手伝ってくれたのは・・・?」
「はい。あの時のせめてもの恩返しにと思ったんです。私にできることは、お花屋さんで一生懸命働くことしかなかったから・・・」
「ゆ、由一っ」
佐川は、また涙を溢れさせた。
だが今度の涙は先程までの涙と違い、なぜかとても温かく感じた。
涙を流せば流すほど心が洗われるというか、幼少の頃の純真で素朴な心に返る、そんな感じなのだ。佐川は、由一から手渡されたボロボロの紙切れを受け取ると、両手でギュッと握り締めて胸に押し当てた。
佐川の身体が、ブルブルと震えているのが分かる。
由一は、そんな佐川に向かって深々と頭を下げると、そのまま白樺に背を向けた。
佐川は、ボロボロのメモを握ったまま、声を殺して泣いていた。
由一が去っても、後を追うこともできず、声をかけることもできず、ただじっとパイプ椅子にうずくまるように座っていた。
由一はそんな佐川に、心の中でさよならを告げながら、車が待っている大通りまで歩いていった。
「・・・・・用は済んだのか?」
ブリリアントシルバーのメルセデスベンツS600Lの後部座席では、堂本が優雅に足を組んで待っていた。
「・・・はい」
隣に乗り込んだ由一が、小さい声で答える。
由一の瞳は、涙でちょっと潤んでいた。
「そういう由一も、堪らなく愛しいな・・・」
由一の肩を抱き寄せ、堂本が低い声で囁く。
由一は、涙で潤んだ瞳を上げ、堂本の顔を見つめてた。
「だったら、今ここで抱く?」
由一は、運転手には聞こえないぐらいの小さな声でそう言って、甘えるように腕を首に絡める。
堂本は、ふふっと笑って由一の身体をシートの上に押し倒した。
「いいのか、そんな生意気なことを言って・・・。後で泣くことになっても知らんぞ?」
と堂本が由一のライトブルーのシャツのボタンを外しながら、言う。
だが、ありとあらゆる方法で堂本に抱かれている由一は、余裕の笑みを見せていた。
「泣くって?どうして私が泣くの?いつも私の身体に満足して、喜びの涙を流しているのは、堂本さんの方でしょう?」
いつの間にこんなに憎たらしくて挑発的な言葉を覚えたのか。
堂本に毎日のように抱かれ続け、由一はどんどん成長し、堂本の好みの身体に変貌していく。
どう言えば堂本が喜び、どう言えば堂本が怒るのか、今では誰よりも知りつくしている。
「・・・・・その強がりがいつまで持つか、楽しみだな。由一?」
「あんっ・・・堂本さん・・・そこはピアスをつけたばかりだから、ちょっと痛い」
右側の乳首を剥き出しにされ、いきなり吸われた由一は、苦痛ともとれる喘ぎ声を上げて訴えた。だがそんなことでは、堂本は動じない。
由一が痛いと言えば言うほど、そこを執拗に責めるのだ。
昨夜、乳首につけてもらったばかりのリングピアスを口に銜え、強く引っ張りながらも下半身を露出させていく。
「あぁぁ・・・堂本さんっ。だめぇぇぇ・・・・・切れちゃうぅぅ・・・・・」
と、由一が大声で叫ぶ。
もちろんその破廉恥な声は運転手や助手席にいるヤクザたちに筒抜けだったが、そんなことには構ってなどいられなかった。
やっと痛みが和らいできたというのに、そこを責めるなんてっ。
左側の乳首だったら全然痛くないし、今では責められれば責められるほど、快感を感じることができるのに。
ああーん、ひどい。堂本さんったら。
由一は、心の中でそう叫びながら苦痛に耐えていた。
堂本は口でまだ血の味がする乳首を愛撫しながら、剥き出しにした由一の分身をクチャクチャと弄り出す。
由一の分身の根元には二つのリングピアスが嵌められていて、亀頭の部分もダイヤが埋め込まれた高価なプラチナのリングピアスが嵌まっていた。
この三つのピアスは、由一が堂本の情夫になったばかりの時に嵌められたものだった。
由一が自分から、堂本に嵌めてほしいと哀願したのだ。
「あんっ・・・ああっ・・・」
堂本が手を上下に揺らすと、根元のピアス同士がかち合って、かチャッと音を立てる。
その音が由一にはとても淫靡に聞こえて、勝手に興奮してしまうのだ。
「お前のここはいやらしいな・・・。露が溢れているぞ・・・」
堂本はそう言って、亀頭の先端に嵌められているピアスを引っ張る。
「ひぃ・・・」
由一は、短い悲鳴を上げて下半身を震わせたが、すぐにもっと弄ってほしいと腰を突き出した。
「あぁぁぁ・・・・・もっと・・・・・」
「もっと?そんな言い方じゃ、だめだ。もっと、俺の気をそそるようなことを言ってみろ」
堂本は、乳首のピアスを再び引っ張りながら言う。
由一は苦痛に顔を歪めながら、腰を揺すって言った。
「・・・もっと・・・もっと・・・弄ってください。私のおち◯んちんを、弄ってください」
由一は、いつも教えられている通りに言う。
どう言えば堂本が一番喜ぶか、由一は知り尽くしていた。
だが今日の堂本は、こんな言葉だけでは満足しなかった。
昔の思い出に浸り、健気な表情で涙を流していた由一を見たせいで、欲望が最高潮に達していた。
「だめだ。もっとそそることを言え。腰を振って・・・娼婦のように誘ってみろ」
由一は『白樺』に向かって一人で歩いていた。
早いもので、あれから一年が経過していた。
もしかしたらもう、フラワーショップ白樺はないかもしれない。
堂本に白樺のことを聞いても、何も答えてくれないのだ。
『自分の目で見て確かめてみるといい』
堂本のその一言がきっかけだった。
由一は、どうしても佐川に会っておきたかった。
「・・・・・・・ゆ、由一?」
フラワーショップ白樺で、せっせと切り花の手入れをしていた佐川は、由一の姿を見てビックリ仰天して言った。
今にもその場で、卒倒してしまいそうなくらい響いている。
ブランドもののスマートなスーツに身を包んでいる凛々しい姿は、以前の由一とは輝きが違っていた。
自信に満ちた瞳と堂々とした身のこなしの由一は、きちんと頭を下げて挨拶をした。
「ど、ど、どうして?」
「堂本さんから許可が下りたので」
「ど、堂本さんって・・・。今度、木城組の組長になった堂本さん?」
「はい、そうです」
ニッコリと、穏やかな笑顔を見せて由一が答える。
だがその答えを聞いて、佐川は後ろにひっくり返りそうなくらい驚いた。
フラワーショップ白樺は、あれからなんとか営業しているようだった。
だが、他の店員は誰もいない。
佐川が一人で切り盛りしているのだ。
白樺は、以前のような活気はなかったが、なんとか暮らしていけるだけの客は確保している。そんな感じだった。
「お店、なかったらどうしようってずっと気になってて・・・。でも佐川さん、お元気そうでよかったです。あれからもう賭けマージャンはやめたんですか?」
と、由一が優しい声で言うと、襟首が伸びている古ぼけたTシャツに短パン姿の佐川は、あの時のことを思い出したのか、感極まってわっと泣き崩れてしまった。
黒縁の眼鏡が、床に落ちる。
「す、すまん、由一っ!あの時は・・・ああするより他になくて・・・・・。だが俺も、あれからずっと気になってて・・・。何度も店を閉めてここから逃げ出そうと思ったができなかった。由一にすべての責任を押し付けてしまったみたいで・・・本当に済まないっ。由一っ。!」
佐川は身体を震わせて泣きながら、由一に向かって深々と頭を下げている。
由一は、たった一年間の間にずいぶんと痩せて老け込んでしまった佐川を見て、なんだかとても切なくなってしまった。
佐川を責めるつもりで来たのではない。
堂本の情夫になったことへの恨みを言うために来たわけでもない。
現に由一は、堂本の情夫になってとても幸せだったし、佐川を一度でも恨みに思ったことなどなかった。
だが、そういう立場に追い込んでしまった者の方は、ずっとその罪の意識が心の痼りとなって残り、いつまでも苦しみ続けていたのだ。
由一は、そのことに初めて気づいた。
こんなことならもっと早くに訪ねてきて、自分は大丈夫だと言ってあげればよかった。
こんなに老けてしまって・・・。
由一の胸が、キュンと痛む。
「もう、もう気にしていませんからっ。堂本さんもとても優しくしてくれるし、全然、佐川さんのこと、ひどいだなんて思っていないですから。本当です」
由一は、コンクリートの上にしゃがみこんで、みっともない格好で泣いている佐川の肩にそっと手を置いて言った。
するとその言葉に救われたのか、佐川は顔をグチャグチャにして泣く。
由一は、中年の男がこんな所で我を忘れて泣くなんてみっともない、とは思わなかった。
やっぱり佐川さんは心の優しい男性なのだと、嬉しく思っていた。
十六年前のあの日。
ずっと田舎で暮らしていた小学生になったばかりの由一と母親は、父親の酒乱と暴力から逃れるように東京にやって来た。
大都会の東京に行けば、子連れでもなんとかなる、そう思っていたのだ。
だが、田舎から来た子連れの病弱な母親には、まともな職などなかった。
それどころか、保証人がいないために小さなアパートさえ借りることができなかった。
家を飛び出した時に持ってきたわずかなお金もすぐに尽きてしまい、小学生だった由一と母親は路頭に迷ってしまっていた。
今さら、田舎の家に帰ることはできなかった。
帰れば、酒癖の悪い父親のひどい暴力が待っているだけなのだ。
そんなことならいっそのこと、このまま死んでしまおうか・・・そう思っていた時、偶然にも佐川に出会ったのだ。
『どうしたんだい?』
東京に来て二週間。
たった一言、その言葉を掛けてくれたのは、佐川だけだった。
今にも倒れそうな母親が泣き泣き事情を話すと、可哀想に思った佐川は何度も小さく頷きなから言った。
『じゃあ、ずっと野宿してたのか?こんな小さな子供と一緒に?そりゃあ大変だっただろう。よし、まずは飯を食わせてやるから俺の家に来いよ。っていっても、御馳走なんてねーけどな』
都会の花屋にしては少し古臭くて小さかったが、由一はそんなことは全然気にしなかった。
花屋の二階の一室で食べた食事は、温かいお茶漬けだった。
おしんこと梅干しがご飯の上にのっかっているだけの、質素なお茶漬けだったが、丸一日何も食べていなかった由一にはものすごい御馳走に見えた。
『さぁ、食えよ。遠慮なんかすんなよ。飯だけはいっぱいあるからな?』
佐川は照れくさそうにそう言って、母親と由一に食べるようにすすめた。
由一と母親は、無我夢中でお茶漬けを食べた。
温かくて美味しくて、由一も母親も泣きながらお茶漬けを食べたのを覚えている。
あれから住み込みの職をやっと見つけた母親と由一は、三日後に白樺を出ていった。
『もっといてもいいんだぜ?』
と、佐川は言ってくれたが、そこまでは甘えられないと母親は断った。
それから三年後、母親は病気で他界し、由一は施設に預けられた。
父親はいたのだが、引き取るのを拒否したのだ。
だが由一はそんな現実にも少しもめげず、あの時助けてくれたお花屋さんの気持ちに少しでも報いたいと一生懸命勉強した。
そしていつか、佐川さんに恩返しをしたいといつも思っていた。
あれから十年以上の時が過ぎ、成人した由一はフラワーアレンジメントの技術を習得して、白樺に行った。
あの時、母親と幼かった自分を救ってくれた恩を返すために。
借金の形に、無理やり堂本の情夫にされたりしたけれど、今でもあの感謝の気持ちは変わっていないのだ。
「・・・・・今日、私がここに来たのは、あの時にお預かりしていたものをお返しするためです」
由一はひとしきり泣いた佐川にそう言って、手に持っていたものを差し出した。
佐川は床に落ちていた眼鏡を拾うと立ち上がり、由一が差し出したものを見つめる。
それは、四方の端が破れてボロボロになっている、とても古い紙切れだった。
紙切れには、何やらボールペンで書いてある。
「これに、見覚えはありませんか?」
由一に言われ、佐川は顔を近づけてじっと紙切れを見つめる。
茶色い染みがついている紙切れには、電話番号と住所が書いてあった。
驚いたことに、その住所はこの白樺のものだった。
電話番号も、ここのものである。
「こ、これは・・・?」
不思議そうな顔をして、佐川は由一の顔を見上げた。
由一は優しい顔でふふっと笑って、口を開いた。
だが、初めてのセックスで快感を楽しむ余裕などまったくない由一は、すぐにイッてしまいそうになった。
「あっ・・・あっ・・・イッちゃう!」
由一が蕾で絶頂感を極めるのは、簡単だった。
分身を手で愛撫したまま、腰を上下させるだけでいいのだ。
「だめぇぇ・・・だめぇぇーーーーーっ」
と、必死にイッてしまう感覚に抵抗した由一だったが、身体は敏感だった。
堂本の手の中に、ピュッと白い飛沫を放ってしまう。
同時に、堂本の分身を痛いほど締め付けて、イッてしまったことを知らせている。
「あぁぁぁ・・・・・・・」
由一の内部は、締め付けたままピクピクと痙攣していて、まるで磯巾着のようだと堂本は思った。
「・・・・・もう限界か?」
意地の悪い口調で堂本が、由一の耳元で聞く。
由一は、まだ身体中を支配している快感の中でもがきながら、堂本の言葉を聞いていた。
「俺は・・・まだだぞ。いいのかそんなことで?ヤクザの情夫は、身体で精いっぱいご奉仕するのが仕事だ。勝手にイッて勝手に終わってちゃ、役立たずもいいとこだな」
堂本の冷たい言葉に、由一の目に涙が溢れてしまう。
そんなこといったって、身体が勝手に反応しちゃって、イッちゃうんだからっ。
そもそも、一晩でこんなに感じてしまう身体に変えたのは、堂本さんでしょう?
変な媚薬入りのボディソープなんか使われて、乳首も分身も、後ろの方だって、自分でも信じられないくらい感じちゃって、どうしていいのか分からないのに。
由一は、涙を零しながら心の中で叫んでいた。
だが口に出しては言えない。
情夫なのに、そんなこと絶対に言えない。
「悪いと思ったら、俺を満足させろ、騎乗位になって、腰を振って、俺を満足させるんだ」
堂本はそう言うが早いか、身体を反転させて入れ替えた。
蛇は由一の蕾に挿入されたままだったので、由一は思いきり喘いでしまった。
その声を聞いて、堂本がまた怒ったような顔をする。
「今度勝手にイッたら、お前のことを縄で縛ってやる」
と、堂本が由一の分身をギュッと握る。
由一は声を上げそうになったが、寸前のところで我慢した。
「・・・はい」
由一はそう答え、堂本の腹の上に手を置き、なんとか腰を上下に揺らそうとする。
AVビデオや藤堂と真琴のセックスを何度か見たことがあったので、騎乗位というものがどういうものなのか。どういう動きをするものなのか、一応は知っていた。
男の上で激しく腰を上下に揺らし、相手に快感を与えていくもの。
頭では分かっているのだが、初めての由一にはやはり難しかった。
スムーズに、腰が沈まないのだ。
引き上げるのは何とかできる。
だがそのまま腰を沈めて、蕾の中の奥深くまで蛇をのみ込んでいくことは想像以上に難しかった。何よりも、堂本が感じる前に、由一が感じてしまうのだ。
正常位の時には当たらなかった部分に堂本の蛇の頭が当たってしまい、由一はつい色っぽい喘ぎ声を上げ、感じていた。
さっきイッたばかりなのに、またイッちゃいそうなのだ。
騎乗位だともっとずっと結合部分が深くなるから、身体の奥まで一気にズンッとくる。
その感触が、堪らなかった。
もう、蛇に犯されているそこから、身体中が熱いドロドロの液体になって溶けてしまいそうである。
それくらい、由一は感じてしまっていた。
「あっ・・・んっ・・・・・」
「もっと深く、だ。そんな締め方じゃ、だめだ。俺は感じないぞ」
「でも・・・ああーん・・・・・・・」
「一人で感じてるんじゃない。俺を楽しませることをしろ。こうやって、もっと激しく腰を揺らして・・・・・・・」
と、堂本が由一のウエストを左右から押さえ、持ち上げるようにして激しく上下に揺らしていると、突然由一の分身からピュッと、白い飛沫が飛び出した。
ついさっき放ったばかりで勢いはなかったものの、その飛沫は堂本の腹の上に飛んだ。
それを見て、堂本が冷たく目を細める。
そしてそのままの状態で手を伸ばし、サイドテーブルの引き出しの中から輪ゴムを取り出した堂本は、有無を言わさずその輪ゴムを根元に嵌めていく。
「あっ・・・堂本さんっ・・・いやっ。こんなの・・・いやっ」
と、輪ゴムをきつく嵌められた由一は、とっさに輪ゴムを取ろうとする。
だが堂本がそんな由一の手を捕らえて、後ろで一つにしてしまう。
騎乗位の格好で、分身には輪ゴムを嵌められ、両手は後ろで一つにされてしまい、由一は腰を上げることもままならなかった。
蕾には、深々と堂本の蛇が入り込んでいる。
「このまま・・・動け」
堂本は、冷たい口調で命令した。
由一を愛しいと思えばこその、命令だった。
由一は、しゃがんだスタイルのまま、ゆっくりと腰の上げ下げを繰り返していく。
だが由一の蕾に蛇が入り込めば込むほど、輪ゴムを嵌められている分身はどんどん膨らんでいく。
そしてついには、輪ゴムが食い込んでしまって見えないくらいまで、由一の分身は膨張しパンパンになっていた。
「苦しくて・・・もう・・・だめですぅ・・・」
ブルブルと足を震わせ、泣きながら由一が呻く。
堂本はそんな由一の顔を引き寄せキスをすると、そのまま身体を入れ替えた。
今度は、堂本が上になったのだ。
だが、由一の分身に食い込んでいる輪ゴムも、後ろで捕らえられている手も、蛇も、そのままである。
「セックスっていういうのはな、こうやってするんだ。よく覚えておけ」
堂本はのろのろとした由一の動きに焦れてしまったのか、いきなり激しく腰を揺らし、蕾を突き上げる。
「ひっ・・・あぁぁぁ・・・・・」
獰猛な獣のような動きに耐えられず、由一は悲鳴を上げてのけ反り、なんとか逃れようともがく。
だが、堂本の下からは逃げられるはずもなく、由一はズンズンと蕾を蛇で犯されていった。
途中、何度か意識を失い、頭の中が真っ白になってしまう。
だがそのたび堂本が頬を叩いて起こし、また激しく犯していく。
「・・・し・・・・・死んじゃう・・・・・・・」
このままでは本当に殺される。
由一は、また薄れゆく意識の中で思った。
だが、堂本に殺されるなら本望だ、とも思っていた。
しかもこんなに感じまくって死ねるなら、これほど幸せなことはない。
激しくて濃厚で、意識も理性も嫉妬心も何もかも吹っ飛んでしまう堂本のセックス。
由一は、そんな堂本のセックスがとても好きになっていた。
ふと、真琴と藤堂のセックスを思い出す。
あの二人はきっともっとすごいんだろうな。
だって、真琴様の乳首やあそこには、ピアスがついているんだから。
あのピアス、綺麗だった。
真琴様の白い身体が犯されるたびにゆらゆらと揺れて、真琴様の美しさをなお一層引き立たせているような感じがした。
私も堂本さんにピアス、つけてもらいたいな。
堂本さんだったら、どこにつけるだろう?
やっぱり、乳首とあそこかな?
蕾のにもつけちゃったりして・・・。
由一は、意識を失う寸前に、そう思っていた。
「あ・・・愛して・・・ま・・・す・・・・・・・堂・・・」
そこまでで、由一の言葉は途切れてしまった。
トクンッと、堂本が由一の中に飛沫を放つ。
「・・・くぅ・・・・・」
堂本は、意識のない由一の内部に激しく打ちつけながら飛沫を放っていた。
「由一?」
と、すべてを放出し終わった堂本が、少し息を切らせて由一を呼んでみる。
だが由一はとっくに意識をなくしていて、ぐったりとしていた。
だが、表情はなんだか微笑んでいるように見える。
「・・・何を考えていたのやら・・・」
堂本は、火照った身体をクールダウンさせるようにベッドに横になり、由一の身体を抱き締めた。
「・・・・・・・うふふ・・・・・」
失神しているはずの由一が、嬉しそうに笑う。
堂本はその笑みを見て、少し口元を歪めながら唇にキスをした。
堂本にとってそのキスは、誓いのキスだった。
「若い者に命じて、白樺の店主に賭けマージャンを持ちかけさせたのは、この俺だ。そしていかさまでわざと借金をつくらせ、由一を借金の形として差し出すように言い含めた。そうでもしなければ、お前は決して手に入らないからな」
堂本が、そう言って由一の足を左右に割る。
由一はこの時初めて真実を知ったのだが、まったく驚かなかった。
今となっては、怖いものなんて何もなかった。
たった数ヶ月の間に、由一は計り知れない経験をしているのだ。
普通の人生を送っていたら、きっと体験できない想像を絶するようなことだった。
無理やりヤクザの情夫にされ、監禁され、ホストになって見ず知らずのヤクザに攫われ、殺されそうになったのだ。
その後は、中国製の媚薬まで試され、快楽がどういうものであるかをたっぷりと教えられたのだ。怒涛のような数ヶ月だった。
もう何も怖いものなんて、ない。
「怒らないのか?」
と、堂本がキスをしながら聞く。
由一はキスを受けるために唇を開きながら『いいえ』と答えた。
「・・・今さら・・・何を聞かされても驚きませんし、怒ったりしません。それに私は、堂本さんに見初められたこと、今ではとても幸せだと思っています」
と、堂本の首に腕を回して目を閉じた由一が言う。
堂本は、そんな可愛いことを言う唇を激しいキスで塞いでしまうと、そのまま両足を胸につくほど深く折り曲げた。
そしてすでに張り詰めている由一自身を堂本の腹で擦るように、身体を密着させた。
「あん・・・・・」
すぐに由一の唇からは甘い吐息が漏れる。
媚薬入りのボディソープはすっかり洗い流されていたが、快楽に対しての敏感さはまだ失われてはいなかった。
それに身体がしっかりと覚えていたのだ。、
あの時の、失神してしまうほどの快感を。
「堂本さんっ。お願い・・・入れてっ・・・」
由一は、腹の間に挟まって透明な先走りを滴らせている分身が、あと少しでイッてしまうと思った。
だからそうなる前に、本当に堂本さんのものになりたい。
堂本さんと一つになって、堂本さんの分身を身体の中で感じたい。
そうすることによって、過去の女性を忘れさせることができるなら、由一は多少傷ついたって構わないと思っていた。
由一は、堂本の心の一部がまだ過去の女性に残っていると感じていた。
だから、すぐに堂本と結ばれたかったのだ。
堂本を、自分だけのものにするために。
ああっ。
身体の繋がりって、セックスって、こんなにも大切なものだったんだ。
好きな相手を自分に振り向かせるための、最終手段なのかもしれない。
由一は、心からそう思っていた。
「いいのか?つらいぞ?」
と、堂本は耳たぶを噛み、引っ張るようにして聞く。
「・・・・・はい、いいんですっ。早く・・・堂本さんのものにしてっ。堂本さんに抱かれたい。堂本さんのものになりたいのっ」
由一はそう言って、自らの股間を押し付けて腰を振った。
すると、分身が擦れてクチャクチャッと淫らな音がしてもっと感じてしまったが、由一は必死だった。
堂本が他の人を想っているなんて、絶対に嫌だった。
自分だけを見てほしい。
自分だけを愛してほしいのだ。
「早くっ」
由一が叫ぶと、堂本は少し上下に擦り上がり、下半身の位置をずらした。
そして、まだ頑なに閉じている蕾に堂本自身を押し当てる。
昨日の媚薬の効力がまだ続いているのか、由一の蕾はピクピクッとしていて、閉じたり開いたりを繰り返していた。
これなら傷つけることもなく、挿入することができるかもしれない。
堂本は心の中でそう思うと、グイッと下半身に力を入れた。
ヌプッと、先端が少し蕾の中に入る。
「あんっ・・・」
由一は少し上ずったような声を上げただけで、苦痛は訴えていなかった。
堂本はまだ少し、腰を進めてみる。
「ああーんっ」
さっきより少しで艶めいた喘ぎ声が上がる。
シャワーで流したはずなのだが、中にはまだ媚薬入りのボディソープが残っているのか、由一はまったく苦痛を訴えなかった。
堂本もそれを、直に確かめる。
中がヌルヌルしていて、まるで女の園のように濡れているのが分かる。
媚薬のせいなのか、それとも由一の身体が元々こういう淫らな身体なのか分からなかったが、堂本はこれで遠慮がいらなくなったと、心の中で笑った。
「半分ほど・・・入れるぞ」
堂本は言葉通りに由一の蕾の中に、グイグイと巨根を押し込んでいく。
だが由一の蕾はそんな堂本自身を、どんどんのみ込んでいった。
「ああーん・・・入ってくる。大きな蛇が・・・どんどん入ってくるぅぅぅ・・・・・・・」
由一は感じるままを口にして、ギュッとシーツを掴んでのけ反った。
苦痛は思ったほど感じない。
だがものすごい圧迫感が、由一をのけ反らせていた。
「まだ・・・入ってくるぅ・・・。蛇が・・・中に・・・ああーん・・・・・」
と、堂本の肩に爪を立てて、由一が喘ぐ。
爪の先に由一の愛情を感じながら、堂本はもっと深く、根元まで埋まるくらいまで分身を突き刺していく。
すると、由一の口からちょっとだけ苦痛を訴える呻き声が上がったが、今にもはちきれそうな分身を弄ってやると、それはすぐに喘ぎ声に変わった。
由一の分身はもうヌルヌルしていて、根元まで先走りが滴り、濡れていた。
「弄っちゃ・・・だめぇぇ・・・・・」
と、由一がきつく瞼を閉じて訴える。
だが堂本は、由一自身を巧みに弄りながら腰を揺らしていった。
「あん・・・ああーん・・・蛇が動いているぅぅ・・・・・・・」
由一の中に、太くて硬い蛇が出入りを繰り返している。
由一はその様子を見ることはできなかったが、堂本はじっくりと観察することができた。
ヌプヌプと音を立てて、由一の蕾が堂本自身をのみこんでいくさまは、たとえようもないくらい、淫らで美しかった。
由一の内部の熱さを感じながら、堂本は何度か腰を動かした。
もっともっと、由一のすべてを俺のものにしてしまいたい。
由一が意識を取り戻したのは、次の日の朝だった。
白くて真っさらなシーツの上で目が覚めた由一は薄めを開けて、辺りを見回してみる。
ここは、借金の形で情夫となってしまった由一が、一人きりで監禁されていた時に使っていたあのベッドだった。
シーツの香りと感触が、裸の肌にとても気持ちいい。
あまりの心地よさに、再び目を閉じた由一が足をシーツに擦りつける。
すると何かが足に当たり、なんだろうと重い瞼を開けた。
意識は戻っていたのだが、どういうわけか身体中が重くてしょうがない。
振り返るようにしてすぐに横に堂本が寝ていることに気がついた由一は、はっとして上体を起こした。
その勢いでダブルサイズベッドは多少揺れたが、堂本は眠ったままだった。
「・・・・・堂本さん?」
そっと遠慮がちに声を掛けたが、堂本は疲れたのか、美麗な顔を上に向けて眠っている。
無造作に伸ばした手は由一の腰に回っていて、由一は堂本の胸の中で寝ていたことが分かる。
肩から胸にかけては色の入った刺青と、よく見ると小さな傷が身体の至るところにあった。
きっと、喧嘩か何かでつけた傷なのだろう。
由一はベッドから起き上がろうかどうしようか迷ったが、堂本が目を覚まさないように気をつけながら、もそもそと居心地のいい堂本の腕枕に戻った。
そして、息がかかるくらい近くで堂本の顔を見つめた。
ひどい傷の方は、枕に当たっていて見えない。
もし頬に傷がなかったら、きっとものすごい男前だったのにと、由一は心の中で思った。
どうしてあんなひどい傷が頬についてしまったのか、由一は気になっていたがずっと聞けずにいた。
そこには触れてはいけないような気がしたのだ。
だが、堂本ほどの男が頬に傷をつけるようなへまをするとも思えない。
そんなことを考えると、ふと堂本が左目を開けた。
黒くて冷たい瞳に見つめられ、由一はドキッとしてしまう。
「起きていたのか?」
「はい・・・」
と、由一が恥じらいながら答えると、堂本は由一の身体を引き寄せて唇にキスをした。
優しくて、心がしっとりとするようなキスだった。
「・・・・・顔の傷のことを考えていたな?そうだろう?」
キスが終わると、堂本はすぐにそう言って上体を起こした。
由一はどうして分かってしまったのだろうと思いながら、返答に困ってしまった。
すると堂本が、ふふっと意味ありげに笑う。
「・・・由一の考えていることぐらい、お見通しだ。それより・・・聞きたいだろう?どうして頬にこんな酷い傷を残すようなことになったのか・・・」
堂本の問いに、由一は迷いながらも『はい』と答えた。
それを知ったからどうなのだとも思ったが、なぜか由一はそのことに興味があった。
もしかしたら、堂本という男の本質が見えてくるかもしれない。
「この傷は・・・昔一緒に暮らしていたある女に刺されそうになった時にできた傷だ。その女は、俺が初めて心底惚れた女だった。女も俺を愛してくれていた・・・と思っていた。俺は幹部に昇進したばかりで、浮かれていた。だがある日、その女が寝ている俺の前で包丁を振りかざし俺を殺そうとしたんだ。俺は切りつけられた頬から滴る血を見て、なぜだと問いかけた。女は・・・俺と敵対する幹部の囲われた女だと告げた。俺を殺すために潜り込んだんだと。俺は、この女にだったら刺されてもいいと思い覚悟を決めた。だが女は刺さなかった。俺の血の滴る顔を見て、悲鳴を上げて逃げていった。俺は後を追った。女が誰の女だろうと関係なかったんだ。俺は女を愛していたからな。だが・・・・・」
堂本はそこまで喋ると、つらい過去を思い出すかのようにベッドから立ち上がった。
堂本の刺青の入った裸体は、とても筋肉質で逞しかった。
「だが、女は逃げる時に非常階段で足を踏み外して、そのまま転落して死んだ。その後、女が妊娠してたことが分かった。もちろん俺の子だ。女は俺と、もう一人の男の間に挟まれ、苦しみもがいていたんだろう。その時から、俺はもう二度と人を愛さないと心に誓った」
ブラインドを上げ、朝の光の中、高層マンションの窓から東京の街を見下ろしながら、堂本は言葉を続けた。
由一は堂本の話を聞きながら、胸がギューッと締め付けられて痛くなるのを感じていた。
堂本の気持ちや切なさが、とてもよく分かるのだ。
きっと本気でその女性を愛していたんだ、堂本さんは。
それなのに裏切られたと知って、しかも死んだ後に妊娠していたことを知るなんて。
そんなの、あまりにもひどすぎるっ。
由一は、初めて見た時のような勇ましさが感じられない背中の刺青を見て、何か言葉をかけなければと思っていたが、何も言えなかった。
しばらくの沈黙の後、堂本が言葉を続けた。
「・・・・・・・女の死から十年。俺は誓い通りに誰も愛さなかった。付き合った女には、肉体関係だけを強制した。だがあの日・・・由一を花屋で初めて見かけた俺は、誓いが脆くも崩れるのを感じた。由一、お前を見て運命の相手だと俺は思った」
堂本は、そう言うと振り返るようにしてベッドの中の由一を見つめる。
由一は、眩しい朝の光を背中に受けて立っている堂本を見て、ドキンッと胸を高鳴らせた。
「・・・・・・・でも、今でもその女性を愛しているんでしょう?」
由一の口からやっと出た言葉だった。
どうしてそんなことを聞いてしまったのか、分からなかった。
もっと別のことで、気の利いたことを言えないのかと自分でも腹立たしく思っていたが、それが由一が今最も聞きたいことだった。
もしかしたら、堂本はまだその女性を愛しているのかもしれないのだ。
そう思うと、嫉妬が込み上げてきて、胸の奥が堪らなく痛んだ。
死んでしまった人に嫉妬するなんて。
だが、由一はもう堂本を愛してしまっていた。
愛が存在する以上、嫉妬も自然と存在する。
愛すれば愛するほど、相手を独占したくなる。
嫉妬も深くなっていく。
それはとても醜いかもしれないけど、恋愛とはそういうものなのだ。
「・・・・・可愛いことを言う」
堂本は、余裕の笑みでふふっと笑った。
その笑みを見て由一はやっぱりと心の中では思ったが、なんだかちょっと悔しくてそれを顔には出さないようにした。
だが、堂本にはすべてお見通しである。
「言っただろう?俺の心の誓いを破らせたのはお前だと。だからお前が欲しかったんだ。どんなことをしても、どんなに卑怯な手を使っても、俺は由一を手に入れると決心した。そしてもう二度と、同じ過ちは繰り返さないと・・・」
堂本が由一の身体を押し倒し、ベッドの上に乗ってくる。
由一は、堂本の顔をじっと見つめたままされるがままになっていた。
そのためにも、由一を最初から教育しなければならない。
柔順で素直で、いつも凛としている美しい情夫に。
「堂本さんっ・・・いいっ。あぁぁぁーーーーーっ」
由一は、自分でも訳が分からなかった。
泡だらけの股間をいやらしくくねらせて、手を上下に揺らして、ただ喘ぎまくっている。
その半狂乱になりそうな快感を与えているのは、背中に毘沙門天の刺青を背負った、ヤクザなのだ。
高層マンションと外車。
広くて豪華なバスルーム。
中国製の最高級の媚薬。
どれもこれも、お花屋さんで働いていた頃の由一からはまったく想像もできない世界だった。
そして、堂本の指に激しく蕾を犯されながらイッてしまい、自分で自分の声に驚くほど、喘ぎ続けた由一は、もはやお花屋さんで働いていた頃の自分に戻れないんだと、ぼんやりとしている頭の中で思った。
だけど不思議なことに、今の自分を恥じる気持ちはまったくなかった。
それどころか、堂本にこんなにも大切にされ愛されている自分が、嬉しくて堪らない。
見知らぬヤクザに攫われた時も、堂本は助けてくれた。
何より由一の命を優先させて、救い出してくれたのだ。
もうお花屋さんだった頃の自分に戻れなくたっていい。
真琴様のように、情夫であろうと胸を張って堂々と生きていく。
由一は感じまくっているなかで、ふと冷静にそんなことを考えていた。
「誰が勝手にイッてもいいと言った?んん?」
堂本は、由一が自分で分身を扱き、勝手に頂点を極めたことが気に入らなかった。
由一が放ったものはすべて飲み干してやろうと考えていた堂本は、片目を細めてムッとして聞いた。だが、まだ絶頂の中をさ迷っている由一にまともな答えなど返せるはずがない。
「あんっ・・・グチュグチュしてて・・・すごいの・・・」
堂本の指が深々と入っている蕾のことを言っているのだろうが、目は焦点が合っていなくて宙をさ迷っている。
もうすっかり、イッた瞬間に意識が飛んでしまった・・・そんな感じだった。
こんな由一を、もう一度正気に戻すには、身体中に塗りたくった媚薬入りのボディソープをシャワーで洗い流してやるしかない。
堂本は、少し薬が効きすぎてしまったことに口端を上げるようにして笑いながら、シャワーのコックを捻った。
「あっ・・・ああっ」
だが問題が一つだけある。
全身の五感が何倍にも敏感になっているところに、勢いよくシャワーを当てたら由一はそれだけで感じてしまって、イッてしまうのだ。
「あぁぁぁーーーーっ」
案の定シャワーが上半身に当たったとたん、由一は大理石の上で身体を跳ね上がらせた。
まるで、海老のようである。
だがシャワーの感触は、それくらい強烈な快感を由一に与えていた。
堂本は、そのままシャワーの口を下半身に向ける。
勢いのあるシャワーを股間で受けた由一は『ひぃぃぃーーーーーっ』と叫び声を上げたまま、失神してしまった。
だが失神して意識が飛んでしまっても、由一の分身だけは元気にピクピクッと痙攣している。
堂本はそんな由一の分身からボディソープを丁寧に流すと、全身にもシャワーをかけて綺麗にしていった。
「何これ?いやいやっ・・・いやですぅぅ・・・・・」
噎せるような麝香の香りに酔いながら、由一は自分が自分でなくなってしまう恐ろしさに首を振った。
だがもう遅かった。
由一の身体に塗られたのはボディソープではなくて、実は中国から密輸入された即効性の『媚薬』だったのだ。
しかもごく一部の金持ちしか入手することができない、極上品だったのだ。
「この媚薬は、人間の五感を何倍にもしてくれる媚薬だそうだ。苦痛を与えれば苦痛が何倍にも感じ、快感を与えれば快感が何倍にもなって襲ってくる。どうだ?気持ちいいだろう?」
堂本は、片目を細めて冷静な声で言った。
「あっ・・・いやいやっ・・・いやですぅ。こんな媚薬は・・・いやぁぁぁ・・・・・」
由一は、自分ではどうしようもない初めての快感に身悶え、激しく喘ぎながら、なんとか身体に塗られたボディソープを落とそうとする。
だが由一が手や指で触れれば触れるほど、身体が跳ね上がるほどの猛烈な快感が波のように押し寄せ、由一のわずかに残っていた理性を食い破っていく。
「あんっ・・・あん・・・ああぁぁぁーーーーーんっ」
まるで赤ちゃんが泣くような喘ぎ声が、由一の口から零れ落ちていく。
全身、どこもかしこも感じてしまって、どうしていいのか分からない状態だった。
特に敏感な乳首と分身、そして蕾の奥の方などは、もうまったく別の生き物と化していた。
ちょっと動いただけで蕾の内部が蠢き、肉襞がピクピクと痙攣するように、由一に今までにない快感を与えていくのだ。
分身の先端の割れ目から中に入った媚薬は、ゾワゾワとするような快感を与え続けている。
乳首は、さっきまで引っ張られていたせいか、まるで無数の針に刺されているような、痛痒い快感を由一の脳に送り続けた。
「あーーーーーんっ・・・死んじゃうっ!身体が・・・・・壊れちゃうっ!」まさしくその通りだった。
自分身体なのにまったく制御が利かない。
失神してしまいそうな快感が、どんどんエスカレートしていく。
しかも堂本は、一人で身悶え今にも半狂乱になりそうな由一の肌に触れ、ゆっくり手のひらで洗い始めたのだ。
「あぁぁぁーーーーーっっ、だめぇぇぇーーーーーっ」
と、由一がものすごい叫び声を上げて下半身をピクンピクンッと痙攣させても、堂本は肌に触れることをやめなかった。
「・・・死んじゃうっ!死んじゃうっ!」
由一が続けざまに叫ぶ。
だが堂本はそんな由一を楽しむかのように分身を捕らえて握り締めると、クチャクチャッと音を立てて手を揺らし始めた。
見る見るうちに泡が立ち、由一の分身が泡まみれになっていく。
「あっ・・・あっ・・・イッ・・・・・」
と、言うが早いか、由一は上下に二、三度揺らされただけでイッてしまった。
乳白色の泡の中に由一の飛沫が飛び散る。
「ーーーーーんんっーーーーーくぅーーーーー」
と、絶頂感を噛み締めるような喘ぎ声が漏れる。
いつもだったら三十秒ほど、絶頂感を噛み締めるだけで終わるのだが、この媚薬入りのボディソープはそれを許さない効力を秘めた薬だった。
ピクンッと、分身を震わせて絶頂感に耐えていても、いっこうにそれが引いていかないのだ。一分たっても、二分たっても、三分たっても絶頂感は由一を襲ったままだった。
「ひぃぃぃーーーーーううぅーーーーー」
その苦しさは、息が止まるくらいのものだった。
快感の極みが一転して、苦痛になる。
唾液で濡れて光っている由一の唇からは、聞きなれない変な喘ぎ声が漏れた。
「・・・そんな気持ちいいのか?」
と、フフッと笑いながら堂本がなおも指を奥の方に滑り込ませる。
ボディソープの助けを借りた堂本の指は、大きく開いた股の中心にある一点に到達した。
そこは、さっきから掻き毟りたいほどにジンジンとしている箇所だった。
特に中の方が、熱くて痒くて堪らないのだ。
掻き毟りたくても、そんなとこ、どうやって掻いたらいいのか分からない。
「・・・・・ここも、疼いているんじゃないのか?」
堂本の問いに、由一は涙をポロポロッと零しながら何度も頷いて応えた。
まったく遠のいていかない絶頂感と苦痛が、交互になって由一を苦しめている。
そんななかで由一にできることは、ただ喘いで堂本の言葉に素直に答えることだけだった。
「どうしてほしいのか、言ってみろ」
と、聞かれ、由一はすぐに『痒いっ。中が痒いの・・・』と切なそうに答えた。
「痒い?それだけでは分からないな」
口端を上げて意地悪い表情で堂本が言うと、由一は自分から堂本の指を蕾の入り口に押し当てて、叫んだ。
「痒いから・・・なんとかしてくださいっ。もう・・・気が変になっちゃいますぅぅぅ・・・」
と、自分から腰を揺らしていく。
堂本はそんな由一をしばらく楽しんでから、やっと二本の指で由一の蕾の入り口を割った。
そして媚薬入りのボディソープで中がグチャグチャになっている蕾に、どんどん指を挿入していく。
「あぁぁぁーーーーーいいっ」
驚いたことに、初めて挿入するにもかかわらず、由一の蕾はぐんぐん引き寄せるように奥の方へと堂本の指を招き入れていった。
初めてのはずだったのに、苦痛はまったくない。
あるのは、指を入れられたことによって痒い部分に触れてもらえる、快感だけだった。
「あんっあんっ、ああーん」
指の先端が、由一のずっと奥の方に入り込み、当たる。
それだけで由一は今にも昇天してしまいそうな破廉恥な声を上げて、大理石の上で腰を揺すった。
「そこっーーーーーああーんそこそこっ」
由一は指を動かし『そこ』と由一が言った箇所を突っ突くと、蕾の中からは細かい泡が溢れ出てきた。
「いいっ・・・そこっ・・・・・もっと」
堂本の指を欲して、由一が腰をくねらせて身悶える。
蕾ばかりではなく由一の股間全体が泡だらけになっていた。
そしていつの間にか由一は、自分の手で絶頂感が引いていかない分身をクチュクチュといやらしい音を立てて弄っているのだ。
堂本は、そんな由一を見て、ニヤッと美麗な方の顔で笑った。
傷がある醜い顔はそのままだったが、口元だけは笑っていた。
こうして身も心も解き放ち、すべてを忘れて快楽に身を沈めてこそ、ヤクザの本物の情夫になれるのだ。
羞恥心や自分の理性を制御してしまう冷静な自分などは、一切いらない。
ヤクザに抱かれるということはこういうことなのだと、堂本は教えようとしていた。
抵抗も口答えも恥じらいもいらないのだ。
堂本が目の前で失禁してみせろと言ったら、その言葉だけを信じてやって見せるような陶酔しきった愛情がなければならないのだ。
そうでなければこれから先、ヤクザの情夫はとてもじゃないが務まらないし、つらいだけなのだ。
あの、藤堂四代目の情夫として、今では夜のネオンの世界に君臨している真琴は、骨の髄まで藤堂を愛している。
藤堂だけを信じ、藤堂だけを愛し、藤堂だけに足を開くのだ。
藤堂の命令だったら、きっとどんなことにでも従うだろう。
じっくりとそう教育され、そのある種特別な愛情を受け入れ、そして成功している。
ヤクザの情夫としての幸せはたった一つ。
相手のヤクザから、身も心も心底愛されること。
それだけだった。
そのためだけにありとあらゆる快楽を経験し、それを身につけ、そしてそれを武器にして愛情を勝ち取っていくのだ。
堂本は、由一にも真琴と同じように、情夫でありながら決して色に流されることのない強い自分を持っている、賢くて美しい情夫になってほしいと願っていた。
そうなったら、泡の感触が味わえなくなってしまって、どんどん絶頂感が遠のいてしまう。
さっきまでは、もうすぐにでもイッちゃいそうだったのに。
「・・・ブクブクしてて・・・泡が当たって・・・気持ちいいです。あぁぁ・・・すごく柔らかくて・・・溶けちゃいそうですぅ」
由一は、感じるままを口にして訴えた。
だが堂本は、そんな答えでは満足しない。
もっと淫らで破廉恥な言葉を、可愛い由一の口から言わせたいのだ。
それは、逃げ出されてずっとお預けをくらっていたことへの報復なのか、堂本は由一をすんなりと許してやる気にはなれなかった。
もっともっと焦らせて、男娼のように淫らに変えて、最後には堂本の目の前で自分から腰を振って果てるようにしたい。
やっと由一と、心が通じたのだ。
由一が泣いてせがむ姿を、もっとじっくりと見ていたい。
もっともっと、由一を狂わせてみたい。
「・・・それから?」
「ああーん・・・それから・・・アソコだけじゃなくて・・・もっと奥の方も・・・感じちゃって・・・」
由一は、勢いのある泡が、分身だけじゃなくてもっと感じる奥の方まで愛撫していることを訴え、余程気持ちがいいのかお湯の中で腰をくねらせる。
堂本は、由一のそんな仕草が堪らなく好きだった。
そんな由一を見ていると、このまますぐに犯したくて堪らなくなる。
「あぁぁぁ・・・・・いいっ。もう・・・どうかなっちゃうっ!」
由一は、泡の感触に犯され翻弄されながら、丸い大きなバスタブの中で身体をくねらせていた。
ジェット噴射される泡の感触に、堂本が手で愛撫してくれた時よりもずっと感じてしまっているのだ。
堂本の手もすこぶるよかったが、このジェットバスの泡の感触には敵わなかった。
ジェットバスってこんな使い方もあるんだ。
感心しながらも、由一は、どんどん上り詰めていく。
泡が由一の分身を包んで柔らかな刺激を与え、たまに違う場所に当たるジェットの勢いが由一を一気に高みへと連れていく。
「あっ・・・あっ・・・もう・・・だめですぅぅ・・・。イッちゃいますぅぅぅ・・・・・」
と由一が叫ぶように言うと、堂本は絶妙のタイミングで泡の噴射口から由一の股間を遠ざけてしまう。
「あっ・・・いやぁぁぁーーーーーっ」
またしてもイクことを途中で阻まれた由一は、泣き叫ぶような声を上げてのけ反った。
だが堂本は由一の身体を背後から抱きしめたまま、離そうとはしない。
「いやっ・・・堂本さんっ。いやぁーーーーーっっ」
と、由一が必死にバスタブの中で暴れても、堂本の力強い手からは逃れられなかった。
「おれが簡単にイかせてやると思うか?」
堂本が耳元で低く笑いながら、言う。
「もう少しで・・・イッちゃいそうだったのにぃぃ・・・・・」
「勝手にイクことは許さないぞ、由一。それにお前は散々俺を焦らしたんだ。その罰だと思って諦めるんだな?」
「そ・・・そんな・・・」
由一は、髪の毛をビッショリと濡らしたまま、呆然として背後の堂本を首だけで振り返った。
堂本の髪も、少し濡れていた。
きっと由一が暴れた時の飛沫で濡れてしまったんだろうが、それにしても水も滴るいい男とは堂本のことだと、由一は思った。
それくらい、髪を濡らしている堂本は雄々しく勇ましかった。
顔の右半分にはひどい傷跡があるのに、左半分は役者かモデルのように端正な顔立ちなのだ。
さながら、悪魔と天使のようである。
だが由一は、最初はとても怖いと思っていた堂本の右頬の傷も、今ではまったく気にならなくなっていた。
それどころか、ヤクザにとっては勲章の傷痕を持つ堂本の顔が、愛しくて堪らないのだ。
「堂本さんのこの頬の傷・・・ステキ」
由一は、イクのを阻まれていたことを忘れたように、そう囁いた。
すると堂本は、照れたようにふっと笑う。
「酷い傷だ」
「ううん、そんなことないっ。私は大好きです。だって・・・この傷も含めて堂本さんだから」
由一は、自分で言って照れてしまった。
こんな気の利いた言葉が言えるなんて、知らなかった。
いつの間に、堂本から愛されていることを当然と思うようになったのか。
いつに間に、堂本に対して快感を感じるようになったのか。
「・・・あの、生意気を言ってごめんなさい」
由一は、すぐにそう付け足した。
とても偉そうなことを言ってしまったと思ったのだ。
だが堂本は、そんな由一が愛しくて堪らないとばかりに、背後から抱きしめてキスをした。
「んっーーーーーんっーーーーー堂本さんーーーーー」
由一は顔だけ後ろに向けるようにしてキスを受ける。
堂本のキスは、とても優しさに溢れたキスだった。
いったん鎌首を擡げ、もう少しで絶頂感を極めようとしていた由一を感じさせるには、十分なキスだった。
堂本のキスに翻弄された由一は、再び快感の渦の中に身を投じていく。
「あっーーーーいいっーーーーー堂本さん」
堂本は、今度は手で包むようにして由一の分身を愛撫していた。
バスタブ中での愛撫は痒いところに手が届かないような焦れったさがあって、泡の刺激と似ているような気がした。
だが泡は機械的なので、由一の感情などお構いなしで高めていくが、堂本の手は、由一の喘ぎ声を聞きながら微妙に変化を与えていった。
「あんっ・・・・・」
と、由一がねだるような喘ぎ声を漏らすと、堂本は少しきつく握って、手を上下に揺らしてやった。
「はぁ・・・ん・・・堂本さん・・・・・」
と、少し鼻にかかるような喘ぎ声を上げてから自分で腰を揺らし出すと、堂本はゆらゆらと手を動かしたまま、ギュッと二つの玉を握り締めた。
こうすると玉を握られた痛みに遮られ、イクことをちょっとだけ妨げられるのだ。
「ああーん、いやぁぁーーーーっ」
由一は、激しく首を振って二つの玉を握られていることが嫌だと訴える。
堂本は、とても素直で柔順に変貌したそんな由一に大いに満足しながら、バスタブから立ち上がった。もちろん、由一の身体も抱き上げてバスタブから出る。
だが出るのはバスタブだけで、広い大理石づくりのバスルームからは出なかった。
由一のぐったりとしている身体を大理石の洗い場に寝かせ、堂本は少し歩いて、棚の上から白い容器を持ってきた。
プッシュ式の白い容器の中には、ボディソープが入っているのだろう。
そう思って疑わなかった由一は、大理石のとても広い洗い場に、仰向けの状態で寝ていた。
由一の腹と胸の辺りにはたっぷりとボディソープが落とされ、ちょっとだけヒヤッとする。
その瞬間、頭の中がくらくらする麝香のような香りがバスルームに広っがったが、大して気にもしなかった。
きっとボディソープの香りだろう、そう思ったのだ。
だがこの香りを嗅いでいるうちに、どんどん身体が微妙に変化していった。
どのように変化したかというと、まず由一自身が破裂するぐらいパンパンに膨らんでしまって、いっこうに小さくならないのだ。
次に乳首がもっともっと硬くなって、ツンっと突き出してしまって、まるで女性の乳首のような大きさになってしまった。
そして最後には、ジェットバスによって泡で愛撫された一番奥の部分が、むず痒くなってきたのだ。
最初そのことに由一が気づいたのは、麝香の香りのするボディソープを全身に塗られた時だった。顔以外、分身や乳首までたっぷりと乳白色の液体が塗られ、その瞬間からなんだか妙な気分になっていった。
分身が痛いくらい張り詰めてしまい、まったく小さくならない。
乳首の先端も、何かに突っつかれたように疼いている。
足を開かされ、股間や蕾の中までもたっぷりとボディソープを塗られた由一は、そこがジンジンとしてきて、じわじわと熱くなっていく感覚に思わず喘いでいた。
そしてこの時になってようやく、身体に塗られたものが普通のボディソープでないことに気づく。
「・・・・・堂本さん・・・。このボディソープ、変ですぅ」
と、蕾の中の痒いような熱いような、どんどんひどくなる疼きに悶えながら、起き上がった由一が言う。
だが、上半身を起き上がらせただけで蕾や分身そして乳首にまで刺激が走り、由一は『あんっ!』と大声を上げてのけ反った。
何これ?
どうしちゃったっていうの?
身体が、まるで自分の身体じゃないみたい。
乳首も分身も、お尻のアソコまでジンジン熱くなってきて、じわじわと痒くなってきて、どうしたらいいの?
「ああーん・・・変ですぅ。私の身体が・・・へんですぅぅ・・・・・」
由一は、乳首や分身に付着しているボディソープを手で拭って取り去ろうとした。
だが指が乳首と分身に触れたとたん、ビビビーッと全身に電流が流れたような快感が走り、由一は思わず卒倒してしまいそうになる。
サニタリールームで下ろされた由一は、堂本のYシャツのボタンを外しながら言った。
すると由一の所々汚れた衣服を脱がせている堂本が、ふふっと笑う。
「俺の背中には、毘沙門天が祭ってある」
「・・・それは・・・刺青ってことですか?」
「刺青は・・・嫌いだろう?」
と、堂本が少し左目を細めて言う。
由一は、すぐに『いいえ』と言って首を振った。
「堂本さんのだったら、好きです」
きっと、今回の拉致事件がなかったらこんなセリフもすんなりと出たりはしなかっただろう。
確かに由一は刺青をしているような人種は別世界の人間だと思っていたし、はっきりいって嫌いだった。
だが、真琴を抱く藤堂の背中の昇り竜を見た時から、そんな自分の考えが少しずつ変わっていったのだ。
真琴の白い身体の上でゆっくりと動く昇り竜の刺青は、まるで真琴を犯しているようだった。
昇り竜が真琴の中に入っていくようで、とても淫靡で美しい光景だった。
藤堂の雄々しい刺青を見る機会に恵まれたのは二度目だったが、由一はそれから刺青に対して憧れに似た感情を抱くようになっていた。
「堂本さんの刺青に触れたい・・・」
由一は、裸になった状態で言った。
堂本は着ていたものを脱ぎ、筋肉がついた逞しい裸体を披露する。
堂本の肩から背中、そして腰には、色の入った美しい毘沙門天の刺青が彫られていた。
由一は息を殺してその刺青に見入った。
綺麗だった。
本当に美しいと思ったのだ。
「綺麗・・・」
由一がうっとりと呟き、背中に指先で触れてみる。
広くて逞しい背中から腰にかけて、甲冑を纏い、鉾を持った仏法守護神毘沙門天が雄々しく立っていた。
「後でゆっくりと見せてやる。今は・・・由一の方が先だ」
堂本はそう言うが早いか、由一の身体を再び抱き上げてバスタブに入っていく。
二人で入ってもまだ余裕のある広いバスタブには、ローズの香りが立ちこめていた。
堂本はバスタブの中から手を伸ばし、ジャグジーのスイッチを押す。
するという細かい泡が勢いよくバスタブの横から噴射して、由一の身体を包んでいった。
「すごい・・・」
「使うのは初めてか?」
「はい」
「だったら、楽しめ」
堂本はニヤッと笑ってそう言うと、由一の身体を抱き寄せた。そして泡が噴射されている方に向かって、由一の身体を反転させる。
「堂本さん?」
堂本が何をしようと思っているのか、由一には分からなかった。
だが湯の中で由一の足を左右に開き、泡が噴射されている部分に股間を当てようとしているのを知ると、ギョッとした。
堂本がこれからしようとしていることは、とてもエッチなことだった。
ジェット噴射されている泡が、由一の股間に当たるようにしているのだ。
つまり、泡の刺激で由一を感じさせようとしている。
「あっ・・・堂本さんっ・・・いやっ・・・」
と、慌てて足を閉じようとしても、堂本はしっかり左右の足を抱えるように押さえていて、閉じることなど許されなかった。
「あっ・・・あぁ・・・」
案の定、堂本は思いきり左右に開いた股間に、ジェット噴射されている泡を当てる。
すると勢いのある気泡が、由一の股間全体を激しく刺激して、初めての快感を与えていく。
「あ・・・だめっ・・・堂本さんっ」
由一は、分身を直撃している気泡の感触をもろに受け止め、その快感に思わずビクンッと腰を震わせた。
こんな感触は初めてだったのだ。
泡の刺激がめちゃくちゃ気持ちいい。
「あぁぁ・・・・・」
堂本は、背後からしっかりと由一の両足を抱えたまま、勢いのある気泡の刺激から逃げることを許さなかった。
「あぁぁ・・・だめぇぇぇ・・・・・」
由一は、今にも果ててしまいそうな声を上げて思いきり首を左右に振る。
勢いのある泡が与えてくれる快感は、想像を絶するくらい、いい。
ブクブクとしている泡の細かい優しい感触が、集団となって由一の分身目がけて襲ってくる。
バスタブに入った時はそれほど硬くなかった由一の分身は、その気泡の攻撃によって一気に膨張し硬くなっていた。
手で、ねっとりと愛撫されるのとはまた違う不思議な快感が由一をどんどん淫らに変えていく。
「あぁぁ・・・そんな・・・ああっ・・・」
「気持ちいいと、言ってみろ」
堂本は、後ろから耳たぶを噛むようにして由一に言う。
由一はその刺激にも十分に感じてしまいながら『あんっ』と甘えるような喘ぎ声を漏らした。
「そうじゃない。気持ちいいと・・・ちゃんと口に出して言って見ろ」
と、堂本が再び耳たぶを噛む。
だが堂本は今度は耳たぶを噛むばかりでなく、左右の手で乳首までも引っ張るようにして愛撫していた。
「・・・・・イッちゃいますぅぅぅーーーーーっ」
思わず、由一が叫ぶ。
「だめだ。ちゃんと言えるまでイかせない」
堂本はそう言って、泡のジェット噴射口から由一の股間をずらしてしまった。
由一は、今までの中で最高の絶頂感を極めそうだった状況から、突然放り出されてしまい『いやぁぁぁーーーーー』と叫び声を上げる。
そして無我夢中でお湯の中で足をバタつかせて、また気泡が分身に当たるようにしてほしいと訴える。
「堂本さん・・・いやですぅ・・・・・。もうちょっと欲しいぃ・・・・・」
「だったらちゃんと言え。こうして泡で弄ばれて、気持ちいいか?」
由一は、もう恥ずかしいなんて言っていられなかった。
あの泡の柔らかくて優しくて、それでいてどんな刺激よりもたっぷりと濃厚に感じさせてくれる感触をもう一度味わいたかったのだ。
あの甘美で脳が溶けてしまいそうな感触を味わえるなら、なんだって言う。
どんなことだって、しちゃう。
そんな気持ちだった。
「はい・・・気持ちいいです・・・アソコに泡が当たって・・・気持ちいいです」
と、由一が焦れたように喘ぎながら言うと、堂本はニヤッと口元を歪めて笑った。
「どんなふうに気持ちいいのか、言ってみろ」
どんなふうにと言われても・・・と由一は思ったが、言葉に出して言わないと、また下半身の位置をずらされてしまう。