「何これ?いやいやっ・・・いやですぅぅ・・・・・」
噎せるような麝香の香りに酔いながら、由一は自分が自分でなくなってしまう恐ろしさに首を振った。
だがもう遅かった。
由一の身体に塗られたのはボディソープではなくて、実は中国から密輸入された即効性の『媚薬』だったのだ。
しかもごく一部の金持ちしか入手することができない、極上品だったのだ。
「この媚薬は、人間の五感を何倍にもしてくれる媚薬だそうだ。苦痛を与えれば苦痛が何倍にも感じ、快感を与えれば快感が何倍にもなって襲ってくる。どうだ?気持ちいいだろう?」
堂本は、片目を細めて冷静な声で言った。
「あっ・・・いやいやっ・・・いやですぅ。こんな媚薬は・・・いやぁぁぁ・・・・・」
由一は、自分ではどうしようもない初めての快感に身悶え、激しく喘ぎながら、なんとか身体に塗られたボディソープを落とそうとする。
だが由一が手や指で触れれば触れるほど、身体が跳ね上がるほどの猛烈な快感が波のように押し寄せ、由一のわずかに残っていた理性を食い破っていく。
「あんっ・・・あん・・・ああぁぁぁーーーーーんっ」
まるで赤ちゃんが泣くような喘ぎ声が、由一の口から零れ落ちていく。
全身、どこもかしこも感じてしまって、どうしていいのか分からない状態だった。
特に敏感な乳首と分身、そして蕾の奥の方などは、もうまったく別の生き物と化していた。
ちょっと動いただけで蕾の内部が蠢き、肉襞がピクピクと痙攣するように、由一に今までにない快感を与えていくのだ。
分身の先端の割れ目から中に入った媚薬は、ゾワゾワとするような快感を与え続けている。
乳首は、さっきまで引っ張られていたせいか、まるで無数の針に刺されているような、痛痒い快感を由一の脳に送り続けた。
「あーーーーーんっ・・・死んじゃうっ!身体が・・・・・壊れちゃうっ!」まさしくその通りだった。
自分身体なのにまったく制御が利かない。
失神してしまいそうな快感が、どんどんエスカレートしていく。
しかも堂本は、一人で身悶え今にも半狂乱になりそうな由一の肌に触れ、ゆっくり手のひらで洗い始めたのだ。
「あぁぁぁーーーーーっっ、だめぇぇぇーーーーーっ」
と、由一がものすごい叫び声を上げて下半身をピクンピクンッと痙攣させても、堂本は肌に触れることをやめなかった。
「・・・死んじゃうっ!死んじゃうっ!」
由一が続けざまに叫ぶ。
だが堂本はそんな由一を楽しむかのように分身を捕らえて握り締めると、クチャクチャッと音を立てて手を揺らし始めた。
見る見るうちに泡が立ち、由一の分身が泡まみれになっていく。
「あっ・・・あっ・・・イッ・・・・・」
と、言うが早いか、由一は上下に二、三度揺らされただけでイッてしまった。
乳白色の泡の中に由一の飛沫が飛び散る。
「ーーーーーんんっーーーーーくぅーーーーー」
と、絶頂感を噛み締めるような喘ぎ声が漏れる。
いつもだったら三十秒ほど、絶頂感を噛み締めるだけで終わるのだが、この媚薬入りのボディソープはそれを許さない効力を秘めた薬だった。
ピクンッと、分身を震わせて絶頂感に耐えていても、いっこうにそれが引いていかないのだ。一分たっても、二分たっても、三分たっても絶頂感は由一を襲ったままだった。
「ひぃぃぃーーーーーううぅーーーーー」
その苦しさは、息が止まるくらいのものだった。
快感の極みが一転して、苦痛になる。
唾液で濡れて光っている由一の唇からは、聞きなれない変な喘ぎ声が漏れた。
「・・・そんな気持ちいいのか?」
と、フフッと笑いながら堂本がなおも指を奥の方に滑り込ませる。
ボディソープの助けを借りた堂本の指は、大きく開いた股の中心にある一点に到達した。
そこは、さっきから掻き毟りたいほどにジンジンとしている箇所だった。
特に中の方が、熱くて痒くて堪らないのだ。
掻き毟りたくても、そんなとこ、どうやって掻いたらいいのか分からない。
「・・・・・ここも、疼いているんじゃないのか?」
堂本の問いに、由一は涙をポロポロッと零しながら何度も頷いて応えた。
まったく遠のいていかない絶頂感と苦痛が、交互になって由一を苦しめている。
そんななかで由一にできることは、ただ喘いで堂本の言葉に素直に答えることだけだった。
「どうしてほしいのか、言ってみろ」
と、聞かれ、由一はすぐに『痒いっ。中が痒いの・・・』と切なそうに答えた。
「痒い?それだけでは分からないな」
口端を上げて意地悪い表情で堂本が言うと、由一は自分から堂本の指を蕾の入り口に押し当てて、叫んだ。
「痒いから・・・なんとかしてくださいっ。もう・・・気が変になっちゃいますぅぅぅ・・・」
と、自分から腰を揺らしていく。
堂本はそんな由一をしばらく楽しんでから、やっと二本の指で由一の蕾の入り口を割った。
そして媚薬入りのボディソープで中がグチャグチャになっている蕾に、どんどん指を挿入していく。
「あぁぁぁーーーーーいいっ」
驚いたことに、初めて挿入するにもかかわらず、由一の蕾はぐんぐん引き寄せるように奥の方へと堂本の指を招き入れていった。
初めてのはずだったのに、苦痛はまったくない。
あるのは、指を入れられたことによって痒い部分に触れてもらえる、快感だけだった。
「あんっあんっ、ああーん」
指の先端が、由一のずっと奥の方に入り込み、当たる。
それだけで由一は今にも昇天してしまいそうな破廉恥な声を上げて、大理石の上で腰を揺すった。
「そこっーーーーーああーんそこそこっ」
由一は指を動かし『そこ』と由一が言った箇所を突っ突くと、蕾の中からは細かい泡が溢れ出てきた。
「いいっ・・・そこっ・・・・・もっと」
堂本の指を欲して、由一が腰をくねらせて身悶える。
蕾ばかりではなく由一の股間全体が泡だらけになっていた。
そしていつの間にか由一は、自分の手で絶頂感が引いていかない分身をクチュクチュといやらしい音を立てて弄っているのだ。
堂本は、そんな由一を見て、ニヤッと美麗な方の顔で笑った。
傷がある醜い顔はそのままだったが、口元だけは笑っていた。
こうして身も心も解き放ち、すべてを忘れて快楽に身を沈めてこそ、ヤクザの本物の情夫になれるのだ。
羞恥心や自分の理性を制御してしまう冷静な自分などは、一切いらない。
ヤクザに抱かれるということはこういうことなのだと、堂本は教えようとしていた。
抵抗も口答えも恥じらいもいらないのだ。
堂本が目の前で失禁してみせろと言ったら、その言葉だけを信じてやって見せるような陶酔しきった愛情がなければならないのだ。
そうでなければこれから先、ヤクザの情夫はとてもじゃないが務まらないし、つらいだけなのだ。
あの、藤堂四代目の情夫として、今では夜のネオンの世界に君臨している真琴は、骨の髄まで藤堂を愛している。
藤堂だけを信じ、藤堂だけを愛し、藤堂だけに足を開くのだ。
藤堂の命令だったら、きっとどんなことにでも従うだろう。
じっくりとそう教育され、そのある種特別な愛情を受け入れ、そして成功している。
ヤクザの情夫としての幸せはたった一つ。
相手のヤクザから、身も心も心底愛されること。
それだけだった。
そのためだけにありとあらゆる快楽を経験し、それを身につけ、そしてそれを武器にして愛情を勝ち取っていくのだ。
堂本は、由一にも真琴と同じように、情夫でありながら決して色に流されることのない強い自分を持っている、賢くて美しい情夫になってほしいと願っていた。
そうなったら、泡の感触が味わえなくなってしまって、どんどん絶頂感が遠のいてしまう。
さっきまでは、もうすぐにでもイッちゃいそうだったのに。
「・・・ブクブクしてて・・・泡が当たって・・・気持ちいいです。あぁぁ・・・すごく柔らかくて・・・溶けちゃいそうですぅ」
由一は、感じるままを口にして訴えた。
だが堂本は、そんな答えでは満足しない。
もっと淫らで破廉恥な言葉を、可愛い由一の口から言わせたいのだ。
それは、逃げ出されてずっとお預けをくらっていたことへの報復なのか、堂本は由一をすんなりと許してやる気にはなれなかった。
もっともっと焦らせて、男娼のように淫らに変えて、最後には堂本の目の前で自分から腰を振って果てるようにしたい。
やっと由一と、心が通じたのだ。
由一が泣いてせがむ姿を、もっとじっくりと見ていたい。
もっともっと、由一を狂わせてみたい。
「・・・それから?」
「ああーん・・・それから・・・アソコだけじゃなくて・・・もっと奥の方も・・・感じちゃって・・・」
由一は、勢いのある泡が、分身だけじゃなくてもっと感じる奥の方まで愛撫していることを訴え、余程気持ちがいいのかお湯の中で腰をくねらせる。
堂本は、由一のそんな仕草が堪らなく好きだった。
そんな由一を見ていると、このまますぐに犯したくて堪らなくなる。
「あぁぁぁ・・・・・いいっ。もう・・・どうかなっちゃうっ!」
由一は、泡の感触に犯され翻弄されながら、丸い大きなバスタブの中で身体をくねらせていた。
ジェット噴射される泡の感触に、堂本が手で愛撫してくれた時よりもずっと感じてしまっているのだ。
堂本の手もすこぶるよかったが、このジェットバスの泡の感触には敵わなかった。
ジェットバスってこんな使い方もあるんだ。
感心しながらも、由一は、どんどん上り詰めていく。
泡が由一の分身を包んで柔らかな刺激を与え、たまに違う場所に当たるジェットの勢いが由一を一気に高みへと連れていく。
「あっ・・・あっ・・・もう・・・だめですぅぅ・・・。イッちゃいますぅぅぅ・・・・・」
と由一が叫ぶように言うと、堂本は絶妙のタイミングで泡の噴射口から由一の股間を遠ざけてしまう。
「あっ・・・いやぁぁぁーーーーーっ」
またしてもイクことを途中で阻まれた由一は、泣き叫ぶような声を上げてのけ反った。
だが堂本は由一の身体を背後から抱きしめたまま、離そうとはしない。
「いやっ・・・堂本さんっ。いやぁーーーーーっっ」
と、由一が必死にバスタブの中で暴れても、堂本の力強い手からは逃れられなかった。
「おれが簡単にイかせてやると思うか?」
堂本が耳元で低く笑いながら、言う。
「もう少しで・・・イッちゃいそうだったのにぃぃ・・・・・」
「勝手にイクことは許さないぞ、由一。それにお前は散々俺を焦らしたんだ。その罰だと思って諦めるんだな?」
「そ・・・そんな・・・」
由一は、髪の毛をビッショリと濡らしたまま、呆然として背後の堂本を首だけで振り返った。
堂本の髪も、少し濡れていた。
きっと由一が暴れた時の飛沫で濡れてしまったんだろうが、それにしても水も滴るいい男とは堂本のことだと、由一は思った。
それくらい、髪を濡らしている堂本は雄々しく勇ましかった。
顔の右半分にはひどい傷跡があるのに、左半分は役者かモデルのように端正な顔立ちなのだ。
さながら、悪魔と天使のようである。
だが由一は、最初はとても怖いと思っていた堂本の右頬の傷も、今ではまったく気にならなくなっていた。
それどころか、ヤクザにとっては勲章の傷痕を持つ堂本の顔が、愛しくて堪らないのだ。
「堂本さんのこの頬の傷・・・ステキ」
由一は、イクのを阻まれていたことを忘れたように、そう囁いた。
すると堂本は、照れたようにふっと笑う。
「酷い傷だ」
「ううん、そんなことないっ。私は大好きです。だって・・・この傷も含めて堂本さんだから」
由一は、自分で言って照れてしまった。
こんな気の利いた言葉が言えるなんて、知らなかった。
いつの間に、堂本から愛されていることを当然と思うようになったのか。
いつに間に、堂本に対して快感を感じるようになったのか。
「・・・あの、生意気を言ってごめんなさい」
由一は、すぐにそう付け足した。
とても偉そうなことを言ってしまったと思ったのだ。
だが堂本は、そんな由一が愛しくて堪らないとばかりに、背後から抱きしめてキスをした。
「んっーーーーーんっーーーーー堂本さんーーーーー」
由一は顔だけ後ろに向けるようにしてキスを受ける。
堂本のキスは、とても優しさに溢れたキスだった。
いったん鎌首を擡げ、もう少しで絶頂感を極めようとしていた由一を感じさせるには、十分なキスだった。
堂本のキスに翻弄された由一は、再び快感の渦の中に身を投じていく。
「あっーーーーいいっーーーーー堂本さん」
堂本は、今度は手で包むようにして由一の分身を愛撫していた。
バスタブ中での愛撫は痒いところに手が届かないような焦れったさがあって、泡の刺激と似ているような気がした。
だが泡は機械的なので、由一の感情などお構いなしで高めていくが、堂本の手は、由一の喘ぎ声を聞きながら微妙に変化を与えていった。
「あんっ・・・・・」
と、由一がねだるような喘ぎ声を漏らすと、堂本は少しきつく握って、手を上下に揺らしてやった。
「はぁ・・・ん・・・堂本さん・・・・・」
と、少し鼻にかかるような喘ぎ声を上げてから自分で腰を揺らし出すと、堂本はゆらゆらと手を動かしたまま、ギュッと二つの玉を握り締めた。
こうすると玉を握られた痛みに遮られ、イクことをちょっとだけ妨げられるのだ。
「ああーん、いやぁぁーーーーっ」
由一は、激しく首を振って二つの玉を握られていることが嫌だと訴える。
堂本は、とても素直で柔順に変貌したそんな由一に大いに満足しながら、バスタブから立ち上がった。もちろん、由一の身体も抱き上げてバスタブから出る。
だが出るのはバスタブだけで、広い大理石づくりのバスルームからは出なかった。
由一のぐったりとしている身体を大理石の洗い場に寝かせ、堂本は少し歩いて、棚の上から白い容器を持ってきた。
プッシュ式の白い容器の中には、ボディソープが入っているのだろう。
そう思って疑わなかった由一は、大理石のとても広い洗い場に、仰向けの状態で寝ていた。
由一の腹と胸の辺りにはたっぷりとボディソープが落とされ、ちょっとだけヒヤッとする。
その瞬間、頭の中がくらくらする麝香のような香りがバスルームに広っがったが、大して気にもしなかった。
きっとボディソープの香りだろう、そう思ったのだ。
だがこの香りを嗅いでいるうちに、どんどん身体が微妙に変化していった。
どのように変化したかというと、まず由一自身が破裂するぐらいパンパンに膨らんでしまって、いっこうに小さくならないのだ。
次に乳首がもっともっと硬くなって、ツンっと突き出してしまって、まるで女性の乳首のような大きさになってしまった。
そして最後には、ジェットバスによって泡で愛撫された一番奥の部分が、むず痒くなってきたのだ。
最初そのことに由一が気づいたのは、麝香の香りのするボディソープを全身に塗られた時だった。顔以外、分身や乳首までたっぷりと乳白色の液体が塗られ、その瞬間からなんだか妙な気分になっていった。
分身が痛いくらい張り詰めてしまい、まったく小さくならない。
乳首の先端も、何かに突っつかれたように疼いている。
足を開かされ、股間や蕾の中までもたっぷりとボディソープを塗られた由一は、そこがジンジンとしてきて、じわじわと熱くなっていく感覚に思わず喘いでいた。
そしてこの時になってようやく、身体に塗られたものが普通のボディソープでないことに気づく。
「・・・・・堂本さん・・・。このボディソープ、変ですぅ」
と、蕾の中の痒いような熱いような、どんどんひどくなる疼きに悶えながら、起き上がった由一が言う。
だが、上半身を起き上がらせただけで蕾や分身そして乳首にまで刺激が走り、由一は『あんっ!』と大声を上げてのけ反った。
何これ?
どうしちゃったっていうの?
身体が、まるで自分の身体じゃないみたい。
乳首も分身も、お尻のアソコまでジンジン熱くなってきて、じわじわと痒くなってきて、どうしたらいいの?
「ああーん・・・変ですぅ。私の身体が・・・へんですぅぅ・・・・・」
由一は、乳首や分身に付着しているボディソープを手で拭って取り去ろうとした。
だが指が乳首と分身に触れたとたん、ビビビーッと全身に電流が流れたような快感が走り、由一は思わず卒倒してしまいそうになる。
サニタリールームで下ろされた由一は、堂本のYシャツのボタンを外しながら言った。
すると由一の所々汚れた衣服を脱がせている堂本が、ふふっと笑う。
「俺の背中には、毘沙門天が祭ってある」
「・・・それは・・・刺青ってことですか?」
「刺青は・・・嫌いだろう?」
と、堂本が少し左目を細めて言う。
由一は、すぐに『いいえ』と言って首を振った。
「堂本さんのだったら、好きです」
きっと、今回の拉致事件がなかったらこんなセリフもすんなりと出たりはしなかっただろう。
確かに由一は刺青をしているような人種は別世界の人間だと思っていたし、はっきりいって嫌いだった。
だが、真琴を抱く藤堂の背中の昇り竜を見た時から、そんな自分の考えが少しずつ変わっていったのだ。
真琴の白い身体の上でゆっくりと動く昇り竜の刺青は、まるで真琴を犯しているようだった。
昇り竜が真琴の中に入っていくようで、とても淫靡で美しい光景だった。
藤堂の雄々しい刺青を見る機会に恵まれたのは二度目だったが、由一はそれから刺青に対して憧れに似た感情を抱くようになっていた。
「堂本さんの刺青に触れたい・・・」
由一は、裸になった状態で言った。
堂本は着ていたものを脱ぎ、筋肉がついた逞しい裸体を披露する。
堂本の肩から背中、そして腰には、色の入った美しい毘沙門天の刺青が彫られていた。
由一は息を殺してその刺青に見入った。
綺麗だった。
本当に美しいと思ったのだ。
「綺麗・・・」
由一がうっとりと呟き、背中に指先で触れてみる。
広くて逞しい背中から腰にかけて、甲冑を纏い、鉾を持った仏法守護神毘沙門天が雄々しく立っていた。
「後でゆっくりと見せてやる。今は・・・由一の方が先だ」
堂本はそう言うが早いか、由一の身体を再び抱き上げてバスタブに入っていく。
二人で入ってもまだ余裕のある広いバスタブには、ローズの香りが立ちこめていた。
堂本はバスタブの中から手を伸ばし、ジャグジーのスイッチを押す。
するという細かい泡が勢いよくバスタブの横から噴射して、由一の身体を包んでいった。
「すごい・・・」
「使うのは初めてか?」
「はい」
「だったら、楽しめ」
堂本はニヤッと笑ってそう言うと、由一の身体を抱き寄せた。そして泡が噴射されている方に向かって、由一の身体を反転させる。
「堂本さん?」
堂本が何をしようと思っているのか、由一には分からなかった。
だが湯の中で由一の足を左右に開き、泡が噴射されている部分に股間を当てようとしているのを知ると、ギョッとした。
堂本がこれからしようとしていることは、とてもエッチなことだった。
ジェット噴射されている泡が、由一の股間に当たるようにしているのだ。
つまり、泡の刺激で由一を感じさせようとしている。
「あっ・・・堂本さんっ・・・いやっ・・・」
と、慌てて足を閉じようとしても、堂本はしっかり左右の足を抱えるように押さえていて、閉じることなど許されなかった。
「あっ・・・あぁ・・・」
案の定、堂本は思いきり左右に開いた股間に、ジェット噴射されている泡を当てる。
すると勢いのある気泡が、由一の股間全体を激しく刺激して、初めての快感を与えていく。
「あ・・・だめっ・・・堂本さんっ」
由一は、分身を直撃している気泡の感触をもろに受け止め、その快感に思わずビクンッと腰を震わせた。
こんな感触は初めてだったのだ。
泡の刺激がめちゃくちゃ気持ちいい。
「あぁぁ・・・・・」
堂本は、背後からしっかりと由一の両足を抱えたまま、勢いのある気泡の刺激から逃げることを許さなかった。
「あぁぁ・・・だめぇぇぇ・・・・・」
由一は、今にも果ててしまいそうな声を上げて思いきり首を左右に振る。
勢いのある泡が与えてくれる快感は、想像を絶するくらい、いい。
ブクブクとしている泡の細かい優しい感触が、集団となって由一の分身目がけて襲ってくる。
バスタブに入った時はそれほど硬くなかった由一の分身は、その気泡の攻撃によって一気に膨張し硬くなっていた。
手で、ねっとりと愛撫されるのとはまた違う不思議な快感が由一をどんどん淫らに変えていく。
「あぁぁ・・・そんな・・・ああっ・・・」
「気持ちいいと、言ってみろ」
堂本は、後ろから耳たぶを噛むようにして由一に言う。
由一はその刺激にも十分に感じてしまいながら『あんっ』と甘えるような喘ぎ声を漏らした。
「そうじゃない。気持ちいいと・・・ちゃんと口に出して言って見ろ」
と、堂本が再び耳たぶを噛む。
だが堂本は今度は耳たぶを噛むばかりでなく、左右の手で乳首までも引っ張るようにして愛撫していた。
「・・・・・イッちゃいますぅぅぅーーーーーっ」
思わず、由一が叫ぶ。
「だめだ。ちゃんと言えるまでイかせない」
堂本はそう言って、泡のジェット噴射口から由一の股間をずらしてしまった。
由一は、今までの中で最高の絶頂感を極めそうだった状況から、突然放り出されてしまい『いやぁぁぁーーーーー』と叫び声を上げる。
そして無我夢中でお湯の中で足をバタつかせて、また気泡が分身に当たるようにしてほしいと訴える。
「堂本さん・・・いやですぅ・・・・・。もうちょっと欲しいぃ・・・・・」
「だったらちゃんと言え。こうして泡で弄ばれて、気持ちいいか?」
由一は、もう恥ずかしいなんて言っていられなかった。
あの泡の柔らかくて優しくて、それでいてどんな刺激よりもたっぷりと濃厚に感じさせてくれる感触をもう一度味わいたかったのだ。
あの甘美で脳が溶けてしまいそうな感触を味わえるなら、なんだって言う。
どんなことだって、しちゃう。
そんな気持ちだった。
「はい・・・気持ちいいです・・・アソコに泡が当たって・・・気持ちいいです」
と、由一が焦れたように喘ぎながら言うと、堂本はニヤッと口元を歪めて笑った。
「どんなふうに気持ちいいのか、言ってみろ」
どんなふうにと言われても・・・と由一は思ったが、言葉に出して言わないと、また下半身の位置をずらされてしまう。
堂本が高層マンションの最上階に戻ってから三十分ほどして、由一がヤスに連れられて戻ってきた。
「ど、堂本・・・さん・・・」
堂本を認めた由一の目には、涙が溢れている。
見知らぬヤクザたちに連れ去られてからというもの、決して涙を見せず気丈に振る舞っていた由一だったが、堂本の顔を見たとたん、全身から力が抜けてしまった。
ポロポロッと流れた大粒の涙は頬を伝い、床に落ちていく。
「堂本さんっ」
「・・・・・由一」
無傷だといっても、悲惨な状態には変わりなかった。
きっと連れ去られる時に抵抗して暴れたのだろう。
顔には、いくつもの引っ掻き傷があった。
手首にも、きつく縛られていた跡が赤くなって残っている。
「・・・来い、由一」
堂本は左目を細めて優しく言って、ふらふらと歩いてきた由一を抱き締めた。
抱き締めると、由一は崩れるようにして堂本の胸にしがみついた。
「うえっ・・・堂本さん・・・えっ・・・」
緊張の糸が切れた由一は、まるで子供のように泣き崩れた。
ガクッと膝が崩れ、立っていられなくなる。
だがその身体を堂本は片手で支えるようにして、涙が伝っている頬にキスをした。
「無事でよかった。心配したぞ」
「堂本さん・・・うぇっ・・・堂本さん・・・」
「顔に傷をつけるな。跡が残ったらどうする?」
「堂本さん・・・」
「顔に傷があるのは、俺だけで十分だ」
「うぇ・・・ううっ・・・・・」
堂本の舌が、顔の擦り傷をそっと労うように触れていく。
触れたとたんちょっとだけ滲みたが、由一はこうして癒されるのが堪らなく嬉しかった。
それに、自分がこんなにも堂本を頼りにして、愛していたことを初めて知ったのだ。
いつの間に愛してしまったのかなんて、分からない。
どうして好きになってしまったのかなんて、分からない。
だけどいきなり攫われて、カビ臭い部屋の中で手足を縛られ、命の危険にさらされて初めて堂本を心の底から愛していると分かったのだ。
いつ、殺されてしまうかもしれないという切羽詰まった恐怖の中でずっと考えていたことは、堂本のことばかりだった。
堂本さんならきっと助けに来てくれる。
だから、こんな脅しに負けていちゃいけない。
堂本さんを信じて、自分をしっかり持っていなきゃいけないんだ。
堂本さんは、絶対に私を助けてくれる。
由一は、堂本を愛しいと思えば思うほど、不思議なくらいそう確信していった。
迷いも疑いも、まったくなかった。
ただ、堂本が助けに来てくれるのを何もせずじっと待っているのが、今の自分にできる最大限のことだと信じていた。
「・・・・・よく我慢してたな?偉いぞ由一」
堂本は、今までに見せたことのない笑顔を見せて、優しく言った。
由一はその言葉を受けて、堂本を信じて待っていてよかったと心の底から思っていた。
「だって、きっと助けに来てくれると思ったから・・・」
「そうか・・・。いい子だ、由一」
「・・・うん」
由一は、頷くようにそう返事をして、ギュッと堂本のスーツにしがみついた。
今回の一件は間違えば命を失っていたかもしれないが、結果的には堂本と由一の心を強く結びつける結果となっていた。
「・・・アクアの真琴さんが心配しているはずだ。連絡してやれ」
堂本の言葉に、由一ははっとして顔を上げた。
そうだ。
きっと今頃は、自分のことのように心配してくれているに違いない。
真琴の心の優しさを十分に知っている由一は、慌てて堂本から携帯を受け取った。
そして真琴の携帯を鳴らすと、すぐに真琴が出た。
「あっ、あの・・・真琴様?由一ですっ。はいっ・・・無事ですっ。堂本さんが助けてくれて・・・堂本さんが・・・」
由一は、何度も何度も堂本さんが、と言う。
その言葉の中に堂本への愛情をくみ取った真琴は、嬉しくて嬉しくて思わず涙を流していた。
由一がこんなにも早く救い出されたのも奇跡に近いが、二人の絆がもっと強まったことの方が真琴には奇跡に思われた。
『よかったね、由一君』
真琴の震えている声を受け、由一は心から感謝しながら携帯を切った。
「真琴様・・・泣いていた」
「きっと、死ぬほど心配したはずだ。お前の身を自分のことのように心配している人だから」
「・・・うん」
「少し落ち着いたら会いに連れてってやる。今度はアクアの客としてな」
「うん」
由一が泣きながらそう返事をすると、堂本は由一の身体を抱き上げた。
そして部屋の中にいたヤクザたちに、顎で出ていくように合図する。
「バスタブまで抱いていってやる」
「はい」
「背中も流してやる」
「・・・・・はい」
少し間をおいてから、由一は恥ずかしそうに頷いた。
堂本にこんな優しいことを言われるなんて、思っていなかったのでどう答えたらいいのか、分からなかったのだ。
だが堂本との会話の中で、自分は『はい』とだけ言って微笑んでいればいいのだと知った。
そうすれば、堂本はいつでも優しいのだ。
美麗な左半分の顔で笑ってくれる。
「私も・・・堂本さんの背中、洗ってあげたい」
堂本は、藤堂と同じく冷静だった。
由一を攫った相手が誰なのか、見当がついていたからである。
それにその男に、堂本の情夫である由一を傷つける勇気も根性もないことは十分に知っていた。
由一を攫った張本人、それは堂本と次期組長の座を争っている『高島和真』だった。
「高島さんから、お電話です」
案の定、事務所で待っていた堂本の元に、高島から電話が入る。
『よう、堂本。調子はどうだ?』
「いいわけねーだろ?そんなことより、攫ったものを返してもらおうか?」
と、堂本が左目を光らせドスの利いた声で言うと、電話の向こうの高島はいきなり笑い出した。
『攫ったもの?なんのことだかわからねーな?』
「惚けるなよ、高島?それとも、俺と刺し違えるつもりか?ええ?」
堂本の脅しは、強がっているだけの小心者の高島を、一瞬黙らせてしまった。
そして、高島がつい口走ってしまった言葉は、由一を攫ったことを肯定する言葉だった。
『てめー、俺にそんな口を利いていいと思ってるのかー?こっちには、切り札があるんだぞっ!』
と、興奮して喚いてしまってから慌てて口を閉じたのだが、もう遅かった。
これで高島が由一を攫ったことは明らかとなった。
「で・・・・・そっちの条件はなんだ?」
堂本はこれ以上高島と低レベルで話をしていても無駄だと思い、本題に入る。
高島は、急に大声で勝ち誇ったように笑い出した。
『はははっ・・・いいねぇ。今日はまた、のみ込みが早いじゃないか』
「いいから早く言えっ。どうすれば由一を無傷で返してくれるんだ?」
『そうだな・・・。まず、次期組長候補からの辞退しろ。その次に、お前の持っているシマを全部俺に譲れ。そしてお前はヤクザを引退しろ。それがお前の大切な者を返してやる条件だ』
高島は大声で怒鳴って、また勝ち誇ったように笑う。
その笑い声を聞いていた若いヤクザたちは、今にも爆発寸前である。
「・・・いいだろう。それで由一が無事に帰って来るなら、その条件をのもう」
『マジか?ははっ・・・本当なのか?こりゃたまげたぜっ。あっはは・・・これで木城組は俺のものだ。組長亡き後、組を引き継ぐのはこの俺だっ!』
高島は、おとなしく条件をのんだ堂本に完全に勝ったと思った。
もう誰も、高島を止めることはできないと。
高島が最強の男なんだと。
『本家の藤堂四代目と・・・親しいらしいな?まさか・・・今回の一件に引っ張り込むつもりじゃないよな?』
あまりにもうまく行きすぎていて、高島は少し不安になったのか、声のトーンを落として聞いてきた。
堂本は冷静沈着な表情のまま『藤堂四代目とは無関係だ』とだけ答える。
別に高島に偽りを言っているわけではなく、堂本は藤堂をこの一件に引っ張り込むつもりなど毛頭なかった。
こんな内輪もめを自分たちの力で鎮められないくらいなら、組長など引き継げないからだ。
『そうか・・・。それを聞いて安心したぜ』
高島はやっとホッとして、また不気味に笑う。
だがその笑い声が最後まで終わらないうちに、高島は突然悲鳴を上げた。
『ひぃ・・・ぐえっ!』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、間違いなく高島の呻き声だった。
しかも、続けざまに何度も殴られ蹴られているのか、骨が折れるような鈍い音までもが聞こえてくる。
『や、やめてくれぇぇぇーーーーーっ!許してくれーーーーーっ』
そこにいるのであろう、十人以上のヤクザたちの叫び声が、聞こえてくる。
受話器の向こうでいったい何が起こっているのかを知っている堂本は、高島の許しを請う悲鳴と呻き声を、冷酷な表情で聞いていた。
『た、頼むっ!もう許してくれぇぇぇーーーーー』
苦痛にもがき、みじめったらしく泣き喚いている高島の叫び声が、受話器から唸るようにして聞こえている。
実は、攫ったのが高島だと確信していた堂本は、手の者たちを高島の事務所に向かわせ、奇襲をかけさせたのだった。
まさかこんなにも早く堂本の手の者たちが来るとは思っていなかった高島は、あっという間に事務所への侵入を許していた。
迎え撃った若いヤクザたちも、次々に蹴散らされ、最後には高島一人だけとなってしまっていた。
そしてそんな血気盛んな若いヤクザたちの先頭に立っていたのが、金髪頭のヤスだった。
「もう、いいだろう」
堂本は、しばらくしてからそう言って、高島に行われていたリンチ行為をやめさせた。
だがその時にはもう叫び声など上がらないほどひどく痛めつけられ、顔はボコボコにされ、すでに原型をとどめていなかった。
「由一を捜せ。事務所の中にいるはずだ」
堂本の言葉通り、由一は目隠しをされ、両手を前で縛られた姿で、事務所の一番奥の部屋から発見された。
『見つけましたっ。無事です。どこにも怪我はありませんっ』
と、ヤスが言うと、コードレスの受話器を握り締めていた堂本は、やっと肩の力を抜いた。
「警察が動く前に、すぐに連れて帰れと言え。それと、高島を殺すなと伝えろ」
堂本の言葉通りヤクザが伝える。
「あの、堂本さん。ヤスが・・・高島のような外道は生かしておいても世の中のためにはならないから、ぶっ殺したいと言っていますが・・・」
「だめだ。殺すなと言え。いいな、絶対殺すな!」
堂本の言葉を再度忠実にヤスに伝えたヤクザは、ようやく受話器のスイッチを切る。
「納得したそうです。それと、あと一時間ほどでマンションに着くそうです」
「そうか・・・・・」
と、堂本は椅子の背もたれに上体を預けてため息交じりに言う。
今回のことは、一つの賭けだった。
犯人は高島に違いないと踏んで行動したが、これがもし見当違いだったら。
ヤクザとしての今の地位を失うばかりでなく、大切な由一の命を失う結果になっていたかもしれなかった。
「よかった」
堂本は、思わずそう呟いた。
堂本は、ヤクザ人生の中で怖いと思ったことなどなかった。
どんな窮地に立たされても、どんなに身の毛のよだつような場面に出くわしても、怖さなど微塵も感じたことがなかった。
だが今回、初めて恐ろしいと思った。
由一を失ってしまったら、そう考えると足が震えるくらい、心底怖かった。
これが、人を愛するということなのだろうか。
そしてこれが、愛する者を失う恐怖というものなのだろうか?
堂本は椅子に座ったままじっと考え、由一を失った時の悲しみを想像していた。
そして由一のことを考えれば考えるほど、堂本は白くて細身の身体をしている由一を、抱き締めたくてしょうがない欲望に取りつかれていた。
一時でも早く無事な由一に会いたい。
会って思いきり抱き締めて、キスしたい。
由一の顔中にキスをして、それから裸にして押し倒し、由一の蕾に自身を埋め込みたい。
由一のすべてを、自分のものにしてしまいたい。
もう、一刻の猶予もならなかった。
「マンションに帰る。車だ」
「はいっ」
堂本は、いても立ってもいられなかった。
そんな熱っぽい欲望と情を隠すかのように、堂本は急いで事務所を出て行った。
真琴から、由一が攫われたという連絡を受け取った堂本は、とて冷静だった。
アクアにいた真琴は、とにかく堂本と藤堂に連絡を入れた。
『恐らく、堂本となんらかの関係があるヤツらが攫ったんだろう・・・。それにわざわざ攫ったということは、由一に利用価値があると思っている。だとしたら。今日中に相手から連絡が入る。大丈夫だ。ヤツらがそう思っているうちは、由一は安全だ』
「でも・・・」
『由一を殺すのが目的なら、とっくに殺している。こんな回りくどいことはしない。そうだろう?それと、真琴はこの件には一切関係ない。いいな?』
と、藤堂に念を押されるように言われてしまい、真琴は『はい』と小さな声で頷くしかなかった。これは堂本の組内での問題なのだから、余計なことはするなと言っているのだ。
それに、このくらいの問題を堂本が解決できなければ、これから先の見通しはないと、藤堂は言いたいのだ。
それは分かっているが、真琴は攫われた由一の身が心配で心配でしょうがなかった。
アクアの誰もいない特別室でウロウロとしている真琴は、どうしてあの時に一緒に連れて帰ってこなかったのかと後悔し、自分を責めていた。
『とにかく、攫った相手が誰なのか分からない以上堂本も手の打ちようがない。だが堂本のことだ。もう相手の見当はついているんじゃないのか?とにかく、お前には関係のないことだ。いいな?』
「はい」
真琴は短く返事をして、携帯を切る。
すると堂本から、別の携帯に連絡が入った。
「はい。あっ・・・堂本さん!申し訳ありませんっ、私がお預かりしていながら・・・」
真琴は自分の責任だと謝ったが、堂本は冷静な声でそれは違うと言った。
この状況に由一を追い詰めてしまったのは、すべて自分に責任があるのだと。
「攫った相手に、心当たりはあるんですか?」
と、真琴が慎重に聞くと、堂本は苦々しく言った。
『・・・恐らく、元組長亡き後、木城組の座に座ろうとしている者の仕業でしょう。俺に考えがあるので、藤堂四代目にはご心配なきようと、お伝えください』
「でも・・・」
『いえ。今回一件は組内の抗争です。藤堂四代目まで巻き込むわけにはいきません。面子ってものがありますので・・・』
「分かりました」
そこまで言われてしまったら、真琴には何も言えない。
真琴は、そのまま携帯を切った。
堂本の言っていることは正しかったが、やはり心配で堪らない。
どうしようかと散々迷ったが、ここは部外者は動かない方が賢明だという結論に達した。
至って納得出来ない結論だったが、藤堂にもきつく言われている。
「由一君っ、無事でいてね」
真琴は手を合わせ、祈るようにそう言った。
それから数日後、いろいろと悩んだ由一は堂本マンションに戻ることを決意した。
明日はこのアクアを出て、堂本のところに戻るのだ。
そしてヤクザの情夫としての自分の運命を受け入れるのだ。
「堂本さんのところに戻って、本当に大丈夫なの?ちゃんと理解したの?自分で納得したの?」
真琴は、少し緊張している由一に向かって、心配そうな顔でそう聞いた。
真琴は、正直とても心配だったのだ。
由一が本当の堂本を知ったうえで受け入れてくれればいい。
そして、自分の運命を受け止めてくれればそれに越したことはない。
確かにそう思って堂本をアクアの予約に入れたのだが、それで本当によかったのだろうかとちょっとだけ不安になっていた。
だが由一は、そんな真琴の不安を吹き消すように笑顔を見せつけて、自信満々に頷く。
「はいっ。大丈夫です、真琴様」
今夜は最後の夜だからと、真琴が特別に食事に連れてきてくれたのだ。
場所は銀座のイタリアンレストランだった。
ここは、牛肉のカルパッチョが美味しくて、とても有名な店だった。
真琴のお気に入りで、時間ができるたびに藤堂と一緒に食事に来る、大切なレストランの一つだった。
そんな店に連れてきてくれた真琴の気持ちを嬉しく思いながら、由一は次々と運ばれてくる美味しい料理に舌鼓を打っていた。
「それに、ちゃんとヤクザの情夫という運命を受け入れるって決めましたから。頑張って生きていきますから」
と、由一は『蟹肉入りのスパゲッティ・トマトソース味』を食べながら、大きく頷く。
ここのイタリアンレストランの料理は本当に美味しくて、ついつい食べすぎてしまっていた。
「・・・いや、そういうことじゃなくて・・・私が言いたいのは・・・。まぁ、いいかな。そのうちに分かってもらえば・・・」
と、真琴は由一の言葉に少し不満そうな顔で何かを言いかけたが、口を噤んでしまう。
由一は真琴が何を言いかけたのか気になって何度も聞いたが、真琴は『そのうちに分かるでしょう』と言うだけで、何も教えてはくれなかった。
「それに、今の由一君に話しても、きっと理解してもらえないと思うから。もう少し時間が経って、もう少し大人になったら分かるかな?」
「大人・・・ですか?」
「そう。大人にならないと分からないことってとても多いからね。実際、大人になっても分からない人の方が多いけど・・・」
「はぁ・・・」
由一はますます分からなくなってしまう。
「それより、堂本さんのところに戻っても、たまにはアクアに来なさいね。堂本さんはきっと反対はしないはずだから」
「はい」
「それと、なんでもいいから困ったことがあったら相談して。いつでも、私にできることなら相談に乗るから、ね?」
「はいっ」
由一は嬉しそうに返事をして、最後にステーキを食べていく。
真琴はとても美味しそうに食べている由一を見て、自分まで幸せになってきた。
この調子なら、きっと大丈夫だろう。
さまざまな難題が降りかかってきても、きっと乗り越えていける。
真琴は、すっかり元気を取り戻した由一を、内心願うような気持ちで見つめていた。
「真琴様、そろそろお時間です」
真琴にそっと耳打ちしたのは、ボディガードの一人だった。
恋人である藤堂がヤクザの四代目であるために、真琴にもその火の粉が降りかかり、何度か危険な目に遭遇している。
そんな真琴の命と身体を守るために、藤堂は特別にボディガードを何人かつけていた。
今日も、黒いサングラスを掛けたとても強そうな二人のボディガードたちが、貸し切りの店内で目を光らせている。
「・・・由一君。私はそろそろ店の方に行くから。特別なお客様の予約が入っていて、抜け出せないんだ。藤堂さんの知り合いだし、ごめんね」
と、ナプキンをテーブルに置き、席を立った真琴が申し訳なさそうに言う。
由一は慌てて席を立つと、真琴に向かって深々と頭を下げた。
これでもう、しばらくは真琴にも会えないのだ。
あの時、偶然にも真琴に出会っていなかったら、きっと今の自分は存在しなかっただろうと由一は思った。
その辺の路地でのたれ死んでいるか、夜の街中に立って身体を売っているか、とにかくまともな仕事はできなかったはずである。
身寄りのない由一の話を聞いただけで温かく迎え入れてくれた真琴には、一生かかっても返せないくらいの恩ができた。
見ず知らずの自分に、食べ物ばかりではなく、住む所や働く所までも世話をしてくれたのだ。
「あのっ、また会えますよね?」
ボディガードに囲まれて店を出て行く真琴に向かって、由一は叫んだ。
真琴は少しだけ振り返って、大きく頷いた。
「由一がそう願っていれば、いつかきっとまた会えるから・・・。それと、これから堂本さんの情夫となればいろいろなことがあると思うけど、どんなことがあっても決して下を向いちゃだめだよ。いつでも上を向いて凛としていること。そうすればきっと道は開けるから。いいね?」
真琴の最後の言葉を胸に刻み込みながら、由一はもう一度頭を下げた。
真琴の姿が完全に見えなくなり、誰一人として客のいない広々としたイタリアンレストランには、由一と真琴が特別に用意してくれた運転手がいるだけとなった。
由一は、あれからずっとアクアの近くにあるビジネスホテルで寝泊まりをしていた。
今夜であのビジネスホテルで寝るのも最後だと思いながら、なぜかとても寂しく感じていた。
堂本のところに戻ることに不安はない。
だが、真琴と離れることがとてもつらかった。
「・・・・・それにしても、真琴様はあの時、何が言いたかったのかな?大人にならないと分からないって言っていた、真琴様と年齢は一緒ぐらいなんだけど・・・・・」
由一は呟くようにそう言って、店を出た。
店の外は、少し歩くと人通りが激しくなり、とても賑やかだった。
請求書は、アクアに届けられるようになっている。
「ありがとうございました」
店のオーナーは、シェフたちと総出で由一を送り出してくれた。
「このままホテルに向かいますか?」
年老いた運転手が、由一に尋ねる。
由一は『ホテルに行ってください』と、運転手に答えた。
運転手は、少し離れた駐車場に停めてある、シルバーメタリックのBMWに向かって足早に歩いていく。
その場に残された由一は、一人で銀座の夜の街を堪能した。
こんなふうに、気ままに夜の銀座を一人で歩くのもきっと今夜が最後かもしれない。
明日からは、堂本の情夫としての特別な生活が待っているのだ。
真琴のように特別に派手で優雅な生活ではないだろうが、堂本も次期組長として名が挙がっているのだ。それなりのデメリットも覚悟しなければならない。
真琴がいつか話してくれたことがあった。
ヤクザの情夫は豪勢で華やかな生活を送っているので、人から羨ましがられることがある。
だがその反面、妬まれたり憎まれることも覚悟しなければいけないと。
自分がまったく知らないところで、命を狙われることもあるのだと。
そのデメリットだけは、覚悟しなさいと。
「本当に私にできるんだろうか。ヤクザの情夫なんて・・・。花が好きで、花のこと以外何も知らないのに・・・」
由一には、これから自分の運命がどうなるのかまったく分からず、未知の世界だった。
だが今はあの高層マンションに帰って、堂本と一緒に生活すると決めたのだ。
だからもう、いろいろ悩んでも仕方がないのだ。
「よしっ。頑張るぞっ」
由一は、歩道で意気込んでそう言うと、運転手が取りにいった車を待っていた。
と、そんな由一の前に一台の黒い国産の最高級車が停車する。
あれ?この車じゃないよね?
由一は、助手席や後部座席からドカドカと降りてきた人相の悪そうな男たちを見て、違うと思った。
だが、由一がそう思った時にはもう、男たちによって捕らえられ、車の後部座席へと押し込められていた。
「あっ・・・やめてっ・・・誰かっ!」
叫ぶ間もなくなく、由一はあっという間に連れ去られてしまう。
そこに居合わせた通行人はしばらく無言のままその光景を見つめていたが、車が走り去ると何事もなかったように歩き始める。
「・・・あれ、由一さんの姿が見えないが・・・」
それからすぐに、BMWを運転して戻ってきた運転手は、由一の姿を捜していた。街灯の明かりの下、どんなに捜しても由一の姿がない。
運転手は、車から降りて何度も由一の名を呼びながら、はっとした。
これはもしかしたら、とんでもないことになってしまったのでないだろうか。
運転手は慌てて車の中に戻り、携帯を取り出す。
そしてアクアの店の番号をプッシュした。
「あ、あの・・・由一さんが・・・いなくなりましたっ。さっきまで一緒だったのですが、行方不明ですっ」
ホストから携帯を受けた真琴は、運転手が叫んでいる言葉をゆっくりと頭の中で整理し、考えていた。
堂本は、すっかりおとなしく従順になった由一の手からネクタイを解き、自由にしてやった。
「堂本さん・・・」
すると由一は、すぐに堂本の首にしがみつき、自分からキスをせがんでいった。
こんなに好きになるなんて思わなかった。
堂本の元から逃げ出し、必死の思いで真琴に助けを求めた時には堂本を好きになるなんて想像もできなかったのに。
今では、堂本が好きで好きでしょうがないのだ。
「ああっ・・・堂本さん・・・。私を抱いてください」
由一は、ついに自分からそんな卑猥な言葉を口にした。
藤堂に愛されている真琴のように、堂本に愛されたい。
そして何よりも、堂本が欲しいっ。
「堂本さん・・・あの・・・堂本さん・・・」
由一は、堂本の前で淫らに腰を振って、誘うように言う。
だが堂本は、そんな由一を片目を細めるようにして見つめるだけで、決して抱こうとはしなかった。
これは、真琴との約束だったのだ。
このアクアに予約を入れることを許され、由一をヘルプとしてつける許可をもらう代わりに、決して抱かないという約束だったのだ。
由一がどんなに望んでも、決して最後まではいかない。
それが二人きりにしてくれた真琴との、約束だった。
「由一・・・。俺に抱いてほしいと思うなら、戻ってこい」
それが堂本の答えだった。
このアクアで肉体関係を持っていいのは、真琴だけ。
「どうして?」
由一は、切なげな瞳で堂本を見つめた。
堂本はもう一度キスを与えながら、美麗な方の顔で微笑んだ。
「ここでは抱けない。それがお前と会う条件だったから・・・」
「そう・・・だったんだ。それで真琴様が私にヘルプに付けと・・・」
由一は、やっとすべての事情をのみ込んだように頷いた。
喉につっかえていた食べ物がようやく胃に収まった、そんな感じがある。
「・・・だから、戻ってこい。いいな?」
「・・・・・はい」
由一は少し間を置いてからそう返事をした。
戻るのが嫌ということではなくて、真琴のことが一瞬気になったのだ。
お世話になりっぱなしなのに、自分の都合でまた堂本の元に戻りたいなんて、そんな勝手なことを言ってもいいのだろうかと心配になったのだ。
もしかしたら真琴の、いや、堂本の顔に泥を塗るようなことになったりはしないだろうか?
「・・・・・俺はこれから藤堂四代目と会う約束があるから行くが、由一はその間に話しておけ。そして少しでも早く戻ってこい、いいな?」
堂本はそう言って、立ち上がる。
由一は裸のままだったが、堂本が行ってしまうことに驚き、後を追った。
そしてそのまま、広い背中に抱きついてしまう。
「あ、あの・・・堂本さん・・・。逃げ出しちゃってごめんなさい」
由一の精いっぱいの言葉だった。
由一は、本心から堂本の側を離れてしまったことを悔やんでいた。
「もう、いい」
堂本はそれだけ言うと、由一を振り返りキスをして、ドアノブを回した。
そして裸のまま突っ立っている由一を見つめて、ドアを閉める。
藤堂四代目からの呼び出しに、遅れるわけにはいかなかったのだ。
「堂本さんっ」
由一は、ドアが閉まる寸前に堂本を呼んだ。
だが堂本は、ドアを閉めてしまう。
「由一君・・・?」
驚いたことに、出て行った堂本と入れ替わるようにして真琴がドアから入ってきた。
「ま、真琴様?」
由一は自分が裸であったことに気づき、慌てて床に放り投げてあった衣服を拾い集める。
すると紺のスーツ姿の真琴は、そんな由一を見てふふっと優しく笑った。
「・・・ごめんなさい、由一君。堂本さんのこと黙ってて・・・」
「い、いいえっ」
由一は、拾った服で股間を隠して慌てて首を横に振る。
「言ってしまったら、きっと由一君はヘルプ、してくれないと思って。そうでしょう?」
由一の恥ずかしい格好を見ても、真琴の優しい口調は変わらない。
「・・・はい、たぶん・・・」
由一は、きっと事前に堂本が来ると知っていたら、こんな結果にはなっていなかっただろうと想像した。
互いの気持ちを確かめ合うこともなく、また逃げ出していたかもしれないのだ。
だから由一は真琴に感謝こそすれ、黙っていた真琴のことを微塵も恨んでなどいなかった。
「でも・・・真琴様のおかげで、お互いの気持ちを知ったというか、なんというか・・・」
由一は、股間を隠したまま照れたようにそう言って、笑った。
その笑顔を見て、真琴がようやくほっとする。
「よかった。由一君の話を聞いた時から、会って話し合えばきっと誤解が解けて気持ちが通じ合うって思っていたら・・・。それに・・・私と藤堂さんとのセックスも、なかなかためになったでしょ?」
と、真琴がウインクして言うと、由一は顔どころか全身を真っ赤にして照れてしまった。
つまりは、そういうことだったのだ。
真琴はわざと藤堂とのセックスシーンを由一に見せつけていたのだ。
堂本が恋しくなるように。
堂本を愛しくなるように、そして、ヤクザの情夫というものがどういうものなのかを身をもって知らせるために。
真琴は、出会ったばかりの由一のためにそこまで考えていてくれたのだ。
顔が綺麗で美しいだけじゃない。
真琴という人間は、由一の想像を遥かに超えた、本物の天使様だった。
「あのっ」
「なに?」
真琴は、ドアから出て行こうとしていたが、振り返って由一を見つめた。
「あのっ、本当に、本当に、ありがとうございましたっ」
由一は、力いっぱいそう言って深々と頭を下げる。
心が感謝で覆いつくされている由一には、その言葉しか思い浮かばなかった。
「・・・それより、堂本さんのところに戻ったら、きっと由一は愛されすぎて死んじゃうかもしれないよ。そこのところをじっくりと考えた方がいいね」
くすっと笑って真琴がドアから出て行く。
由一はしばらく呆然としてから、真琴の言葉の意味を理解すると、思わず両手で顔を覆った。
バサッと、手に持っていた衣服が床に落ち、また由一は真っ裸になってしまう。
だがそんなことよりも由一は、真琴が言った状況を頭の中に思い描きながら『うわーっ、どうしようっ』と短い悲鳴を上げていた。
由一の頭の中にあるのは、藤堂が真琴を愛するように、すっごく激しくグチャグチャになるまで愛されている自分の姿だった。
「きゃっ❤︎」
由一が上げた短い悲鳴は、嬉しくて恥ずかしくて、そして何よりも愛されている喜びに満ち溢れている悲鳴だった。
いつものように冷酷な黒い瞳で、じっと由一の苦痛に歪んでいる顔を見つめていた。
「俺を裏切った罰だ。たっぷりと味わえ・・・」
「あっ・・・いやぁ・・・・・ひぃ・・・・・」
「それと、これは勝手な真似をした罰だ・・・」
と、堂本は不意に由一の乳首に噛みつく。
「あっ・・・いやぁぁ・・・・・」
堂本は、手の中に分身を握り締めたまま由一の乳首を口を含み、思いきり噛みついていた。
「き・・・ひぃぃぃ・・・・・」
容赦のない堂本の行動に、由一が思わず泣き叫ぶ。
だがこの特別室の防音効果はバツグンで、中でどんなに騒ごうとも外や廊下にはまったく声は漏れなかった。
それは、藤堂と真琴のセックスでも証明済みである。
「堂本さん・・・堂本さん・・・痛いぃぃ・・・・・」
と、由一は堂本が乳首から離れるように身体を揺らして抵抗する。
だが揺らせば揺らすほど堂本はもっと強く噛みついてきて、今にも乳首が千切れてしまいそうなくらい引っ張るのだ。
「ひぃぃぃ・・・・・許してぇ・・・・・」
ついには、こらえ切れなくなった由一が、泣きながら哀願する。
だがそれでも堂本は、乳首に思いきり歯を立てるのをやめようとはしなかった。
「許して・・・ぇっ・・・もう・・・しませんから・・・。もう逃げたりしませんから・・・ふぇっ・・・・・」
ポロポロと涙を流して、由一が泣きじゃくる。
堂本は、そんな可愛くて素直な由一をしばらく楽しんでいたが、やっと乳首から離れた。
堂本が離れた乳首には、しっかりと歯型が残っていた。
このまま、もう少し力を入れていたら本当に噛み千切られていたかもしれない。
「少しは・・・分かったか?俺に逆らったらどうなるか・・・」
「は・・・はい・・・。ごめんなさいっ・・・もう逃げたりしませんから・・・うえぇぇ・・・」
由一はなんとか堂本の機嫌を直そうと、必死だった。
両手は塞がれているし真っ裸だし、逃げようにも逃げられない。
だったら素直になって、堂本の言うことをなんでも聞くしかないのだ。
由一はそう思いながら、涙で濡れている茶色い瞳で堂本を見上げた。
そんな可愛い由一を見て、堂本の顔が一瞬緩む。
「逃げ出したりしなければ、こんなにつらい思いはしなくて済んだんだ」
「・・・はい、その通りです」
まだ痛みを訴えている乳首と堂本を交互に見て、由一が泣きながら頷く。
すると堂本は、やっと気持ちが晴れたのか、由一の分身を握っていた手を緩めてやった。
だがまだ、完全には開放してやっていない。
「・・・・・だがよかったな、由一?どういう運命かは知らないが、逃げてすぐここに来たのが分かったからあの大学生たちを五体満足で開放してやったが、そうでなければ今頃は、全員あの世行きだ」
「大学生って・・・まさか・・・あの時の大学生たちのこと?」
由一は、苦痛から解放されホッとする間もなく堂本を見つめた。
堂本はふふっと笑って、由一の分身の先端を指の腹で弄っていく。
由一の先端の割れ目からは、もう先走りが出ていた。
「お前を逃した大学生たちはすぐに見つけた。殴り殺してやってもよかったんだが、由一をおびき寄せる餌にしようと思っていた。そこへ藤堂四代目からの電話だ。仕方なく大学生たちは解放したが、まぁ、お前の居場所が分かったのは幸いだったな」
堂本は、そう言いながら由一の分身をクチュクチュと弄っては手を上下に揺らしていく。
さっきまでの苦痛とは違い、今度は明らかに快感が由一の分身を支配していた。
「・・・じゃあ・・・大学生たちは無事なんですね?」
と、必死に快感をこらえながら由一が聞くと、堂本は根元についている二つの玉も一緒に揉み扱くようにして手を動かしながら答えた。
「・・・ああ、解放してやったよ。お前が見つかったんだ、もう用はない」
「・・・よかった」
由一は、自分を助けてくれたために、大学生たちに何か危害が及んだらどうしようとずっと考えていたので、今の堂本の言葉はとても嬉しかった。
だが反対に考えれば、偶然にも真琴と出会わなければ、大学生たちは五体満足ではなかったということになる。
由一はそう考えて、自分の運の強さに感謝せずにはいられなかった。
「・・・・・真琴とか言ったな?あの青い瞳の別嬪さんは・・・。藤堂四代目の情夫というだけあって、大した度胸だ。藤堂四代目を抜きにして、俺と正面から堂々と渡り合うつもりらしい」
堂本は、由一の分身を上下に揺らし、もっと先走りを出させながら言葉を続けていく。
「・・・お前も運のいいヤツだな。真琴に取り入ろうとしている連中はたくさんいる。その中でもお前は特別に可愛がられているようだ」
「あっ・・・堂本さん・・・だめ・・・あぁぁっ・・・」
由一は、話に耳を傾けながらいつの間にか喘ぎ始めていた。
堂本の上下に揺れる手の動きが、あまりにもリアルでうまいということもあったが、ここで愛し合っていた藤堂と真琴の淫靡な姿を思い出したのだ。
全身の性感帯についているピアスと、蕾の中から取り出していった真珠。
そして、藤堂の大蛇を嬉しそうにのみ込んで行く真琴の姿の妖艶さを、由一は忘れることができなかった。
あんなふうに、自分も愛されてみたい。
いつしかそんな飢えと欲望が、由一を取り巻くようになっていた。
「あっ・・・ああっ・・・堂本さんっ」
だからなのか、堂本が少し愛でただけで、由一は敏感に快感を受け止めていた。
「あっ・・・あっ・・・だめぇ・・・・・」
さっきまで千切れるくらい噛まれていた乳首も、ツンッと突き出て硬くなっている。
朱色に変色していて、まるでもう一度噛んでほしいと訴えているかのように、存在を示している。
堂本は、手の中で由一自身を弄びながら今度はさっきと違う方の乳首を吸ってみた。
「あんっ」
甘ったるくて媚を売るような喘ぎ声が、由一の唇を割る。
堂本は、さっきと同じくらい強く噛んでみた。
「あーーーーーんっ」
だが驚いたことに痛みを訴えるのではなく、由一は快感を表していた。
乳首を思いきり噛まれて、感じているのだ。
しかも、分身がビンビンになってしまうくらい、強烈に。
「あーーーーーだめですぅーーー。そんなにしたらーーーーー」
「そんなにしたら、なんだ?」
「あぁぁぁーーーーーイッちゃいますぅぅーーーーー」
と、由一が胸をのけ反らせて叫ぶ。
堂本は、そんな由一の乳首をチューとわざと音を立てて吸い、その音を聞かせてもっと由一を淫らにしようとした。
そんな堂本の思惑が当たり、由一は乳首を吸われていることが堪らなく気持ちが良かった。
さっきまでは、痛いだけだったのに。
どうして急に、こんなに感じやすい身体になってしまったのか。
真琴と自分、そして藤堂と堂本を重ねれば重ねるほど、身体が敏感になっていくような気がしていた。
今自分は、藤堂に抱かれる真琴のように、淫らに激しく堂本に抱かれようとしているのだ。
まるでヤクザの情夫のように。
「あっ・・・だめですっ・・・あぁぁ・・・・・」
由一は、もうこれ以上は堪えられないという声を上げて、下半身を上下にくねらせた。
そしてそのまま、堂本の手の中で絶頂感を極めてしまう。
「あぁぁぁーーーーーーーっ」
長くてねっとりした喘ぎ声を上げながら、初めての快楽に酔いしれていた。
「あっ・・・あんっ・・・・・」
ピクンッと何度も腰を揺らし、堂本の手の中に飛沫を放っていく。
堂本の手が受け止めきれない飛沫は、由一の白い内股や高価なソファにまで飛んでいった。
由一は、絶頂の余韻に浸っていて、そんなことには気づかない。
「・・・・・・・堂本さん」
しっとりと濡れた瞳で堂本を見上げ、後ろ手に縛られている由一は熱っぽく呼んだ。
他人の手でイカされることがこんなにも快感だったなんてこと、初めて知った由一だった。
自分の手でやるより、何倍も気持ちいい。
それにこの解放感と満足感は、想像を絶していた。
由一が、ハァハァと肩で息をしながらソファの背もたれに寄りかかっていると、堂本は手に付着した飛沫を由一に見せて、それからテーブルの上にあったおしぼりで拭いた。
「ここで働きながら、いったい何を考えていたんだ?俺にこうしてほしいってずっと思っていたんだろう?違うか?」
飛沫量の多さに驚きながら、堂本はふふっと笑って由一に言った。
由一は堂本の言葉の意味が分かって、顔を赤面させてしまう。
つまり、ずっと堂本にこうされたいと願っていたんだろうと聞かれたのだ。
その通りだから、何も言い返せない。
それに絶頂感に浸っている今の状況では、反論などできなかった。
「・・・堂本さん・・・・・」
由一はこの時初めて、堂本を好きなんだと素直に思えた。
まだ出会ったばかりだし、お互いに何も分かっていないのだが、堂本を好きなのだという気持ちだけは本心だった。
どうしてこんなにも堂本を好きなのか分からない。
だが、堂本にキスをされて、こうして愛撫されることが、由一は堪らなく好きだった。
もっと早くこうしていれば、無理に逃げ出すこともなかったかもしれないのに。
そんなことまで思ってしまう。
「堂本さん・・・。私・・・堂本さんが・・・・・」
由一が自分の気持ちを口にしようとすると、堂本はその唇をキスで塞いでしまった。
今ここで由一に愛を告白されてしまったら、本当にここで抱いてしまいそうだったのだ。
もう、自分の欲望が止まらなくなってしまう。
「その先は・・・また今度会った時に聞く。それよりも・・・由一・・・」
「はい?」
「もっと俺を呼べ、この唇で・・・俺を呼ぶんだ、由一」
堂本はそう言って、再び由一の濡れている唇をたっぷり塞いだ。
「・・・・・んっ・・・はぅ・・・ん・・・・・」
口中を犯すような激しいキスが、由一を襲う。
由一は、そのキスを受け入れながら瞼を閉じていく。
由一の口端からは、唾液がしとどに伝い落ちていく。
飲み込めない唾液が首筋まで伝い、二人がどんなに激しいキスを繰り返しているかを想像させた。
「どうしても嫌だと言うなら、戻りたいと言わせてやる」
堂本は片方の目を少し細めてそう言うと、見る見るうちに由一から衣服を剥ぎ取っていく。
「あっ・・・堂本さんっ!」
スラックスや下着、靴下まで脱がされてしまい、すっかり裸になった由一は、手で股間を隠すようにして叫ぶ。
だが堂本は、初めて見る由一の裸体を片目でじっくりと見回しながら、脱がせた衣服を放り投げてしまった。
「堂本さん・・・」
堂本の何かを決心したような顔を見て、由一がソファの上で固まってしまう。
怖いと由一は思ったが、その反面、これから何をされるのかという期待感もあった。藤堂と真琴の濃厚なセックスシーンを何度も見ていた由一の頭には、多少なりともセックスの知識がインプットされていた。
だから、不思議と抱かれるということに対しての恐怖はなかった。
ソファに座り直した堂本は、由一の裸体を片目でじっくりと見回してから、口を開いた。
「・・・手で隠すな」
と、堂本はテーブルの上のウイスキーが注がれているグラスを手に取って、落ち着いた口調で命令した。
「あ、あの・・・?」
「言われた通りにしろっ」
逆らうことを決して許さない堂本の命令口調に、由一の裸体がビクンッと震える。
「・・・はい」
由一は言われた通りに、股間を隠していた手を退けた。
だが手はブルブルと震えていて、うまく由一の言うことを聞いてくれない。
そんな由一の手を、堂本が焦れたように捕まえた。
「この手は邪魔だな?」
と、言うが早いか、自分が締めていたエルメスのネクタイをシューッと外し、それで由一の手を後ろに回して縛ってしまう。
「あっ・・・ 堂本さんっ!」
由一が、何をされているのか気づいた時にはもう遅かった。
完全に逃げ道を塞がれ、そして抵抗することさえできない状態に追い込まれていた。
しかも、あっという間に。
「堂本さん・・・ あの・・・手を解いてくださいっ」
と、由一は哀願したが、堂本は冷酷な光を放っている左目を細めるだけで、何も言わない。
そして視線を下げ、由一が今まで手で隠していた下半身をじっと見つめた。
「み、見ないでっ」
驚いたことに、由一の分身はすっかり勃起していた。
しかも、堂本に見られていることが嬉しいのか、ピクンッと息を潜めて震えている。
堂本もそれには驚いてしまい、ふふっと笑った。
「・・・俺にキスをされて感じたのか?」
「そ、そんなことは・・・ 」
「じゃあ・・・これはどういうことなんだ?ん?」
と、堂本が由一の顎を掴み、強引にキスをする。
由一はキュッと目を瞑ってキスを受けていたが、身体は正直だった。
キスされたことがしょうがないとばかりに、ピクンピクンと勃起した分身を震わせる。
堂本はそんな分身を愛しく思ったのか、キスをしたまま由一自身をやんわりと握り締めた。
「んっ・・・」
その瞬間、由一の下半身がピクンッと跳ね上がってしまう。
堂本に握られている分身は、たったそれだけでイッてしまいそうなくらい感じていた。
「身体は素直で言うことを聞くのに、どうして由一は素直じゃないんだろうな?ええ?」
堂本は、ギュッと分身を握り締めながら言った。
「あっ・・・きつい・・・」
痛そうに顔を顰めて由一が呻く。
「きつくしてるんだ。当たり前だろう?」
堂本は耳元に低い声でそう言って、もっと強く握り締めていく。
「ひぃ・・・うっ・・・」
由一は、声にならない悲鳴を上げて思いきりのけ反ってしまう。
手を後ろで縛られているので、どうしようもなかった。
「い、いや・・・痛いっ」
由一は、大きな堂本の手に握られて、見る見るうちに血色がなくなっていく分身を見下ろして、ひぃ・・・と息をのむ。
このまま、握り潰されてしまいそうなくらい痛かったのだ。
「いやいやっ・・・痛いっ」
「痛くしている。当たり前だ」
堂本は、ソファの上で何度も跳ね上がっている由一を見ても、まったく表情を変えない。