「宇宙!?」
学校からの帰宅途中、誰かに呼ばれた。
振り返ってみると、そこには桜井が顔に汗を光らせて立っていた。
「さ、桜井さんっ!」
まさか桜井がいると思っていなかった宇宙は、思わず大声を出す。
「しぃ・・・静かに」
そんな宇宙の口を手で塞いだ桜井は、人通りの少ない路地に宇宙の身体を連れ込んだ。
注意深く辺りを窺う。
「話があるんです」
「ぼ、僕も・・・。話があってずっと連絡を取っていたんです。でもなかなか桜井さんがつかまらなくて・・・。でもよかった・・・」
と、嬉しそうにしゃべり始めた宇宙の口を、桜井の手がもう一度覆う。
「そのまま静かにして・・・聞いてほしい。実は・・・私のことはもう忘れてほしいんんです。何もかも・・・今までのことはすべてなかったことにしてください」
「・・・・・・!?」
突然の桜井の言葉には、切羽詰まった緊張感があった。
いつもは優しい言葉遣いなのに、今日は少し様子が違う。
何かあったのだろうか?
唇を塞いでいる手が、少し震えているような気がする。
「・・・でも・・・」
と、わけを聞こうとした唇を、もっと強く押さえて桜井が辺りを見渡す。
幸い、暗くて細い路地には二人の他には誰もいなかった。
「とにかく、私のことは忘れるんです。もう二度とかかわってはいけません。 マッサージルームにも二度と来ないでください。いいですね?」
否定を許さない桜井の言葉。
宇宙は、何かとんでもない事態に桜井が巻き込まれたのだと察した。
そうでなければ、桜井ほどの男がこうも取り乱したりしないはずだ。
いったい何が桜井を追い詰めているのか?
そういえば、ホテル街でチンピラに絡まれていたとき、桜井が助けてくれたけど、チンピラたちの様子が少し変だった。
桜井の顔を見知っているような様子だった。
驚きと恐怖と不審さが入り交じったような顔をしていた。
あのときのチンピラたちと何か関係があるんだろうか?
もしかして、こういう状況に追い込んでしまったのは、自分のせいなのではないだろうか?
宇宙はいても立ってもいられず、桜井の手を振りほどいた。
「もしかして、あのときのチンピラたちと何か関係があるんじゃないですか・・・?」
宇宙の問いに、桜井はピクッと眉を動かした。
やっぱり。
やっぱりそうだ。
あのときの街のチンピラたちと桜井さんは、何か関係があるのだ。
「どういうことなのか説明してください。桜井さんを忘れろなんて・・・そんなのできません。だって僕・・・僕・・・桜井さんを好きなんですから。愛しているんですから」
言ってしまった。
ついに言ってしまった。
こんなところで、こんな場面で告白するつもりじゃなかったのに。
つい勢いで言ってしまった。
だが気持ちは本心だし、決していい加減な気持ちで言ったつもりはなかった。
時と場所はまずかったけど、それが宇宙の本当の気持ちだった。
桜井の端正な顔が、驚いたように宇宙を見つめる。
そして両手が伸ばされ、それはギューッと思いきり宇宙の身体を正面から抱きしめた。
分かってはいた。
宇宙の気持ちは知っていた。
だが、こんな緊迫した場面で突然愛を告白された桜井は、今はとてもまずい立場にいることも忘れて、聞き入ってしまっていたのだ。
純真で真心のこもった愛の告白。
時や場所なんて関係なかった。
十年間を空虚に過ごしてきた桜井にとって、花束やプレゼントを用意しているわけではない宇宙の告白、その精いっぱいの愛の言葉は心に衝撃を受けるぐらい嬉しかった。
愛している。
ギュッと身体を抱きしめたまま、ついそう呟いてしまいそうになる。
「宇宙・・・」
だがそれはできなかった。
自分の気持ちを言ってしまったら、もう引き返せなくなってしまう。
あの亨と自分との世界に、愛おしい宇宙を引っ張り込むことなってしまうのだ。
あの亨ことだ。
宇宙をどうするのか、だいたいの想像はつく。
きっといいように弄び、そして最後には客を取らせるために海外に売りさばく。
裏の社会でも顔が利く亨の取る行動は、容易に想像ができた。
だめだ。
宇宙をそんな世界に引っ張り込んではいけない。
宇宙は小学校の教師をしていて、こんなふしだらで淫らな世界とは別世界の人間なのだ。
「いけません。私は宇宙の気持ちを受け入れることはできません。だから諦めてください。好きでも、なんでもないんですから」
今にも宇宙の黒い瞳から視線を逸らせてしまいそうになるのを必死にこらえていた。
「好きでもなんでもないのに、そんなことを言われるのは迷惑です。店の客だからちょっと優しくしてあげただけなのに、勘違いされては困ります。だから店の外で会うのは嫌だったんです」
と、桜井が目を細めてため息交じりに言う。
宇宙はその瞳を見つめ、信じられないというような顔をして桜井を見つめていた。
「う・・・そ・・・。今のは全部嘘だ・・・」
「嘘じゃありません。言ったでしょう。迷惑だと。私は宇宙を店の客の一人としか思ってません・・・」
「嘘だよ・・・嘘。だって・・・ラブホテルで・・・あんなに愛してくれたじゃない。あんなにいっぱい、愛してくれたじゃない?あれはなんだったの?あれも商売の一つだったというの?」
桜井の腕の中から離れた宇宙が、今にも泣き出しそうな顔で言う。
宇宙にはとても信じられなかった。
今までの桜井の優しさと愛情が嘘だったなんて。
商売という名の、偽りだったなんて。
「・・・そうです。あのときは宇宙がチンピラたちに絡まれていたのを助けただけです。ラブホテルに入ったのは・・・ちょっとした気まぐれです。本気じゃありません」
胸がギューッと痛くなっていく。
今までいろいろな嘘をついてきたけど、こんなに胸の奥が痛くなったのは初めてだった。
嘘がこんなにつらいものだなんて初めて知った。
嘘がこんなにも心に痛みを与えるものだなんて、知らなかった。
この痛みを教えてくれたのは宇宙なのだ。
宇宙を愛したからこその胸の痛み。
だが桜井は、胸が詰まるようなそんな痛みに浸っているわけにはいかなかった。
「・・・だからもう私のことは忘れてください。私も少し、遊びが過ぎて宇宙を本気にさせてしまって・・・」
「もういいっ!もう何も言わないでっ!」
宇宙は、桜井の言葉を遮るように大声で叫んだ。
もうこれ以上、桜井の言葉を聞いている勇気がなかった。
これが桜井の本心?
本当に?
あの優しさも温かさも、自分にだけ特別に向けてくれているのかと思っていたのに。
自分だけは特別だと思っていたのに。
だから、スペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージをやってくれたんだと思っていたのに。
あのラブホテルで一緒にプールに入って、遊んだのだって、僕を愛してくれているからだとばかり思っていたのに。
桜井の笑みの中には、確かに愛情があるって思っていたのに。
「もう・・・もう・・・いい・・・。もう・・・桜井さんなんてだいっきらい!」
宇宙は、大声でわめきながらそう言って、振り返って走っていく。
薄暗い細い路地を、泣きながら宇宙は走っていった。
その後ろ姿を、桜井は生身を削られるような想いで見つめていた。
本当は追いかけていって嘘だと言いたい。
今言ったことはすべて偽りで、本心は心の底から愛していると言ってあげたい。
だが、そんなことをしてしまったら、宇宙を自分のいる卑猥で卑劣な世界に引きずり込むことになってしまう。
亨は、一見クールだがとてもずる賢く、嫉妬深い。
亨は、愛人を何人も囲っている。
だが、それでも桜井を手放そうとはしなかった。
桜井のウルトラスペシャルマッサージは、女で欲求を満たすのが面倒なとき、亨を虜にするのだ。
「宇宙・・・ごめんね。本当にごめん」
桜井は、これでいいんだと自分に言い聞かせながら何度もそう呟いた。
そんなときだった。
桜井の耳に、走っていったはずの宇宙の悲鳴が聞こえる。
「ーーーーーー!」
桜井ははっとした。
「まさかーーーーー」
桜井は、宇宙が駆けていった路地を一目散に走っていった。
「お前が提供してくれた情報は、どうやら本物のようだな」
マッサージルームの特別室から出て来た亨は、店の前に横づけにされていた黒いベンツの後部座席に乗り込み、隣に座っていた恭也に言った。
肩まで無造作に髪を伸ばしている恭也は、亨の裏の世界の側近的役割を果たしていた。
ダークグレーの高価なスーツに身を包んでいる亨は、短めの髪を立たせワイルドに決めていた。
明るいシルバーグレーのネクタイがよく似合っている。
「・・・・・そうですか。それで、桜井は認めましたか?」
亨が煙草を口に銜える。
恭也はライターを灯し、煙草の先端に火を点けながら何気ない顔で聞いた。
「いや。とぼけていた」
外国製の葉巻の煙をくねらせるように一服した亨が革のシートに身を沈めて言う。
細められた黒い瞳がとても冷たく感じられる恭也は、言葉少なめな亨の様子を窺いながら、次の言葉を待っていた。
「・・・・・桜井は本気なのか?」
ベンツが走り出し、しばらくして亨が言った。
「・・・おそらく。二人でラブホテルに入るところを見ましたから。それにそのホテルでアルバイトをしている男に聞いたんですが、自分のことを遼一と呼ぶようにと、相手の男に言ったそうです。桜井がその男を風呂場でマッサージしているビデオも入手しています」
と、いったん言葉を切ってから黒いスーツ姿の恭也は窺うように言った。
「・・・・・見ますか?」
とたんに、亨の顔色が変わる。
「隠し撮りしたのか?」
「私たちの財産の一つですので」
と、恭也が淡々とした口調で言うと、亨は手元のスイッチを押して窓を少し開けた。
葉巻の煙を外に出したのだ。
「そのテープは処分しろ」
「はい、承知しました」
恭也は、穏やかな口調でそう言って頭を下げる。
恭也の細められた瞳には冷淡さが浮かんでいた。
この機を逃すことはない。
桜井から亨を奪う、絶好のチャンスなのだ。
亨の寵愛を桜井から奪い去り、自分のほうに向けるチャンスなのだ。
絶妙な手技で亨の寵愛を受けている桜井という男を、恭也はずっと目の上のタンコブのように思っていた。
いつかは桜井を追い落とし、自分がその地位につけたら。
亨を密かに愛している恭也は、誰にも知られることなく密かにそう思っていた。
恭也はニヤッと笑った。
恭也の頭の中には、すでに桜井を追い落とすストーリーができあがっていた。
「それで、相手の男のほうはどうしますか?」
長めの髪を掻き上げるようにして恭也が聞くと、亨は忌々しそうに舌打ちをした。
「桜井が本気で惚れた相手がどんな男か、一度会ってみたいものだな」
嫉妬心だけではない、別の感情も窺える亨の言葉に、恭也は静かに『分かりました』とだけ答えていた。
「変な噂を耳にした」ウルトラスペシャルマッサージを終えた後、亨は高価な上着に袖を通しながら何気なくそう言った。
ベッドのまわりを片付けていた桜井は、内心ドキッとしながらも平静さを装って『何がでしょうか?』と聞いた。
すると身支度を整えた亨が、かなり強引に中腰になっていた桜井の顎を掴み、そのまま引き上げる。
「痛いっ!」
思わず、桜井が言う。
端正な桜井の顔が、苦痛に歪んでいるのを亨はまるで楽しんでいるかのように冷淡な瞳でじっと見つめていた。
「とぼけるのか?」
と、太い眉尻を上げて、不機嫌さを表している亨が聞いてくる。
桜井は顎を強く掴まれたまま、知らないと首を横に振った。
亨の切れ長の瞳がわずかに細められる。
そして亨の指が、乱暴に桜井の顎から外れる。
「まぁ、いい。お前も自分の立場ってものは知ってるはずだからな。余計な感情は抱かないことだ。俺は父親から譲り受けたお前を、そう簡単に手放したりはしないからな。それだけはよく覚えておけよ」
肩幅の広い背中を向けたままそう言って、亨が部屋から出ていく。
ドアの外には、部下が数人待っていた。
その中にはエリートサラリーマンのような男もいたが、中には少し危なそうな雰囲気を持っている男もいた。
週刊誌を騒がせ、今をときめく青年実業家の顔を持つ亨は、世間に知られることなく、裏ではかなり危ない仕事もしていた。
政治家である父親の後を継ぐということは、つまりそう言った危ないものも、ともに引き継ぐということなのだ。
桜井は、狭いマッサージルームの中でぐったりと床に膝をついた。
やはり知っているのだ、宇宙のことを。
客として来ている宇宙を特別扱いしていることを、店の誰かがチクったか、それともあのときのチンピラたちの誰かが亨にしゃべったか・・・・・。
どちらにしても、あの人『亨』はもう宇宙の存在に気づいていた。
「まずいことになった。亨がこのまま黙っているとは思えないし・・・」
桜井は、宇宙の屈託のない笑顔を思い出しながら頭を悩ませていた。
宇宙のことを亨の耳に入れたのは、おそらく側近の恭也だろうと桜井は直感した。
きっと、先日の街中での騒ぎもどこかで見ていたに違いないのだ。
恭也はこの街を徘徊するチンピラやヤクザたちの若頭的存在で、一見顔は綺麗だがとても冷酷な目をしている男だった。
情とか愛とかがまったく存在しない目を持つ恭也は、桜井にとっても要注意人物だった。
一度逃げ出したときも、恭也がいなければうまくいったのに。
あのときはまだ組に入ったばかりの恭也だったが、狡猾さは他のヤクザたちの中でも群を抜いていた。
「宇宙のことを亨の耳に入れたのが恭也なら、これ以上無理はできない」
桜井は、慎重に考えをめぐらせた。
恭也がずっと亨に対して特別な感情を抱いていたのは知っている。
亨に囲われている桜井の身を疎ましく思っていたのも知っている。
あのとき、宇宙がチンピラたちに絡まれていたとき、そこには恭也の姿はなかった。
やはりどこかで見ていたのだ。
そしてその後、宇宙と桜井を尾行し、ラブホテルに入ったのを確認したのだ。
あのとき、恭也の存在に気づいておくべきだった。
「卑怯なヤツだ。そんなことをしてまで亨に気に入られたいのか・・・」
桜井は、チッと舌打ちをして立ち上がった。
こうしてはいられない。
一刻も早く宇宙に会って、絶縁状を叩きつけなければならない。
そうしなければ、宇宙の身が危ないのだ。
桜井は、政治家である亨の父親が十年前にしたことを思い出していた。
ヤクザに札束を積んで桜井を買い取った亨の父親は、桜井の身体をいいように弄んだ。
ありとあらゆる快楽を覚えさせられ、また亨の父親にその快楽を与える術を学ばされた桜井は、心の底から亨の父親を憎んでいた。
そして同じくらい亨も憎かった。
自由を奪われた十年の間、心はいつも空虚だった。
心が満たされることなどなかった。
いつもいかなるときでも求められれば快楽を与える人形。
それが桜井だったのだ。
「・・・・・宇宙にもし何かあったら・・・」
宇宙に出会って初めて心が温かくなり、潤い、そして満ち足りたのだ。
宇宙を手放したくない。
やっと見つけた、愛する宇宙を諦めたくない。
だが、今の立場の自分が宇宙を守るためには、心とは裏腹な絶縁状を叩きつけるしかなかった。
無理に愛想づかしをすることで、宇宙を亨から守るしかない。
「宇宙・・・・・」
桜井は、シルクのオープンシャツの上に黒いジャケットを慌てて着ると、そのままマッサージルームを出ていった。
亨を乗せた高級外車は、もうどこにも見当たらなかった。
桜井からの電話が来ない。
そればかりか、マッサージの予約をしても『予約で埋まっている』とか言って、受け付けてくれないのだ。
プール付きの豪華なラブホテルでのウルトラスペシャルマッサージは、極楽そのものだった。
だがその後、桜井はどういうわけか冷たくなったような気がしていた。
あのときは時間が許す限りプールの中で遊んだり、何度もウルトラスペシャルマッサージをしてくれたりしたのに。
桜井が、またしても冷たくなってしまったのだ。
宇宙は、日々の忙しい学校生活に追われながらも、桜井の素っ気ない態度の原因がなんなのか知りたいと思っていた。
考えてみれば、親密度が増せば増すほど、どんどん桜井が冷たくなっていく。
普通なら、優しくなっていって当たり前なのに。
恋人同士なら、関係が深くなっていけばいくほど、親密さは増していくのに。
それとも、釣った魚には餌をやらない主義なのだろうか?
いいや、まさか。
桜井ほどの男に限ってそれはないと確信している。
ではどうして宇宙を避けているのだろうか。
ウルトラスペシャルマッサージまでしてくれる深い仲になったというのに、それと反比例するように桜井の気持ちが遠ざかってしまう。
どうしてなんだろうか?
さまざまな要因を考えながら、宇宙は子供たちと忙しい毎日を過ごしていた。
今日は早く帰れそうだし、予約はしていないけど、ちょうど桜井のところに寄ってみようか。
でも嫌な顔をされたり、粗略に扱われたらどうしよう。
「・・・・・・本当に忙しいのかもしれないし、もう少し様子を見てみよう」
宇宙は冷たくされたとき、どうしていいのか分からなくてそんなふうに考えるようにした。
きっと仕事が忙しいんだと。
「ねぇ、せんせ。体育館で鬼ごっこしようよ」
お昼休み、キラキラと瞳を輝かせた子供たちが宇宙の手を引っ張る。
「よし、鬼ごっこやるか?先生が鬼になるからね」
「ぎゃぁぁーーーーーっ!先生が鬼だぁぁーーーーーっ」
「わーい、わーい。先生が鬼だぁぁーーーーー!」
子供たちが、きゃーきゃーと騒ぎながら体育館へと走っていく。
「こら、走っちゃだめでしょ!?危ない・・・危ないって」
宇宙が叫んでも子供たちの無邪気に走り回っている足を止めることはできなかった。
だが、そんな子供たちの足が、体育館の入り口でピタリと止まる。
体育館の中には国ちゃんとその仲間たちがいて、すでに体育館を占領していた。
ドッヂボール用のボールを蹴って、キックボールをしていた。
体育館の中でのキックボールは禁止されているにもかかわらず、国ちゃんたち悪ガキトリオは、一年生の分際で我が物顔で遊んでいる。
三年生の集団もそこにいたが、国ちゃんが怖いので何も言わず隅のほうで見ている。
宇宙は国ちゃんや他の悪ガキ集団を呼び寄せ、体育館の中でキックボールをしてはいけないと注意した。
だが宇宙の言葉など、国ちゃんは全然聞こうともしない。
ボールを思いきり隅に蹴って、挙げ句の果てには宇宙に向かってこう言った。
「惚れたヤツのことでも考えてボーッとしていると思ったら、今日は元気じゃん。それとも、元気に見せてるだけとか?」
まるで、中学生か高校生のような言い方である。
本当にこの子は小学一年生なんだろうかと疑問に思いながら、国ちゃんの肩を掴んだ。
「国ちゃん!いい加減にしないとご両親に学校に来てもらいますよ」
と、宇宙が言うと、国ちゃんは不気味な笑顔でニタッと笑った。
「いいよ、来てもらってよ。僕の両親を呼べるものならね」
とて自信ありげな顔で、国ちゃんが言う。
宇宙は小学一年生とは思えないその笑顔を見てなんだかとっても嫌な予感を感じていた。
だがまだその予感がなんなのか、宇宙には分からなかった。
そしてその予感を宇宙が知るには、まだ少しの時間を要することになった。
そんな空虚な日々の中、宇宙と出会った。
出会った瞬間、夢も希望もとうの昔に忘れてしまった荒んでいた桜井の心に、潤いが戻ったのを確かに感じたのだ。
まっすぐで純粋で、人を疑うことを知らない宇宙の綺麗な瞳。
それは、ずっと以前に自分が失ったものだった。
見た目だけ、綺麗に着飾っている人間は大勢いる。
嘘偽りで、自分を覆っている人間もたくさんいる。
だが、心の美しさが表面に表れる瞳が、あんなに澄んでいて綺麗な人間はそうはいなかった。
現在の東京では、もう滅多にお目にかかれない。
そんな瞳を持つ宇宙に出会ったときは、桜井はずっと忘れていた熱くたぎるものを思い出した。
亨とその父親の権力に首根っこを押さえられてきた桜井が、初めて胸をときめかせたのだ。
運命の出会いがあるのなら、まさしくそうだと思った。
宇宙の足の裏をマッサージしながら、身体に優しく触れながら、桜井は心の中に湧き上がってくる何かを感じていた。
それがなんであるか、桜井はすぐに理解した。
遠い昔の自分。
そして、命をかけても悔いはない、愛だと思った。
今の自分のこんな気持ちを亨が知ったら、きっとひどい目に遭う。
強欲で権力をほしいままにしているわがままな亨は、自分だけじゃない、宇宙にまでも魔の手を伸ばすに違いないのだ。
金に物を言わせ、街のチンピラたちを動かし、宇宙を裏の世界に葬ってしまうことだってできるのだ。
父親の政治家も、ヤクザと繋がりがあり、亨自身も金のためだったらなんでもやる危ない連中を何人もそばに置いている。
亨の所有物である自分が、他の誰かに恋心を抱いたと知ったら、亨はきっと・・・・・。
「だめだ、やっぱりまずい。宇宙を愛することだけは避けなければ・・・・・」
まだ開店前の店内で、ソファに腰を下ろして一人で考え込んでいた桜井は、居ても立ってもいられない様子でソファを立った。
ラブホテルでの、ウルトラスペシャルマッサージ事件から、今日で一週間が経っていた。
この一週間の間、宇宙からは何度も店に電話があった。
マッサージの予約はもちろんのこと、個人的に外で会いたいという内容のものもあった。
だがそのたびに桜井は丁重に断り、予約もいっぱいだと言って断っていた。
予約はいっぱいだったが、無理に入れようと思えば入るのに、桜井は入れなかった。
ここでまた宇宙に会ってしまったら、今度こそ本当に本気になってしまう。
本気で愛したいと思ってしまう。
スペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージでは済まなくなるのだ。
宇宙のすべてを自分だけものにしてしまいたいと、望んでしまう。
「最初からスペシャルマッサージなんてするべきじゃなかったんだ」
激しい後悔の念が、桜井にため息をつかせていた。
店には他のマッサージ師たちが次から次へと入店していた。
もうすぐ開店時間である。
今日は、亨が店にやってくる日だった。
「桜井さん。亨様からお電話です」
開店前の電話を受けた女性が、コードレスホンを手渡す。
桜井は、ドキドキする心臓を押えるようにして受話器を耳に当てた。
「はい、桜井です」
『開店前に行く。今日は疲れていてとても機嫌が悪い。だからいつもよりいっそう念入りにやるんだぞ。いいな?』
亨の声には反論を許さない支配的な響きがあった。
桜井が、ギュッとコードレスホンを握りしめて『はい』と返事をする。
亨の父親から桜井という最高のマッサージ師をもらい受けた亨は、何か嫌なことがあって機嫌が悪くなるといつも来るのだ。
そして桜井のウルトラスペシャルマッサージを十分に堪能して、生気を取り戻してから家に帰るのだ。
亨の家は田園調布にあり、慎み深く美しい妻と小学生になったばかりの男の子がいた。
家ではいい父親でありいい夫であると、噂で聞いたことがあった。
来季の総選挙では父親と同じ道を辿るべく、参議院議員選に出馬することが決まっていた。
強力なバックがいるのだから、当選するのは確実だった。
裏では一人の男の運命を大きく変えてしまう人身売買のような汚いことをしておきながら、表の顔では青年政治家を装うのだ。
そして密かに愛人を何人か囲っている。
桜井は、電話を切るとまたため息を漏らした。
宇宙の存在が、傲慢で身勝手な亨に知られてしまったら、本当に殺されてしまうかもしれないのだ。
なんとしても隠し通さなければ。
桜井は、いつもの男らしく凛々しい顔で、仕事に戻っていった。
桜井は十八歳になったばかりだった。
高校を卒業したばかりの桜井は、夢を求めて新潟から東京に出てきたばかりだった。
田舎では見慣れない人込み。
ファッショナブルで賑やかな都会。
溢れるネオン。
ファッションモデルのように美しい人たち。
目に映る何もかもが、桜井には新鮮だった。
貯金でアパートを借りた桜井は、働き場所を求めて新宿の街中を歩いていた。
昼間の若者の活気に満ち溢れた、夢が叶う新宿とは違い、夜の新宿は一歩間違えれば危険と背中合わせだった。
だが桜井は、そんなことは知らなかった。
ネオンに誘われるままに夜の新宿を歩き回り、ある一軒の店の前で立ち止まった。
品のよいダークレッド色の看板が桜井の目に入ったのだ。
看板には、一人でも気軽に入れるカウンターバーと書かれている。
まだお酒の味も十分に知らなかった桜井だが、好奇心が店のドアを開けさせていた。
「いらっしゃいませ」
華やかな店内のカウンター奥から聞こえてくる、女性の声。
ジーパンとTシャツ姿の桜井は、カウンター右端に座った。
頼んだ物はビールと軽いおつまみ。
だが差し出されたお勘定を見て、 目が飛び出るほど驚いた。
十万円と書かれている。
しまった、ここはぼったくりの店なんだと気づいたときには もう遅かった。
こんな大金は持っていないと言うと、店の奥からチンピラ風の男たちが出てきて、店の裏路地に連れていかれた。
そしてそこではひどく身体中を殴られ、気絶してしまう。
この出来事が桜井の今後の人生を大きく変えたのだった。
意識を取り戻した桜井は、真っ暗な倉庫のようなところに転がされていた。
埃と異臭がする倉庫の中に三日間も放置されていた桜井は、全身がガタガタと震えていた。
四日目の朝、倉庫のドアが開いた。
やっと解放される。
そう思った桜井の前に、今後の運命を左右する人物が立っていた。
「・・・・・なるほど。お前の言うとおり、なかなかいい顔をしている。顔を殴らなかったのは、値段が落ちると考えたからか?知能犯だな。まぁ、いい。お前の言い値でいい、買おう」
六十歳を超えたスーツ姿の威厳のある男が、ロープで縛られている桜井を見て言った。
桜井の全身を殴ったチンピラたちは、その男から札束をもらうとペコペコと頭を下げて車に乗ってどこかに行ってしまった。
「おい、車に乗せるんだ」
スーツ姿の男が、低い声で言う。
命令されたスーツ姿の若い男たちが、桜井の両腕を縛っていたロープを解いて、黒い外車の後部座席に乗せた。
「あ、あの・・・?」
わけが分からない桜井は、若いスーツ姿の男たちにおずおずと聞く。
だが誰も、何も答えなかった。
唯一桜井の問いに答えたのは、チンピラたちに大金を渡していたあの男性だった。
白髪交じりの頭。 太い眉。厚い唇。太い首と太めの体格のその男性は、桜井の隣に乗ってこう言った。
「お前を三百万で買った。今日からお前は私のものだ。私に奉仕する術を学び、私を喜ばせるんだ。いいな?」
なんのことだかさっぱり分からない。
「つまりはこういうことだ」
と言うなり、高価なスーツを着ている男は強引に桜井の顔を自分の股間に押し当てた。
下ろしたファスナーの中から、勃起している男自身が顔を覗かせる。
「これをしゃぶるってことだ」
白髪交じりの男が、決して逆らうことを許さない命令口調で言った。
桜井は驚きたじろいだが、またあの真っ暗で異臭が漂う倉庫の中に戻されるのだけは嫌だった。
桜井は、意を決して男の分身をのみ込んだ。
男が、満足そうに『うっ』と呻く。
そして桜井の髪をきつく掴みながら言葉を続けた。
「これからいろいろなことを学ぶんだ。どうすれば私が喜ぶのか。口で奉仕するにはどうすればいいのか。手で感じさせるにはどうすればいいのか。しっかりと学ぶんだ。いいな?」
桜井は男の冷たい言葉には逆らえなかった。
涙がツーッと頬を伝ったのを感じた。
涙の味と男の先走りの味が混じり合ったこのときの味を、桜井は一生忘れることはないと思った。
それから桜井は、さまざまなことを学ばされた。
桜井を買った男は、実は大物政治家だった。
男は桜井の口や手を使っては快楽を貪った。
桜井は、何度も逃げようと試みた。
そして一度だけ、見張りの目を潜って逃げたことがある。
だがそのときはあっという間にチンピラたちに捕まり、その後はひどい拷問を受けた。
その拷問の苦痛が桜井を二度と逃亡には駆り立てなかった。
桜井は、用意された部屋から逃げ出すことを諦めた。
男の世話をするようになってから一年後、桜井は男から解放された。
というよりも、男が銀座のクラブの女を囲ったのがきっかけだった。
桜井はこれで解放される、そう思い喜んだ。
だが実際は違っていた。
男の息子である青年実業家が、桜井をもらい受けたのだ。
桜井はその日から、青年実業家である『大江原亨』の下半身の世話係として働くようになっていた。
男を抱く趣味はなかったものの、亨は桜井が覚えたスペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージをとても気に入っていた。
女を抱くのに飽きたとき、何か気に入らないことがあったとき、亨は桜井を呼び出し、マッサージをさせ快楽に酔いしれた。
父親のときとは違い外で働くことも許され、監禁生活からやっと抜け出せたとはいえ、桜井は亨の所有物であることには変わりはなかった。
亨から呼び出しが来たときや亨が店にやってきたときには、快感の極みであるウルトラスペシャルマッサージを施して極楽の世界に誘っていくのが桜井の本当の仕事だったのだ。
今勤めているマッサージルームも、実は亨が経営していた。
以前に一度だけ、もう自由にしてほしいと訴えたことがあったが、そのときは街のチンピラたちに死ぬほど殴られた。
顔は殴らず、身体を長時間にわたって殴られ続けたのだ。
肋骨や鎖骨を折るほどのひどい怪我を負った桜井は、それから二度と亨に自由にしてほしいとは言わなくなった。
そしていつの間にか十年が過ぎ、桜井は心の底から人を愛することを知らないまま毎日を過ごしていた。
「あぁぁーーーーー桜井さんっ・・・。僕、変になっちゃうーーーーーーっ」
頭の中が混乱していて、何がなんだか分からない。
自分で何を言っているのか、それさえ分からない。
ヌプッと音がして、二本の指がゆっくりと蕾の奥深くへと入っていく。
いや、正確にはのみ込まれていく・・・という表現の方が正確だった。
イソギンチャクのような宇宙の内部は、太くて長い二本の指を待ち焦がれていたかのように、奥へと誘っていく。
そして時折、キュッと何段にもなって指を締めつけていく。
「あぁぁぁ・・・・・・・っ。そんなに奥は・・・だめぇ・・・・・・」
自分から誘っていることに気づいていない宇宙は、喘ぎながらそう言ってマットの上で腰を左右に揺らした。
全身泡まみれの宇宙の身体が、ゆらゆらと揺れる。
するとその振動がそのまま蕾への刺激となって、宇宙をもっと深い快感へと導いていった。
ヌプヌプっといやらしい音を立てて、桜井の指を一気に根元までのみ込んでいく。
「あぁぁ・・・あぁぁっ・・・だめぇぇ・・・」
宇宙の蕾は、泡まみれのまま二本の指をのみ込んでいた。
指を上下に動かすと、泡と一緒に指が出てくる。
「さ、桜井さん・・・だめぇぇ・・・。それ以上はっ」
自分から誘っていることなど知るよしもない宇宙は、桜井の指の感触に激しく喘ぎ感じまくっていた。
まだ一度も頂点を極めていない可愛い分身が、泡の中でピクピクと震えているのが分かる。
だが桜井は、まだどちらでも絶頂を極めてあげるつもりはなかった。
まだ早い。
今日はマッサージルームではないのだ。
時間はたっぷりとある。
今日はずっと堪えてきた欲望が満足するまで、宇宙を喘がせてあげよう。
可愛い、愛しい宇宙の喘ぐ姿をずっと見ていたい。
思う存分、可愛がってあげたい。
桜井は、熱くたぎる下半身を宇宙の内股に擦りつけながら、そう考えていた。
それに指の感触からしてもまだ余裕がある。
もう一本、指を増やしてみようか?
もう一本指を増やしてみて、その反応を楽しんでみよう。
宇宙がどんな淫らな顔で喘ぐのか。
どんな声を上げて泣くのか。
見てみたい。
桜井はそんな欲望を抱くと、一気に二本の指を引き抜いた。
とたんに、宇宙の口から『あぁぁぁぁーーーーーーっ』と長く尾を引くような喘ぎ声が発せられる。
今までの音色と違うその喘ぎ声を聞いたとたん、桜井は内心チッと舌打ちをした。
欲望に任せて焦るあまり、指を引き抜くときに宇宙を絶頂感へと押し上げてしまったのだ。
宇宙の分身が、白い泡の中でピクピクってと痙攣しているのが分かる。
それと同時に、蕾の中から泡が溢れ出てくる。
おそらく、蕾でもイッてしまったのだ。
蕾の肉襞が痙攣を起こし、それで中に溜まっていた泡を押し出しているに違いないと桜井は思った。
こんなに早くイカせてあげるつもりはなかったのに。
もっと焦らせて、ギリギリまで焦らせて、縋って泣きじゃくる姿を見てから極みへとのぼらせてあげようと思っていたのに。
桜井は、一瞬不満そうに顔をしかめたが、すぐに仕方がないと諦めた。
と、同時に、二本の指だけでイッてしまう宇宙の感度のよさに驚かされてもいた。
女でも、こんなに感じる身体はそういない。
しかも蕾を刺激されたのは、初めてなのに。
「イッちゃったんですね?」
桜井は、まだピクピクと下半身を震わせている宇宙を見下ろして、ちょっと意地悪く言った。
宇宙は涙で潤んでいる瞳で見上げて、ゴクンッと素直に頷く。
その様子を見たとたん、初恋を知った高校生のように胸がキュンッと痛んだが、あえて心を鬼にした。
「誰も、イッていいなんて言ってませんよ」
「だっ、で、でも・・・・・」
うまく呂律が回らない。
まだ絶頂の余韻に浸っているのだ。
桜井はそんな宇宙を見て、微かに目を細めた。
「仕方がないですね。勝手にイッた罰として・・・今日は指だけで苛めてあげましょう。指で苛められるのが好きみたいですし・・・」
桜井が、クスッと冷たく笑って言う。
宇宙はその怪しい笑みにドキンっと胸を高鳴らせた。
指だけで苛めるって・・・つまりは・・・今みたいなことをもっとするってこと?
もっとエッチなことをして、もっとたくさん苛めるってこと?
そんなそんなっ。
今以上に弄られたら、あそこが変になっちゃうっ。
身体やあそこが感じすぎちゃって、どうにかなってしまう。
桜井さんが言ったとおり、苛められるというか指で弄られるのは好きだけど、でもこれ以上弄られたら・・・・・・・。
そんなことを考えている宇宙の両脚を高く持ち上げ、桜井がおしめを当てるような格好をさせる。
宇宙の顔が、真っ赤になる。
「いやっ、桜井さんっ」
と、嫌がっても桜井の足首を掴んでいる手は緩まなかった。
深く折り曲げた両膝を胸に押し付けて、そのままお尻を左右に割る。
泡を吐き出している蕾は、先ほど指を挿入したときよりもずっと朱色が増していた。
それに、ぷっくらとして肉襞が柔らかそうである。
桜井は、もう一度手の中でソープを泡立てると、そのまま三本の指を蕾の中に挿入した。
「あっ・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」
分身につられるようにイッてしまった蕾の中は、先ほどよりも熱く、そして狭まっていた。
だが強引に、三本の指が侵入していく。
「あんっ・・・だめぇぇ・・・。あんっ・・・」
肉襞が、指を押し出そうとしているのが分かる。
だが桜井は、その動きに逆らうように泡の助けを借りて指を奥深くまで挿入していった。
「あぁぁぁぁーーーーーー」
指先に、さっきまで当たらなかった最奥の部分が微かに当たる。
絶頂を極めた蕾の中は信じられないくらい柔らかくなっていて、そしてさっきよりもずっと敏感になっていた。
「だめぇぇぇーーーーーーイッちゃう!」
最奥の柔らかな部分を突っついたとたん、宇宙が泣き叫ぶ。
お尻を上下に激しく揺らして、激しく泣き叫ぶ。
桜井は、そんな宇宙に合わせるように指を伸ばして一番感じる部分を突っついてやった。
とたんに、宇宙は子供のように泣き叫び、イキまくった。
「あぁぁぁぁーーーーーーーーー・・・っ」
宇宙の喘ぎ声だけが、バスルームに響く。
宇宙は、三本の指を深々とのみこんだまま、絶頂感を味わっていた。
今まで感じたことのない、身体がドロドロの液体になったような感覚が宇宙を覆っている。
指をのみ込んでいる蕾が、ピクピクと細かく痙攣しているのが分かる。
指を挿入されたままのせいで、いつまでも絶頂感が収まらない。
指がわずかに動くたびに、また絶頂へとのぼりつめていってしまう。
「あぁぁぁーーーーーっ死んじゃうっ!死んじゃうぅぅぅーーーーーっ!」
宇宙は、我を忘れて泣き叫び喘ぎまくった。
教師という自分を捨て、男という自分を捨て、何もかも捨てて桜井の前で娼婦のように喘いでいた。
本当にこのまま気が変になってしまうのではないだろうか、と一瞬考えた。
だが頭の中がまた絶頂感に侵され、何も考えられなくなっていく。
「指だけで何度イクことができるのか、試してみるのもいいですね」
桜井は冷静な声でそう言って、また指を動かし始める。
宇宙は『えーんえーんっ』と子供のように泣きじゃくりながら喘いでいた。
そしてついに耐えきれなくなった宇宙は、バスルームの中で意識を手放していった。
グッタリとした宇宙の身体の上に覆いかぶさりながら、桜井は思った。
これは、まさしく真剣勝負の恋だと。
自分の命をかけてもいいと思えるほど、宇宙が愛しいと。
宇宙を愛していると。
「・・・・・宇宙」
桜井は、愛しい宇宙を腕の中に抱きしめながら、そっと耳元で宇宙の名前を呼んだ。
それは、ある人物の所有物である桜井が、宇宙を何があっても愛し抜こうと決心した瞬間でもあった。
なんと!! 10年ぶりに『COMITIA115』にて復活を果たします!!
新刊も発売します。是非遊びにいらしてください(^◇^)
日時2016年1月31(日) 11:00〜16:00
場所:有明・東京ビッグサイト東5・6ホール
チェリーピンク/雅桃子 東6ホール か06ab
新刊:光と闇のレジェンド
表紙:深和月(ミカヅキ)
R18のBL作品になります。
雅桃子のTwitterです!
1月31日に本を出します( ´ ▽ ` )ノ
宜しくお願いいたします!!
桜井は、手の中で泡立った滑らかな泡をたっぷりと宇宙の裸体に落としていく。
そして宇宙の裸体をまるで生クリームがたっぷり塗られたケーキのようにすると、その泡を塗り込めるようにマッサージしていく。
「あっ・・・んっ・・・」
身体中から余分な力が抜けている宇宙の唇からは、すぐに喘ぎ声が漏れた。
「あっ・・・あっ・・・」
左右の乳首を円を描くようにマッサージされ、指先で乳首を弾かれ、ひときわ大きく喘ぐ。
その感覚は、この前のスペシャルマッサージよりもずっと敏感になっているようだった。
前も感じたけど、でももっと感じちゃってる。
あーん、どうしよう。
乳首をマッサージされてるだけなのに。
宇宙が必死に歯を食いしばっても、どうしても唇が解けて喘ぎ声が漏れてしまうのだ。
しかも身体中の力がすっかり抜けてしまっているせいか、緊張感もない。
身体が、フニャフニャなのだ。
「今日はプールで遊んだせいか、身体から力が抜けててとってもいいですよ。この調子だと、ウルトラスペシャルマッサージができるかもしれませんね」
ウルトラスペシャルマッサージ!?
なんてエッチで破廉恥な想像を巡らせてしまう言葉だろうかっ。
スペシャルマッサージの上をいくマッサージってこと?
でも、あのめちゃくちゃ気持ちいいスペシャルマッサージの上をいくマッサージって、いったいどんなのだろうか?
と、宇宙は一瞬真剣に考えてみたが、想像をはるかに超えていてまったく分からなかった。
「何も心配はいりません。私にすべて任せてください」
はい、お任せしますぅ♡
宇宙は心の中で甘い声で返事をする。
するとその言葉が伝わったのか、乳首を愛撫していた桜井の手の動きが急に忙しくなった。
ウエストから下腹部へ泡を伝って降りてきた両手は、そのまま力が抜けてフニャフニャの膝を左右に割った。
「あっ・・・見えちゃう」
宇宙は思わず、恥ずかしそうに言った。
泡で隠れているとはいえ、こんなふうにして両膝を思いきり左右に割られてしまっては、勃起している分身だけではなく、その奥まで見えてしまうのだ。
まだ誰にも使われていない未通の蕾は、桜井にじっと見つめられ、泡の中でピクピク震えているようだった。
「ウルトラスペシャルマッサージというのは、ここを柔らかくほぐして、そしてここで絶頂感を極めるマッサージのことです。だから・・・私がこれから何をしても驚かないでリラックスしててくださいね」
桜井が、優しい口調で言う。
「あっ・・・」
桜井の数本の指先が、泡をかき分けるようにして蕾を探しているのが分かる。
「あんっ」
そして白い泡の中から可愛い蕾を見つけた桜井は、思わず両目を細めて笑った。
思っていたとおり、プールの中で疲れさせたせいで、蕾からも緊張がほとんど抜けていたのだ。
きつく口を閉じているはずの蕾の襞が、やんわりと緩んでいるのが一目瞭然だった。
桜井は、迷わず蕾の入り口を中指で突っついた。
「あぁぁ・・・ん・・・」
とたんに、今まで聞いたこともないような甘く滴るような喘ぎ声が宇宙の口から上がる。
桜井はその声を聞いただけで、ウルトラスペシャルマッサージを宇宙が受け入れる準備ができていることを知った。
「いい子にしててくださいね。動くと・・・傷ついてしまう場合がありますから・・・」
注意深くそう言って、桜井が中指をゆっくりと蕾の内部へと挿入していく。
「さ、桜井さん・・・」
宇宙の内部は、桜井の想像以上に柔らかくほぐれていて、異物である指を優しく包み込んでいった。
クチャクチャ、ヌルヌルとしているこの感触。
欲望を漲らせるどの感触に、桜井は小さな声で呻いていた。
男性経験は豊富な桜井だったが、こんな魅力的な蕾は初めてだった。
宇宙の内部は、まるでイソギンチャクのような感触だった。
こういうものを、世に言う『名器』というのだろう。
桜井は、すぐにでもこのまま自身を挿入させてしまいたい欲望と衝動を抑えながら、もっと深く指を挿入させた。
「あぁぁ・・・んっ・・・・・」
初めてであるにもかかわらず、宇宙の蕾はまるでスッポンのように指をのみ込んでいく。
生まれ持った素質なのか、それとも男を狂わせる身体を持っているせいなのか、宇宙は最初から感じていた。
勢いでヌルンッと、中指が根元まで入ってしまう。
「あぁぁぁ・・・・・・」
色っぽい声を上げながら、宇宙はマットの上で腰を揺らした。
泡だらけの白い裸体は、マットの上で滑っている。
桜井は淫らにくねっている腰を片手で押さえながら、根元まで挿入した指先で、柔らかな内部を探っていた。
宇宙の蕾の内部は、思っていた以上に深かった。
指先が最奥の部分に届いていない。
それに、入り口は痛いほどきつかったが、内部はとろとろに蕩けてしまっているせいか、少し余裕があるように思えた。
指をもう一本増やしてみよう。
桜井はそう思い、ゆっくりと中指を引き抜いた。
「あんっ・・・だめぇぇ・・・・・」
指を挿入されていたことがよほど気持ちよかったのか、引き抜かれたとたん、いじけるような声を上げた宇宙は、恨めしそうに桜井を見上げた。
そんな宇宙を見て、桜井が心底可愛いと思ってしまう。
こんな感情は決して一般人に抱いてはいけないのに、宇宙だけは特別だった。
宇宙と初めて出会ったときから、桜井は運命の出会いだと直感していたのだ。
桜井は、自分の立場を十分にわきまえている。
このスペシャルマッサージを覚えさせられたのも、ある人物を喜ばせるための手段だった。
その人物に気に入られ、一般人が知らない裏の社会では桜井を知らない者はいなかった。
だからさっきのチンピラたちも、桜井の顔を見ただけで震え上がり、宇宙という最高のご馳走を目の前にしても血相を変えて逃げていったのだ。
だが今は、そんなことを宇宙に告げる気にはならなかった。
一人の男として、宇宙を愛していた。
自分から望んで、ウルトラスペシャルマッサージをしてあげたいと思ったのは、宇宙が初めてだった。
宇宙の喘ぐ姿だったら、何時間でも見ていたい。
宇宙が喜ぶことだったら、どんなことでもしてあげたい。
宇宙に愛されるためだったら、掟を破ってしまってもいい。
そのために、たとえ自分の身に危険がせまっても悔いはないと思った。
「力を抜いて・・・。今度は二本に増やしますよ」
桜井はそう言って、宇宙の唇にキスをした。
キスをされた宇宙は、潤んだ瞳で桜井を見つめて頷いた。
「あっ・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・・」
二本に増やされた指が、入り口をこじ開けてイソギンチャクのような蕾へと入っていく。
宇宙は生まれて初めて味わう、蕾が蕩けてなくなってしまうような感覚に、思わず首を振っていた。
乳首への愛撫や分身への愛撫とは、まるで違う。
もっと濃厚で濃密で、奥深い快感が蕾から全身を駆け巡っている。
特に蕾は、二本の指を初めて受け入れているにもかかわらず、苦痛などいっさい感じなかった。
感じているのは、快感だけ。
自分が自分でなくなってしまうような、思わず身震いするような快感だけが、宇宙の全身を支配していた。