東京スペシャルナイト 上 39【最終回】

「・・・お、お願い・・・遼一に・・・ひどいことしないで・・・」

 

ポロポロッと大粒の涙を流しながら、宇宙が恭也に訴えた。

 

恭也は頬を流れる涙をじっと見つめたまま、顎を掴んでいた。

 

「お前・・・。遼一のことより、自分の心配をしたほうがいいんじゃないのか?」

 

頬を流れる涙を、恭也が舌でペロリと舐め上げる。

 

「うっ・・・くぅ・・・」

 

 

恭也なんかに舐められたくないと、顔を背けようとする。

 

だが、どうしても恭也の手から逃れられなかった。

 

自分がこんなにも非力だったなんて。

 

遼一を守ってあげるどころか、自分の身すら守れないなんて。

 

悔しくて口惜しくて悲しくて、泣けてくる。

 

このままじゃだめ。

 

なんとかしなきゃ。

 

遼一が、亨って人のところに連れていかれちゃうっ!

 

宇宙はそう思うと、自由になる足で思いきり恭也の臑を蹴り上げた。

 

「ぅ・・・」

 

その蹴りは見事にヒットして、恭也の顔が苦痛に歪む。

 

その一瞬の隙に、宇宙は恭也の手から逃れて血を流して床に押さえられている遼一に覆いかぶさった。

 

「遼一?遼一?大丈夫?」

 

「宇宙、逃げろっ。このまま逃げるんだっ」

 

瞼の上を切り鮮血を流している遼一が、チンピラたちを渾身の力ではねのけながら叫ぶ。

 

宇宙は、首を振って嫌だと言う。

 

だが遼一はチンピラたちを殴り倒し、蹴り飛ばしながら宇宙をドアに突き飛ばした。

 

「逃げろっ!私は殺されないっ。痛めつけられても殺されることはないんだ。だがお前は・・・」

 

そう言った遼一の背中に一人掛け用のソファが飛んでくる。

 

バキッとものすごい音がして、ホテルに設置してあるソファが壊れた。

 

その勢いで、遼一の身体が床に倒れる。

 

「り、遼一っ!」

 

宇宙は、遼一のそばに駆け寄ろうとした。

 

だが遼一はキッと顔を上げ、口端から血を流しながら宇宙に言い放った。

 

「逃げろっ!」

 

「でも・・・」

 

「私に構うなっ!逃げろっ」

 

そう叫んだ遼一の身体をチンピラたちがガツガツと蹴っていく。

 

見る見るうちに遼一が着ていた白いバスローブは、血で汚れていった。

 

恭也は、無言のまま二人の様子を見ていた。

 

すっかり変貌した桜井遼一。

 

そして遼一を短時間のうちにここまで変えてしまった宇宙という男。

 

恭也は、ドアの前で立ったまま裸で震えている宇宙の前に来ると、煙草をスーツから取り出し、ライターで火を点けた。

 

やはりあのとき、殺しておくべきだったのかもしれない。

 

恭也は、遼一が亨の父親に金で買われた夜のことを思い出しながら心の中でそう思った。

 

眠っていた遼一の、修羅の心が目覚めたのだ。

 

やはりあのとき・・・・・・。

 

フーッと深く吸い込んだ恭也が、宇宙の顔に向かって煙を吐く。

 

宇宙はもう、逃げることもそこから動くこともできなくなっていた。

 

チンピラたちのリンチに遭っている遼一。

 

このままじゃ、本当に死んじゃうっ!

 

「お前は俺と来いっ」

 

煙草を吸っている恭也が、遼一には見向きもしないで宇宙の腕を掴む。

 

宇宙は、嫌だと首を振る。

 

それが今の宇宙にできる精いっぱいの抵抗だった。

 

脚が震えてしまって、ガクガクといっている。

 

恭也の目の前で、今にも崩れてしまいそうなのを必死にこらえていた。

 

「遼一が・・・遼一が・・・」

 

恭也がドアを開け、宇宙を連れ出そうとする。

 

その間も、チンピラたちは床に倒れている遼一の身体を殴ったり蹴ったりしている。

 

「遼一っ!」

 

と、ドアから出た宇宙が懸命に叫ぶ。

 

するとその声に反応した遼一が、ゆらりと立ち上がった。

 

もう気絶してもおかしくないのに、遼一の全身からは凄まじい覇気がゆらゆらとのぼっていた。

 

それを見ていたチンピラたちの背筋が、ゾクッと震える。

 

「こいつ・・・おかしいんじゃねーのか?」

 

この状況でなぜ立てるのか、チンピラたちには分からなかった。

 

宇宙の泣き叫ぶ声が遼一のぎりぎりの精神力を支えていることなど、考えもしなかった。

 

「・・・・・逃げろ・・・」

 

「遼一っ!」

 

「てめーっ、桜井っ!」

 

まさか遼一が立って追いかけてくるとは思っていなかった恭也が、バタンと床に倒れる。

 

その上に覆いかぶさった遼一は、腫れた顔で宇宙を見た。

 

「逃げろ・・・。とにかく・・・今は・・・逃げるんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

宇宙はもう迷わなかった。

 

今は逃げるしかないと思った。

 

遼一を見捨てるとかそんなことじゃなくて、今は逃げて自由になることのほうが肝心なんだと悟ったのだ。

 

そしてそれは、遼一が身を挺して教えてくれたことだった。

 

「遼一っ・・・きっと助けに来るから・・・。絶対助けに来るから、待ってて・・・。待っててっ」

 

そう言って宇宙が裸のままホテルの細い廊下を走っていく。

 

そのとき、後ろのほうで聞きなれない機械音がした。

 

テレビの刑事ものでもよく聞く、拳銃の音に似ていた。

 

まさか・・・と、宇宙が恐る恐る廊下の端で振り返る。

 

だがそこで宇宙が目にした光景は、とても信じられないものだった。

 

拳銃を握っている恭也。

 

そして、その先で胸から大量の血を流して壁に寄りかかっている遼一の姿。

 

ぐったりして、全然動かない遼一。

 

白いバスローブが真っ赤に染まっていく。

 

「い、いやだぁぁーーーーーーー!」

 

宇宙が泣き叫ぶ。

 

『逃げろ、宇宙』

 

最後に遼一が叫んだ言葉が、宇宙の頭の中で何度も繰り返される。

 

遼一を助けなきゃ。

 

ううん、逃げなきゃ。

 

でも、でも、脚が動かない。

 

ホテルの外は、どしゃぶりの雨だった。

 

拳銃の音を聞いた他の客たちが、何事かと部屋から出てくる。

 

遼一・・・・・。

 

唖然とした顔で壁に寄りかかっている遼一の姿を見ていた宇宙は、逃げ惑う客の波に押されるようにホテルの外に出た。

 

どしゃぶりの雨の中、裸の宇宙はすぐに細くて暗い路地に入る。

 

その先は、ホームレスが集まっている場所だった。

 

「お前、裸じゃねーか?どーしたんだ?」

 

真っ青な顔をして震えている宇宙を見た中年の男性が、自分の着ていたボロボロの上着を宇宙の肩に羽織らせながら言う。

 

宇宙は言葉を忘れてしまったように、ただ呆然とその場に立ちすくんでいた。

 

これは普通じゃないと察した男が、ダンボールで作った小さな我が家に宇宙を連れていく。

 

「何か事情があるんだな?」

 

男が宇宙にボロい衣服をあてがいながら、事情を聞く。

 

だが宇宙は、今見たことが頭にこびりついて何もしゃべれなかった。

 

ただ黙って、しゃがみこんだままだった。

 

髭面の男は、もう何も言わなかった。

 

震えが止まらない宇宙は、遼一の最後の言葉を何度も頭の中で繰り返していた。

 

『今は逃げるんだ』

 

拳銃に撃たれた遼一の姿が、目にこびりついて離れない。

 

外は、まるで遼一の鮮血を洗い流すような雨が降っていた。

 

宇宙はどうすることもできず、ただ震えていた。

 

 

To be continued.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 38

恭也は、らしくなくクラリとするような目眩を覚えた。

 

宇宙の身体から発せられている独特な匂いやクチャクチャという音に思考を侵されていた。

 

仕事がら、AVの撮影現場を行き来している。

 

言うことを聞かない人間を屈服させるために、無理やり犯したこともある。

 

女も男も、何十人と抱いてきた。

 

その恭也が、一瞬でもクラリと目眩を感じてしまったのだ。

 

それは、恭也自身も信じられないくらいの驚きだった。

 

まさか、こんな小僧に・・・?

 

恭也が心の中で自身に問いかける。

 

そして恭也の分身が、いつの間にかスラックスの中で頭を擡げている事実に気づいた。

 

恭也は、慌てて煙草を口に銜えた。

 

だがいつもはすぐに火をつけるはずのチンピラたちは、宇宙と遼一の激しく淫らなセックスシーンに釘付けになってしまっていて、誰も気づかない。

 

恭也はそのことに怒りを覚えると、近くに立っている男の腹に思いきり蹴りを入れた。

 

「ぐはっ・・・」

 

腹を蹴られたチンピラが、身体を曲げて床に転がる。

 

「おい、火だっ」

 

恭也の叫び声に我に返ったチンピラたちは、急いで火の点いたライターを差し出した。

 

ようやく煙草に火を点け一服し、落ち着きを取り戻した恭也は、その煙草の火を遼一の右肩に押しつけ、火をもみ消した。

 

「あうっ!」

 

ジュッと肉が焼ける音がして、遼一が大きく呻く。

 

遼一の身体が一瞬大きく震える。

 

その様子と声に驚いた宇宙は、慌てて遼一の下から這い出した。

 

そして煙草の火を押しつけられているのを目の当たりのし、慌てて恭也の手を払いのける。

 

火が消えた煙草が、ポトッと床に落ちる。

 

「やめてっ!なんてひどいことを・・・」

 

宇宙の煙草を払った怒りの手が、そのまま恭也に掴みかかろうとする。

 

「やめるんだ、宇宙」

 

その手を止めたのは、遼一だった。

 

遼一は火傷の苦痛をこらえ、顔を歪めている。

 

「遼一・・・?」

 

「このくらい、どうってことない。平気だ」

 

そう言って、宇宙を庇うようにベッドから下りる。

 

遼一は全裸の身体を隠そうともせずに、恭也の前で仁王立ちになった。

 

そして恭也を両目を細めるようにして睨みつけ、言い放つ。

 

「私は変わったんだ、恭也。もう煙草の火で脅すくらいでは、いいなりにはならない」

 

火傷をしている部分から血を流し、遼一がものすごい形相でまわりのチンピラたちを威圧する。

 

その顔に一瞬ビビッたチンピラたちは、思わず足を後退させた。

 

「・・・ どうやら以前の桜井遼一ではないようだ。眠っていた本性が宇宙のせいで目覚めたということか」

 

恭也は、ふふっと笑いながらどこか楽しげに言う。

 

その不気味な笑いに後押しをされるように、チンピラたちが一斉に遼一を取り押さえた。

 

遼一は抵抗するでもなく、おとなしくチンピラたちに取り押さえられる。

 

「抵抗しないのか?生まれ変わったんだろう?宇宙の前で、少しはいいところを見せてやったらどうだ?」

 

以外にもおとなしく束縛された遼一に不審を抱きながら、恭也が眉間に皺を寄せる。

 

「遼一っ!」

 

宇宙は、チンピラたちに殴られ蹴られている遼一に飛びついて自分が盾になろうとした。

 

だが恭也が、そんな宇宙を簡単に捕らえてしまう。

 

「おっと・・・。お前は俺と一緒に来てもらう。亨様から・・・煮て食おうと焼いて食おうと好きにしてもいいというお許しをいただいている」

 

「なんだと!?」

 

恭也の言葉に驚いた遼一が、急に暴れ出す。

 

チンピラたちは数発殴られながらも、なんとか遼一を床に押さえつけることに成功した。

 

だが、あのおとなしいただのマッサージ師だった遼一とはまったく違うことに、チンピラたちも驚きを隠せない様子だった。

 

「こいつ・・・。なめた真似しやがって・・・」

 

「亨様の許しがなきゃ、金属バットで殴り殺してるところだぜ」

 

「亨様はまだお前に未練があるらしい。おとなしく観念して俺たちと一緒に来るんだな」

 

派手なスーツに身を包んでいるチンピラの一人が、そう言って遼一を立たせる。

 

一人は、裸の遼一に無理やりバスローブを着せた。

 

よほど顔を殴られたのか、遼一の男らしく整っている顔に無数の傷がついている。

 

それを見た恭也は、チッと舌打ちをした。

 

「顔は傷つけるなと言っただろう!馬鹿野郎がっ!」

 

恭也は目を吊り上げ怒鳴り散らす。

 

チンピラたちは一瞬、子犬のように脅えてペコペコと頭を下げて謝った。

 

「申し訳ありません。ですがこいつが暴れるもんですから・・・」

 

と言っているそばから、遼一が恭也に捕らえられている宇宙に近づこうとする。

 

だが一人のチンピラの足が僚一の腹部に入り『げほっ』という声とともに、床に屈する。

 

ボタボタッと口から血が出て、床に落ちていく。

 

「遼一っ!」

 

その血に驚いた宇宙が、遼一に飛びつこうとする。

 

だが恭也は、宇宙の手をきつく掴んだまま離そうとしなかった。

 

それどころか、顎を強く掴まれグイッと上を向かせられてしまう。

 

「お前もいい子にしていないと、こういう目に遭うんだぞ?ん?」

 

優しい声だったが、背筋が凍りつくような冷酷さが滲んでいた。

 

抵抗しようにも、後ろで一つにされた手が痛い。

 

掴まれている顎が自由にならない。

 

このままでは、遼一が殺されちゃうっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 37

「おっと・・・。お取り込み中だったかな?」

 

二人がこうなっていることを十分に承知した上で、とぼけた口調で恭也が言う。

 

恭也は着替えてきたのか、黒い縦縞のスーツに黒いシャツを着ていた。

 

手には、火を点けたばかりの煙草があった。

 

ドアの外で、部屋に入るタイミングを図っていたのだと遼一は思った。

 

そしてグッドタイミングで現れたというわけだ。

 

遼一は、腕の中に宇宙を抱きしめたまま、ベッドの脇に立っている恭也を睨みつけた。

 

腕の中の宇宙は、まだ絶頂感の余韻に浸っていて、部屋にチンピラたちが乱入してきたことに気づいていない。

 

「恭也・・・」

 

遼一は、宇宙の中から自身を引き抜きながら、長年の恨みを込めて呟いた。

 

亨の手足となって、この十年間というものずっと遼一を見張ってきた恭也。

 

恭也がいなかったら、遼一はとっくに亨から逃げられていたのだ。

 

頭が切れて冷酷非道な恭也の存在が、遼一を亨のもとに十年間も縛りつけていた。

 

「その目・・・。とうとう、己に目覚めたって感じの目だな?」

 

煙草を吸っていた恭也が、吐き捨てるように言う。

 

するとこのときになってやっと部屋の中に人相の悪いチンピラたちがいることに気づいた宇宙は、びっくり仰天して遼一の腕にしがみついた。

 

その様子を余裕の態度で見ていた恭也が、くくっと笑う。

 

「悪かったな。せっかく、桜井に抱いてもらえたのに邪魔をして。だが、亨様の目を盗んで桜井に抱かれた罪は重いぞ。分かっているのか、小僧?」

 

小僧呼ばわりされた宇宙は、一瞬恭也の冷酷な眼差しに背筋を震わせる。

 

だが、いつまでも遼一の腕の中で震えているわけにはいかなかった。

 

こうなることを承知して、遼一と愛し合ったのだ。

 

遼一を受け入れたのだ。

 

逃げも隠れもしない。

 

「・・・分かってる。あなたがどういう人か、あなたに命令を下している亨って人のことも全部分かってる。だけど、それでも僕は遼一を諦めることができなかった。遼一を・・・亨って人から解放してやるって心に決めたんだ」

 

そう言った宇宙の薄茶色の瞳は、驚くほど澄んでいた。

 

虚勢を張るでもなく、恐怖を感じるでもなく、相手を威圧するでもなく、ただ綺麗に澄んだ瞳でじっと恭也を睨みつけて宇宙は言った。

 

その態度と瞳に、恭也が一瞬圧倒される。

 

こんな小僧に・・・と思った恭也だったが、こんなに潔く覚悟を決めた人間を目の当たりにするのは生まれて初めてだった。

 

誰でもどんな権力のある人間でも、最後は自分の命欲しさに我を忘れて泣き叫び、許しを請うものなのに。

 

これだけの人数に取り囲まれたら、どんなに虚勢を張った男でも震え上がり逃げ出すことだけを考えるのに。

 

桜井の腕の中にいる宇宙は、恭也が知っている人間とはまるで違っていた。

 

顔は女のように見目麗しいし、身体だって細い。

 

どこにも自分たちに対抗できる根拠など見当たらない。

 

それなのに、正々堂々としていて清々しくそして潔いのはなぜなのだろうか。

 

しばらく呆然としていた恭也は、燃える煙草の熱さに気づいて、はっとして煙草を床に捨てた。

 

そして靴底で、そんな宇宙の心意気を踏みにじるかのようにもみ消す。

 

「いい覚悟だ。その覚悟に免じて・・・最後までイカせてやるよ。お前は十分に満足したようだが桜井はまだだろう?それとも、俺たちが見ている前では勃つモノも勃たねーか?」

 

ニヤッと笑って、恭也が言う。

 

その言葉に、ベッドのまわりをうろついていたチンピラたちの間から、一斉に下品な笑い声が上がった。

 

「俺たちの見ている前で、あんあんって言ってみろよ」

 

「ここで見物してやるぜ。お前が感じて尻を振る姿をよ」

 

チンピラたちが、口々に野次をとばす。

 

最初、恭也の言葉に驚きを隠せなかった宇宙と遼一だったが、抱き合ったまま見つめ合うと、少しも臆することなく唇を重ねた。

 

そしてそのまま激しいディープキスを続けていく。

 

「おい・・・?本気でやる気だぜ?」

 

「まさか・・・?この状況でできるわけねー」

 

面白おかしく囃し立てていたチンピラたちの声が、いつの間にかやんでしまう。

 

宇宙の蕾に、遼一のいきり立っている分身が再び挿入されたからであった。

 

「あっ・・・あぁ・・・・・・・」

 

宇宙の真っ赤に色づいた唇から、妖艶な喘ぎ声が上がる。

 

ズンズンッと、遼一の腰が宇宙の股間に当たる音がする。

 

「あぁ・・・遼一・・・いい。もっと・・・・・・・」

 

このとき宇宙は、本気で喘いでいた。

 

もうこのまま二度と、遼一に抱いてもらえなくなってしまうかもしれない。

 

もう二度と・・・・・・・。

 

そう思うとまわりのチンピラたちの存在などまったく気にならなかった。

 

さっきまでの続きを楽しむように、自ら腰を上下に振り、遼一自身を締めつける。

 

遼一も、そんな宇宙に誘われるままに腰を激しく揺らしていた。

 

さっき中断された行為を、もっと高みまで押し上げていく。

 

「あぁぁーーーーーーーー。遼ちゃん・・・すごい・・・」

 

こうなると、もう恭也の存在など無に等しかった。

 

「宇宙・・・」

 

「遼ちゃーん・・・いいっ。すごくよくて・・・あぁぁーーーーーーーっ」

 

また、イッてしまいそうな喘ぎ声を上げて宇宙がベッドでのけ反る。

 

髪を振り乱して妖艶に喘ぐ宇宙の姿を見ていたチンピラたちの間から、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。

 

恭也も、最初は嘲るようにして見ていたが、今では瞬きもできないくらい宇宙の淫らさに釘付けになっていた。

 

上下に開く濡れた真っ赤な唇。

 

ギュッと握り締められた白いシーツ。

 

甘ったるくて聞いている者の理性を失わせるような喘ぎ声。

 

そして、桜井の下で腰を震わせ、快楽のすべてをのみ込んでいる、美しくも淫らな肢体。

 

「あぁぁーーーーーーーっ・・・、イッちゃう!」

 

そう叫んだ宇宙の足の指が、ピクピクッと震えている。

 

上気した肌にくっきりと残っている朱色のキスマークが、脳裏に焼きつく。

 

「私も・・・イク・・・」

 

遼一は、宇宙の中を深々と貫きながら、絶頂の証を放った。

 

それをのみ込み受け入れている宇宙の蕾が、ビクビクッと痙攣を起こしているのが見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 36

「あぁ・・・」

 

もっと深く、遼一自身が入ってくる。

 

ウルトラスペシャルマッサージの指の感触とは、全然違う圧迫感が宇宙の五感を刺激する。

 

「あぁぁぁ・・・あっ・・・」

 

だが不思議と、あんなに太くて硬いモノが入っているというのに、苦痛は感じなかった。

 

蕾の入り口が少し、引き攣るような感じがするだけだった。

 

「り・・・遼一・・・もう・・・・・」

 

まだ半分しか入っていないのに、宇宙がもうだめだと訴える。

 

遼一は、自身をのみ込んでいる蕾の様子を見るために視線を落とした。

 

蕾の襞は、目いっぱい開いていた。

 

濃い朱色になって、巨大な遼一自身を受け止めている。

 

遼一は、再び宇宙の顔に視線を戻すと、右手で宇宙の分身をやんわりと掴んだ。

 

「大丈夫・・・。まだ・・・こうすれば入るから」

 

「だ、だめぇぇ・・・あぁぁ・・・・・」

 

遼一の右手が腹の間で器用に動き、先走りを滴らせている分身を可愛がっていく。

 

すると、目いっぱいだった蕾に変化が現れた。

 

「あんっ・・・あんっ・・・遼一・・・」

 

遼一の指が宇宙の自身を絡めて愛撫すればするほど、蕾が和らぎ緩みが生まれていく。

 

その緩みに乗じて、遼一はもっと深く自身を挿入していく。

 

「あっ・・・あっ・・・あぁぁ・・・っ」

 

宇宙はもう、喘ぎ声しか上げられなかった。

 

もういっぱいいっぱいだと思った部分に、まだ遼一自身が入ってくる。

 

そしてそれは根元まで収まり、ようやく腰の動きが止まった。

 

「あぁぁぁーん・・・。遼一・・・僕の中が・・・壊れちゃう・・・」

 

巨根を根元までのみ込んだ宇宙の口から思わず出た言葉だった。

 

もう、本当に目いっぱいで、内部には寸分の隙間もなかった。

 

「う、動いちゃ・・・いやっ・・・」

 

首を激しく振って、宇宙が喘ぐ。

 

だが遼一はその言葉に反するように、一度唇を激しく塞いだ。

 

宇宙の中に芽生えた抵抗心を根こそぎ吸い取ってしまうかのような激しいディープキス。

 

「んっ・・・んっ・・・はぁ・・・・」

 

口端からまた、飲み込めない唾液が滴り落ちていく。

 

「いい子だから、おとなしくしていなさい」

 

遼一は、長いディープキスから宇宙を解き放つと、そう言って腰を引いた。

 

ズルッ・・・という感触とともに、巨根が宇宙の中で動き出す。

 

「あっ・・・はぁぁ・・・・・・・」

 

腰が自然と、浮いてしまう。

 

遼一の腰がどんどん離れていく。

 

「あっ・・・あっ・・・」

 

遼一の巨根も、ズルッと蕾から引き抜かれていく。

 

もう隙間もないし、このままじゃまったく動けないと思ったのは間違いで、遼一が動こうと思えば分身は狭い蕾の中で動くことができた。

 

それは、遼一の分身の先端から出ていた先走りも、動く手助けをしていたが、宇宙の蕾の内部が自然と潤っていたからだ。

 

宇宙は自分でも気づかなかったが、スペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージのおかげで快感に柔順で、すぐに新しい快楽に順応できる身体になっていたのだ。

 

それが証拠に、遼一がほんの少し動いただけなのに、宇宙の奥のほうからじんわりと熱く濡れてきたのだ。

 

まるで名器を所有する、女性のような蕾を宇宙は持っていた。

 

「宇宙・・・。お前って子は・・・」

 

そのことに驚いたのは遼一だった。

 

「あっ・・・あん・・・遼一・・・あっ・・・」

 

抱かれる側である女性でもこんなに早く順応できないし、快感として受け止められないのに。

 

宇宙はもう、肉棒の抜き差しという行為を今までに味わったことのない快感として受け止めていた。

 

「あぁぁ・・・僕の・・・ 中が・・・あぁぁっ・・・」

 

遼一がゆっくり腰を揺らすと、クチュグチャッと淫らな音が聞こえてくる。

 

「あんっ・・・遼一っ・・・いやいや・・・」

 

指で弄っていた宇宙の分身は、いつの間にか絶頂の証を腹の上に放っていた。

 

遼一は、淫らで可愛いピクピク痙攣しているその分身を、お仕置きするかのように爪の先で引っ掻く。

 

「あぁぁ・・・っ!」

 

すると宇宙の腰がビクンッと跳ね上がり、自分から遼一の分身を根元までのみ込んでいく。

 

自然と濡れ始めている淫らな蕾の中はヌルヌル感が増してきて、もう余裕がないなんて言ってられなかった。

 

遼一の分身が、蕾の中で自由に動き回っている。

 

「りょ・・・遼一・・・だめっ・・・。そんな動いちゃ・・・ 動いちゃ・・・あぁぁ・・・・」

 

遼一の腰が、これ以上動かないように両脚で腰を挟んでしまう。

 

だがそんなことをしてもスムーズに動き出した遼一の腰を妨げることはできなかった。

 

宇宙が初めてなのに苦痛をまったく感じていないとわかると、ズンズンッと肉棒が蕾を犯していく。

 

「あっ・・・あんっ・・・動いちゃ・・・いやぁぁーーーーーーっ」

 

「いやと言われると、もっとしたくなる」

 

遼一が、宇宙の耳たぶをきつく噛みながら意地悪を呟く。

 

今までこんな言い方、しなかったのに。

 

今までの遼一ってもしかして、仮面かぶってたの!?

 

「遼一って・・・本当は意地悪だったの・・・?」

 

と、思わず聞いてしまう。

 

すると遼一は可愛いその質問に、クスッと笑ってから答えた。

 

「どうだろう?でももしそうだとしても、私をそう変えてしまったのは宇宙だよ。宇宙の犠牲的な愛情が私を変えたんだと思うよ」

 

「あっ・・・意地悪だけじゃない。なんか・・・命令口調で・・・支配的で・・・」

 

「そういうのは、嫌い?」

 

と、遼一がまた耳たぶを噛む。

 

「あんっ」

 

その刺激に、堪らず宇宙は大きく喘いだ。

 

さっきから腰も動いたままだし、もうこのままイッちゃいそうなのに耳を噛むなんて。

 

そのうえ、遼一の性格まで支配的に変わっちゃって。

 

もう、心も身体も蕩けちゃいそう。

 

ステキすぎる。

 

もうステキすぎちゃって、ああーん、どうしよう。

 

宇宙は、今までの優しく穏やかなだけの遼一も大好きだったが、今の王様のように自分に命令したり意地悪したりする遼一に何倍も魅力を感じた。

 

今までにない魅力を感じて、メロメロになっちゃいそうだった。

 

心がメロメロになってしまうと、身体ももっと感じてしまう。

 

「あっ・・・遼一っ・・・すごいっ・・・」

 

遼一の分身が、宇宙の内部でもっと強靭になっていく。

 

それが敏感に、宇宙に伝わっていた。

 

「あん・・・もうイッちゃう・・・・・ 」

 

と、宇宙が叫ぶ。

 

だが意地悪な性格に変身した遼一は、素直に宇宙を絶頂への世界へと導いてはやらなかった。

 

途中で腰の上下の動きを止めてしまう。

 

「あっ!あんっ・・・いやっ・・・遼一っ・・・」

 

「私は意地悪だから、ねっ」

 

「あ・・・あんっ。遼一ごめんなさい。もう意地悪だなんて言わないから・・・ 」

 

半分泣きながら、宇宙が縋りつく。

 

だがすっかり心も身体も強靭に生まれ変わった遼一は、そんな宇宙を簡単には許してやらなかった。

 

時間がないこんなときだからこそ、一時でも長く宇宙と繋がっていたい。

 

宇宙を感じていたい。

 

そして宇宙に、快感を与えてあげたい。

 

そんな思いも遼一にはあった。

 

いつ、亨の命令を受けた恭也やチンピラたちが乗り込んでくるか分からないのだ。

 

そして捕らえられ、何をされるか分からない。

 

先が見えないからこそ、遼一は今の時間を大切にしたかった。

 

本当に、宇宙が言ったとおり、このまま一緒に死んでもいいと思えるくらい、遼一は宇宙が愛しかった。

 

宇宙の何もかもが愛しかった。

 

涙や喘ぎ声や甘えるような仕草の一つまでも、愛しくてたまらない。

 

だからこそ、遼一は宇宙を守ってあげたいと初めて思った。

 

もう、流されるだけの自分ではない。

 

もう亨のいいなりになっている自分ではないのだ。

 

宇宙と巡り合い、愛し愛される喜びを知った遼一は、強靭な肉体と精神を持って生まれ変わっていた。

 

一度は宇宙のためにこの愛を諦めようと思い、亨の影に脅え、何もできなかった自分。

 

だがそれは間違いだと気づいた。

 

それは本当の自分ではないのだ。

 

飼い馴らされている今の自分は、本当の自分の姿じゃない。

 

そのことに気づかせてくれたのは、宇宙の一途な想いだった。

 

「遼一、遼一・・・。うえーんっ・・・もう意地悪なんて言わないから。ねぇ・・・お願い・・・イカせてぇぇ・・・」

 

宇宙は、焦れて暴れて遼一の下で泣いている。

 

もう、この後の二人の運命がどうなるかなんてことは宇宙の頭の中にはなかった。

 

今の宇宙は、愛する遼一が与えてくれる快楽に身を任せ、そして感じまくっているだけであった。

 

泣いている姿が、可愛くてたまらない。

 

「あーんっ、うぇーん・・・遼一・・・このままじゃ・・・死んじゃうぅ・・・」

 

甘える姿が、愛しくてたまらない。

 

「遼一・・・もう・・・なんでもするから、遼一の言うことなら何でも聞くから。お願いぃぃ・・・・・」

 

焦れて、自分から腰を揺する姿がいじらしくてたまらない。

 

そして、絶頂感を迎えたいと泣いて縋りつく宇宙が、好きで好きでたまらない。

 

「しょうがないな。そんなに言うんだったら、イカせてあげようか?」

 

自分の中の何かが変わったことに気づきながら、遼一は腰を揺らし始める。

 

「あっ・・・あんっ・・・遼ちゃん・・・いいっ・・・。遼ちゃん・・・お願いだからそのままにしてぇ・・・・・」

 

わけが分からなくなっているのか、限界なのか、遼ちゃんと舌ったらずな口調で言っては泣きじゃくる。

 

「遼ちゃーん・・・僕もう・・・あぁぁぁ・・・・・・・」

 

ひときわ色っぽい喘ぎ声を上げながら、宇宙が泣く。

 

目をキュッと瞑ったその顔が可愛くて、淫らで、遼一自身もたまらなくなった。

 

このままイカせてあげようか。

 

それとももっと焦らせてやろうか。

 

そんな考えが遼一の頭の中に浮かんでは消える。

 

遼一自身ももう限界だったが、宇宙のあまりの可愛らしさに迷っていた。

 

その一瞬の迷いが、後で遼一を後悔させることになる。

 

「遼ちゃーん・・・あぁぁぁーーーーーーっ」

 

宇宙が、一足先に蕾で絶頂を迎える。

 

それはもう、遼一では止めるこのできない絶頂だった。

 

ピクピクッと脚の指を痙攣させ、途切れることのない喘ぎ声を上げながら気を失いそうな絶頂を味わっている宇宙は、もう息も絶え絶えだった。

 

「り・・・遼・・・遼一・・・・・・・」

 

意識を失いかけながら、遼一の名を呼ぶ。

 

遼一はそれに応えるように、自らも頂点に達しようと腰を揺らす。

 

そのときだった。

 

鍵をかけたはずの部屋のドアがいきなり開き、数人のチンピラたちがドカドカと入ってきた。

 

そのチンピラたちの中には、恭也の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 35

ベッドに宇宙の身体を押し倒した桜井は、無我夢中で宇宙の身体を愛撫した。

 

仰向けで寝ている宇宙の両脚を性急に割り開くと、そのまま顔を埋めていく。

 

「あっ・・・桜井さん・・・あぁ・・・・・」

 

桜井の舌と唇が、ピクッと震えている分身を再び激しく愛撫していく。

 

「あっ・・・あっ・・・あっ・・・・・」

 

遠慮のない、激しい桜井の愛撫。

 

宇宙の何もかもすべてを自分のものにするような狂おしい愛撫。

 

「あっ・・・あっ・・・だめぇ・・・あぁぁーーーーーーーっ」

 

宇宙は、そんな愛撫に追い上げられるようにして頂点へと達していた。

 

桜井の口中に、宇宙の体液が迸っているのが分かる。

 

「あっ・・・・・あっ・・・・・」

 

途切れ途切れの、宇宙の喘ぎ声。

 

その声に合わせるように、桜井が宇宙が放ったものを飲み干していく。

 

宇宙は絶頂期の余韻の中、ただ必死に首を左右に振っているしかなかった。

 

何も考えられない。

 

何もできない。

 

もう、もうーーーーーー。

 

あまりの気持ちよさに、気が遠くなっていくのが分かる。

 

宇宙は自分で意識が遠のくのを、唇を噛むようにしてくい止めた。

 

すると桜井がそれに気づき、そっと唇に指先で触れる。

 

「そんなにしたら、唇が切れてしまいますよ」

 

やんわりと包み込むような優しい声だった。

 

まだ快感の余韻の中をさまよっていた宇宙が、うっすらと目をあける。

 

そこには、優しく微笑む桜井の姿があった。

 

その姿があまりにも凛々しくて美しくて、そして男らしくて、宇宙は涙が出そうになってしまった。

 

今まで出会ったどんな男より、かっこいい。

 

優しさの中にも威厳や品というものがあって、決してヤクザまがいの男に囲われているようには見えない。

 

やっぱり、桜井さんは僕が助けてあげなくちゃいけない。

 

今のままじゃ、絶対にだめだ。

 

僕がなんとしても、桜井さんを今の囲われ者の立場から救ってやるっ。

 

宇宙は涙を流しながら、心の中でそう思った。

 

不思議と恐怖や戦慄といった感情はなかった。

 

あのチンピラたちと闘わなければいけないかもしれないというのに。

 

いいや、闘う前にやられちゃうかもしれないのに。

 

それなのに、今の宇宙にはいっさいの恐怖心はなかった。

 

それどころか、とても充実している。

 

なんだろう、この幸せは。

 

どうしてこんなときにこんなに幸せな気持ちになれるんだろう。

 

もしかしたら、明日仲よく死んじゃってるかもしれないのに。

 

「僕・・・・・今・・・・・このまま死んでもいいと思った」

 

宇宙は、桜井の首に腕を回して引き寄せるようにして耳元で囁いた。

 

その囁きが、ゾクリとするくらい色っぽくて可愛くて、桜井の心を鷲掴みにした。

 

首に回っている宇宙の腕が、愛していると伝えてくる。

 

見上げる熱い眼差しが、本気だと訴えている。

 

かすかに震える唇が、愛していると告げている。

 

桜井は、そんな宇宙の想いのすべてを受け止めるように、きつく身体を抱きしめた。

 

「桜井さん・・・」

 

「こんなときぐらい、遼一って呼んでほしいんですけど・・・」

 

少し間を置いてから、耳元で宇宙が囁く。

 

「だったら、遼一もこんなときぐらい他人行儀なしゃべり方はやめてよ。僕はもうお店の客じゃないんだから。遼一の恋人なんだから・・・」

 

と言って、宇宙が耳たぶを軽く噛む。

 

その感触がゾクリとするくらい感じてしまう。

 

耳を軽く噛まれただけなのに、身体が溶けてしまいそうなくらい感じてしまうなんて。

 

このまま一緒に、ここで死んでしまってもいいと思うなんて。

 

桜井にとって、それは初めての感情だった。

 

「もう、離さないよ。ずっと・・・ずっと一緒にいよう」

 

「・・・うん。ずっと一緒・・・」

 

宇宙の目尻から、涙が一筋、耳に零れおちた。

 

「この先、たとえどんな運命が 待ち受けていても・・・私たちはずっと一緒だよ」

 

ギュッと宇宙の身体を抱きしめたまま桜井が力強く言う。

 

宇宙は嬉しくて嬉しくて、また涙を流してしまった。

 

「・・・うん、ずっと一緒・・・。もう・・・ 離れないっ」

 

桜井は狂おしく求めてくる宇宙に、激しいディープキスを与えた。

 

「・・・んっ・・・はぁ・・・・・」

 

噎せるような、激しいキス。

 

唾液が混じり合い、口端から滴り落ちるような淫らなキス。

 

だが宇宙はそんなキスが嬉しくてたまらない。

 

口中で混じり合う桜井の唾液が、愛しくてたまらない。

 

口端から流れ落ちる、唾液の一滴までもが愛しかった。

 

「・・・遼一・・・このまま遼一に抱かれたい・・・」

 

宇宙はそう言うのがやっとだった。

 

後はもう、言葉にならない。

 

言葉にならないくらい、遼一がすき。

 

遼一を愛してる。

 

「宇宙・・・ そのまま足を開いて・・・じっとしてて・・・」

 

遼一が、宇宙の蕾に指を這わせ、そに感触を確かめながら言った。

 

宇宙は言われたとおり、両脚を左右に大きく広げたまま、蕾の中に浸入してくる指を感じていた。

 

「あんっ・・・遼一っ・・・」

 

指が一本、半分まで入る。

 

「あぁぁ・・・・・」

 

そして、少しずつ進んだ指が全部宇宙の中に入る。

 

温かい蕾の内部は少しだけ濡れ、そしてまわりの肉壁が柔らかくほぐれていた。

 

以前のウルトラスペシャルマッサージのおかげかもしれないと、遼一は内心思った。

 

もう、遼一の分身を受け入れる準備ができているのだ。

 

遼一は、中を指の腹で弄るように動かしながら、宇宙の感度を確かめた。

 

「あんっ・・・ 遼一っ・・・だめ・・・」

 

と、宇宙が甘い声を上げ、枕の上でのけ反る。

 

その様子を見ていた遼一は、もう十分だろうと思い指を引き抜いた。

 

ヌルンッとした感触が、閉じていた宇宙の目を開かせる。

 

「遼一・・・」

 

「大丈夫。今、あげるから・・・」

 

と、優しく言って遼一が宇宙の脚を高く揚げる。

 

そして剥き出しになった蕾に、大きくなった遼一自身の先端を押し当てる。

 

遼一の分身も、もうすっかり濡れてしまっていた。

 

このまま入れてもあまり痛みはないかもしれない。

 

遼一はそう思いながら、少しだけ腰に力を入れた。

 

「あぁぁーんっ」

 

亀頭の先の部分が、少しだけ蕾に入る。

 

ヌルンッとして大きく開かれるような感触だけが、宇宙を覆っていた。

 

苦痛を感じている様子はない。

 

遼一は注意深く腰を進めると、もう少しだけ分身を挿入してみた。

 

「あんっ!」

 

明らかに、さっきとは違う声の喘ぎ声が上がる。

 

その声には、もっと奥へと誘うような、もっと強く訴えるような色香が漂っていた。

 

「このまま奥まで入れるよ。いい?」

 

丁寧な言葉遣いをやめた遼一が、宇宙の項に舌を這わせながら聞く。

 

宇宙は、大きく反り返るように喘いだまま『うん』と小さい声で返事をした。

 

すると、遼一の逞しい分身が、今度は狭い内部を押し開くように入り込んでくる。

 

「あっ・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

もっと大きく宇宙がのけ反る。

 

「もっと、深く入れるよ?」

 

と、遼一が耳の下の首筋を舐めながら囁く。

 

宇宙は、今度は返事ができなかった。

 

亀頭の部分がすっぽり入ったその感触に、喘ぐのに精いっぱいだったのだ。

 

「あうっ・・・あっ・・・くぅぅ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 34

初めての桜井の口からの愛撫は、今までのスペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージとは、全然比べものにならないくらい気持ちよかった。

 

確かにウルトラスペシャルマッサージも、初めての快感で何度も絶頂を極めたが、この口中の感触はまた別格だった。

 

ねっとりとしていて温かくて、のみ込まれていく分身が思わずフニャンとなってしまうくらい気持ちいいっ。

 

窄めた唇が亀頭部分を何度も責める。

 

そにたびに、宇宙は今にも果ててしまいそうな喘ぎ声を上げて腰を揺らしていた。

 

「あんっ・・・あぁ・・・・・」

 

根元を、キュッと指先で押さえた指の加減もちょうどいい。

 

「あぁぁ・・・あっ・・・あっ・・・・・」

 

桜井の頭がゆっくりと上下に揺れるたびに、クチャクチャと淫らな音がする。

 

「あんっ・・・桜井さん・・・だめぇぇ・・・・・」

 

桜井の舌先が、先端の割れ目に入る。

 

性感帯を直接触れられたようなその感触に、思わず宇宙の下半身がベッドから跳ね上がる。

 

「ああーん・・・っ」

 

口中の宇宙自身も、ピクピクッと震えている。

 

桜井は、もっともっと時間をかけて宇宙の分身の味を楽しみたかった。

 

だが、そうもしていられない。

 

恭也があのまま引き下がるとはとても思えなかったのだ。

 

きっと、手下のチンピラたちがこのホテルに入ったことを恭也に伝えているはずだ。

 

すぐに手下たちが乗り込んでこないことを不思議に思った桜井だったが、恭也の本意をすぐに見抜いていた。

 

自分の策略を成功させるために、宇宙との既成事実をつくろうとしているのだ、恭也は。

 

桜井に取って代わるためには、桜井が宇宙と結ばれることが必要だと思ったのだろう。

 

桜井が宇宙を抱いたと知ったら、亨はきっと怒り狂うだろう。

 

自分の手持ちの駒が勝手に動き、宇宙を愛するという裏切りを見せつけたのだ。

 

以前逃げ出そうとしたときのような拷問を受けるくらいでは、済まないかもしれない。

 

だがそれでも、桜井は宇宙を愛することを選んだ。

 

そして宇宙も、すべてを打ち明けた桜井を受け入れてくれた。

 

それでも桜井を愛すると言ってくれた。

 

もう、迷うことはなかった。

 

「もっと時間があれば・・・もっと感じさせてあげられるんですけど・・・」

 

桜井は少し残念そうに言いながらペチャッと分身の頭を舐める。

 

「あんっ」

 

その舌先の感触が、もう頭の中がフニャフニャになってしまうくらい気持ちよかった。

 

分身を愛する桜井に愛撫されているというだけでもどうにかなってしまいそうなのに、先端から滲み出ている先走りまで飲み込んでくれている。

 

ゴクンッと喉が鳴るのだから、それが分かる。

 

もう宇宙は、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。

 

こんなことなら、ベッドで裸になる前にシャワーを浴びればよかった。

 

だって、汚いのに、あんなとこ。

 

こんなに舐められるなんて思ってなかったから・・・。

 

「だめぇ・・・桜井さん・・・そんなにしないで・・・だめぇぇ・・・」

 

宇宙は、チューチューと音を立てて先端を吸う桜井の髪を指に絡めながら訴えた。

 

こんな強烈な愛撫を続けられていたらすぐにでもイッてしまう。

 

だが桜井にしてみれば、なるべく早く宇宙の精液を飲み干して、次の段階に進みたかった。

 

すぐにチンピラたちが乗り込んで来ないと分かっていても、やはり恭也の動きが気がかりだったのだ。

 

少ない時間の中で宇宙と濃密な時間を過ごしたい。

 

この先、どうなってしまうか分からないのだから。

 

自分の運命がまた大きく変わってしまうかもしれないのだから。

 

そう考えたとき、桜井の愛撫の動きが止まった。

 

なぜ気づかなかったのだろうか。

 

今、宇宙を抱いてしまったら、宇宙も自分と同じ運命を辿ることになってしまうかもしれないのだ。

 

今、宇宙を抱いてしまったら、きっと亨は許さない。

 

桜井以上に、宇宙を許さないだろう。

 

拷問されたり、海外に売り飛ばされてしまうのは、宇宙のほうかもしれない。

 

どうしてそのことにもっと早く気づかなかったのかっ!

 

宇宙を愛するあまり、盲目になってしまっていた。

 

宇宙を、裏の世界に引きずり込んではいけない。

 

今ならまだ被害を最小限でくい止めることができるかもしれない。

 

桜井は、そう思うと慌てて身を引いた。

 

急に止まってしまった愛撫に、宇宙が不思議そうな顔をする。

 

「・・・やめましょう。やっぱり、宇宙を引きずり込むわけにはいきません」

 

桜井はそう言って、宇宙の分身から指を離した。

 

宇宙は、愛撫がやんでしまったということよりも、桜井の気持ちが急変してしまったことを気にしていた。

 

そして慌てて、離れていく桜井の上半身に縋りつく。

 

「だめっ・・・。桜井さん・・・だめ。言ったでしょう、僕は桜井さんと運命共同体だって。桜井さんの過去を一緒に受け入れるって」

 

「だけど・・・宇宙。それはそう簡単なことじゃないんです。宇宙が思っている以上に苛酷な運命が私達を待っているかもしれないんですよ。宇宙は、もう二度と教師には戻れないかもしれない。両親や友人たちとも会えなくなってしまうかもしれない。だめです。やはりそんな危険な目には遭わせられない。宇宙が愛おしいばかりに、私は一瞬盲目になっていました。このまま宇宙を抱いていたら、大変なことになっていた・・・」

 

桜井は、宇宙をベッドに残し、床に下りて呟くように言った。

 

だが宇宙は決して諦めなかった。

 

桜井の腕や背中に縋りつく。

 

「どうして?どうして急にそんなことを言うの?」

 

宇宙の薄茶色の瞳には涙が溢れていた。

 

その瞳を振り返るようにして見つめ、桜井が言う。

 

「私のために、宇宙の人生を変えてしまうことはできません。宇宙は、教師という職業を愛しているんでしょう?今の人生を楽しんでいるんでしょう?」

 

と、桜井に問われ、宇宙は改めて自分の人生を振り返った。

 

振り返ってもなお、桜井が愛しかった。

 

今の生活を失ってしまうかもしれない恐怖はある。

 

だけど、そんなことはいつ誰にだって起こることなんだと宇宙は思った。

 

突然の事故に遭って死んでしまうことだってあるじゃないか。

 

突然宝くじに当たって、大金持ちになることだってある。

 

人生は何があるか分からないのだ。

 

それに、たとえ桜井のせいで自分の人生が百八十度変わってしまっても、決して桜井を恨んだりしない。

 

決して後悔したりしない。

 

決して今ここで桜井に抱かれたことを悔やんだりしない。

 

それだけは確信が持てた。

 

宇宙は桜井の広い背中に後ろから抱きついて、涙ながらに語った。

 

「今さら、どうして僕を捨てるの?ここまでついて来たのに、どうして今さら放り出すの?そっちのほうがずっと酷でしょ。ずっとひどいよ・・・」

 

宇宙は泣きながら、桜井の心に訴えるように語りかけた。

 

桜井の心が、また揺れる。

 

「桜井さんのためだったら、僕・・・どうなってもいいって本気で思ってる。桜井さんの苦しみを一緒に背負いたいって、本当に思ってる。それだけじゃだめ?ねぇ、僕を抱く理由にはならない?」

 

泣きじゃくりながら宇宙が言う。

 

桜井の心が、大きく揺れた。

 

もうだめだと思った。

 

せっかく、心を鬼にしたのに。

 

心を鬼にして、自分の欲望を抑えようとしたのに。

 

今の宇宙の言葉ですべてが消されてしまったのだ。

 

「・・・本当に・・・いいんですか?」

 

桜井は、振り返って宇宙の顎を掴んだ。

 

顎は涙で濡れていた。

 

「だから、さっきからいいって言っているじゃないっ。僕は桜井さんを愛することに命をかけるって・・・さっきからずっと言ってるじゃない」

 

少し怒ったような口調で宇宙は言った。

 

たまらなくなった桜井は、宇宙をギューッと抱きしめる。

 

どんな犠牲を払ってでも宇宙が欲しい。

 

どんな悲惨な運命が待ち受けていたとしても、宇宙が欲しい。

 

今すぐに。

 

桜井はもう迷わなかった。

 

恭也の策略にのったとしても、それがなんだというのだ。

 

互いに求め合っている二人が一つになるのに、理由なんていらなかった。

 

「宇宙、愛してます。今まで私は他人に対してこんな気持ちを抱いたことはありません。本当に・・・ 愛してます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 33

桜井の話は、教師として地道な人生を歩んできた宇宙にとって驚くべきものであった。

 

だがすべての話を聞き終えても、宇宙の桜井を思う心は全く変わっていなかった。

 

「そんな裏の世界があるなんて、映画の中だけなのかと思ってた」

 

それが宇宙の最初の言葉だった。

 

自由になりたいという自分の心に鍵をかけ、ひたすら自分を押し殺し、亨という男性の 命令に従い、いいように利用されてきた桜井の十年を思うと、宇宙は涙が溢れてきた。

 

どんなにつらくせつなく、口惜しい十年だっただろう。

 

だが桜井の『宇宙に出会わなければ、おそらくずっと亨の玩具としての人生を過ごしていたと思います』と言った言葉を聞いて、宇宙は涙がポロポロと零れてしまうのをこらえることができなかった。

 

自分と同じように、桜井も運命を感じてくれていたんだと思った。

 

そのことが全身が震えるくらいに嬉しかった。

 

だが同時に、まだ見たことのない亨という男性に対しての恐怖心も募っていく。

 

桜井ほどの男を十年近くも自分の思い通りにし、縛りつけてきた男。

 

父親が大物政治家かなんだか知らないけど、裏の世界と繋がっているのか知らないけど、一人の人間の人生をメチャクチャにする権利なんてないんだ。

 

しかも桜井は悪いことをしたのではなく、ぼったくりの店にたまたま入ってしまっただけじゃないか。

 

姿が格好よくて、男にしては凛々しい顔立ちをしていたからといって、金の力で自由を奪い取ってしまうなんて。

 

そんなの政治家じゃないっ!

 

ふざけるなっ!

 

宇宙は、泣きながら腹の底から湧き上がる怒りをどうすることもできなかった。

 

「桜井さんが悪いわけじゃないのに・・・。どうして・・・どうして?ひどい・・・あまりにもひどすぎるっ。その大物政治家って人も、その亨って人も、どうかしてる。桜井さんの人生をなんだと思ってるんだ」

 

まるで自分のことのように、宇宙は怒りをあらわにして怒鳴り散らした。

 

だが桜井が、怒りで震えるその唇をそっと唇で覆ってしまう。

 

「桜井さん・・・?」

 

「私のために怒ってくれてありがとう。普通なら、こんな浮世離れした話を聞いたら恐れを抱いて逃げ出すのに・・・宇宙は強い人なんですね。見かけはこんなに可愛いのに」

 

と、桜井がまたキスをする。

 

宇宙は、今度はその唇が逃げてしまわないように、首に腕を回してきつく引き寄せた。

 

「・・・・・んっ・・・ぅっ・・・・・」

 

巧みなディープキスが宇宙の怒りを剥いでいく。

 

だが宇宙の心の中の怒りは静まっても、悲しみは癒えなかった。

 

桜井がこの十年という間、どれほどつらく悲しい思いを抱いてきたか。

 

桜井を人形のように扱ってきた男たちも憎い。

 

だが、その憎しみや怒りよりも桜井がずっと一人で背負ってきた心の痛みのほうが宇宙にはつらかった。

 

自分と出会えてよかったと、桜井は言ってくれた。

 

亨という人に逆らい、自由を手に入れたいと決心をすることができたのも宇宙のおかげだと言ってくれた。

 

その言葉は嬉しい。

 

だけど、その言葉の裏に隠された桜井の苦しみを想像すると、素直には喜べなかった。

 

もうこうなったら、相手がどこの誰であろうと、この愛を勝ち取ってみせる。

 

どんな苦難が待ち受けていても、絶対に桜井を奪ってみせる。

 

自分を守るために、恭也というヤクザに命をかけて逆らった桜井。

 

そんな桜井を守ってあげられるのは自分しかないのだと、宇宙は長いディープキスを受けながら思っていた。

 

「・・・・・んっ・・・桜井さん・・・」

 

うっとりとした潤んだ瞳で、宇宙が桜井を呼ぶ。

 

桜井は、宇宙のスラックスのファスナーを下げ、下着を一気に踝まで引き下げながら薄い茶色の瞳を覗き込んだ。

 

「・・・本当にいいんですか?今日はスペシャルマッサージでもなく、ウルトラスペシャルマッサージでもなく、宇宙を抱くために脱がせているんですよ?」

 

と、桜井がうっとりするほど優しい声で聞いてくる。

 

すっかり裸同然にされた宇宙は、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら『うん』とだけ答えた。

 

「・・・本当にいいんですか?私はもう宇宙が欲しくて・・・たまりません。このまま本当に抱いてしまいますよ。いいんですね?」

 

自分の衣服を脱ぎながら、桜井が目を細めて確かめるようにもう一度聞く。

 

ベッドの上で仰向けで横になっている宇宙は、桜井の裸体を食い入るように見つめ、返事をするのも忘れていた。

 

そして、瞬きもしないで見つめる。

 

均整の取れたスマートな肉体は、余分な脂肪がいっさいなかった。

 

広い肩と厚い胸板。

 

肩から鎖骨の線がとても綺麗で、宇宙は思わず見とれていた。

 

腹筋にも筋肉がちゃんとついていて、しかも下半身の中心部分がものすごく逞しいのだ。

 

桜井の裸体を見るのはこれが二度目なのに、やっぱりときめいてしまう。

 

「・・・・・桜井さん」

 

宇宙は、逞しく頭を擡げている桜井自身を目の当たりにして、思わず目を伏せた。

 

自分の分身とはあまりにも違う桜井の分身は、まるで巨大な松茸のようだった。

 

プールに入ったあのときは、遊ぶのに一生懸命でまじまじと桜井の下半身を見ていなかった。

 

こんなに立派な松茸ちゃんがついていたなんて、知らなかった。

 

しかも、天に向かってニョキっと生えている。

 

「ぁぁ・・・桜井さん」

 

宇宙は桜井の松茸似の分身を見ただけで、もうメロメロ状態になってしまった。

 

今日はスペシャルマッサージでもウルトラスペシャルマッサージでもない。

 

抱くということは、やっぱり・・・・・。

 

なんだか、宇宙は急に幸せな気分になった。

 

さっきまでの桜井の気持ちを思ってせつなくなっていた自分が、一瞬どこかにいってしまう。

 

それぐらい桜井の分身には迫力があった。

 

「・・・でもその前に、やっぱりマッサージしてほしいですか?」

 

宇宙の唇に何度もキスを繰り返しながら桜井が聞く。

 

宇宙は、ウルトラスペシャルマッサージをしてほしいと思った。だが、今は少しでも早く桜井と一つにならなければならないと思った。

 

時間もないし、亨という男だっていつここを嗅ぎつけてくるかもしれない。

 

恭也って人を怒らせてしまったということは、危険が二人に迫っているということなのだ。

 

一刻の猶予もないのだ。

 

ウルトラスペシャルマッサージなんて、やっている場合じゃない。

 

「だめっ。マッサージなんてしている暇ないから。本当はしてほしいんだけど、でも今はすぐに桜井さんが欲しいから。今すぐに・・・」

 

宇宙はそう言って、桜井の胸に顔を埋めた。

 

大胆なことを言ったわりに、恥ずかしくて死にそうなのだ。

 

今すぐ欲しいなんて。

 

ああ、穴があったら入りたい。

 

いや、穴に入れてもらうほうなんだ、僕は。

 

そっか。

 

桜井さんの逞しい分身を、この前マッサージしてもらったあそこに入れてもらうほうなんだ。

 

などと一人でエッチなことを考えながら、宇宙は桜井の性急な愛撫を受けていた。

 

「あっ・・・桜井さんっ?」

 

いきなり乳首を吸われ、準備をしていなかった宇宙は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

だが桜井は時間がないことを身体で示すように、宇宙の左右の乳首を愛撫していった。

 

「あんっ・・・」

 

硬くなった乳首にわざと歯を立てる。

 

そしてそれを強く吸う。

 

「あぁぁ・・・・・・っ」

 

宇宙は、ベッドの上でシーツを掴んで淫らに喘いだ。

 

桜井に乳首を吸ってもらったのは、これが初めてだった。

 

今まではマッサージの中で、指で乳首を弄ってもらったことはある。

 

だけど乳首を吸ってもらうなんて、今までなかった。

 

「あっ・・・あっ・・・桜井さんっ」

 

桜井の唇が自分の乳首を吸っている。

 

吸っているだけじゃなくて、噛んでいる。

 

噛んでいるだけじゃなくて、舌先でクチュクチュしてるっ。

 

「本当は、ずっとこうしたかったんです。ここもこうして・・・・・」

 

と、言った桜井の唇が柔らかな首筋に触れ、きつく吸う。

 

「あんっ・・・」

 

吸った箇所には朱色のキスマークが残った。

 

「宇宙の身体中に・・・こうしてキスマークをつけたいと思ってました。ここも・・・ここも・・・」

 

と、しっとりと囁き続ける桜井の唇が次第に下のほうへ降りていく。

 

再び乳首に触れ、十分に愛撫し、そして下腹部へと下がっていく。

 

そして少し焦らすように可愛い宇宙自身をやんわりと掴み、二、三度上下に揺らす。

 

「あっ・・・あっ・・・だめぇ・・・・・」

 

自然と声が上ずってしまう。

 

これから自身が口で愛撫されるという喜びと期待と、少しばかりの恥ずかしさが入り交じったような喘ぎ声だった。

 

桜井の頭がゆっくりと宇宙の股間に蹲る。

 

「・・・・・ん・・・あっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 32

桜井と宇宙が入ったのは、場末の安いラブホテルだった。

 

どこでもいい。

 

とにかく今は二人だけになりたかった。

 

話したいことがたくさんある。

 

だけど、時間がない。

 

それは桜井だけでなく、宇宙も直感で感じ取っていた。

 

小さな部屋にダブルサイズのベッドが一つ。

 

そして小さな冷蔵庫と小さなテレビ。

 

そしてユニットバスとトイレがあるだけの部屋だったが、今の二人にはそれだけでも十分だった。

 

「何から話したらいいのだろうか」

 

ベッドに腰を下ろした桜井は、隣に宇宙を座らせてそう言った。

 

先ほど、ヤクザのような男に啖呵をきっていたときの桜井とは全く別人のように、優しい声だった。

 

自分を見つめる眼差しも、優しさと慈愛に満ちている。

 

とても同じ人物のようには見えなかったが、目の前にいる桜井こそが本当の桜井だと宇宙は信じていた。

 

桜井があのとき、あのヤクザのような男に挑んでいなかったら、きっと自分は攫われていた。

 

いや、自分だけじゃない。

 

桜井だって捕らえられていたかもしれないのだ。

 

黒いスーツ姿のヤクザ風の男には見覚えはなかったが、この前のチンピラたちと繋がっていることは一目瞭然だった。

 

なぜ桜井さんは縛られているのだろうか?

 

あんなヤクザのような男たちに。

 

それにあの男が言っていた、亨様っていったい誰なんだろうか?

 

宇宙は、桜井に安物のスーツを脱がされながら、ずっとそんなことを考えていた。

 

「最初から・・・全部話して。僕は何を聞いても驚かないから。もう・・・あなたから離れないって決めたから」

 

宇宙は上半身裸にされると、桜井の首に抱きつきながら言った。

 

桜井が、そんな宇宙をそっとベッドの白いシーツの上に押し倒す。

 

「宇宙が想像している私とは、全然違うんです。私は宇宙が思っているような人間じゃない」

 

そう言った桜井の顔は、悲しみとせつなさが入り交じったような表情をしていた。

 

十年間というもの不当な扱いを受け、それに耐え忍んできた苦悶の表情だった。

 

だが宇宙には分からない。

 

なぜ桜井が、そんな苦汁を飲まされたような表情をしているのか。

 

宇宙は、そっと桜井の前髪に指を絡めた。

 

「あの恭也という人は、どういう人なの?桜井さんの過去にいったい何があったというの?」

 

宇宙が、同じようにせつなそうな顔をして聞く。

 

すると桜井は、宇宙の薄茶色の瞳をじっと見下ろしながら顔にかかる髪を指で弄った。

 

「私の話を聞いたら、私を嫌いになってしまうかもしれない」

 

唇にそっとキスをして、桜井が不安げな声で言う。

 

宇宙はすぐに首を振って、その言葉を否定した。

 

「ううん、そんなことは絶対にないから。僕はどんな話を聞いても桜井さんを嫌いになったりしないから。桜井さんを命をかけて愛するって決めたんだから。だからお願い話して。ねっ?」

 

いつになく、不安げな桜井の声。

 

そして細められた瞳。

 

いつもの自信に満ちていて優しく穏やかな桜井からは想像もできない姿だった。

 

きっと、とんでもない不幸が桜井の過去にあったのだ。

 

今まで気づかなかったけど、考えてみれば桜井ほどの男がただのマッサージ師でいることも不思議だった。

 

エリートサラリーマンとか、青年実業家とか、桜井が望めば思いのままのはずなのに。

 

どうしてマッサージ師という職業に縛られているのだろうか。

 

もしかしたら、スペシャルマッサージとかウルトラスペシャルマッサージも、その辺に関係があるのかもしれない。

 

宇宙は、何を聞いても決して自分の気持ちは変わらないという固い決心を抱いて、桜井の話に耳を傾けた。

 

「話は、約十年前に遡ります・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 31

「紅林組の例の息子は、まだ見つからないのか?」

 

藤堂組四代目である藤堂弘也は、車中で桜庭健一に思い出したように聞いた。

 

いつもは恋人の三原真琴が隣に座っているのだが、今夜は政則と一緒に映画を観に行っていた。

 

真琴の特等席に座っている藤堂の右腕である桜庭は、クールな横顔のまま答えた。

 

「今、手の者たちに探させています。もうしばらく時間をください。二十五年も前の話ですし、愛人であった母親は失踪した直後に死亡。その三歳だった子供は親戚をたらい回しにされ、その後養子に出されているところまでは調べたのですが・・・」

 

藤堂は、高級外車の後部座席にゆったりと上体を預けながら桜庭の報告を聞いていた。

 

「今、生きていれば二十八歳ぐらいか?」

 

「はい。生きていれば・・・ですが」

 

と、答えて桜庭は藤堂を見た。

 

黒髪をオールバックで固め、オートクチュールの紺色のスーツを格好よく着こなしている藤堂は、紅林組の組長に頭を下げられたときのことを思い出していた。

 

紅林組には跡取りがいた。

 

だが組同士の抗争に巻き込まれ、命を落としてしまったのだ。

 

紅林組の組長には跡取りがいない、と思っていたが、実はもう一人いた。

 

愛人に息子が生まれたのだが、正妻の恨みを買うのが恐ろしくて認知しなかったというのだ。

 

金は仕送りしていたものの、組長は正妻の嫉妬を恐れて子供に会うことを避けていた。

 

ある日、愛人が子供とともにマンションから消えてしまい、それから二十五年間、二人の行方は不明だった。

 

紅林組の組長は、その愛人の子供に跡を継がせたいと藤堂に申し出た。

 

藤堂は最初、その提案を拒否した。

 

紅林組は藤堂組の傘下にあり、幹部から若い手下たちを合わせると百人を超える巨大な組織だった。

 

その紅林組を、自分の素性を知らないただの素人に任せるというのだ。

 

「私は、あの子の運の強さを信じたいんです。あの子の、修羅の魂を・・・」

 

年老いた組長はそう言って、藤堂に深々と頭を下げた。

 

そんな組長を見て、藤堂はもう反対する気にはならなかった。

 

修羅の魂というものに賭けてみようと思ったのだ。

 

修羅の子はどこにいてどんな育ち方をしていようと、必ず修羅になる。

 

承諾した藤堂は、紅林組の組長に一つだけ条件を出した。

 

それは、その者が紅林組を引き継ぐ素質があるかどうかを藤堂が直に見極めるということだった。

 

そのためにも、愛人の息子を探し出さなければならない。

 

藤堂の全国にクモの糸のように広がる情報網は、警察と肩を並べるほど巨大な組織だった。

 

その組織が動いている。

 

見つかるのは時間の問題だった。

 

「本気で組の跡を継がせるおつもりですか?」

 

ダークグレーのスーツを着ている桜庭が、何も言わずに煙草を吸っている藤堂に向かって聞いた。

 

「いけないか?」

 

「いえ、藤堂四代目がなさることには誰も文句は言いません。ただ、その者にこの現実を受け入れられるのかが問題だと思います。恐らく、一般人として育っているのでしょうから」

 

と、桜庭が言うと、藤堂は前を向き直ってから口を開いた。

 

「真琴も一般人だったが、今では幹部の上をいくときがある。そうだろう?」

 

藤堂の言葉に、桜庭は納得するように頭を下げた。

 

「はい、そのとおりです。その者、早急に探し出します」

 

「ああ。そうしてくれ」

 

藤堂は短く答えると、その後は何も喋らなくなった。

 

瞼を閉じ、何かを考えているようである。

 

桜庭も、藤堂組にとっても重要である紅林組の跡取りがどういう人物なのか頭の中でいろいろと想像を巡らしていた。

 

二人を乗せた黒いロールスロイスは、真琴が待っている銀座に向かって走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 30

できるならあのまま、海外にでも逃亡してくれれば手間が省けていいのだが。

 

恭也は、座り心地のよいベンツの後部座席に身を沈めながらそう思った。

 

煙草を口に銜えると、隣の手下の男がすかさずライターで火を点ける。

 

いや、それでは芸がなさすぎるか。

 

せっかく桜井が亨様に逆らうように仕向けたのだから。

 

桜井の目の届くところで宇宙を攫うように見せかけたのも、桜井の本心を聞き出すため。

 

まんまとその目論見は成功した。

 

桜井には今までいい思いを味わってきた分、苦い思いを味わわせてやらなければ。

 

まぁ、本人はいい思いを味わってきたとは思っていないようだが、傍から見てきた俺には十分にそう見えるのだからしょうがない。

 

十年近くも亨様の下半身のマッサージをしてきた罪が重いということを、十分に知らしめてやらなければ。

 

亨様は、愛人に飽きればすぐに変えてきたのに、桜井だけは手放さなかった。

 

それが恭也には気に入らなかった。

 

あんなマッサージぐらい、自分でもできるのに。

 

スペシャルマッサージだって、ウルトラスペシャルマッサージだって、恭也は熟知している。

 

いつ、亨から声がかかってもいいようにと、極秘にその道のプロに手ほどきを受けたのだ。

 

すべては桜井に代わって、亨に触れたいため。

 

亨の分身を弄って感じさせて、自分の手で絶頂を極めさせてあげたいため。

 

亨のすべてを愛したいため。

 

できることなら、桜井の手足の一本ももぎ取ってやりたいが、それにはもう少し色づけをしないといけないな。

 

煙草の煙をくねらせながらさまざまなことを考えていた恭也は携帯を取ると、リダイヤルを押した。

 

電話に出たのは、亨だった。

 

「桜井の相手の男を捕らえるのは失敗しました。ですが桜井の本心を知ることができました。桜井は亨様の束縛から逃れたいそうです」

 

『・・・・・・・・』

 

しばらく沈黙が流れる。

 

「亨様に縛られることなく、自分の人生を歩みたいそうです。あの宇宙という教師と一緒に」

 

最後の言葉が、電話を聞いていた亨の癇に障ったのを微妙に感じ取った恭也は、構わず言葉を続けた。

 

「二人は今一緒にいます。行き場所は見張りを一人残してきたのですぐに分かります。どうされますか亨様?二人一緒に捕らえますか?それとも別々に捕らえ、二度と会えないようにしてしまいますか?」

 

恭也の言葉には、ゲームを楽しんでいるような余裕があった。

 

『二人一緒に捕まえろ。桜井は私のところに。相手の男はお前に任せる』

 

亨はそれだけ言うと、電話を切った。

 

不機嫌極まりない亨の声を聞いた恭也からは、思わず笑みを漏らした。

 

座席の灰皿で、煙草をもみ消す。

 

これで、逃げようとしている桜井に亨が罰を与えることは確かだった。

 

相手の宇宙も、無事では済まない。

 

プライドの高い亨が、一度ばかりか二度までも自分のもとから逃れようとしている桜井を以前と同じように扱うとは思えなかった。

 

よくても海外に売り飛ばされるか。

 

悪ければ、警察の行方知れずリストに載ることもある。

 

恭也は、思わず声を上げて笑った。

 

「俺に任せるということは、煮るなり焼くなり好きにしろということだよな?」

 

そして独り言を言う。

 

そのとき、スーツに入れたばかりの携帯が鳴った。

 

二人の見張りに残してきた男からだった。

 

『桜井と男は・・・あのまま近くのラブホテルに入りました。今、ホテルの前にいますが、どうしますか?二人とも急いで捕まえますか?』

 

見張りの男が少し苛ついた口調で言う。

 

自分だけ見張りに取り残されたことが不満なのだ。

 

恭也はもう一本煙草を口に銜えた。

 

隣の男が、シュポッとライターの火を点ける。

 

「いや、二人を捕らえるのはもう少し時間が経ってからだ。二時間後に人数をそっちに回すから、捕り物はそれからだ。お前はそれまでそこでじっとしてろ」

 

『・・・分かりま・・・』

 

少し不満そうな男の声を最後まで聞くことなく、恭也は携帯を切った。

 

ちゃんと、既成事実というものをつくってしまわないといけないのだ。

 

あの二人はまだ本当の意味で結ばれていない。

 

恭也が見たところ、ウルトラスペシャルマッサージで宇宙を喜ばせただけの関係なのだ。

 

互いに愛し合っているのにまだ結ばれていないのはかわいそうだ。

 

そうだろう?

 

と、意地悪い自問自答を繰り返してからニヤッと笑った。

 

やはり愛し合っている者同士、冥土の土産に結ばせてやるのが人情ってもんだろう。

 

口には出さないが、恭也は内心そう思っていた。

 

本来の恭也の立場なら、二人が結ばれる前になんとしても捕らえ、亨の前に引き連れていくのが役目なのだが、恭也はあえてそれをしなかった。

 

桜井が宇宙を抱いてしまえば、他の男の分身をしゃぶったことが分かれば、プライドが高く自己中心的な亨のことだ、きっと桜井を切って捨てる。

 

そう踏んだのだ。

 

今二人を捕らえても、亨の怒りを誘うのにはまだ足りなかった。

 

やはり、二人が愛し合っているという既成事実がどうしても必要だった。

 

恭也の計画を成功させるためには。

 

「・・・これも宇宙とかいう世間知らずの教師のおかげだな。いいタイミングで桜井の前に現れてくれたよ。だが桜井がああいうタイプの男に弱いとは知らなかったな」

 

余裕が出てきたのか、恭也は煙草をうまそうに扱いながら背もたれに身体を預けた。

 

だがすべて計画どおりに事が運んで、桜井を亨の前から排除することができたとして、亨の父親にはなんと報告をしたらいいのだろうか?

 

ありのままを報告するわけにはいかない。

 

桜井の身辺に気を使っていなかったとして、自分までとばっちりが来ないとも限らないからだ。

 

大物政治家である亨の父親は、恭也の組と裏で繋がっている。

 

もともと、桜井を気に入って自分の下半身の世話をするように時間をかけてしつけたのは父親の方なのだ。

 

桜井を息子に譲ったとはいえ、まだ情があるのは、亨と同じと考えた方がいい。

 

恭也は真面目な顔でそんなことを考えながら、備え付けの灰皿で煙草を消した。

 

「先に、先生のお耳には入れておいたほうがよさそうだな」

 

恭也はそう呟くと、亨の父親に電話を入れるべく携帯を握った。