「八時からご予約の春日様?」
宇宙の名前が呼ばれる。
営業時間は八時までなのに、どうして桜井さんは八時に予約を入れたんだろうか?
個室に案内されながら、宇宙は思った。
「ではここで、ガウンに着替えてお待ちください」
受付の女性が丁寧に言って、ドアを閉める。
宇宙はいつものようにハンガーに掛かっているガウンに着替え、白いシングルサイズのベッドに仰向けになった。
なんでだろう?
宇宙は、まだ悩んでいた。
他の個室からは次々と最後のお客さんたちが帰っていく音がしている。
この時間に個室に入る客など、誰もいない。
「桜井さん、人気があって指名が多いから、きっとこの時間しか予約が取れなかったんだ」
宇宙は、素直にそう思った。
「お待たせいたしました」
最後の客を見送った桜井が、ドアをノックして入ってきた。
「あの、桜井さん。すみません。時間外の予約だったんですね」
桜井の顔を見るなり、宇宙は起き上がって言った。
桜井は男らしい顔で笑って、ゆっくりと首を振る。
「そんなこと、気にしなくていいんですよ。それより、今日は特別なメニューがあるんですけど、試してみますか?」
腕から肩をマッサージしながら、桜井が言う。
「特別なメニューですか?」
宇宙は、桜井に身体をすっかり預けながら不思議そうな顔をした。
「スペシャルマッサージと言って、特別なお客様限定のメニューなんです」
「特別なお客様限定?」
なんだかとっても、いい響きである。
特別なお客様っていうところがいいなー。
「どうなさいますか?スペシャルマッサージ、やってみます?料金は前回と同じですから、ご心配なく・・・」
「あっ、そうなんですか。じゃあ・・・お願いします」
宇宙は、スペシャルマッサージというものがどんなものであるか、まったく知らないままOKの返事をした。
きっと今まで以上に、すっごく気持ちよくリラックスできる、そんなマッサージに違いない。
すると桜井は、肩と首のマッサージをやめて、宇宙が着ているガウンの紐を解いていった。
紐が解かれ、あっという間に宇宙の上半身があらわになる。
買ったばかりのトランクスは、チェック柄だった。
「あっ・・・あの?・・・」
宇宙は、どうして桜井がガウンの紐を解いたのか分からなかった。
不思議そうな顔をしたまま、桜井の次の行動を見守る。
桜井は、興味津々な宇宙の視線の中、思わず行動に出た。
なんと、トランクスまで一気に脱がせてしまったのだ。
「き、きゃっ!」
女のような悲鳴を上げて、宇宙が露出した股間を両手で隠す。
膝まで一気に脱がされたトランクスをなんとか片手で引きあげようとしたが、桜井がそれを阻止した。
「ダメです。裸にならないとスペシャルマッサージを受けることはできませんよ」
「で、でも・・・」
不安げな顔で、宇宙が股間を両手で覆い隠す。
それでも宇宙には、スペシャルマッサージというものがどういうものなのか、まったく見当もつかなかった。
どうして裸になるんだろう?
しかもトランクスまで脱がされちゃって。
こんな真っ裸状態でマッサージを受けるなんて。
いったい、どんなマッサージなんだ?
宇宙は顔を真っ赤にしたまま、さまざまなことを考えていた。
だが、どうしても答えが見つからない。
そんな宇宙を優しく見守っていた桜井は、手の中にたっぷりとマッサージオイルを落とした。
そしてその手で、裸になった宇宙の上半身をゆっくりと摩り、手のひらと指先でマッサージをしていく。
「何も心配しなくていいですよ。いつものようにリラックスして・・・身体中から力を抜いてください」
桜井にそう言われたものの、こんな状態ではなかなかリラックスなどできない。
確かにいつものマッサージとは違って、生温かいヌルヌルとした感触がとても気持ちいいけど。
でもなんだか、桜井さんの手のひらや指先が首筋や乳首に触れるたびに、変な気分になってきてしまう。
エステでオイルマッサージをしてもらっている女性のような感じだけど、でもなんだかちょっと違うような・・・・・・。
「・・・あっ・・・」
宇宙は、考えるよりも早く、声を上げてベッドの上でのけ反った。
桜井のオイルがたっぷりと付着した指先が、乳首をきつく摘んだためであった。
「痛いですか?」
すぐに桜井が聞いてくる。
宇宙は、真っ赤な顔で股間を隠しながら、無言のまま首を横に振った。
痛いんじゃなくて、気持ちよかったからつい声を上げてしまったなんて、とても言えない。
「では・・・気持ちがいいということですか?」
桜井が、クスクスッと笑いながら宇宙の耳元で聞いた。
その声があまりに近かったことに驚き、宇宙が瞑っていた目をあけた。
するとすぐ目の前に、桜井の男らしく整った顔があった。
反町に似ている、セクシーで甘いマスクがあるのだ。
しかも唇なんて、ちょっと顔をずらせばキスできちゃいそうな距離だった。
うそぉぉーーーーーー!
宇宙は、心の中で驚きの声を上げていた。
「もう少し、気持ちよくなりたいですか?」
桜井が、宇宙の頬に唇を近づけて甘い声で囁く。
宇宙は、触れるか触れないかぐらいにかすかな桜井の唇の感触に、頭の中がクラクラしてきた。
予約を入れた金曜日がやってきた。
どれほど、この日を待ち望んだことか。
こんなに一週間が長いなんて初めてだった。
もう少しで桜井さんに会える。
桜井さんのマッサージを受けることができる。
そう思うと、学校でのつらいことや苦しいことも難なく耐えることができた。
問題児の国ちゃんのことも、それほど気にならなくなったのだ。
人間は十人十色さまざまなのだから、いろいろな性格があっていいのだ。
おとなしい子もいれば、わけもなく騒ぐ子もいる。
大人びた子もいれば、まだまだ幼稚園がお似合いの子もいる。
国ちゃんだって、よく見るとなかなか可愛いじゃないか。
それに国ちゃんが騒がなかったら、きっとこのクラスはどんよりとした暗いクラスになっていたかもしれない。
国ちゃんがいるから、いつも笑いが絶えないクラスになっているのだ。
まぁ、他の先生方からの苦情は変わらないが、それは僕自身が受け止めていればいいことなんだ。
怒られたからといって、苦情を言われたからといって、悩むことなんて何もない。
宇宙は、この一週間、いつもそう思えるようになっていた。
「何か、明るくなりましたね。いいことでもあったんですか?」
教師たちが宇宙の顔を見るたびにそんなことを聞いてくる。
そのたびに宇宙は、「はい、ちょっと」とだけ答えて、一人で桜井のことを思い出していた。
あのステキな笑顔。
低くて穏やかな声。
そして巧みな指技。
あぁぁ・・・、今日もあの指でマッサージされるのかと思うと、それだけで身体が宙に浮いてしまいそうである。
放課後、宇宙は子供たちを見送ると、急いで職員室に戻った。
そして明日の準備を慌ただしく整えていく。
すべてが終わり、時計を見ると六時を少し回ったところだった。
「急いでアパートに戻って、それからシャワーを浴びれば八時に間に合う。よしっ」
宇宙は気合いを入れて席から立った。
「あれ?春日先生、もうお帰りですか?」
「はいっ。お先に失礼しますっ」
挨拶もそこそこに、宇宙は急いで職員室を出る。
「今日はちゃんとシャワーを浴びて、身体を綺麗にしていくんだ。いつも汗臭いから・・・」
宇宙は嬉しそうにそう呟きながら、帰路を急いだ。
どうしてマッサージに行くのにシャワーを浴びなければいけないんだろうかと、我に返って一瞬考えた宇宙だったが、『桜井さんに会えるから』と自分自身に言い聞かせていた。
特に念入りに身体は洗っておこうっと。
宇宙は、揺れる電車の中で顔を真っ赤にしながら、さまざまなことを考えていた。
そしてアパートに戻り急いでシャワーを浴びた宇宙は、先日購入したばかりの真新しい紺のブレザーをノーネクタイの薄いピンク色のワイシャツの上に羽織った。
スラックスも紺色で、ソックスは白。
髪を梳かし、下着も新しいものを穿いたし、店員に勧められるがままに買ったブルガリのオードトワレも仕上げに首筋につけた。
柑橘系の爽やかな匂いが、狭いアパートの中に充満する。
「よし、完璧♡」宇宙は上半身を鏡で映して見てから、満足げに頷いた。
そしてアパートを出て、桜井がいるマッサージ店を目指す。
「待っててくださいね。桜井さん♡」
宇宙はこのとき、どうしてこんなに自分の気持ちが高まっているのか、まったく考えていなかった。
ただ今は、少しでも早く桜井に会いたいと思っていた。
普通、こういうところではお尻の蕾なんてマッサージはしない。
歌舞伎町にあるような、怪しい個室マッサージ店は別だが・・・・・。
だが素直で純朴で人を疑うことなどまったく知らない宇宙は、すっかりその言葉を信じてしまっていた。
なんだ、そうなのか。
みんなやってもらっているのか。
みんなやってもらっているんだったら、恥ずかしがることなんてないじゃん。
病院に行って、人間ドックに入っているようなものだと思えばいいんだ。
お尻からチューブを挿入して、腸の中を診てもらっていると思えばいいんだ。
あっ、そうか。
今気づいたけど、だから個室なんだ。
こういう恥ずかしい部分もマッサージしてもらうから、個室なんだ。
そうだと分かったら、なんだか余計に感じてきちゃった。
あぁぁぁーーーーーんっ、どうしよう。
ガウンの上からだって分かってるけど、なんだか指が直接蕾の中の入っているような感じがして、弄られているそこがじっとりしてきたみたいで、もうどうしていいのか分からない。
でも、みんな同じようなことをされているなら、このままじっとしていたほうがいいのかもしれない。
桜井さんに、すべて任せて・・・・・。
宇宙はそう思いながら、身体中から余計な力を抜いていった。
すると、蕾をマッサージしていた桜井の指が、もっと深くガウンや下着ごと内部に入ってくるのが分かる。
しかも、マッサージのおかげで柔らかくほぐれているせいか、まったく痛くないのだ。
「あんっ!」
宇宙は、指が内部に入っているような感触よりも、苦痛を伴わないことに驚いていた。
普通、こういう場所に異物を挿入したらとても痛そうな気がするのに。
でも、さすがに恥ずかしい。
「さ、桜井さんっ!」
宇宙は思わず声を上げて、後ろを振り返った。
すると桜井の優しい瞳とかち合い、顔を真っ赤にしてしまう。
「だいぶ・・・・・ほぐれてきましたね」
「あっ・・・はい・・・。もうほぐれすぎちゃって・・・あっ・・・んっ・・・」
どうしても喘ぎ声になってしまう。
宇宙は、泣きたいような心境になった。
きっとこんな声を上げて身悶えているのは自分だけなのだろうと思うと、なんだかとても情けなくなってくる。
桜井を指名して、自分の順番が回ってくるのを待っている客はたくさんいるのに。
あぁぁーーーーーもう。
「さてと、今日はもういいですよ。だいぶ身体が柔らかくなったようですから。次は来週の金曜日に来てください。予約は8時からでいいですか?」
と、桜井が宇宙の背中から腰をパンパンッと軽く叩いて言う。
宇宙は、いつの間に蕾から指を離したのかと不思議に思いながら「は、はい」と可愛い声で返事をした。
桜井の話などもう耳に届かないくらい、蕾も下半身もフニャフニャ状態だった。
「では、支度をしてください。私は次の予約が入っていますのでこれで失礼します」
「は・・・はい・・・。ありがとうございます」
「では、来週お待ちしております」
と言った桜井は、極上の微笑みを残して部屋を出ていく。
狭い個室の中に取り残された宇宙は、しばらくの間立つことができなかった。
腰にはどうしても力が入らないのだ。
やっと立っても、足がフラフラして頭の中も真っ白だった。
しかも、分身は想像どおり勃起し白い体液を漏らしていたのだ。
下着の中は、自分の放ったものですっかり濡れてしまっていた。
「いつの間に・・・?」
呆れ果てたように宇宙が呟く。
きっと蕾をマッサージされている最中なのだろうか、いつこんなことになったのかはっきりとは覚えていなかった。
あまりにも気持ちよくて、初めての体験で、もうどうにでもしてって感じである。
宇宙は、体液を放ったにもかかわらずまだ元気なままの自身を恨めしそうに見下ろすと、ゆっくりとスーツに着替えていった。
「肩から腰にかけて・・・揉んでいきますね」
「・・・はい」
桜井の指が、肩と首の凝りをほぐしていく。
ツボを心得た桜井の魔法の指は、宇宙の心と身体をほぐし癒していった。
「・・・んっ・・・そこっ・・・」
「痛い?」
「・・・そうじゃなくて・・・気持ちよくて・・・癖になりそう・・・んっ・・・」
「癖になってください」
桜井が、クスッと笑いながら腰のツボを指圧する。
ベッドの上に上がり宇宙を跨いでいる桜井は、腰からお尻のほうへ指をずらしていった。
「あっ・・・ぁっ・・・」
お尻の割れ目の辺りまで指圧が来ると、宇宙はもう声を押し殺していることができなかった。
恥ずかしさと気持ちよさと痛さが入り混じった感覚が、宇宙の脳を支配していく。
「あっ・・・」
突然、桜井は宇宙のお尻を両手で掴んだ。
「こうしてお尻を掴んだときに小指に当たる・・・ここ・・・。こうして指圧してあげるととっても気持ちいいでしょう?」
ムンズッと可愛いお尻を掴んだ後、桜井は割れ目から少し離れたところを指圧しながら言った。
「あんっ・・・気持ち・・・いい・・・」
確かに気持ちいい。
もう下半身がフニャフニャになってしまうくらいお尻を指圧されると気持ちいいのだ。
しかも、指圧している指がどんどん割れ目のほうに向かって動いていく。
このままいったら、恥ずかしい部分に指が触れることになってしまう。
「あっ・・・あの・・・」
いくら下着やガウンを着ていても、お尻の中心を桜井の指が指圧すると考えただけで、今にもイッてしまいそうなくらい興奮した。
「そ、そこは・・・っ」
桜井の指がお尻の割れ目の中に入ってしまう。
その瞬間、宇宙は思わず顔を上げ息を殺した。
「ここも実はツボなんですよ。便秘によく効くツボ・・・」
と言って、割れ目の奥の柔らかな部分を両方の親指で指圧していく。
「あっ・・・でも・・・そこは・・・んっ・・・」
すっかり喘いでしまっている宇宙のことなどお構いなしで、桜井の指は容赦なく蕾を指圧した。
絶妙な指の動きと力加減で指圧された蕾は、すぐに柔らかくほぐれていく。
まるでマシュマロのように、フニャフニャになっていくのが分かるのだ。
しかも、とろとろに溶け始めている。
そのこと自体は、本人は分かっていないようだったが・・・・・・・。
「あんっ・・・桜井さんっ・・・。そこは・・・だめぇ・・・」
宇宙が、今にも果ててしまいそうな声を上げて首を振る。
それは今までの声とは違い、自分でも驚いてしまうような声だった。
「どうしてですか?少し、便秘ぎみでしょう?」
いや、そういうことじゃなくて、そんな敏感なところを指圧されて揉みほぐされたら、変な気分になっちゃうよ。
ただでさえ変態男なのに、これ以上変態男になってしまうのは・・・・・。
ああーん、だからだめだってぇぇーーーーー。
宇宙が恥じらっていると、桜井はクスッと笑いながら言った。
「大丈夫ですよ。皆さん、ここもマッサージしてますから」
桜井が言ったことは、もちろん大嘘だった。
だけど本心から言えば、前回のAセットよりも時間の長いCセットのほうがよかったんだけど・・・。
「今度、時間があるときにCセットにしましょう。疲れの取れ方もだいぶ違いますから」
まるで宇宙の心の中を読んでいるような桜井の言い方に、ドキッとした。
「では、始めます」
足の裏にマッサージオイルをたっぷりと塗り込めながら桜井が言う。
宇宙は、ちょっと痛くてすごく気持ちいいその感触に、思わず目を閉じて身体から力を抜いた。
「・・・・・んっ・・・」
「この前よりも、だいぶ疲れが溜まってますね」
「そうで・・・すか・・・ぁっ・・・・・」
つい、変な声が漏れてしまう。
「教師という職業も大変なんですね」
「は、はい・・・。それはもう・・・あっ・・・いっ・・・」
「ここ、痛いですか?」
「あっ・・・痛くて・・・気持ちいい・・・ですぅ・・・・・」
宇宙が、うわずった声で答える。
すると桜井は、クスッといつもの優しい笑みを漏らした。
「では、もう少し気持ちよくしてあげましょう」
と言って、宇宙が気持ちいいと感じるツボを探りながらゆっくりと指圧していく。
「あっ・・・んっ・・・ぁっ・・・・・」
そこがまたものすごく気持ちよくて、指の力の入れ具合がなんとも絶妙で、宇宙の口からは喘ぎ声に似たような色っぽい声が漏れていく。
宇宙はすぐに自分が発した声に気づき両手で口を塞いだが、桜井のマッサージのほうが上手だった。
塞いだはずの指の間から、色っぽい声が漏れてしまうのだ。
「ぁっ・・・んっ・・・ぁっ・・・・・」
桜井さんのマッサージを受ける人はみんなこんな色っぽい声を上げるのだろうかと、真っ赤な顔で疑問に思いながら、足元の桜井をチラッと見る。
桜井は、足の裏を丁寧にマッサージしながら両手で口を塞いでいる可愛い宇宙をじっと見つめていた。
桜井の目と宇宙の目が、合ってしまう。
もしかして、ずっーと見られてた?
色っぽい声を上げてたところを、ずーっと?
慌てて視線をずらした宇宙は、湯気が出るくらい顔を赤らめた。
すると、ムクムクッと、宇宙の分身が頭を擡げ始める。
「あっ!」
それに気づいた宇宙は、思わず大声を上げた。
「痛かったですか?」
驚いた桜井が、思わず指圧の指を緩める。
「い、いいえっ。あの・・・痛くないですっ。全然・・・気持ちいいです」
慌ててそう言って、宇宙は今度は股間を手で覆った。
その素直な行為に、見ていた桜井のほうが驚いてしまう。
さっきまで色っぽい声を上げていた口ではなく、ガウンの上から股間を両手で隠している宇宙の姿は、信じられないくらい可愛いかった。
こんなことをしたら、股間に変化が起こってしまっていることを、わざわざ桜井に教えているようなものである。
しかもそんなしっかり押さえなくても・・・・・。
桜井は、宇宙の可愛い行動に唖然としながらも、噴き出してしまいそうになるのを必死で堪えていた。
足の裏にある、男性自身が元気になる秘密のツボを執拗に指圧したのだから、勃起するのは当然なのに。
そんなことなどまったく知らない宇宙は、自分を恥ずかしがるように自身を押さえているのだ。
なんて可愛いのだろうか。
この人は本当に、教師なのだろうか。
まるで純真無垢な子供のような反応である。
桜井は宇宙の素直さに感心し柔らかく笑いながら、足の裏のマッサージを続けた。
そしてマッサージを受けている宇宙はというと、もう必死だった。
足の裏のツボを指圧されればされるほど、どんどん分身が頭を擡げてしまうのだ。
必死に両手で隠しても、強く押さえても、分身は硬くなる一方だった。
この前はうつ伏せのときだったから隠せた。
まだ、よかった。
だけど今回は仰向けだから、分身が勃起してしまうとガウンを押し上げてすぐに分かってしまうのだ。
そんなことにでもなってしまったら、足の裏をマッサージしているだけなのに、なぜか妙に興奮して男の分身を勃起させている変態教師というレッテルを貼られてしまう。
欲求不満なんじゃないかとか、少し緊張しているんじゃないかとか、そんな生易しいもんじゃない。
勃起しているところを見たら、誰だって変だと思う。
きっと桜井さんだって、足の裏をマッサージされて勃起させてるなんて変だ。教師とかいいながら、実は変態じゃないかって思うに違いないのだ。
反町に似ている格好いい桜井さんに、そんなふうに思われるなんて、絶対耐えられないっ。
他の誰かに変態って思われてもいいけど、桜井さんだけには絶対こんな卑猥な姿、見せられない。
宇宙は、ただひたすら必死にそう思っていた。
そう思い込みすぎて、両手で股間を隠していること自体が変だということに気づかなかった。
桜井は、そんな宇宙を優しく微笑んで見つめている。
「では・・・今度はうつ伏せになってください」
桜井は何も気づかないふりをして、宇宙に言う。
宇宙は天の助けとばかりに急いでベッドの上にうつ伏せになった。
これでやっと、股間を隠さなくていいのだ。
下半身が反応していることを、知られなくてすむ。
「早く桜井さんに会いたい・・・」
思わず宇宙の口から出た言葉が、それだった。
一刻も早く桜井さんに会って、リラクセーションマッサージをやってもらって、心も身体も癒されたい。
またしても、下半身が反応してしまうかもしれないけど、そんなことはどーでもいいように思えるくらい、今日の宇宙は疲れ果てていた。
ポンッと音がして、エレベーターが開く。
心地よい音楽が流れるフロアには、マッサージの順番を待っている人が数人、ソファに座っていた。
すぐにやってもらえないかもしれないな、などと思いながらも、受付の女性にカードを差し出す。
「申し訳ございません。本日は大変混んでいるため、ご予約のお客様だけとなっておりますが・・・・・」
カードを見た受付の女性が申し訳なさそうに宇宙に言う。
宇宙はその言葉を聞いて、ガクンッと肩を落としてしまった。
予約・・・。
そうだった。予約を入れるのを忘れてた。
この前は初めてだったから飛び入りで来たけど、予約制ってカードにも書いてあった。
どうしてこうついてないんだろう。
「・・・そう・・・ですか・・・」
混んでいるフロアの待合室を見て、とても残念そうに宇宙が呟く。
そして返されたカードを受け取り、帰ろうと後ろを振り返ったとき、目の前の何かに鼻を打ち付けた。
「いたっ・・・」
打ち付けた鼻を押さえて見上げると、そこにはずっと会いたいと思っていた桜井が、にこやかに笑って立っていた。
「お待ちしていました、春日様。さぁ、こちらにどうぞ」
と言って、宇宙を個室へと案内していく。
受付の女性は一瞬何かを言おうとしたが、この店の一番指名の多い桜井の機嫌を損ねるのが嫌で、言葉をのみ込んだ。
「予約をいただいていたのにいらっしゃらないので、どうしたのかと思っていたんですよ」
個室までの廊下を歩きながら、前回と同様白いオープンカラーのワイシャツに黒いスラックス姿をしたカッコイイ桜井が言う。
宇宙はその後を遠慮がちに歩きながら、空いている個室へと入っていった。
人気のある桜井を指名し、ずっと順番を待っていた客たちの視線が、宇宙の背中に突き刺さっていたのだ。
宇宙は『予約なんて入れたっけ?』と小首を傾げながら、個室の中に入った。
ドアが閉まると同時に、宇宙は聞いた。
「あの、僕、予約入れてないんですけど・・・?」
だが桜井は優しく笑ったまま、ガウンを差し出す。
「春日様は特別です」
「・・・えっ?」
特別って、どういう意味なんだろうか?
「あの・・・」
「早くガウンに着替えてください。あのとおり、私を指名しているお客様が待っているので、時間は少し短くなると思いますが・・・」
「は、はい」
手渡されたガウンをベッドに置き、急いで紺色のスーツを脱いでいく。
そうか。
きつと僕が相当疲れた顔をしていたから、このまま帰してしまうのはかわいそうだと思って無理に時間をつくってくれたんだ。
なんていい人なんだろうか、桜井さんって。
姿ばかりではなく、心も精神も美しく聡明な方なんだ。
宇宙は感心しながら、急いでガウンに着替えていった。
そしてトランクス一枚だけの姿になったとき、初めて目の前に桜井がいることを思い出す。
は、裸を見られてしまった!?
ガウンで慌てて隠したが、もう遅かった。
あまり肉付きのよくない、華奢な裸を見られてしまったのだ。
恥ずかしくて、顔から火が出そうである。
だが桜井は、そんなことなど少しも気にする様子もなく、ガウンに着替え終わった宇宙に仰向けでベッドに寝るように言った。
「前回と同じ、Aセットでいいですか?」
「は、はい。お願いします」
予約もしていないのに、無理に時間を取ってくれたのに、前回よりも長いセットにしてくださいなんて、とてもじゃないけど言えない。
それからの一ヶ月は、満足に睡眠時間が取れないくらい忙しかった。
さまざまな学校行事の準備や片付け。
子供たちの親からのさまざまな悩み事の相談や、教育委員会を招いての研究授業。
その準備と子供たちに費やした時間と労力は宇宙の想像をはるかに超えていた。
リラクセーションマッサージに行きたい。
桜井遼一さんのマッサージを受けたい。
マッサージを受けるだけじゃなくて、癒されたい。
あの反町似の整った顔を見て、心も身体もリフレッシュされたい。
マッサージに行きたいのに、そんなわずかな時間もないなんて。
これもすべて校長が悪いのだ。
『君は研究授業は初めてだろうが、きっといい経験になるよ。それに君は顔が華やかだから、教育委員会の人たちの受けもいいだろうし・・・』
校長室に呼ばれた宇宙は、頭の薄い校長にそう言われ愕然としてしまった。
まだ教師になって数カ月の自分に、研究授業を任せるというのだ。
しかもその理由が顔が華やかだからだというのだ。
呆れてしまって何も言えないでいる宇宙の肩にポンッと手を置いて、校長は言葉を続けた。
『研究授業の後、教育委員会の人たちと一席設けるから、我が校の好印象に繋がるようによろしく頼むよ』
口端を上げ、ニヤッと笑って校長が付け加える。
それっていったいどういう意味なんだろうか?
などと、ゆっくり頭を巡らせて考えている暇などなかった。
とにかく、研究授業の準備を急がなければ。
そんなわけで、宇宙はここ一ヶ月というもの、さまざまな所用に振り回されながら多忙な日々と闘っていた。
そしてやっと研究授業や学校行事も一段落した頃、宇宙はまたしても身も心もよれよれ状態になっていた。
生きるためのエネルギーが不足している、そんな感じだった。
どうしてこんなに疲れているんだろうか?
そう考えて、ガキ大将の国ちゃんがドタバタと暴れ出した研究授業が終わった後、教育委員会の人たちを接待したときのことを思い出す。
『今日の授業はとても分かりやすくてよかったよ。一人問題のある子供がいるようだが、ああいう子は自然とクラスの中に馴染んでいくから心配しなくていい。あれは君の責任じゃない。君は将来有望な教師ですね』
『本当に、私もそう思うよ。それに顔がまたいい。子供受けするというか、女性のように綺麗というか・・・あっはは・・・』
『あっ・・・はは・・・』
宇宙は、教育委員会の人たちに囲まれながら顔を引きつらせて笑った。
『こんな綺麗な教師は今まで見たことがないよ。男性にしておくのはもったいないようだ』
白髪頭の委員が、宇宙の肩に触れながら言う。
そんな中年親父の素振りに、ゾゾッと背筋を震わせた宇宙だったが、立場的にもどうすることもできなかった。
我が校が好印象になるように・・・と言っていた校長の顔が浮かぶ。
あの、クソ校長め。
宇宙は内心で悪態をつきながらも、ねっとりとしていやらしい委員会の人たちとの夕食会をなんとか乗り切った。
帰り際、お尻を触っていった委員もいた。
ぶん殴りたい気持ちを抑えながらも、宇宙は笑顔を絶やさなかった。
「あんなことがあったから、余計疲れたんだ・・・。もう歩くのも億劫になってきた」
研究授業の次の日、宇宙は重い足を引きづりながら帰路についていた。
今日こそはリラクセーションマッサージを受けてやる。
絶対に桜井遼一さんを指名して、マッサージをしてもらうんだ。
その願望だけが、疲れきっている今の宇宙を動かしていた。
そしてやっとそのビルの前に到着した宇宙は、エレベーターの中で疲れ果てた自分の姿を鏡で見た。
前よりいっそう、疲れがひどい感じがした。
本当に教師という職業が自分に合っているのか、最近は分からなくなってきた。
子供についての相談だと言うから母親の話を聞くと、今度一緒に飲みに行きましょうという誘いだったり、中には一度だけでもいいからデートしてと、強引に迫ってくる母親もいた。
いったい、世の中はどうなってしまったのだろうかと、そのたびに考えさせられてしまう。
「あれじゃー、子供をいくら教育してもだめなわけだよなー。まず母親の貞操観念からして間違ってるもん。亭主にバレなきゃ何をしてもいいなんて、信じられない・・・」
宇宙はエレベーターの中で、重々しくため息を漏らす。
やっぱり、一月前に来た時よりもずーっと疲れてる。
宇宙の切羽詰まった緊張感をよそに、最後に頭のツボを軽く圧して、マッサージが終了してしまう。
「はい、これで終わりです。ゆっくり起きてください」
と、マッサージ師に言われて、宇宙はゆっくりとベッドの上で起き上がる。
よかった。仰向けでマッサージなんてないんだ。
宇宙は心底ホッとした。
だが、背中を向けたままマッサージ師のほうを向こうとはしなかった。
「あ、ありがとうございました」
壁に向かって、ペコッと頭を下げて宇宙が礼を言う。
そんな宇宙を不思議に思ったマッサージ師だったが、すぐに何かに気づいたのか優しく肩に触れた。
「リラックスして・・・・・ゆっくり着替えてから出てきてください」
そう言ってマッサージ師が部屋を出ていく。
マッサージ師は、いつまでも背中を向けている宇宙の様子を見て、すぐにその理由を理解していたのだ。
だがそれを口にすることなく、部屋を出ていってくれた。
宇宙は、バタンとドアが閉まったのを確認してから慌ててガウンを脱ぎ、股間に視線を落とした。
案の定、宇宙の股間は見事に天を仰いでいた。
しかも先端の割れ目からは先走りまで出ていたのだ。
ということはガウンが濡れている?
脱いだばかりのガウンを確かめると、やはり股間に染みがついていた。
「・・・・・・よかった。あのまま振り返っていたら、あそこが濡れていたの分かっちゃってたよ。これじゃあ、超変態教師だよ。まったく。」
自分の先端を指先でピーンッと弾きながら、呆れたようにため息を漏らす。
そういえば、教職に就いてからというもの、毎日疲れていてこんなに見事に勃起したことなんてなかったよな。
こんな元気な自身を見るのは何カ月ぶりだろうか。
宇宙は、しばらくそんなことを考えながら息子と対面していた。
だがいつまでもこんなことなどしていられない。
早く部屋から出て、会計を済ませなければ。
宇宙はこの状況を静めるべく、学校の悪魔たちの顔を思い浮かべた。
すると見る見るうちに、分身が萎えていく。
「効き目抜群だよね。最初からこうすればよかった」
宇宙はそんなことを呟きながら急いでスーツに着替え、部屋を出た。
フロアに出ると、先ほどのマッサージ師が待っていてくれた。
こうして見ると、とても背が高い。
それにやっぱり、超カッコイイ。
「ありがとうございました」
「あ、あのっ。また来てもいいですか?」
料金を支払った宇宙が、マッサージ師に聞く。
こんな聞き方って変だと自分でも思っていたが、つい口から出てしまった。
マッサージ師は男前の顔で優しく笑っていて「いつでもいらしてください」と言ってくれた。
「指名料金は三〇〇円ですが・・・私でよければいつでも指名してください」
と言って、マッサージ師は名刺を手渡す。
名刺には、リラクセーションマッサージ『フィジカル』桜井遼一と明記されていた。
反町似のマッサージ師は、桜井遼一という名前だった。
桜井遼一。
なんか、とってもいい響きの名前だと宇宙は思った。
「は、はい。今度は絶対に指名します」
と、嬉しそうに返事をして名刺をポケットに入れた宇宙は、そのままエレベーターに乗る。
ドアが閉まるまで見送ってくれたマッサージ師に何度も頭を下げながら、宇宙は今まで感じたことのない、胸がドキドキするような感情に浸っていた。
それに、あんなに溜まっていた疲れもどこかに吹っ飛んでしまっていた。
エレベーターの中の鏡に映っている自分を見ても、さっきと全然違うのが分かる。
希望と愛と覇気に満ちている自分がいる。
ヨレッとしていたスーツもどこかシャキッとしているように感じる。
身体ばかりか、心までも軽く明るくなったような気がするのだ。
宇宙は、本当にここに来てよかったと心から思った。
そしてまた絶対に桜井遼一さんを指名するんだと、心に誓っていた。
宇宙は、たった一度でリラクセーションマッサージと桜井遼一の虜になっていた。
摩られている背中からその手の温もりを感じた宇宙は、なんだかとても嬉しくなってしまった。
この格好いいマッサージ師に、肩や背中や腰をマッサージしてもらえるなんて、なんて幸せなんだろうか。
別にどこという箇所はないのだけれど、できればずっと摩っててほしいな。
そんなことまで考えてしまう。
「あの、全体的にお願いします」
宇宙は今自分が考えている、ちょっとエッチなことを悟られないように、冷静な声でそう言った。
男性のマッサージ師に摩られていることに幸せを感じてしまうなんて、ちょっと変じゃないだろうか?
やっぱり、相当疲れているんだ。
きっとそうだ。
宇宙は、そんなことを考えながら、落ち着かない自分の感情をなんとか整理しようとしていた。
「では、楽にしててください。肩と首からいきます」
「はい」
マッサージ師がベッドの上に上がり、腰を跨いだのが分かる。
親指の指圧で、肩のポイントをググッと圧していく。
「・・・あっ・・・・・痛っ」
「強いですか? では・・・このくらいは?」
少し力を抜いて、マッサージ師が肩から背中をゆっくりと指圧する。
今度は痛いけれど、それすらもとても気持ちがいい強さだった。
「あっ・・・いいです。そのくらいで・・・ぁっ・・・」
ツボを心得たマッサージ師の指が、宇宙の気持ちいいところを探り当てて、どんどん揉みほぐしていく。
そのたびに宇宙は、苦痛と快感が入り交じったような、ちょっと色っぽい声を漏らしてしまっていた。
いけないと思っても、指圧されるとどうしても口から色っぽい声が出てしまうのだ。
しかも、気持ちいいという感情を素直に表した声が。
「・・・そんなに気持ちいいですか?」
クスッと柔らかく笑ったマッサージ師の声が、頭の上から降りてくる。
「はっ・・・はい・・・あんっ・・・」
返事をしようと口を開くと、圧されたポイントと重なって、今までにない卑猥な声が出てしまった。
慌てて口を閉じたが、宇宙が発したまるでエッチをしているときのような喘ぎ声は、しつかりとマッサージ師に聞かれていた。
クススッと、ふんわりとした笑い声が降りてくる。
宇宙は、ベッドに開いている穴の中に顔を埋め、床をじっと見つめたまま顔を真っ赤にしていた。
だって、本当に気持ちいいんだもん。
どうしても声が出てしまうんだもん。
恥ずかしくて、穴があったら入りたい心境の中で(実際にはもう穴の中に顔を入れているが)宇宙は驚くべき身体の変化を感じ取っていた。
なんと、自分の股間にある男性のシンボルが、著しく硬くなり始めていたのだ。
うつ伏せで寝ているからマッサージ師には分からないだろうが、ベッドと腹の間で、宇宙の分身はムクムクと頭を擡げていた。
うそーーーーーっ!
宇宙は絶叫したい心境だった。
ただマッサージを受けているだけなのに、どうしてあんなところが勃起しちゃうの?
しかもマッサージをしてくれているのは、いくら格好よくてもれっきとした男性で、女性が奉仕してくれるエッチなマッサージとは全然違うのに。
こらっ。
静まれ。
僕の分身、冷静になって静まりなさいっ!
お前の行動は間違っているぞ。
どうして今ここで、勃起しなくちゃならないんだ?
相手は男だぞ、分かっているのか?
と、いくら心の中で自身に問いかけ叱咤しても、宇宙の分身は柔らかくはならなかった。
それどころか、マッサージが進むにつれ、どんどん硬くなっていく。
今マッサージ師に『それでは、仰向けに寝てください』なんて言われてしまったら、きっと勃起した分身が下からガウンを突き上げて、股間にテントを張ってしまって、エッチなことを考えていたことが明白になってしまうじゃないか。
だめだ、そんなことは絶対にだめだ。
僕は教育者だし、第一、こんなことで勃起していたら変態男と思われてしまうじゃないか。
こんな自分を見られてしまったら、もうここに来られなくなってしまう。
反町似のステキなマッサージ師さんに、もう会えなくなってしまう。
だから、静まりなさいって。
頼むから、ねっ!?
宇宙の意識はもう、下半身にばかり集中していた。
どうしよう、どうしようっ!
勃起したまま、全然収まらないっ。
「もうすぐ、終わりますから」
可愛い声を漏らさなくなった宇宙に、マッサージ師が優しく言う。
「は、はいっ」
宇宙は、もう終わってしまうのかと、気が気ではなかった。
早く静まってくれないと、勃起したことがバレてしまうじゃないか。
このままでは変態教師だと思われてしまう。
ど、どうしよう!
するとマッサージ師は足のほうに回ると、そのまま丸い椅子に腰を下ろした。
「では、始めます。全身の力を抜いてください。痛い箇所があったら遠慮なく言ってください」
手にホットタオルを持つと、優しい口調で言う。
そしてまだ緊張している宇宙の足を、ホットタオルで拭いていった。
足、臭くなかったかな?
宇宙は足を丁寧に拭かれながら、そんな心配をしてしまう。
こんなステキで格好いい人にマッサージをしてもらうことになるんだったら、お風呂に入ってくればよかった。
靴下、履き替えたっけ?
足の爪、切ったのいつだっけ?
そんなことを考えているうちに、宇宙の足はホットタオルで綺麗にされていった。
温かいタオルでようやくリラックスした宇宙の身体から、ほっと力が抜けていく。
マッサージ師は、手にたっぷりとマッサージオイルを塗り込めると、宇宙の足の裏へマッサージを始めた。
・・・・・えっ? き、気持ちいい。
足の裏のマッサージなんてって、ちょっと馬鹿にしてたけど、嘘みたいに、気持ちいい。
それが宇宙の一番最初の素直な感想だった。
そして次に、ちょっと痛くてすっごく気持ちいいっ、と思う。
宇宙は思わず、キュッと目を瞑る。
「・・・・・・・んっ」
マッサージ師が、足の裏のツボを圧しながら指を少しずつずらしていく。
痛くて思わず悲鳴が出そうになる箇所があるかと思えば、あまりの気持ちよさに頭の中がクラクラとしてしまう箇所もあった。
指の動きと圧しの強さの強弱で、苦痛と快感を自在に調節できる、といった感じだった。
「あっ・・・そこっ・・・痛・・・気持ちいい・・・」
つい、そんな言葉まで出てしまう。
男前のステキなマッサージ師は、ベッド上で一人で身悶えている宇宙を見て、クスッと優しく笑った。
「痛いですか?」
「い、いえ・・・。痛くない・・・あっ・・・ちょっと痛い・・・。でも・・・気持ちいい・・・」
「どちらですか?」
また、マッサージ師がクスッと柔らかく笑う。
マッサージ師が自分の反応を見て笑っていることに気づき、宇宙は頭を擡げるようにするとその顔を見る。
そして、目があってしまったとたんに顔を真っ赤にしてしまう。
「気持ちいい箇所があったらそこで指を止めますので、言ってください」
魅惑的な黒い瞳を細めて、マッサージ師が言う。
宇宙はその瞳から視線を逸すことができなかった。
この体制はとても苦しいのだけれど、見れば見るほど、本当に格好いいのだ。
襟足は少し短めで、それが長めの前髪とマッチしていてとても品があった。
襟元の大きく開いた白いシャツ姿は、何とも言えない男の色香を漂わせていた。
「ここ、痛くないですか?」
そんなマッサージ師をさらにじっと見つめていると、ニコッと優しく笑って聞いてくる。
宇宙は、慌てて視線を天井に移した。
「い、いえ・・・。あっ・・・気持ちいい・・・です」
「ではここと・・・ここを、時間をかけて揉みほぐしていきましょう。痛いところよりも気持ちいいところのほうが喜ばれそうですから」
「はい・・・」
宇宙の顔は、まだ火照っていて赤かった。
相手は男性だぞ。
しかもマッサージされているだけじゃないか。
宇宙は平常心を取り戻そうと心がけながら、一生懸命自分自身に言い聞かせる。
だがどんなに言い聞かせても、心臓がドキドキしてしまって、どうしようもなかった。
顔の火照りもまだ収まらない。
宇宙は、気持ちのいい箇所にオイルマッサージをされながら、チラッと足元のマッサージ師を窺った。
すると、またマッサージ師と目が合ってしまう。
「うひゃっ・・・」
宇宙は、今にも湯気が出そうな顔を慌てて反らした。
クスッと、マッサージ師の笑い声が聞こえる。
「・・・・・失礼ですが、お客様はとても素直な人ですね。感情がすぐに顔に出て、嘘がつけないというか、可愛らしいというか・・・」
などと言われてしまい、宇宙はますます顔を赤くしてしまう。
心臓なんて、もうドキドキしっぱなしだった。
このままでは、心臓発作でも起こしてしまいそうである。
見惚れるほど格好いい男性に、足の裏をマッサージされながら『可愛らしい』なんて言われてしまって。
どうしたらいいのかわからない宇宙は、思わず悩みの種でもある小学校のことを話してしまっていた。
「子供たちにはいつも『先生って可愛いね』とか『今度デートしよう』ってからかわれています。とくにすごいガキ大将が一人いて、その子に毎日からかわれています。それはもう・・・毎日が戦争のようです。あはは・・・」
「子どもたち? ガキ大将? ということは、職業は教師ですか?」
ちょうど足の裏のマッサージが終わったところだった。
マッサージ師は、最後にまたホットタオルで足のオイルを綺麗に拭き取りながら宇宙に聞いた。
「今度はうつ伏せになってください。身体中の力を抜いて・・・。特別にマッサージしてほしいところはありますか?」
宇宙がベッドに丸く開いている穴に顔を入れると、マッサージ師はうつ伏せになった背中を摩りながら優しく聞いた。