東京えっちナイト 【最終回】

すべてが終わって帰るところなのだろう。

 

少し待っていると、裏の出口から出た宇宙と遼一が、表通りに出てきた。

 

遼一は少し足取りがフラフラしている宇宙の腰を支えるようにして歩いている。

 

二人の顔には、幸せが滲み出ていた。

 

愛される喜びを噛みしめている宇宙と、愛する者と一緒にいられる喜びに浸っている遼一。

 

桜庭は、しばらくそんな二人の後ろ姿を眺めていた。

 

 

一度は断り、父親の跡はつがないと断言した遼一だが、一度目覚めてしまった修羅の心はいつか必ず生まれた場所に戻ってくる。

 

修羅の群れの中に戻ってくるのだ。

 

桜庭には、それがよく分かっていた。

 

血が血を引き寄せるとでもいうのだろうか。

 

今は嫌だと言っても、一年後は分からない。

 

三年後はもっと分からない。

 

「もう行っていい」

 

桜庭は運転手にそう言うと、静かに車を発進させた。

 

二人の横を通り過ぎる時、桜庭は不思議と藤堂四代目とその恋人である真琴の出会いを思い出していた。

 

どんなに逃げようともがき苦しんでも、真琴は決して藤堂の腕から逃れられなかった。

 

そして最後には自らの運命を受け入れ、藤堂を求めるようになった。

 

今では、裏の世界の人間なら誰でも聞いたことがある真琴も、数年前は田舎から出てきたばかりの何も知らない一般人だった。

 

三年間の間にきっと紅林組の組長を継ぐようにしてみせる。

 

きっとだ。

 

桜庭は心の中でそう呟いた。

 

そしてそんなこととはまったく知らない遼一は、最愛の宇宙の腰を抱きしめながら歩道を歩いていた。

 

今日はオープン初日を祝して、イタリアンレストランで食事をする約束をしているのだ。

 

だがウルトラスペシャルマッサージを受けた宇宙の足腰がフラフラで、今にも倒れてしまいそうである。

 

顔も上気していて、目は虚ろで、イッてしまったままの状態だった。

 

「大丈夫か?」

 

と、遼一が聞くと、宇宙は「うん、うん」と言って力なく頷いた。

 

これは大丈夫ではない。

 

イタリアンレストランは諦めたほうがよさそうである。

 

遼一は進路を変更して、コンビニに寄った。

 

そこでシャンパンとチーズ、クラッカー、生ハムなどを買い込むとそのまま帰路についた。

 

アパートで二人だけでのお祝いをしようと考えたのだ。

 

「イタリアンレストランに行かないの?」

 

まだ目が虚ろな宇宙が、コンビニで買い物をしている遼一に向かって聞く。

 

遼一は会計を済ませると、宇宙の手を引っ張ってそのままコンビニを出た。

 

「誰かさんの目が虚ろだからね。色っぽい顔をしてるし、その顔に誰かがそそられないとも限らない」

 

「・・・だって・・・それは・・・」

 

それは遼一の責任だよと、言いかけてやめた。

 

そんなことを言っても、遼一には勝てないことを知っている。

 

宇宙はそっと遼一の腕に手を絡ませた。

 

「アパートに着いたら二人だけでお祝いしよう」

 

「ああ、そうしよう」

 

遼一が優しく笑って頷く。

 

その男らしい笑顔を見て、宇宙は心の底からこの男性に出会えてよかったと思っていた。

 

巡り合えて愛し合えて本当によかった。

 

これから先、遼一と自分にどんな運命が待ち受けているか分からないが、ずっと遼一についていこうと心に誓った。

 

「ね、遼一。僕のこと愛してる?」

 

宇宙の可愛い問いに、遼一はふふっと笑った。

 

「さー、どうだろう?宇宙はどう思う?」

 

「もちろん、愛してる」

 

自信満々の宇宙の答えに、遼一はただ朗らかに笑っていた。

 

 

 

空には満天の星が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 8

桜庭は、店に入れずに困っていた。

 

窓のブラインドの隙間から、二人が激しく互いを求めている光景を見てしまったのだ。

 

男同士のセックスは、藤堂四代目とその恋人である真琴との行為で見慣れている。

 

だが見慣れているからといって、店の中に入っていく気にはならなかった。

 

「入らないのですか?」

 

ドアの前でしばらく考えている様子の桜庭に、部下の者が声をかける。

 

道端には黒い高級外車のベンツが止まっていた。

 

運転手がエンジンをかけたまま待っている。

 

スーツ姿の桜庭は、まだ若い部下には何も答えずに車の後部座席に戻った。

 

そして携帯を取り出し、リダイヤルを押す。

 

電話の相手は藤堂だった。

 

「私です。紅林組の跡目の件ですが、あと三年間待っていただくように紅林組の組長に話してもらえませんか?今は何を言っても無理だと思うのです。宇宙と遼一は深く愛し合っていて、組の存続よりも二人の未来や一緒の時間を過ごすことのほうが大事なのです。今は焦らず、しばらく時間をおいたほうがいいと思います」

 

桜庭はシルバーメタリックの携帯を握りしめ、店の中を見つめながら言葉を続けた。

 

「あちらの言い分もわかりますが、やはり遼一には時が必要です。今まで十年間という時を失っていた分、冷静になって自分を見つめ、この先どうするのかを考える時が必要です。二人で三年間暮らすうちに本来の自分を取り戻し、自分に課せられた運命からは逃れられないのだということを遼一は知るはずです。そうなれば、考えも変わるでしょう。その時に改めて話をしたほうがいいと思います。それに、一度目覚めた修羅の心がそう簡単には消えません」

 

桜庭がそう言うと、隣に部下が乗り込んだ。

 

二人のセックスが終わったと、手で合図する。

 

桜庭は無言で頷いた。

 

「はい、申し訳ありません。ではこのままもう一度戻ります」

 

桜庭はそう言って携帯を切った。

 

「四代目はなんとおっしゃってましたか?」

 

少し間を置いてから、桜庭の側近である男は聞いた。

 

桜庭は、らしくなく長いため息を漏らす。

 

「お前に任せたのだから最後まで任せるとおっしゃってくださった。紅林組の組長のほうには話をつけておくと」

 

「ですが、三年間の間に本当に結論が出るんですか?」

 

桜庭の右腕的存在のまだ若いその男は、慎重な口調で聞いた。

 

車の外から話を聞いていたのだ。

 

桜庭は横目で側近を見た。

 

「結論が出るようにいろいろと仕向けるつもりだ。店も今は景気がよさそうだが、いつだめになるとも限らない。どんな世界も一寸先は闇だからな」

 

桜庭が、何やら意味ありげに言う。

 

側近はその一言ですべて承知したのか、あとは何も聞かなかった。

 

マッサージ店を見ると、ちょうど電気が消えたところだった。

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 7

遼一は宇宙を股間の上に跨がせると、そのまま腰を落とすように言った。

 

「・・・でも・・・恥ずかしい・・・」

 

ためらいながら、宇宙が少しだけ腰を落とす。

 

すると蕾に遼一の逞しい分身の先端が当たって、ビクッと身体を震わせた。

 

熱くて逞しくい遼一自身が、宇宙の蕾の中に入りたいと待ち構えている。

 

宇宙はいったん腰を引いてしまったが、すぐに欲望に従うように腰を落としていった。

 

「あんっ・・・太いっ」

 

思わず、宇宙が呻く。

 

亀頭の半分まで入っていた。

 

「もっと・・・深く・・・」

 

遼一が宇宙の腰を掴み、そのまま引き寄せる。

 

ズルンッと音がして、亀頭の部分が宇宙の蕾に入ってしまった。

 

「あぁぁ・・・・・」

 

「もっと腰を落として・・・。それじゃ宇宙がつらいだろう?」

 

中腰でしゃがんでいるような格好をしている宇宙に、遼一が笑いを含んだ声で言う。

 

だが宇宙は亀頭の感触に酔いしれていて、うまく答えられなかった。

 

「こうして、私の上にしゃがんでしまえば楽だろう?」

 

と、言った遼一が、宇宙の腰を思いきり引き寄せる。

 

その瞬間、ガクンッと膝が崩れて、宇宙の蕾は自身の重みで肉棒を深々とのみ込んでいた。

 

「あっ・・・あぁぁーーーーーーーっ」

 

「根元まで入ると気持ちいいだろう?」

 

「遼・・・ちゃ・・・ん・・・・・」

 

「少し、腰を揺らしてやろうか?」

 

「りょ・・・りょ・・・・・」

 

「それとも、ここを握ったまま下から突き上げてやろうか?」

 

宇宙の反応を面白そうに見上げながら分身を握り、遼一が言葉を続ける。

 

その言葉に答えることなどできないくらい、宇宙は感じてしまっていた。

 

昨夜よりもずっと逞しい遼一自身が宇宙の奥深くまでズンズンッと入ってくる。

 

ズンズン突き上げている。

 

「遼ちゃん・・・そんなにしたら・・・あっ・・・あっ・・・」

 

胸に両手をついて少しでも奥に入ってしまうのを防ごうとしている宇宙が、首を左右に振る。

 

こういう体位は初めてで、しかもウルトラスペシャルマッサージの後だったから、身体中のどこもかしこも感じすぎてしまっていた。

 

イッたばかりの分身も、いっこうに衰えない。

 

それどころか、下から突き上げられるたびに、先走りが溢れ、オイルと混じっていく。

 

「あんっ・・・あん・・・遼ちゃーん・・・死んじゃうよぉ・・・・・」

 

宇宙は、ヒクヒクと泣きながら分身の感触に身悶えていた。

 

一番感じる深くて柔らかい部分に、先端が当たっている。

 

宇宙の足の指先が、自然にピクピク痙攣する。

 

遼一のシルクのシャツを掴んでいる手に、力がこもっていく。

 

「あぁぁ・・・あん・・・死んじゃうっ」

 

だが面白いことに、宇宙の腰は自然と上下に揺れていた。

 

嫌だと言いながらも、身体はより深い快楽を求めて自ら肉棒をのみ込んでいた。

 

クチャクチャッと、宇宙の腰が上下に揺れるたびにいやらしい音が聞こえる。

 

そして宇宙の喘ぎ声も、途切れることなく店の中に響いている。

 

「遼ちゃん・・・お願い・・・もう・・・死んじゃう・・・・・」

 

「いいよ、死んじゃっても。どうせまたすぐに生き返って喘ぐんだから」

 

「あぁぁぁ・・・・・遼ちゃーん・・・・・」

 

宇宙は、ひときわ早く腰を動かして自分から絶頂の中に飛び込んでいった。

 

「知ってた宇宙?宇宙がイクとこね、ここがキュッと幾重にも締まって私に目眩がするような、経験がしたことがないような快感を与えてくれるんだ。ほら・・・ここがキュッと締まる・・・」

 

遼一はそう言って、腰を上げた宇宙との間に手を忍び込ませ、目いっぱい開いている蕾を指の腹で撫でてやる。

 

「あぁぁ・・・いいっ・・・遼ちゃん・・・いいよぉ・・・・・」

 

蕾の入り口を指の腹で触られた宇宙は、背筋にゾクッとするような快感を感じた。

 

分身を握られ、蕾に肉棒を挿入させられ、蕾の入り口を指の腹で弄られている宇宙に、絶頂感を押しとどめることはできなかった。

 

そのまま一気に高みへと昇っていく。

 

「あぁぁぁぁーーーーーーイクーーーーーーっ」

 

宇宙の張り上げた声が、店の中で響き渡る。

 

外にまで聞こえてしまうのではないだろうかというような、大きな喘ぎ声だった。

 

「遼ちゃーん・・・中が・・・中が・・・クチュクチュしてて・・・もうだめぇぇ・・・・・」

 

宇宙は絶頂感を十分に味わいながら、叫び続けた。

 

「あぁぁ・・・いいのぉ・・・すごくいいのぉぉ・・・・・」

 

だが遼一の分身はまだ元気なままだった。

 

宇宙のようには、まだ頂点を極めていない。

 

「宇宙、愛してるよ」

 

宇宙の乳首を指先で摘みながら、遼一はすべての想いを込めて言った。

 

「あんっ・・・遼ちゃーん・・・」

 

だが絶頂を味わっている宇宙には、その想いが伝わったかどうかは分からない。

 

だがそれでも遼一は、左右の乳首を摘み、指先で丹念に愛撫しながら言った。

 

「愛してる」

 

「遼・・・ちゃん・・・もう・・・も・・・・・」

 

宇宙は意識を失う寸前だった。

 

ビクビクッと下半身が震え、勃起したままの分身はピクピクと震えている。

 

指先で愛撫されている左右の乳首もツンっと突き出ていて、まるで強く吸われたようだった。

 

「遼・・・ちゃ・・・ん・・・・・」

 

意識を手放す寸前、宇宙は遼一の愛の囁きに応えるように遼一を呼んだ。

 

遼一はその言葉を聞きながら、満足したように再奥の部分に飛沫を吐いた。

 

ドクンドクンッと遼一の分身が激しく脈を打つ。

 

その脈が伝わったのか、宇宙は意識を失ってからも小さな声で喘いでいた。

 

グッタリと前のめりで倒れている宇宙の背中を優しくさすりながら、遼一は耳元で何度も囁いた。

 

「愛してる」

 

自分で囁いているその言葉を聞きながら、遼一は安息の一時を味わうようにゆっくりと瞼を閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 6

遼一は何度も詰るようにそう言って、宇宙をいじめていく。

 

宇宙はもう、泣き出してしまいたい心境に陥っていた。

 

「だって・・・気持ちいいから・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

三本に増やされた指が、ゆっくりと挿入されていく。

 

もう片方の手は、パンパンに張りつめている自身をクチャクチャと音を立てながら撫でている。

 

その強弱をつけた撫で方が絶妙で、宇宙はいつの間にか子猫のような鳴き声を上げていた。

 

「あっ・・・にゃあ・・・あぁぁぁ・・・ん・・・・・」

 

甘ったるいその喘ぎ声を聞きながら、遼一は亨に犯されながらも決して自分自身を失わなかったあのときの宇宙を思い出していた。

 

自由を束縛された中で、宇宙は自分の身代わりとなって亨に抱かれた。

 

あのまま逃げればよかったのに。

 

どうしてまた捕まるような馬鹿をしたのか。

 

遼一は恭也の手に握られた玩具に貫かれ、喘ぎまくっている宇宙を瞬きもしないで見つめながら心の中で思った。

 

こういう痛みを甘んじて受け、その痛みに耐えなければ遼一を愛する資格はないのだと、自分自身に言い聞かせているのだと。

 

そのことに気づいた時、遼一は再び修羅の心を目覚めさせた。

 

そして、足枷の鎖を引きちぎったのである。

 

「遼ちゃん・・・もう・・・もう・・・お願いっ・・・・・」

 

宇宙は涙を流して遼一に訴えた。

 

もう今すぐにでも、遼一が欲しいのだ。

 

目がそう訴えている。

 

だが遼一は、まだやる気にはならなかった。

 

もう少し、ウルトラスペシャルマッサージで宇宙を酔わせてみたい。

 

宇宙を愛してあげたい。

 

「まだ、だめだよ。もっと私を楽しませてくれなくちゃ・・・」

 

「遼ちゃん・・・。許して・・・ほんとに・・・もう・・・」

 

と、宇宙が可愛い声で訴える。

 

その可愛らしさに、実は遼一はもうメロメロだった。

 

本当は自身もいきり立ち、すぐにでも突っ込みたい衝動に駆られていた。

 

だがその本能をギリギリのところで抑え、宇宙を感じさせるためのウルトラスペシャルマッサージへと集中していく。

 

宇宙の蕾からは、指が出入りを繰り返すたびにベビーオイルが溢れ出している。

 

ベビーオイルだけではなく、自然と潤っている体液も混じっていた。

 

そんな中、指が三本に増やされる。

 

宇宙自身への愛撫も、いっそう熱を帯びていく。

 

「あっ・・・あっ・・・もう・・・・・」

 

三本の指が挿入されたとたん、宇宙はまたイッてしまった。

 

今度は分身ではなく、三本の指を飲み込まされている蕾で絶頂を迎えた。

 

極めた瞬間、蕾の内壁が別の生き物のようにキューッと指を締めつける。

 

その巧みな刺激がまた快感となって、宇宙の思考を激しく揺さぶった。

 

「あんっ・・・あっ・・・遼ちゃん・・・そんなにしたら感じすぎちゃって・・・」

 

「いいよ、感じて」

 

クスッと笑いながら遼一が言う。

 

「もう・・・どうにかなっちゃう・・・。中がクチャクチャしてて・・・蕩けちゃうっ」

 

両目を閉じた宇宙が、感じるまに訴える。

 

遼一はその素直すぎる反応に、またクスッと笑った。

 

「蕩けちゃっていいよ。昨日も・・・いつでも宇宙は蕩けてるだろう?」

 

「い、意地悪・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

宇宙が両脚を抱えたまま、ひときわ大きな喘ぎ声を発する。

 

立て続けにもう一度、蕾で絶頂を極めてしまったためであった。

 

昨夜、嫌というほど肉棒で責め抜かれた余韻が残っているせいもあるが、宇宙はもともと、とても感じやすい身体をしているのだからしょうがなかった。

 

それにしても、今日は久しぶりのせいもあるかもしれないが、感じ方が尋常ではなかった。

 

蕾から溢れているオイルが宇宙の愛液と混じり合い、遼一の手首まで滴っていた。

 

三本の指を深々とのみ込みながらも、蕾はまだ欲しいと訴えていた。

 

その貪欲さと宇宙の初な可愛い顔が一致しないところがまたいい。

 

たまらなくいいのだ。

 

遼一は、クチュクチュッと動かしていた三本の指を引き抜いて言った。

 

「・・・・・宇宙、私が欲しい?」

 

遼一の言葉に、宇宙が縋るような眼差しを向ける。

 

そして力のない両手を伸ばして言った。

 

「・・・欲しい・・・。今すぐに遼一が欲しい・・・」

 

「だったら、それを証明して見せて。どうしたら私に抱いてもらえるのか、知ってるだろう?」

 

遼一がベッドに腰を下ろして言う。

 

宇宙は狭いベッドの上で一生懸命起き上がると、そのまま遼一のスラックスのファスナーを下げた。

 

分身がすっかり元気になっていて、うまくファスナーが下がらない。

 

だが、ようやくファスナーの中から逞しい遼一自身を剥き出しにすることに成功した宇宙は、無我夢中でそれをしゃぶり始めた。

 

「・・・・・んっ・・・んんっ・・・はぁ・・・・・」

 

口の中いっぱいに、遼一自身が入り込む。

 

「・・・ぐうっ・・・んん・・・・・」

 

喉の奥まで無理にのみ込んでも、まだ少し根元のほうが余っていた。

 

それでも遼一は一生懸命両手を使いながら、分身を愛撫し続ける。

 

「宇宙・・・いいよ。とてもいい」

 

宇宙の柔らかな髪を優しく撫でながら、遼一が呻くように言う。

 

「・・・はぁ・・・んっ・・・んくっ・・・」

 

宇宙は抱いて欲しいという一心で、遼一の分身を口で愛撫していた。

 

遼一が欲しい。

 

遼一の太くて逞しい分身が欲しい。

 

とろとろに蕩けてしまっている蕾の奥深くに、思いきり突っ込んでほしい。

 

脳天に突き抜けるくらい、激しく貫いてほしい。

 

「遼・・・ちゃん・・・んんっ・・・早く・・・欲しい・・・・・」

 

可愛い舌先で愛撫しながら、宇宙が潤んだ熱い瞳で訴える。

 

いつの間にかベッドで仰向けになった遼一は、そんな宇宙に向かって両目を細めた。

 

「これが欲しかったら、私の上に乗るんだ。昨夜もやったからできるだろう?」

 

「う・・・うん・・・」

 

遼一の上に乗るということは、騎乗位ということである。

 

昨夜、初めて騎乗位を試してみた。

 

すると想像以上に宇宙は喜び、新たな快感に酔いしれていた。

 

下から見上げる宇宙の感じている姿に酔いしれながら、遼一もとろとろに蕩けている蕾の感触を味わい楽しんでいた。

 

昨夜の快感を身体が覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 5

遼一の手が上下に揺れると、宇宙の腰も自然と浮いた。

 

遼一の手が与えてくれる特別な快感を、目いっぱい感じて喘いでいた。

 

クチャクチャッと、手が上下に揺れるたびに淫らな音がする。

 

その音を聞きながら、宇宙の快感がもっと増していく。

 

「宇宙はここをこうされるのが、好きだよね?」

 

亀頭の部分で指を止め、張っているそこを何度も指の腹で弄る。

 

「あっ・・・あんっ・・・遼ちゃんーん・・・・・」

 

「それと、ここもこうされると感じちゃってたまらない?」

 

と言った遼一の指が、先端の割れ目に小指の先を挿入する。

 

「あぁぁ・・・・・」

 

小指はギリギリまで入るそこで止まってしまうが、宇宙に与える快感は最高潮に達していた。

 

小指を上下に動かし、クチュクチュッと音を立ててやると、宇宙は腰を左右に振って喜んだ。

 

「あんっ・・・あっ・・・あっ・・・だめぇぇ・・・・・」

 

遼一のもう片方の手は、根元の部分で上下に動いている。

 

上と下からの刺激に、宇宙は呆気なく果ててしまう。

 

「あんっ・・・イッちゃう!」

 

宇宙のひときわ大きな声。

 

その声が発せられると同時に、小指が挿入されている先端から白い体液がドピュッと飛び出す。

 

その勢いで、小指が押し出される。

 

「あぁぁぁーーーーーーーっ」

 

絶頂を極めた声が、マッサージルームに響く。

 

ピクピクッと、白い内股が痙攣する。

 

「もうイッちゃったの?」

 

わざと呆れるように、遼一が言う。

 

顔を見ると、少し笑っているようだった。

 

わざとイクように愛撫しておいて『もうイッちゃったの?』と呆れてみせるなんて、遼一の意地悪。エッチ。

 

「いま、エッチって顔したな?」

 

遼一は、指先で白い飛沫をオイルで混ぜながら、クスッと笑って言う。

 

宇宙はどうして分かっちゃったんだろうという顔をして、恨めしそうに遼一の男前の顔を見上げた。

 

どこからどう見ても大人の魅力に溢れているステキな遼一。

 

こうして見ているだけでも頭の中がポーッとしてくる。

 

エッチな遼一も、大好き。

 

「だって・・・」

 

「私はエッチだよ。宇宙のことになるとエッチになる。宇宙のすべてが欲しいから、宇宙のすべてを見たいから、だからもっとエッチになるんだ。分かった?」

 

「ーーーーーーうん」

 

顔を赤らめて、恥ずかしそうに宇宙が返事をする。

 

こういうときの遼一は、決して反抗できない帝王のような威圧感を持っていた。

 

あの一件が、遼一の中で眠っていた修羅の心を目覚めさせ、本当の遼一をあらわにしたのがきっかけだったが、宇宙はそんな遼一も腰が砕けてしまいそうなくらい好きだった。

 

優しい遼一も好き。

 

でもエッチで強引で、さまざまなことを命令してくれる遼一はもっと好きだった。

 

「今の返事はとてもよかったよ。素直で可愛くていじらしくてーーーーー」

 

「遼ちゃん・・・・・」

 

「その潤んだ瞳もとてもいい。すごくそそられる。もっともっといろいろなことをしてあげたくなる。こんなことも・・・・・・」

 

と、言った遼一の指が、ヌルンッと滑るように宇宙の蕾の中に入っていく。

 

「あっ!」

 

あまりにも突然のことだったので、宇宙はびっくりしたような声を上げ遼一を見上げた。

 

「遼ちゃん・・・指が・・・入っちゃってる・・・」

 

蕾の奥深くまで、中指が一本入っている。

 

「入れたんだから入ってるよ。ほら・・・」

 

「あんっ。あっ・・・ヌルヌルして・・・動いてるぅぅ・・・」

 

宇宙が、ベッドの上でのけ反って喘ぐ。

 

腰が自然に浮いて、前後左右に動いてしまう。

 

昨夜もずっと遼一の分身を迎え入れていた蕾の内部は、熱くとろとろに溶けていた。

 

その延長からか、挿入された指を難なく受け止め、時折キュッと締めつけてしまう。

 

「そんなに締めたら動かせないよ。もっと緩めて・・・」

 

「そんなこと言われても・・・あんっ・・・無理・・・あぁぁ・・・・・ 」

 

「無理じゃない。ほら・・・ここから力を抜いて・・・こっちに集中してごらん」

 

遼一がここと言った箇所は蕾で、こっちと言った部分はいまだに衰えることのない分身の先端だった。

 

気がつかなかったが、いつの間にかまた先端の割れ目に小指が入っている。

 

「あんっ・・・そっちもだめぇぇ・・・・・・・」

 

「どうして?宇宙は挿入されたままここを弄られるのが大好きでしょ?」

 

「あぁーん、いやいやっ・・・そんなことない・・・」

 

「正直に言わないと、ずっとこのままにしてるよ。いいの?」

 

遼一の言葉には、いやらしい冷たさが含まれていた。

 

その冷たさが、ゾクリとするぐらい心地いい。

 

「あっ・・・あんっ・・・このままはいやっ」

 

「だったら正直に言いなさい。宇宙はこっちに指を挿入されたまま小指を突っ込まれるのが好きでしょ?」

 

「あーんっ、好きっ。大好きっ。蕾に指を入れられて・・・先端に小指を入れられるの大好きっ。もう・・・どうにかなっちゃうぐらい好きなのぉ・・・・・」

 

そう言った宇宙の瞳に、涙がうっすらと浮かんでいる。

 

指をのみ込んでいる腰は相変わらず、いやらしい動きをくり返していた。

 

遼一が、ふふっと満足げに笑う。

 

「そう、それでいい。私は素直な宇宙が一番好きだよ」

 

「あんっ・・・遼ちゃん・・・遼ちゃーん・・・・・」

 

宇宙の蕾に挿入される指が二本に増やされ、そして挿入される。

 

「あぁぁーーーーーーっ」

 

ズルッと音がした二本の指は、一気に奥深くまで挿入した。

 

中は、まるで蝋で溶かされた蜂蜜のように熱くヌルヌルしている。

 

それは女性の愛液よりも、もっと濃厚なヌルヌル感だった。

 

「宇宙、どこが一番気持ちいい?」

 

遼一は、意地悪な質問をしてみた。

 

宇宙は身体をくねらせて喘ぎながら「全部」と言った。

 

「全部じゃ分からないよ」

 

遼一が言う。

 

宇宙は、気持ちよくてどうにかなってしまいそうな感覚の中で、必死にどこが気持ちいいのか探っていた。

 

だがそうやって探れば探るほど、どんどんそこが敏感になっていって、もっと感じてしまう。

 

「あぁぁ・・・いいっ・・・。全部・・・感じるっ・・・」

 

「だから、全部じゃ分からないって」

 

くすっと柔らかく笑いながら、遼一が言う。

 

宇宙は狭いベッドの上で肢体をくねらせながら喘ぎ、そして首を振る。

 

蕾に挿入されている指先が、一番感じる部分を何度も突っついていたのだ。

 

しかももう片方の手は、勃起した自身の割れ目を出たり入ったりを繰り返している。

 

パンパンに張り詰めた宇宙自身は、今にも爆発しそうだった。

 

「もう・・・どう・・・にかなっち・・・ ゃうっ!」

 

宇宙が、とぎれとぎれにせつなげに言う。

 

意識を保つのがとても苦しい状態だった。

 

チョットでも気を緩めればイッてしまって、その拍子に意識を手放してしまいそうだった。

 

「指を増やしてあげようか?それとも、このままもう一回、イク?」

 

遼一の言葉には、愛しさと意地悪さが入り交じっていた。

 

宇宙は涙ぐんだ瞳でじっと見上げて「ううん」と言って首を振る。

 

どっちも嫌だと言いたかったのだが、遼一には通じなかった。

 

「そうか。もう一本、増やしたいのか」

 

「ち、違うっ・・・あっ・・・遼ちゃん・・・だめっ」

 

遼一の指が、ズルッと抜ける。

 

その隙に宇宙が必死に脚を閉じようとする。

 

だが下半身からはすっかり力が抜けていて、脚を閉じるどころか、膝を立てることもできなかった。

 

遼一はそんな宇宙の両脚を持ち上げ、自分で抱え込むような格好をさせる。

 

こうすると、もっと蕾が見えて、しかも奥深くまで指が入りやすかった。

 

オイルが、白いお尻を伝ってベッドのシーツに落ちていくさまがよく見える。

 

「いやらしい格好だな、宇宙。お前の恥ずかしい部分まで丸見えだぞ」

 

と、その格好をさせた遼一が詰るように言う。

 

宇宙はその言葉を聞いて、耳まで真っ赤にさせて首を横に振った。

 

「いやいやっ・・・いやっ・・・・・」

 

「私の指を二本ものみ込んでおきながら、まだ足りないと言って口を広げている。ほら、ピクピクしてる、分かるだろう?」

 

と、指の腹で蕾の入り口を愛撫する。

 

するとさっきまで開いていた蕾は、すぐにピクピクッと反応を返して口を広げた。

 

「宇宙の蕾は本当にいやらしい蕾だな。こんなにいやらしい蕾は珍しいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 4

ラベンダーが最後のお客様を送り出すと、外はもう真っ暗だった。

 

「ありがとうございました」

 

二人で丁寧にお辞儀をする。

 

OLの客は、そんな二人に満足したような笑みを浮かべて帰っていった。

 

「つ、疲れたぁぁーーーーーっ」

 

宇宙は店の中に入るなり、ドタッとベッドに横になった。

 

今日はオープンから手の休まるときがないくらい忙しく、大盛況だった。

 

初めてということもあって、宇宙はもう、手脚を動かすこともできないくらい疲れ切っていた。

 

「・・・マッサージ、されたい」

 

宇宙がボソッとそんなことを呟く。

 

身体があっちこっちで悲鳴を上げていて、正直そんな気分だった。

 

するとその一言を耳にした遼一は、うつ伏せで寝ている宇宙の肩にそっと触れた。

 

「特別にマッサージしてあげるよ。今日は初日で疲れただろうから」

 

「ほんとに?やったぁーーーーーっ」

 

素直に喜んで、宇宙が手脚をベッドの上で伸ばす。

 

そして顔をベッドに開いている穴に当てた。

 

「よろしくお願いしますっ」

 

急に元気になった宇宙が言う。

 

すると遼一はクスクスと笑いながら、宇宙の凝っている肩や背中に触れていった。

 

「き、気持ちいい・・・。あぁ・・・そこそこ・・・いいぃぃ・・・・・」

 

「ここ?」

 

「うん、そこっ。あっ・・・いいっ・・・・・」

 

遼一がツボを押してくれるので、色っぽい声が自然と出てしまう。

 

肩から背中、腰まで丹念にマッサージしながら、遼一は嬉しそうにその声を聞いていた。

 

宇宙の身体にマッサージをしてあげるのは久しぶりだった。

 

マッサージの仕方を教えている間は、他人の身体で実習し覚えていく。

 

だから宇宙の身体に触れたり、反対に遼一の身体に触れたりする機会は、夜の甘い時を除けばあまりなかった。

 

昨夜は、狭いアパートでたっぷりと愛し合った。

 

だけど、こうしていると、まだ愛し足りないような気がしてくるから不思議である。

 

「遼ちゃん・・・そこ・・・だめ・・・」

 

宇宙が、腰のツボを押されると、とたんによがってしまう。

 

遼一はわざと宇宙の弱いツボを押しながら、宇宙が発する甘い声を楽しんでいた。

 

セックスしているときとはまた一味違う甘い声。

 

遼一は耳を擽るような宇宙の喘ぎ声がたまらなく好きだった。

 

「宇宙。久しぶりにウルトラスペシャルマッサージ、してあげようか?」

 

不意に、遼一は言った。

 

その言葉を聞いた宇宙が驚いたように「えっ?」と言って振り返る。

 

「でも、それはもう誰にもしないって・・・」

 

「宇宙は別だよ」

 

「でも、嫌なこと思い出しちゃうんじゃないの?」

 

宇宙は、亨の囲われ者として過ごしてきた屈辱の十年間を思い出してしまうのではないかと。

 

そのことが心配だった。

 

だからもうウルトラスペシャルマッサージも、スペシャルマッサージも二度としないって誓ったはずなのに。

 

「宇宙のためにしてあげたいんだ」

 

遼一が、両目を細めて言う。

 

宇宙はその瞳を見つめて、小さく頷いた。

 

「・・・遼一がしたいなら・・・」

 

「ああ、したい。宇宙をウルトラスペシャルマッサージで愛してあげたい」

 

遼一の言葉には、迷いなどいっさいなかった。

 

心の底から宇宙を愛したい、そう思ってくれているのが伝わってくる。

 

宇宙は仰向けにベッドに寝ると、シルクのシャツと黒いスラックスを脱ぎ出した。

 

そして下着までもすべて脱ぎ捨てると、裸の状態で遼一が来るのを待っていた。

 

その間に遼一は店の戸締りをして、ブラインドを閉めていた。

 

遼一が再び宇宙の前に現れると、その手にはベビーオイルが握られていた。

 

ベビーオイルを見ただけで、宇宙の心臓がドキンッと大きく高鳴ってしまう。

 

半年前のあのとき、ラブホテルで、たった一度だけしてもらったことがあるウルトラスペシャルマッサージ。

 

セックスとはまったく異なる快感を与えてくれるウルトラスペシャルマッサージを、実は宇宙は大好きだった。

 

ずっとしてほしいと、密かに思っていたのも事実なのだ。

 

「用意はいい?」

 

遼一が、男前の顔で優しく聞く。

 

仰向けで寝ている宇宙は、頬をほんのりと朱色に染めながら「うん」と可愛らしく頷いた。

 

遼一がベッドの横に腰を下ろし、ベビーオイルをたっぷりと手にとる。

 

そしてとろりと垂れるベビーオイルを、直接宇宙の分身の根元に垂らした。

 

「あっ・・・」

 

たったそれだけのことなのに、とたんに喘ぎ声が上がる。

 

宇宙の分身は、ウルトラスペシャルマッサージを期待してか、もうすっかり勃起していた。

 

ピクンピクンッと、遼一の前で動いている。

 

「もう、感じてるの?」

 

「だって・・・久しぶりだから・・・」

 

宇宙は顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で見つめる。

 

遼一は、オイルがたっぷりと付着した手で、そんな分身をやんわりと包み込んだ。

 

「あんっ」

 

また、宇宙の口が上下に開く。

 

ベビーオイルの感触は、ヌルヌルしていてとても甘美な感じがした。

 

口で愛撫されているときと、少し違う。

 

もっと刺激的で、もっと熱くて、もっと官能的で。

 

でも、遼一の口で愛撫されるのも大好きな宇宙。

 

「あっ・・・遼ちゃん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 3

さっきからずっと通りのウインドーのほうを向いている宇宙に、足裏マッサージをしている遼一がそっと声をかけた。

 

「あっ、ううん。別に何も・・・。ただ・・・てっちゃんが今通ったような気がして・・・」

 

同じように足裏マッサージをしている宇宙は、小声で答えた。

 

とたんに、遼一もウインドーのほうを見る。

 

だが窓の外は花で埋もれていて、通りが見える隙間はわずかだった。

 

「本当にてっちゃんだったのか?」

 

指を動かし、ツボを指圧しながら遼一が聞く。

 

すると、最後に蒸しタオルで客の足を綺麗に拭いている宇宙は、不思議そうに首を捻った。

 

「見たわけじゃなくて、なんとなくそんな気がして・・・」

 

宇宙の言葉を聞いた遼一が、柔らかく笑う。

 

そんな気がして・・・と宇宙が言うと、本当にそうだったような気がしてくるから不思議だった。

 

もしかしたら本当に、てっちゃんと丸君が様子を見に来てくれたのかもしれない。

 

遼一はマッサージをしながら、心の中でてっちゃんと丸君に『ありがとう』と呟いた。

 

そして宇宙も。てっちゃんと丸君の顔を思い浮かべながら、心の中で『ほんとにありがとう』と呟いた。

 

 

 

 

 

藤堂四代目の命を受け、遼一の様子を見に来ていた桜庭は、予想どおりの光景に思わず笑みを漏らしていた。

 

店から少し離れた横道に一台の黒いベンツが止まっているが、その後部座席から双眼鏡を使って店の様子や紅林組の組長の様子、そしててっちゃんと丸君の散歩の風景を観察していた。

 

「四代目のおっしゃったとおりだ。紅林組はいまだに遼一を諦める様子はないし、あれからどこかに雲隠れしていた相模鉄男もオープン初日に現れたし。それにしても祝いの花が多すぎて中の様子がよく見えないな」

 

と、桜庭が呟くと、運転手が気を利かせて少しだけ車を移動した。

 

ちょうど、店の中の様子が見える場所に来て、桜庭は身を乗り出して双眼鏡を覗き込んだ。

 

「店はなかなか繁盛しているようだな。だが問題は紅林組の跡目の件だが、どうやって組長に承諾させるか、それが問題だな。あの様子では滅多なことでは諦めんぞ」

 

桜庭は困り果てたようにそう言った。

 

藤堂四代目に、紅林組の跡目の件を一任されたものの、どのように対処したらいいのか正直頭を悩ませていた。

 

跡目である遼一は組を継ぎたくないと言い張り、一度は諦めた組長はやっぱり諦められないと言い張り、ついには泣きを入れられ、ほとほと困っていた。

 

「仕方がない。店が終わった後、もう一度だけ遼一と話してみるか」

 

困った結果の結論が、それだった。

 

「いったん、四代目のところに戻ってくれ」

 

桜庭はそう言うと、双眼鏡を隣に座っている側近の一人に手渡した。

 

「もうよろしいんですか?」

 

「これ以上二人を見ててもしょうがない。帰って対策を考えるとするか」

 

桜庭は、困惑したまま煙草を口に銜えた。

 

隣に座っていた側近の一人が、火の点いたライターを差し出す。

 

外国製の煙草をうまそうに一服しながら、桜庭は帰路についた。

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 2

「いらっしゃいませ」

 

宇宙の声が店内から聞こえる。

 

ラベンダーは予想どおり、お昼過ぎにはOLやサラリーマンで混雑していた。

 

十分間マッサージというのが人気で、料金も千円とお手軽な感覚が受けたようだった。

 

忙しそうに次々とお客様にマッサージをしていく宇宙と遼一。

 

そんな二人の様子を、向かい側のオフィスビルの二階の喫茶店からじっと見つめている人物がいた。

 

それは紅林組の組長であり、遼一の父親だった。

 

「組長、そろそろ戻りませんと・・・」

 

一人の幹部が、ずっとコーヒーを飲み続けてねばっている年老いた組長に声をかける。

 

白髪頭だが、ビシッとしたオートクチュールのスーツを着ている組長は、まだだとばかりに首を横に振った。

 

「ですが、オープン前からもう三時間にもなりますし・・・」

 

「うるさいっ!俺はまだ見ていたいんだ。事務所に帰りたいなら勝手にお前たちだけで帰れ」

 

「組長〜・・・」

 

「息子が働いている姿を見ていて何が悪いってんだ。そうだろう?それより、もっと豪華な花にできなかったのか?祝い花の数もあれじゃ全然足りんだろうがっ!」

 

店の前にドーンッと置かれた開店祝いの花輪を見て、組長がイライラしたように言う。

 

その言葉を聞いていた周りの幹部たちは、困り果てたように顔を見合わせた。

 

「・・・ですが組長。あれ以上置いたら、店が見えなくなりますよ?」

 

「店が見えなくなるのが悪いのか?どうせだったら、ドーンッと豪華にやったほうがいいじゃないか?そうだろう、ええっ!?」

 

親馬鹿と成り果てた組長に、幹部たちは何を言ったらいいのかわからない。それぞれ窓側のテーブルに座っていた幹部たちは諦めたように、何杯目かのコーヒーを注文した。

 

「組長、あの様子だと全然諦めてないですよ、遼一を跡目に据えること」

 

一人の幹部がボソッと言う。

 

すると、とても怖そうな顔をしている幹部の一人が顔を近づけて、困ったように大きく頷いた。

 

「・・・本人にはまったくその気がないのに、困ったもんだ」

 

「俺たちで説得して、なんとか跡目に座っていただくか?」

 

「いや、それは無理だろうな。あの藤堂四代目の右腕的存在の桜庭さんが直接言っても首を縦に振らなかったっていうんだからな。組長にはかわいそうだが、遼一さんには極道の世界に入る意思がまったくないんだ」

 

「だがそれを本人が自覚していないから困るんだよ。やらなきゃならないことが山のように山積みしてるし、大事な会合はすっぽかし。最近の組長は遼一さんばかりで・・・」

 

幹部たちが雁首を揃えて話し込む。

 

組長はそんな幹部たちの話などまったく気にしないで、窓から最愛の息子をじっと見つめていた。

 

「だいたい、店が小さすぎるんだ。なんでもっとでかい店にしなかったんだ?金ならいくらでも融通しろと銀行に言っておいたのに、あの野郎。ケチりやがったな?」

 

組長が独り言を言う。

 

「店員ももっと雇えばいいんだ。見ろ、あの混みようを!あれじゃあ休む暇もないじゃないか。もっと店員を雇って自分は監視だけして甘い汁だけ啜ってればいいんだ」

 

コーヒー飲みながら、イライラしたように組長が言う。

 

幹部たちはその言葉を聞いて、困惑したようにため息を漏らした。

 

「遼一さんはそれをしたくないんだって」

 

「恋人と二人で汗を流しながら一生懸命働きたいんだって」

 

「だから跡目を継ぎたくないって言っているのに、どうしてわからないかなー?」

 

幹部たちが、またため息を漏らす。

 

その日、幹部たちはずっとその喫茶店でため息を漏らし続けた。

 

 

 

 

「心配して来てみたけど、なかなかどうして、すげー混んでるじゃん」

 

そう言って店の前を通り過ぎた丸君は、薄汚れた黒いパーカーと膝のあたりが破れたジーンズを穿いていた。

 

「よかったな」

 

店の中の混雑ぶりを見て安心したように頷いたてっちゃんは、肘のところが破れたチェック柄の上着とよれよれのスラックスを穿いていた。

 

二人はまた、ホームレスに戻っていた。

 

「だから言ったろ。あの二人なら絶対大丈夫だって。あんなことがあったって、屁でもないって」

 

と、てっちゃんが言う。

 

丸君はてっちゃんを見た。

 

てっちゃんは、まだ通り過ぎた店を何度も振り返っていた。

 

よほど宇宙のことが気になるらしい。

 

「もしかしててっちゃん、宇宙に惚れちゃったりして?」

 

と、丸君が言うと、てっちゃんは思いもつかないことを言われたというような顔をして丸君を見つめた。

 

「父親と息子ほども年齢が違うんだぞ。対象外だよ?」

 

「どっちが?てっちゃんが?それとも宇宙のほうが?」

 

「俺のほうに決まってるだろうが。アホ!」

 

少し怒ったような口ぶりでてっちゃんが言う。

 

すると丸君は、少し間を置いてから俯き加減に言った。

 

「じゃあさ、俺はもっと対象外ってこと?」

 

丸君の言葉を聞いて、てっちゃんの足が思わず止まってしまう。

 

「・・・やっぱ、そうだよね」

 

丸君が諦めたような感じで言う。

 

てっちゃんは少しの間呆気に取られていたが、すぐふふっと笑って丸君のボサボサ頭をクシャッと撫でた。

 

「・・・お前は別だ」

 

「えっ?ほんと?今のほんと?てっちゃん!?」

 

再び歩き出したてっちゃんの後を必死に追いかけながら、丸君が言う。

 

てっちゃんはもう、それ以上は何も言わなかった。

 

「ねーっ、てっちゃん。もう一回言ってよ。さっきの言葉。もう一回。ねっ?」

 

だがてっちゃんは、二度と同じ言葉を口にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京えっちナイト 1

今日は、心と身体のリフレッシュマッサージ『ラベンダー』のオープン日だった。

 

天気は快晴。

 

小春日和である。

 

ラベンダーの店長は、遼一。

 

そして店員は宇宙だった。

 

教師を退職し、マッサージの勉強をして半年の間に、宇宙は足裏マッサージと全身マッサージを完璧に習得していた。

 

スペシャルマッサージとウルトラスペシャルマッサージは教えてもらっていなかったが。

 

「宇宙、いよいよだね」

 

「ほんとに、いよいよオープンだね。僚一」

 

二人は、白いシルクのシャツに黒いスラックス姿で自分たちの店の前に立った。

 

都心から少し離れたオフィス街に本日オープンする二人の店は、カーテンで仕切ったベッド二つと、足裏マッサージ用のチェアが三つ、首から肩をマッサージするために開発されたマッサージチェアが二つ、そして小さな待合室があるだけの、本当にこぢんまりとした店だった。

 

だが正真正銘、二人の店であることに変わりはない。

 

遼一が密かに貯金してきたわずかな蓄えと、宇宙の貯金を合わせて、足りない分は銀行から借金しての運転資金だった。

 

そしてやっと見つけたのが、このラベンダーの店である。

 

「それにしても銀行がよくお金を貸してくれたよね?」

 

不意に、宇宙が言った。

 

確かにそのとおりで、なんの担保もない二人が融資をお願いに行っても絶対に断られると思っていたのに。

 

店を出す大半の金額の融資を、たった一言で引き受けてくれたのだ。

 

これには、宇宙も遼一も驚いてしまった。

 

「もしかしたら・・・・・紅林組が後ろで動いていたりして?」

 

遼一が、不機嫌そうな顔で言う。

 

半年前のあの一件から、すっかり遼一の跡目のことを諦めたと思っていたのに、父親である紅林組の組長は何かにつけて遼一の周りをうろうろとしていた。

 

『何か困ったことがあったらいつでも言ってきなさい』

 

組長はたった一度だけそう言って、遼一の前から消えていく。

 

実の父親なのだし会いに来てもらっても迷惑というほどのものではなかったが、やはり遼一は困ってしまっていた。

 

もう二度と会うこともないと思っていたのに。

 

それに紅林組なんていう組織を引き継ぐつもりもまったくないし。

 

宇宙と二人で小さなマッサージの店をオープンさせて、そして一生幸せに過ごせればそれでいいと思っているのに。

 

「僕もそう思うけど・・・」

 

「やっぱりな」

 

「でも、別にいいじゃん。実の父親なんだし、この際甘えちゃえば  ねっ?」

 

と、宇宙がニコッと笑って言う。

 

その屈託のない笑顔を見て、心の中にモヤモヤを抱えていた遼一の気持ちが一気に晴れたのを感じた。

 

やっぱりどんな時も、宇宙の笑顔が一番である。

 

変な思惑など一気にどこかに吹っ飛んでしまう。

 

宇宙もいろいろとあってやっとここまできたのだ。

 

半年前のあの一件から、一番思い悩んできたのは宇宙なのに。

 

どうしてあんな純粋な笑顔ができるのだろうか。

 

恭也や亨にいいように道具で弄ばれ、自尊心を粉々に打ち砕かれたはずなのに。

 

心配する遼一に対し、宇宙はまるで何事もなかったかのように優しく笑ってこう言ったのだ。

 

『大丈夫、大丈夫。こんなことぐらい平気だって。遼一の十年間に比べたら、蚊に刺されたようなもんだって』

 

遼一はその一言を聞いて、宇宙を思いきり抱きしめた。

 

そして思わず声を上げて泣いてしまったのだ。

 

あれから半年。

 

亨も恭也もすっかり影を潜め、竜胴組も藤堂四代目の命令で解散に追い込まれたと風の噂で聞いた。

 

ヤクザ渡世のことに詳しくない二人だったが、そんな噂を耳にすると、てっちゃんと丸君を思い出す。

 

あれから一度もてっちゃんと丸君には会っていなかった。

 

というよりは、二人ともどこにいるのか分からなかった。

 

宇宙を助けてくれたホテル街の裏路地のダンボール小屋を捜し回ったが、そこには二人の姿はもうなかった。

 

他のホームレスの住処も捜し回った。

 

一言でもいいから、どうしてもお礼が言いたかったのだ。

 

だが二人は、半年前から忽然と姿を隠してしまっていた。

 

「てっちゃんと丸君にも見せたかったな、この店。きっと喜んでくれると思うんだ」

 

宇宙が、二人を思い出すように言った。

 

遼一も、淡いラベンダー色の店を見上げて感謝するように言う。

 

店の周りには開店用の花が飾られていた。

 

この開店を祝う花輪も、実は遼一の父親から贈られたものだった。

 

最初は嫌がって飾らないと言い張っていた遼一だったが、宇宙の説得によってここに飾られることを許されたのだ。

 

立派な花輪は、豪華な花々で埋め尽くされ、狭い店を取り囲むようにいくつも並べられていた。

 

そのおかげもあってか、通りを通るサラリーマンやOLたちが、何事かと店を覗いていく。

 

「ああ、そうだな。本当に不思議な二人だったよ。突然現れて私たちを助けてくれて、そして突然消えてしまうんだから」

 

「ほんと、まるでスパイダーマンだよね。でもてっちゃんと丸君は一緒にいると思うんだ。それにこの都会のどこかにいる。絶対にいるって」

 

宇宙の言葉に遼一も頷いた。

 

そしてそろそろ店のオープンの時間がやってくる。

 

今日は初日ということもあって、予約のお客様は三名だけだった。

 

だがオフィス街にあるのだから、お昼休みとか結構混みそうな予感がする。

 

「よし、仕事だ。頑張ろう」

 

「はい、店長♡」

 

宇宙は嬉しそうにそう返事をすると、遼一と一緒に自分たちの店に入っていった。

 

『ラベンダー』オープンの初日は、こうして幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 24【最終回】

遼一は肩の傷がすっかり癒えると、父親と対面していた。

 

紅林組の組長である父親は、想像以上に年老いた老人だった。

 

白髪頭、皺が深く刻まれた顔、そして心臓に病を持つ身体。

 

自分を殺すように命じた組長の正妻には会わなかったが、末期のガンで病院に入院していると聞かされた。

 

母や養父母たちを殺すように命じた正妻には、恨みや憎しみを抱いていたが、死の床にあると聞いて、その恨みつらみが消えていくのを感じていた。

 

人間はいつか死ぬのだ。

 

どんなに高い地位に上がろうと、どんなに大物政治家になろうと、いつかは死ぬ。

 

そのことが手に取るように分かった。

 

「もう、恨みや憎しみなどという感情はありません。今は宇宙と二人、静かな場所でそっと暮らしたいです」

 

都内のホテルのスイートルームで、遼一は椅子に座って言った。

 

目の前のソファには父がいる。

 

自分の横には、愛しい宇宙が寄り添うように座っていた。

 

遼一は、宇宙がいてくれれば何もいらないと思っていた。

 

巨大な組織の膨大な財産も部下たちも、広大な敷地もいらない。

 

宇宙だけがいてくれればそれでいいのだ。

 

「もう一度考えてくれ。わしがお前をどれほどの思いで捜したか・・・。きっと生きている、どこかで生きていると思い続け、捜し続け、やっと巡り合えたというのに・・・」

 

とてもヤクザの組長とは思えない弱々しい言葉に、遼一は一瞬心が揺れた。

 

もう死んでしまっていると思っていた父にやっと巡り合うことができて、情が湧かないはずがなかった。

 

一般の父親だったら、きっと涙を流して『父さん』と叫んでいたに違いない。

 

だが遼一の父親は、巨大な極道組織の組長なのだ。

 

しかも組長は、たった一人きりの息子である遼一に、後を継いでほしいと願っている。

 

遼一の人間性と極道としての素質をてっちゃんから聞いて知っている父親は、ますます遼一に後を継がせたいと望んでいた。

 

「私は生まれてから今日まで、一般人として生きてきました。途中、囲われたこともありますが、極道の世界とは無縁だと思っています。どうか他の人に組を任せてください」

 

「待て、遼一っ。よく考えるんだ。紅林組を継げば宇宙君にもいい暮らしをさせてやることができる。都内の高級マンションに住むこともできるし、欲しい物は何でも手に入れることができるんだ。男なら一度は夢見るような生活をお前は捨てるというのか?無意味だとでも言うのか?」

 

高価なスーツに身を包んでいる父親が、怒鳴るようにして言う。

 

だが、それでも遼一の決心は変わらなかった。

 

確かに、ヤクザの組長の跡目を継げば人生は百八十度変わるだろう。

 

手下の者たちは、二百人を下らない。

 

藤堂組の傘下ということもあり、四代目とは腹を割って話せる仲である。

 

遼一が望めば金も地位も思いのままだというのに、恵まれたその地位を捨てるというのだ。

 

父親は、たまらず激怒した。

 

「だめだっ!お前はわしのものだっ。絶対に手放さんぞっ」

 

と、父親が荒々しい態度に出ると、スイートルームにいた数人の側近たちが一斉に表情を厳しくした。

 

そして遼一を取り押さえようとする。

 

遼一は、おとなしくされるがままになっていた。

 

「無駄ですよ、父さん。私をどんな方法で束縛したとしても、私はあなたの言うとおりにはなりません」

 

と、遼一が言うと、父さんと初めて呼んでくれたことに感激した父が、頬に一筋の涙を流した。

 

「今・・・父さんと呼んでくれたのか?わしを父親と認めてくれるのだな?」

 

よほど嬉しいのか、握った手が震えている。

 

遼一は側近たちに肩を掴まれながらも冷静な面持ちで父を見た。

 

「あなたが生きていてくれてよかった。夢のようです」

 

「遼一・・・」

 

「ですが、そこまでです。自分の大切なものを犠牲にしてまで父さんに尽くす気にはなれません。申し訳ありませんが諦めてください」

 

と、遼一が言うと、父は大粒の涙を流して手を挙げた。

 

側近たちに、遼一を離してやるように合図したのだ。

 

自由になった遼一は、ソファから立ち上がって声を殺している父を見つめた。

 

「もう二度とお会いすることもないと思いますが、どうかお元気でお暮らしください」

 

最後にそう言うと、遼一はスイートルームを出ていく。

 

すぐに側近何人かは追いかけようとしたが、父親がそれを止めた。

 

「もういいっ。もういいのだ。追うのはやめろ」

 

「組長、しかし・・・このままでは・・・」

 

「いや、遼一の言ったとおり、無駄だ。その気のない者に何を言っても無駄なのだ」

 

組長がそう言うと、ずっと隣室で二人の様子を窺っていたてっちゃんが、姿を見せた。

 

「組長としての素質は申し分ないが、本人にその気がないなら仕方がない。潔く諦めることです。四代目には俺のほうから報告しておきます」

 

「・・・・・頼みます」

 

組長は力なくそう言って、また涙を流した。

 

てっちゃんはスイートルームを出ると、そのままエレベーターに向かって歩き出した。

 

途中で丸君と会い、一緒にエレベーターに乗り込む。

 

「どうだったの?やっぱり、だめ?」

 

丸君の問いに、てっちゃんは顔を顰めるようにして頷いた。

 

「いい極道になれるんだがなー。藤堂四代目・・・とまではいかなくても、それなりの極道になれる素質があるんだ。実にもったいない・・・」

 

「そんなこと言ったって、本人になる気がないんならしょうがないよ。宇宙と一緒にマッサージショップでも開いたほうがいいんだろう?」

 

「そのようだな」

 

エレベーターが閉まり、一階へと降りていく。

 

一階に着くと、てっちゃんは携帯を内ポケットから取り出してリダイヤルを押した。

 

出たのは、藤堂四代目だった。

 

「四代目、やはり無理でした。本人にその気はありません。紅林組の跡目相続の一件は、すべて四代目に任せるそうです。はい・・・」

 

てっちゃんが話している間、丸君はホテルのロビーを仲よく歩いていく遼一と宇宙を目で追っていた。

 

宇宙は白いタートルに白いダウンジャケットを着て、スラックスはダークグリーンだった。

 

遼一はさっきと同じ、濃紺のスーツ姿だった。

 

二人とも肩を寄り添い、楽しそうに話しては笑っている。

 

そんな二人の様子を見ていた丸君は、ふふっと笑った。

 

「幸せになれるといいな、あの二人」

 

「何か言ったか?」

 

報告を終え、携帯を切ったてっちゃんが聞く。

 

丸君はロビーから出ていく二人の後ろ姿を目で追いながら、「別に、何も」とだけ答えた。

 

「四代目はなんだって?」

 

「紅林組の跡目の件は、側近の桜庭に任せるそうだ」

 

「ふーん、ヤクザの世界もいろいろと大変なんだね」

 

「そうだ。だから俺は足を洗ったんだ」

 

「今回だけだ。また明日からホームレス暮らしに戻るさ。四代目は戻ってこいと言ってくれているが、俺は戻る気はない。三代目に一生を捧げたんだ、それで十分さ。それはそうと、亨と恭也だが、あれからずいぶんとおとなしくなったらしい」

 

と、煙草に火を点けながらてっちゃんが言うと、丸君は楽しそうに後を追いながら言った。

 

「へぇー、そうなんだ。でも父親から見放されちゃったんでしょ?政治家の夢も消えたみたいだし、かわいそうって言ったらかわいそうだよね?」

 

と、丸君が言う。

 

てっちゃんは、速足でロビーを歩きながら言葉を続けた。

 

「だがあれでよかったのかもしれないぞ。あれからあの二人、密かに付き合っているという噂だ」

 

「・・・えっ?嘘・・・?どっちが受けでどっちが攻め?やっぱり亨が攻めだよね?違うの?」

 

「さーてな。その辺は想像にお任せだ。それより、明日からはまたホームレス暮らしだ」

 

てっちゃんは、どこかさっぱりとした口調で言う。

 

亨と恭也のことで頭を悩ませていた丸君は、気分を変えたように言った。

 

「じゃ、俺もホームレスに戻ろうっと・・・。だってホームレスのほうが自由だし、てっちゃんと一緒にいられるから楽しいもん」

 

丸君の言葉に、てっちゃんはふふっと鼻で笑った。

 

「人生いろいろだからな、勝手にしろ」

 

「はーい、勝手にしまーす」

 

丸君がてっちゃんの後を一生懸命に追いながら言う。

 

ホテルの外は、少し早い雪が降っていた。

 

「明日は積もるかもしれないぞ」

 

てっちゃんと丸君は、天から降ってくる白い雪を見上げながら遼一と宇宙のことを思った。

 

その後、てっちゃんと丸君の行方を知る者はいなかった。