東京スペシャルナイト 上 34
- 2016年02月16日
- 小説, 東京スペシャルナイト
初めての桜井の口からの愛撫は、今までのスペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージとは、全然比べものにならないくらい気持ちよかった。
確かにウルトラスペシャルマッサージも、初めての快感で何度も絶頂を極めたが、この口中の感触はまた別格だった。
ねっとりとしていて温かくて、のみ込まれていく分身が思わずフニャンとなってしまうくらい気持ちいいっ。
窄めた唇が亀頭部分を何度も責める。
そにたびに、宇宙は今にも果ててしまいそうな喘ぎ声を上げて腰を揺らしていた。
「あんっ・・・あぁ・・・・・」
根元を、キュッと指先で押さえた指の加減もちょうどいい。
「あぁぁ・・・あっ・・・あっ・・・・・」
桜井の頭がゆっくりと上下に揺れるたびに、クチャクチャと淫らな音がする。
「あんっ・・・桜井さん・・・だめぇぇ・・・・・」
桜井の舌先が、先端の割れ目に入る。
性感帯を直接触れられたようなその感触に、思わず宇宙の下半身がベッドから跳ね上がる。
「ああーん・・・っ」
口中の宇宙自身も、ピクピクッと震えている。
桜井は、もっともっと時間をかけて宇宙の分身の味を楽しみたかった。
だが、そうもしていられない。
恭也があのまま引き下がるとはとても思えなかったのだ。
きっと、手下のチンピラたちがこのホテルに入ったことを恭也に伝えているはずだ。
すぐに手下たちが乗り込んでこないことを不思議に思った桜井だったが、恭也の本意をすぐに見抜いていた。
自分の策略を成功させるために、宇宙との既成事実をつくろうとしているのだ、恭也は。
桜井に取って代わるためには、桜井が宇宙と結ばれることが必要だと思ったのだろう。
桜井が宇宙を抱いたと知ったら、亨はきっと怒り狂うだろう。
自分の手持ちの駒が勝手に動き、宇宙を愛するという裏切りを見せつけたのだ。
以前逃げ出そうとしたときのような拷問を受けるくらいでは、済まないかもしれない。
だがそれでも、桜井は宇宙を愛することを選んだ。
そして宇宙も、すべてを打ち明けた桜井を受け入れてくれた。
それでも桜井を愛すると言ってくれた。
もう、迷うことはなかった。
「もっと時間があれば・・・もっと感じさせてあげられるんですけど・・・」
桜井は少し残念そうに言いながらペチャッと分身の頭を舐める。
「あんっ」
その舌先の感触が、もう頭の中がフニャフニャになってしまうくらい気持ちよかった。
分身を愛する桜井に愛撫されているというだけでもどうにかなってしまいそうなのに、先端から滲み出ている先走りまで飲み込んでくれている。
ゴクンッと喉が鳴るのだから、それが分かる。
もう宇宙は、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。
こんなことなら、ベッドで裸になる前にシャワーを浴びればよかった。
だって、汚いのに、あんなとこ。
こんなに舐められるなんて思ってなかったから・・・。
「だめぇ・・・桜井さん・・・そんなにしないで・・・だめぇぇ・・・」
宇宙は、チューチューと音を立てて先端を吸う桜井の髪を指に絡めながら訴えた。
こんな強烈な愛撫を続けられていたらすぐにでもイッてしまう。
だが桜井にしてみれば、なるべく早く宇宙の精液を飲み干して、次の段階に進みたかった。
すぐにチンピラたちが乗り込んで来ないと分かっていても、やはり恭也の動きが気がかりだったのだ。
少ない時間の中で宇宙と濃密な時間を過ごしたい。
この先、どうなってしまうか分からないのだから。
自分の運命がまた大きく変わってしまうかもしれないのだから。
そう考えたとき、桜井の愛撫の動きが止まった。
なぜ気づかなかったのだろうか。
今、宇宙を抱いてしまったら、宇宙も自分と同じ運命を辿ることになってしまうかもしれないのだ。
今、宇宙を抱いてしまったら、きっと亨は許さない。
桜井以上に、宇宙を許さないだろう。
拷問されたり、海外に売り飛ばされてしまうのは、宇宙のほうかもしれない。
どうしてそのことにもっと早く気づかなかったのかっ!
宇宙を愛するあまり、盲目になってしまっていた。
宇宙を、裏の世界に引きずり込んではいけない。
今ならまだ被害を最小限でくい止めることができるかもしれない。
桜井は、そう思うと慌てて身を引いた。
急に止まってしまった愛撫に、宇宙が不思議そうな顔をする。
「・・・やめましょう。やっぱり、宇宙を引きずり込むわけにはいきません」
桜井はそう言って、宇宙の分身から指を離した。
宇宙は、愛撫がやんでしまったということよりも、桜井の気持ちが急変してしまったことを気にしていた。
そして慌てて、離れていく桜井の上半身に縋りつく。
「だめっ・・・。桜井さん・・・だめ。言ったでしょう、僕は桜井さんと運命共同体だって。桜井さんの過去を一緒に受け入れるって」
「だけど・・・宇宙。それはそう簡単なことじゃないんです。宇宙が思っている以上に苛酷な運命が私達を待っているかもしれないんですよ。宇宙は、もう二度と教師には戻れないかもしれない。両親や友人たちとも会えなくなってしまうかもしれない。だめです。やはりそんな危険な目には遭わせられない。宇宙が愛おしいばかりに、私は一瞬盲目になっていました。このまま宇宙を抱いていたら、大変なことになっていた・・・」
桜井は、宇宙をベッドに残し、床に下りて呟くように言った。
だが宇宙は決して諦めなかった。
桜井の腕や背中に縋りつく。
「どうして?どうして急にそんなことを言うの?」
宇宙の薄茶色の瞳には涙が溢れていた。
その瞳を振り返るようにして見つめ、桜井が言う。
「私のために、宇宙の人生を変えてしまうことはできません。宇宙は、教師という職業を愛しているんでしょう?今の人生を楽しんでいるんでしょう?」
と、桜井に問われ、宇宙は改めて自分の人生を振り返った。
振り返ってもなお、桜井が愛しかった。
今の生活を失ってしまうかもしれない恐怖はある。
だけど、そんなことはいつ誰にだって起こることなんだと宇宙は思った。
突然の事故に遭って死んでしまうことだってあるじゃないか。
突然宝くじに当たって、大金持ちになることだってある。
人生は何があるか分からないのだ。
それに、たとえ桜井のせいで自分の人生が百八十度変わってしまっても、決して桜井を恨んだりしない。
決して後悔したりしない。
決して今ここで桜井に抱かれたことを悔やんだりしない。
それだけは確信が持てた。
宇宙は桜井の広い背中に後ろから抱きついて、涙ながらに語った。
「今さら、どうして僕を捨てるの?ここまでついて来たのに、どうして今さら放り出すの?そっちのほうがずっと酷でしょ。ずっとひどいよ・・・」
宇宙は泣きながら、桜井の心に訴えるように語りかけた。
桜井の心が、また揺れる。
「桜井さんのためだったら、僕・・・どうなってもいいって本気で思ってる。桜井さんの苦しみを一緒に背負いたいって、本当に思ってる。それだけじゃだめ?ねぇ、僕を抱く理由にはならない?」
泣きじゃくりながら宇宙が言う。
桜井の心が、大きく揺れた。
もうだめだと思った。
せっかく、心を鬼にしたのに。
心を鬼にして、自分の欲望を抑えようとしたのに。
今の宇宙の言葉ですべてが消されてしまったのだ。
「・・・本当に・・・いいんですか?」
桜井は、振り返って宇宙の顎を掴んだ。
顎は涙で濡れていた。
「だから、さっきからいいって言っているじゃないっ。僕は桜井さんを愛することに命をかけるって・・・さっきからずっと言ってるじゃない」
少し怒ったような口調で宇宙は言った。
たまらなくなった桜井は、宇宙をギューッと抱きしめる。
どんな犠牲を払ってでも宇宙が欲しい。
どんな悲惨な運命が待ち受けていたとしても、宇宙が欲しい。
今すぐに。
桜井はもう迷わなかった。
恭也の策略にのったとしても、それがなんだというのだ。
互いに求め合っている二人が一つになるのに、理由なんていらなかった。
「宇宙、愛してます。今まで私は他人に対してこんな気持ちを抱いたことはありません。本当に・・・ 愛してます」