東京スペシャルナイト 下 20
- 2016年04月29日
- 小説, 東京スペシャルナイト
愛する遼一以外の男に、こんな目に遭わされている自分が情けなくてつらくて、汚らわしく思えてしまう。
遼一以外の男に陵辱されて感じてしまっている自分の身体が憎くてしょうがなかった。
しかもその姿を遼一に見られてしまっている。
ひどいことをされながらも、激しく喘いでいる姿を愛しい遼一に見られてしまっている。
そのことが一番悲しかった。
「遼ちゃん、見ないでっ。お願いだから・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」
宇宙は涙を流している瞳で遼一を見つめて、哀願した。
遼一はもう、ベッドの上で怒鳴ったり叫んだりしていなかった。
ただじっと、両目を見開くようにして、亨に貫かれそうな宇宙の姿をじっと見つめている。
遼一の様子がおかしい。
だがそのことには、誰も気づいていなかった。
亨も恭也も宇宙の反応に釘付けになっていたし、他のヤクザたちも宇宙の魅力の虜となっていたからである。
「・・・宇宙・・・」
遼一は、足枷を嵌められている足首から血を流したま、じっと宇宙を見つめていた。
両目を見開き無表情のまま、遼一は全身から頂点に達した怒りのオーラのようなものを発しながら、ベッドの上に座っていた。
全身の毛が総毛立つような力強い覇気が、遼一の全身を取り巻いている。
そのことに初めて気づいたのは、涙の瞳でじっと遼一だけを見つめていた宇宙だった。
見た目は平静を装っているようだったが、心の底から怒っているのが分かった。
目つきが違う。
遼一の全身から、強い覇気が漂っている。
「・・・やめろ」
遼一は、低い声でそう言ってベッドから下りた。
だが遼一は、ずっと自由を束縛してきたその枷の鎖を、いとも簡単にぶち切ってしまった。
ガシャーンッと鎖が切れた音がして、ヤクザの一人が振り返る。
だがそれよりも早く、遼一の拳がヤクザの顔面にヒットした。
ドカンと、ヤクザの身体が床に転がる。
ヤクザはたった一発殴られただけなのに、気絶していた。
その騒ぎにようやく気づいた亨と恭也は、驚いたように遼一を見た。
足枷の鎖は見事に千切れ、全身から怒りのオーラと覇気を漂わせている遼一の姿は、まるで仁王のようだった。
その姿を見て、亨と恭也が思わず宇宙の身体から退く。
今までの遼一とはまるで別人のようだった。
恐ろしく吊り上がった目と眉間に寄せられた皺。
唇は横一文字に噛みしめられ、まだ枷が嵌まったままの足首から流している血が、遼一をもっと強烈に印象づけた。
どうして足枷の鎖が切れたのだ?
あれは、人間の力では到底切れるものではなかった。
「り、遼一?お前・・・・・」
立ち上がり、身支度を整えながら亨が足を後退させていく。
十年近く遼一を囲ってきたが、身が縮むほどに恐ろしいこんな遼一を見たのは初めてだった。
それは恭也も同じだった。
もう宇宙のことも自身のことも諦めたと思っていたのに。
まだ抵抗する力が残っていたなんて。
しかも、今までの遼一とは明らかに違うのだ。
これはもしかして、抑え込んだ修羅の心が再び目覚めてしまったのでは?
亨と恭也は、同時にそう思っていた。
「・・・遼一」
「宇宙を離せ。私の宇宙に触れるな」
遼一は仁王のような形相でそう言いながら、宇宙のそばに近づいていく。
ビデオを撮っていたヤクザや他のヤクザたちも、あまりにも豹変した遼一の姿を見て、愕然としていた。
「宇宙は渡さない・・・と言ったらどうするんだ?」
宇宙から離れた恭也が、遼一に言う。
すると遼一は、カッと両目を見開いて近くにあった木の椅子を恭也に向かって投げつけた。
とっさのところで避けたが、その椅子は壁に激突して大破した。
バラバラになった木の椅子を見た恭也は、ゾクっと背筋に冷たいものを感じた。
避けていなかったら、顔に大ケガをしていた。
遼一は心が優しくおとなしい性格なので、他人を傷つけるようなことは決してなかったのに。
やはり、極道の跡取りという血が、そうさせるのだろうか。
「宇宙を自由にしろ」
遼一は、眉間に皺を寄せたまま恭也に言った。
恭也は亨と顔を見合わせ、このままではまずいと互いに心の中で思う。
恭也は、スーツの内ポケットに入っている拳銃に指を忍ばせながら、隙を見つけるために宇宙のロープを解くように命令した。
ヤクザたちは、仁王のように変貌した遼一を唖然として見つめながら宇宙の身体に巻き付いているロープを解いていく。
両手が自由になり、両脚も閉じるようになった宇宙は、嬉しくて思わず泣いてしまった。
長時間床に寝かされていた宇宙は、自由になっても脚が言うことを聞かない。
ガクガクしてしまって、腰に力が入らなくて立ち上がることができなかった。
「遼一・・・・・」
助けを求めるように宇宙が遼一を見上げる。
白いガウンを着ている遼一は周りに目を配りながら、同じようなガウンをクローゼットから持ち出し、宇宙の裸体に羽織らせた。
そして腰に腕を回すようにして、ふらふらの宇宙を立ち上がらせる。
「遼ちゃん・・・・・」
安心したのか、涙ながらに宇宙が言う。
「宇宙、もう大丈夫だよ」
「遼ちゃん・・・・・」
宇宙の身体を片腕で抱き寄せ、そのまま病室を出て行こうとする。
だがそんな二人の前に、拳銃を握った恭也が立ちはだかった。
「おっと・・・。そこまでだ。二人とも、おとなしくしろ」
恭也は、一度遼一に向けて撃った拳銃を向け、形勢が逆転したかのように余裕の声で言う。
遼一と宇宙が初めて結ばれたラブホテルで、一度肩を撃たれた拳銃。
その銃口は遼一ではなく、横の宇宙の胸に向いていた。
そのことが、遼一のかろうじて保っていた理性を一気に爆発させてしまった。
遼一が腰から手を放し、そのまま恭也の首を掴む。
「うぐっっ・・・う゛う゛っ・・・」
恭也はとっさのことで、対処ができなかった。
首を絞められ息ができない恭也は、拳銃を遼一に向けそのまま引き金を引こうとする。
だが遼一は、拳銃を握っている恭也の手を空いているほうの手で掴み、ねじり上げた。
身長の高い遼一に腕をねじり上げられた恭也は、たまらず拳銃を床に落としてしまう。
その拳銃を夢中で拾った宇宙は、ブルブルと震えてしまっている手でなんとか握っていた。
銃口は、さっきまで自分の身体を玩具のように弄んでいた亨に向けられている。
「よせっ・・・やめろ」
はっとした亨が、一人のヤクザの陰に隠れて叫ぶ。
ヤクザたちも拳銃を手に持っていたが、亨か恭也の命令がなければ撃つことはできなかった。
「撃ってもよろしいんですか?」
黒いスーツ姿の一人のヤクザが聞く。
亨は答えを出すのに少し迷ったが、震える手で拳銃を掴んでいる宇宙と目が合ったとたん、もしかしたら自分が撃たれるかもしれないという恐怖に駆られた。
「う、撃ってもいいっ。撃てっ・・・」
亨が叫ぶ。
ヤクザたちが一斉に拳銃を構える。
遼一は、そんなヤクザたちの前に恭也の身体を盾にするようにして立たせた。
「宇宙、私の後ろに隠れろ」
「はいっ」