東京ハードナイト 13
「それは、困ったことになったね?」
個室に案内した後、大体の話を聞き終えた真琴は、深いため息とともにそう言った。
「や、やっぱりそう思いますか?」
由一はやっと人に話すことができた安堵感と同時に、多大な不安も抱いていた。
ダージリンティを飲み、少し落ち着きを取り戻した由一は、心配そうに真琴の綺麗な顔を見つめた。
青い瞳がこんなにも綺麗だなんて。
由一は真琴の顔を間近で見たときに、素直にそう思っていた。
「私が困ったと言ったのは、由一君が一般人を巻き込んでしまったことに対してです」
由一が、はっとした顔をして真琴を見つめる。
一般人って言った。
ということは、やっぱりこの人もヤクザと関係がある人なんだろうか?
でもこんなにも美麗で心までも美しいのにヤクザと関係があるなんて、とても信じられない。
「・・・一つ聞いてもいいですか?」
じっと真琴の顔を見つめている由一に、真琴は微笑みながら聞いた。
「はいっ。なんでも・・・」
「由一君は・・・堂本さんをどう思っているの?好き?それとも嫌い?」
真琴の質問は、由一をあんぐりとさせてしまうくらい突拍子もないものだった。
「あのね、由一君。正直に答えてほしいんだけど。君の正直な気持ちが、今回の一件で最も重要なことだから・・・」
と、真琴がまた微笑んで言う。
由一はその笑顔の清々しさに一瞬見とれてしまったが、すぐに我に返った。
最も重要なことってどういうことなんだろうか。
由一は堂本を好きか嫌いかと尋ねられて、初めて堂本のことを真剣に考えた。
そんなの、嫌いに決まっている。
なぜなら、堂本は借金の形だとか言って無理やりに自分を攫い、あのマンションに監禁した男なのだ。
あんなひどい目に遭わされて、いきなりキスされて、車の中で愛撫されて、あんな冷酷非道な男、好きなわけないじゃないか。
好きなわけ・・・・・・。
「・・・・・」
「どうしたの?答えが見つからない?」
真琴の言葉に、由一ははっとして青い瞳と視線を合わせた。
嫌いなはずなのに、嫌いだって言えないのだ。
あんな男って思っているのに、どうしても心からそう思えない。
それどころか、車の中でキスされたり愛撫されたりしたことを思い出すと、自然と身体が熱くなって下半身が疼いてしまうのだ。
それに、キスされた唇の感触がまだ生々しく残っている。
「・・・・・嫌い・・・じゃないかもしれない・・・です。どうしてか分からないけど・・・あんなひどい仕打ちをされたのにどうしてなのか分からないけど、嫌いじゃないです。たぶん・・・」
由一は、心が訴えているままの正直な気持ちを真琴に伝えた。
真琴は、ニッコリと笑う。
「そう、よかった。それなら私にも打つ手はあるから」
「えっ?」
「とにかく、私と出会ったのも何かの運命だから。この件は私に任せてくれる?もちろん、悪いようにはしないって誓うから」
真琴は、ニッコリと天使のような微笑みを見せつけながら由一に言う。
由一はその笑顔が噓偽りを言っているようには思えなかった。
すぐに『はい』と返事をして頷く。
「真琴様に・・・すべてお任せします」
「真琴でいいよ」
と、真琴は言ったが、由一は聞かなかった。
こんな悲惨な状況の自分を救ってくれる人を、呼び捨てになんてできない。
せめて様をつけさせてほしい、と由一は訴えた。
真琴が仕方がないというような顔をして、折れてくれる。
「由一君はその件が片付くまで、しばらくここで働くっていうのはどうかな?今、ホストのヘルプを募集しているところだからちょうどいい。お給料は結構いいと思うよ。ここはアクアっていってね、会員制のホストクラブなんだけど、嫌かな?」
どういうわけか、すっかり信用してしまっている真琴の言葉に、由一が逆らえるはずもない。
由一はすぐに『働きますっ』と答えていた。
真琴はそんな由一を見て、またしても優しい天使の笑顔を向けていた。