東京ハードナイト 14
由一を捜している堂本の元に、一本の電話が入ったのはその日の真夜中だった。
けたたましく鳴った電話に勇ましく出たヤクザが、とたんに泡を食ったような表情で、堂本にコードレスの受話器を手渡す。
堂本は電話に出ると、すぐにその理由を理解した。
電話の相手はなんと驚いたことに、藤堂四代目である藤堂弘也からのものだった。
自分のところの組長が藤堂組の直系の傘下であるだけに、さすがの堂本もギョッとした。
「藤堂四代目・・・。お久しぶりでございます」
堂本は、なぜ藤堂四代目のような人物が直接自分のところに電話をかけてきたのか、皆目見当もつかなかった。
そう、由一のことを藤堂の口から聞くまでは・・・。
「えっ?由一が・・・四代目のところに・・・?はい、知っています。一度、組長と一緒に行ったことがあります。えっ?由一がアクアで・・・?」
電話で藤堂と話している堂本の表情が、次々と変わっていく。
「・・・はい、分かりました。四代目がそうおっしゃるなら、私になんの不足もありません。分かりました」
堂本は左目を細め、ギギッと奥歯を噛み締めながら返事をして、電話を切った。
「くそっ!由一が藤堂四代目の・・・情夫のところに匿われている」
電話を切るなり、堂本は口惜しそうに言って滝沢を睨んだ。
不動産会社の事務所に戻っていた滝沢は、予想だにしなかった話の展開に、思わず両目を細めた。
「藤堂四代目の情夫というと・・・あの有名なホストクラブ『アクア』の代表取締役社長のことですね?名前は、確か真琴とか・・・」
「一度だけ付き合いで組長と行ったことがある。青い目をしたハーフだったが、それがなぜ由一と繋がっているんだ?それにしばらくアクアで働かせたいと言って来ている。一応承諾はしたが、藤堂四代目はいったい何を考えているんだ?」
社長室にいる堂本は、イライラしたようにそう言って椅子から立ち上がった。
堂本は、表向きは不動産会社を経営している。
いや実際に経営しているのだが、その利益の半分ほどが上納金として組の本部へ流れていた。
堂本が属する組の組長の名は、木城龍之輔といった。
もう七十歳の老人で、最近では脳梗塞のため入退院を繰り返している。
組長とは名ばかりで、木城組の真の実力者は、実は力と金のある堂本だった。
堂本は幹部筆頭で、次の組長候補ナンバーワンなのだ。
組長が交替したら、自分も当然藤堂組の傘下に収まることになる。
藤堂四代目とは、できるなら事を構えたくない。
暴力団としての権力も富も雲泥の差があり、今藤堂と争っても、デメリットばかりで何一つとしてメリットがないからだ。
それどころか、こっちの身が危うくなる。
知恵と知識のある堂本は、そこのところを読み違えるような浅はかな男ではなかった。
だが、由一が藤堂の情夫のところにいたのではどうしても手が出せないのも事実である。
堂本はしばらく考えてから、滝沢に言った。
「・・・捕らえた大学生たちを解放しろ。由一をおびき寄せる餌にしようと思ったが、仕方がない。何も喋らせるなよ」
「分かりました」
少しだけ不満げな滝沢の返事だったが、堂本は構わず言葉を続けた。
「・・・それと、アクアに予約を入れておけ。一度、そこの社長様とゆっくり話をした方がよさそうだ」
「・・・はい」
堂本は、ため息交じりに椅子に座り、何かを考え込むように深く瞼を閉じていった。