東京ハードナイト 20

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堂本は、すっかりおとなしく従順になった由一の手からネクタイを解き、自由にしてやった。

 

「堂本さん・・・」

 

すると由一は、すぐに堂本の首にしがみつき、自分からキスをせがんでいった。

 

こんなに好きになるなんて思わなかった。

 

堂本の元から逃げ出し、必死の思いで真琴に助けを求めた時には堂本を好きになるなんて想像もできなかったのに。

 

今では、堂本が好きで好きでしょうがないのだ。

 

「ああっ・・・堂本さん・・・。私を抱いてください」

 

由一は、ついに自分からそんな卑猥な言葉を口にした。

 

藤堂に愛されている真琴のように、堂本に愛されたい。

 

そして何よりも、堂本が欲しいっ。

 

「堂本さん・・・あの・・・堂本さん・・・」

 

由一は、堂本の前で淫らに腰を振って、誘うように言う。

 

だが堂本は、そんな由一を片目を細めるようにして見つめるだけで、決して抱こうとはしなかった。

 

これは、真琴との約束だったのだ。

 

このアクアに予約を入れることを許され、由一をヘルプとしてつける許可をもらう代わりに、決して抱かないという約束だったのだ。

 

由一がどんなに望んでも、決して最後まではいかない。

 

それが二人きりにしてくれた真琴との、約束だった。

 

「由一・・・。俺に抱いてほしいと思うなら、戻ってこい」

 

それが堂本の答えだった。

 

このアクアで肉体関係を持っていいのは、真琴だけ。

 

「どうして?」

 

由一は、切なげな瞳で堂本を見つめた。

 

堂本はもう一度キスを与えながら、美麗な方の顔で微笑んだ。

 

「ここでは抱けない。それがお前と会う条件だったから・・・」

 

「そう・・・だったんだ。それで真琴様が私にヘルプに付けと・・・」

 

由一は、やっとすべての事情をのみ込んだように頷いた。

 

喉につっかえていた食べ物がようやく胃に収まった、そんな感じがある。

 

「・・・だから、戻ってこい。いいな?」

 

「・・・・・はい」

 

由一は少し間を置いてからそう返事をした。

 

戻るのが嫌ということではなくて、真琴のことが一瞬気になったのだ。

 

お世話になりっぱなしなのに、自分の都合でまた堂本の元に戻りたいなんて、そんな勝手なことを言ってもいいのだろうかと心配になったのだ。

 

もしかしたら真琴の、いや、堂本の顔に泥を塗るようなことになったりはしないだろうか?

 

「・・・・・俺はこれから藤堂四代目と会う約束があるから行くが、由一はその間に話しておけ。そして少しでも早く戻ってこい、いいな?」

 

堂本はそう言って、立ち上がる。

 

由一は裸のままだったが、堂本が行ってしまうことに驚き、後を追った。

 

そしてそのまま、広い背中に抱きついてしまう。

 

「あ、あの・・・堂本さん・・・。逃げ出しちゃってごめんなさい」

 

由一の精いっぱいの言葉だった。

 

由一は、本心から堂本の側を離れてしまったことを悔やんでいた。

 

「もう、いい」

 

堂本はそれだけ言うと、由一を振り返りキスをして、ドアノブを回した。

 

そして裸のまま突っ立っている由一を見つめて、ドアを閉める。

 

藤堂四代目からの呼び出しに、遅れるわけにはいかなかったのだ。

 

「堂本さんっ」

 

由一は、ドアが閉まる寸前に堂本を呼んだ。

 

だが堂本は、ドアを閉めてしまう。

 

「由一君・・・?」

 

驚いたことに、出て行った堂本と入れ替わるようにして真琴がドアから入ってきた。

 

「ま、真琴様?」

 

由一は自分が裸であったことに気づき、慌てて床に放り投げてあった衣服を拾い集める。

 

すると紺のスーツ姿の真琴は、そんな由一を見てふふっと優しく笑った。

 

「・・・ごめんなさい、由一君。堂本さんのこと黙ってて・・・」

 

「い、いいえっ」

 

由一は、拾った服で股間を隠して慌てて首を横に振る。

 

「言ってしまったら、きっと由一君はヘルプ、してくれないと思って。そうでしょう?」

 

由一の恥ずかしい格好を見ても、真琴の優しい口調は変わらない。

 

「・・・はい、たぶん・・・」

 

由一は、きっと事前に堂本が来ると知っていたら、こんな結果にはなっていなかっただろうと想像した。

 

互いの気持ちを確かめ合うこともなく、また逃げ出していたかもしれないのだ。

 

だから由一は真琴に感謝こそすれ、黙っていた真琴のことを微塵も恨んでなどいなかった。

 

「でも・・・真琴様のおかげで、お互いの気持ちを知ったというか、なんというか・・・」

 

由一は、股間を隠したまま照れたようにそう言って、笑った。

 

その笑顔を見て、真琴がようやくほっとする。

 

「よかった。由一君の話を聞いた時から、会って話し合えばきっと誤解が解けて気持ちが通じ合うって思っていたら・・・。それに・・・私と藤堂さんとのセックスも、なかなかためになったでしょ?」

 

と、真琴がウインクして言うと、由一は顔どころか全身を真っ赤にして照れてしまった。

 

つまりは、そういうことだったのだ。

 

真琴はわざと藤堂とのセックスシーンを由一に見せつけていたのだ。

 

堂本が恋しくなるように。

 

堂本を愛しくなるように、そして、ヤクザの情夫というものがどういうものなのかを身をもって知らせるために。

 

真琴は、出会ったばかりの由一のためにそこまで考えていてくれたのだ。

 

顔が綺麗で美しいだけじゃない。

 

真琴という人間は、由一の想像を遥かに超えた、本物の天使様だった。

 

「あのっ」

 

「なに?」

 

真琴は、ドアから出て行こうとしていたが、振り返って由一を見つめた。

 

「あのっ、本当に、本当に、ありがとうございましたっ」

 

由一は、力いっぱいそう言って深々と頭を下げる。

 

心が感謝で覆いつくされている由一には、その言葉しか思い浮かばなかった。

 

「・・・それより、堂本さんのところに戻ったら、きっと由一は愛されすぎて死んじゃうかもしれないよ。そこのところをじっくりと考えた方がいいね」

 

くすっと笑って真琴がドアから出て行く。

 

由一はしばらく呆然としてから、真琴の言葉の意味を理解すると、思わず両手で顔を覆った。

 

バサッと、手に持っていた衣服が床に落ち、また由一は真っ裸になってしまう。

 

だがそんなことよりも由一は、真琴が言った状況を頭の中に思い描きながら『うわーっ、どうしようっ』と短い悲鳴を上げていた。

 

由一の頭の中にあるのは、藤堂が真琴を愛するように、すっごく激しくグチャグチャになるまで愛されている自分の姿だった。

 

「きゃっ❤︎」

 

由一が上げた短い悲鳴は、嬉しくて恥ずかしくて、そして何よりも愛されている喜びに満ち溢れている悲鳴だった。