東京ハードナイト 22
真琴から、由一が攫われたという連絡を受け取った堂本は、とて冷静だった。
アクアにいた真琴は、とにかく堂本と藤堂に連絡を入れた。
『恐らく、堂本となんらかの関係があるヤツらが攫ったんだろう・・・。それにわざわざ攫ったということは、由一に利用価値があると思っている。だとしたら。今日中に相手から連絡が入る。大丈夫だ。ヤツらがそう思っているうちは、由一は安全だ』
「でも・・・」
『由一を殺すのが目的なら、とっくに殺している。こんな回りくどいことはしない。そうだろう?それと、真琴はこの件には一切関係ない。いいな?』
と、藤堂に念を押されるように言われてしまい、真琴は『はい』と小さな声で頷くしかなかった。これは堂本の組内での問題なのだから、余計なことはするなと言っているのだ。
それに、このくらいの問題を堂本が解決できなければ、これから先の見通しはないと、藤堂は言いたいのだ。
それは分かっているが、真琴は攫われた由一の身が心配で心配でしょうがなかった。
アクアの誰もいない特別室でウロウロとしている真琴は、どうしてあの時に一緒に連れて帰ってこなかったのかと後悔し、自分を責めていた。
『とにかく、攫った相手が誰なのか分からない以上堂本も手の打ちようがない。だが堂本のことだ。もう相手の見当はついているんじゃないのか?とにかく、お前には関係のないことだ。いいな?』
「はい」
真琴は短く返事をして、携帯を切る。
すると堂本から、別の携帯に連絡が入った。
「はい。あっ・・・堂本さん!申し訳ありませんっ、私がお預かりしていながら・・・」
真琴は自分の責任だと謝ったが、堂本は冷静な声でそれは違うと言った。
この状況に由一を追い詰めてしまったのは、すべて自分に責任があるのだと。
「攫った相手に、心当たりはあるんですか?」
と、真琴が慎重に聞くと、堂本は苦々しく言った。
『・・・恐らく、元組長亡き後、木城組の座に座ろうとしている者の仕業でしょう。俺に考えがあるので、藤堂四代目にはご心配なきようと、お伝えください』
「でも・・・」
『いえ。今回一件は組内の抗争です。藤堂四代目まで巻き込むわけにはいきません。面子ってものがありますので・・・』
「分かりました」
そこまで言われてしまったら、真琴には何も言えない。
真琴は、そのまま携帯を切った。
堂本の言っていることは正しかったが、やはり心配で堪らない。
どうしようかと散々迷ったが、ここは部外者は動かない方が賢明だという結論に達した。
至って納得出来ない結論だったが、藤堂にもきつく言われている。
「由一君っ、無事でいてね」
真琴は手を合わせ、祈るようにそう言った。