東京スペシャルナイト 下 13
- 2016年04月05日
- 小説, 東京スペシャルナイト
「やだっ・・・離せっ・・・。離せっ・・・」
裸にされた宇宙は、何度も叫びながら抵抗した。
だがどんなに抵抗しても、喧嘩に慣れているヤクザたちの手の動きを止めることはできなかった。
宇宙はあっという間に床に押さえつけられ、ロープで両手を後ろで縛られてしまう。
「離せっ・・・嫌だ・・・」
そして両脚を左右に広げさせられると、脚を折り曲げるようにして縛り上げられてしまった。
仰向けで床にゴロンと転がっている宇宙の姿は、両脚を思いきり開かせられた、とても淫靡な姿だった。
まるでおしめでもされるような情けない格好で、立っている亨を見上げる。
亨はロープでぐるぐる巻きにされた惨めな宇宙の格好を見下ろし、満足したのかふふっと鼻で笑った。
両脚を閉じようにも閉じられない。
いやらしい部分の何もかもが、亨と恭也、そして数人のヤクザたちの目の前に晒されていた。
こんな恥ずかしい格好、まだ遼一にだって見せたことないのに。
どうして見ず知らずの男たちに見せなければならないんだ。
しかも、遼一の脚は自由を奪われたまま、まるで芋虫のような宇宙を両目で見開いて見つめている。
遼一の瞳には、涙が溢れていた。
もうこれ以上はやめてほしい、そんな願いがこもっているのが分かる。
「遼一・・・」
「宇宙・・・なんてひどいことを・・・」
遼一は、ベッドを動かすような勢いで足を引っ張り、亨の足元に縋った。
「お願いだから、やめてくれっ。宇宙には関係ないんだっ。私が惚れてしまっただけなんだから・・・」
そう訴えた遼一の瞳には涙が溢れていた。
だが亨は、そんな遼一の腹を靴の先で蹴飛ばしてしまう。
「うぐっ・・・」
腹を押さえ苦しそうに顔を歪める遼一。
だがその瞳は、裸にされた卑猥な格好で床に転がされている宇宙を見つめていた。
「遼一っ!?」
宇宙が遼一の身を気遣う。
だがそんな宇宙の声も、大きなスーツケースから取り出された調教道具や器具を見たとたん、短い悲鳴に変わった。
ロープはもちろん、さまざまな種類の鞭や赤くて太い蝋燭。
さまざまな大きさの乳首クリップや浣腸器、洗面器までテーブルの上に並べていく。
細長い透明なチューブやおしゃぶりのような形をした初めて見るアナルストッパー。
丸いポンプとチューブが着いている小さなゴム状の挿入物。
見るものすべてが初めてのものばかりだったが、どこにどのようにして使われるのか、なんとなく理解している宇宙だった。
エッチな本の巻末に載っていた、イボのような突起物のついたバイブまでもテーブルの上に所狭しと並べられていく。
宇宙はヤクザの手から手へと渡っていくそれらを見上げたまま、得体の知れない恐怖を初めて感じていた。
どうしようっ。
あんなものを使われたら、本当に殺されてしまうかもしれない。
本当にシャブ漬けにされて海外に売り飛ばされてしまうかもしれない。
そんなことになるのは絶対に嫌だ。
あんなもので犯されて正気を失うぐらいだったら、ここで遼一と心中したほうがましだっ。
そんな考えが宇宙の脳裏によぎる。
だがてっちゃんが言った言葉を思い出し、その考えを捨てた。
『ヤクザに喧嘩を売ろうっていうんだ、必ず苦痛は伴う。だが、その苦痛に耐える決意はあるのか?愛する人のために、どんなことがあっても死なないと断言できるのか?』
『はい、できますっ』
宇宙はそう答えたのだ。
こうなることは初めから分かっていた。
ヤクザの巣窟に乗り込めば、少なからずこうされることは分かっていたのだ。
だが、それでも宇宙は来た。
愛する遼一を助けたい一心で。
遼一と自由を勝ち取りたい、ただその一心で。
「遼一・・・お願い・・・。これからどんなに卑猥な僕を見ても・・・嫌いにならないでね・・・。僕がどんなに淫らになってしまっても、軽蔑しないでね・・・」
宇宙は震える声でそう言って、遼一を見つめた。
宇宙の薄茶色の瞳には、涙が溢れていた。
これから何をされるのか、だいたいは分かる。
だけど想像を絶するその感覚と快感、そして苦痛に耐えられるかは、自信がなかった。
理性を保っていられるのか、とても自信がなかった。
『てっちゃん、丸君、早く助けに来て・・・』
宇宙は心の中で祈るように呟いた。
『俺がなんとかするから』
てっちゃんの別れ際の言葉を思い出した宇宙は、泣き出してしまいたいのを必死に堪えていた。
唇をギューッと噛みしめ、恐怖と戦っている。
そんな宇宙の顔を見て、遼一はますます焦っていた。
どうしたらいいのだろうか。
足枷を嵌められ、胸の傷もいまだに癒えないこのとき、いったいどうやって宇宙を救ってやったらいいのだろうか?
「遼一。いい加減諦めて、おとなしくそこでお前の愛する男がどうなっていくか、じっくりと見物しているがいい。じきに面白いものが見られる・・・」
亨の言葉に、ヤクザの一人が動いた。