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東京ハードナイト 24

堂本が高層マンションの最上階に戻ってから三十分ほどして、由一がヤスに連れられて戻ってきた。

 

「ど、堂本・・・さん・・・」

 

堂本を認めた由一の目には、涙が溢れている。

 

見知らぬヤクザたちに連れ去られてからというもの、決して涙を見せず気丈に振る舞っていた由一だったが、堂本の顔を見たとたん、全身から力が抜けてしまった。

 

ポロポロッと流れた大粒の涙は頬を伝い、床に落ちていく。

 

「堂本さんっ」

 

「・・・・・由一」

 

無傷だといっても、悲惨な状態には変わりなかった。

 

きっと連れ去られる時に抵抗して暴れたのだろう。

 

顔には、いくつもの引っ掻き傷があった。

 

手首にも、きつく縛られていた跡が赤くなって残っている。

 

「・・・来い、由一」

 

堂本は左目を細めて優しく言って、ふらふらと歩いてきた由一を抱き締めた。

 

抱き締めると、由一は崩れるようにして堂本の胸にしがみついた。

 

「うえっ・・・堂本さん・・・えっ・・・」

 

緊張の糸が切れた由一は、まるで子供のように泣き崩れた。

 

ガクッと膝が崩れ、立っていられなくなる。

 

だがその身体を堂本は片手で支えるようにして、涙が伝っている頬にキスをした。

 

「無事でよかった。心配したぞ」

 

「堂本さん・・・うぇっ・・・堂本さん・・・」

 

「顔に傷をつけるな。跡が残ったらどうする?」

 

「堂本さん・・・」

 

「顔に傷があるのは、俺だけで十分だ」

 

「うぇ・・・ううっ・・・・・」

 

堂本の舌が、顔の擦り傷をそっと労うように触れていく。

 

触れたとたんちょっとだけ滲みたが、由一はこうして癒されるのが堪らなく嬉しかった。

 

それに、自分がこんなにも堂本を頼りにして、愛していたことを初めて知ったのだ。

 

いつの間に愛してしまったのかなんて、分からない。

 

どうして好きになってしまったのかなんて、分からない。

 

だけどいきなり攫われて、カビ臭い部屋の中で手足を縛られ、命の危険にさらされて初めて堂本を心の底から愛していると分かったのだ。

 

いつ、殺されてしまうかもしれないという切羽詰まった恐怖の中でずっと考えていたことは、堂本のことばかりだった。

 

堂本さんならきっと助けに来てくれる。

 

だから、こんな脅しに負けていちゃいけない。

 

堂本さんを信じて、自分をしっかり持っていなきゃいけないんだ。

 

堂本さんは、絶対に私を助けてくれる。

 

由一は、堂本を愛しいと思えば思うほど、不思議なくらいそう確信していった。

 

迷いも疑いも、まったくなかった。

 

ただ、堂本が助けに来てくれるのを何もせずじっと待っているのが、今の自分にできる最大限のことだと信じていた。

 

「・・・・・よく我慢してたな?偉いぞ由一」

 

堂本は、今までに見せたことのない笑顔を見せて、優しく言った。

 

由一はその言葉を受けて、堂本を信じて待っていてよかったと心の底から思っていた。

 

「だって、きっと助けに来てくれると思ったから・・・」

 

「そうか・・・。いい子だ、由一」

 

「・・・うん」

 

由一は、頷くようにそう返事をして、ギュッと堂本のスーツにしがみついた。

 

今回の一件は間違えば命を失っていたかもしれないが、結果的には堂本と由一の心を強く結びつける結果となっていた。

 

「・・・アクアの真琴さんが心配しているはずだ。連絡してやれ」

 

堂本の言葉に、由一ははっとして顔を上げた。

 

そうだ。

 

きっと今頃は、自分のことのように心配してくれているに違いない。

 

真琴の心の優しさを十分に知っている由一は、慌てて堂本から携帯を受け取った。

 

そして真琴の携帯を鳴らすと、すぐに真琴が出た。

 

「あっ、あの・・・真琴様?由一ですっ。はいっ・・・無事ですっ。堂本さんが助けてくれて・・・堂本さんが・・・」

 

由一は、何度も何度も堂本さんが、と言う。

 

その言葉の中に堂本への愛情をくみ取った真琴は、嬉しくて嬉しくて思わず涙を流していた。

 

由一がこんなにも早く救い出されたのも奇跡に近いが、二人の絆がもっと強まったことの方が真琴には奇跡に思われた。

 

『よかったね、由一君』

 

真琴の震えている声を受け、由一は心から感謝しながら携帯を切った。

 

「真琴様・・・泣いていた」

 

「きっと、死ぬほど心配したはずだ。お前の身を自分のことのように心配している人だから」

 

「・・・うん」

 

「少し落ち着いたら会いに連れてってやる。今度はアクアの客としてな」

 

「うん」

 

由一が泣きながらそう返事をすると、堂本は由一の身体を抱き上げた。

 

そして部屋の中にいたヤクザたちに、顎で出ていくように合図する。

 

「バスタブまで抱いていってやる」

 

「はい」

 

「背中も流してやる」

 

「・・・・・はい」

 

少し間をおいてから、由一は恥ずかしそうに頷いた。

 

堂本にこんな優しいことを言われるなんて、思っていなかったのでどう答えたらいいのか、分からなかったのだ。

 

だが堂本との会話の中で、自分は『はい』とだけ言って微笑んでいればいいのだと知った。

 

そうすれば、堂本はいつでも優しいのだ。

 

美麗な左半分の顔で笑ってくれる。

 

「私も・・・堂本さんの背中、洗ってあげたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 23

堂本は、藤堂と同じく冷静だった。

 

由一を攫った相手が誰なのか、見当がついていたからである。

 

それにその男に、堂本の情夫である由一を傷つける勇気も根性もないことは十分に知っていた。

 

由一を攫った張本人、それは堂本と次期組長の座を争っている『高島和真』だった。

 

「高島さんから、お電話です」

 

案の定、事務所で待っていた堂本の元に、高島から電話が入る。

 

『よう、堂本。調子はどうだ?』

 

「いいわけねーだろ?そんなことより、攫ったものを返してもらおうか?」

 

と、堂本が左目を光らせドスの利いた声で言うと、電話の向こうの高島はいきなり笑い出した。

 

『攫ったもの?なんのことだかわからねーな?』

 

「惚けるなよ、高島?それとも、俺と刺し違えるつもりか?ええ?」

 

堂本の脅しは、強がっているだけの小心者の高島を、一瞬黙らせてしまった。

 

そして、高島がつい口走ってしまった言葉は、由一を攫ったことを肯定する言葉だった。

 

『てめー、俺にそんな口を利いていいと思ってるのかー?こっちには、切り札があるんだぞっ!』

 

と、興奮して喚いてしまってから慌てて口を閉じたのだが、もう遅かった。

 

これで高島が由一を攫ったことは明らかとなった。

 

「で・・・・・そっちの条件はなんだ?」

 

堂本はこれ以上高島と低レベルで話をしていても無駄だと思い、本題に入る。

 

高島は、急に大声で勝ち誇ったように笑い出した。

 

『はははっ・・・いいねぇ。今日はまた、のみ込みが早いじゃないか』

 

「いいから早く言えっ。どうすれば由一を無傷で返してくれるんだ?」

 

『そうだな・・・。まず、次期組長候補からの辞退しろ。その次に、お前の持っているシマを全部俺に譲れ。そしてお前はヤクザを引退しろ。それがお前の大切な者を返してやる条件だ』

 

高島は大声で怒鳴って、また勝ち誇ったように笑う。

 

その笑い声を聞いていた若いヤクザたちは、今にも爆発寸前である。

 

「・・・いいだろう。それで由一が無事に帰って来るなら、その条件をのもう」

 

『マジか?ははっ・・・本当なのか?こりゃたまげたぜっ。あっはは・・・これで木城組は俺のものだ。組長亡き後、組を引き継ぐのはこの俺だっ!』

 

高島は、おとなしく条件をのんだ堂本に完全に勝ったと思った。

 

もう誰も、高島を止めることはできないと。

 

高島が最強の男なんだと。

 

『本家の藤堂四代目と・・・親しいらしいな?まさか・・・今回の一件に引っ張り込むつもりじゃないよな?』

 

あまりにもうまく行きすぎていて、高島は少し不安になったのか、声のトーンを落として聞いてきた。

 

堂本は冷静沈着な表情のまま『藤堂四代目とは無関係だ』とだけ答える。

 

別に高島に偽りを言っているわけではなく、堂本は藤堂をこの一件に引っ張り込むつもりなど毛頭なかった。

 

こんな内輪もめを自分たちの力で鎮められないくらいなら、組長など引き継げないからだ。

 

『そうか・・・。それを聞いて安心したぜ』

 

高島はやっとホッとして、また不気味に笑う。

 

だがその笑い声が最後まで終わらないうちに、高島は突然悲鳴を上げた。

 

『ひぃ・・・ぐえっ!』

 

受話器の向こうから聞こえてきたのは、間違いなく高島の呻き声だった。

 

しかも、続けざまに何度も殴られ蹴られているのか、骨が折れるような鈍い音までもが聞こえてくる。

 

『や、やめてくれぇぇぇーーーーーっ!許してくれーーーーーっ』

 

そこにいるのであろう、十人以上のヤクザたちの叫び声が、聞こえてくる。

 

受話器の向こうでいったい何が起こっているのかを知っている堂本は、高島の許しを請う悲鳴と呻き声を、冷酷な表情で聞いていた。

 

『た、頼むっ!もう許してくれぇぇぇーーーーー』

 

苦痛にもがき、みじめったらしく泣き喚いている高島の叫び声が、受話器から唸るようにして聞こえている。

 

実は、攫ったのが高島だと確信していた堂本は、手の者たちを高島の事務所に向かわせ、奇襲をかけさせたのだった。

 

まさかこんなにも早く堂本の手の者たちが来るとは思っていなかった高島は、あっという間に事務所への侵入を許していた。

 

迎え撃った若いヤクザたちも、次々に蹴散らされ、最後には高島一人だけとなってしまっていた。

 

そしてそんな血気盛んな若いヤクザたちの先頭に立っていたのが、金髪頭のヤスだった。

 

「もう、いいだろう」

 

堂本は、しばらくしてからそう言って、高島に行われていたリンチ行為をやめさせた。

 

だがその時にはもう叫び声など上がらないほどひどく痛めつけられ、顔はボコボコにされ、すでに原型をとどめていなかった。

 

「由一を捜せ。事務所の中にいるはずだ」

 

堂本の言葉通り、由一は目隠しをされ、両手を前で縛られた姿で、事務所の一番奥の部屋から発見された。

 

『見つけましたっ。無事です。どこにも怪我はありませんっ』

 

と、ヤスが言うと、コードレスの受話器を握り締めていた堂本は、やっと肩の力を抜いた。

 

「警察が動く前に、すぐに連れて帰れと言え。それと、高島を殺すなと伝えろ」

 

堂本の言葉通りヤクザが伝える。

 

「あの、堂本さん。ヤスが・・・高島のような外道は生かしておいても世の中のためにはならないから、ぶっ殺したいと言っていますが・・・」

 

「だめだ。殺すなと言え。いいな、絶対殺すな!」

 

堂本の言葉を再度忠実にヤスに伝えたヤクザは、ようやく受話器のスイッチを切る。

 

「納得したそうです。それと、あと一時間ほどでマンションに着くそうです」

 

「そうか・・・・・」

 

と、堂本は椅子の背もたれに上体を預けてため息交じりに言う。

 

今回のことは、一つの賭けだった。

 

犯人は高島に違いないと踏んで行動したが、これがもし見当違いだったら。

 

ヤクザとしての今の地位を失うばかりでなく、大切な由一の命を失う結果になっていたかもしれなかった。

 

「よかった」

 

堂本は、思わずそう呟いた。

 

堂本は、ヤクザ人生の中で怖いと思ったことなどなかった。

 

どんな窮地に立たされても、どんなに身の毛のよだつような場面に出くわしても、怖さなど微塵も感じたことがなかった。

 

だが今回、初めて恐ろしいと思った。

 

由一を失ってしまったら、そう考えると足が震えるくらい、心底怖かった。

 

これが、人を愛するということなのだろうか。

 

そしてこれが、愛する者を失う恐怖というものなのだろうか?

 

堂本は椅子に座ったままじっと考え、由一を失った時の悲しみを想像していた。

 

そして由一のことを考えれば考えるほど、堂本は白くて細身の身体をしている由一を、抱き締めたくてしょうがない欲望に取りつかれていた。

 

一時でも早く無事な由一に会いたい。

 

会って思いきり抱き締めて、キスしたい。

 

由一の顔中にキスをして、それから裸にして押し倒し、由一の蕾に自身を埋め込みたい。

 

由一のすべてを、自分のものにしてしまいたい。

 

もう、一刻の猶予もならなかった。

 

「マンションに帰る。車だ」

 

「はいっ」

 

堂本は、いても立ってもいられなかった。

 

そんな熱っぽい欲望と情を隠すかのように、堂本は急いで事務所を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 22

真琴から、由一が攫われたという連絡を受け取った堂本は、とて冷静だった。

 

アクアにいた真琴は、とにかく堂本と藤堂に連絡を入れた。

 

『恐らく、堂本となんらかの関係があるヤツらが攫ったんだろう・・・。それにわざわざ攫ったということは、由一に利用価値があると思っている。だとしたら。今日中に相手から連絡が入る。大丈夫だ。ヤツらがそう思っているうちは、由一は安全だ』

 

「でも・・・」

 

『由一を殺すのが目的なら、とっくに殺している。こんな回りくどいことはしない。そうだろう?それと、真琴はこの件には一切関係ない。いいな?』

 

と、藤堂に念を押されるように言われてしまい、真琴は『はい』と小さな声で頷くしかなかった。これは堂本の組内での問題なのだから、余計なことはするなと言っているのだ。

 

それに、このくらいの問題を堂本が解決できなければ、これから先の見通しはないと、藤堂は言いたいのだ。

 

それは分かっているが、真琴は攫われた由一の身が心配で心配でしょうがなかった。

 

アクアの誰もいない特別室でウロウロとしている真琴は、どうしてあの時に一緒に連れて帰ってこなかったのかと後悔し、自分を責めていた。

 

『とにかく、攫った相手が誰なのか分からない以上堂本も手の打ちようがない。だが堂本のことだ。もう相手の見当はついているんじゃないのか?とにかく、お前には関係のないことだ。いいな?』

 

「はい」

 

真琴は短く返事をして、携帯を切る。

 

すると堂本から、別の携帯に連絡が入った。

 

「はい。あっ・・・堂本さん!申し訳ありませんっ、私がお預かりしていながら・・・」

 

真琴は自分の責任だと謝ったが、堂本は冷静な声でそれは違うと言った。

 

この状況に由一を追い詰めてしまったのは、すべて自分に責任があるのだと。

 

「攫った相手に、心当たりはあるんですか?」

 

と、真琴が慎重に聞くと、堂本は苦々しく言った。

 

『・・・恐らく、元組長亡き後、木城組の座に座ろうとしている者の仕業でしょう。俺に考えがあるので、藤堂四代目にはご心配なきようと、お伝えください』

 

「でも・・・」

 

『いえ。今回一件は組内の抗争です。藤堂四代目まで巻き込むわけにはいきません。面子ってものがありますので・・・』

 

「分かりました」

 

そこまで言われてしまったら、真琴には何も言えない。

 

真琴は、そのまま携帯を切った。

 

堂本の言っていることは正しかったが、やはり心配で堪らない。

 

どうしようかと散々迷ったが、ここは部外者は動かない方が賢明だという結論に達した。

 

至って納得出来ない結論だったが、藤堂にもきつく言われている。

 

「由一君っ、無事でいてね」

 

真琴は手を合わせ、祈るようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 21

それから数日後、いろいろと悩んだ由一は堂本マンションに戻ることを決意した。

 

明日はこのアクアを出て、堂本のところに戻るのだ。

 

そしてヤクザの情夫としての自分の運命を受け入れるのだ。

 

「堂本さんのところに戻って、本当に大丈夫なの?ちゃんと理解したの?自分で納得したの?」

 

真琴は、少し緊張している由一に向かって、心配そうな顔でそう聞いた。

 

真琴は、正直とても心配だったのだ。

 

由一が本当の堂本を知ったうえで受け入れてくれればいい。

 

そして、自分の運命を受け止めてくれればそれに越したことはない。

 

確かにそう思って堂本をアクアの予約に入れたのだが、それで本当によかったのだろうかとちょっとだけ不安になっていた。

 

だが由一は、そんな真琴の不安を吹き消すように笑顔を見せつけて、自信満々に頷く。

 

「はいっ。大丈夫です、真琴様」

 

今夜は最後の夜だからと、真琴が特別に食事に連れてきてくれたのだ。

 

場所は銀座のイタリアンレストランだった。

 

ここは、牛肉のカルパッチョが美味しくて、とても有名な店だった。

 

真琴のお気に入りで、時間ができるたびに藤堂と一緒に食事に来る、大切なレストランの一つだった。

 

そんな店に連れてきてくれた真琴の気持ちを嬉しく思いながら、由一は次々と運ばれてくる美味しい料理に舌鼓を打っていた。

 

「それに、ちゃんとヤクザの情夫という運命を受け入れるって決めましたから。頑張って生きていきますから」

 

と、由一は『蟹肉入りのスパゲッティ・トマトソース味』を食べながら、大きく頷く。

 

ここのイタリアンレストランの料理は本当に美味しくて、ついつい食べすぎてしまっていた。

 

「・・・いや、そういうことじゃなくて・・・私が言いたいのは・・・。まぁ、いいかな。そのうちに分かってもらえば・・・」

 

と、真琴は由一の言葉に少し不満そうな顔で何かを言いかけたが、口を噤んでしまう。

 

由一は真琴が何を言いかけたのか気になって何度も聞いたが、真琴は『そのうちに分かるでしょう』と言うだけで、何も教えてはくれなかった。

 

「それに、今の由一君に話しても、きっと理解してもらえないと思うから。もう少し時間が経って、もう少し大人になったら分かるかな?」

 

「大人・・・ですか?」

 

「そう。大人にならないと分からないことってとても多いからね。実際、大人になっても分からない人の方が多いけど・・・」

 

「はぁ・・・」

 

由一はますます分からなくなってしまう。

 

「それより、堂本さんのところに戻っても、たまにはアクアに来なさいね。堂本さんはきっと反対はしないはずだから」

 

「はい」

 

「それと、なんでもいいから困ったことがあったら相談して。いつでも、私にできることなら相談に乗るから、ね?」

 

「はいっ」

 

由一は嬉しそうに返事をして、最後にステーキを食べていく。

 

真琴はとても美味しそうに食べている由一を見て、自分まで幸せになってきた。

 

この調子なら、きっと大丈夫だろう。

 

さまざまな難題が降りかかってきても、きっと乗り越えていける。

 

真琴は、すっかり元気を取り戻した由一を、内心願うような気持ちで見つめていた。

 

「真琴様、そろそろお時間です」

 

真琴にそっと耳打ちしたのは、ボディガードの一人だった。

 

恋人である藤堂がヤクザの四代目であるために、真琴にもその火の粉が降りかかり、何度か危険な目に遭遇している。

 

そんな真琴の命と身体を守るために、藤堂は特別にボディガードを何人かつけていた。

 

今日も、黒いサングラスを掛けたとても強そうな二人のボディガードたちが、貸し切りの店内で目を光らせている。

 

「・・・由一君。私はそろそろ店の方に行くから。特別なお客様の予約が入っていて、抜け出せないんだ。藤堂さんの知り合いだし、ごめんね」

 

と、ナプキンをテーブルに置き、席を立った真琴が申し訳なさそうに言う。

 

由一は慌てて席を立つと、真琴に向かって深々と頭を下げた。

 

これでもう、しばらくは真琴にも会えないのだ。

 

あの時、偶然にも真琴に出会っていなかったら、きっと今の自分は存在しなかっただろうと由一は思った。

 

その辺の路地でのたれ死んでいるか、夜の街中に立って身体を売っているか、とにかくまともな仕事はできなかったはずである。

 

身寄りのない由一の話を聞いただけで温かく迎え入れてくれた真琴には、一生かかっても返せないくらいの恩ができた。

 

見ず知らずの自分に、食べ物ばかりではなく、住む所や働く所までも世話をしてくれたのだ。

 

「あのっ、また会えますよね?」

 

ボディガードに囲まれて店を出て行く真琴に向かって、由一は叫んだ。

 

真琴は少しだけ振り返って、大きく頷いた。

 

「由一がそう願っていれば、いつかきっとまた会えるから・・・。それと、これから堂本さんの情夫となればいろいろなことがあると思うけど、どんなことがあっても決して下を向いちゃだめだよ。いつでも上を向いて凛としていること。そうすればきっと道は開けるから。いいね?」

 

真琴の最後の言葉を胸に刻み込みながら、由一はもう一度頭を下げた。

 

真琴の姿が完全に見えなくなり、誰一人として客のいない広々としたイタリアンレストランには、由一と真琴が特別に用意してくれた運転手がいるだけとなった。

 

由一は、あれからずっとアクアの近くにあるビジネスホテルで寝泊まりをしていた。

 

今夜であのビジネスホテルで寝るのも最後だと思いながら、なぜかとても寂しく感じていた。

 

堂本のところに戻ることに不安はない。

 

だが、真琴と離れることがとてもつらかった。

 

「・・・・・それにしても、真琴様はあの時、何が言いたかったのかな?大人にならないと分からないって言っていた、真琴様と年齢は一緒ぐらいなんだけど・・・・・」

 

由一は呟くようにそう言って、店を出た。

 

店の外は、少し歩くと人通りが激しくなり、とても賑やかだった。

 

請求書は、アクアに届けられるようになっている。

 

「ありがとうございました」

 

店のオーナーは、シェフたちと総出で由一を送り出してくれた。

 

「このままホテルに向かいますか?」

 

年老いた運転手が、由一に尋ねる。

 

由一は『ホテルに行ってください』と、運転手に答えた。

 

運転手は、少し離れた駐車場に停めてある、シルバーメタリックのBMWに向かって足早に歩いていく。

 

その場に残された由一は、一人で銀座の夜の街を堪能した。

 

こんなふうに、気ままに夜の銀座を一人で歩くのもきっと今夜が最後かもしれない。

 

明日からは、堂本の情夫としての特別な生活が待っているのだ。

 

真琴のように特別に派手で優雅な生活ではないだろうが、堂本も次期組長として名が挙がっているのだ。それなりのデメリットも覚悟しなければならない。

 

真琴がいつか話してくれたことがあった。

 

ヤクザの情夫は豪勢で華やかな生活を送っているので、人から羨ましがられることがある。

 

だがその反面、妬まれたり憎まれることも覚悟しなければいけないと。

 

自分がまったく知らないところで、命を狙われることもあるのだと。

 

そのデメリットだけは、覚悟しなさいと。

 

「本当に私にできるんだろうか。ヤクザの情夫なんて・・・。花が好きで、花のこと以外何も知らないのに・・・」

 

由一には、これから自分の運命がどうなるのかまったく分からず、未知の世界だった。

 

だが今はあの高層マンションに帰って、堂本と一緒に生活すると決めたのだ。

 

だからもう、いろいろ悩んでも仕方がないのだ。

 

「よしっ。頑張るぞっ」

 

由一は、歩道で意気込んでそう言うと、運転手が取りにいった車を待っていた。

 

と、そんな由一の前に一台の黒い国産の最高級車が停車する。

 

あれ?この車じゃないよね?

 

由一は、助手席や後部座席からドカドカと降りてきた人相の悪そうな男たちを見て、違うと思った。

 

だが、由一がそう思った時にはもう、男たちによって捕らえられ、車の後部座席へと押し込められていた。

 

「あっ・・・やめてっ・・・誰かっ!」

 

叫ぶ間もなくなく、由一はあっという間に連れ去られてしまう。

 

そこに居合わせた通行人はしばらく無言のままその光景を見つめていたが、車が走り去ると何事もなかったように歩き始める。

 

「・・・あれ、由一さんの姿が見えないが・・・」

 

それからすぐに、BMWを運転して戻ってきた運転手は、由一の姿を捜していた。街灯の明かりの下、どんなに捜しても由一の姿がない。

 

運転手は、車から降りて何度も由一の名を呼びながら、はっとした。

 

これはもしかしたら、とんでもないことになってしまったのでないだろうか。

 

運転手は慌てて車の中に戻り、携帯を取り出す。

 

そしてアクアの店の番号をプッシュした。

 

「あ、あの・・・由一さんが・・・いなくなりましたっ。さっきまで一緒だったのですが、行方不明ですっ」

 

ホストから携帯を受けた真琴は、運転手が叫んでいる言葉をゆっくりと頭の中で整理し、考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 20

堂本は、すっかりおとなしく従順になった由一の手からネクタイを解き、自由にしてやった。

 

「堂本さん・・・」

 

すると由一は、すぐに堂本の首にしがみつき、自分からキスをせがんでいった。

 

こんなに好きになるなんて思わなかった。

 

堂本の元から逃げ出し、必死の思いで真琴に助けを求めた時には堂本を好きになるなんて想像もできなかったのに。

 

今では、堂本が好きで好きでしょうがないのだ。

 

「ああっ・・・堂本さん・・・。私を抱いてください」

 

由一は、ついに自分からそんな卑猥な言葉を口にした。

 

藤堂に愛されている真琴のように、堂本に愛されたい。

 

そして何よりも、堂本が欲しいっ。

 

「堂本さん・・・あの・・・堂本さん・・・」

 

由一は、堂本の前で淫らに腰を振って、誘うように言う。

 

だが堂本は、そんな由一を片目を細めるようにして見つめるだけで、決して抱こうとはしなかった。

 

これは、真琴との約束だったのだ。

 

このアクアに予約を入れることを許され、由一をヘルプとしてつける許可をもらう代わりに、決して抱かないという約束だったのだ。

 

由一がどんなに望んでも、決して最後まではいかない。

 

それが二人きりにしてくれた真琴との、約束だった。

 

「由一・・・。俺に抱いてほしいと思うなら、戻ってこい」

 

それが堂本の答えだった。

 

このアクアで肉体関係を持っていいのは、真琴だけ。

 

「どうして?」

 

由一は、切なげな瞳で堂本を見つめた。

 

堂本はもう一度キスを与えながら、美麗な方の顔で微笑んだ。

 

「ここでは抱けない。それがお前と会う条件だったから・・・」

 

「そう・・・だったんだ。それで真琴様が私にヘルプに付けと・・・」

 

由一は、やっとすべての事情をのみ込んだように頷いた。

 

喉につっかえていた食べ物がようやく胃に収まった、そんな感じがある。

 

「・・・だから、戻ってこい。いいな?」

 

「・・・・・はい」

 

由一は少し間を置いてからそう返事をした。

 

戻るのが嫌ということではなくて、真琴のことが一瞬気になったのだ。

 

お世話になりっぱなしなのに、自分の都合でまた堂本の元に戻りたいなんて、そんな勝手なことを言ってもいいのだろうかと心配になったのだ。

 

もしかしたら真琴の、いや、堂本の顔に泥を塗るようなことになったりはしないだろうか?

 

「・・・・・俺はこれから藤堂四代目と会う約束があるから行くが、由一はその間に話しておけ。そして少しでも早く戻ってこい、いいな?」

 

堂本はそう言って、立ち上がる。

 

由一は裸のままだったが、堂本が行ってしまうことに驚き、後を追った。

 

そしてそのまま、広い背中に抱きついてしまう。

 

「あ、あの・・・堂本さん・・・。逃げ出しちゃってごめんなさい」

 

由一の精いっぱいの言葉だった。

 

由一は、本心から堂本の側を離れてしまったことを悔やんでいた。

 

「もう、いい」

 

堂本はそれだけ言うと、由一を振り返りキスをして、ドアノブを回した。

 

そして裸のまま突っ立っている由一を見つめて、ドアを閉める。

 

藤堂四代目からの呼び出しに、遅れるわけにはいかなかったのだ。

 

「堂本さんっ」

 

由一は、ドアが閉まる寸前に堂本を呼んだ。

 

だが堂本は、ドアを閉めてしまう。

 

「由一君・・・?」

 

驚いたことに、出て行った堂本と入れ替わるようにして真琴がドアから入ってきた。

 

「ま、真琴様?」

 

由一は自分が裸であったことに気づき、慌てて床に放り投げてあった衣服を拾い集める。

 

すると紺のスーツ姿の真琴は、そんな由一を見てふふっと優しく笑った。

 

「・・・ごめんなさい、由一君。堂本さんのこと黙ってて・・・」

 

「い、いいえっ」

 

由一は、拾った服で股間を隠して慌てて首を横に振る。

 

「言ってしまったら、きっと由一君はヘルプ、してくれないと思って。そうでしょう?」

 

由一の恥ずかしい格好を見ても、真琴の優しい口調は変わらない。

 

「・・・はい、たぶん・・・」

 

由一は、きっと事前に堂本が来ると知っていたら、こんな結果にはなっていなかっただろうと想像した。

 

互いの気持ちを確かめ合うこともなく、また逃げ出していたかもしれないのだ。

 

だから由一は真琴に感謝こそすれ、黙っていた真琴のことを微塵も恨んでなどいなかった。

 

「でも・・・真琴様のおかげで、お互いの気持ちを知ったというか、なんというか・・・」

 

由一は、股間を隠したまま照れたようにそう言って、笑った。

 

その笑顔を見て、真琴がようやくほっとする。

 

「よかった。由一君の話を聞いた時から、会って話し合えばきっと誤解が解けて気持ちが通じ合うって思っていたら・・・。それに・・・私と藤堂さんとのセックスも、なかなかためになったでしょ?」

 

と、真琴がウインクして言うと、由一は顔どころか全身を真っ赤にして照れてしまった。

 

つまりは、そういうことだったのだ。

 

真琴はわざと藤堂とのセックスシーンを由一に見せつけていたのだ。

 

堂本が恋しくなるように。

 

堂本を愛しくなるように、そして、ヤクザの情夫というものがどういうものなのかを身をもって知らせるために。

 

真琴は、出会ったばかりの由一のためにそこまで考えていてくれたのだ。

 

顔が綺麗で美しいだけじゃない。

 

真琴という人間は、由一の想像を遥かに超えた、本物の天使様だった。

 

「あのっ」

 

「なに?」

 

真琴は、ドアから出て行こうとしていたが、振り返って由一を見つめた。

 

「あのっ、本当に、本当に、ありがとうございましたっ」

 

由一は、力いっぱいそう言って深々と頭を下げる。

 

心が感謝で覆いつくされている由一には、その言葉しか思い浮かばなかった。

 

「・・・それより、堂本さんのところに戻ったら、きっと由一は愛されすぎて死んじゃうかもしれないよ。そこのところをじっくりと考えた方がいいね」

 

くすっと笑って真琴がドアから出て行く。

 

由一はしばらく呆然としてから、真琴の言葉の意味を理解すると、思わず両手で顔を覆った。

 

バサッと、手に持っていた衣服が床に落ち、また由一は真っ裸になってしまう。

 

だがそんなことよりも由一は、真琴が言った状況を頭の中に思い描きながら『うわーっ、どうしようっ』と短い悲鳴を上げていた。

 

由一の頭の中にあるのは、藤堂が真琴を愛するように、すっごく激しくグチャグチャになるまで愛されている自分の姿だった。

 

「きゃっ❤︎」

 

由一が上げた短い悲鳴は、嬉しくて恥ずかしくて、そして何よりも愛されている喜びに満ち溢れている悲鳴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 19

いつものように冷酷な黒い瞳で、じっと由一の苦痛に歪んでいる顔を見つめていた。

 

「俺を裏切った罰だ。たっぷりと味わえ・・・」

 

「あっ・・・いやぁ・・・・・ひぃ・・・・・」

 

「それと、これは勝手な真似をした罰だ・・・」

 

と、堂本は不意に由一の乳首に噛みつく。

 

「あっ・・・いやぁぁ・・・・・」

 

堂本は、手の中に分身を握り締めたまま由一の乳首を口を含み、思いきり噛みついていた。

 

「き・・・ひぃぃぃ・・・・・」

 

容赦のない堂本の行動に、由一が思わず泣き叫ぶ。

 

だがこの特別室の防音効果はバツグンで、中でどんなに騒ごうとも外や廊下にはまったく声は漏れなかった。

 

それは、藤堂と真琴のセックスでも証明済みである。

 

「堂本さん・・・堂本さん・・・痛いぃぃ・・・・・」

 

と、由一は堂本が乳首から離れるように身体を揺らして抵抗する。

 

だが揺らせば揺らすほど堂本はもっと強く噛みついてきて、今にも乳首が千切れてしまいそうなくらい引っ張るのだ。

 

「ひぃぃぃ・・・・・許してぇ・・・・・」

 

ついには、こらえ切れなくなった由一が、泣きながら哀願する。

 

だがそれでも堂本は、乳首に思いきり歯を立てるのをやめようとはしなかった。

 

「許して・・・ぇっ・・・もう・・・しませんから・・・。もう逃げたりしませんから・・・ふぇっ・・・・・」

 

ポロポロと涙を流して、由一が泣きじゃくる。

 

堂本は、そんな可愛くて素直な由一をしばらく楽しんでいたが、やっと乳首から離れた。

 

堂本が離れた乳首には、しっかりと歯型が残っていた。

 

このまま、もう少し力を入れていたら本当に噛み千切られていたかもしれない。

 

「少しは・・・分かったか?俺に逆らったらどうなるか・・・」

 

「は・・・はい・・・。ごめんなさいっ・・・もう逃げたりしませんから・・・うえぇぇ・・・」

 

由一はなんとか堂本の機嫌を直そうと、必死だった。

 

両手は塞がれているし真っ裸だし、逃げようにも逃げられない。

 

だったら素直になって、堂本の言うことをなんでも聞くしかないのだ。

 

由一はそう思いながら、涙で濡れている茶色い瞳で堂本を見上げた。

 

そんな可愛い由一を見て、堂本の顔が一瞬緩む。

 

「逃げ出したりしなければ、こんなにつらい思いはしなくて済んだんだ」

 

「・・・はい、その通りです」

 

まだ痛みを訴えている乳首と堂本を交互に見て、由一が泣きながら頷く。

 

すると堂本は、やっと気持ちが晴れたのか、由一の分身を握っていた手を緩めてやった。

 

だがまだ、完全には開放してやっていない。

 

「・・・・・だがよかったな、由一?どういう運命かは知らないが、逃げてすぐここに来たのが分かったからあの大学生たちを五体満足で開放してやったが、そうでなければ今頃は、全員あの世行きだ」

 

「大学生って・・・まさか・・・あの時の大学生たちのこと?」

 

由一は、苦痛から解放されホッとする間もなく堂本を見つめた。

 

堂本はふふっと笑って、由一の分身の先端を指の腹で弄っていく。

 

由一の先端の割れ目からは、もう先走りが出ていた。

 

「お前を逃した大学生たちはすぐに見つけた。殴り殺してやってもよかったんだが、由一をおびき寄せる餌にしようと思っていた。そこへ藤堂四代目からの電話だ。仕方なく大学生たちは解放したが、まぁ、お前の居場所が分かったのは幸いだったな」

 

堂本は、そう言いながら由一の分身をクチュクチュと弄っては手を上下に揺らしていく。

 

さっきまでの苦痛とは違い、今度は明らかに快感が由一の分身を支配していた。

 

「・・・じゃあ・・・大学生たちは無事なんですね?」

 

と、必死に快感をこらえながら由一が聞くと、堂本は根元についている二つの玉も一緒に揉み扱くようにして手を動かしながら答えた。

 

「・・・ああ、解放してやったよ。お前が見つかったんだ、もう用はない」

 

「・・・よかった」

 

由一は、自分を助けてくれたために、大学生たちに何か危害が及んだらどうしようとずっと考えていたので、今の堂本の言葉はとても嬉しかった。

 

だが反対に考えれば、偶然にも真琴と出会わなければ、大学生たちは五体満足ではなかったということになる。

 

由一はそう考えて、自分の運の強さに感謝せずにはいられなかった。

 

「・・・・・真琴とか言ったな?あの青い瞳の別嬪さんは・・・。藤堂四代目の情夫というだけあって、大した度胸だ。藤堂四代目を抜きにして、俺と正面から堂々と渡り合うつもりらしい」

 

堂本は、由一の分身を上下に揺らし、もっと先走りを出させながら言葉を続けていく。

 

「・・・お前も運のいいヤツだな。真琴に取り入ろうとしている連中はたくさんいる。その中でもお前は特別に可愛がられているようだ」

 

「あっ・・・堂本さん・・・だめ・・・あぁぁっ・・・」

 

由一は、話に耳を傾けながらいつの間にか喘ぎ始めていた。

 

堂本の上下に揺れる手の動きが、あまりにもリアルでうまいということもあったが、ここで愛し合っていた藤堂と真琴の淫靡な姿を思い出したのだ。

 

全身の性感帯についているピアスと、蕾の中から取り出していった真珠。

 

そして、藤堂の大蛇を嬉しそうにのみ込んで行く真琴の姿の妖艶さを、由一は忘れることができなかった。

 

あんなふうに、自分も愛されてみたい。

 

いつしかそんな飢えと欲望が、由一を取り巻くようになっていた。

 

「あっ・・・ああっ・・・堂本さんっ」

 

だからなのか、堂本が少し愛でただけで、由一は敏感に快感を受け止めていた。

 

「あっ・・・あっ・・・だめぇ・・・・・」

 

さっきまで千切れるくらい噛まれていた乳首も、ツンッと突き出て硬くなっている。

 

朱色に変色していて、まるでもう一度噛んでほしいと訴えているかのように、存在を示している。

 

堂本は、手の中で由一自身を弄びながら今度はさっきと違う方の乳首を吸ってみた。

 

「あんっ」

 

甘ったるくて媚を売るような喘ぎ声が、由一の唇を割る。

 

堂本は、さっきと同じくらい強く噛んでみた。

 

「あーーーーーんっ」

 

だが驚いたことに痛みを訴えるのではなく、由一は快感を表していた。

 

乳首を思いきり噛まれて、感じているのだ。

 

しかも、分身がビンビンになってしまうくらい、強烈に。

 

「あーーーーーだめですぅーーー。そんなにしたらーーーーー」

 

「そんなにしたら、なんだ?」

 

「あぁぁぁーーーーーイッちゃいますぅぅーーーーー」

 

と、由一が胸をのけ反らせて叫ぶ。

 

堂本は、そんな由一の乳首をチューとわざと音を立てて吸い、その音を聞かせてもっと由一を淫らにしようとした。

 

 

そんな堂本の思惑が当たり、由一は乳首を吸われていることが堪らなく気持ちが良かった。

 

さっきまでは、痛いだけだったのに。

 

どうして急に、こんなに感じやすい身体になってしまったのか。

 

真琴と自分、そして藤堂と堂本を重ねれば重ねるほど、身体が敏感になっていくような気がしていた。

 

今自分は、藤堂に抱かれる真琴のように、淫らに激しく堂本に抱かれようとしているのだ。

 

まるでヤクザの情夫のように。

 

「あっ・・・だめですっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

由一は、もうこれ以上は堪えられないという声を上げて、下半身を上下にくねらせた。

 

そしてそのまま、堂本の手の中で絶頂感を極めてしまう。

 

「あぁぁぁーーーーーーーっ」

 

長くてねっとりした喘ぎ声を上げながら、初めての快楽に酔いしれていた。

 

「あっ・・・あんっ・・・・・」

 

ピクンッと何度も腰を揺らし、堂本の手の中に飛沫を放っていく。

 

堂本の手が受け止めきれない飛沫は、由一の白い内股や高価なソファにまで飛んでいった。

 

由一は、絶頂の余韻に浸っていて、そんなことには気づかない。

 

「・・・・・・・堂本さん」

 

しっとりと濡れた瞳で堂本を見上げ、後ろ手に縛られている由一は熱っぽく呼んだ。

 

他人の手でイカされることがこんなにも快感だったなんてこと、初めて知った由一だった。

 

自分の手でやるより、何倍も気持ちいい。

 

それにこの解放感と満足感は、想像を絶していた。

 

由一が、ハァハァと肩で息をしながらソファの背もたれに寄りかかっていると、堂本は手に付着した飛沫を由一に見せて、それからテーブルの上にあったおしぼりで拭いた。

 

「ここで働きながら、いったい何を考えていたんだ?俺にこうしてほしいってずっと思っていたんだろう?違うか?」

 

飛沫量の多さに驚きながら、堂本はふふっと笑って由一に言った。

 

由一は堂本の言葉の意味が分かって、顔を赤面させてしまう。

 

つまり、ずっと堂本にこうされたいと願っていたんだろうと聞かれたのだ。

 

その通りだから、何も言い返せない。

 

それに絶頂感に浸っている今の状況では、反論などできなかった。

 

「・・・堂本さん・・・・・」

 

由一はこの時初めて、堂本を好きなんだと素直に思えた。

 

まだ出会ったばかりだし、お互いに何も分かっていないのだが、堂本を好きなのだという気持ちだけは本心だった。

 

どうしてこんなにも堂本を好きなのか分からない。

 

だが、堂本にキスをされて、こうして愛撫されることが、由一は堪らなく好きだった。

 

もっと早くこうしていれば、無理に逃げ出すこともなかったかもしれないのに。

 

そんなことまで思ってしまう。

 

「堂本さん・・・。私・・・堂本さんが・・・・・」

 

由一が自分の気持ちを口にしようとすると、堂本はその唇をキスで塞いでしまった。

 

今ここで由一に愛を告白されてしまったら、本当にここで抱いてしまいそうだったのだ。

 

もう、自分の欲望が止まらなくなってしまう。

 

「その先は・・・また今度会った時に聞く。それよりも・・・由一・・・」

 

「はい?」

 

「もっと俺を呼べ、この唇で・・・俺を呼ぶんだ、由一」

 

堂本はそう言って、再び由一の濡れている唇をたっぷり塞いだ。

 

「・・・・・んっ・・・はぅ・・・ん・・・・・」

 

口中を犯すような激しいキスが、由一を襲う。

 

由一は、そのキスを受け入れながら瞼を閉じていく。

 

由一の口端からは、唾液がしとどに伝い落ちていく。

 

飲み込めない唾液が首筋まで伝い、二人がどんなに激しいキスを繰り返しているかを想像させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 18

「どうしても嫌だと言うなら、戻りたいと言わせてやる」

 

堂本は片方の目を少し細めてそう言うと、見る見るうちに由一から衣服を剥ぎ取っていく。

 

「あっ・・・堂本さんっ!」

 

スラックスや下着、靴下まで脱がされてしまい、すっかり裸になった由一は、手で股間を隠すようにして叫ぶ。

 

だが堂本は、初めて見る由一の裸体を片目でじっくりと見回しながら、脱がせた衣服を放り投げてしまった。

 

「堂本さん・・・」

 

堂本の何かを決心したような顔を見て、由一がソファの上で固まってしまう。

 

怖いと由一は思ったが、その反面、これから何をされるのかという期待感もあった。藤堂と真琴の濃厚なセックスシーンを何度も見ていた由一の頭には、多少なりともセックスの知識がインプットされていた。

 

だから、不思議と抱かれるということに対しての恐怖はなかった。

 

ソファに座り直した堂本は、由一の裸体を片目でじっくりと見回してから、口を開いた。

 

「・・・手で隠すな」

 

と、堂本はテーブルの上のウイスキーが注がれているグラスを手に取って、落ち着いた口調で命令した。

 

「あ、あの・・・?」

 

「言われた通りにしろっ」

 

逆らうことを決して許さない堂本の命令口調に、由一の裸体がビクンッと震える。

 

「・・・はい」

 

由一は言われた通りに、股間を隠していた手を退けた。

 

だが手はブルブルと震えていて、うまく由一の言うことを聞いてくれない。

 

そんな由一の手を、堂本が焦れたように捕まえた。

 

「この手は邪魔だな?」

 

と、言うが早いか、自分が締めていたエルメスのネクタイをシューッと外し、それで由一の手を後ろに回して縛ってしまう。

 

「あっ・・・ 堂本さんっ!」

 

由一が、何をされているのか気づいた時にはもう遅かった。

 

完全に逃げ道を塞がれ、そして抵抗することさえできない状態に追い込まれていた。

 

しかも、あっという間に。

 

「堂本さん・・・ あの・・・手を解いてくださいっ」

 

と、由一は哀願したが、堂本は冷酷な光を放っている左目を細めるだけで、何も言わない。

 

そして視線を下げ、由一が今まで手で隠していた下半身をじっと見つめた。

 

「み、見ないでっ」

 

驚いたことに、由一の分身はすっかり勃起していた。

 

しかも、堂本に見られていることが嬉しいのか、ピクンッと息を潜めて震えている。

 

堂本もそれには驚いてしまい、ふふっと笑った。

 

「・・・俺にキスをされて感じたのか?」

 

「そ、そんなことは・・・ 」

 

「じゃあ・・・これはどういうことなんだ?ん?」

 

と、堂本が由一の顎を掴み、強引にキスをする。

 

由一はキュッと目を瞑ってキスを受けていたが、身体は正直だった。

 

キスされたことがしょうがないとばかりに、ピクンピクンと勃起した分身を震わせる。

 

堂本はそんな分身を愛しく思ったのか、キスをしたまま由一自身をやんわりと握り締めた。

 

「んっ・・・」

 

その瞬間、由一の下半身がピクンッと跳ね上がってしまう。

 

堂本に握られている分身は、たったそれだけでイッてしまいそうなくらい感じていた。

 

「身体は素直で言うことを聞くのに、どうして由一は素直じゃないんだろうな?ええ?」

 

堂本は、ギュッと分身を握り締めながら言った。

 

「あっ・・・きつい・・・」

 

痛そうに顔を顰めて由一が呻く。

 

「きつくしてるんだ。当たり前だろう?」

 

堂本は耳元に低い声でそう言って、もっと強く握り締めていく。

 

「ひぃ・・・うっ・・・」

 

由一は、声にならない悲鳴を上げて思いきりのけ反ってしまう。

 

手を後ろで縛られているので、どうしようもなかった。

 

「い、いや・・・痛いっ」

 

由一は、大きな堂本の手に握られて、見る見るうちに血色がなくなっていく分身を見下ろして、ひぃ・・・と息をのむ。

 

このまま、握り潰されてしまいそうなくらい痛かったのだ。

 

「いやいやっ・・・痛いっ」

 

「痛くしている。当たり前だ」

 

堂本は、ソファの上で何度も跳ね上がっている由一を見ても、まったく表情を変えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 17

由一が六本木の高級会員制ホストクラブ『アクア』で働くようになってから、約三週間が過ぎようとしていた。

 

真琴は、あんな破廉恥な姿を由一に見られてからも、変わらず優しく親身になって接してくれた。そして由一も、あれから何度か特別室で藤堂と真琴のセックスシーンを見ることになったが、今ではあまり気にならなくなっていた。

 

まぁ、相変わらず、一人で勝手に想像してイッてしまっていたが、後の処理は手慣れたものになっていた。

 

高級ホストクラブ『アクア』では、客とホストが身体の関係を持つことは厳しく禁じられている。

 

だが、その条件は真琴にだけには適用されてはいなかった。

 

特別室は、実は真琴と藤堂のために用意されており、藤堂は時間が空いた時にはアクアに来ては真琴とのセックスを楽しんでいたのだ。

 

このアクアの実質的なオーナーは藤堂であり、藤堂の言うことがすべてであった。

 

そんな藤堂の情夫である真琴から、今夜は特別なお客様がいらっしゃるから失礼のないようにという電話が店に入る。

 

由一は真琴に用意してもらった白いシルクのシャツと黒いスラックス、それにグッチの革靴を履いて、特別室の準備を整えていた。

 

予約が入っている特別な客以外はこの一室には通さないのが、アクアだった。

 

きっと、藤堂組の関係者でものすごい実力者なのだろうと想像しながら、由一はせっせとソファを拭き、テーブルをセットした。

 

「今夜は、由一君もヘルプで入ってくれる?」

 

真琴は、真っ赤な薔薇の花束を両腕に抱えるようにして特別室に入って来た。

 

真琴の今日のスーツは、オートクチュールの濃紺のシングルスーツだった。

 

白いドレスシャツと紺色の水玉のネクタイがとても清々しくて、真琴によく似合っている。

 

「でも・・・私はまだ・・・」

 

「いいから、入って。いいね?」

 

真琴は半ば強制的にそう言って、薔薇をホストの一人に渡す。

 

薔薇の花束は、真琴の熱烈なファンの人からの贈り物だった。

 

いつも華やかさと美しさに囲まれている真琴を見ていると、羨望のため息が出てくる。

 

「おい、新入り。真琴様に憧れてもだめだぞ。あの人は特別なんだから」

 

「特別・・・ですか?」

 

「そう、特別な人。あんな人は二人といないよ。だから、藤堂組長の情夫でいられるんだ」

 

「情夫で・・・い・ら・れ・る?」

 

由一は、横にいたホストの言葉に思わず眉間に皺を寄せた。

 

情夫でいられるというのは、とても不思議な言い方に思えたのだ。

 

ヤクザの情夫とは、人から羨ましがられるものなのだろうか?

 

藤堂クラスのヤクザだったらそうなのかもしれないが。

 

じゃあ、堂本さんは?

 

堂本さんの情夫になりたいと思っている人って、いるんだろうか?

 

「おいっ、新入り君。真琴様のお客様が見えたようだ。早く特別室に行きなさい」

 

「は、はいっ」

 

はっとした由一は、急いで特別室に行く。

 

すると真琴は一人の男性を案内しているところだった。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。堂本様」

 

えっ?堂本様?聞いたことがある名前なんだけど?

 

と、由一は不思議そうな顔で男性の顔を見つめる。

 

男性の顔には見たことのあるひどい傷があり、右目が閉じたままの状態だった。

 

「ど、ど、堂本さんっ!?」

 

驚いたことに、目の前に立っているのはあの、堂本だった。

 

どうして堂本さんがここに?

 

顔面蒼白の由一が、助けを求めるように真琴を見つめる。

 

だが真琴はいつもの穏やかで冷静な顔をしたまま、特別室に堂本を案内した。

 

「お飲み物は何になさいますか・・・?」

 

「ウイスキーを、ダブルで」

 

「はい、かしこまりました」

 

と、注文を聞いた真琴が目配せをする。

 

すると突っ立ったまま口をあんぐりと開けていた由一は、慌ててウイスキーのダブルをホストの一人に注文した。

 

「では、私たちはこれで失礼します」

 

真琴は、堂本をソファの中央に座らせると、そう言って席を立つ。

 

「あとはこの者がお世話いたしますので、よろしくお願いします」

 

真琴は、由一を指し示してニッコリと言う。

 

堂本は口元を少し緩めて、軽く頷いた。

 

「あ、あの・・・真琴様・・・」

 

何がなんだかまったく分からない。

 

私が堂本さんのお世話って・・・そんなの聞いていないっ。

 

それに何よりも、そんな大役が私に務まるわけがないじゃないか!?

 

ど、どうしたらいいんだろうか?

 

「それでは。何かございましたらお呼びください」

 

真琴はそう言ってホストたちを下がらせ、ドアを閉めてしまう。

 

由一は堂本と二人きりで特別室という豪華絢爛な部屋に残され、卒倒してしまいそうだった。

 

「・・・・・元気そうだな?」

 

青ざめている由一を、堂本はじっと見つめたまま優しく言った。

 

逃げたこと、きっと怒っている。このまま殺されるかもしれないと思っていた由一には、救いの言葉だった。

 

「・・・・・堂本さんも・・・」

 

と、由一は相変わらず美麗さと醜さが隣り合っている堂本の顔を懐かしそうに見つめた。

 

なんだろう。

 

あんなに怖いと思っていたのに、堂本の顔を見たとたんホッとして、心がキュンッとなってしまうのだ。

 

「突っ立っていないで、こっちに来て座れ」

 

堂本はそう言って、ポンッとソファを叩いた。

 

由一は一瞬迷ったが、言われた通りに横に座った。

 

すると堂本がいきなり手を伸ばし、由一の細い顎を掴み、グイッと引き寄せる。

 

このシチュエーションは、とて久しぶりのように思えた。

 

胸がドキドキと高鳴っていて、今にも聞こえてしまいそうである。

 

「・・・捜したんだぞ、由一」

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

由一はやっぱり怒っていると思いながら、どうして座ってしまったのかと後悔した。

 

堂本を裏切ってしまった自分は、このまま首を絞められて殺されてしまっても文句は言えないからだ。

 

だが堂本は、由一の想像とは違う行動をした。

 

キスをしてきたのだ。

 

それも、息が止まるくらい激しいキスを。

 

「・・・・・ん・・・んんっ」

 

由一はいきなり抱き締められ、身動きひとつできなかった。

 

堂本の舌が口の中に入り込み、由一の舌を搦め捕っては吸い上げていく。

 

巧みで激しいディープキスは、とても長い時間続いていた。

 

「・・・由一・・・。戻ってこい」

 

どれくらい時間が経ったのか、由一はいつの間にかソファの背もたれに寄りかかり、グッタリとしていた。

 

今のキスで身体中から力が抜けてしまい、頭の中はフニャフニャである。

 

それにずっと堂本にキスされたいと、心の中で願望として思っていたので、余計に感じてしまっていた。

 

藤堂と真琴のセックスシーンを見たことによって、由一の中の何かが変わりつつあった。

 

心がとても柔軟になったというか、ヤクザに対する認識が変わったというか。

 

はっきりしているのは、堂本を嫌いじゃないというとだった。

 

そしてこうしてキスをされることは、とても好きだし気持ちがいいということだった。

 

「堂本さん・・・ 」

 

「どうしてお前が藤堂四代目の情夫と関わりがあるのか知らないが、俺が話をつける。だから戻ってこい。もう・・・以前のように一人きりで監禁するようなことはしない・・・。だから・・・戻ってこい」

 

堂本はとても優しく言いながら、由一の耳たぶを噛んだ。

 

由一は小さな声で喘ぎながら、キュッと目を瞑った。

 

初めは怖くてしょうがなかった堂本なのに。

 

こうしてキスをされてから触られると、身体中に血が駆け巡り、下半身が熱くなっていくのだ。

 

ヤクザにキスをされて興奮してしまうなんて、なんて破廉恥でいやらしいんだろうと思った最初の考えは、とうの昔になくなっていた。

 

今は、堂本に求められる自分の身体がちょっとだけ誇らしくて、堪らなく愛しい。

 

「・・・・・でも・・・あっ・・・」

 

由一は、わざと考えるふうな素振りを見せる。

 

すると堂本は、由一のシャツのボタンを外し、ベルトにも手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 16

真琴は、藤堂を愛しているのだ。

 

それも中途半端な愛情じゃなくて、一緒に死んでもいいと思える位、激しく強く藤堂を愛している。

 

だからこんなにも淫らに大胆になれるのだ。

 

由一はそのことに気づいた時には、もうその場に立っていられないくらい感じてしまった。

 

足がガクガクとして、今にも崩れてしまいそうである。

 

しかも、下半身がトクントクンッと激しく脈を打っていて、少しでも触ったらこのまま果ててしまいそうだった。

 

「あぁぁぁ・・・・・」

 

ひときわ大きな声で、真琴は喘いだ。

 

真琴の股間を弄っていた藤堂の指が、蕾に挿入されたためであった。

 

だがよく見ると、藤堂の指は挿入しただけではなく、中で何かを探しているようだった。

 

「あっ・・・藤堂さんっ・・・」

 

「まだ入れていたのか?いい子だな・・・真琴」

 

「藤堂さんの命令だから・・・」

 

「我慢できた御褒美は・・・何がいい?」

 

二人の会話は、下手なエッチビデオを見るよりも、由一の下半身にズンッときていた。

 

それに藤堂がゆっくりと真琴の蕾から取り出したものを見て、由一はますます目を丸くした。

 

真琴の中には、真珠のネックレスが入っていたのだ。

 

真珠の玉を一つ掴みそれを引き出すと、ズルズルと蕾から真珠のネックレスが出てくる。

 

「あっ・・・あっ・・・ああーん・・・・・」

 

一粒ずつ出していくと、真琴は今までとは違った音色の声で喘ぎ出す。

 

その声は、由一の身体を震わせ、そして思わずイッてしまいそうなくらい色っぽかった。

 

真珠を取り出すと、藤堂はスラックスのファスナーを下げ、真琴に膝の上にのるように命令する。すっかり感じまくっている真琴は、肩で大きく息をしながらゆっくりと藤堂の股間を開き跨ぎ、そして腰を落としていく。

 

「あっ・・・ああっーーーーーーっ」

 

藤堂の分身は、まるで大蛇のようだと由一は思った。

 

頭の部分が張った大蛇が、鎌首を擡げて真琴の白いお尻の中に入っていく。

 

そんな光景を目の当たりにした由一は、ついにこらえ切れなくなって下着をつけたままイッてしまった。

 

そしてイッた瞬間は、なぜか顔の右側にひどい傷がある堂本を思い出す。

 

堂本の愛撫も、とても巧みでうまかった。

 

キスだって蕩けるように甘くて、頭の中が真っ白になるくらいステキで、あのまま今の真琴のように淫らなことをされてもいいと思ったぐらいなのだ。

 

ああっ。

 

堂本さんに会いたいっ。

 

堂本さんにキスされたい。

 

由一は、床にペタッと腰を下ろし、濡れてしまった下着の感触を感じながら、心の中でそう思っていた。

 

一瞬正気に返り、どうして堂本のような男のことなんかっ・・・と思ってみたが、身体の欲望には勝てなかった。

 

下半身がどんどん淫らに疼いてしまう。

 

それに、考えれば考えるほど、どういうわけか堂本を憎めないのだ。

 

借金の形で監禁されたが、ひどい扱いを受けているわけではなかった。

 

普通ヤクザといえばもっと荒らしく暴力的で、気に入らないことがあればいつも愛人とかをぶん殴っているようなイメージしかなかったのだが、堂本は違っていた。

 

暴力をふるわれたことは一度もない。

 

引っ掻いて傷つけてしまった時だって、殴ったりされなかった。

 

高層マンションにたった一人で監禁されてはいたが、住んでいたマンションや食べ物、そして衣服に至っても、何もかも普段は望んでも手に入らないようなものばかり与えてくれたのだ。

 

野球の開幕戦を見に連れていってくれたのだって、絶対逃げないと約束したから連れていってくれたのだ。

 

もしかしたら、堂本は堂本なりに、最大限の愛情を示してくれていたのではないだろうか?

 

愛しているという言葉は一度も聞いていないし、出会ってまだ間もないが、もしかしたら堂本は真剣に由一を愛してくれているのではないだろうか?

 

由一は、床に座ったままいろいろなことを考えていた。

 

目の前では、背中を向けた真琴が大胆な格好で藤堂の膝に跨がり、激しく上下に動いている。

 

ぬるぬると光を放ちながら、真琴の中に入っていく大蛇を見つめて由一は思った。

 

なんて淫靡で美しい光景なんだろうかと。

 

藤堂と真琴の激しいセックスシーンをこうして見ていても、まったく嫌な気がしないことを不思議に思いながら、由一は心のどこかで真琴に憧れていた。

 

あんなふうに、自分も誰かに激しく愛されたいと。

 

堂本に、激しく愛されてみたいと。

 

男同士なんて、破廉恥とかいやらしいとか最初はそう思って毛嫌いしていたけど、そうじゃない愛する者と愛される者。

 

その二人が激しく愛情を確かめ合っている。

 

ただ、それだけなのだ。

 

普通の男女と何も変わらない。

 

いや、もっと深くて強いのだ、藤堂と真琴の結びつきは。

 

「あっ・・・あぁっ・・・藤堂さんっ・・・」

 

真琴が切なげな表情を見せて、藤堂の名を呼ぶ。

 

真琴の蕾の中には藤堂の大蛇が根元まで入り込んでいて、真琴をもっともっと淫らで妖艶な情夫に変えていく。

 

由一は、高価なペルシャ絨毯が敷き詰められた床に座っていたが、何かに堪え切れなくなったように、特別室のドアまでよろよろとよろめきながら歩いていった。

 

そして静かにドアを開け、外に出て行く。

 

「あぁぁぁーーーーーーっイッちゃう!」

 

藤堂が下から突き上げるように腰を揺らすと、真琴の喘ぎ声に、いっそう艶やかさが増していく。

 

由一はその声にドキンッと胸を高鳴らせながら、ドアを閉めた。

 

驚いたことにドアを閉めてしまうと、廊下にはまったく真琴の喘ぎ声は聞こえてこなかった。

 

防音効果のある設計になっているのだろうが、由一はちょっとだけそのことが残念だった。

 

だが、正気に戻って自分の下着の中がひどいことになっていると気づき、慌てて周りを見渡す。

 

さっき真琴が犯されているのを見ながら、勝手にイッてしまったのだった。

 

「・・・・・着替えなきゃ・・・」

 

由一は呟くようにそう言うと、困惑したように下半身に視線を落とした。

 

真琴の声を聞いただけで、まるで自分が愛撫されているような錯覚に捕らわれてしまうなんて。

 

しかも自分が想像した相手が、あの堂本だなんて・・・・・。

 

由一は、ロッカールームに入ってからも、しばらく呆然として立ち尽くしたままだった。

 

「どうしたの?」

 

そんな由一に、このアクアのナンバー2『聖一』が声をかける。

 

「特別室で、何かあった?」

 

心配そうに聖一が尋ねると、由一ははっとして現実に意識を戻した。

 

今また、堂本にキスをされ、押し倒されて愛撫されたことを思い出していたのだ。

 

「あっ・・・いえっ。なんでもありません」

 

と、由一が真っ赤な顔で慌てふためきながら言うと、聖一は整った甘いマスクでふふっと笑った。

 

「君はラッキーだよ、由一。あの特別室に真琴様と一緒に入れたんだから。しかも藤堂四代目に顔まで見知ってもらって・・・。由一はいったい何者なんだ?」

 

「いえ、私は別に・・・」

 

「隠さなくてもいいよ。きっとどこかの力のある人の情夫なんだろうけど、でもラッキーだよな。真琴様に目を掛けてもらえるんだから・・・」

 

真琴は、どうやらこの店のホストたちから羨望の眼差しで見られているようだった。

 

日本最大の暴力団組織、藤堂組四代目、藤堂弘也の情夫。

 

その事実が真琴の評価をいっそう上げたのは事実だったが、真琴の人気の秘密はやはりあの天使のような美しさと心の温かさだった。

 

アクアのホストたちは、そんな真琴に心底惚れているのだ。

 

「まぁ、頑張れよ。ここには他人の人気を羨んだり邪魔をしたりする了見の狭い、つまりレベルが低いってことだけど、そういうホストはいないから安心して」

 

「あ・・・はい」

 

紺地に白いストライプ柄のスーツを着ている聖一は、それだけ言うと、ロッカールームから出て行く。

 

由一はやっと一人になると、周りを見渡してからスラックスを脱ぎ始めた。

 

飛沫が付着している下着なんて、早く脱いでしまいたい。

 

由一は急いで着替えると、もう一度ネクタイを締め直した。

 

鏡の中の由一は、まだ赤い顔をしている。

 

「・・・どうして堂本さんのことなんか思い出しちゃうんだろう・・・。あの人は怖くて・・・無理やり私を攫った人で、大切にしてくれるのは最初だけで、飽きたらきっとどっかに売っちゃうような、非道なヤクザなんだから。藤堂さんのようなヤクザとは違うんだから・・・」

 

由一は独り言のようにそう呟いて、自分の心を否定しようとしたが、また堂本にキスされた時のことを思い出してしまう。

 

そのたびに由一の頬は熱くなり、胸はドキンッと激しく高鳴ったが、それがどうしてなのか由一には分からなかった。

 

「・・・・・でも・・・キスはうまかったかも・・・。とってもステキだった・・・・・」

 

由一はそう呟きながら、指先で唇をなぞってみた。

 

「堂本さん・・・」

 

由一の頭の中には、藤堂と真琴の濃厚なセックスシーンではなく、顔の右側に傷がある堂本の顔だけが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京ハードナイト 15

由一がアクアでヘルプとして働くようになってから、三日が過ぎた。

 

まだまだ慣れないことばかりで戸惑っている由一だが、一生懸命さは誰にも負けていなかった。

 

どんな嫌な仕事でも一生懸命にやる由一のことを、真琴はとても高評価していた。

 

そんなある日、藤堂がアクアにやって来た。

 

「・・・この男が・・・堂本の?」

 

最初に由一を見た藤堂は、そう言って真琴に聞いた。

 

由一は、威圧感のある藤堂に見つめられたまま、まったく動けなかった。

 

全身の毛が逆立つような、こんな凄みのあるヤクザに出会ったのは、初めてだったのだ。

 

堂本も怖いという印象があったが、ダブルスーツをビシッと格好よく決めている目の前の藤堂弘也には、堂本以上の迫力があった。

 

心臓を射抜くような鋭い眼差しと低くドスの利いた声。

 

髪は黒くオールバックで、しかもめちゃくちゃいい男である。

 

藤堂の周りを囲んでいるヤクザたちも、誰も彼もがつわもの揃いのようだった。

 

普通のヤクザじゃないのだ。

 

もっと強くて冷酷で、その上いつも冷静沈着で、いかにも極道といった感じである。

 

「そんなに苛めないでください。すっかり脅えちゃってます」

 

真琴は、くすっと笑って藤堂の腕に絡み付いた。

 

そして一番奥の特別室に案内していく。

 

真琴は、藤堂とこの部屋に入る時はいつもヘルプは付けないのだが、今夜は特別だった。

 

真琴には、ある作戦があったのだ。

 

由一に自分の本当の気持ちに気づいてもらい、うまくこの一件を収める作戦が・・・。

 

「由一君はここにいてくれる?あとはいいから下がって」

 

真琴はドアが閉まると、すぐにシルクグレーのスーツを脱ぎ出した。

 

そしてピンク色のオープンカラーのYシャツのボタンを外し、スラックスも脱いでいく。

 

「あ、あの・・・?」

 

由一は初めて入った特別室の豪華さに圧倒される間もなく、真琴の大胆な行動に顔を赤らめた。

 

急にスーツを脱ぎ出して、どうして裸になるのか分からなかったのだ。

 

だが真琴は、由一が見ていることなどまったく気にしないで高価なシャツを脱ぎ、下着さえも脱いでいく。

 

「あのぉ・・・・・真琴様?」

 

由一は、いよいよ目のやり場に困ってしまった。

 

藤堂の前で臆することなく、まるでそれが当然であるかのように裸になっていく真琴を、由一は手で顔を隠すようにしながらも、不思議そうに見つめていた。

 

「真琴・・・どういうつもりだ?」

 

藤堂もいつもと違う、真琴の大胆な行動を不思議がっている。

 

「いえ、ちょっと考えがあって。協力してもらえますか?」

 

真琴は、立ったまま一糸纏わぬ姿になってソファに座っている藤堂に言った。

 

藤堂は、初めてふふっと優しく笑って、真琴の手首を掴み引き寄せる。

 

そして自分の膝の上に裸の真琴を横抱きにしてのせると、キス交じりに囁いた。

 

「・・・まぁ、いい。お前が何を企んでも構わない。こんな大胆で妖艶な真琴が見られるなら・・・」

 

と、藤堂は激しく真琴の唇を覆っていく。

 

真琴はあらがうことなくそのディープキスを受け入れると、藤堂のネクタイを取り去っていく。

 

「あっ・・・ んっ・・・」

 

そんな二人を見つめ、由一は唖然としていた。

 

二人の濃密な行為に驚いたということもあったが、もっと由一を驚かせたのは、真琴の身体にあるいくつもの銀色のピアスを見たせいだった。

 

可愛い左右の乳首に、プラチナのリングピアスがついているのだ。

 

しかもそのピアスは左右の乳首だけではなく、なんと真琴のそそり立っている分身の先端にもついていた。

 

「・・・ピ、ピアス?」

 

由一は、真琴の身体から目が離せなくなっていた。

 

綺麗とか色っぽいとかそんな生やさしい言葉では言い尽くせないくらい、真琴の裸体は美しく妖艶だった。

 

余分な脂肪などまったくついていない、引き締まったウエストと細い手足。

 

肌はどこもかしこも透けるように白くて、乳首と分身だけが朱色に変化していた。

 

襟足の少し長いサラサラの髪と青い瞳が、まるでこの世の者とは思えないくらい美しく幻想的なのだ。

 

「あっ・・・藤堂さんっ・・・。こっちも吸って・・・」

 

真琴は、藤堂にそう言ってもう一つの乳首も吸ってほしいと哀願した。

 

藤堂は、真琴の哀願した通りに、左側の乳首もピアスごと舐めて、吸っていく。

 

「あっ・・・いいっ・・・藤堂さんっ・・・」

 

真琴の喘ぎ声は、由一を一気に赤面させた。

 

こんなに高貴で天使のように美しい真琴が、愛撫をされて淫らに喘ぎ、破廉恥に腰をくねらせて喜ぶなんて、この目で見てもとても信じられなかった。

 

真琴がヤクザの情夫だということは知っていた。

 

だが、身体中の性感帯にピアスをつけて、まるで抱き人形のように喘いでいるなんて・・・。

 

しかもこうされることを喜んでいる。

 

こんな卑猥で破廉恥で、エッチで恥ずかしいことをされているのに。

 

由一はそう思いながらも、藤堂に愛撫され、喘いでいる真琴の淫らな姿から目を逸らすことができなかった。

 

「あっ・・・藤堂さんっ・・・ いいっ。下の方もしてぇ・・・・・」

 

乳首への愛撫だけでは我慢できなくなったのか、真琴は自分からキスをせがむようにして妖艶に訴える。そんな真琴に満足したのか、藤堂はふふっと笑いながら真琴の下半身に顔を埋めていった。

 

ソファの上で自ら両足を広げ、藤堂に愛撫をねだる真琴は、驚いたことに今まで見たどんな真琴よりも魅力的で美しく、そして気高く見えた。

 

「あぁぁ・・・・・藤堂さん・・・・・」

 

真琴は、分身の先端を舐められ、ピクンッと下半身を震わせて喘ぐ。

 

由一は、両手で顔を覆ってはいたが、指の間からしっかりとそんな真琴の色っぽい姿を見つめていた。

 

じっと息を殺すように見つめていると、自然と身体が熱くなるのが分かる。

 

しかも、自分の分身までも藤堂に舐められているような錯覚に捕らわれ、感じてしまっていた。

 

「あぁぁ・・・いいっ・・・ もっと・・・もっと・・・藤堂さ・・・んっ」

 

真琴の声には、遠慮などなかった。

 

欲望のまま、どんどん淫らにエッチになっていく。

 

どうしてこんなに淫らになれるのか、こんなに欲望に素直になれるのか、最初は由一には分からなかった。だが真琴の藤堂を見つめる優しい瞳と、藤堂を呼ぶ優しい声を聞いているうちに、なんとなくだが分かってきた。