東京スペシャルナイト 上 17

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一瞬、目の錯覚かと思った桜井だが、確かにあれは宇宙だった。

 

「・・・宇宙?」

 

慌てて後を追いかける桜井の目に、宇宙の後ろ姿が映った。

 

すっかり疲れている宇宙は、足取りも重く覇気も感じられなかった。

 

桜井に素っ気なくされていることも、宇宙の足取りを重くさせているように思えた。

 

だが宇宙の綺麗な顔立ちは、行き交う人たちの視線を集めていた。

 

紺のスーツ姿の宇宙は、疲れきった表情をしていても、間違いなく目立っていた。

 

桜井は、宇宙に声をかけようかどうしようか迷った。

 

ここで声をかけてしまったら、すぐにでも店に連れ帰って、スペシャルマッサージをしてあげたくなってしまうからだ。

 

いや、今日はスペシャルマッサージだけでは済みそうになかった。

 

スペシャルマッサージよりもいっそう強力な快感が得られる、ウルトラスペシャルマッサージで、宇宙をヘロヘロにしてしまいたい。

 

そんな淫靡な衝動に駆られていた。

 

もう、だれに知られたって構わない。

 

たとえあの人に知られても・・・この想いはどうしようもないのだ。

 

そう決心した桜井の目に、数人のチンピラ風の男たちに囲まれている宇宙の姿が目に入った。

 

よろめいた宇宙の身体が、チンピラの一人の肩にドンッとぶつかってしまったのだ。

 

宇宙を取り囲んでいるチンピラたちの顔に見覚えがあった桜井は、一瞬足を止めた。

 

『あの人』がよく金の力で利用しているチンピラたちだった。

 

「おいっ!どこに目をつけてんだよ!?いてーじゃねーか!」

 

ぶつかった派手なスーツに黒いサングラス姿の男が、肩を押さえるようにして叫ぶ。

 

その声を聞いた通りすがりの人たちは危険を感じたのか、一斉にその場から遠ざかった。

 

「す、すみません」

 

気づいた宇宙は、慌ててチンピラに謝る。

 

だがチンピラは、痛くもない肩を大袈裟に摩りながら、大声で叫んだ。

 

「こりゃあ・・・もしかすると肩の骨が折れているかもしれねーな?どうしてくれるんだ?えっ、顔の綺麗なおにーさんよぉ?」

 

「慰謝料を払うだけじゃ足りねーな。やっぱりここは・・・おにーさんの身体で払ってもらわなくっちゃな」

 

仲間のチンピラたちも、クチャクチャとガムを噛みながら、宇宙のまわりをグルグルと歩き回った。

 

「で、でも・・・。ちょっとぶつかっただけですし・・・。折れてるなんて・・・」

 

宇宙が怖々言うと、ぶつかったチンピラは急に身を乗り出して宇宙の襟元を掴み上げた。

 

「俺が折れてるって言ったら、折れてるんだよっ。文句あるのか?」

 

「ででも・・・」

 

震える声で反論しようとしたが、すぐに言葉を突っ込まれて口を噤んだ。

 

「うっせーな。ゴチャゴチャ言ってると、この場で犯すぞ!」

 

その荒々しい声に、遠巻きに見ていた人たちまでも逃げるように去っていく。

 

宇宙を助けてくれる人は誰もいなかった。

 

みんな、見て見ないふりをしている。

 

派手なスーツ姿の横柄な態度のチンピラたちは、すっかり脅えている宇宙の腕を引っ張りあげた。

 

「こんなところではなんだから、ちょっと落ち着いた場所に行って話ししようや」

 

ぶつかった黒いサングラスを掛けた男が、ニヤッと笑って耳元で言う。

 

角刈り頭のその男は、チンピラたちの長のような男だった。

 

「落ち着いた場所?」

 

「おにーさん、顔が綺麗だからさ。ちょっと付き合ってほしいんだよな。ラ、ブ、ホ、テ、ル」

 

「ホ、ホテル?でもラブホテルで何をするんですか?」

 

宇宙の真剣な問いに、チンピラたちが思わず顔を見合わせ、プッと噴き出して大笑いする。

 

下品な笑いの中、宇宙はとっさに逃げ出そうとした。

 

だが、黒いサングラスを掛けた男が、そんな宇宙の腕を強く掴んで引き寄せる。

 

「おいっ!俺たちから逃げようったって無駄だぜ。慰謝料をちゃんと身体で払ってもらうからな。覚悟しなよ」

 

角刈り頭の男が言うと、他のチンピラたちが一斉に宇宙を取り囲み細い路地に連れ込もうとする。

 

このときになって、ようやく宇宙は自分の身に迫る危険を察知した。

 

ラブホテルに行ってすることといったら・・・セックスしかない。

 

ということは・・・つまり・・・・・。

 

「は、離してっ!誰か・・・誰か・・・助けてっ!」