東京スペシャルナイト 上 37
- 2016年02月22日
- 小説, 東京スペシャルナイト
「おっと・・・。お取り込み中だったかな?」
二人がこうなっていることを十分に承知した上で、とぼけた口調で恭也が言う。
恭也は着替えてきたのか、黒い縦縞のスーツに黒いシャツを着ていた。
手には、火を点けたばかりの煙草があった。
ドアの外で、部屋に入るタイミングを図っていたのだと遼一は思った。
そしてグッドタイミングで現れたというわけだ。
遼一は、腕の中に宇宙を抱きしめたまま、ベッドの脇に立っている恭也を睨みつけた。
腕の中の宇宙は、まだ絶頂感の余韻に浸っていて、部屋にチンピラたちが乱入してきたことに気づいていない。
「恭也・・・」
遼一は、宇宙の中から自身を引き抜きながら、長年の恨みを込めて呟いた。
亨の手足となって、この十年間というものずっと遼一を見張ってきた恭也。
恭也がいなかったら、遼一はとっくに亨から逃げられていたのだ。
頭が切れて冷酷非道な恭也の存在が、遼一を亨のもとに十年間も縛りつけていた。
「その目・・・。とうとう、己に目覚めたって感じの目だな?」
煙草を吸っていた恭也が、吐き捨てるように言う。
するとこのときになってやっと部屋の中に人相の悪いチンピラたちがいることに気づいた宇宙は、びっくり仰天して遼一の腕にしがみついた。
その様子を余裕の態度で見ていた恭也が、くくっと笑う。
「悪かったな。せっかく、桜井に抱いてもらえたのに邪魔をして。だが、亨様の目を盗んで桜井に抱かれた罪は重いぞ。分かっているのか、小僧?」
小僧呼ばわりされた宇宙は、一瞬恭也の冷酷な眼差しに背筋を震わせる。
だが、いつまでも遼一の腕の中で震えているわけにはいかなかった。
こうなることを承知して、遼一と愛し合ったのだ。
遼一を受け入れたのだ。
逃げも隠れもしない。
「・・・分かってる。あなたがどういう人か、あなたに命令を下している亨って人のことも全部分かってる。だけど、それでも僕は遼一を諦めることができなかった。遼一を・・・亨って人から解放してやるって心に決めたんだ」
そう言った宇宙の薄茶色の瞳は、驚くほど澄んでいた。
虚勢を張るでもなく、恐怖を感じるでもなく、相手を威圧するでもなく、ただ綺麗に澄んだ瞳でじっと恭也を睨みつけて宇宙は言った。
その態度と瞳に、恭也が一瞬圧倒される。
こんな小僧に・・・と思った恭也だったが、こんなに潔く覚悟を決めた人間を目の当たりにするのは生まれて初めてだった。
誰でもどんな権力のある人間でも、最後は自分の命欲しさに我を忘れて泣き叫び、許しを請うものなのに。
これだけの人数に取り囲まれたら、どんなに虚勢を張った男でも震え上がり逃げ出すことだけを考えるのに。
桜井の腕の中にいる宇宙は、恭也が知っている人間とはまるで違っていた。
顔は女のように見目麗しいし、身体だって細い。
どこにも自分たちに対抗できる根拠など見当たらない。
それなのに、正々堂々としていて清々しくそして潔いのはなぜなのだろうか。
しばらく呆然としていた恭也は、燃える煙草の熱さに気づいて、はっとして煙草を床に捨てた。
そして靴底で、そんな宇宙の心意気を踏みにじるかのようにもみ消す。
「いい覚悟だ。その覚悟に免じて・・・最後までイカせてやるよ。お前は十分に満足したようだが桜井はまだだろう?それとも、俺たちが見ている前では勃つモノも勃たねーか?」
ニヤッと笑って、恭也が言う。
その言葉に、ベッドのまわりをうろついていたチンピラたちの間から、一斉に下品な笑い声が上がった。
「俺たちの見ている前で、あんあんって言ってみろよ」
「ここで見物してやるぜ。お前が感じて尻を振る姿をよ」
チンピラたちが、口々に野次をとばす。
最初、恭也の言葉に驚きを隠せなかった宇宙と遼一だったが、抱き合ったまま見つめ合うと、少しも臆することなく唇を重ねた。
そしてそのまま激しいディープキスを続けていく。
「おい・・・?本気でやる気だぜ?」
「まさか・・・?この状況でできるわけねー」
面白おかしく囃し立てていたチンピラたちの声が、いつの間にかやんでしまう。
宇宙の蕾に、遼一のいきり立っている分身が再び挿入されたからであった。
「あっ・・・あぁ・・・・・・・」
宇宙の真っ赤に色づいた唇から、妖艶な喘ぎ声が上がる。
ズンズンッと、遼一の腰が宇宙の股間に当たる音がする。
「あぁ・・・遼一・・・いい。もっと・・・・・・・」
このとき宇宙は、本気で喘いでいた。
もうこのまま二度と、遼一に抱いてもらえなくなってしまうかもしれない。
もう二度と・・・・・・・。
そう思うとまわりのチンピラたちの存在などまったく気にならなかった。
さっきまでの続きを楽しむように、自ら腰を上下に振り、遼一自身を締めつける。
遼一も、そんな宇宙に誘われるままに腰を激しく揺らしていた。
さっき中断された行為を、もっと高みまで押し上げていく。
「あぁぁーーーーーーーー。遼ちゃん・・・すごい・・・」
こうなると、もう恭也の存在など無に等しかった。
「宇宙・・・」
「遼ちゃーん・・・いいっ。すごくよくて・・・あぁぁーーーーーーーっ」
また、イッてしまいそうな喘ぎ声を上げて宇宙がベッドでのけ反る。
髪を振り乱して妖艶に喘ぐ宇宙の姿を見ていたチンピラたちの間から、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。
恭也も、最初は嘲るようにして見ていたが、今では瞬きもできないくらい宇宙の淫らさに釘付けになっていた。
上下に開く濡れた真っ赤な唇。
ギュッと握り締められた白いシーツ。
甘ったるくて聞いている者の理性を失わせるような喘ぎ声。
そして、桜井の下で腰を震わせ、快楽のすべてをのみ込んでいる、美しくも淫らな肢体。
「あぁぁーーーーーーーっ・・・、イッちゃう!」
そう叫んだ宇宙の足の指が、ピクピクッと震えている。
上気した肌にくっきりと残っている朱色のキスマークが、脳裏に焼きつく。
「私も・・・イク・・・」
遼一は、宇宙の中を深々と貫きながら、絶頂の証を放った。
それをのみ込み受け入れている宇宙の蕾が、ビクビクッと痙攣を起こしているのが見える。