東京スペシャルナイト 上 38
- 2016年02月25日
- 小説, 東京スペシャルナイト
恭也は、らしくなくクラリとするような目眩を覚えた。
宇宙の身体から発せられている独特な匂いやクチャクチャという音に思考を侵されていた。
仕事がら、AVの撮影現場を行き来している。
言うことを聞かない人間を屈服させるために、無理やり犯したこともある。
女も男も、何十人と抱いてきた。
その恭也が、一瞬でもクラリと目眩を感じてしまったのだ。
それは、恭也自身も信じられないくらいの驚きだった。
まさか、こんな小僧に・・・?
恭也が心の中で自身に問いかける。
そして恭也の分身が、いつの間にかスラックスの中で頭を擡げている事実に気づいた。
恭也は、慌てて煙草を口に銜えた。
だがいつもはすぐに火をつけるはずのチンピラたちは、宇宙と遼一の激しく淫らなセックスシーンに釘付けになってしまっていて、誰も気づかない。
恭也はそのことに怒りを覚えると、近くに立っている男の腹に思いきり蹴りを入れた。
「ぐはっ・・・」
腹を蹴られたチンピラが、身体を曲げて床に転がる。
「おい、火だっ」
恭也の叫び声に我に返ったチンピラたちは、急いで火の点いたライターを差し出した。
ようやく煙草に火を点け一服し、落ち着きを取り戻した恭也は、その煙草の火を遼一の右肩に押しつけ、火をもみ消した。
「あうっ!」
ジュッと肉が焼ける音がして、遼一が大きく呻く。
遼一の身体が一瞬大きく震える。
その様子と声に驚いた宇宙は、慌てて遼一の下から這い出した。
そして煙草の火を押しつけられているのを目の当たりのし、慌てて恭也の手を払いのける。
火が消えた煙草が、ポトッと床に落ちる。
「やめてっ!なんてひどいことを・・・」
宇宙の煙草を払った怒りの手が、そのまま恭也に掴みかかろうとする。
「やめるんだ、宇宙」
その手を止めたのは、遼一だった。
遼一は火傷の苦痛をこらえ、顔を歪めている。
「遼一・・・?」
「このくらい、どうってことない。平気だ」
そう言って、宇宙を庇うようにベッドから下りる。
遼一は全裸の身体を隠そうともせずに、恭也の前で仁王立ちになった。
そして恭也を両目を細めるようにして睨みつけ、言い放つ。
「私は変わったんだ、恭也。もう煙草の火で脅すくらいでは、いいなりにはならない」
火傷をしている部分から血を流し、遼一がものすごい形相でまわりのチンピラたちを威圧する。
その顔に一瞬ビビッたチンピラたちは、思わず足を後退させた。
「・・・ どうやら以前の桜井遼一ではないようだ。眠っていた本性が宇宙のせいで目覚めたということか」
恭也は、ふふっと笑いながらどこか楽しげに言う。
その不気味な笑いに後押しをされるように、チンピラたちが一斉に遼一を取り押さえた。
遼一は抵抗するでもなく、おとなしくチンピラたちに取り押さえられる。
「抵抗しないのか?生まれ変わったんだろう?宇宙の前で、少しはいいところを見せてやったらどうだ?」
以外にもおとなしく束縛された遼一に不審を抱きながら、恭也が眉間に皺を寄せる。
「遼一っ!」
宇宙は、チンピラたちに殴られ蹴られている遼一に飛びついて自分が盾になろうとした。
だが恭也が、そんな宇宙を簡単に捕らえてしまう。
「おっと・・・。お前は俺と一緒に来てもらう。亨様から・・・煮て食おうと焼いて食おうと好きにしてもいいというお許しをいただいている」
「なんだと!?」
恭也の言葉に驚いた遼一が、急に暴れ出す。
チンピラたちは数発殴られながらも、なんとか遼一を床に押さえつけることに成功した。
だが、あのおとなしいただのマッサージ師だった遼一とはまったく違うことに、チンピラたちも驚きを隠せない様子だった。
「こいつ・・・。なめた真似しやがって・・・」
「亨様の許しがなきゃ、金属バットで殴り殺してるところだぜ」
「亨様はまだお前に未練があるらしい。おとなしく観念して俺たちと一緒に来るんだな」
派手なスーツに身を包んでいるチンピラの一人が、そう言って遼一を立たせる。
一人は、裸の遼一に無理やりバスローブを着せた。
よほど顔を殴られたのか、遼一の男らしく整っている顔に無数の傷がついている。
それを見た恭也は、チッと舌打ちをした。
「顔は傷つけるなと言っただろう!馬鹿野郎がっ!」
恭也は目を吊り上げ怒鳴り散らす。
チンピラたちは一瞬、子犬のように脅えてペコペコと頭を下げて謝った。
「申し訳ありません。ですがこいつが暴れるもんですから・・・」
と言っているそばから、遼一が恭也に捕らえられている宇宙に近づこうとする。
だが一人のチンピラの足が僚一の腹部に入り『げほっ』という声とともに、床に屈する。
ボタボタッと口から血が出て、床に落ちていく。
「遼一っ!」
その血に驚いた宇宙が、遼一に飛びつこうとする。
だが恭也は、宇宙の手をきつく掴んだまま離そうとしなかった。
それどころか、顎を強く掴まれグイッと上を向かせられてしまう。
「お前もいい子にしていないと、こういう目に遭うんだぞ?ん?」
優しい声だったが、背筋が凍りつくような冷酷さが滲んでいた。
抵抗しようにも、後ろで一つにされた手が痛い。
掴まれている顎が自由にならない。
このままでは、遼一が殺されちゃうっ!