東京スペシャルナイト 下 1

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※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とはいっさい関係ありません。

 

桜井遼一は、幼い頃に母親を失った。

 

突然の病死だった。

 

悲しむ暇もなく、その後母方の親戚の間をたらい回しにされ、養護施設に入れられた。

 

そして六歳になったとき、心優しい養父母が見つかり、遼一を東北地方に連れていった。

 

自分たちの子供に恵まれなかった養父母たちは、とても優しかった。

 

遼一を心から愛してくれた。

 

今までの不幸が嘘のように、遼一に幸せが訪れていた。

 

だが、そんな幸せも長くは続かなかった。

 

高校の卒業式を一週間後に控えたある日、養父母たちは突然交通事故で亡くなってしまった。

 

悲しみに泣き崩れている遼一に、以前世話になった施設の女性が来て言った。

 

高校を卒業したら働きなさい。

 

遼一は、大学を進学することを諦めて、東京に上京した。

 

かつて母親と三年間だけ過ごした東京の空気に、遼一はなぜか懐かしさを感じていた。

 

身の回りの整理をして東京に越してきた最初の日。

 

遼一はあの事件に巻き込まれてしまった。

 

一生を棒に振るような、ぼったくりの店での事件を、遼一は一日たりとも忘れる事ができなかった。

 

どうしてあのとき、あの店に入ってしまったのだろうか。

 

どうしてアパートにいなかったのだろうか。

 

どうして?

 

その後遼一は、不本意ながらもこうして自分を責め続ける十年間を過ごしていた。

 

だが養父母の死やあの店での出来事がすべて仕組まれたことだったということを、遼一はいまだに誰からも知らされていなかった。

 

そしてそれが遼一の出生に秘密があるとは、考えもしないことであった。