東京スペシャルナイト 上 25
- 2016年01月25日
- 小説, 東京スペシャルナイト
桜井からの電話が来ない。
そればかりか、マッサージの予約をしても『予約で埋まっている』とか言って、受け付けてくれないのだ。
プール付きの豪華なラブホテルでのウルトラスペシャルマッサージは、極楽そのものだった。
だがその後、桜井はどういうわけか冷たくなったような気がしていた。
あのときは時間が許す限りプールの中で遊んだり、何度もウルトラスペシャルマッサージをしてくれたりしたのに。
桜井が、またしても冷たくなってしまったのだ。
宇宙は、日々の忙しい学校生活に追われながらも、桜井の素っ気ない態度の原因がなんなのか知りたいと思っていた。
考えてみれば、親密度が増せば増すほど、どんどん桜井が冷たくなっていく。
普通なら、優しくなっていって当たり前なのに。
恋人同士なら、関係が深くなっていけばいくほど、親密さは増していくのに。
それとも、釣った魚には餌をやらない主義なのだろうか?
いいや、まさか。
桜井ほどの男に限ってそれはないと確信している。
ではどうして宇宙を避けているのだろうか。
ウルトラスペシャルマッサージまでしてくれる深い仲になったというのに、それと反比例するように桜井の気持ちが遠ざかってしまう。
どうしてなんだろうか?
さまざまな要因を考えながら、宇宙は子供たちと忙しい毎日を過ごしていた。
今日は早く帰れそうだし、予約はしていないけど、ちょうど桜井のところに寄ってみようか。
でも嫌な顔をされたり、粗略に扱われたらどうしよう。
「・・・・・・本当に忙しいのかもしれないし、もう少し様子を見てみよう」
宇宙は冷たくされたとき、どうしていいのか分からなくてそんなふうに考えるようにした。
きっと仕事が忙しいんだと。
「ねぇ、せんせ。体育館で鬼ごっこしようよ」
お昼休み、キラキラと瞳を輝かせた子供たちが宇宙の手を引っ張る。
「よし、鬼ごっこやるか?先生が鬼になるからね」
「ぎゃぁぁーーーーーっ!先生が鬼だぁぁーーーーーっ」
「わーい、わーい。先生が鬼だぁぁーーーーー!」
子供たちが、きゃーきゃーと騒ぎながら体育館へと走っていく。
「こら、走っちゃだめでしょ!?危ない・・・危ないって」
宇宙が叫んでも子供たちの無邪気に走り回っている足を止めることはできなかった。
だが、そんな子供たちの足が、体育館の入り口でピタリと止まる。
体育館の中には国ちゃんとその仲間たちがいて、すでに体育館を占領していた。
ドッヂボール用のボールを蹴って、キックボールをしていた。
体育館の中でのキックボールは禁止されているにもかかわらず、国ちゃんたち悪ガキトリオは、一年生の分際で我が物顔で遊んでいる。
三年生の集団もそこにいたが、国ちゃんが怖いので何も言わず隅のほうで見ている。
宇宙は国ちゃんや他の悪ガキ集団を呼び寄せ、体育館の中でキックボールをしてはいけないと注意した。
だが宇宙の言葉など、国ちゃんは全然聞こうともしない。
ボールを思いきり隅に蹴って、挙げ句の果てには宇宙に向かってこう言った。
「惚れたヤツのことでも考えてボーッとしていると思ったら、今日は元気じゃん。それとも、元気に見せてるだけとか?」
まるで、中学生か高校生のような言い方である。
本当にこの子は小学一年生なんだろうかと疑問に思いながら、国ちゃんの肩を掴んだ。
「国ちゃん!いい加減にしないとご両親に学校に来てもらいますよ」
と、宇宙が言うと、国ちゃんは不気味な笑顔でニタッと笑った。
「いいよ、来てもらってよ。僕の両親を呼べるものならね」
とて自信ありげな顔で、国ちゃんが言う。
宇宙は小学一年生とは思えないその笑顔を見てなんだかとっても嫌な予感を感じていた。
だがまだその予感がなんなのか、宇宙には分からなかった。
そしてその予感を宇宙が知るには、まだ少しの時間を要することになった。