東京スペシャルナイト 下 14
- 2016年04月06日
- 小説, 東京スペシャルナイト
手に何かを持っている。
手の中に入ってしまうようなガラスの小瓶のキャップを外している。
それを見ていた遼一の顔が一変する。
ヤクザが持っているのは、輸入品の媚薬だった。
液体を股間に垂らせば、媚薬の効力がその者の理性を失わせ、気が狂うほどに男を求め続けるというとても高価な代物だった。
遼一は以前に一度、その媚薬によって気が狂ってしまった男を一人見て知っていた。
恭也に逆らい、逃げようとしたその男は、媚薬によって完全に理性を失い、まるで野獣のように次々と男を食らい込み、絶頂の声を上げ続け、ついには気が狂ってしまったのだ。
あの時は媚薬の量が多すぎてしまったのと、目の焦点も合わず口端から唾液をだらしなく垂らしている男を見下ろして、恭也が言ったのを聞いた。
廃人同様になった男のその後を遼一が知ることはなかったが、だいたいの想像はできる。
十年近く亨に囲われてきた遼一は、亨が裏でやっている人身売買のことも承知していた。
亨はやると言ったら絶対にやる男である。
残酷で情などはいっさい持ち合わせていない亨に、宇宙を自由にさせてはならない。
「おい、たっぷりと塗ってやれ。尻の穴にも十分にな。媚薬が効いた頃には自分から尻を振って男に犯してほしいと哀願してくる。さぞかし色っぽい姿だろうな、そう思わないか、遼一?」
亨の言葉にヤクザの一人が媚薬の瓶の口を宇宙の股間に傾け、中の液体を垂らそうとする。
遼一は、自由なほうの脚を思いきり伸ばすと、ヤクザが持っているその瓶を足先で蹴飛ばした。
飛ばされた瓶が、ガシャーンッと床に落ちて割れる。
「こいつ・・・なんてことを!」
ヤクザが慌てて床にしゃがみこむ。
液体の媚薬は、すっかり床に零れ染み込んでしまっていた。
これでは使いものにならない。
遼一は、ニヤッと顔を綻ばせた。
だが次の瞬間、恭也の拳が塞がったばかりの胸に叩きつけられる。
「はぐぅ・・・ぐぅう・・・・・」
遼一が、胸の傷を押さえて激しくのけ反る。
傷口が少し、開いたような感覚だった。
遼一にひどい仕打ちをしたのに、亨は恭也を叱らなかった。
というよりも、恭也が殴らなくても亨が同じことをしていたからである。
媚薬はもう用意していなかった。
床に零れた媚薬を見て、亨はチッと舌打ちをした。
だがこれで宇宙に対する仕置きをしなくなったわけではない。
亨は椅子にドカッと腰を下ろすと、煙草に火を点けながら恭也に命じた。
「お前の好きにやっていい。もともと、この男はお前にやった男だからな」
亨の言葉に、恭也はニヤッと口端を上げて笑った。
なんの抵抗もできない宇宙を見下ろし、恭也がテーブルの上から真っ赤な蝋燭を手に取る。
蝋燭はSM用の蝋燭で、女性の腕ほども太く長かった。
「誰か、火を点けろ」
恭也が言うと、ヤクザの一人が蝋燭の芯に火を点けた。
とたんに、溶けやすい真っ赤な蝋がポタポタと垂れていく。
その蝋燭を見上げていた宇宙の顔が、引き攣った。
「これはSM用の蝋燭だ。見た目ほどは熱くはない・・・」
と言うなり、恭也が蝋燭を斜めにして宇宙の上半身に蝋が落ちるようにする。
ポタッ・・・と、最初の蝋が宇宙の右の乳首の周りに落ちた。
「あっ・・・ひぃぃ・・・・・」
熱くないなどというのは嘘だと、宇宙はとっさに思った。
熱いじゃないかっ。
しかも、落ちた瞬間が特に熱い。
その熱さが、蝋が固まると同時にじんわりと身体の中に浸透していくのが分かる。
蝋が肌の上で真っ赤に固まり、熱さが消えると、また溶けた蝋が乳首の周りに落ちてきた。
「あっ・・・熱いっ・・・あっ・・・」
身体が自然とビクビクッと痙攣する。
卑猥な格好で寝かされている宇宙の身体は、まるで飛び魚のように蝋が落ちると跳ね上がった。
蝋がポトポトっと、柔らかな皮膚に続けざまに落ちていく。
「あっ・・・やだっ・・・熱い・・・熱いよぉー・・・・・」
「宇宙っ!」
遼一は蝋燭の蝋で責められ、もがき苦しんでいる宇宙に耐えられず声を上げて手を伸ばした。
だがどうしても宇宙に手が届かない。
足枷が邪魔をしていて、宇宙を助けることができない。
遼一は、足が折れてもいいと思いながら、なんとか足枷を外そうと暴れる。
そんな遼一を見て、椅子に足を組んで座っている亨が皮肉を込めて言った。
「そんなに暴れても宇宙を助けることは無理だ。諦めろ、遼一。それよりよく見ろ。お前の愛しい宇宙がもがき苦しんでいるだけなのか・・・」
と言われて、遼一は暴れるのをやめて宇宙を見た。
床に寝かされたまま、両脚を目いっぱい開いた状態でロープで縛られている宇宙は、ただ苦痛に顔を歪め、もがき苦しんでいるだけではなかった。
白い裸体が真っ赤な蝋で塗り固められていくうちに、甘い声が漏れるようになっていたのだ。
「あっ・・・あっ・・・熱い・・・やっ・・・あぁ・・・・・」
宇宙自身は気づいていないようだったが、確かに蝋を垂らされて感じていた。
左右の乳首が真っ赤な蝋で固まり、その蝋がポタリポタリと腹のほうへと移っていく頃には、宇宙は完全に蝋が与えてくれる感覚を快感として受け止めていた。
「あ・・・んっ・・・ひぃ・・・あっ・・・」
蝋燭を握っていた恭也は、そんな宇宙の変化を感じ取り、腹の次に白い内股へと蝋を移していく。
左右に開かれている宇宙の内股にポタリポタリッと蝋が落ちていく。
「あんっ・・・だめっ・・・そこは・・・あっ・・・」
「だめじゃなくて、本当は気持ちいいんだろう?」
恭也が、蝋を垂らすのをいったん止めて宇宙に聞く。
宇宙は、ロープでぐるぐる巻きにされたまま、首を必死に振って違うと訴えた。
だが、蝋の熱さによって敏感になってしまった身体が恭也の言葉のとおりだと訴えている。
宇宙の隠すことのできない分身が、いつの間にか勃起していたのだ。
しかも、先端の割れ目からとめどなく先走りを滴らせ、根元まで垂らしている。
その様子を目の当たりにした周りの者たちの間から、苦笑が漏れた。
遼一は直視できず、とっさに目を瞑ってしまう。
「どうした遼一?しっかりと見るんだ。自分の愛した者が恭也の仕置きによってどう変わっていくか。仕置きされた者がどうなっていくか、ちゃんと自分の目で見て確かめろ」
「亨さんっ、お願いです。仕置きをやめさせてくださいっ。宇宙への仕置きは私が代わりに受けます。だからもう・・・もう・・・・・」
遼一は囲われていた自分を思い出したように、亨に哀願した。
目には涙が溢れている。
だが亨はそんな遼一を楽しそうに見つめるだけで、恭也に仕置きをやめるように命令はしなかった。
それどころか、もっといやらしく過激にするように恭也に言う。
ちょうど、一人のヤクザがビデオをセットしたところだった。
「ここからビデオを撮るんだ。もっと売れるように過激に責めろ」