東京スペシャルナイト 下 23

相手がすべての事情を知っていることに驚いた亨は、苦痛で顔を歪めながらてっちゃんと丸君を見つめた。

 

「・・・くぅ・・・お前たちは誰だ?どうして遼一の出生の秘密を知っている?」

 

するとてっちゃんが、床に転がっているサイレンサー付きの銃を拾い上げ、指先でくるくるっと回す。

 

「俺たちのことより、自分の身の上を心配しろ。お前にはもう父親の保護はないからな」

 

てっちゃんの言葉に、亨の顔色がサーッと青くなった。

 

父親の保護がないとはどういうことなのか?

 

「本人に直接聞け」

 

と、てっちゃんが言うと、開け放たれたドアから側近に囲まれた大江原権蔵が入ってきた。

 

杖をつき、ゆっくりとした足取りで病室の中に入り、惨状を目の当たりにするなり権蔵は顔を曇らせた。

 

「・・・ここまで無能者だとは思わなかった・・・。お前を私の後継者として次期参議員に推薦するのはやめにしよう」

 

権蔵は汚らわしいものでも見るように亨を見て、そう言った。

 

腕を撃たれている亨は、父親の言葉に驚愕する。

 

「と、父さんっ!これにはわけが・・・ 」

 

「わけなどどうでもいい。大事なのは結果だ。私はお前にそう教えてきたはずだ。そうだろう?」

 

そう言った権蔵が呆れ果てたように息子を見つめる。

 

権蔵の側近たちは、傷ついているヤクザたちを立ち上がらせ、病室から連れ出していく。

 

「紅林組の組長より正式に通告があった。息子を返してほしいという内容のものだ。私がお前に遼一を預けたのは、こういう結果を望んでのものではない。もう少し父親の心中を察しているかと思ったが・・・」

 

権蔵は首を振りながらそう言って、亨に背中を向けた。

 

「でもまだ負けたわけでは・・・。遼一を人質にして要求を出してみては・・・」

 

「馬鹿者っ!勝敗以前の問題だということにまだ気づかぬのかっ!この愚か者めがっ!」

 

振り返り、権蔵が怒鳴りつける。

 

その声に身体を縮ませてしまった亨は、身体の痛みも忘れたようにガックリと床に崩れた。

 

そんな亨に追い打ちをかけるように、権蔵が言う。

 

「お前の息子が言っていた。『僕の先生をいじめたら承知しない、一生父さんを恨んでやる』と、『父さんに伝えておいてくれ』と。あれは勘のよい子だ。お前が国の担任の先生に何をしようとしているのか勘づいているようだ」

 

「国の・・・担任?まさか・・・宇宙が?でもそんな報告は・・・」

 

「だから愚か者だと言うのだ。自分の息子の担任ぐらい覚えておけ、この馬鹿者がっ!」

 

権蔵の言葉に、亨は愕然としてしまった。

 

自分の息子である国が、いつもとても好きだと言っていた担任の教師が、宇宙だったとは!

 

遼一のことだけに気を取られ、宇宙の身辺を探ることを怠っていた。

 

「それともう一つ。この一件からはすべて手を引かなければならない理由がある。あの藤堂四代目が紅林組の跡取りの一件を陰で調べているという噂が耳に入った。藤堂四代目が動き出したとなると、手を引かざるを得ない。そうだろう?」

 

父親の言葉に、亨はぐうの音も出なかった。

 

日本の裏社会を牛耳っているという藤堂四代目がこの一件にかかわっているとなると、もはやどうすることもできなかった。

 

宇宙と遼一を、自由にしてやるしかない。

 

「今後いっさい、二人には構うな。いいな?」

 

権蔵は最後にそう言い残し、病室を出ていく。

 

病室の外には、あの気弱そうな医師が立っていた。

 

権蔵はその医師に向かって言う。

 

「亨に、この病院から手を引かせる」

 

その一言を聞いた医師が、びっくりして目を白黒させる。

 

「あ、あの・・・では・・・借金のほうは?」

 

「藤堂四代目の代理の者から預かった。お前はもう自由だ」

 

「代理の者?」

 

医師はそう呟いてから、いきなり目の前に現れた相模鉄男の存在を思い出した。

 

ではあの男が?

 

「宇宙、怪我はない?」

 

病室の中では、丸君が宇宙に話しかけていた。

 

「ううん、大丈夫。ちょっといろいろされちゃったけど・・・でもこんなことは平気だから」

 

真っ赤な蝋がまだ残っている身体で、明るく宇宙に言う。

 

その健気な元気さと明るさに丸君とてっちゃんは思わず微笑んだ。

 

実はてっちゃんと丸君は、病室の中で行われたすべてのことを監視カメラで見ていたのだ。

 

蝋で責められ、バイブで嬲られても決して自分の意思を曲げなかった宇宙を見て、二人の愛が本物だと知った。

 

そして携帯から藤堂四代目に連絡を入れて紅林組を動かし、権蔵をここに導いたのだ。

 

権蔵は最初は知らぬ存ぜぬを通していたが、藤堂の名を聞いたとたん手のひらを返したようにすべてを打ち明けた。

 

権蔵ほどの大物政治家でも、藤堂四代目に睨まれることは避けたかったのだ。

 

「あなたが桜井遼一さんだね?」

 

ダンディな雰囲気を漂わせているてっちゃんに丁寧に尋ねられて、遼一は立ち上がって「はい」と返事をした。

 

てっちゃんが遼一の顔をじっと見つめて、満足したように頷く。

 

「あなたの本当の姿は見せてもらった。修羅の心を持ちながらもそれに流されることなく己自身と正義を貫き通したあなたの姿には感銘を受けた。紅林組もあなたのような跡継ぎがいれば安泰だろう」

 

てっちゃんの言葉に、遼一がゆっくりと首を振る。

 

「いいえ。私は桜井遼一です。紅林組など知りません」

 

「だがあなたはまぎれもなく、紅林組の跡継ぎだ。父親があなたの行方を血眼になって捜している。組を任せたいと思っているのだ」

 

てっちゃんが、慎重な口調で言う。

 

ガウン姿の遼一は、腕の中に宇宙を抱きしめたまま立ち上がり、その事実を拒絶するかのように首を横に振った。

 

「私の父が誰であるにしろ、私は私です。ヤクザの組長になるつもりはありません」

 

潔くきっぱりと言った遼一を見て、てっちゃんがニヤッと笑う。

 

「その心意気も気に入ったよ。今どき、あなたのような人は珍しい。事実を頭から否定しないで、一度、父親に会ってみたらどうだ?考えが変わるかもしれないぞ?」

 

てっちゃんの優しい言葉にも、遼一は頷かなかった。

 

傷ついた足首を引きずるようにして、宇宙と一緒に病室を出ていく。

 

「・・・父にお伝えください。私の心は変わらないと。私は宇宙と一緒に生きていくと」

 

それだけ言うと、遼一はめちゃくちゃになっている病室を後にした。

 

ガウンを着ている宇宙を抱きしめながら廊下に出ると、そこには手当をしてくれたあの医師がにこやかな表情で立っていた。

 

「なっ、聞いてくれっ。藤堂四代目のおかげで、もう脅される生活も終わりそうなんだ。この病院も借金のかたに取られなくて済んだ。これからも医者を続けられそうなんだ」

 

そう言った細面の医師の瞳には、涙が溢れていた。

 

ずっと脅えていた生活からやっと抜け出せた喜びが溢れていた。

 

遼一は、そんな医師の肩にポンッと手を置くと、今まで看病してくれた礼を言った。

 

「いろいろとありがとう」

 

「こ、こちらこそっ。救ってもらったのはこちらのほうだ。なんて礼を言ったらいいのか・・・」

 

「救ったのは私じゃない。中にいる人たちだ」

 

と、遼一が病室を指さして言う。

 

病室にまだてっちゃんと丸君が残っていた。

 

「いや、私の荒んだ心を救ってくれたのは間違いなくあなただ」

 

医師はそう言って右手を差し出す。

 

遼一は、ふっと軽く笑った。

 

そして医師と固く握手すると、宇宙の身体を抱き寄せるようにして廊下を歩いていった。

 

てっちゃんと丸君は、そんな遼一と宇宙の後ろ姿をただじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 22

自分がヤクザの組長の息子だから。

 

たったそれだけのことで、母や養父母を殺すように命じた本妻、そして手を下した者たち。

 

そして大江原や亨、恭也まで、かかわっている者すべてが憎いと思った。

 

そして、そんな自分を捜しているという父親である紅林組の組長が、一番憎いと思った。

 

「お前を利用して紅林組を乗っ取ろうと考えていたが、その計画は変更したほうがよさそうだ。そうでしょう、亨様?」

 

と、床に落ちている拳銃を拾った恭也が言うと、逃げようとしていた亨は立場が逆転したことに喜びながら「そうだな」と答えた。

 

そして自分も拳銃を拾い、余裕の顔で遼一と宇宙の前に近づいていく。

 

「お前がおとなしくマッサージ師のまま囲われていればこんなことにならなかったのに、残念だな。腕のいいマッサージ師を失うのは痛手だが、仕方ないだろう」

 

力なく床に崩れている遼一に向かって亨が言う。

 

「あのとき、言われたとおりに殺しておくべきだったんですよ。十年前に・・・養父母と一緒に・・・」

 

ゆっくりと近づいてきた恭也も言う。

 

二人は並ぶと、揃って銃口を遼一に向けた。

 

宇宙は二人の話の内容に愕然としながらも、身に迫った危機をどのように回避したらいいのか考えていた。

 

だがいくら考えてもこの状況を一変させられる答えが出てこない。

 

さっきまで仁王様のようだった遼一は、二人の話の内容にすっかり毒気を抜かれてしまっていた。

 

母親の死と養父母の死が、すべて仕組まれたものだったとは・・・。それも自分の出生の秘密に原因があったなんて知らされたら、誰でもショックを受けるのは当たり前である。

 

「・・・遼一、大丈夫?」

 

宇宙は遼一に抱きつきながら、静かな声でそう聞いた。

 

「宇宙・・・私は・・・・・」

 

遼一はまだショックから立ち直っていない。

 

見た者が思わず身体を震わせてしまうほどのあの威圧感が、どこかにいってしまっていた。

 

「遼一、お願い、しっかりして・・・」

 

宇宙は、薄ら笑いを浮かべている亨と恭也を見上げながら、遼一の腕を揺すった。

 

遼一はじっと何かを考えている。

 

「遼一、遼一。ショックなのは分かるけど、でもお願いだから立ち直って。でないと本当に殺されてしまうっ」

 

宇宙が泣きながら言うと、遼一の肩がピクッと動いた。

 

そして宇宙を見つめる。

 

遼一の瞳は、涙で濡れていた。

 

「宇宙、私は二人を許すことができない。どうしてもできないんだ」

 

遼一が言った。

 

遼一の瞳には、何かを決心したきらめきがあった。

 

「うるさいぞっ、何をゴチャゴチャと言っているんだっ。今から二人揃って殺してやるからありがたく思えっ」

 

恭也が、銃口を遼一に押しつけて言う。

 

そのときだった。

 

恭也の腕に、宇宙が思い切り噛みついた。

 

「いたっ・・・痛い・・・っ」

 

とっさのことで、恭也が拳銃を落としてしまう。

 

その隙に、遼一は血を流している脚で亨の身体を思いきり蹴飛ばした。

 

バキバキッと鈍い音がして、亨の身体が床にうつ伏せになる。

 

あばら骨が何本か折れたような音だった。

 

「うあっ・・・ぐあっ・・・・・」

 

亨が苦しそうに胸のあたりを押さえてヤクザたちと一緒に床を転がる。

 

恭也も、亨と同じように遼一に蹴られ、そして顔を数発殴られた。

 

恭也の意識が遠のいていく。

 

あっという間に形勢が逆転し、ヤクザたちと亨、恭也が床に転がっている。

 

そして銃口を恭也と亨に向けて引き金を引こうとする。

 

「遼一!?」

 

「私はこの二人だけは許すことができないんだ。母ばかりでなく、あの優しかった養父母までも殺したこの二人だけは・・・」

 

「お、おいっ、殺したのは俺たちじゃない」

 

「同じことだっ。殺すように命令したヤクザの本妻もその命令を受けたヤクザもお前たちも、一緒だっ。みんな畜生だっ!」

 

そう叫んだ遼一の瞳からは涙が溢れていた。

 

宇宙はそんな遼一の胸に抱きつくと、同じように涙を流して訴えた。

 

「遼一、遼一、お願いだからもうやめて・・・。事実を知ってどんなにつらく悲しいかよく分かる。遼一が受けた仕打ちを考えれば殺したくなる気持ちもよく分かる。だけど・・・この二人を殺してはいけない。二人を憎しみの感情で殺してしまったら、遼一も二人と同じ人間になってしまう。二人と同じ最低の人間になってしまう。そうでしょう?」

 

宇宙の言葉は、胸にズンッと重くのしかかった。

 

遼一が、涙が零れている瞳で宇宙を見つめる。

 

宇宙の瞳にも涙が溢れていた。

 

宇宙は、自分が受けた痛みをそのまま感じ取り、受け止めてくれているのだ。

 

遼一は思わず拳銃を手放し、宇宙の身体を抱きしめた。

 

「宇宙・・・宇宙・・・お前って子は・・・。こんなひどい目に遭いながら・・・」

 

「遼一、僕がずっとそばにいるから。いつでも遼一のそばにいるから。だから憎しみや恨みを忘れて以前の遼一に戻って。お願い・・・ねっ、遼一?」

 

宇宙の必死の説得に、遼一の胸につかえていたものがするりと滑り落ちていった。

 

そして修羅の心が目覚めた仁王様のような遼一ではなく、宇宙と出会った頃の遼一に戻っていく。

 

「宇宙・・・お前がそばにいてくれてよかった。宇宙と巡り合ってよかった」

 

「遼一、それを言うのは僕のほうだよ。遼一に巡り合えて本当によかったと思っているんだから」

 

と宇宙が、遼一の胸に抱きついていく。

 

ひどい仕置きを受け、心も身体もボロボロの状態なのに、宇宙の純粋で清らかな心根はまったく変わっていなかった。

 

以前のままの、美しく聡明な宇宙である。

 

遼一は、そんな宇宙を愛しくてたまらないとばかりにもう一度深く抱きしめた。

 

だがそんな二人に、懲りていない亨が苦しそうにしながらも、もう一度銃口を向ける。

 

そして引き金を引く。

 

一瞬早く拳銃の引き金を引き、亨の腕を撃った男がいた。

 

それは、ダークな感じのスーツに身を固めている相模鉄男だった。

 

「うぐぐっ・・・うぅっ・・・」

 

腕を撃たれた亨は、二度と立ち上がれないほどの苦痛にもがき苦しんでいる。

 

そんな中に突然現れたてっちゃんを見て、宇宙は両目を目いっぱいに見開きながら驚いた。

 

「もしかして、てっちゃん!?」

 

驚きの声で宇宙が聞くと、不精髭を剃り身綺麗になったてっちゃんはふふっと笑った。

 

「こんな格好してると、やっぱり変か?」

 

てっちゃんが少し照れたように言う。

 

「ううん、全然変じゃない。格好いいというか・・・そのほうがずっと似合ってる」

 

宇宙は、呆然としててっちゃんを眺めながらそう言った。

 

「誰だ?」

 

と、遼一が耳元で聞く。

 

宇宙はにっこりと笑って、あのどしゃぶりの中で助けてくれたのがてっちゃんだと話して聞かせた。

 

だがどうしてそのてっちゃんが、格好いいスーツ姿でここにいるんだろうか?

 

てっちゃんはホームレスで、日々の食べ物にも困っていたはずなのに。

 

「俺も忘れてもらっちゃ困るよ、宇宙」

 

そう言ってドアから入ってきたのは、丸君だった。

 

丸君も紺色のスーツを着て、ボサボサだった髪は後ろで一つに結んでいる。

 

洒落た革靴まで履いている。

 

あのホームレスでボロボロの衣服を身にまとっていた二人の姿は、そこにはなかった。

 

「丸君?本当に丸君?いったい・・・どうしちゃったの?」

 

わけが分からないといった感じで、宇宙が目を白黒させる。

 

そんな宇宙と遼一の前を横切ったてっちゃんは、腕を撃たれてもがいている亨と意識が朦朧としている恭也の前に立った。

 

「もうその辺でやめておいたほうがいい。お前たちに勝ち目はない」

 

「な、なんだと?お前・・・俺を誰だと思っている?」

 

プライドの高い亨は、撃たれた腕を押さえながらてっちゃんを睨みあげた。

 

いきなり出てきたわけの分からない男にこんなことを言われる筋合いはない。

 

亨は、くやしそうにわなわなと唇を震わせながら声を張り上げた。

 

「俺にこんな真似をして、ただですむと思うなよ。宇宙も遼一もそうだが、しゃしゃり出てきたお前たちも必ず見つけ出して殺してやるっ」

 

亨はそう吠えると、奥歯をグギギっと噛みしめる。

 

だがそんな脅しにてっちゃんも丸君も、まったく怯まなかった。

 

「あんたがどこのどなた様か、よく知ってるよ。国会議員の大江原権蔵の息子だろう?父親の権勢を利用して長い間、紅林組の跡取り息子を拉致監禁してきた罪は重いぞー。分かってるのか?」

 

と、てっちゃんがしゃがんで言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 21

宇宙は拳銃を握ったまま、遼一が言ったとおりに背後に隠れる。

 

だが銃口は相変わらず、亨に向いていた。

 

拳銃の数ではヤクザたちのほうが上回るが、人質がいる以上、勝負は互角だった。

 

恭也の首を締め上げ腕を掴み上げたまま、遼一が亨に向かって低い声で言う。

 

「・・・私たちを逃してもらう。そしてもう二度と、私たちを追わないと約束してもらう」

 

「何を馬鹿なっ!そんな条件を俺がのむと思っているのか?お前たちのほうが極地に立たされているんだぞ。要求できる立場かよく考えろっ!」

 

すっかり身支度を整えた亨が、強い口調で言う。

 

遼一の変貌ぶりには腰を抜かすほど驚いた亨だったが、こちらには三人のヤクザが味方についている。

 

拳銃の数でも勝っているのだ、負けるわけがないと亨は考えていた。

 

恭也が人質に取られたことは遺憾だが、恭也を犠牲にしても宇宙と遼一を捕らえたかった。

 

そんな打算が、亨の頭の中で動く。

 

「諦めて銃を捨てろっ。こっちは喧嘩のプロだ。いくら恭也を人質にとっても勝てるわけがない。恭也の代わりならいくらでもいるからな」

 

亨の言葉を聞いた恭也は、苦しいながらも思わず目を見開いた。

 

まさか、亨から見捨てられるとは思ってもいなかったのだ。

 

二人を逃してでも自分は助けてくれる、そう思っていた。

 

自分だけは側近としても特別な存在で、他の誰にも代わりはできないと思っていたのに。

 

ずっとそう思い、今まで尽くしてきたというのに。

 

「と、亨様・・・ぐうっ・・・」

 

首を絞めつけている遼一の力はものすごかった。

 

息をすることもままならない。

 

それに亨の言葉を聞いた手下のヤクザたちの銃口が、恭也を狙っていた。

 

「諦めて拳銃を捨てたほうがいいのはお前たちのほうだ。私は今、本気で怒っている。どうなっても知らないぞ」

 

遼一は見たこともない鋭い目つきでそう言って、恭也の身体を亨に向かって放り投げた。

 

一瞬宙を舞った恭也の身体は、そのまま床にドスンッと落ちた。

 

「ごほっ・・・ごほっ・・・・・」

 

恭也は、喉元を押さえながら激しく咳き込み立ち上がった。

 

「人質などいらない。私は自分の力で宇宙を守ってみせるっ」

 

遼一はそう言って、宇宙を腕中に抱きしめる。

 

亨は、ニヤッと顔を綻ばせた。

 

恭也という人質を手放した今の遼一は、丸裸同然だった。

 

それに、宇宙という足手まといもいる。

 

いくら極道の血を引く男でも、修羅の心を持つ男でも、拳銃には勝てないのだ。

 

だがそんな亨の考えが甘かったことを、すぐに思い知ることになる。

 

遼一は銃を構えていた近くのヤクザを蹴り倒し、そのまま拳銃を奪ってしまう。

 

そしてすぐに、他のヤクザたちの手首に向けて銃を撃った。

 

銃弾の音は、とても静かだった。

 

「あうっ!」

 

「うわーっ・・・」

 

手首を一瞬のうちに撃たれたヤクザたちの叫び声のほうが大きい。

 

銃など撃ったこともない遼一だったが、ヤクザたちの右手首に見事にヒットしていた。

 

次々と拳銃を床に落とし、屈み込むヤクザたち。

 

その無惨な姿に、さすがの恭也も愕然とした。

 

いつの間に拳銃の撃ち方を覚えたのか。

 

しかもあっという間の早業である。

 

余裕を見せていた亨も、その悪夢のような光景に唖然とするしかなかった。

 

金で買われ、囲われ、エッチなマッサージだけをしていた以前の遼一とはまったく違う遼一が、目の前にいる。

 

持って生まれた極道の血がそうさせるのか、修羅の心が遼一を大胆かつ凶暴に変えていた。

 

腕の中にいた宇宙も、その光景にさすがに驚いてしまう。

 

「・・・・・遼一?」

 

宇宙が遼一を呼んでも、遼一は吊り上がった恐ろしい目で亨と恭也を睨みつけていた。

 

いつもは優しく穏やかな瞳が、まるで仁王様のようにカッと両目を見開き立っている。

 

宇宙を抱きしめている腕にも自然と力がこもってくる。

 

宇宙は、今まで見たこともない遼一の姿に、ゾクっと背筋を震わせた。

 

つわもののヤクザたちを一瞬のうちに屈服させてしまう圧倒的な強さと威圧感は、今までの遼一にはないものだった。

 

いったいどうしてしまったのだろうか、遼一は。

 

宇宙がそんなことを思っていると、ドアまで後退した亨が薄ら笑いを浮かべて言った。

 

「やはり血は争えないということだな、遼一?」

 

亨の言葉に、遼一の吊り上がっている目がピクリと動く。

 

「それは、どういうことだ?」

 

遼一が低く威圧感のある声で聞く。

 

遼一の手には、まだ拳銃が握られていた。

 

手を撃たれ、床を転げ回っているヤクザたち。

 

それを見て、顔色を変える亨と恭也。

 

「お前が・・・ここに転がっている者たちと同じ種類の人間だということだ。お前の父親は紅林組の組長で、その頃愛人だったお前の母親は一人で育てると言ってお前を産んだ。だからお前の身体には生まれつき極道の血が流れているんだ。凶暴で凶悪な修羅の心もお前の中には存在する」

 

そこまでしゃべった亨は、ドアから逃げようとした。

 

だが遼一が撃った弾が、亨の行動の邪魔をする。

 

「私がヤクザの組長の息子だと?そんな馬鹿な・・・」

 

遼一は、亨の言葉を信じようとしない。

 

だが恭也が放った次の言葉で、心が凍ってしまった。

 

「亨様が言ったことは嘘じゃない。お前は紅林組組長の愛人の息子。母親は病死と聞かされているかもしれないが、実は殺されたんだ。紅林組の本妻の命令でな」

 

「な、なんだって?殺された?母さんが・・・?」

 

突然の事実を突きつけられ、遼一の身体が氷のように硬直してしまう。

 

「お前は頼る親戚もなく養護施設から養父母たちのもとに行った。そこで幸せに暮らし一生を過ごせるはずだったのだが、そうもいかなくなった。紅林組の跡取り息子がヤクザ同士の抗争で命を落としたからだ。組長はお前を捜した。だが見つからなかった。なぜだか分かるか?」

 

恭也の問いに、遼一は両目を見開いたまま立っていた。

 

やっと喉元の痛みがなくなった恭也が、言葉を続ける。

 

もう何も隠す必要はないと思った。

 

「お前を金で買い、自由を奪い囲ってしまったからだ。お前の痕跡を残らず消し去り、この世の中から抹消してしまったからだ。だからお前の行方はいまだに分かっていない」

 

恭也の言っていることがよく分からなくて、遼一は思いきり眉間に皺を寄せた。

 

恭也は何を言おうとしているのだろうか。

 

「まだ分からないのか?」

 

そんな遼一の悩む姿を見て、恭也が自分のペースで話をもっていこうとする。

 

「亨様の父である大江原権蔵様が、お前を金で買ったのが偶然だとでも思っていたのか?養父母たちが事故で死んだのも偶然か?」

 

そこまで恭也が言うと、遼一ははっとして顔色を変えた。

 

まさか、まさか・・・。

 

母ばかりか、あの優しかった養父母たちまでも殺されてしまったのでは?

 

「養父母たちは殺された?」

 

遼一の唖然とした言葉に、恭也が大きく頷く。

 

「すべて仕組まれたことだ。紅林組の跡取り息子が死んでからお前の運命も大きく変わったというわけだ。本妻は嫉妬深い女でな、お前が次の組長になることだけは阻止したいと、お前を殺すように命じてきた。だが大江原様はお前が死んだように見せかけただけで実際には殺さなかった。いつか役に立つときがくる、そう考えたからだ。そして金で買ったように見せかけて囲った。お前を譲り受けた亨様もそのことはすべて承知している。お前を今まで生かしておいたわけは、ヤクザの組をのっとれるかもしれない、そんな欲望があったからだ」

 

恭也の話を聞き、遼一はガクンッと膝を崩してしまった。

 

あまりのショックで、立っていられなかったのだ。

 

まさか、こんなからくりがあったなんて。

 

自分の出世の秘密にも驚かせられたが、そのために大切な人たちが無惨にも命を落としていたなんて知らなかった。

 

母や養父母たちが殺されていたなんて、今まで全然知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 20

愛する遼一以外の男に、こんな目に遭わされている自分が情けなくてつらくて、汚らわしく思えてしまう。

 

遼一以外の男に陵辱されて感じてしまっている自分の身体が憎くてしょうがなかった。

 

しかもその姿を遼一に見られてしまっている。

 

ひどいことをされながらも、激しく喘いでいる姿を愛しい遼一に見られてしまっている。

 

そのことが一番悲しかった。

 

「遼ちゃん、見ないでっ。お願いだから・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

宇宙は涙を流している瞳で遼一を見つめて、哀願した。

 

遼一はもう、ベッドの上で怒鳴ったり叫んだりしていなかった。

 

ただじっと、両目を見開くようにして、亨に貫かれそうな宇宙の姿をじっと見つめている。

 

遼一の様子がおかしい。

 

だがそのことには、誰も気づいていなかった。

 

亨も恭也も宇宙の反応に釘付けになっていたし、他のヤクザたちも宇宙の魅力の虜となっていたからである。

 

「・・・宇宙・・・」

 

遼一は、足枷を嵌められている足首から血を流したま、じっと宇宙を見つめていた。

 

両目を見開き無表情のまま、遼一は全身から頂点に達した怒りのオーラのようなものを発しながら、ベッドの上に座っていた。

 

全身の毛が総毛立つような力強い覇気が、遼一の全身を取り巻いている。

 

そのことに初めて気づいたのは、涙の瞳でじっと遼一だけを見つめていた宇宙だった。

 

見た目は平静を装っているようだったが、心の底から怒っているのが分かった。

 

目つきが違う。

 

遼一の全身から、強い覇気が漂っている。

 

「・・・やめろ」

 

遼一は、低い声でそう言ってベッドから下りた。

 

だが遼一は、ずっと自由を束縛してきたその枷の鎖を、いとも簡単にぶち切ってしまった。

 

ガシャーンッと鎖が切れた音がして、ヤクザの一人が振り返る。

 

だがそれよりも早く、遼一の拳がヤクザの顔面にヒットした。

 

ドカンと、ヤクザの身体が床に転がる。

 

ヤクザはたった一発殴られただけなのに、気絶していた。

 

その騒ぎにようやく気づいた亨と恭也は、驚いたように遼一を見た。

 

足枷の鎖は見事に千切れ、全身から怒りのオーラと覇気を漂わせている遼一の姿は、まるで仁王のようだった。

 

その姿を見て、亨と恭也が思わず宇宙の身体から退く。

 

今までの遼一とはまるで別人のようだった。

 

恐ろしく吊り上がった目と眉間に寄せられた皺。

 

唇は横一文字に噛みしめられ、まだ枷が嵌まったままの足首から流している血が、遼一をもっと強烈に印象づけた。

 

どうして足枷の鎖が切れたのだ?

 

あれは、人間の力では到底切れるものではなかった。

 

「り、遼一?お前・・・・・」

 

立ち上がり、身支度を整えながら亨が足を後退させていく。

 

十年近く遼一を囲ってきたが、身が縮むほどに恐ろしいこんな遼一を見たのは初めてだった。

 

それは恭也も同じだった。

 

もう宇宙のことも自身のことも諦めたと思っていたのに。

 

まだ抵抗する力が残っていたなんて。

 

しかも、今までの遼一とは明らかに違うのだ。

 

これはもしかして、抑え込んだ修羅の心が再び目覚めてしまったのでは?

 

亨と恭也は、同時にそう思っていた。

 

「・・・遼一」

 

「宇宙を離せ。私の宇宙に触れるな」

 

遼一は仁王のような形相でそう言いながら、宇宙のそばに近づいていく。

 

ビデオを撮っていたヤクザや他のヤクザたちも、あまりにも豹変した遼一の姿を見て、愕然としていた。

 

「宇宙は渡さない・・・と言ったらどうするんだ?」

 

宇宙から離れた恭也が、遼一に言う。

 

すると遼一は、カッと両目を見開いて近くにあった木の椅子を恭也に向かって投げつけた。

 

とっさのところで避けたが、その椅子は壁に激突して大破した。

 

バラバラになった木の椅子を見た恭也は、ゾクっと背筋に冷たいものを感じた。

 

避けていなかったら、顔に大ケガをしていた。

 

遼一は心が優しくおとなしい性格なので、他人を傷つけるようなことは決してなかったのに。

 

やはり、極道の跡取りという血が、そうさせるのだろうか。

 

「宇宙を自由にしろ」

 

遼一は、眉間に皺を寄せたまま恭也に言った。

 

恭也は亨と顔を見合わせ、このままではまずいと互いに心の中で思う。

 

恭也は、スーツの内ポケットに入っている拳銃に指を忍ばせながら、隙を見つけるために宇宙のロープを解くように命令した。

 

ヤクザたちは、仁王のように変貌した遼一を唖然として見つめながら宇宙の身体に巻き付いているロープを解いていく。

 

両手が自由になり、両脚も閉じるようになった宇宙は、嬉しくて思わず泣いてしまった。

 

長時間床に寝かされていた宇宙は、自由になっても脚が言うことを聞かない。

 

ガクガクしてしまって、腰に力が入らなくて立ち上がることができなかった。

 

「遼一・・・・・」

 

助けを求めるように宇宙が遼一を見上げる。

 

白いガウンを着ている遼一は周りに目を配りながら、同じようなガウンをクローゼットから持ち出し、宇宙の裸体に羽織らせた。

 

そして腰に腕を回すようにして、ふらふらの宇宙を立ち上がらせる。

 

「遼ちゃん・・・・・」

 

安心したのか、涙ながらに宇宙が言う。

 

「宇宙、もう大丈夫だよ」

 

「遼ちゃん・・・・・」

 

宇宙の身体を片腕で抱き寄せ、そのまま病室を出て行こうとする。

 

だがそんな二人の前に、拳銃を握った恭也が立ちはだかった。

 

「おっと・・・。そこまでだ。二人とも、おとなしくしろ」

 

恭也は、一度遼一に向けて撃った拳銃を向け、形勢が逆転したかのように余裕の声で言う。

 

遼一と宇宙が初めて結ばれたラブホテルで、一度肩を撃たれた拳銃。

 

その銃口は遼一ではなく、横の宇宙の胸に向いていた。

 

そのことが、遼一のかろうじて保っていた理性を一気に爆発させてしまった。

 

遼一が腰から手を放し、そのまま恭也の首を掴む。

 

「うぐっっ・・・う゛う゛っ・・・」

 

恭也はとっさのことで、対処ができなかった。

 

首を絞められ息ができない恭也は、拳銃を遼一に向けそのまま引き金を引こうとする。

 

だが遼一は、拳銃を握っている恭也の手を空いているほうの手で掴み、ねじり上げた。

 

身長の高い遼一に腕をねじり上げられた恭也は、たまらず拳銃を床に落としてしまう。

 

その拳銃を夢中で拾った宇宙は、ブルブルと震えてしまっている手でなんとか握っていた。

 

銃口は、さっきまで自分の身体を玩具のように弄んでいた亨に向けられている。

 

「よせっ・・・やめろ」

 

はっとした亨が、一人のヤクザの陰に隠れて叫ぶ。

 

ヤクザたちも拳銃を手に持っていたが、亨か恭也の命令がなければ撃つことはできなかった。

 

「撃ってもよろしいんですか?」

 

黒いスーツ姿の一人のヤクザが聞く。

 

亨は答えを出すのに少し迷ったが、震える手で拳銃を掴んでいる宇宙と目が合ったとたん、もしかしたら自分が撃たれるかもしれないという恐怖に駆られた。

 

「う、撃ってもいいっ。撃てっ・・・」

 

亨が叫ぶ。

 

ヤクザたちが一斉に拳銃を構える。

 

遼一は、そんなヤクザたちの前に恭也の身体を盾にするようにして立たせた。

 

「宇宙、私の後ろに隠れろ」

 

「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 19

宇宙は、恭也の責めにいつしか感じてしまっていたのだ。

 

「宇宙・・・」

 

一瞬、そんな宇宙から顔を逸らしそうになる。

 

だが遼一は、宇宙が涙ながらに言っていた言葉を思い出した。

 

『絶対に嫌いにならないでね。どんなに淫らになっても、嫌いにならないでね』

 

それは、こうなることを宇宙が予知したかのような言葉だった。

 

宇宙は、責められれば感じてしまうことを知っていたのだ。

 

だから、あんなことを言ったのだ。

 

「宇宙・・・私は逃げないっ。決して逃げないから」

 

遼一は、無残な姿の宇宙に向かって叫んだ。

 

その声が聞こえたのか、宇宙が口枷を嵌められたままコクンと頷く。

 

こんな姿を見られても遼一が自分を嫌いにならないことに感謝しているかのような眼差しで遼一を見つめている。

 

ただじっと、見つめあう二人。

 

だがそんな二人が気に入らない亨は、恭也にもっと激しく宇宙を責めるように言った。

 

恭也も、見つめ合っている二人が気に入らなかったので、すぐに手に持っているバイブを押し込む。

 

「んぐぅぅーーーーーーっ!」

 

宇宙の下半身が、床の上で魚のように跳びはねる。

 

巨大なバイブは、根元まで蕾の中に押し込まれていた。

 

「んんーーーーーーんーーーーーーーっ」

 

ピクピクッと内股の皮膚を痙攣させながら、宇宙が目を白黒させる。

 

バイブの先端が先ほどのパールのバイブよりももっと奥に当たり、下半身が蕩けてしまいそうな絶頂感を味わったためであった。

 

殴る蹴るというような拷問ではなかったが、宇宙は終わりの見えない快楽という拷問をされていた。

 

頭が霞んでクラクラする。

 

遼一が見えない。

 

あっ、あっ、またイッちゃう!

 

誰か、止めてぇぇーーーーーー!

 

バイブが奥のほうに当たって、そのたびに腰が溶けちゃいそうになる。

 

もう、どうしたらいいのか分からないっ。

 

バイブがズンズン入ってきて、突起物が気持ちよくて、蝋を垂らされた分身が敏感になっていて、ちょっとの刺激でもイッてしまう。

 

本当に、どうなってしまうのか分からない。

 

このまま、遼一が見ている前で気が狂ってしまうかもしれない。

 

どこもかしこも敏感になって、感じすぎて、喘ぎまくって死んでいくんだ。

 

きっとそうだ。

 

宇宙は、バイブに激しく犯されながらそんなことを考えていた。

 

そして遼一に抱かれた時のことを思い出す。

 

どうせ死ぬなら、遼一に抱かれたまま死にたかった。

 

遼一の腕の中で死にたかった。

 

こんなことになってしまったけど、でも遼一に出会えてよかった。

 

宇宙は、意識が遠のいていく中でそんなことを考えていた。

 

こんなひどい目に遭ってるけど、でも遼一に出会えてよかった。

 

遼一に出会えなかったら、本当の愛を知らないで一生を送ったかもしれない。

 

本物の愛を知らないまま、おじいさんになっていたかもしれない。

 

だから遼一、自分のせいだなんて言って自分を責めないで。

 

ねっ、遼一。

 

宇宙の意識が遠のいていく。

 

そのとき、遼一の声が聞こえて、宇宙ははっとして意識を現実につなぎ止めた。

 

「くぅぅーーーーーーーっ」

 

意識が戻ると、また絶頂感が宇宙を襲う。

 

宇宙は、ピクピクッと分身を激しく痙攣させながら何度目かの飛沫を放った。

 

だがもう出なかった。

 

体液は、すっかり出尽くしてしまったのだ。

 

だがイッた感覚だけは、脳に鮮やかに残った。

 

その感覚が宇宙をもっと苦しめていく。

 

「おい、口枷を外してやれ。どんな声で泣くか、聞いてみたい」

 

遼一の腕を持っている亨が言うと、ヤクザの一人が宇宙の口に嵌められていたボール状の口枷を外していく。

 

ベッドリと唾液が付着している口枷を、遼一の目の前に放り投げる。

 

「遼ちゃんっ!助けてっ・・・もう・・・死んじゃうっ」

 

宇宙は口枷が外れると、心とは裏腹に思わず遼一に助けを求めた。

 

遼一が宇宙のそばに駆け寄ろうとする。

 

だが足枷と亨の腕が、遼一の行動を阻止していた。

 

「宇宙っ、宇宙っ!くそっ・・・離せっ・・・足枷を外せ、外せっ」

 

遼一が叫びながら暴れる。

 

だが暴れても足首から血が流れるだけで、足枷が外れることはなかった。

 

「遼ちゃん・・・助けて・・・死んじゃうっ。もう・・・死んじゃう・・・」

 

宇宙は涙を流しながら遼一を見つめる。

 

その瞳をじっと見つめながら、遼一は自由を奪われていることを呪った。

 

拳銃で撃たれた傷はどうってことはない。

 

せめて足枷がなければ、ヤクザたちと闘って宇宙だけでも助けてやることができるのに。

 

このままでは亨のいいようにされてしまう。

 

「おい、恭也。俺は男を抱いたことはないが、どんな感じだ?」

 

遼一がなんとか逃げ道を模索していると、亨が宇宙に興味を持った口調で聞いた。

 

遼一がはっとする。

 

まさか・・・亨が宇宙に興味を抱いたのでは?

 

「その男にもよりますが、女より締まりはいいです。中で出しても妊娠する心配がないので、セックスを存分に楽しむにはかえって男のほうがいいと言う人もいます。亨様、こいつに興味がおありですか?なんなら、一度試してみますか?」

 

と、恭也が目を細めて言うと、亨はベッドから下りて宇宙が寝かされているところまで歩み寄った。

 

ロープで手脚の自由を奪われ、両脚を左右に開き真っ赤な蝋で彩られている宇宙の姿は、男色家でなくても十分に興味をそそられた。

 

真っ赤に濡れた唇と、涙で潤んでいる瞳。

 

固まった蝋を剥がされ、何度も絶頂を迎えた敏感な分身は萎えることを許されず、蕾に挿入されている太いバイブによって地獄のような快楽を与え続けられていた。

 

もう何度イッたのか、覚えていない。

 

「あっ・・・いやっ・・・やめて・・・もう・・・死んじゃう・・・・・」

 

宇宙は、バイブがクチャクチャといやらしい音を立てて出入りするたびに激しく喘ぎまくった。

 

自分では懸命に耐えているつもりなのだが、責められている身体が言うことを聞かなかった。

 

与えられた快感を素直に表現してしまう。

 

分身の先端からは透明な蜜をたっぷりと滴らせ、バイブを美味しそうに根元までのみ込んでいる。

 

その姿に、亨の心が蕩けていった。

 

「あぁぁぁーーーーーーっ」

 

宇宙はまた、天高く追い上げられた。

 

何度目の絶頂だろうか。

 

もう、それさえも分からない。

 

「あぁぁぁーーーーーあぁっーーーーーいいっーーーーーーーっ」

 

バイブを深くのみ込んだまま、宇宙はきつく目を瞑り、腰をヒクヒクとさせた。

 

そんな宇宙を十分に気に入った亨は、一度遼一の口中で放ったが、まだ足りないとばかりに勃起している自身を見せびらかすように腰を落とす。

 

そして床で両脚を広げて待っている宇宙の股間の前で両膝をついた。

 

「バイブを抜きます。そのまま挿入してこいつの味を堪能してください。蝋燭とバイブでこれだけ感じる男です。きっとご満足いただけると思います」

 

「・・・よし」

 

ニヤけた顔の亨は、宇宙の目いっぱい開いている蕾から太いバイブが引き抜かれるのを見ながらそう言った。

 

その光景を見ていた遼一が「やめろぉぉ・・・」と大声を上げる。

 

その言葉と亨の飢えた様子と、そして恭也がわざと見せつけるようにしながらバイブを引き抜くさまに、遼一は身体の内側からメラメラと燃え上がる何かを感じ取っていた。

 

「私の宇宙に手を出すなっ、宇宙に触れるなっ」

 

「あっ・・・遼ちゃん・・・助けて・・・」

 

宇宙が、泣きながら遼一に助けを求める。

 

亨が宇宙の身体に手を触れた。

 

遼一は怒りと嫉妬で身体が燃えるように熱くなるのを感じていた。

 

「私の宇宙に触れるなーーーーーっ!」

 

遼一は大声で叫んだ。

 

だが、亨も恭也もそんな遼一には目もくれなかった。

 

足枷を嵌められ、自由を奪われている遼一には何もできないと高を括っていたのだ。

 

「・・・女よりもずっとやわらかいな」

 

挿入前にその味を確かめようとでもいうのだろうか。亨は両目を薄く瞑り、勝ち誇った表情で宇宙の蕾に指を突き立てた。

 

グチャグチャッと、先ほどよりももっと淫らな音が病室に響く。

 

宇宙の蕾は、蝋とバイブの責めによって自分から潤うようになっていった。

 

「いやっ・・・いやぁぁ・・・・・・・っ」

 

宇宙はどうしても感じてしまう身体とは裏腹に、悲鳴を上げながら必死に首を振って抵抗する。

 

だがそんな健気な宇宙の姿は、亨の欲望をもっと高めるだけだった。

 

「もっと感度をよくしてあげましょうか?」

 

そんな宇宙に対して恭也が手に乳首クリップを持って言う。

 

「ああ、そうしてくれ」

 

亨は呻くようにそう言って、指の動きを緩めた。

 

恭也は、ゴム製の乳首クリップで蝋で固まっている乳首を挟む。

 

「あぁぁぁーーーーーーーっ!」

 

左右の乳首を挟まれた宇宙は、その痛さに思わず顔を歪め、思いきり床の上でのけ反った。

 

「おうっ、これはすごい・・・。すごい締まり具合だ」

 

亨はそう言いながら、指を引き抜いた。

 

そして、とうとう宇宙の下半身に自身をあてがうと、一気に貫こうとする。

 

「遼ちゃーんーーーーーーーっ」

 

宇宙は泣きながら遼一の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 18

亨の言葉を鵜呑みにしたわけではない。

 

だがこうもあからさまに覆されるとは。

 

亨という人間の本性を見たような気がしていた。

 

だが、今は亨が言ったとおりに言うことを聞いているしかない。

 

そうしなければ、宇宙が責め殺されてしまう。

 

遼一は、怒りで今にも爆発してしまいそうな心を必死に抑えながら、マッサージに集中した。

 

だが耳や意識は、宇宙のほうに向いている。

 

くぐもった苦しげな声を聞いている。

 

「・・・くぅ・・・・・んっ・・・・・」

 

宇宙の声が遼一の手を止めてしまう。

 

すると亨は、恭也にもっとひどく責めるように命令する。

 

命令を受けた恭也の手に力がこもる。

 

五つ目のパールが、宇宙の蕾の内部にのみ込まれた。

 

「ぐぅぅ・・・・・・・」

 

一つ目のパールが、最奥の部分に届いているのが分かる。

 

一番柔らかくて感じる部分に当たっている。

 

宇宙は、縛られている両脚をピクピクと震わせながら、意識が遠のいてしまいそうなほど甘美な感覚に耐えていた。

 

遼一の分身を奥深くまで迎え入れたときと同じような感覚が、宇宙を襲っていた。

 

目いっぱいでせつなくて苦しいが、甘美な感覚が最奥の部分からじんわりと股間に伝わっているのだ。

 

「そうか・・・。ここが感じるのか?」

 

宇宙の変化を感じ取った恭也が、くくっと笑いながら手に持っていたアナルバイブを回転させるように回す。

 

すると中でパールが動いて、新たな快感を宇宙に与えた。

 

巨大なパール同士が、中でそれぞれに動いて当たっているのが分かるのだ。

 

「んんっ・・・ーーーーーーっ」

 

口枷を嵌められている宇宙の声に、甘さが交じっている。

 

五つ目のパールをのみ込み、最奥の部分を突っつかれるようになり、苦痛よりも快感のほうを感じるようになっていた。

 

「この調子なら、六つ目も入るな?」

 

と、面白そうに言った恭也が、六つ目のパールを押し込んでいく。

 

最も敏感な最奥の部分を突き上げるように入ってきたパールの感触に、宇宙はたまらず絶頂を極めてしまった。

 

蝋をはがされたばかりの分身がピクピクッと痙攣して白い体液を溢れ出させる。

 

前ほどの勢いのよさはなかったが、確かに腹の上に白い飛沫を放っていた。

 

それを見て、恭也がまたくくっと笑う。

 

「見た目もいいし、身体もいい。感度も抜群とくれば、これは高く売れるだろうな?アラブの王子様あたりが競って高値で買いそうだ」

 

恭也は宇宙の淫らな格好を見下ろして言った。

 

するとビデオを撮っていたヤクザも、唇を舌で舐めるようにして笑う。

 

遼一は、そんな恭也の言葉を背中越しに聞いていた。

 

亨自身を口で銜えさせられていて、振り返ることができないのだ。

 

両手でマッサージをしながら、遼一は亨の分身を口で愛撫していた。

 

もう二度したくないと思っていたのに。

 

宇宙以外の男など、絶対にしないと誓っていたのに。

 

「どうした?もっと奥までのみ込め。お前の態度次第では、宇宙にもっとひどい仕打ちをさせてやってもいいんだぞ?」

 

亨からそう言われてしまうと、遼一はどうしても拒むことができなかった。

 

このまま噛み切ってしまいたいのに。

 

このまま握り潰してしまいたいのに。

 

「スイッチを入れてもいいですか?こいつパールだけでは満足しないみたいです」

 

恭也は、バイブを回転させるように手を動かしながら亨に聞く。

 

亨は、遼一の髪を掴んだままニヤッと笑った。

 

「・・・・・本人が欲しいというものは与えてやらなければな」

 

「はい」

 

恭也がすぐに、バイブの根元に付いているスイッチをオンにする。

 

するとビィーン・・・と、くぐもったような機械音が蕾の中から聞こえてきた。

 

パールのバイブが宇宙の内部で小刻みに振動しているのだ。

 

「んっ・・・んっ・・・んん’・・・・・」

 

ボール状の口枷を嵌められている宇宙は、満足に喘ぎ声を上げることができなかった。

 

口端からだらしなく唾液を滴らせたまま、くぐもった声を上げ、首を左右に振るだけだった。

 

だがそれだけでも、宇宙がこのいやらしい行為に満足して感じていることは明らかだった。

 

「どうだ、感じるか?もっと奥まで欲しいんじゃないのか?」

 

恭也が、振動するバイブで抜き差しを繰り返しながら笑う。

 

バイブが引き抜かれたかと思うと一気に半分まで挿入され、中をかき回すように弄ばれ、宇宙は蕾の中がどうにかなってしまいそうな感覚に襲われていた。

 

遼一に抱かれているときもそうだったが、この振動するパールの感触は一味違った快感を宇宙にもたらしていた。

 

遼一の分身よりもずっと細かく振動するパール状のバイブは、まだ明らかにされていない宇宙の本性をあからさまにしていった。

 

パールの抜き差しをしているうちに、パールが七つ目まで挿入していることに気づいた恭也は、もう笑いが止まらなかった。

 

普通、こういうことに慣れた男でも、五つか六つが限界である。

 

だが宇宙はまだ抱かれることに慣れていないというのに、八つ目のパールをのみ込もうとしていた。

 

最奥の部分にはとっくに到達しているというのに。

 

宇宙の内部は、まだのみ込む余裕があるのだ。

 

奥は限りなく深く、肉は柔らかく収縮性があり、媚薬を使わなくても自然と潤ってくる宇宙のつぼみは、まさに名器だった。

 

百人近い男の蕾を見てきた恭也だったが、さすがにこれには驚いてしまっていた。

 

「ふふっ・・・。遼一が惚れるわけだ。ここの反り具合や亀頭の張り具合もそそられるが、お前のここはまた別格だな?一度でいいから、俺も味わってみたいよ」

 

恭也がパール状のバイブを抜きながら、言う。

 

宇宙は「んんーっ」と嫌がる声を発しながら、涙を流して恭也を見上げた。

 

もっと欲しいと哀願する目で、恭也を見つめている。

 

恭也はおかしくてたまらなかった。

 

宇宙は感じまくって喘いでいるというのに、遼一はそんな宇宙を責めないでほしいと懇願して自分から口を開き、亨自身を銜えているのだ。

 

互いに相手のためと言いながら、もっと深みへと、もっと極地へと自分自身を追い込んでいる。

 

この二人の恋人たちは、互いに互いを追い落としていることに気づいていない。

 

それがおかしかった。

 

「もっと太いバイブに換えてやる。そら、これでどうだ?これは女を犯すバイブで、周りに突起物が付いているが、今のお前ならのみ込めるだろうよ」

 

というが早いか、恭也は閉じようとしている蕾に、太いバイブをねじ込んでいく。

 

亀頭まではヌルンッと入ったが、そこから先はやはり窮屈そうだった。

 

突起物も挿入の妨げになっていたが、恭也はそんなことは気に留めなかった。

 

どんなに淫らに堕ちていくのか、見たかった。

 

どんなふうに喘ぐのか、見てみたかった。

 

今ここで亨にやめろと命令されても、恭也はやめるつもりなどなかった。

 

それは、周りを取り囲むようにして見つめているヤクザたちも同じだった。

 

みな股間を膨らませ、目は血走り、口はだらしなく開いていてハァハァと荒い息を吐いている。

 

ここにいる誰もが、宇宙の妖艶に喘ぐ姿に魅力を感じ、もっと見たいと思っていた。

 

もっと泣かせてみたいと思っていた。

 

「のみ込め・・・」

 

そんな宇宙の悩ましく淫靡な姿を見ているせいか、亨はいつもよりずっと早く頂点を極めていた。

 

遼一の喉が、ゴクッと鳴る。

 

遼一は綺麗に放出されたものを飲み下すと、やっと口中から肉棒を引き抜くことを許された。

 

「宇宙!?」

 

遼一はすぐに宇宙を振り返った。

 

きっと痛がって泣いているに違いない、そう思ったのだ。

 

だが床に転がっている宇宙の姿は、遼一が想像しているものとは違っていた。

 

口枷を嵌められ、涙を流している。

 

見ようによっては嫌がっているようにも見える。

 

だが、実は違っていた。

 

突起物が付いた太いバイブを半分まで挿入され、宇宙は足の指をピクピクと震わせながら激しく喘いでいたのだ。

 

「んんっーーーーーーんっ」

 

焦点の合っていない宇宙の薄茶色の瞳が、涙で潤んでいる。

 

 

乳首の周りや白い内股に点々と固まっている真っ赤な蝋が、なんともエロティックでゾクリとするぐらい色気があった。

 

「ぐぅぅーーーーーーーっ」

 

口端からしとどに唾液を滴らせ、突起物の付いたバイブで責められている宇宙が感じていることは、一目瞭然だった。

 

媚薬の力を借りているわけでもなく、麻薬を飲まされているわけでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 17

ヌプッと音がして、三つ目のパールが挿入されていく。

 

「あうっ・・・あぁぁ・・・だめぇ・・・・・」

 

呻くように言った宇宙の眉間に皺が寄る。

 

蕾の入り口は蝋の熱によって十分に解れて柔らかくなっていたが、内部はまだ解れていなかった。

 

時間的に余裕がなかったため、最初から媚薬を使うつもりだったのだが、遼一が瓶を割り、媚薬をダメにしてしまった。

 

媚薬を塗り込めていればパールのバイブを挿入されるたびに、おかしくなるくらい感じまくって喘ぐはずだ。

 

だが媚薬がないのだから、仕方がない。

 

パールの感触を、まだ未熟な肉壁は快感として受け止められなくてもしょうがなかった。

 

それに、傷ついてかわいそうなどという情は、亨も恭也も持ち合わせていなかった。

 

宇宙が傷つこうが傷つくまいが、そんなことは関係なかった。

 

「あっ・・・もう・・・・・入らないっ」

 

三つ目のパールをのみ込んだ宇宙が、呻くように訴える。

 

だがまだアナル用のパールバイブは、だいぶ残っていた。

 

「三つで降参か?だらしがない、最初の勢いはどこにいったんだ?ここに突っ込まれるのは初めてじゃないんだろう?」

 

恭也はくくっと笑いながら言う。

 

遼一に散々突っ込まれているはずだ・・・とでも言いたげな口調だった。

 

だがそれもたった一度きりで、しかもひんやりとして冷たい玩具を受け入れて感じるほど、慣れてはいなかった。

 

蝋燭の蝋で蕾の入り口は解れていても、中の肉壁までは異物を受け入れるほど十分に柔らかくなってはいなかった。

 

それを承知で、恭也が四つ目のパールを押し込んでいく。

 

「うっ・・・うぁ・・・あぁ・・・・・だめっ」

 

どんどんと迫ってくる圧迫感。

 

身体の中心部分に次々と巨大なパールを挿入される違和感。

 

苦痛は少ししか感じなかったが、腹の中がいっぱいになっていくような不思議な感覚はあった。

 

「四つ目・・・ と・・・」

 

恭也が、嬉しそうにそう言いながら宇宙の蕾に四つ目のパールを押し込んでいく。

 

「あっ・・・だめっ・・・入らないっ・・・」

 

「だめじゃなくて、ちゃんとのみ込め。パールはまだこんなに残ってるんだ・・・」

 

「いやっ・・・あっ・・・入れないでっ」

 

「入れないでと言われると、無理やりにでも入れたくなるんだよ、俺は」

 

そう言った恭也の手に、ググッと力がこもる。

 

バイブは押し込まれ、四つ目のパールが宇宙の蕾の中に消えていった。

 

「あぁぁ・・・・・・・・・・」

 

宇宙は、どうしても拒むことのできないパールの感触に首を振って喘いだ。

 

だが喘げば喘ぐほど、ロープがきつくなっていって、どんどん動けなくなっていく。

 

どんどん両脚が左右に開き、もっと奥へとバイブを導くことになってしまう。

 

一人のヤクザはパールが可愛い蕾にのみ込まれていく様を、アップにして撮り続けた。

 

蝋を取り去ってやったばかりの分身が、ピクピクッと何度も震えている。

 

「あっ・・・あんっ・・・お願い・・・抜いて・・・」

 

宇宙は喘ぎながらも、バイブを抜いてほしいと哀願した。

 

だが恭也の手は、止まらない。

 

椅子に座ってその様子を見ている亨も、さっきから顔が緩みっぱなしだった。

 

下手なまな板ショーよりもずっとそそられ、ゾクゾクした。

 

宇宙の喘ぐ姿やロープに縛られているいやらしい姿が、亨の下半身を硬くさせていた。

 

股間がパンパンに張っているのが分かる。

 

「もう・・・やめてくださいっ」

 

遼一は、涙を流しながら亨に向かって訴えた。

 

すぐそばで愛する宇宙が弄ばれているというのに、助けてあげることも手を差し伸べてやることもできないのだ。

 

己の無力さに絶望を感じながら、遼一は亨の足元に縋った。

 

亨はそんな遼一を見据え、ふふっと笑う。

 

「・・・・・助けてやらないこともない」

 

亨のその言葉は、天の助けのように感じられた。

 

遼一は、必死に亨を見上げる。

 

「ど、どうすればいいんですか?」

 

答えは分かっている。

 

「答えは簡単だ。いつものように俺を楽しませればいい」

 

やはり、亨は遼一の手と口技を望んでいた。

 

宇宙が感じている姿を見ながら自分も感じるつもりなのだ。

 

「どうした?宇宙の気がふれるまで犯されるところを見たいのか?」

 

無情な亨の言葉に、遼一は激しく首を横に振った。

 

机の上には浣腸器やムチ、もっと太いバイブまでさまざまな仕置き道具が揃っているのだ。

 

あんなもので宇宙を責められたら、本当に殺されてしまう。

 

遼一は迷わず、自分のプライドを捨てる決心をした。

 

「言われたとおりにします。だから宇宙は・・・・・」

 

「早くしろっ。俺の気が短いことぐらい知っているだろう?」

 

椅子から立ち上がった亨が、ベッドに腰を下ろして怒鳴るように言う。

 

「・・・はい」

 

遼一は床からベッドにはい上がると、そのまま亨のスラックスのファスナーを下げた。

 

いつもしている行為なのに、とても汚らわしい行為に思えてしょうがなかった。

 

いつもはこんな屈辱など感じないのに。

 

ただ義務的にそれが仕事なのだと思いながらしてきた行為なのに。

 

「どうした?やる気がないのか?それとも、マッサージの仕方を忘れたか?」

 

亨は、勃起した自身を見下ろして言った。

 

両手でそれを握りしめ、遼一がゆっくりとマッサージを始める。

 

何百回となくやってきた行為なのに、こんなにつらいと思ったのは初めてだった。

 

それと同時に、亨の命令を聞かなければならない自分自身が無性に情けないと感じた。

 

「あっ・・・あっ・・・だめっ・・・遼一っ。そんなこと・・・しちゃだめっ・・・」

 

宇宙は、自分のために遼一が亨の言いなりになっていることに気づいた。

 

遼一が背を向けているのでベッドの上での行為は見えなかったが、だいたいの想像はついた。

 

以前遼一にやってもらったことのある、スペシャルマッサージをしているのだ。

 

もう決して亨の言いなりにはならないと決心したのに。

 

遼一が、自分のためにその決心を破ろうとしている。

 

「やめてぇぇーーーーー・・・遼一っ」

 

宇宙はパールのバイブで串刺しにされたまま、遼一に向かって叫んだ。

 

遼一の背中がピクっと震える。

 

だが、遼一は両手を動かすことをやめなかった。

 

「うるせーな。お前は黙ってこれでも銜えてろっ」

 

と、言った恭也は、机の上からボールが付いた口枷を一人のヤクザに取らせた。

 

そして革製の口枷を、宇宙の口に嵌めていく。

 

「あっ・・・やだっ・・・んっ・・・ぐぅう・・・・・・・」

 

ボールを銜えるように口枷を嵌められてしまった宇宙は、首を振ってもがいた。

 

だが、頭の後ろできつく縛られてしまった口枷は、宇宙の力では外すことはできなかった。

 

無理に開かせられた口端から、唾液がツーッと滴り落ちていくのが分かる。

 

「んぐっ・・・んんーーーーーっ」

 

宇宙が何かを訴えようとする。

 

だが口中ボールに阻まれ、言葉にはならなかった。

 

遼一が、そんな宇宙を振り返る。

 

「やめろっ。それ以上ひどいことをするなっ!」

 

と叫んだものの、すぐに亨に前を向くように命令され、遼一は奥歯を噛みしめながら手を動かした。

 

宇宙を救ってやる方法はただ一つ。

 

亨にマッサージをして喜んでもらって、宇宙への怒りをなんとか鎮めてもらうしかない。

 

到底、納得できない答えだったが、今はそれしかなかった。

 

こんなことになるんだったら、宇宙を愛さなければよかった。

 

そんな考えが浮かんだが、それは切り捨てた。

 

宇宙を愛したことは悔やんでいない。

 

宇宙に巡り合えてよかったと思っている。

 

だが、やはり考えが甘かったのだ。

 

愛の力があればなんとかなる。

 

亨を説き伏せることができると、簡単に思い込んでいた自分自身に腹が立った。

 

「そうだ。いいぞ・・・もっと根元までちゃんとやるんだ」

 

亨が、気持よさそうに呻きながら言う。

 

遼一は手にオイルをたっぷり付けると、いつもやっているように上下に揺らして愛撫していった。

 

クチャクチャッと、淫らな音が病室に響く。

 

グチャグチャッと、宇宙の蕾を出入りするパールのバイブの音も交じっていく。

 

「んんっーーーーーーっ」

 

四つまでパールをのみ込んだ宇宙は、五つ目のパールをのみ込まされている最中だった。

 

小指の先ほどもあるパールが、もう四つも蕾の中に入っている。

 

感覚的には、もういっぱいいっぱいだった。

 

だが恭也はもっと入れようとしている。

 

もっと奥のほうまで、パールで犯そうとしていた。

 

「ぐぅ・・・・・んんっ・・・・・」

 

宇宙が苦しそうに、くぐもった声を上げる。

 

その声を聞いた遼一は、両手を巧みに動かしたまま亨に言った。

 

その問いに、気持ちよさそうに両目を閉じていた亨がくくっと笑う。

 

「誰が助けてやると言った?お前が勝手にそう思っているだけだろう?だが、そこにあるすべての道具を使って死ぬほど責めるのはやめてやる。適当に・・・責めてやる。お前の柔順さに免じてな」

 

亨の非情な言葉に、遼一の両手が震えた。

 

「どうした?手が止まってるぞ?」

 

遼一が、憤りから涙で溢れている瞳を向けて、亨を睨みつける。

 

「いいのか、そんな目で睨んで?俺のひと声で宇宙を殺すこともできるんだぞ?」

 

遼一のオイルで濡れている手が、怒りで震えてしまう。

 

どうしようもない怒りと憎悪が、遼一の中で暴れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 16

亨は、宇宙が感じる姿をもっと見たいと思った。

 

そして一人のヤクザに、机の上に並べてあるアナルバイブで責めるように命令する。

 

まだ若いヤクザが手に取ったアナルバイブは、大きなパールが一列に並んだバイブだった。

 

アナル初心者向けのそのバイブは、挿入した後、手元のスイッチで振動するようになっていた。

 

それを見た遼一は、ガシャガシャと足枷を鳴らして宇宙の名を呼ぶ。

 

「宇宙っ!?しっかりしろ宇宙?」

 

その声に正気に戻った宇宙は、少し離れた床に伏している遼一を見つめた。

 

遼一は枷の嵌められた足首から大量の血を流している。

 

「遼一・・・足・・・血が・・・流れている・・・」

 

「宇宙、すまないっ。私のせいで・・・こんなことになってしまって・・・。こんなひどい目に遭わされてしまって・・・」

 

遼一が、涙を流しながら訴える。

 

だが宇宙は、小さく喘ぎながら「ううん」と言った。

 

「そんなことない・・・。絶対に遼一を助けてみせるって・・・約束したから。あっ・・・二人で幸せになろうって・・・約束したから・・・」

 

宇宙は惨めな姿のまま、喘ぎながらそう言った。

 

唇を噛みしめた遼一が思わず目を閉じる。

 

もうこれ以上、悲惨な宇宙の姿を直視することができなかった。

 

真っ赤な蝋で塗り固められた乳首。

 

両脚は左右に割り開かれ、蝋から解放された分身は、クチャクチャと淫らな音を立てて恭也の手の中で震えていた。

 

自分にさえ出会わなかったら、こんなひどい目に遭わなくて済んだのに。

 

自分のせいで宇宙の運命や人生が大きく変わってしまったのだ。

 

どうしたらいいのだろうか?

 

この危機から脱して宇宙を救い出すには、いったいどうしたらいいのだろうか?

 

遼一が考えを巡らせている間に、アナルバイブが恭也の手に渡される。

 

パールが一列に並んでいる細身のバイブは、アナルを最高に感じさせるように工夫されていた。

 

恭也は、そのバイブを宇宙に見せびらかすようにしてスイッチを入れた。

 

するとパールの一つ一つが振動し、ブルルッと震える。

 

「今からこのバイブをお前の尻の中に入れてやる。どこまで入るか、楽しみだな?」

 

恭也が面白そうに言うと、遼一がカッと両目を見開き、床を拳で何度も叩く。

 

だがどんなにもがいても、宇宙には届かない。

 

「お前はそこで見物していればいい。亨様を裏切ったらどういうことになるか、たっぷりと思い知るんだな」

 

「よせっ、やめろっ。恭也・・・頼む・・・やめてくれ・・・」

 

遼一が涙を流して訴える。

 

だが恭也は、そんなもがき苦しむ遼一を見るのが楽しくて仕方がなかった。

 

亨の囲われ者として一目置かれていた遼一のこんな姿は、滅多にお目にかかれるものではなかった。

 

いつも目障りだった遼一の心を踏みにじることが、こんなにも楽しくて愉快だったとはまったく知らなかった。

 

ヤクザたちに宇宙の身体を押さえさせ、恭也が蝋を取り去ったばかりの蕾にパールの先端を押しつける。

 

蝋の熱によって想像以上に柔らかく解れている宇宙の蕾は、すぐにそのパールをのみ込みんだ。

 

「まず、一つ・・・」

 

恭也がそう言いながら、バイブを蕾の内部へゆっくりと押し込んでいく。

 

「あっ・・・遼一・・・見ないでっ」

 

宇宙は、自分が今されている行為が恥ずかしくて、思わずそう叫んでいた。

 

こんな破廉恥な姿で巨大なパールを一つずつのみ込んでいく姿を、愛する遼一にだけには見られたくないと思ったのだ。

 

こんな無様な姿を見られてしまったら、きっと遼一はもう自分を愛してくれなくなる、そう思ったのだ。

 

「そら・・・二つ・・・」

 

恭也がそんな宇宙の心をあざ笑うかのように、二つ目のパールを挿入した。

 

「あぁぁ・・・・・・・遼一っ・・・」

 

パールの圧迫感に、宇宙がのけ反るようにして喘ぐ。

 

恭也の手に握られているバイブのパールは、まだ10個ほども残っていた。

 

「この間、身体を売るのが嫌だと言って逃げ出した男にこのパールを根元まで一気に押し込んでやったが、あと少しというところで気を失った。果たしてお前はどうだろうな、宇宙?ちゃんと全部のみ込めるかな?」

 

恭也はニヤッと笑ってそう言った。

 

それを聞いていた遼一の心の奥底にまだ微かに残っていた、闘争心に火がつく。

 

「そら、三つ目だ」

 

宇宙の蕾の中に、三つ目のパールが押し込まれた。

 

 

東京スペシャルナイト 下 15

「分かりました」

 

ニヤッと笑って、恭也が蝋を再び垂らしていく。

 

真っ赤に溶けた蝋は、ポタポタッと内股から股間へと落ちていく。

 

「あっ・・・あひっ・・・ひぃぃぃ・・・・・」

 

蝋が、足の付け根に落ちる。

 

とたんに宇宙の下半身が飛び上がった。

 

だが苦痛を感じての反応ではなく、むしろその逆だった。

 

 

「あっ・・・あっ・・・熱い・・・ぃぃ・・・・・・」

 

「熱くて気持ちいいんだろう?そら、ここにも垂らしてやるぞ」

 

そう言った恭也の手から落ちた蝋は、剥き出しになった双玉の上に落ちる。

 

「あぁぁ・・・・・・・・」

 

その瞬間、ひときわ色っぽい喘ぎ声を上げて宇宙は床の上でのけ反った。

 

今までの箇所など問題にはならないくらい、そこは熱く感じた。

 

そしてすぐに蝋は冷めて固まるが、いつまでもじんじんとしていて熱いのだ。

 

熱くて熱くて、気持ちいい。

 

「そら、ここはどうだ?もっと気持ちいいぞ?」

 

恭也の手が少し動く。

 

蝋が落ちたところは、剥き出しになった蕾の周りだった。

 

「ぎゃ・・・っ・・・」

 

子猫のような短い悲鳴が、宇宙の口から飛び出る。

 

遼一は宇宙の蕾に次々と落ちていく真っ赤な蝋を見つめたまま、亨に哀願した。

 

「お願いだからやめさせてくださいっ。私が代わりになりますから。どんなことでもしますから。もうあなたから逃げたいなんて言いませんから。だからどうか・・・お願いですっ・・・」

 

遼一は足首を傷つけ、幾筋もの血を流しながら亨に向かって訴えた。

 

だが亨の機嫌はそんなことでは直らない。

 

一度傷つけられたプライドを修復するには、まだ宇宙をいじめる必要があった。

 

宇宙をいじめて泣かすことで、遼一の心をもっとひどく傷つけることができるのだ。

 

遼一の目覚めた修羅の心と反抗心を削ぐには、この方法が一番だと亨は心の中で思っていた。

 

遼一自身をどんなに責めても、遼一は心を変えないことは分かっていた。

 

だが、遼一が愛している宇宙を目の前で嬲り者にして仕置きをすれば、遼一はきっと自分から折れてくる、そう思ったのだ。

 

亨のその考えは、間違っていなかった。

 

遼一が涙を流しながら哀願してくる。

 

なんでもすると言ってきた。

 

亨は内心、高笑いをしたい心境だった。

 

「もっともっと責めろ。責めれば責めるほど、そいつは感じるはずだ。遼一のスペシャルマッサージを受け、身体が快感を覚えている。熱さや苦痛も快感として受け止める身体になっているはずだからな」

 

亨の言葉は真実だった。

 

最初は熱さしか感じなかったのに、蝋が垂らされた瞬間のあの感覚に慣れてくると、どういうわけか熱さより快感の方が増していった。

 

蝋の熱さが、感じてしまうのだ。

 

双玉や蕾に落とされた蝋に感じてしまって、自分でもどうしようもなかった。

 

卑猥な喘ぎ声が自然と漏れ、まるでもっとと媚びるように、腰を振ってしまうのだ。

 

ロープでぐるぐる巻きにされているのに、まるで娼婦のように腰を振ってしまう。

 

「感じてきたようだな?遼一が気に入っただけあって、素直で柔順な身体だ」

 

亨は、椅子に座ったままふふっと笑った。

 

宇宙の反応やいやらしい姿に、十分に満足している笑いだった。

 

恭也がそんな亨の心中を察して、最も敏感な箇所に蝋を移していく。

 

蕾や双玉を真っ赤に固まらせた蝋は、先ほどから勃起してピクピクと動いている分身の根元に落ちた。

 

「あひっ・・・ひぃぃ・・・」

 

ピクピクッと、分身の先端が痙攣する。

 

「や、やめて・・・そこだけは・・・」

 

「やめて?そうじゃない、もっとだろう?」

 

恭也はそう言って、蝋を先端に向かってポトポトッと垂らしていく。

 

「きぃ・・・あひぃーーーーーーーっ」

 

宇宙の勃起した分身が、見る見るうちに真っ赤に固まっていく。

 

「いやっ・・・あっ・・・熱い・・・熱いよぉーーーーっ」

 

宇宙が思わず泣き叫ぶ。

 

だんだんと蝋の熱さに慣れてきたとはいえ、神経が集中している最も敏感な箇所だけはもろに熱かった。

 

火傷をしてしまうのではないだろうかと思うぐらい、熱い。

 

「あぁぁ・・・・・っ」

 

先走りが周りで濡れていたために、最初は固まった蝋が腹の上に落ちてしまっていた。

 

だが続けて何度も蝋を垂らしているうちに、滑らなくなりその場で固まった。

 

蕾から双玉、そして分身が真っ赤な蝋で固まっていく。

 

「ゆ、許して・・・うぇっ・・・えぇっ・・・」

 

宇宙は、いつの間にか泣きじゃくっていた。

 

熱さと快感に耐えられず、理性と感情をコントロール出来なくなっていた。

 

そんな宇宙をせつなそうに見ていた遼一は、心がズキッと痛むのを感じていた。

 

宇宙が泣くと、遼一の心に激痛が走るのだ。

 

どうしようもないせつなさに襲われる。

 

自分自身がひどい拷問を受けているときよりも、心も身体も何十倍も痛んだ。

 

せっかく目覚めた修羅の心が、萎えていくのが分かる。

 

亨に対して反抗心や敵対心が、どんどんなくなっていく。

 

「もう・・・やめてぇぇーーーーー」

 

宇宙が堪えきれずに泣き叫んだ。

 

蝋が、先端にポトリッと落ちたのだ。

 

その瞬間、ピクピクッと激しく痙攣した分身からは、白い体液が飛び散った。

 

それは、蝋の熱さと快感で宇宙が今までにない絶頂を極めてしまった瞬間だった。

 

「ふふっ・・・。嫌だ嫌だと言っても、身体は正直だな?こんなに喜んでいるじゃないか?」

 

恭也はいったん蝋を垂らすのをやめて、宇宙の分身の先端から白い飛沫が飛び散るさまを見つめていた。

 

勢いがあるその飛沫は、胸のあたりまで飛んでいた。

 

真っ赤に固まった蝋の上に白い体液が飛び散る。

 

そのさまはひどく淫靡でいやらしくて、恭也も思わずゾクリと背筋を震わせた。

 

「いやっ・・・あぁぁ・・・いやぁぁ・・・・・・・」

 

全部吐き出したのに、まだ絶頂感が遠のいていかない。

 

宇宙はずっと頂点に上り詰めたまま、首を左右に振った。

 

「宇宙!?しっかりしろ・・・宇宙?」

 

遼一が、そんな宇宙に声をかける。

 

だが宇宙は、遼一の声が届いていないのか、ただ首を左右に振っているだけだった。

 

今までにない絶頂感を味わったために、意識が朦朧としているのだ。

 

「宇宙・・・」

 

遼一は、また胸がギューッと締めつけられるように痛むのを感じた。

 

このままでは本当に宇宙の身体が殺されてしまう。

 

宇宙の精神が壊されてしまう。

 

「このぐらいで音を上げられたんじゃ困るな・・・。最高のビデオを撮るんだからな」

 

冷たい口調でそう言った恭也は、左手で蝋燭を持ち替えて、床に転がっている宇宙の分身に右手を伸ばした。

 

そして真っ赤な蝋で固まっている分身を握り、そのまま上下に扱いてやる。

 

「ああぁぁーーーーーーっ」

 

すると、固まっていた蝋がボロボロと腹の上に落ちて、さっきよりもずっと艶やかな朱色になった分身が姿を現した。

 

先端に付いている蝋も丁寧に取り去り、二、三度軽く扱いてやる。

 

「あんっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

すると驚いたことに、剥き出しになった分身は艶やかさを増したばかりか、蝋を垂らされる前よりもずっと感じるようになっていた。

 

何倍にも敏感になった分身を愛撫され、宇宙は甘い声を上げて腰をくねらせる。

 

恭也の手が、蝋で固まっている双玉をギュッと握り、その奥の蕾を覆っている蝋までも、丁寧に取り去っていく。

 

「あっ・・・・あっ・・・あんっ・・・・・・・・」

 

もう宇宙は、喘ぎ声を上げて身悶えるしかなかった。

 

一度蝋を垂らされた箇所が、どこもかしこも先ほどよりもずっと感じるのだ。

 

恭也に蝋を取り去られているだけなのに、指の感触に感じてしまう。

 

指の動きに、イッてしまいそうになるくらい蕾も分身も敏感になっていた。

 

「蝋燭は気に入ったようだな?たった一度でこんなに柔らかくなるくらい感じるとは。亨様、こいつなかなか見込みがあります。お手元に置いて玩具として楽しむには申し分ないかと・・・ 」

 

恭也はそう言って巧みに指を動かし蕾を刺激しながら、亨を見つめた。

 

亨も宇宙の喘ぎぶりに満足している様子だった。

 

囲っていた遼一の心を奪ったことは許せない。

 

だがこうして見ればなかなかどうして、顔も綺麗だし、興味をそそられる身体をしているじゃないか。

 

快感に対する反応が今までに見たこともないぐらい素直で、何よりもそこが気に入った。

 

遼一に口で奉仕させながら、宇宙が他の男に犯され感じるさまを見るのも一興かもしれないと、亨は思い始めていた。

 

玩具として弄ぶにはもってこいの男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 14

手に何かを持っている。

 

手の中に入ってしまうようなガラスの小瓶のキャップを外している。

 

それを見ていた遼一の顔が一変する。

 

ヤクザが持っているのは、輸入品の媚薬だった。

 

液体を股間に垂らせば、媚薬の効力がその者の理性を失わせ、気が狂うほどに男を求め続けるというとても高価な代物だった。

 

遼一は以前に一度、その媚薬によって気が狂ってしまった男を一人見て知っていた。

 

恭也に逆らい、逃げようとしたその男は、媚薬によって完全に理性を失い、まるで野獣のように次々と男を食らい込み、絶頂の声を上げ続け、ついには気が狂ってしまったのだ。

 

あの時は媚薬の量が多すぎてしまったのと、目の焦点も合わず口端から唾液をだらしなく垂らしている男を見下ろして、恭也が言ったのを聞いた。

 

廃人同様になった男のその後を遼一が知ることはなかったが、だいたいの想像はできる。

 

十年近く亨に囲われてきた遼一は、亨が裏でやっている人身売買のことも承知していた。

 

亨はやると言ったら絶対にやる男である。

 

残酷で情などはいっさい持ち合わせていない亨に、宇宙を自由にさせてはならない。

 

「おい、たっぷりと塗ってやれ。尻の穴にも十分にな。媚薬が効いた頃には自分から尻を振って男に犯してほしいと哀願してくる。さぞかし色っぽい姿だろうな、そう思わないか、遼一?」

 

亨の言葉にヤクザの一人が媚薬の瓶の口を宇宙の股間に傾け、中の液体を垂らそうとする。

 

遼一は、自由なほうの脚を思いきり伸ばすと、ヤクザが持っているその瓶を足先で蹴飛ばした。

 

飛ばされた瓶が、ガシャーンッと床に落ちて割れる。

 

「こいつ・・・なんてことを!」

 

ヤクザが慌てて床にしゃがみこむ。

 

液体の媚薬は、すっかり床に零れ染み込んでしまっていた。

 

これでは使いものにならない。

 

遼一は、ニヤッと顔を綻ばせた。

 

だが次の瞬間、恭也の拳が塞がったばかりの胸に叩きつけられる。

 

「はぐぅ・・・ぐぅう・・・・・」

 

遼一が、胸の傷を押さえて激しくのけ反る。

 

傷口が少し、開いたような感覚だった。

 

遼一にひどい仕打ちをしたのに、亨は恭也を叱らなかった。

 

というよりも、恭也が殴らなくても亨が同じことをしていたからである。

 

媚薬はもう用意していなかった。

 

床に零れた媚薬を見て、亨はチッと舌打ちをした。

 

だがこれで宇宙に対する仕置きをしなくなったわけではない。

 

亨は椅子にドカッと腰を下ろすと、煙草に火を点けながら恭也に命じた。

 

「お前の好きにやっていい。もともと、この男はお前にやった男だからな」

 

亨の言葉に、恭也はニヤッと口端を上げて笑った。

 

なんの抵抗もできない宇宙を見下ろし、恭也がテーブルの上から真っ赤な蝋燭を手に取る。

 

蝋燭はSM用の蝋燭で、女性の腕ほども太く長かった。

 

「誰か、火を点けろ」

 

恭也が言うと、ヤクザの一人が蝋燭の芯に火を点けた。

 

とたんに、溶けやすい真っ赤な蝋がポタポタと垂れていく。

 

その蝋燭を見上げていた宇宙の顔が、引き攣った。

 

「これはSM用の蝋燭だ。見た目ほどは熱くはない・・・」

 

と言うなり、恭也が蝋燭を斜めにして宇宙の上半身に蝋が落ちるようにする。

 

ポタッ・・・と、最初の蝋が宇宙の右の乳首の周りに落ちた。

 

「あっ・・・ひぃぃ・・・・・」

 

熱くないなどというのは嘘だと、宇宙はとっさに思った。

 

熱いじゃないかっ。

 

しかも、落ちた瞬間が特に熱い。

 

その熱さが、蝋が固まると同時にじんわりと身体の中に浸透していくのが分かる。

 

蝋が肌の上で真っ赤に固まり、熱さが消えると、また溶けた蝋が乳首の周りに落ちてきた。

 

「あっ・・・熱いっ・・・あっ・・・」

 

身体が自然とビクビクッと痙攣する。

 

卑猥な格好で寝かされている宇宙の身体は、まるで飛び魚のように蝋が落ちると跳ね上がった。

 

蝋がポトポトっと、柔らかな皮膚に続けざまに落ちていく。

 

「あっ・・・やだっ・・・熱い・・・熱いよぉー・・・・・」

 

「宇宙っ!」

 

遼一は蝋燭の蝋で責められ、もがき苦しんでいる宇宙に耐えられず声を上げて手を伸ばした。

 

だがどうしても宇宙に手が届かない。

 

足枷が邪魔をしていて、宇宙を助けることができない。

 

遼一は、足が折れてもいいと思いながら、なんとか足枷を外そうと暴れる。

 

そんな遼一を見て、椅子に足を組んで座っている亨が皮肉を込めて言った。

 

「そんなに暴れても宇宙を助けることは無理だ。諦めろ、遼一。それよりよく見ろ。お前の愛しい宇宙がもがき苦しんでいるだけなのか・・・」

 

と言われて、遼一は暴れるのをやめて宇宙を見た。

 

床に寝かされたまま、両脚を目いっぱい開いた状態でロープで縛られている宇宙は、ただ苦痛に顔を歪め、もがき苦しんでいるだけではなかった。

 

白い裸体が真っ赤な蝋で塗り固められていくうちに、甘い声が漏れるようになっていたのだ。

 

「あっ・・・あっ・・・熱い・・・やっ・・・あぁ・・・・・」

 

宇宙自身は気づいていないようだったが、確かに蝋を垂らされて感じていた。

 

左右の乳首が真っ赤な蝋で固まり、その蝋がポタリポタリと腹のほうへと移っていく頃には、宇宙は完全に蝋が与えてくれる感覚を快感として受け止めていた。

 

「あ・・・んっ・・・ひぃ・・・あっ・・・」

 

蝋燭を握っていた恭也は、そんな宇宙の変化を感じ取り、腹の次に白い内股へと蝋を移していく。

 

左右に開かれている宇宙の内股にポタリポタリッと蝋が落ちていく。

 

「あんっ・・・だめっ・・・そこは・・・あっ・・・」

 

「だめじゃなくて、本当は気持ちいいんだろう?」

 

恭也が、蝋を垂らすのをいったん止めて宇宙に聞く。

 

宇宙は、ロープでぐるぐる巻きにされたまま、首を必死に振って違うと訴えた。

 

だが、蝋の熱さによって敏感になってしまった身体が恭也の言葉のとおりだと訴えている。

 

宇宙の隠すことのできない分身が、いつの間にか勃起していたのだ。

 

しかも、先端の割れ目からとめどなく先走りを滴らせ、根元まで垂らしている。

 

その様子を目の当たりにした周りの者たちの間から、苦笑が漏れた。

 

遼一は直視できず、とっさに目を瞑ってしまう。

 

「どうした遼一?しっかりと見るんだ。自分の愛した者が恭也の仕置きによってどう変わっていくか。仕置きされた者がどうなっていくか、ちゃんと自分の目で見て確かめろ」

 

「亨さんっ、お願いです。仕置きをやめさせてくださいっ。宇宙への仕置きは私が代わりに受けます。だからもう・・・もう・・・・・」

 

遼一は囲われていた自分を思い出したように、亨に哀願した。

 

目には涙が溢れている。

 

だが亨はそんな遼一を楽しそうに見つめるだけで、恭也に仕置きをやめるように命令はしなかった。

 

それどころか、もっといやらしく過激にするように恭也に言う。

 

ちょうど、一人のヤクザがビデオをセットしたところだった。

 

「ここからビデオを撮るんだ。もっと売れるように過激に責めろ」