チンピラたちに路地に連れ込まれながらも、必死に宇宙は泣き叫ぶ。
このままでは、本当にラブホテルに連れ込まれてしまう。
ホテルに連れ込まれたが最後、本当に狼のようなこのチンピラたちに犯されてしまう。
男が男を襲うなんてとても信じられなかったが、現実に犯されそうになっていた。
「誰かっ!助けてぇぇーーーーー!」宇宙が思いっきり叫ぶ。
「だから、無駄だって言ってんだろうが!」
「いい子にしてれば、朝には解放してやるよ」
目をギラつかせたチンピラたちが口々に言う。
路地を抜けた目の前には、派手なラブホテルの看板が立ち並んでいる。
それを見た宇宙の顔面からは、サーッと血が引いていった。
どうしよう。
このままでは本当にチンピラたちの玩具にされてしまう。
こんな路地裏のラブホテル街に引き込まれてしまっては、もう誰も助けてくれない。
どうしようっ。
大好きな桜井さんにもすべてを捧げてないのに。
こんなことになるんだったら、キャンセルなんてしないでマッサージに行けばよかった。
マッサージに行って、ちゃんと自分の気持ちを桜井さんに打ち明ければよかった。
スペシャルマッサージをもう一度して欲しいって、言えばよかった。
好きだって言えばよかった。
宇宙は、ホテルの入り口で一生懸命に抵抗しながらそんなことを思っていた。
ああ、桜井さん。
僕はもう、本当にあなたに会えなくなってしまう。
宇宙がそう思ったとき、チンピラたちの強引な動きがピタッと止まった。
不思議に思って見ると、チンピラたちの視線が一点に集まっている。
宇宙は、チンピラたちの視線を辿った。
そしてそこで見たものは、宇宙がずっと会いたいと望んでいた桜井の姿だった。
「・・・その辺で許してあげなさい」
険しい表情の桜井は、チンピラの前に進み出て、厳しい表情でそう言った。
チンピラたちが、無言のまま顔を見合わせる。
チンピラたちは、桜井を見知っている様子だった。
黒いサングラスをしている男が桜井の前に歩み寄る。
だが桜井は一歩も引かずに言った。
「こんなところで素人さんを相手にしてるんじゃない。もう帰りなさい」
見るからに強そうな黒いサングラスの男を目の前にしても、まったく動じない。
そんな男らしい桜井を見て、宇宙の胸はドキンッと高鳴った。
桜井さんが助けてくれた。
嘘みたい。
でも、相手は喧嘩に慣れているチンピラだし、このままでは桜井さんが。
宇宙の心配をよそに、桜井は黒いサングラスの男の耳元で何かを囁く。
それを聞いた男の顔から、サーッと血の気が引いたのを宇宙は見逃さなかった。
いったい何を言ったのだろうか?
「お、おい。帰るぞ」
サングラスの男が、そう言って背を向けた。
手下のチンピラたちも、男の後を追って背を向けた。
突然割り込んで来た桜井に対して喧嘩を売ったり、いちゃもんをつけたりする者は誰もいなかった。
まるで満ち潮が引いていくみたいに、チンピラたちが賑やかなホテル街から消えていく。
その様子を道路にしゃがみ込んで見ていた宇宙は、何がなんだかさっぱり分からなかった。
桜井はあの黒いサングラスの男に何を言ったのだろうか?
どうしてチンピラたちは手を引いたのか。
チンピラたちは桜井を見たとたん、驚きと同時に脅威のようなものを表情に浮かべていた。
でもどうして?
「・・・大丈夫ですか?」
しゃがみ込んだまま考えていた宇宙の頭の上から、桜井が声をかける。
「は、はい」
宇宙は慌てて返事をして、桜井を見上げた。
いつもの男らしくステキな顔が、自分を優しい眼差しで見つめている。
細められたその瞳を見て、宇宙は胸の奥がキュンッと痛くなるのを感じていた。
会いたかった桜井さんが、目の前にいる。
しかも、チンピラたちを追い払った雄々しい姿で立っているのだ。
宇宙はもう、天にも昇るような心境だった。
「マッサージの予約をキャンセルしたでしょう?何か用があったんですか?それとも・・・大切な人とデートとか?」
宇宙を立たせた桜井が、ずっと気になっていたことを率直に聞く。
すると宇宙は、急に顔を真っ赤にして『いいえ』と言って首を振った。
「デートなんて・・・そんなことありません・・・。だって・・・付き合っている人なんていないし。今は桜井さんに夢中だから」
と言ってしまってから、宇宙は『あっ』と言って慌てて口を両手で塞いだ。
だがもう遅かった。
ずっと抑えてきた宇宙の気持ちは、桜井に伝わってしまった。
宇宙は顔をもっと赤くして、両手で口を塞いだままその場にガクッと崩れてしまった。
まさかこんなところで、こんなふうに桜井に告白するつもりなんてなかったのに。
チンピラに絡まれていたのを助けてもらった嬉しさと、桜井に偶然にも出会えた喜びから、つい本心を言ってしまったのだ。
崩れたまま、アスファルトの上で蹲る宇宙。
宇宙はもう、桜井の顔を見上げる勇気などなかった。
「・・・・・・・」
桜井は、そんな宇宙の顔にそっと手を置いた。
そして優しく労るように、髪を撫でていく。
「・・・マッサージ、していきませんか?」
「・・・えっ?」
「もちろん、スペシャルマッサージです」
と、桜井が言うと、宇宙は驚いて顔を上げた。
薄茶色の瞳には、涙が溢れていた。
「ス、スペシャルマッサージですか?」
「嫌ですか?」
と桜井が聞くと、宇宙はいきなり立ち上がって『いいえっ!』ときっぱり言った。
「全然嫌じゃないですっ。スペシャルマッサージ、ぜひお願いしますっ」
もうこうなったら、恥ずかしいことなんて何もない。
いくとこまでいってやる。
桜井さんにだったら、何をされてもいいんだ。
すべてを捧げたって、いい。
宇宙は、そんな心境だった。
「では、行きましょうか」
背の高い桜井は宇宙の細い肩を抱き寄せて、ホテル街を歩き出した。
一瞬、目の錯覚かと思った桜井だが、確かにあれは宇宙だった。
「・・・宇宙?」
慌てて後を追いかける桜井の目に、宇宙の後ろ姿が映った。
すっかり疲れている宇宙は、足取りも重く覇気も感じられなかった。
桜井に素っ気なくされていることも、宇宙の足取りを重くさせているように思えた。
だが宇宙の綺麗な顔立ちは、行き交う人たちの視線を集めていた。
紺のスーツ姿の宇宙は、疲れきった表情をしていても、間違いなく目立っていた。
桜井は、宇宙に声をかけようかどうしようか迷った。
ここで声をかけてしまったら、すぐにでも店に連れ帰って、スペシャルマッサージをしてあげたくなってしまうからだ。
いや、今日はスペシャルマッサージだけでは済みそうになかった。
スペシャルマッサージよりもいっそう強力な快感が得られる、ウルトラスペシャルマッサージで、宇宙をヘロヘロにしてしまいたい。
そんな淫靡な衝動に駆られていた。
もう、だれに知られたって構わない。
たとえあの人に知られても・・・この想いはどうしようもないのだ。
そう決心した桜井の目に、数人のチンピラ風の男たちに囲まれている宇宙の姿が目に入った。
よろめいた宇宙の身体が、チンピラの一人の肩にドンッとぶつかってしまったのだ。
宇宙を取り囲んでいるチンピラたちの顔に見覚えがあった桜井は、一瞬足を止めた。
『あの人』がよく金の力で利用しているチンピラたちだった。
「おいっ!どこに目をつけてんだよ!?いてーじゃねーか!」
ぶつかった派手なスーツに黒いサングラス姿の男が、肩を押さえるようにして叫ぶ。
その声を聞いた通りすがりの人たちは危険を感じたのか、一斉にその場から遠ざかった。
「す、すみません」
気づいた宇宙は、慌ててチンピラに謝る。
だがチンピラは、痛くもない肩を大袈裟に摩りながら、大声で叫んだ。
「こりゃあ・・・もしかすると肩の骨が折れているかもしれねーな?どうしてくれるんだ?えっ、顔の綺麗なおにーさんよぉ?」
「慰謝料を払うだけじゃ足りねーな。やっぱりここは・・・おにーさんの身体で払ってもらわなくっちゃな」
仲間のチンピラたちも、クチャクチャとガムを噛みながら、宇宙のまわりをグルグルと歩き回った。
「で、でも・・・。ちょっとぶつかっただけですし・・・。折れてるなんて・・・」
宇宙が怖々言うと、ぶつかったチンピラは急に身を乗り出して宇宙の襟元を掴み上げた。
「俺が折れてるって言ったら、折れてるんだよっ。文句あるのか?」
「ででも・・・」
震える声で反論しようとしたが、すぐに言葉を突っ込まれて口を噤んだ。
「うっせーな。ゴチャゴチャ言ってると、この場で犯すぞ!」
その荒々しい声に、遠巻きに見ていた人たちまでも逃げるように去っていく。
宇宙を助けてくれる人は誰もいなかった。
みんな、見て見ないふりをしている。
派手なスーツ姿の横柄な態度のチンピラたちは、すっかり脅えている宇宙の腕を引っ張りあげた。
「こんなところではなんだから、ちょっと落ち着いた場所に行って話ししようや」
ぶつかった黒いサングラスを掛けた男が、ニヤッと笑って耳元で言う。
角刈り頭のその男は、チンピラたちの長のような男だった。
「落ち着いた場所?」
「おにーさん、顔が綺麗だからさ。ちょっと付き合ってほしいんだよな。ラ、ブ、ホ、テ、ル」
「ホ、ホテル?でもラブホテルで何をするんですか?」
宇宙の真剣な問いに、チンピラたちが思わず顔を見合わせ、プッと噴き出して大笑いする。
下品な笑いの中、宇宙はとっさに逃げ出そうとした。
だが、黒いサングラスを掛けた男が、そんな宇宙の腕を強く掴んで引き寄せる。
「おいっ!俺たちから逃げようったって無駄だぜ。慰謝料をちゃんと身体で払ってもらうからな。覚悟しなよ」
角刈り頭の男が言うと、他のチンピラたちが一斉に宇宙を取り囲み細い路地に連れ込もうとする。
このときになって、ようやく宇宙は自分の身に迫る危険を察知した。
ラブホテルに行ってすることといったら・・・セックスしかない。
ということは・・・つまり・・・・・。
「は、離してっ!誰か・・・誰か・・・助けてっ!」
宇宙がキャンセルの電話を入れてきたことを受付の女性から聞いた桜井は、思わず顔をしかめた。
少し、冷たくしてしまったことがいけなかったのか。
最初は、桜井はそう思った。
仕事が忙しくてどうしても時間内に来れないという場合も考えられる。
だがどういうわけか、桜井は後者のほうではないと直感で思っていた。
桜井が宇宙に対し、少し素っ気ない態度を取っていたことには、理由があった。
スペシャルマッサージを受けているときの宇宙の喘いでいる姿が、想像を絶するほど可愛くて、愛しくて、たまらなくなってしまったからだった。
マッサージに通ってくる宇宙を見るたびに、またスペシャルマッサージをしたくてたまらなくなる衝動を抑えるために、桜井はわざと冷たい態度を取っていた。
まさか、あんなにも可愛いなんて。
性感帯を刺激するスペシャルマッサージは、ある特別な人の心と身体を癒すために無理やり覚えさせられたマッサージだった。
そのマッサージをある『特別な人』以外に施してしまったのは、これが初めてだった。
『特別な人』以外には決してしてはいけないスペシャルマッサージ。
それをどうしても宇宙にしてみたくて、その反応を見てみたくて、桜井はずっと守ってきた約束を破ったのだった。
このことをもし『特別な人』が知ったらただでは済まないことは承知している。
だが、それでも桜井は宇宙をこの手で感じさせてあげたいと思ったし、喘ぐ姿を見たいと望んだのだった。
そして想像以上に、宇宙は可愛い姿を桜井に見せてくれた。
シルクのような手触りの肌と薄いピンク色のまだ未熟だが、とても感じやすい可愛い乳首。
宇宙が、桜井のマッサージを受けたときから勃起していたことは気づいていた。
宇宙が桜井に対して、特別な感情を抱いていることも知っていた。
初めは気づかないふりをしていた桜井だったが、宇宙のあまりの素直さと可愛らしさに、とうとう参ってしまった。
理性よりも欲望のほうが勝ってしまったのだ。
スペシャルマッサージをしてあげようと思ったのも、欲望に負けたからだった。
可愛い宇宙を、この手で感じさせてあげたい。
宇宙に、未知の快楽を与えてあげたい。
そしてその姿をこの目で見たい。
そんな欲求に耐えられず、桜井はスペシャルマッサージを宇宙にしてしまったのだ。
そしてすべてが終わった後、桜井の心の中には震えるような満足感と不安が入り乱れていた。
意識を失うくらい感じまくった宇宙を前に、罪の意識に苛まれていた。
宇宙のような経験の少ない素直な青年に、無限の快楽を与えるようなスペシャルマッサージを覚えさせてしまったら、それはきっと罪になるのではないだろうか。
桜井自身が宇宙のものになるのなら話は別だが、桜井はある特別な人に縛られていた。
囲われている身分なのだ。
それなのに、一般のお客様を好きになってしまって、しかもスペシャルマッサージをしてしまうなんて。
桜井は、この事実を知ったらきっと激怒するであろうある人物の顔を思い浮かべていた。
そして宇宙のためにも、少し距離を置こうと思ったのだ。
だがそう思えば思うほど、どんどん宇宙が好きになっていく。
マッサージを重ねれば重ねるほど、宇宙の身体にもっと触れていたい衝動に駆られてしまうのだ。
スペシャルマッサージをしてほしそうな顔をして、じっと桜井を見つめる宇宙の瞳。
だがその瞳から顔を逸らして、わざと冷たい態度を見せなければならない桜井も、実はとても苦しんでいた。
マッサージが終わった後、宇宙が自分を慰めていることも知っている。
知っていたが、どうしてやることもできなかった。
これ以上、宇宙を好きになってしまったら特別なあの人が黙っていないからだ。
性感帯へのマッサージを教え込んだ、特別なあの人が黙っていない。
宇宙、すまない。
桜井は、いつも心の中で宇宙に詫びていた。
だが、宇宙からマッサージの予約のキャンセルが入ったと聞いた桜井は、ずっと抑えてきた宇宙への気持ちが一気に燃え上がったのを感じていた。
宇宙が来ないと知ったときのショックは、例えようもなかった。
今日は、宇宙に会えることを楽しみにしていたのに。
スペシャルマッサージはしてあげられなくても、宇宙の身体に触れらるそのことだけで満足を得ようとしていたのに。
それに、次の予約もいっさい入っていないと聞いた桜井は、胸がギューッと締めつけられるように痛くなるのを感じていた。
もう来てくれないかもしれないのだ。
スペシャルマッサージの後、冷たくしていたからなのか。
それとも、他にいいマッサージ師でも見つけたのだろうか。
まさか、恋人ができたのでは?
そんな不安が頭の中を駆け巡り、桜井は居ても立ってもいられなかった。
「ちょっと、外に出てくる」
受付の女性そう言って、桜井は外に出た。
帰宅を急ぐサラリーマンたちをかき分けるように街中を歩きながら、宇宙のことを想っていた。
今まで、数えきれないくらいの客の身体に触れ、マッサージをしてきた。
有名な女優や俳優も、桜井のマッサージの腕のよさを見込んで店にやってくる。
どんなに美しい人をマッサージしても、こんな気持ちにはならなかった。
こんなに会いたいと思う人は、初めてだった。
この狂おしいまでの気持ちを言葉にするならば、愛だと桜井は思った。
恋などという、生半可な想いじゃない。
宇宙のすべてを欲しいと思うこの気持ちは、まさしく愛だった。
「こんなことになるんだったら、もっと優しくしてあげればよかった。自分の気持ちに素直になって・・・あの人に知られてもいいから・・・自分の想いを遂げればよかった」
賑やかな人混みの中で、白いワイシャツに黒いスラックス姿の桜井は呟いた。
このまま会えなくなってしまうくらいなら、いっそのこと・・・・・・・。
そんな思いつめた桜井の少し前を、偶然宇宙が通りすぎる。
宇宙は、朝からずっとボーっとしていた。暇があれば職員室から外を眺め、葉が落ち始めている大きなポプラ並木を、先ほどからじーっと眺めていた。
そんな宇宙を不思議そうに見て、何人かの教師が心配そうに声をかけたが、宇宙は「景色が綺麗なものですから」とだけ答えていた。
確かに、初秋の光景は色が様々で美しく、目の保養にもなった。
だが宇宙は、実際にはそんな景色には目もくれず、桜井の姿だけを思い描いていた。
あの、脳天直撃のスペシャルマッサージを受けてから三ヶ月が経っていた。
記録的な猛暑も去り、今ではすっかり街は秋のファッションに溢れている。
宇宙はあれから、何度か桜井のもとを訪れ、マッサージを受けていた。
だが心も身体も虜になってしまった、あのスペシャルマッサージは、あれから一度もしてくれなかった。
今日こそはスペシャルマッサージをしてくれるかもしれないと意気込んで行っても、いつもの足の裏のツボ圧しとマッサージのセットだけなのだ。
本当は『スペシャルマッサージをお願いします』と言いたいのだが、恥ずかしさが邪魔をしていてとても言えなかった。
いつものマッサージも確かに気持ちいいし、リラックスできる。
身体の疲れも癒されるし、桜井に会えた喜びで心も満ち足りてくる。
だけど、あの心も身体も蕩けてしまうようなスペシャルマッサージを知ってしまってからというもの、どうもいつものマッサージでは満足できない身体になってしまっていた。
それが証拠に、マッサージが終わる頃には宇宙自身が勃起してしまっていて、どうにも収まらなくて、仕方なく桜井が出ていった部屋の中で自分の手で慰めるということが続いていた。
しかし自分の手で慰めてあげて満足させても、何か釈然としない。
満足感がないというか、心が潤わないというか、かえって寂しくなってしまうというか。
だがこうでもしないと、下半身がいつまでも元気でスラックスが穿けないのだ。
あのスペシャルマッサージの一夜から、桜井はどことなく宇宙に対して素っ気ない態度をとっていた。
それが宇宙を、とても悲しくつらくさせていた。
気のせいかもしれないけど、でもやっぱり以前の桜井とはどこか違うのだ。
「やっぱり・・・あの時の僕をみて・・・呆れちゃったんだろうな・・・」
秋風に吹かれ、木の枝から落ちていくポプラの葉を眺めながら、宇宙はボソッと呟いた。
自分のまわりには誰もいない。
教科書やテストが積んである机の上で肩肘をつき顎を乗せて、宇宙は一人でボーっとしていた。
「だって、あんなマッサージ初めてだったから・・・。つい・・・調子にのっちゃって・・・」
反省するように、深く後悔するように宇宙は呟いていた。
あのときあまりにも破廉恥に喘ぎすぎて、感じすぎちゃって、そんな卑猥な自分の姿を見た桜井が呆れてしまったのだと宇宙は思い込んでいたのだ。
きっともう、嫌われてしまったのだ。
そう決まってる。
いくら気持ちいいからってあんなにアヘアヘ言っちゃって、娼婦のように喘ぎまくっちゃって。
あれから桜井さん、どことなく冷たいし、スペシャルマッサージもしてくれなくなっちゃったんだ。
でももっと素直になって、ちゃんと感じなさいと言ったのは桜井さんだし。
あのときの桜井さんはいつもの桜井さんと違ってて、とても大人で支配的で、まるで僕の上に君臨する王様のようで。
そんな桜井さんに魅せられて、ついあんな大声まで出しちゃって。
最後には自分でもどうなったのかわからないくらい感じちゃって。
何度もイッちゃって。
桜井さんの手の中でオイルと体液が混じり合っていて、クチャクチャしてたっけ。
あーあ、もう最悪。
どうしたらいいんだろう。
桜井さんにまた以前のように優しく接してもらいたいのに。
スペシャルマッサージを、もう一度だけでもいいからしてほしいのに。
「・・・・・はぁ・・・」
宇宙は、思わずため息を漏らした。
するとちょうど、午後の授業が始まるチャイムが鳴る。
校庭や廊下では、キャーキャーと走り回っている子供たちの声がする。
宇宙は、重い腰を上げて算数の教科書を持った。
「今日も予約入っているけど、やっぱりしてくれないよね。スペシャルマッサージ」
疲れきった顔で、宇宙は廊下に出た。
とたんに、まだ教室に入っていない一年生の子供たちに囲まれてしまう。
「せんせー!早く教室に行こうよ」
「宇宙せんせ、最近一緒に遊んでくれないからつまらない」
宇宙のクラスの子供たちだった。
そう言えばそうだった。
夢と希望に燃えていた四月頃は、暇さえあれば一緒に子供たちと遊んでいたっけ。
「どっか、具合悪いの?ねぇ・・・せんせ?」
「せんせー、大丈夫?」
腕にまとわりついている子供たちが、純粋な瞳をキラキラと輝かせて聞いてくる。
問題児の国ちゃんがいないと、この子どもたちは本当に素直で優しい子供たちだった。
宇宙は一瞬、子供たちの優しさに触れ、胸がキュンッとなる。
だがそんな感じのいい雰囲気を壊したのは、問題児の国ちゃんだった。
「先生はどこも具合なんて悪くないよ。きっと・・・惚れた相手のことでも考えていたんじゃねーの?」
子供らしからぬ言葉に、宇宙は一瞬絶句してしまう。
後ろを振り返ると、そこには、面白くなさそうな顔をして数人の悪ガキ集団と立っている国ちゃんがいた。
「く、国ちゃん・・・。惚れた相手とかって・・・そんなこと言っちゃいけないよ」
「あっ、図星だな先生?顔が赤いよ」
すぐに国ちゃんに切り返され、宇宙は反射的に顔を両手で覆ってしまう。
実際、桜井のことを考えていただけに、図星という言葉は見事に的中していた。
「く、国ちゃん!」
「まったく、最近の教師は・・・エッチなことばかり考えているんだからな」
国ちゃんは呆れたようにそう言って、悪ガキ集団を従えて教室に戻っていく。
国ちゃんの言葉を聞いた他の子供たちも、慌てて宇宙の腕から離れて教室に駆け込んでいった。
「あ、あの・・・。ちょっと待ちなさい。そうじゃないんだ。違うんだって」
と慌てて言い繕っても、もう遅かった。
宇宙の顔は真っ赤だったし、子供の純粋な目はすぐに嘘を見抜いてしまう。
一人廊下に取り残された宇宙は、ガクッと肩を落とした。
「・・・・・・なんで分かっちゃったんだろう」
ボソッと呟いてから、気を取り直して教室へと向かう。
そして午後の授業は、国ちゃんが大暴れしてもう散々な状態だった。
他の教師からは怒られ、放課後には校長から呼び出された。
悪ガキ集団の素行と生活態度を直すように厳重に注意され、やっと校長室から解放されたときには、もう外は真っ暗だった。
時計を見ると、七時を回っている。
今日のマッサージの予約は八時だから今から行けば間に合うが、なんだか今日はマッサージに行く元気もなかった。
数人の教師が残っている職員室で、宇宙はマッサージの予約のキャンセルの電話を入れた。
『次回のマッサージの予約を入れますか?』
本当は、今すぐにでも桜井に会いたい。
だが、桜井に素っ気なくされることを思えば、しばらくの間会わないほうがいいのではないだろうかと考えたのだ。
電話を切った後、妙な寂しさが全身を駆け巡った。
そしてこのとき思った。
もしかしたら、自分は桜井に恋をしているんじゃないだろうか・・・と。
このせつない想いは、正真正銘の恋じゃないだろうか・・・と。
「まさか・・・。桜井さんは男なんだし・・・・・」
宇宙は、湧き上がる熱い想いを否定するかのように独り言を言う。
だが、暇があればいつも桜井のことを考えてしまう今の状況は、誰が見ても『恋』だった。
勘のいい、国ちゃんに指摘されたとおりである。
「桜井さんが・・・好き?」
自分に問いかけるように宇宙は呟いた。
そして自分の嘘偽りのない心を知る。
桜井さんが好き。
それは、宇宙が初めて真剣に人を好きになった瞬間だった。
ヌチャヌチャッと音がして、腰から脳天に快感が走り抜ける。
宇宙にとって、こんな感覚は初めてのものだった。
ついさっき、乳首の快感に目覚めたばかりなのに、もっと強烈で生々しいこんな快感があったなんて。
自分の手でするときの快感なんて、まるで子供のお遊びのように感じた。
弄られている分身が、与えられる快感を喜んで受け入れている。
まるでずっと、こうされることを待ち望んでいたかのように。
「あっ・・・うそ・・・だめ・・・そんな・・・」
気持ちよくて、雲の上にいるような気分を味わいながらも、恥ずかしくてしょうがない。
ずっと会いたいと思っていた桜井さんから、まさかこんなマッサージをされるなんて夢にも思っていなかった宇宙である。
もう、心も身体もメロメロだった。
本当に、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。
「だめぇ・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」
上ずった甘い声が、どうしても宇宙の唇から出てしまう。
無理に唇を噛みしめても、桜井がオイルをたっぷりと垂らした分身の先端を上下に弄くると、どうしても喘ぎ声が漏れてしまった。
自分の声だとはとても信じられない、甘くて色っぽくて男を誘うような声を聞きながら、宇宙は思った。
これは自分の声じゃない。
今の自分は本当の自分じゃない。
自分は今、夢を見ているんだ。
こんな破廉恥でいやらしい声で喘いでいるのは、自分じゃない。
宇宙は必死にそう思おうとした。
だけど、どんなにそう思い込もうとしても、甘い喘ぎ声は自分の声だった。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいですよ。もうここには・・・私とあなたしかいないんですから。心と身体を解き放して・・・快感に身を委ねるのです」
「あっ・・・でも・・・そんな・・・」
桜井の色香が漂う言葉に心をときめかせながら、宇宙は首を横に振った。
だめ、だめっ。
心も身体も蕩けてしまうくらい気持ちいいけど、この快楽に身を委ねてしまってはいけない。
信じられないくらい破廉恥でいやらしい自分を、桜井さんにさらけ出してしまうかもしれない。
これ以上、淫靡な自分を見られてしまったら、きっと桜井さんは呆れてしまう。
呆れて、きっと嫌われてしまう。
そんなことになったら、もうここには来れなくなってしまう。
そんなのは、絶対に嫌だ。
絶対に、だめ。
宇宙は、すぐにでも気が遠くなるような快楽に身を委ねてしまいそうなのを必死に堪えていた。
だがそんな宇宙をあざ笑うかのように、すべてを知り尽くしている桜井の巧みな愛撫が続き、宇宙の理性を食い尽くしていく。
「あっ・・・あんっ・・・」
根元から絞り上げるように、分身に絡み付いた桜井の指が上下に揺れる。
しかも空いているほうの手で、双玉を強弱をつけて弄っているのだ。
宇宙は、もうイッてしまいそうなぐらい感じていた。
「あぁぁぁ・・・・・だめぇ・・・・・」
「そうやっていつまでも抵抗していると、つらいだけですよ。ほら・・・」
と、少し笑いながら言って、桜井は亀頭の部分を集中して責めた。
先端の割れ目に、指先の爪をクイッと入れたのだ。
「あっ!」
それは、ずっと堪えていたものが放出された瞬間だった。
「あぁぁぁーーーーーー・・・っ」
白い液体が、爪を挿入した割れ目から溢れ出る。
「あぁぁ・・・あぁぁ・・・・・・」
宇宙はイッてしまった瞬間、頭の中が真っ白になってしまったのを感じていた。
そして十分に絶頂感を味わった後、自分が発した娼婦のような声を聞き、はっとして我に返る。
頭を持ち上げて見ると、自分の腹の上にはオイルと混じって白い液体が無数に飛び散っていた。
「うそ・・・・・」
自分の目で見ても、信じられなかった。
それは、桜井の手の愛撫によって絶頂感を極めた証だった。
「もう少し素直にしていたら、もっとすごい絶頂感を味わえたのに・・・。今度は抵抗しちゃだめですよ」
桜井が、クスッと笑いながら白い液体をオイルに混ぜていく。
宇宙は絶頂感を極めたというのに、桜井の手はまだ動いたままだった。
絶頂の余韻がまだ残っている宇宙は、可愛く喘ぎながら手の行く先を肌で感じていた。
「あっ・・・桜井さん・・・」
宇宙が、今にも泣きそうな顔で桜井を呼ぶ。
桜井は、体液とオイルが混じったヌルヌルの手で、もう一度ピクピクしている分身を包み込んだ。
「あんっ」
驚いたことに、分身は元気なままだった。
たった今イッたばかりだというのに、ピクピク震えてはいるものの、まだ元気いっぱいなのだ。
「うそー?」
宇宙は思わず呻いた。
だが桜井は、それが当然とでも言いたげな顔をして、再び両手を上下に揺らしていく。
「・・・今度は素直に・・・私が満足する声を上げて・・・色っぽい顔を見せて・・・イッてくださいね」
「さ、桜井さん・・・あっ・・・だめ・・・そんなことしたら・・・」
「そんなにしたら、なんです?」
桜井の手が大きく上下に揺れていく。
宇宙は、反射的に大きく息を吸い込んだ。
そしてそのまま、さっきよりもずっと大きな喘ぎ声を上げてベッドの上でのけぞる。
もう、抗うことなどできなかった。
恥ずかしさなんて、もうなかった。
宇宙の中の何かが、生まれ変わった瞬間だった。
今までの宇宙が、桜井によって変えられた瞬間だった。
「あぁぁぁぁーーーーーーーっ!」
宇宙の泣きじゃくるような喘ぎ声は、しばらくの間、狭い部屋の中で響いていた。
しかも、オイルでグチャグチャの手は、両方の乳首を摘んだり弄くっている。
ただでさえ感じちゃってるのに、今にもキスされそうなこの雰囲気に、宇宙はすっかり酔いしれていた。
「もっと気持ちよくなりたいですか?」
桜井が、耳たぶをペロリと舐めながら聞いてくる。
その瞬間、背中から全身に毛が逆立つような甘美な感覚が走った。
「・・・は、はい・・・・・」
と、消え入りそうな声で返事をするのがやっとだった。
「そう・・・。では・・・本格的に気持ちよくしてあげましょう」
そう言った桜井の唇が宇宙の頬に触れ、そのまま離れていく。
えっ?今のはもしかしてキス?
そんな疑問が頭をよぎったが、深く考えている暇などなかった。
桜井の指が、乳首をもっと激しくマッサージし始めたのだ。
マッサージというよりも、どことなくいやらしい指の動きは、愛撫に近かった。
「あんっ・・・」
いつの間にかツンっと突き出て硬くなった乳首が、桜井の指先に弄ばれることに喜びを感じているようだった。
指先で摘み、そして優しく揉む。
「あっ・・・あんっ・・・」
それを何度か繰り返されるうち、宇宙は股間を隠すのも忘れて身悶えるようになっていた。
これが、スペシャルマッサージ?
名前のとおり、とってもスペシャルで気持ちいいっ。
しかもどうしよう、これって気持ちいいっていうより快感なんだけど。
乳首を弄られているだけなのに、身体が宙に浮いているみたい。
身体中が熱くて、いつもの自分の身体じゃないみたい。
それに乳首がこんなに感じてしまうなんて、今まで知らなかった。
オイルのせいかもしれないけど、乳首がヌルヌルしててピクピクして、卑猥な感じがして、頭の中までクラクラする。
宇宙はもう、すっかり桜井のつくり出す快感の魔術に魅せられていた。
「あっ・・・あっ・・・んっ・・・ぁっ・・・」
宇宙の唇からは、途切れることなく喘ぎ声が漏れていく。
唇を閉じて無理にその声を押し殺そうとしても、桜井の巧みな指が乳首を責めるので、どうしても色っぽい声が出てしまうのだ。
しかも、まるで娼婦のような喘ぎ声が。
「んっ・・・だめっ・・・もう・・・弄らないで・・・・・」
感じすぎてしまった宇宙は、思わず首を左右に激しく振った。
だが桜井のスペシャルマッサージは止まらない。
どんどん激しく淫らになり、宇宙を快感の世界へと誘っていく。
他人の手でこんなに感じさせられたことなどない宇宙は、どうにかなってしまいそうだった。
そんな中、桜井のヌルヌルとしている指が、宇宙の脇腹から下腹部へスーッと降りていく。
そして何も隠されていない宇宙の分身を見つけると、そのままやんわりと手の中に包み込んだ。
「あっ!」
その温かくてヌルッとした感触に、宇宙が新たな快感を予感したかのような声を上げる。
「こちらのほうも・・・マッサージしておきましょうね。こんなに硬くなって・・・だいぶ苦しそうだから・・・」
桜井がビクっと脈を打っている分身を優しく撫でながら言う。
宇宙は恥ずかしくて恥ずかしくて、今にも顔から火が出そうだった。
そうだった。
乳首へのマッサージがあまりにも心地よくて、分身が勃起していることをすっかり忘れていたのだ。
しかも真っ裸だったことも忘れていた。
「あっ・・・あっ・・・あの・・・?」
パニックに陥った宇宙は、慌てて両手で分身を隠そうともがく。
だがその手は、桜井によって優しく窘められた。
「だめですよ。ちゃんといい子にしててくれないと」
「で、でも・・・そこはっ・・・」
「だから言ったでしょう。スペシャルマッサージだって」
「スペシャルマッサージ・・・って、つまりは・・・」
宇宙は、このときになってようやく、スペシャルマッサージの意味を理解した。
つまり、スペシャルマッサージって、こういうエッチなマッサージのことなの??
うそ、うそ、うそぉぉぉーーーーー!
思わず絶叫してしまいそうなのを必死に堪え、頬を真っ赤にした宇宙が桜井を見つめる。
桜井はその視線を受けながら、ゆっくりと手を上下に揺らし始めた。
「あっ・・・あっ・・・」
「八時からご予約の春日様?」
宇宙の名前が呼ばれる。
営業時間は八時までなのに、どうして桜井さんは八時に予約を入れたんだろうか?
個室に案内されながら、宇宙は思った。
「ではここで、ガウンに着替えてお待ちください」
受付の女性が丁寧に言って、ドアを閉める。
宇宙はいつものようにハンガーに掛かっているガウンに着替え、白いシングルサイズのベッドに仰向けになった。
なんでだろう?
宇宙は、まだ悩んでいた。
他の個室からは次々と最後のお客さんたちが帰っていく音がしている。
この時間に個室に入る客など、誰もいない。
「桜井さん、人気があって指名が多いから、きっとこの時間しか予約が取れなかったんだ」
宇宙は、素直にそう思った。
「お待たせいたしました」
最後の客を見送った桜井が、ドアをノックして入ってきた。
「あの、桜井さん。すみません。時間外の予約だったんですね」
桜井の顔を見るなり、宇宙は起き上がって言った。
桜井は男らしい顔で笑って、ゆっくりと首を振る。
「そんなこと、気にしなくていいんですよ。それより、今日は特別なメニューがあるんですけど、試してみますか?」
腕から肩をマッサージしながら、桜井が言う。
「特別なメニューですか?」
宇宙は、桜井に身体をすっかり預けながら不思議そうな顔をした。
「スペシャルマッサージと言って、特別なお客様限定のメニューなんです」
「特別なお客様限定?」
なんだかとっても、いい響きである。
特別なお客様っていうところがいいなー。
「どうなさいますか?スペシャルマッサージ、やってみます?料金は前回と同じですから、ご心配なく・・・」
「あっ、そうなんですか。じゃあ・・・お願いします」
宇宙は、スペシャルマッサージというものがどんなものであるか、まったく知らないままOKの返事をした。
きっと今まで以上に、すっごく気持ちよくリラックスできる、そんなマッサージに違いない。
すると桜井は、肩と首のマッサージをやめて、宇宙が着ているガウンの紐を解いていった。
紐が解かれ、あっという間に宇宙の上半身があらわになる。
買ったばかりのトランクスは、チェック柄だった。
「あっ・・・あの?・・・」
宇宙は、どうして桜井がガウンの紐を解いたのか分からなかった。
不思議そうな顔をしたまま、桜井の次の行動を見守る。
桜井は、興味津々な宇宙の視線の中、思わず行動に出た。
なんと、トランクスまで一気に脱がせてしまったのだ。
「き、きゃっ!」
女のような悲鳴を上げて、宇宙が露出した股間を両手で隠す。
膝まで一気に脱がされたトランクスをなんとか片手で引きあげようとしたが、桜井がそれを阻止した。
「ダメです。裸にならないとスペシャルマッサージを受けることはできませんよ」
「で、でも・・・」
不安げな顔で、宇宙が股間を両手で覆い隠す。
それでも宇宙には、スペシャルマッサージというものがどういうものなのか、まったく見当もつかなかった。
どうして裸になるんだろう?
しかもトランクスまで脱がされちゃって。
こんな真っ裸状態でマッサージを受けるなんて。
いったい、どんなマッサージなんだ?
宇宙は顔を真っ赤にしたまま、さまざまなことを考えていた。
だが、どうしても答えが見つからない。
そんな宇宙を優しく見守っていた桜井は、手の中にたっぷりとマッサージオイルを落とした。
そしてその手で、裸になった宇宙の上半身をゆっくりと摩り、手のひらと指先でマッサージをしていく。
「何も心配しなくていいですよ。いつものようにリラックスして・・・身体中から力を抜いてください」
桜井にそう言われたものの、こんな状態ではなかなかリラックスなどできない。
確かにいつものマッサージとは違って、生温かいヌルヌルとした感触がとても気持ちいいけど。
でもなんだか、桜井さんの手のひらや指先が首筋や乳首に触れるたびに、変な気分になってきてしまう。
エステでオイルマッサージをしてもらっている女性のような感じだけど、でもなんだかちょっと違うような・・・・・・。
「・・・あっ・・・」
宇宙は、考えるよりも早く、声を上げてベッドの上でのけ反った。
桜井のオイルがたっぷりと付着した指先が、乳首をきつく摘んだためであった。
「痛いですか?」
すぐに桜井が聞いてくる。
宇宙は、真っ赤な顔で股間を隠しながら、無言のまま首を横に振った。
痛いんじゃなくて、気持ちよかったからつい声を上げてしまったなんて、とても言えない。
「では・・・気持ちがいいということですか?」
桜井が、クスクスッと笑いながら宇宙の耳元で聞いた。
その声があまりに近かったことに驚き、宇宙が瞑っていた目をあけた。
するとすぐ目の前に、桜井の男らしく整った顔があった。
反町に似ている、セクシーで甘いマスクがあるのだ。
しかも唇なんて、ちょっと顔をずらせばキスできちゃいそうな距離だった。
うそぉぉーーーーーー!
宇宙は、心の中で驚きの声を上げていた。
「もう少し、気持ちよくなりたいですか?」
桜井が、宇宙の頬に唇を近づけて甘い声で囁く。
宇宙は、触れるか触れないかぐらいにかすかな桜井の唇の感触に、頭の中がクラクラしてきた。
予約を入れた金曜日がやってきた。
どれほど、この日を待ち望んだことか。
こんなに一週間が長いなんて初めてだった。
もう少しで桜井さんに会える。
桜井さんのマッサージを受けることができる。
そう思うと、学校でのつらいことや苦しいことも難なく耐えることができた。
問題児の国ちゃんのことも、それほど気にならなくなったのだ。
人間は十人十色さまざまなのだから、いろいろな性格があっていいのだ。
おとなしい子もいれば、わけもなく騒ぐ子もいる。
大人びた子もいれば、まだまだ幼稚園がお似合いの子もいる。
国ちゃんだって、よく見るとなかなか可愛いじゃないか。
それに国ちゃんが騒がなかったら、きっとこのクラスはどんよりとした暗いクラスになっていたかもしれない。
国ちゃんがいるから、いつも笑いが絶えないクラスになっているのだ。
まぁ、他の先生方からの苦情は変わらないが、それは僕自身が受け止めていればいいことなんだ。
怒られたからといって、苦情を言われたからといって、悩むことなんて何もない。
宇宙は、この一週間、いつもそう思えるようになっていた。
「何か、明るくなりましたね。いいことでもあったんですか?」
教師たちが宇宙の顔を見るたびにそんなことを聞いてくる。
そのたびに宇宙は、「はい、ちょっと」とだけ答えて、一人で桜井のことを思い出していた。
あのステキな笑顔。
低くて穏やかな声。
そして巧みな指技。
あぁぁ・・・、今日もあの指でマッサージされるのかと思うと、それだけで身体が宙に浮いてしまいそうである。
放課後、宇宙は子供たちを見送ると、急いで職員室に戻った。
そして明日の準備を慌ただしく整えていく。
すべてが終わり、時計を見ると六時を少し回ったところだった。
「急いでアパートに戻って、それからシャワーを浴びれば八時に間に合う。よしっ」
宇宙は気合いを入れて席から立った。
「あれ?春日先生、もうお帰りですか?」
「はいっ。お先に失礼しますっ」
挨拶もそこそこに、宇宙は急いで職員室を出る。
「今日はちゃんとシャワーを浴びて、身体を綺麗にしていくんだ。いつも汗臭いから・・・」
宇宙は嬉しそうにそう呟きながら、帰路を急いだ。
どうしてマッサージに行くのにシャワーを浴びなければいけないんだろうかと、我に返って一瞬考えた宇宙だったが、『桜井さんに会えるから』と自分自身に言い聞かせていた。
特に念入りに身体は洗っておこうっと。
宇宙は、揺れる電車の中で顔を真っ赤にしながら、さまざまなことを考えていた。
そしてアパートに戻り急いでシャワーを浴びた宇宙は、先日購入したばかりの真新しい紺のブレザーをノーネクタイの薄いピンク色のワイシャツの上に羽織った。
スラックスも紺色で、ソックスは白。
髪を梳かし、下着も新しいものを穿いたし、店員に勧められるがままに買ったブルガリのオードトワレも仕上げに首筋につけた。
柑橘系の爽やかな匂いが、狭いアパートの中に充満する。
「よし、完璧♡」宇宙は上半身を鏡で映して見てから、満足げに頷いた。
そしてアパートを出て、桜井がいるマッサージ店を目指す。
「待っててくださいね。桜井さん♡」
宇宙はこのとき、どうしてこんなに自分の気持ちが高まっているのか、まったく考えていなかった。
ただ今は、少しでも早く桜井に会いたいと思っていた。
普通、こういうところではお尻の蕾なんてマッサージはしない。
歌舞伎町にあるような、怪しい個室マッサージ店は別だが・・・・・。
だが素直で純朴で人を疑うことなどまったく知らない宇宙は、すっかりその言葉を信じてしまっていた。
なんだ、そうなのか。
みんなやってもらっているのか。
みんなやってもらっているんだったら、恥ずかしがることなんてないじゃん。
病院に行って、人間ドックに入っているようなものだと思えばいいんだ。
お尻からチューブを挿入して、腸の中を診てもらっていると思えばいいんだ。
あっ、そうか。
今気づいたけど、だから個室なんだ。
こういう恥ずかしい部分もマッサージしてもらうから、個室なんだ。
そうだと分かったら、なんだか余計に感じてきちゃった。
あぁぁぁーーーーーんっ、どうしよう。
ガウンの上からだって分かってるけど、なんだか指が直接蕾の中の入っているような感じがして、弄られているそこがじっとりしてきたみたいで、もうどうしていいのか分からない。
でも、みんな同じようなことをされているなら、このままじっとしていたほうがいいのかもしれない。
桜井さんに、すべて任せて・・・・・。
宇宙はそう思いながら、身体中から余計な力を抜いていった。
すると、蕾をマッサージしていた桜井の指が、もっと深くガウンや下着ごと内部に入ってくるのが分かる。
しかも、マッサージのおかげで柔らかくほぐれているせいか、まったく痛くないのだ。
「あんっ!」
宇宙は、指が内部に入っているような感触よりも、苦痛を伴わないことに驚いていた。
普通、こういう場所に異物を挿入したらとても痛そうな気がするのに。
でも、さすがに恥ずかしい。
「さ、桜井さんっ!」
宇宙は思わず声を上げて、後ろを振り返った。
すると桜井の優しい瞳とかち合い、顔を真っ赤にしてしまう。
「だいぶ・・・・・ほぐれてきましたね」
「あっ・・・はい・・・。もうほぐれすぎちゃって・・・あっ・・・んっ・・・」
どうしても喘ぎ声になってしまう。
宇宙は、泣きたいような心境になった。
きっとこんな声を上げて身悶えているのは自分だけなのだろうと思うと、なんだかとても情けなくなってくる。
桜井を指名して、自分の順番が回ってくるのを待っている客はたくさんいるのに。
あぁぁーーーーーもう。
「さてと、今日はもういいですよ。だいぶ身体が柔らかくなったようですから。次は来週の金曜日に来てください。予約は8時からでいいですか?」
と、桜井が宇宙の背中から腰をパンパンッと軽く叩いて言う。
宇宙は、いつの間に蕾から指を離したのかと不思議に思いながら「は、はい」と可愛い声で返事をした。
桜井の話などもう耳に届かないくらい、蕾も下半身もフニャフニャ状態だった。
「では、支度をしてください。私は次の予約が入っていますのでこれで失礼します」
「は・・・はい・・・。ありがとうございます」
「では、来週お待ちしております」
と言った桜井は、極上の微笑みを残して部屋を出ていく。
狭い個室の中に取り残された宇宙は、しばらくの間立つことができなかった。
腰にはどうしても力が入らないのだ。
やっと立っても、足がフラフラして頭の中も真っ白だった。
しかも、分身は想像どおり勃起し白い体液を漏らしていたのだ。
下着の中は、自分の放ったものですっかり濡れてしまっていた。
「いつの間に・・・?」
呆れ果てたように宇宙が呟く。
きっと蕾をマッサージされている最中なのだろうか、いつこんなことになったのかはっきりとは覚えていなかった。
あまりにも気持ちよくて、初めての体験で、もうどうにでもしてって感じである。
宇宙は、体液を放ったにもかかわらずまだ元気なままの自身を恨めしそうに見下ろすと、ゆっくりとスーツに着替えていった。
「肩から腰にかけて・・・揉んでいきますね」
「・・・はい」
桜井の指が、肩と首の凝りをほぐしていく。
ツボを心得た桜井の魔法の指は、宇宙の心と身体をほぐし癒していった。
「・・・んっ・・・そこっ・・・」
「痛い?」
「・・・そうじゃなくて・・・気持ちよくて・・・癖になりそう・・・んっ・・・」
「癖になってください」
桜井が、クスッと笑いながら腰のツボを指圧する。
ベッドの上に上がり宇宙を跨いでいる桜井は、腰からお尻のほうへ指をずらしていった。
「あっ・・・ぁっ・・・」
お尻の割れ目の辺りまで指圧が来ると、宇宙はもう声を押し殺していることができなかった。
恥ずかしさと気持ちよさと痛さが入り混じった感覚が、宇宙の脳を支配していく。
「あっ・・・」
突然、桜井は宇宙のお尻を両手で掴んだ。
「こうしてお尻を掴んだときに小指に当たる・・・ここ・・・。こうして指圧してあげるととっても気持ちいいでしょう?」
ムンズッと可愛いお尻を掴んだ後、桜井は割れ目から少し離れたところを指圧しながら言った。
「あんっ・・・気持ち・・・いい・・・」
確かに気持ちいい。
もう下半身がフニャフニャになってしまうくらいお尻を指圧されると気持ちいいのだ。
しかも、指圧している指がどんどん割れ目のほうに向かって動いていく。
このままいったら、恥ずかしい部分に指が触れることになってしまう。
「あっ・・・あの・・・」
いくら下着やガウンを着ていても、お尻の中心を桜井の指が指圧すると考えただけで、今にもイッてしまいそうなくらい興奮した。
「そ、そこは・・・っ」
桜井の指がお尻の割れ目の中に入ってしまう。
その瞬間、宇宙は思わず顔を上げ息を殺した。
「ここも実はツボなんですよ。便秘によく効くツボ・・・」
と言って、割れ目の奥の柔らかな部分を両方の親指で指圧していく。
「あっ・・・でも・・・そこは・・・んっ・・・」
すっかり喘いでしまっている宇宙のことなどお構いなしで、桜井の指は容赦なく蕾を指圧した。
絶妙な指の動きと力加減で指圧された蕾は、すぐに柔らかくほぐれていく。
まるでマシュマロのように、フニャフニャになっていくのが分かるのだ。
しかも、とろとろに溶け始めている。
そのこと自体は、本人は分かっていないようだったが・・・・・・・。
「あんっ・・・桜井さんっ・・・。そこは・・・だめぇ・・・」
宇宙が、今にも果ててしまいそうな声を上げて首を振る。
それは今までの声とは違い、自分でも驚いてしまうような声だった。
「どうしてですか?少し、便秘ぎみでしょう?」
いや、そういうことじゃなくて、そんな敏感なところを指圧されて揉みほぐされたら、変な気分になっちゃうよ。
ただでさえ変態男なのに、これ以上変態男になってしまうのは・・・・・。
ああーん、だからだめだってぇぇーーーーー。
宇宙が恥じらっていると、桜井はクスッと笑いながら言った。
「大丈夫ですよ。皆さん、ここもマッサージしてますから」
桜井が言ったことは、もちろん大嘘だった。