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東京スペシャルナイト 上 36

「あぁ・・・」

 

もっと深く、遼一自身が入ってくる。

 

ウルトラスペシャルマッサージの指の感触とは、全然違う圧迫感が宇宙の五感を刺激する。

 

「あぁぁぁ・・・あっ・・・」

 

だが不思議と、あんなに太くて硬いモノが入っているというのに、苦痛は感じなかった。

 

蕾の入り口が少し、引き攣るような感じがするだけだった。

 

「り・・・遼一・・・もう・・・・・」

 

まだ半分しか入っていないのに、宇宙がもうだめだと訴える。

 

遼一は、自身をのみ込んでいる蕾の様子を見るために視線を落とした。

 

蕾の襞は、目いっぱい開いていた。

 

濃い朱色になって、巨大な遼一自身を受け止めている。

 

遼一は、再び宇宙の顔に視線を戻すと、右手で宇宙の分身をやんわりと掴んだ。

 

「大丈夫・・・。まだ・・・こうすれば入るから」

 

「だ、だめぇぇ・・・あぁぁ・・・・・」

 

遼一の右手が腹の間で器用に動き、先走りを滴らせている分身を可愛がっていく。

 

すると、目いっぱいだった蕾に変化が現れた。

 

「あんっ・・・あんっ・・・遼一・・・」

 

遼一の指が宇宙の自身を絡めて愛撫すればするほど、蕾が和らぎ緩みが生まれていく。

 

その緩みに乗じて、遼一はもっと深く自身を挿入していく。

 

「あっ・・・あっ・・・あぁぁ・・・っ」

 

宇宙はもう、喘ぎ声しか上げられなかった。

 

もういっぱいいっぱいだと思った部分に、まだ遼一自身が入ってくる。

 

そしてそれは根元まで収まり、ようやく腰の動きが止まった。

 

「あぁぁぁーん・・・。遼一・・・僕の中が・・・壊れちゃう・・・」

 

巨根を根元までのみ込んだ宇宙の口から思わず出た言葉だった。

 

もう、本当に目いっぱいで、内部には寸分の隙間もなかった。

 

「う、動いちゃ・・・いやっ・・・」

 

首を激しく振って、宇宙が喘ぐ。

 

だが遼一はその言葉に反するように、一度唇を激しく塞いだ。

 

宇宙の中に芽生えた抵抗心を根こそぎ吸い取ってしまうかのような激しいディープキス。

 

「んっ・・・んっ・・・はぁ・・・・」

 

口端からまた、飲み込めない唾液が滴り落ちていく。

 

「いい子だから、おとなしくしていなさい」

 

遼一は、長いディープキスから宇宙を解き放つと、そう言って腰を引いた。

 

ズルッ・・・という感触とともに、巨根が宇宙の中で動き出す。

 

「あっ・・・はぁぁ・・・・・・・」

 

腰が自然と、浮いてしまう。

 

遼一の腰がどんどん離れていく。

 

「あっ・・・あっ・・・」

 

遼一の巨根も、ズルッと蕾から引き抜かれていく。

 

もう隙間もないし、このままじゃまったく動けないと思ったのは間違いで、遼一が動こうと思えば分身は狭い蕾の中で動くことができた。

 

それは、遼一の分身の先端から出ていた先走りも、動く手助けをしていたが、宇宙の蕾の内部が自然と潤っていたからだ。

 

宇宙は自分でも気づかなかったが、スペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージのおかげで快感に柔順で、すぐに新しい快楽に順応できる身体になっていたのだ。

 

それが証拠に、遼一がほんの少し動いただけなのに、宇宙の奥のほうからじんわりと熱く濡れてきたのだ。

 

まるで名器を所有する、女性のような蕾を宇宙は持っていた。

 

「宇宙・・・。お前って子は・・・」

 

そのことに驚いたのは遼一だった。

 

「あっ・・・あん・・・遼一・・・あっ・・・」

 

抱かれる側である女性でもこんなに早く順応できないし、快感として受け止められないのに。

 

宇宙はもう、肉棒の抜き差しという行為を今までに味わったことのない快感として受け止めていた。

 

「あぁぁ・・・僕の・・・ 中が・・・あぁぁっ・・・」

 

遼一がゆっくり腰を揺らすと、クチュグチャッと淫らな音が聞こえてくる。

 

「あんっ・・・遼一っ・・・いやいや・・・」

 

指で弄っていた宇宙の分身は、いつの間にか絶頂の証を腹の上に放っていた。

 

遼一は、淫らで可愛いピクピク痙攣しているその分身を、お仕置きするかのように爪の先で引っ掻く。

 

「あぁぁ・・・っ!」

 

すると宇宙の腰がビクンッと跳ね上がり、自分から遼一の分身を根元までのみ込んでいく。

 

自然と濡れ始めている淫らな蕾の中はヌルヌル感が増してきて、もう余裕がないなんて言ってられなかった。

 

遼一の分身が、蕾の中で自由に動き回っている。

 

「りょ・・・遼一・・・だめっ・・・。そんな動いちゃ・・・ 動いちゃ・・・あぁぁ・・・・」

 

遼一の腰が、これ以上動かないように両脚で腰を挟んでしまう。

 

だがそんなことをしてもスムーズに動き出した遼一の腰を妨げることはできなかった。

 

宇宙が初めてなのに苦痛をまったく感じていないとわかると、ズンズンッと肉棒が蕾を犯していく。

 

「あっ・・・あんっ・・・動いちゃ・・・いやぁぁーーーーーーっ」

 

「いやと言われると、もっとしたくなる」

 

遼一が、宇宙の耳たぶをきつく噛みながら意地悪を呟く。

 

今までこんな言い方、しなかったのに。

 

今までの遼一ってもしかして、仮面かぶってたの!?

 

「遼一って・・・本当は意地悪だったの・・・?」

 

と、思わず聞いてしまう。

 

すると遼一は可愛いその質問に、クスッと笑ってから答えた。

 

「どうだろう?でももしそうだとしても、私をそう変えてしまったのは宇宙だよ。宇宙の犠牲的な愛情が私を変えたんだと思うよ」

 

「あっ・・・意地悪だけじゃない。なんか・・・命令口調で・・・支配的で・・・」

 

「そういうのは、嫌い?」

 

と、遼一がまた耳たぶを噛む。

 

「あんっ」

 

その刺激に、堪らず宇宙は大きく喘いだ。

 

さっきから腰も動いたままだし、もうこのままイッちゃいそうなのに耳を噛むなんて。

 

そのうえ、遼一の性格まで支配的に変わっちゃって。

 

もう、心も身体も蕩けちゃいそう。

 

ステキすぎる。

 

もうステキすぎちゃって、ああーん、どうしよう。

 

宇宙は、今までの優しく穏やかなだけの遼一も大好きだったが、今の王様のように自分に命令したり意地悪したりする遼一に何倍も魅力を感じた。

 

今までにない魅力を感じて、メロメロになっちゃいそうだった。

 

心がメロメロになってしまうと、身体ももっと感じてしまう。

 

「あっ・・・遼一っ・・・すごいっ・・・」

 

遼一の分身が、宇宙の内部でもっと強靭になっていく。

 

それが敏感に、宇宙に伝わっていた。

 

「あん・・・もうイッちゃう・・・・・ 」

 

と、宇宙が叫ぶ。

 

だが意地悪な性格に変身した遼一は、素直に宇宙を絶頂への世界へと導いてはやらなかった。

 

途中で腰の上下の動きを止めてしまう。

 

「あっ!あんっ・・・いやっ・・・遼一っ・・・」

 

「私は意地悪だから、ねっ」

 

「あ・・・あんっ。遼一ごめんなさい。もう意地悪だなんて言わないから・・・ 」

 

半分泣きながら、宇宙が縋りつく。

 

だがすっかり心も身体も強靭に生まれ変わった遼一は、そんな宇宙を簡単には許してやらなかった。

 

時間がないこんなときだからこそ、一時でも長く宇宙と繋がっていたい。

 

宇宙を感じていたい。

 

そして宇宙に、快感を与えてあげたい。

 

そんな思いも遼一にはあった。

 

いつ、亨の命令を受けた恭也やチンピラたちが乗り込んでくるか分からないのだ。

 

そして捕らえられ、何をされるか分からない。

 

先が見えないからこそ、遼一は今の時間を大切にしたかった。

 

本当に、宇宙が言ったとおり、このまま一緒に死んでもいいと思えるくらい、遼一は宇宙が愛しかった。

 

宇宙の何もかもが愛しかった。

 

涙や喘ぎ声や甘えるような仕草の一つまでも、愛しくてたまらない。

 

だからこそ、遼一は宇宙を守ってあげたいと初めて思った。

 

もう、流されるだけの自分ではない。

 

もう亨のいいなりになっている自分ではないのだ。

 

宇宙と巡り合い、愛し愛される喜びを知った遼一は、強靭な肉体と精神を持って生まれ変わっていた。

 

一度は宇宙のためにこの愛を諦めようと思い、亨の影に脅え、何もできなかった自分。

 

だがそれは間違いだと気づいた。

 

それは本当の自分ではないのだ。

 

飼い馴らされている今の自分は、本当の自分の姿じゃない。

 

そのことに気づかせてくれたのは、宇宙の一途な想いだった。

 

「遼一、遼一・・・。うえーんっ・・・もう意地悪なんて言わないから。ねぇ・・・お願い・・・イカせてぇぇ・・・」

 

宇宙は、焦れて暴れて遼一の下で泣いている。

 

もう、この後の二人の運命がどうなるかなんてことは宇宙の頭の中にはなかった。

 

今の宇宙は、愛する遼一が与えてくれる快楽に身を任せ、そして感じまくっているだけであった。

 

泣いている姿が、可愛くてたまらない。

 

「あーんっ、うぇーん・・・遼一・・・このままじゃ・・・死んじゃうぅ・・・」

 

甘える姿が、愛しくてたまらない。

 

「遼一・・・もう・・・なんでもするから、遼一の言うことなら何でも聞くから。お願いぃぃ・・・・・」

 

焦れて、自分から腰を揺する姿がいじらしくてたまらない。

 

そして、絶頂感を迎えたいと泣いて縋りつく宇宙が、好きで好きでたまらない。

 

「しょうがないな。そんなに言うんだったら、イカせてあげようか?」

 

自分の中の何かが変わったことに気づきながら、遼一は腰を揺らし始める。

 

「あっ・・・あんっ・・・遼ちゃん・・・いいっ・・・。遼ちゃん・・・お願いだからそのままにしてぇ・・・・・」

 

わけが分からなくなっているのか、限界なのか、遼ちゃんと舌ったらずな口調で言っては泣きじゃくる。

 

「遼ちゃーん・・・僕もう・・・あぁぁぁ・・・・・・・」

 

ひときわ色っぽい喘ぎ声を上げながら、宇宙が泣く。

 

目をキュッと瞑ったその顔が可愛くて、淫らで、遼一自身もたまらなくなった。

 

このままイカせてあげようか。

 

それとももっと焦らせてやろうか。

 

そんな考えが遼一の頭の中に浮かんでは消える。

 

遼一自身ももう限界だったが、宇宙のあまりの可愛らしさに迷っていた。

 

その一瞬の迷いが、後で遼一を後悔させることになる。

 

「遼ちゃーん・・・あぁぁぁーーーーーーっ」

 

宇宙が、一足先に蕾で絶頂を迎える。

 

それはもう、遼一では止めるこのできない絶頂だった。

 

ピクピクッと脚の指を痙攣させ、途切れることのない喘ぎ声を上げながら気を失いそうな絶頂を味わっている宇宙は、もう息も絶え絶えだった。

 

「り・・・遼・・・遼一・・・・・・・」

 

意識を失いかけながら、遼一の名を呼ぶ。

 

遼一はそれに応えるように、自らも頂点に達しようと腰を揺らす。

 

そのときだった。

 

鍵をかけたはずの部屋のドアがいきなり開き、数人のチンピラたちがドカドカと入ってきた。

 

そのチンピラたちの中には、恭也の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 35

ベッドに宇宙の身体を押し倒した桜井は、無我夢中で宇宙の身体を愛撫した。

 

仰向けで寝ている宇宙の両脚を性急に割り開くと、そのまま顔を埋めていく。

 

「あっ・・・桜井さん・・・あぁ・・・・・」

 

桜井の舌と唇が、ピクッと震えている分身を再び激しく愛撫していく。

 

「あっ・・・あっ・・・あっ・・・・・」

 

遠慮のない、激しい桜井の愛撫。

 

宇宙の何もかもすべてを自分のものにするような狂おしい愛撫。

 

「あっ・・・あっ・・・だめぇ・・・あぁぁーーーーーーーっ」

 

宇宙は、そんな愛撫に追い上げられるようにして頂点へと達していた。

 

桜井の口中に、宇宙の体液が迸っているのが分かる。

 

「あっ・・・・・あっ・・・・・」

 

途切れ途切れの、宇宙の喘ぎ声。

 

その声に合わせるように、桜井が宇宙が放ったものを飲み干していく。

 

宇宙は絶頂期の余韻の中、ただ必死に首を左右に振っているしかなかった。

 

何も考えられない。

 

何もできない。

 

もう、もうーーーーーー。

 

あまりの気持ちよさに、気が遠くなっていくのが分かる。

 

宇宙は自分で意識が遠のくのを、唇を噛むようにしてくい止めた。

 

すると桜井がそれに気づき、そっと唇に指先で触れる。

 

「そんなにしたら、唇が切れてしまいますよ」

 

やんわりと包み込むような優しい声だった。

 

まだ快感の余韻の中をさまよっていた宇宙が、うっすらと目をあける。

 

そこには、優しく微笑む桜井の姿があった。

 

その姿があまりにも凛々しくて美しくて、そして男らしくて、宇宙は涙が出そうになってしまった。

 

今まで出会ったどんな男より、かっこいい。

 

優しさの中にも威厳や品というものがあって、決してヤクザまがいの男に囲われているようには見えない。

 

やっぱり、桜井さんは僕が助けてあげなくちゃいけない。

 

今のままじゃ、絶対にだめだ。

 

僕がなんとしても、桜井さんを今の囲われ者の立場から救ってやるっ。

 

宇宙は涙を流しながら、心の中でそう思った。

 

不思議と恐怖や戦慄といった感情はなかった。

 

あのチンピラたちと闘わなければいけないかもしれないというのに。

 

いいや、闘う前にやられちゃうかもしれないのに。

 

それなのに、今の宇宙にはいっさいの恐怖心はなかった。

 

それどころか、とても充実している。

 

なんだろう、この幸せは。

 

どうしてこんなときにこんなに幸せな気持ちになれるんだろう。

 

もしかしたら、明日仲よく死んじゃってるかもしれないのに。

 

「僕・・・・・今・・・・・このまま死んでもいいと思った」

 

宇宙は、桜井の首に腕を回して引き寄せるようにして耳元で囁いた。

 

その囁きが、ゾクリとするくらい色っぽくて可愛くて、桜井の心を鷲掴みにした。

 

首に回っている宇宙の腕が、愛していると伝えてくる。

 

見上げる熱い眼差しが、本気だと訴えている。

 

かすかに震える唇が、愛していると告げている。

 

桜井は、そんな宇宙の想いのすべてを受け止めるように、きつく身体を抱きしめた。

 

「桜井さん・・・」

 

「こんなときぐらい、遼一って呼んでほしいんですけど・・・」

 

少し間を置いてから、耳元で宇宙が囁く。

 

「だったら、遼一もこんなときぐらい他人行儀なしゃべり方はやめてよ。僕はもうお店の客じゃないんだから。遼一の恋人なんだから・・・」

 

と言って、宇宙が耳たぶを軽く噛む。

 

その感触がゾクリとするくらい感じてしまう。

 

耳を軽く噛まれただけなのに、身体が溶けてしまいそうなくらい感じてしまうなんて。

 

このまま一緒に、ここで死んでしまってもいいと思うなんて。

 

桜井にとって、それは初めての感情だった。

 

「もう、離さないよ。ずっと・・・ずっと一緒にいよう」

 

「・・・うん。ずっと一緒・・・」

 

宇宙の目尻から、涙が一筋、耳に零れおちた。

 

「この先、たとえどんな運命が 待ち受けていても・・・私たちはずっと一緒だよ」

 

ギュッと宇宙の身体を抱きしめたまま桜井が力強く言う。

 

宇宙は嬉しくて嬉しくて、また涙を流してしまった。

 

「・・・うん、ずっと一緒・・・。もう・・・ 離れないっ」

 

桜井は狂おしく求めてくる宇宙に、激しいディープキスを与えた。

 

「・・・んっ・・・はぁ・・・・・」

 

噎せるような、激しいキス。

 

唾液が混じり合い、口端から滴り落ちるような淫らなキス。

 

だが宇宙はそんなキスが嬉しくてたまらない。

 

口中で混じり合う桜井の唾液が、愛しくてたまらない。

 

口端から流れ落ちる、唾液の一滴までもが愛しかった。

 

「・・・遼一・・・このまま遼一に抱かれたい・・・」

 

宇宙はそう言うのがやっとだった。

 

後はもう、言葉にならない。

 

言葉にならないくらい、遼一がすき。

 

遼一を愛してる。

 

「宇宙・・・ そのまま足を開いて・・・じっとしてて・・・」

 

遼一が、宇宙の蕾に指を這わせ、そに感触を確かめながら言った。

 

宇宙は言われたとおり、両脚を左右に大きく広げたまま、蕾の中に浸入してくる指を感じていた。

 

「あんっ・・・遼一っ・・・」

 

指が一本、半分まで入る。

 

「あぁぁ・・・・・」

 

そして、少しずつ進んだ指が全部宇宙の中に入る。

 

温かい蕾の内部は少しだけ濡れ、そしてまわりの肉壁が柔らかくほぐれていた。

 

以前のウルトラスペシャルマッサージのおかげかもしれないと、遼一は内心思った。

 

もう、遼一の分身を受け入れる準備ができているのだ。

 

遼一は、中を指の腹で弄るように動かしながら、宇宙の感度を確かめた。

 

「あんっ・・・ 遼一っ・・・だめ・・・」

 

と、宇宙が甘い声を上げ、枕の上でのけ反る。

 

その様子を見ていた遼一は、もう十分だろうと思い指を引き抜いた。

 

ヌルンッとした感触が、閉じていた宇宙の目を開かせる。

 

「遼一・・・」

 

「大丈夫。今、あげるから・・・」

 

と、優しく言って遼一が宇宙の脚を高く揚げる。

 

そして剥き出しになった蕾に、大きくなった遼一自身の先端を押し当てる。

 

遼一の分身も、もうすっかり濡れてしまっていた。

 

このまま入れてもあまり痛みはないかもしれない。

 

遼一はそう思いながら、少しだけ腰に力を入れた。

 

「あぁぁーんっ」

 

亀頭の先の部分が、少しだけ蕾に入る。

 

ヌルンッとして大きく開かれるような感触だけが、宇宙を覆っていた。

 

苦痛を感じている様子はない。

 

遼一は注意深く腰を進めると、もう少しだけ分身を挿入してみた。

 

「あんっ!」

 

明らかに、さっきとは違う声の喘ぎ声が上がる。

 

その声には、もっと奥へと誘うような、もっと強く訴えるような色香が漂っていた。

 

「このまま奥まで入れるよ。いい?」

 

丁寧な言葉遣いをやめた遼一が、宇宙の項に舌を這わせながら聞く。

 

宇宙は、大きく反り返るように喘いだまま『うん』と小さい声で返事をした。

 

すると、遼一の逞しい分身が、今度は狭い内部を押し開くように入り込んでくる。

 

「あっ・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

もっと大きく宇宙がのけ反る。

 

「もっと、深く入れるよ?」

 

と、遼一が耳の下の首筋を舐めながら囁く。

 

宇宙は、今度は返事ができなかった。

 

亀頭の部分がすっぽり入ったその感触に、喘ぐのに精いっぱいだったのだ。

 

「あうっ・・・あっ・・・くぅぅ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 34

初めての桜井の口からの愛撫は、今までのスペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージとは、全然比べものにならないくらい気持ちよかった。

 

確かにウルトラスペシャルマッサージも、初めての快感で何度も絶頂を極めたが、この口中の感触はまた別格だった。

 

ねっとりとしていて温かくて、のみ込まれていく分身が思わずフニャンとなってしまうくらい気持ちいいっ。

 

窄めた唇が亀頭部分を何度も責める。

 

そにたびに、宇宙は今にも果ててしまいそうな喘ぎ声を上げて腰を揺らしていた。

 

「あんっ・・・あぁ・・・・・」

 

根元を、キュッと指先で押さえた指の加減もちょうどいい。

 

「あぁぁ・・・あっ・・・あっ・・・・・」

 

桜井の頭がゆっくりと上下に揺れるたびに、クチャクチャと淫らな音がする。

 

「あんっ・・・桜井さん・・・だめぇぇ・・・・・」

 

桜井の舌先が、先端の割れ目に入る。

 

性感帯を直接触れられたようなその感触に、思わず宇宙の下半身がベッドから跳ね上がる。

 

「ああーん・・・っ」

 

口中の宇宙自身も、ピクピクッと震えている。

 

桜井は、もっともっと時間をかけて宇宙の分身の味を楽しみたかった。

 

だが、そうもしていられない。

 

恭也があのまま引き下がるとはとても思えなかったのだ。

 

きっと、手下のチンピラたちがこのホテルに入ったことを恭也に伝えているはずだ。

 

すぐに手下たちが乗り込んでこないことを不思議に思った桜井だったが、恭也の本意をすぐに見抜いていた。

 

自分の策略を成功させるために、宇宙との既成事実をつくろうとしているのだ、恭也は。

 

桜井に取って代わるためには、桜井が宇宙と結ばれることが必要だと思ったのだろう。

 

桜井が宇宙を抱いたと知ったら、亨はきっと怒り狂うだろう。

 

自分の手持ちの駒が勝手に動き、宇宙を愛するという裏切りを見せつけたのだ。

 

以前逃げ出そうとしたときのような拷問を受けるくらいでは、済まないかもしれない。

 

だがそれでも、桜井は宇宙を愛することを選んだ。

 

そして宇宙も、すべてを打ち明けた桜井を受け入れてくれた。

 

それでも桜井を愛すると言ってくれた。

 

もう、迷うことはなかった。

 

「もっと時間があれば・・・もっと感じさせてあげられるんですけど・・・」

 

桜井は少し残念そうに言いながらペチャッと分身の頭を舐める。

 

「あんっ」

 

その舌先の感触が、もう頭の中がフニャフニャになってしまうくらい気持ちよかった。

 

分身を愛する桜井に愛撫されているというだけでもどうにかなってしまいそうなのに、先端から滲み出ている先走りまで飲み込んでくれている。

 

ゴクンッと喉が鳴るのだから、それが分かる。

 

もう宇宙は、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。

 

こんなことなら、ベッドで裸になる前にシャワーを浴びればよかった。

 

だって、汚いのに、あんなとこ。

 

こんなに舐められるなんて思ってなかったから・・・。

 

「だめぇ・・・桜井さん・・・そんなにしないで・・・だめぇぇ・・・」

 

宇宙は、チューチューと音を立てて先端を吸う桜井の髪を指に絡めながら訴えた。

 

こんな強烈な愛撫を続けられていたらすぐにでもイッてしまう。

 

だが桜井にしてみれば、なるべく早く宇宙の精液を飲み干して、次の段階に進みたかった。

 

すぐにチンピラたちが乗り込んで来ないと分かっていても、やはり恭也の動きが気がかりだったのだ。

 

少ない時間の中で宇宙と濃密な時間を過ごしたい。

 

この先、どうなってしまうか分からないのだから。

 

自分の運命がまた大きく変わってしまうかもしれないのだから。

 

そう考えたとき、桜井の愛撫の動きが止まった。

 

なぜ気づかなかったのだろうか。

 

今、宇宙を抱いてしまったら、宇宙も自分と同じ運命を辿ることになってしまうかもしれないのだ。

 

今、宇宙を抱いてしまったら、きっと亨は許さない。

 

桜井以上に、宇宙を許さないだろう。

 

拷問されたり、海外に売り飛ばされてしまうのは、宇宙のほうかもしれない。

 

どうしてそのことにもっと早く気づかなかったのかっ!

 

宇宙を愛するあまり、盲目になってしまっていた。

 

宇宙を、裏の世界に引きずり込んではいけない。

 

今ならまだ被害を最小限でくい止めることができるかもしれない。

 

桜井は、そう思うと慌てて身を引いた。

 

急に止まってしまった愛撫に、宇宙が不思議そうな顔をする。

 

「・・・やめましょう。やっぱり、宇宙を引きずり込むわけにはいきません」

 

桜井はそう言って、宇宙の分身から指を離した。

 

宇宙は、愛撫がやんでしまったということよりも、桜井の気持ちが急変してしまったことを気にしていた。

 

そして慌てて、離れていく桜井の上半身に縋りつく。

 

「だめっ・・・。桜井さん・・・だめ。言ったでしょう、僕は桜井さんと運命共同体だって。桜井さんの過去を一緒に受け入れるって」

 

「だけど・・・宇宙。それはそう簡単なことじゃないんです。宇宙が思っている以上に苛酷な運命が私達を待っているかもしれないんですよ。宇宙は、もう二度と教師には戻れないかもしれない。両親や友人たちとも会えなくなってしまうかもしれない。だめです。やはりそんな危険な目には遭わせられない。宇宙が愛おしいばかりに、私は一瞬盲目になっていました。このまま宇宙を抱いていたら、大変なことになっていた・・・」

 

桜井は、宇宙をベッドに残し、床に下りて呟くように言った。

 

だが宇宙は決して諦めなかった。

 

桜井の腕や背中に縋りつく。

 

「どうして?どうして急にそんなことを言うの?」

 

宇宙の薄茶色の瞳には涙が溢れていた。

 

その瞳を振り返るようにして見つめ、桜井が言う。

 

「私のために、宇宙の人生を変えてしまうことはできません。宇宙は、教師という職業を愛しているんでしょう?今の人生を楽しんでいるんでしょう?」

 

と、桜井に問われ、宇宙は改めて自分の人生を振り返った。

 

振り返ってもなお、桜井が愛しかった。

 

今の生活を失ってしまうかもしれない恐怖はある。

 

だけど、そんなことはいつ誰にだって起こることなんだと宇宙は思った。

 

突然の事故に遭って死んでしまうことだってあるじゃないか。

 

突然宝くじに当たって、大金持ちになることだってある。

 

人生は何があるか分からないのだ。

 

それに、たとえ桜井のせいで自分の人生が百八十度変わってしまっても、決して桜井を恨んだりしない。

 

決して後悔したりしない。

 

決して今ここで桜井に抱かれたことを悔やんだりしない。

 

それだけは確信が持てた。

 

宇宙は桜井の広い背中に後ろから抱きついて、涙ながらに語った。

 

「今さら、どうして僕を捨てるの?ここまでついて来たのに、どうして今さら放り出すの?そっちのほうがずっと酷でしょ。ずっとひどいよ・・・」

 

宇宙は泣きながら、桜井の心に訴えるように語りかけた。

 

桜井の心が、また揺れる。

 

「桜井さんのためだったら、僕・・・どうなってもいいって本気で思ってる。桜井さんの苦しみを一緒に背負いたいって、本当に思ってる。それだけじゃだめ?ねぇ、僕を抱く理由にはならない?」

 

泣きじゃくりながら宇宙が言う。

 

桜井の心が、大きく揺れた。

 

もうだめだと思った。

 

せっかく、心を鬼にしたのに。

 

心を鬼にして、自分の欲望を抑えようとしたのに。

 

今の宇宙の言葉ですべてが消されてしまったのだ。

 

「・・・本当に・・・いいんですか?」

 

桜井は、振り返って宇宙の顎を掴んだ。

 

顎は涙で濡れていた。

 

「だから、さっきからいいって言っているじゃないっ。僕は桜井さんを愛することに命をかけるって・・・さっきからずっと言ってるじゃない」

 

少し怒ったような口調で宇宙は言った。

 

たまらなくなった桜井は、宇宙をギューッと抱きしめる。

 

どんな犠牲を払ってでも宇宙が欲しい。

 

どんな悲惨な運命が待ち受けていたとしても、宇宙が欲しい。

 

今すぐに。

 

桜井はもう迷わなかった。

 

恭也の策略にのったとしても、それがなんだというのだ。

 

互いに求め合っている二人が一つになるのに、理由なんていらなかった。

 

「宇宙、愛してます。今まで私は他人に対してこんな気持ちを抱いたことはありません。本当に・・・ 愛してます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 33

桜井の話は、教師として地道な人生を歩んできた宇宙にとって驚くべきものであった。

 

だがすべての話を聞き終えても、宇宙の桜井を思う心は全く変わっていなかった。

 

「そんな裏の世界があるなんて、映画の中だけなのかと思ってた」

 

それが宇宙の最初の言葉だった。

 

自由になりたいという自分の心に鍵をかけ、ひたすら自分を押し殺し、亨という男性の 命令に従い、いいように利用されてきた桜井の十年を思うと、宇宙は涙が溢れてきた。

 

どんなにつらくせつなく、口惜しい十年だっただろう。

 

だが桜井の『宇宙に出会わなければ、おそらくずっと亨の玩具としての人生を過ごしていたと思います』と言った言葉を聞いて、宇宙は涙がポロポロと零れてしまうのをこらえることができなかった。

 

自分と同じように、桜井も運命を感じてくれていたんだと思った。

 

そのことが全身が震えるくらいに嬉しかった。

 

だが同時に、まだ見たことのない亨という男性に対しての恐怖心も募っていく。

 

桜井ほどの男を十年近くも自分の思い通りにし、縛りつけてきた男。

 

父親が大物政治家かなんだか知らないけど、裏の世界と繋がっているのか知らないけど、一人の人間の人生をメチャクチャにする権利なんてないんだ。

 

しかも桜井は悪いことをしたのではなく、ぼったくりの店にたまたま入ってしまっただけじゃないか。

 

姿が格好よくて、男にしては凛々しい顔立ちをしていたからといって、金の力で自由を奪い取ってしまうなんて。

 

そんなの政治家じゃないっ!

 

ふざけるなっ!

 

宇宙は、泣きながら腹の底から湧き上がる怒りをどうすることもできなかった。

 

「桜井さんが悪いわけじゃないのに・・・。どうして・・・どうして?ひどい・・・あまりにもひどすぎるっ。その大物政治家って人も、その亨って人も、どうかしてる。桜井さんの人生をなんだと思ってるんだ」

 

まるで自分のことのように、宇宙は怒りをあらわにして怒鳴り散らした。

 

だが桜井が、怒りで震えるその唇をそっと唇で覆ってしまう。

 

「桜井さん・・・?」

 

「私のために怒ってくれてありがとう。普通なら、こんな浮世離れした話を聞いたら恐れを抱いて逃げ出すのに・・・宇宙は強い人なんですね。見かけはこんなに可愛いのに」

 

と、桜井がまたキスをする。

 

宇宙は、今度はその唇が逃げてしまわないように、首に腕を回してきつく引き寄せた。

 

「・・・・・んっ・・・ぅっ・・・・・」

 

巧みなディープキスが宇宙の怒りを剥いでいく。

 

だが宇宙の心の中の怒りは静まっても、悲しみは癒えなかった。

 

桜井がこの十年という間、どれほどつらく悲しい思いを抱いてきたか。

 

桜井を人形のように扱ってきた男たちも憎い。

 

だが、その憎しみや怒りよりも桜井がずっと一人で背負ってきた心の痛みのほうが宇宙にはつらかった。

 

自分と出会えてよかったと、桜井は言ってくれた。

 

亨という人に逆らい、自由を手に入れたいと決心をすることができたのも宇宙のおかげだと言ってくれた。

 

その言葉は嬉しい。

 

だけど、その言葉の裏に隠された桜井の苦しみを想像すると、素直には喜べなかった。

 

もうこうなったら、相手がどこの誰であろうと、この愛を勝ち取ってみせる。

 

どんな苦難が待ち受けていても、絶対に桜井を奪ってみせる。

 

自分を守るために、恭也というヤクザに命をかけて逆らった桜井。

 

そんな桜井を守ってあげられるのは自分しかないのだと、宇宙は長いディープキスを受けながら思っていた。

 

「・・・・・んっ・・・桜井さん・・・」

 

うっとりとした潤んだ瞳で、宇宙が桜井を呼ぶ。

 

桜井は、宇宙のスラックスのファスナーを下げ、下着を一気に踝まで引き下げながら薄い茶色の瞳を覗き込んだ。

 

「・・・本当にいいんですか?今日はスペシャルマッサージでもなく、ウルトラスペシャルマッサージでもなく、宇宙を抱くために脱がせているんですよ?」

 

と、桜井がうっとりするほど優しい声で聞いてくる。

 

すっかり裸同然にされた宇宙は、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら『うん』とだけ答えた。

 

「・・・本当にいいんですか?私はもう宇宙が欲しくて・・・たまりません。このまま本当に抱いてしまいますよ。いいんですね?」

 

自分の衣服を脱ぎながら、桜井が目を細めて確かめるようにもう一度聞く。

 

ベッドの上で仰向けで横になっている宇宙は、桜井の裸体を食い入るように見つめ、返事をするのも忘れていた。

 

そして、瞬きもしないで見つめる。

 

均整の取れたスマートな肉体は、余分な脂肪がいっさいなかった。

 

広い肩と厚い胸板。

 

肩から鎖骨の線がとても綺麗で、宇宙は思わず見とれていた。

 

腹筋にも筋肉がちゃんとついていて、しかも下半身の中心部分がものすごく逞しいのだ。

 

桜井の裸体を見るのはこれが二度目なのに、やっぱりときめいてしまう。

 

「・・・・・桜井さん」

 

宇宙は、逞しく頭を擡げている桜井自身を目の当たりにして、思わず目を伏せた。

 

自分の分身とはあまりにも違う桜井の分身は、まるで巨大な松茸のようだった。

 

プールに入ったあのときは、遊ぶのに一生懸命でまじまじと桜井の下半身を見ていなかった。

 

こんなに立派な松茸ちゃんがついていたなんて、知らなかった。

 

しかも、天に向かってニョキっと生えている。

 

「ぁぁ・・・桜井さん」

 

宇宙は桜井の松茸似の分身を見ただけで、もうメロメロ状態になってしまった。

 

今日はスペシャルマッサージでもウルトラスペシャルマッサージでもない。

 

抱くということは、やっぱり・・・・・。

 

なんだか、宇宙は急に幸せな気分になった。

 

さっきまでの桜井の気持ちを思ってせつなくなっていた自分が、一瞬どこかにいってしまう。

 

それぐらい桜井の分身には迫力があった。

 

「・・・でもその前に、やっぱりマッサージしてほしいですか?」

 

宇宙の唇に何度もキスを繰り返しながら桜井が聞く。

 

宇宙は、ウルトラスペシャルマッサージをしてほしいと思った。だが、今は少しでも早く桜井と一つにならなければならないと思った。

 

時間もないし、亨という男だっていつここを嗅ぎつけてくるかもしれない。

 

恭也って人を怒らせてしまったということは、危険が二人に迫っているということなのだ。

 

一刻の猶予もないのだ。

 

ウルトラスペシャルマッサージなんて、やっている場合じゃない。

 

「だめっ。マッサージなんてしている暇ないから。本当はしてほしいんだけど、でも今はすぐに桜井さんが欲しいから。今すぐに・・・」

 

宇宙はそう言って、桜井の胸に顔を埋めた。

 

大胆なことを言ったわりに、恥ずかしくて死にそうなのだ。

 

今すぐ欲しいなんて。

 

ああ、穴があったら入りたい。

 

いや、穴に入れてもらうほうなんだ、僕は。

 

そっか。

 

桜井さんの逞しい分身を、この前マッサージしてもらったあそこに入れてもらうほうなんだ。

 

などと一人でエッチなことを考えながら、宇宙は桜井の性急な愛撫を受けていた。

 

「あっ・・・桜井さんっ?」

 

いきなり乳首を吸われ、準備をしていなかった宇宙は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

だが桜井は時間がないことを身体で示すように、宇宙の左右の乳首を愛撫していった。

 

「あんっ・・・」

 

硬くなった乳首にわざと歯を立てる。

 

そしてそれを強く吸う。

 

「あぁぁ・・・・・・っ」

 

宇宙は、ベッドの上でシーツを掴んで淫らに喘いだ。

 

桜井に乳首を吸ってもらったのは、これが初めてだった。

 

今まではマッサージの中で、指で乳首を弄ってもらったことはある。

 

だけど乳首を吸ってもらうなんて、今までなかった。

 

「あっ・・・あっ・・・桜井さんっ」

 

桜井の唇が自分の乳首を吸っている。

 

吸っているだけじゃなくて、噛んでいる。

 

噛んでいるだけじゃなくて、舌先でクチュクチュしてるっ。

 

「本当は、ずっとこうしたかったんです。ここもこうして・・・・・」

 

と、言った桜井の唇が柔らかな首筋に触れ、きつく吸う。

 

「あんっ・・・」

 

吸った箇所には朱色のキスマークが残った。

 

「宇宙の身体中に・・・こうしてキスマークをつけたいと思ってました。ここも・・・ここも・・・」

 

と、しっとりと囁き続ける桜井の唇が次第に下のほうへ降りていく。

 

再び乳首に触れ、十分に愛撫し、そして下腹部へと下がっていく。

 

そして少し焦らすように可愛い宇宙自身をやんわりと掴み、二、三度上下に揺らす。

 

「あっ・・・あっ・・・だめぇ・・・・・」

 

自然と声が上ずってしまう。

 

これから自身が口で愛撫されるという喜びと期待と、少しばかりの恥ずかしさが入り交じったような喘ぎ声だった。

 

桜井の頭がゆっくりと宇宙の股間に蹲る。

 

「・・・・・ん・・・あっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 32

桜井と宇宙が入ったのは、場末の安いラブホテルだった。

 

どこでもいい。

 

とにかく今は二人だけになりたかった。

 

話したいことがたくさんある。

 

だけど、時間がない。

 

それは桜井だけでなく、宇宙も直感で感じ取っていた。

 

小さな部屋にダブルサイズのベッドが一つ。

 

そして小さな冷蔵庫と小さなテレビ。

 

そしてユニットバスとトイレがあるだけの部屋だったが、今の二人にはそれだけでも十分だった。

 

「何から話したらいいのだろうか」

 

ベッドに腰を下ろした桜井は、隣に宇宙を座らせてそう言った。

 

先ほど、ヤクザのような男に啖呵をきっていたときの桜井とは全く別人のように、優しい声だった。

 

自分を見つめる眼差しも、優しさと慈愛に満ちている。

 

とても同じ人物のようには見えなかったが、目の前にいる桜井こそが本当の桜井だと宇宙は信じていた。

 

桜井があのとき、あのヤクザのような男に挑んでいなかったら、きっと自分は攫われていた。

 

いや、自分だけじゃない。

 

桜井だって捕らえられていたかもしれないのだ。

 

黒いスーツ姿のヤクザ風の男には見覚えはなかったが、この前のチンピラたちと繋がっていることは一目瞭然だった。

 

なぜ桜井さんは縛られているのだろうか?

 

あんなヤクザのような男たちに。

 

それにあの男が言っていた、亨様っていったい誰なんだろうか?

 

宇宙は、桜井に安物のスーツを脱がされながら、ずっとそんなことを考えていた。

 

「最初から・・・全部話して。僕は何を聞いても驚かないから。もう・・・あなたから離れないって決めたから」

 

宇宙は上半身裸にされると、桜井の首に抱きつきながら言った。

 

桜井が、そんな宇宙をそっとベッドの白いシーツの上に押し倒す。

 

「宇宙が想像している私とは、全然違うんです。私は宇宙が思っているような人間じゃない」

 

そう言った桜井の顔は、悲しみとせつなさが入り交じったような表情をしていた。

 

十年間というもの不当な扱いを受け、それに耐え忍んできた苦悶の表情だった。

 

だが宇宙には分からない。

 

なぜ桜井が、そんな苦汁を飲まされたような表情をしているのか。

 

宇宙は、そっと桜井の前髪に指を絡めた。

 

「あの恭也という人は、どういう人なの?桜井さんの過去にいったい何があったというの?」

 

宇宙が、同じようにせつなそうな顔をして聞く。

 

すると桜井は、宇宙の薄茶色の瞳をじっと見下ろしながら顔にかかる髪を指で弄った。

 

「私の話を聞いたら、私を嫌いになってしまうかもしれない」

 

唇にそっとキスをして、桜井が不安げな声で言う。

 

宇宙はすぐに首を振って、その言葉を否定した。

 

「ううん、そんなことは絶対にないから。僕はどんな話を聞いても桜井さんを嫌いになったりしないから。桜井さんを命をかけて愛するって決めたんだから。だからお願い話して。ねっ?」

 

いつになく、不安げな桜井の声。

 

そして細められた瞳。

 

いつもの自信に満ちていて優しく穏やかな桜井からは想像もできない姿だった。

 

きっと、とんでもない不幸が桜井の過去にあったのだ。

 

今まで気づかなかったけど、考えてみれば桜井ほどの男がただのマッサージ師でいることも不思議だった。

 

エリートサラリーマンとか、青年実業家とか、桜井が望めば思いのままのはずなのに。

 

どうしてマッサージ師という職業に縛られているのだろうか。

 

もしかしたら、スペシャルマッサージとかウルトラスペシャルマッサージも、その辺に関係があるのかもしれない。

 

宇宙は、何を聞いても決して自分の気持ちは変わらないという固い決心を抱いて、桜井の話に耳を傾けた。

 

「話は、約十年前に遡ります・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 31

「紅林組の例の息子は、まだ見つからないのか?」

 

藤堂組四代目である藤堂弘也は、車中で桜庭健一に思い出したように聞いた。

 

いつもは恋人の三原真琴が隣に座っているのだが、今夜は政則と一緒に映画を観に行っていた。

 

真琴の特等席に座っている藤堂の右腕である桜庭は、クールな横顔のまま答えた。

 

「今、手の者たちに探させています。もうしばらく時間をください。二十五年も前の話ですし、愛人であった母親は失踪した直後に死亡。その三歳だった子供は親戚をたらい回しにされ、その後養子に出されているところまでは調べたのですが・・・」

 

藤堂は、高級外車の後部座席にゆったりと上体を預けながら桜庭の報告を聞いていた。

 

「今、生きていれば二十八歳ぐらいか?」

 

「はい。生きていれば・・・ですが」

 

と、答えて桜庭は藤堂を見た。

 

黒髪をオールバックで固め、オートクチュールの紺色のスーツを格好よく着こなしている藤堂は、紅林組の組長に頭を下げられたときのことを思い出していた。

 

紅林組には跡取りがいた。

 

だが組同士の抗争に巻き込まれ、命を落としてしまったのだ。

 

紅林組の組長には跡取りがいない、と思っていたが、実はもう一人いた。

 

愛人に息子が生まれたのだが、正妻の恨みを買うのが恐ろしくて認知しなかったというのだ。

 

金は仕送りしていたものの、組長は正妻の嫉妬を恐れて子供に会うことを避けていた。

 

ある日、愛人が子供とともにマンションから消えてしまい、それから二十五年間、二人の行方は不明だった。

 

紅林組の組長は、その愛人の子供に跡を継がせたいと藤堂に申し出た。

 

藤堂は最初、その提案を拒否した。

 

紅林組は藤堂組の傘下にあり、幹部から若い手下たちを合わせると百人を超える巨大な組織だった。

 

その紅林組を、自分の素性を知らないただの素人に任せるというのだ。

 

「私は、あの子の運の強さを信じたいんです。あの子の、修羅の魂を・・・」

 

年老いた組長はそう言って、藤堂に深々と頭を下げた。

 

そんな組長を見て、藤堂はもう反対する気にはならなかった。

 

修羅の魂というものに賭けてみようと思ったのだ。

 

修羅の子はどこにいてどんな育ち方をしていようと、必ず修羅になる。

 

承諾した藤堂は、紅林組の組長に一つだけ条件を出した。

 

それは、その者が紅林組を引き継ぐ素質があるかどうかを藤堂が直に見極めるということだった。

 

そのためにも、愛人の息子を探し出さなければならない。

 

藤堂の全国にクモの糸のように広がる情報網は、警察と肩を並べるほど巨大な組織だった。

 

その組織が動いている。

 

見つかるのは時間の問題だった。

 

「本気で組の跡を継がせるおつもりですか?」

 

ダークグレーのスーツを着ている桜庭が、何も言わずに煙草を吸っている藤堂に向かって聞いた。

 

「いけないか?」

 

「いえ、藤堂四代目がなさることには誰も文句は言いません。ただ、その者にこの現実を受け入れられるのかが問題だと思います。恐らく、一般人として育っているのでしょうから」

 

と、桜庭が言うと、藤堂は前を向き直ってから口を開いた。

 

「真琴も一般人だったが、今では幹部の上をいくときがある。そうだろう?」

 

藤堂の言葉に、桜庭は納得するように頭を下げた。

 

「はい、そのとおりです。その者、早急に探し出します」

 

「ああ。そうしてくれ」

 

藤堂は短く答えると、その後は何も喋らなくなった。

 

瞼を閉じ、何かを考えているようである。

 

桜庭も、藤堂組にとっても重要である紅林組の跡取りがどういう人物なのか頭の中でいろいろと想像を巡らしていた。

 

二人を乗せた黒いロールスロイスは、真琴が待っている銀座に向かって走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 30

できるならあのまま、海外にでも逃亡してくれれば手間が省けていいのだが。

 

恭也は、座り心地のよいベンツの後部座席に身を沈めながらそう思った。

 

煙草を口に銜えると、隣の手下の男がすかさずライターで火を点ける。

 

いや、それでは芸がなさすぎるか。

 

せっかく桜井が亨様に逆らうように仕向けたのだから。

 

桜井の目の届くところで宇宙を攫うように見せかけたのも、桜井の本心を聞き出すため。

 

まんまとその目論見は成功した。

 

桜井には今までいい思いを味わってきた分、苦い思いを味わわせてやらなければ。

 

まぁ、本人はいい思いを味わってきたとは思っていないようだが、傍から見てきた俺には十分にそう見えるのだからしょうがない。

 

十年近くも亨様の下半身のマッサージをしてきた罪が重いということを、十分に知らしめてやらなければ。

 

亨様は、愛人に飽きればすぐに変えてきたのに、桜井だけは手放さなかった。

 

それが恭也には気に入らなかった。

 

あんなマッサージぐらい、自分でもできるのに。

 

スペシャルマッサージだって、ウルトラスペシャルマッサージだって、恭也は熟知している。

 

いつ、亨から声がかかってもいいようにと、極秘にその道のプロに手ほどきを受けたのだ。

 

すべては桜井に代わって、亨に触れたいため。

 

亨の分身を弄って感じさせて、自分の手で絶頂を極めさせてあげたいため。

 

亨のすべてを愛したいため。

 

できることなら、桜井の手足の一本ももぎ取ってやりたいが、それにはもう少し色づけをしないといけないな。

 

煙草の煙をくねらせながらさまざまなことを考えていた恭也は携帯を取ると、リダイヤルを押した。

 

電話に出たのは、亨だった。

 

「桜井の相手の男を捕らえるのは失敗しました。ですが桜井の本心を知ることができました。桜井は亨様の束縛から逃れたいそうです」

 

『・・・・・・・・』

 

しばらく沈黙が流れる。

 

「亨様に縛られることなく、自分の人生を歩みたいそうです。あの宇宙という教師と一緒に」

 

最後の言葉が、電話を聞いていた亨の癇に障ったのを微妙に感じ取った恭也は、構わず言葉を続けた。

 

「二人は今一緒にいます。行き場所は見張りを一人残してきたのですぐに分かります。どうされますか亨様?二人一緒に捕らえますか?それとも別々に捕らえ、二度と会えないようにしてしまいますか?」

 

恭也の言葉には、ゲームを楽しんでいるような余裕があった。

 

『二人一緒に捕まえろ。桜井は私のところに。相手の男はお前に任せる』

 

亨はそれだけ言うと、電話を切った。

 

不機嫌極まりない亨の声を聞いた恭也からは、思わず笑みを漏らした。

 

座席の灰皿で、煙草をもみ消す。

 

これで、逃げようとしている桜井に亨が罰を与えることは確かだった。

 

相手の宇宙も、無事では済まない。

 

プライドの高い亨が、一度ばかりか二度までも自分のもとから逃れようとしている桜井を以前と同じように扱うとは思えなかった。

 

よくても海外に売り飛ばされるか。

 

悪ければ、警察の行方知れずリストに載ることもある。

 

恭也は、思わず声を上げて笑った。

 

「俺に任せるということは、煮るなり焼くなり好きにしろということだよな?」

 

そして独り言を言う。

 

そのとき、スーツに入れたばかりの携帯が鳴った。

 

二人の見張りに残してきた男からだった。

 

『桜井と男は・・・あのまま近くのラブホテルに入りました。今、ホテルの前にいますが、どうしますか?二人とも急いで捕まえますか?』

 

見張りの男が少し苛ついた口調で言う。

 

自分だけ見張りに取り残されたことが不満なのだ。

 

恭也はもう一本煙草を口に銜えた。

 

隣の男が、シュポッとライターの火を点ける。

 

「いや、二人を捕らえるのはもう少し時間が経ってからだ。二時間後に人数をそっちに回すから、捕り物はそれからだ。お前はそれまでそこでじっとしてろ」

 

『・・・分かりま・・・』

 

少し不満そうな男の声を最後まで聞くことなく、恭也は携帯を切った。

 

ちゃんと、既成事実というものをつくってしまわないといけないのだ。

 

あの二人はまだ本当の意味で結ばれていない。

 

恭也が見たところ、ウルトラスペシャルマッサージで宇宙を喜ばせただけの関係なのだ。

 

互いに愛し合っているのにまだ結ばれていないのはかわいそうだ。

 

そうだろう?

 

と、意地悪い自問自答を繰り返してからニヤッと笑った。

 

やはり愛し合っている者同士、冥土の土産に結ばせてやるのが人情ってもんだろう。

 

口には出さないが、恭也は内心そう思っていた。

 

本来の恭也の立場なら、二人が結ばれる前になんとしても捕らえ、亨の前に引き連れていくのが役目なのだが、恭也はあえてそれをしなかった。

 

桜井が宇宙を抱いてしまえば、他の男の分身をしゃぶったことが分かれば、プライドが高く自己中心的な亨のことだ、きっと桜井を切って捨てる。

 

そう踏んだのだ。

 

今二人を捕らえても、亨の怒りを誘うのにはまだ足りなかった。

 

やはり、二人が愛し合っているという既成事実がどうしても必要だった。

 

恭也の計画を成功させるためには。

 

「・・・これも宇宙とかいう世間知らずの教師のおかげだな。いいタイミングで桜井の前に現れてくれたよ。だが桜井がああいうタイプの男に弱いとは知らなかったな」

 

余裕が出てきたのか、恭也は煙草をうまそうに扱いながら背もたれに身体を預けた。

 

だがすべて計画どおりに事が運んで、桜井を亨の前から排除することができたとして、亨の父親にはなんと報告をしたらいいのだろうか?

 

ありのままを報告するわけにはいかない。

 

桜井の身辺に気を使っていなかったとして、自分までとばっちりが来ないとも限らないからだ。

 

大物政治家である亨の父親は、恭也の組と裏で繋がっている。

 

もともと、桜井を気に入って自分の下半身の世話をするように時間をかけてしつけたのは父親の方なのだ。

 

桜井を息子に譲ったとはいえ、まだ情があるのは、亨と同じと考えた方がいい。

 

恭也は真面目な顔でそんなことを考えながら、備え付けの灰皿で煙草を消した。

 

「先に、先生のお耳には入れておいたほうがよさそうだな」

 

恭也はそう呟くと、亨の父親に電話を入れるべく携帯を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 29

宇宙は、恭也に命令されたチンピラたちに連れ去られるところだった。

 

五人のチンピラたちに手や肩を押さえつけられている宇宙の前に飛び出した桜井は、そのまま一人の男の顔面を殴った。

 

ガツンッと鈍い音がする。

 

「・・・・・・?」

 

木々の間から急に出てきた桜井の拳をまともに顔面に受けた男は、そのまま地面に倒れた。

 

そこは、人通りの少ない公園の中の公衆トイレの近くだった。

 

「てめーっ!何しやがるっ!」

 

仲間が殴られたことに腹を立てたチンピラの一人が、殴った男に挑みかかろうとする。

 

だがその男が桜井だと知ると、すぐに躊躇して足を後退させた。

 

桜井が亨にとって特別な情婦であることを、恭也だけでなくチンピラたちも知っていた。

 

「さ、桜井さん?」

 

宇宙も、桜井がチンピラを殴ったことに驚いて声を上げる。

 

「宇宙を離せ、恭也」

 

桜井は、恭也に向かって凄むように言い放った。

 

黒いスーツに黒いサングラス姿の恭也は、吸っていた煙草を桜井に投げつけ、フーッと大きく息を吐いた。

 

「いいんですか?こんなことをして・・・。あの方が知ったらどういうことになるか・・・」

 

「脅し文句はいい。あの方が知っているからこういうことをしてるんだろう?」

 

と、いつもの優しいイメージとまったく違う桜井が、全身から怒りの覇気のようなものを立ちのぼらせながら重々しく言う。

 

まるでヤクザの組長のような威圧感に圧倒されたチンピラたちは、宇宙の腕や肩を掴んでいた手を離し、慌ててその場から後退した。

 

ジリッと、桜井が恭也に近づく。

 

「もう一度言う。宇宙を離せ、恭也」

 

桜井の声も、いつもの穏やかで優しい声ではなかった。

 

低くて威厳があって、まるでその声は別人のようだった。

 

身体が自由になった宇宙は、唖然として桜井に見入った。

 

そこにいる桜井は、宇宙の知っている桜井ではなかった。

 

亨という一人の男に囲われている、桜井遼一だった。

 

「・・・亨様に話しますよ?」

 

ニヤッと笑って、恭也が言う。

 

その笑いにはさまざまな意味が含まれていたが、桜井は頭から無視した。

 

恭也の思惑など、考えている暇などなかった。

 

今は一刻も早く、宇宙を助け出さなければ。

 

「話したければ話せばいいい。それがお前の仕事なんだろう?」

 

皮肉をたっぷりと込めた言葉は、恭也の癇に障ったようだった。

 

ピクッと、綺麗な眉が動いたのを桜井は見逃さなかった。

 

「後でどうなっても知りませんよ。あなたも・・・その男も・・・」

 

恭也が、冷淡な瞳を細めて言う。

 

桜井はその言葉に答える代わりに、宇宙の腕をグイッと自分のほうに引っ張った。

 

腕の中に宇宙を抱いて、桜井は恭也を睨みつける。

 

「何か言うことがあるなら、私に直接言え。宇宙に手を出すことは許さない。それがたとえ・・・亨様でも・・・」

 

ついに言ってしまった。

 

と、桜井は心の中で思った。

 

決して口に出しては言ってはいけない言葉だったのに、最も危険に満ちている言葉だったのに。

 

これでは恭也に命令している亨に対して、喧嘩を売っているようなものだった。

 

いや、実際こうなってしまったら喧嘩だった。

 

あーだこーだと、理屈をこねている場合ではないのだ。

 

愛する者は命をかけて守り通す。

 

ただそれだけだった。

 

それがどんなに馬鹿げて見えようが、くだらないことに思えようが、桜井にとってはこの世の中でもっとも貴いことだった。

 

とても大切なことに思えたのだ。

 

「馬鹿か、お前は?そんな男のために、今までの自分を捨てるのか?この街で大きな顔をして歩いていられるのも、亨様のおかげだろうが。ええ?」

 

恭也は、ペッと地面に唾を吐きながらそう言った。

 

まるで汚い者でも見たかのようなやり方だった。

 

それを見ていた桜井の感情が、剥き出しになっていく。

 

「馬鹿で結構だ。私は今の人形のような暮らしよりも、危険と背中合わせだが宇宙を愛するほうを選ぶ。亨様の囲い者なって十年。それは私が望んだものではない。もういい加減、私を自由にしてくれてもいいはずだ」

 

と、桜井が宇宙を背中に庇うように言うと、恭也はふふっと意味ありげに笑った。

 

「言ってくれるね。格好いいよ。まったく。だがな、お前の意思など関係ないことをまだ分かっていないのか?お前はあのときから金で買われた囲われの身なんだ。亨様の父親があのときお前を買っていなかったら、今のお前はもっと悲惨な人生を歩んでいたんだぞ。それくらい分かっているだろう?」

 

一見綺麗な顔をしている恭也がサングラスを外しながらそう言って桜井の顎をきつく掴む。

 

はっきりとは分からないが、うまく恭也に乗せられているような気がする。

 

なぜだか分からないが、桜井は不意にそう思った。

 

だが、今は考えているときではなかった。

 

その指を乱暴に振り払った桜井は、これからの自分の人生に挑むようにはっきりと言い放った。

 

「私は、私の人生を歩みたい。もう誰にも縛られることなく、誰の命令も受けることなく、自分の好きなように生きていきたい。これから帰って、亨様にそう伝えてくれ。桜井遼一は自由になることを望んでいると・・・」

 

「・・・・・本当にいいんだな?俺はそのとおりに伝えるぞ?」

 

少し間を置いてから、新しい煙草に火を点けながら恭也が聞く。

 

その声には情のようなものは通っていなかった。

 

むしろ、事の成り行きを楽しんでいるかのような響きがあった。

 

恭也の密やかな想いに気づいていた桜井は、これから自分の身に降りかかるであろう災いを想像しながら言った。

 

「伝えてもらって結構だ。私は、もう亨様の言いなりにはならない。宇宙を愛し抜くと決めた」

 

「いい覚悟だ」

 

恭也はそう言い捨てるとサングラスを掛け、踵を返した。

 

手で合図して、チンピラたちを引き揚げさせる。

 

桜井は、公園の林の中に消えていく恭也の後ろ姿を見つめながら、宇宙の身体を抱きしめていた。

 

「桜井さん?」

 

しばらくして、宇宙がそっと桜井を呼ぶ。

 

さまざまなことを想像していた桜井は、はっと我に返って宇宙の顔を見つめた。

 

宇宙の薄茶色の瞳には、涙が溢れていた。

 

「桜井さん・・・大丈夫なの?あの人にあんなこと言っちゃって・・・大丈夫なの?本当はまずいんでしょう?ごめんなさい、僕のために・・・。僕があいつらに捕まったりしなければ・・・桜井さん・・・・・」

 

宇宙は、桜井がまずい立場に立たされたことを感じ取っていた。

 

そして桜井がそういう立場に追い込まれたのは自分のせいだと思い込んでいた。

 

間違ってはいないが、これは桜井自身が選んだ答えである。

 

決して宇宙のせいではないのだ。

 

「違いますよ、宇宙。これは私自身の問題なんです」

 

「でも・・・あの黒いスーツの人、すごく怒ってたよ。綺麗だけど、ものすごく冷たい目をしてた。何かとても怖いことをしそうな・・・そんな感じがしたけど・・・」

 

桜井はそんな宇宙を抱きしめながら、落ち着かせるようにそっと髪を撫でた。

 

「・・・今までの私はずっと死んでいたんです。宇宙と出会って、生き返ることができました。これからどんな苦難が待ち受けていても、私は決して後悔はしませんよ。それより、宇宙のほうこそ、私と出会ってしまったことを後悔させてしまうかもしれません。私と出会わなければよかったと・・・」

 

と、言った桜井の唇を、宇宙を背伸びをするようにして塞いだ。

 

決して上手なキスじゃなかったけど、宇宙の思いが十分に伝わるキスだった。

 

「僕は後悔なんてしていない。桜井さんと出会って・・・好きになることができて本当によかったと思ってる。ほんとだよ」

 

宇宙は、桜井の胸に顔を埋めて熱く告白する。

 

その告白を聞きながら、桜井は亨の束縛から逃れる覚悟を決めた。

 

「宇宙に話しておきたいことがあります。私の過去の話です」

 

桜井の真剣な言葉に、宇宙はただ黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 28

「宇宙!?」

 

学校からの帰宅途中、誰かに呼ばれた。

 

振り返ってみると、そこには桜井が顔に汗を光らせて立っていた。

 

「さ、桜井さんっ!」

 

まさか桜井がいると思っていなかった宇宙は、思わず大声を出す。

 

「しぃ・・・静かに」

 

そんな宇宙の口を手で塞いだ桜井は、人通りの少ない路地に宇宙の身体を連れ込んだ。

 

注意深く辺りを窺う。

 

「話があるんです」

 

「ぼ、僕も・・・。話があってずっと連絡を取っていたんです。でもなかなか桜井さんがつかまらなくて・・・。でもよかった・・・」

 

と、嬉しそうにしゃべり始めた宇宙の口を、桜井の手がもう一度覆う。

 

「そのまま静かにして・・・聞いてほしい。実は・・・私のことはもう忘れてほしいんんです。何もかも・・・今までのことはすべてなかったことにしてください」

 

「・・・・・・!?」

 

突然の桜井の言葉には、切羽詰まった緊張感があった。

 

いつもは優しい言葉遣いなのに、今日は少し様子が違う。

 

何かあったのだろうか?

 

唇を塞いでいる手が、少し震えているような気がする。

 

「・・・でも・・・」

 

と、わけを聞こうとした唇を、もっと強く押さえて桜井が辺りを見渡す。

 

幸い、暗くて細い路地には二人の他には誰もいなかった。

 

「とにかく、私のことは忘れるんです。もう二度とかかわってはいけません。 マッサージルームにも二度と来ないでください。いいですね?」

 

否定を許さない桜井の言葉。

 

宇宙は、何かとんでもない事態に桜井が巻き込まれたのだと察した。

 

そうでなければ、桜井ほどの男がこうも取り乱したりしないはずだ。

 

いったい何が桜井を追い詰めているのか?

 

そういえば、ホテル街でチンピラに絡まれていたとき、桜井が助けてくれたけど、チンピラたちの様子が少し変だった。

 

桜井の顔を見知っているような様子だった。

 

驚きと恐怖と不審さが入り交じったような顔をしていた。

 

あのときのチンピラたちと何か関係があるんだろうか?

 

もしかして、こういう状況に追い込んでしまったのは、自分のせいなのではないだろうか?

 

宇宙はいても立ってもいられず、桜井の手を振りほどいた。

 

「もしかして、あのときのチンピラたちと何か関係があるんじゃないですか・・・?」

 

宇宙の問いに、桜井はピクッと眉を動かした。

 

やっぱり。

 

やっぱりそうだ。

 

あのときの街のチンピラたちと桜井さんは、何か関係があるのだ。

 

「どういうことなのか説明してください。桜井さんを忘れろなんて・・・そんなのできません。だって僕・・・僕・・・桜井さんを好きなんですから。愛しているんですから」

 

言ってしまった。

 

ついに言ってしまった。

 

こんなところで、こんな場面で告白するつもりじゃなかったのに。

 

つい勢いで言ってしまった。

 

だが気持ちは本心だし、決していい加減な気持ちで言ったつもりはなかった。

 

時と場所はまずかったけど、それが宇宙の本当の気持ちだった。

 

桜井の端正な顔が、驚いたように宇宙を見つめる。

 

そして両手が伸ばされ、それはギューッと思いきり宇宙の身体を正面から抱きしめた。

 

分かってはいた。

 

宇宙の気持ちは知っていた。

 

だが、こんな緊迫した場面で突然愛を告白された桜井は、今はとてもまずい立場にいることも忘れて、聞き入ってしまっていたのだ。

 

純真で真心のこもった愛の告白。

 

時や場所なんて関係なかった。

 

十年間を空虚に過ごしてきた桜井にとって、花束やプレゼントを用意しているわけではない宇宙の告白、その精いっぱいの愛の言葉は心に衝撃を受けるぐらい嬉しかった。

 

愛している。

 

ギュッと身体を抱きしめたまま、ついそう呟いてしまいそうになる。

 

「宇宙・・・」

 

だがそれはできなかった。

 

自分の気持ちを言ってしまったら、もう引き返せなくなってしまう。

 

あの亨と自分との世界に、愛おしい宇宙を引っ張り込むことなってしまうのだ。

 

あの亨ことだ。

 

宇宙をどうするのか、だいたいの想像はつく。

 

きっといいように弄び、そして最後には客を取らせるために海外に売りさばく。

 

裏の社会でも顔が利く亨の取る行動は、容易に想像ができた。

 

だめだ。

 

宇宙をそんな世界に引っ張り込んではいけない。

 

宇宙は小学校の教師をしていて、こんなふしだらで淫らな世界とは別世界の人間なのだ。

 

「いけません。私は宇宙の気持ちを受け入れることはできません。だから諦めてください。好きでも、なんでもないんですから」

 

今にも宇宙の黒い瞳から視線を逸らせてしまいそうになるのを必死にこらえていた。

 

「好きでもなんでもないのに、そんなことを言われるのは迷惑です。店の客だからちょっと優しくしてあげただけなのに、勘違いされては困ります。だから店の外で会うのは嫌だったんです」

 

と、桜井が目を細めてため息交じりに言う。

 

宇宙はその瞳を見つめ、信じられないというような顔をして桜井を見つめていた。

 

「う・・・そ・・・。今のは全部嘘だ・・・」

 

「嘘じゃありません。言ったでしょう。迷惑だと。私は宇宙を店の客の一人としか思ってません・・・」

 

「嘘だよ・・・嘘。だって・・・ラブホテルで・・・あんなに愛してくれたじゃない。あんなにいっぱい、愛してくれたじゃない?あれはなんだったの?あれも商売の一つだったというの?」

 

桜井の腕の中から離れた宇宙が、今にも泣き出しそうな顔で言う。

 

宇宙にはとても信じられなかった。

 

今までの桜井の優しさと愛情が嘘だったなんて。

 

商売という名の、偽りだったなんて。

 

「・・・そうです。あのときは宇宙がチンピラたちに絡まれていたのを助けただけです。ラブホテルに入ったのは・・・ちょっとした気まぐれです。本気じゃありません」

 

胸がギューッと痛くなっていく。

 

今までいろいろな嘘をついてきたけど、こんなに胸の奥が痛くなったのは初めてだった。

 

嘘がこんなにつらいものだなんて初めて知った。

 

嘘がこんなにも心に痛みを与えるものだなんて、知らなかった。

 

この痛みを教えてくれたのは宇宙なのだ。

 

宇宙を愛したからこその胸の痛み。

 

だが桜井は、胸が詰まるようなそんな痛みに浸っているわけにはいかなかった。

 

「・・・だからもう私のことは忘れてください。私も少し、遊びが過ぎて宇宙を本気にさせてしまって・・・」

 

「もういいっ!もう何も言わないでっ!」

 

宇宙は、桜井の言葉を遮るように大声で叫んだ。

 

もうこれ以上、桜井の言葉を聞いている勇気がなかった。

 

これが桜井の本心?

 

本当に?

 

あの優しさも温かさも、自分にだけ特別に向けてくれているのかと思っていたのに。

 

自分だけは特別だと思っていたのに。

 

だから、スペシャルマッサージやウルトラスペシャルマッサージをやってくれたんだと思っていたのに。

 

あのラブホテルで一緒にプールに入って、遊んだのだって、僕を愛してくれているからだとばかり思っていたのに。

 

桜井の笑みの中には、確かに愛情があるって思っていたのに。

 

「もう・・・もう・・・いい・・・。もう・・・桜井さんなんてだいっきらい!」

 

宇宙は、大声でわめきながらそう言って、振り返って走っていく。

 

薄暗い細い路地を、泣きながら宇宙は走っていった。

 

その後ろ姿を、桜井は生身を削られるような想いで見つめていた。

 

本当は追いかけていって嘘だと言いたい。

 

今言ったことはすべて偽りで、本心は心の底から愛していると言ってあげたい。

 

だが、そんなことをしてしまったら、宇宙を自分のいる卑猥で卑劣な世界に引きずり込むことになってしまう。

 

亨は、一見クールだがとてもずる賢く、嫉妬深い。

 

亨は、愛人を何人も囲っている。

 

だが、それでも桜井を手放そうとはしなかった。

 

桜井のウルトラスペシャルマッサージは、女で欲求を満たすのが面倒なとき、亨を虜にするのだ。

 

「宇宙・・・ごめんね。本当にごめん」

 

桜井は、これでいいんだと自分に言い聞かせながら何度もそう呟いた。

 

そんなときだった。

 

桜井の耳に、走っていったはずの宇宙の悲鳴が聞こえる。

 

「ーーーーーー!」

 

桜井ははっとした。

 

「まさかーーーーー」

 

桜井は、宇宙が駆けていった路地を一目散に走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 27

「お前が提供してくれた情報は、どうやら本物のようだな」

 

マッサージルームの特別室から出て来た亨は、店の前に横づけにされていた黒いベンツの後部座席に乗り込み、隣に座っていた恭也に言った。

 

肩まで無造作に髪を伸ばしている恭也は、亨の裏の世界の側近的役割を果たしていた。

 

ダークグレーの高価なスーツに身を包んでいる亨は、短めの髪を立たせワイルドに決めていた。

 

明るいシルバーグレーのネクタイがよく似合っている。

 

「・・・・・そうですか。それで、桜井は認めましたか?」

 

亨が煙草を口に銜える。

 

恭也はライターを灯し、煙草の先端に火を点けながら何気ない顔で聞いた。

 

「いや。とぼけていた」

 

外国製の葉巻の煙をくねらせるように一服した亨が革のシートに身を沈めて言う。

 

細められた黒い瞳がとても冷たく感じられる恭也は、言葉少なめな亨の様子を窺いながら、次の言葉を待っていた。

 

「・・・・・桜井は本気なのか?」

 

ベンツが走り出し、しばらくして亨が言った。

 

「・・・おそらく。二人でラブホテルに入るところを見ましたから。それにそのホテルでアルバイトをしている男に聞いたんですが、自分のことを遼一と呼ぶようにと、相手の男に言ったそうです。桜井がその男を風呂場でマッサージしているビデオも入手しています」

 

と、いったん言葉を切ってから黒いスーツ姿の恭也は窺うように言った。

 

「・・・・・見ますか?」

 

とたんに、亨の顔色が変わる。

 

「隠し撮りしたのか?」

 

「私たちの財産の一つですので」

 

と、恭也が淡々とした口調で言うと、亨は手元のスイッチを押して窓を少し開けた。

 

葉巻の煙を外に出したのだ。

 

「そのテープは処分しろ」

 

「はい、承知しました」

 

恭也は、穏やかな口調でそう言って頭を下げる。

 

恭也の細められた瞳には冷淡さが浮かんでいた。

 

この機を逃すことはない。

 

桜井から亨を奪う、絶好のチャンスなのだ。

 

亨の寵愛を桜井から奪い去り、自分のほうに向けるチャンスなのだ。

 

絶妙な手技で亨の寵愛を受けている桜井という男を、恭也はずっと目の上のタンコブのように思っていた。

 

いつかは桜井を追い落とし、自分がその地位につけたら。

 

亨を密かに愛している恭也は、誰にも知られることなく密かにそう思っていた。

 

恭也はニヤッと笑った。

 

恭也の頭の中には、すでに桜井を追い落とすストーリーができあがっていた。

 

「それで、相手の男のほうはどうしますか?」

 

長めの髪を掻き上げるようにして恭也が聞くと、亨は忌々しそうに舌打ちをした。

 

「桜井が本気で惚れた相手がどんな男か、一度会ってみたいものだな」

 

嫉妬心だけではない、別の感情も窺える亨の言葉に、恭也は静かに『分かりました』とだけ答えていた。