東京スペシャルナイト 上 5
- 2015年12月12日
- 小説, 東京スペシャルナイト
宇宙の切羽詰まった緊張感をよそに、最後に頭のツボを軽く圧して、マッサージが終了してしまう。
「はい、これで終わりです。ゆっくり起きてください」
と、マッサージ師に言われて、宇宙はゆっくりとベッドの上で起き上がる。
よかった。仰向けでマッサージなんてないんだ。
宇宙は心底ホッとした。
だが、背中を向けたままマッサージ師のほうを向こうとはしなかった。
「あ、ありがとうございました」
壁に向かって、ペコッと頭を下げて宇宙が礼を言う。
そんな宇宙を不思議に思ったマッサージ師だったが、すぐに何かに気づいたのか優しく肩に触れた。
「リラックスして・・・・・ゆっくり着替えてから出てきてください」
そう言ってマッサージ師が部屋を出ていく。
マッサージ師は、いつまでも背中を向けている宇宙の様子を見て、すぐにその理由を理解していたのだ。
だがそれを口にすることなく、部屋を出ていってくれた。
宇宙は、バタンとドアが閉まったのを確認してから慌ててガウンを脱ぎ、股間に視線を落とした。
案の定、宇宙の股間は見事に天を仰いでいた。
しかも先端の割れ目からは先走りまで出ていたのだ。
ということはガウンが濡れている?
脱いだばかりのガウンを確かめると、やはり股間に染みがついていた。
「・・・・・・よかった。あのまま振り返っていたら、あそこが濡れていたの分かっちゃってたよ。これじゃあ、超変態教師だよ。まったく。」
自分の先端を指先でピーンッと弾きながら、呆れたようにため息を漏らす。
そういえば、教職に就いてからというもの、毎日疲れていてこんなに見事に勃起したことなんてなかったよな。
こんな元気な自身を見るのは何カ月ぶりだろうか。
宇宙は、しばらくそんなことを考えながら息子と対面していた。
だがいつまでもこんなことなどしていられない。
早く部屋から出て、会計を済ませなければ。
宇宙はこの状況を静めるべく、学校の悪魔たちの顔を思い浮かべた。
すると見る見るうちに、分身が萎えていく。
「効き目抜群だよね。最初からこうすればよかった」
宇宙はそんなことを呟きながら急いでスーツに着替え、部屋を出た。
フロアに出ると、先ほどのマッサージ師が待っていてくれた。
こうして見ると、とても背が高い。
それにやっぱり、超カッコイイ。
「ありがとうございました」
「あ、あのっ。また来てもいいですか?」
料金を支払った宇宙が、マッサージ師に聞く。
こんな聞き方って変だと自分でも思っていたが、つい口から出てしまった。
マッサージ師は男前の顔で優しく笑っていて「いつでもいらしてください」と言ってくれた。
「指名料金は三〇〇円ですが・・・私でよければいつでも指名してください」
と言って、マッサージ師は名刺を手渡す。
名刺には、リラクセーションマッサージ『フィジカル』桜井遼一と明記されていた。
反町似のマッサージ師は、桜井遼一という名前だった。
桜井遼一。
なんか、とってもいい響きの名前だと宇宙は思った。
「は、はい。今度は絶対に指名します」
と、嬉しそうに返事をして名刺をポケットに入れた宇宙は、そのままエレベーターに乗る。
ドアが閉まるまで見送ってくれたマッサージ師に何度も頭を下げながら、宇宙は今まで感じたことのない、胸がドキドキするような感情に浸っていた。
それに、あんなに溜まっていた疲れもどこかに吹っ飛んでしまっていた。
エレベーターの中の鏡に映っている自分を見ても、さっきと全然違うのが分かる。
希望と愛と覇気に満ちている自分がいる。
ヨレッとしていたスーツもどこかシャキッとしているように感じる。
身体ばかりか、心までも軽く明るくなったような気がするのだ。
宇宙は、本当にここに来てよかったと心から思った。
そしてまた絶対に桜井遼一さんを指名するんだと、心に誓っていた。
宇宙は、たった一度でリラクセーションマッサージと桜井遼一の虜になっていた。