東京スペシャルナイト 下 8
- 2016年03月19日
- 小説, 東京スペシャルナイト
亨の容赦のない言葉に紐を緩める遼一の手が震えてしまう。
亨が遼一を抱くのはこれが初めてだった。
今まで、亨が遼一の身体を求めたことはない。
亨が求めるものは、遼一の口技と手のマッサージだけだった。
何が亨の欲望を変えさせたのか。
それはまぎれもなく宇宙への嫉妬心と遼一への征服心だった。
ベッドの上でガウンを脱ぎ、裸になる遼一の姿を、亨は満足そうにじっと見つめていた。
ヌラヌラと赤く光っている巨根が、遼一の裸体を見てもっと大きくなる。
「よし・・・。そのまま尻をこっちに向けろ」
四つん這いになった遼一に、冷たい言葉が浴びせられる。
遼一は自制心と戦いながら、わなわなと震える下半身を亨に向けた。
そしてすべてが見えるように卑猥な格好をして、くやしそうにギュッとシーツを掴む。
「いい眺めだな、遼一。お前のこういう格好も悪くない。俺は男を抱く趣味はないが、お前は別だ。俺に対して反抗心を剥き出しにすればするほど、犯したいと思ってしまう。なぜだろうな?」
くくっと卑猥な笑い声を上げながら、亨が言う。
遼一はただ、歯を食いしばってこの状況に耐えるしかなかった。
こんな屈辱なことはなかった。
口でフェラチオをするより、手で性感マッサージをしてイカせることより、ずっと耐え難い屈辱を味わっていた。
だが言うとおりにしなければ、亨はまたあの女を呼びつけ、今度こそ使いものにならなくなるまで犯し続けるだろう。
ヤクザたちに命じて、媚薬を塗り込めた花園や蕾を死ぬまで犯し続けるに違いない。
自分のために他人を犠牲にすることだけは、避けたかった。
きっと愛する宇宙も、心優しい宇宙も自分と同じことをするだろう。
恥辱にまみれながら、遼一は一瞬そう思った。
そして宇宙の可愛い顔を思い出す。
宇宙、すまない。約束を守れそうにない。
遼一は、心の中で宇宙に詫びた。
「とうとう観念したようだな?最初からおとなしくしていれば、あの女もあんなひどい目に遭わなくて良かったものを・・・」
そう言った亨の手が、遼一の尻に触れる。
まだ誰にも見せたことがない秘密の部分は、初めての恐怖に縮こまっているようだった。
「男のここを・・・こうしてまじまじと見るのは初めてだが、女とは別の意味でそそられるな」
と言った亨が手を伸ばし、遼一の蕾に触れようとする。
そのとき、許しもなくいきなりドアが開いた。
「亨様っ、宇宙を捕まえましたっ」
いきなりそう言って特別室に飛び込んできたのは、恭也だった。
亨は絶好のチャンスを逃したくやしさと、宇宙を捕らえたという嬉しい報告が重なり、なんとも微妙な表情をして恭也を睨みつける。
「・・・申し訳ありません、お邪魔だったようで・・・」
恭也が、言葉とは裏腹にまったく悪びれる様子もなく頭を下げる。
仕方なく手を引っ込めてガウンを遼一の下半身に掛けた亨は、すぐに恭也に向き直った。
「で、その宇宙は今どこにいるんだ?」
「はい、事務所のほうに監禁しています」
「そうか。ではここに連れてこい。遼一の目の前でシャブ漬けにし、ヤクザたちに死ぬほど犯させてやる」
亨の言葉を聞いた遼一が上体を起こし「やめろ!」と叫ぶ。
「宇宙には手を出すなっ。宇宙は関係ないっ」
「関係ないだと?お前を俺に楯突くように変えた小僧を、関係ないだと?」
「宇宙は一般人だ。あなたや恭也がいるような裏の世界とは無関係だろう?許してやってくれ、頼むっ」
遼一は、足枷をガシャガシャと音を立てながら亨に懇願した。
足首からは血が流れている。
だがそんなことなど構わず、遼一は言葉を続けた。
「その裏の世界に引きずり込んだのは誰だ?お前じゃないのか、遼一?」
亨の言葉は、遼一の身体を硬直させた。
一番触れてほしくない部分に亨が触れる。
深手を負った傷口に塩を塗られているような気分だった。
「すべてはお前が招いたことだ。土下座をして謝るならまだしも、あれだけの大口を叩いた代償はきっちりと払ってもらうからなっ。恭也、早く宇宙という男を連れてこいっ」
亨の声に、恭也は携帯を取り出す。
そして組事務所の若い者に宇宙を急いで連れてくるように命じた。
「あと、三十分ほどで到着します」
「そうか・・・。では宇宙がここに来る三十分の間に、自分の犯した罪の深さをよくよく思い知るんだな」
亨は上機嫌でそう言って、高笑いをする。
遼一は拳を握りしめ、唇を噛みしめたまま何も言い返せないでいた。
宇宙がとうとう捕まってしまった。
その事実が、遼一から覇気や抵抗心をなくさせていた。
「宇宙という男の未来は決まったな?いいところ、エロじじいの玩具だ」
「やめろっ!」
「だが、こうなることを初めから分かっていただろう?亨様を敵に回すということがどういうことか十分に分かっていたはずだ。だがそれでもお前は逆らった。それは宇宙との愛を貫き通すと決めたからだ。そうだろう?」
「・・・・・・・」
遼一は俯いたまま、何も答えなかった。
自由を奪われている今の状況では、どうすることもできない。
宇宙のために何もしてあげられないのだ。
それが何よりもつらく苦しかった。
「もう、諦めるのか?何もしないでこのまま亨様の言いなりか?」
恭也は、目を細めて淡々とした口調で言った。
遼一がゆっくりと顔を上げる。
そして恭也が何を言おうとしているのか、探った。
「ヤクザたちに犯される宇宙を、ただ見ているだけか?お前の宇宙への愛情はそんな程度のものなのか?」
まるで、遼一の闘志を再び燃え上がらせるような恭也の言い方に、遼一は素直に疑問を抱いた。
だが確かにその通りだった。
こうなることは最初から分かっていて宇宙を愛したのだ。
危険を覚悟で、自由を奪い束縛していた亨に対して自由にしてほしいと訴えていたのだ。
ここで頭を垂れてはいけないのだ。
亨に屈してはいけないのだ。
今ここで奮起しなければ、また元の生活に逆戻りである。
宇宙が自分のために命をかけてくれている。
その気持ちに答えなければっ。
「まぁ、結局はそんな程度のものだったということか。お前と宇宙の愛情は」
恭也は最後にそう言って、病室を出ていく。
一人ベッドの上に残された遼一は、握り拳でベッドのパイプを殴った。
鈍い音が病室に響く。
「宇宙はどんなことをしてでも守ってみせる。宇宙だけは・・・亨の食い物にはさせないっ」
遼一の決意の言葉を廊下で聞いていた恭也は、思いどおりの遼一の反応にニヤッと顔を綻ばせた。