東京スペシャルナイト 上 7
- 2015年12月17日
- 小説, 東京スペシャルナイト
「早く桜井さんに会いたい・・・」
思わず宇宙の口から出た言葉が、それだった。
一刻も早く桜井さんに会って、リラクセーションマッサージをやってもらって、心も身体も癒されたい。
またしても、下半身が反応してしまうかもしれないけど、そんなことはどーでもいいように思えるくらい、今日の宇宙は疲れ果てていた。
ポンッと音がして、エレベーターが開く。
心地よい音楽が流れるフロアには、マッサージの順番を待っている人が数人、ソファに座っていた。
すぐにやってもらえないかもしれないな、などと思いながらも、受付の女性にカードを差し出す。
「申し訳ございません。本日は大変混んでいるため、ご予約のお客様だけとなっておりますが・・・・・」
カードを見た受付の女性が申し訳なさそうに宇宙に言う。
宇宙はその言葉を聞いて、ガクンッと肩を落としてしまった。
予約・・・。
そうだった。予約を入れるのを忘れてた。
この前は初めてだったから飛び入りで来たけど、予約制ってカードにも書いてあった。
どうしてこうついてないんだろう。
「・・・そう・・・ですか・・・」
混んでいるフロアの待合室を見て、とても残念そうに宇宙が呟く。
そして返されたカードを受け取り、帰ろうと後ろを振り返ったとき、目の前の何かに鼻を打ち付けた。
「いたっ・・・」
打ち付けた鼻を押さえて見上げると、そこにはずっと会いたいと思っていた桜井が、にこやかに笑って立っていた。
「お待ちしていました、春日様。さぁ、こちらにどうぞ」
と言って、宇宙を個室へと案内していく。
受付の女性は一瞬何かを言おうとしたが、この店の一番指名の多い桜井の機嫌を損ねるのが嫌で、言葉をのみ込んだ。
「予約をいただいていたのにいらっしゃらないので、どうしたのかと思っていたんですよ」
個室までの廊下を歩きながら、前回と同様白いオープンカラーのワイシャツに黒いスラックス姿をしたカッコイイ桜井が言う。
宇宙はその後を遠慮がちに歩きながら、空いている個室へと入っていった。
人気のある桜井を指名し、ずっと順番を待っていた客たちの視線が、宇宙の背中に突き刺さっていたのだ。
宇宙は『予約なんて入れたっけ?』と小首を傾げながら、個室の中に入った。
ドアが閉まると同時に、宇宙は聞いた。
「あの、僕、予約入れてないんですけど・・・?」
だが桜井は優しく笑ったまま、ガウンを差し出す。
「春日様は特別です」
「・・・えっ?」
特別って、どういう意味なんだろうか?
「あの・・・」
「早くガウンに着替えてください。あのとおり、私を指名しているお客様が待っているので、時間は少し短くなると思いますが・・・」
「は、はい」
手渡されたガウンをベッドに置き、急いで紺色のスーツを脱いでいく。
そうか。
きつと僕が相当疲れた顔をしていたから、このまま帰してしまうのはかわいそうだと思って無理に時間をつくってくれたんだ。
なんていい人なんだろうか、桜井さんって。
姿ばかりではなく、心も精神も美しく聡明な方なんだ。
宇宙は感心しながら、急いでガウンに着替えていった。
そしてトランクス一枚だけの姿になったとき、初めて目の前に桜井がいることを思い出す。
は、裸を見られてしまった!?
ガウンで慌てて隠したが、もう遅かった。
あまり肉付きのよくない、華奢な裸を見られてしまったのだ。
恥ずかしくて、顔から火が出そうである。
だが桜井は、そんなことなど少しも気にする様子もなく、ガウンに着替え終わった宇宙に仰向けでベッドに寝るように言った。
「前回と同じ、Aセットでいいですか?」
「は、はい。お願いします」
予約もしていないのに、無理に時間を取ってくれたのに、前回よりも長いセットにしてくださいなんて、とてもじゃないけど言えない。