由一が目を覚ましたのは、ソファの上だった。
ふかふかのベージュのソファは、由一の身体をすっぽりと優しく包み込むような高級なものだった。
白い大理石のテーブルを挟んで向こう側にある大きなソファに、形の違ういくつものクッションが置かれている。
床はベージュを基調とした花柄の絨毯が敷き詰められ、天井を見るとクラシカルなシャンデリアが光っていた。
壁にはロココ調のブラケットがあり、日が差し込んでいる大きな窓にはクロスオーバースタイルのレースカーテンが揺らめいている。
大きな飾り棚の中の調度品も、見たことないものばかりで、高価そうな代物ばかりである。
広くてセンスの良い部屋は、まるで外国の高級ホテルの一室のようだった。
だが不思議なことに、誰もいない。
「・・・ここ、どこだろう?」
由一は、まだぼやけている頭を重そうにしながら、ソファから足を下ろした。
そしてそのまま立ち上がろうとしたが、薬から覚めたばかりの下半身には力が入らなかった。
ガタンッと、前につんのめるような格好になってしまった由一は、とっさにテーブルに手をついて転ぶのを防いだ。
重々しくて大きな楕円形をした大理石のテーブルは、そんな由一をしっかりと支えてくれた。
「・・・まだ、動かない方がいいぞ」
「・・・!?」
誰もいないと思っていた由一は、人の声に驚いて思わずまた転びそうになってしまった。
「あ、あの・・・?」
「あの薬はそんなに簡単には覚めない。もう少し・・・ソファで横になっていた方がいい」
その声は、隣接するサイドリビングルームから聞こえてくる。
由一は、ふらふらした足を引きずるようにして、ソファの端に掴まりながら、声の聞こえた方へ歩いていく。
隣のサイドリビングルームは、由一が寝ていた部屋よりもずっと広く、落ち着いた雰囲気で、暖炉まであった。
「寝ていろと、言っただろう?」
声の主は、その部屋にある一人掛けのソファにゆったりと座っていた。
「・・・・・・・」
由一が、目の前の男性の顔を見て思わず言葉を失ってしまう。
なぜなら、ソファに足を組んで座っている男性の顔の右側には、額から頬にかけてひどい切り傷の痕があったからだった。
額から口元に達するくらいの縦長の傷が目を塞いでしまっていて、右目がまったく開かない状態だった。
だが、醜い傷に反して、男性の左側の顔は驚くほど美麗だった。
くっきりとした切れ長の瞳と筆で描いたように整った眉。
すらりとした鼻筋と男らしい顎の線。
そして少し厚めの唇は、由一を見て少しだけ笑っているように見えた。
年齢は、三十歳を少し過ぎたぐらいだろうか?
「この顔に驚いたのか?」
「あっ・・・いいえ。そんなことは・・・」
由一は、自分がとても失礼な顔をして見ていたことに気づき、慌てて視線を外して顔を伏せた。
まるで、化け物でも見たような顔で見つめていたに違いない。
なんて失礼なことを・・・そう思い、自分を責めている由一を見て、男はふふっと笑って立ち上がった。
立ち上がると、とても高価なスーツを着ていたのだと分かる。
それに、ずいぶんと背が高くて肩幅も広い。
「あ、あの・・・?」
「そんな顔をしなくてもいい。俺はこの傷のことはまったく気にしていない。一つの教訓にはしているがな。むやみに人を信用するなという、教訓だ」
男の声はどこか威圧的で低いのだが、とても滑らかな響きがあった。
魅力的・・・というべき声だった。
「あの・・・ここはどこですか?」
由一は、近寄ってくる男性から逃げるように足をゆっくり後退させながら、聞いた。
別に逃げようと思っているわけではなかったのだが、危険を敏感に察知して、足が勝手に後退してしまうのだ。
美麗だが、ひどく醜い顔がゆっくり近づいてくる。
由一の足はソファの背もたれに当たり、これ以上後退できなくなっていた。
「ここはどこだと聞くよりもまず、どうして自分はここにいるのかを聞いた方がいいんじゃないのか?」
右頬にひどい傷のある男性は、そう言って由一に手を伸ばした。
そして動けないでいる由一の頬に触れ、そのまま指で掴んでしまう。
「・・・・・あの・・・どうして・・・私はここに・・・?」
そう聞いた由一の声は、震えていた。
この訳の分からない状況では、無理もなかった。
濃紺のストライプのスーツを着ている男は、由一の顎を引き寄せながら言った。
「覚えていないのか?白樺で何があったのか・・・」
「・・・白樺?あっ、あの人たちが来て・・・私を無理に・・・」
由一は、ようやく意識を失う前の出来事を思い出した。
あの時確か、金髪のヤクザっぽい男が言っていた。
佐川さんが負けたマージャンの借金の形に連れていく。
堂本さんが呼んでいるとか・・・なんとか。
それから記憶が途切れてしまって、気がついたらここにいたのだ。
ということは、ここはー・・・・・?
「あの・・・あなたはもしかして・・・堂本さんって方ですか?」
由一が背の高い男を見上げるようにして聞くと、男はふふっと片目の顔で笑った。
近くで見ると、男の黒い瞳はひどく冷たい感じがして、同時に寂しさのようなものも感じた。
優しさとか労りとか、そういった温かな感情がまるで感じられない。
由一は、顎を掴まれたまま、ゾゾッと背筋を震わせた。
「そう、俺が堂本貴良だ。よく覚えておけよ」
と、堂本が由一の顎を強引に引き寄せ、いきなりキスをしようとする。
由一はとっさに、堂本の顔に爪を立てて引っ掻くようにしてキスから逃れた。
爪で引っ掻かれた堂本の右頬には、ちょっとだけ赤く跡が残った。
「・・・・・・」
堂本は、引っ掻かれた箇所を指で触りながら、ふふっと笑う。
引きつるような軽い痛みはある。だが、血は出ていない。
「・・・俺の頬に、これ以上傷をつける気か?」
「あの・・・ごめんなさいっ」
由一は、素直に謝ってしまった。
傷を負っている頬に、爪を立てるつもりなどなかったのだ。
ただ急にキスされそうになったから、つい・・・。
「お前に一つだけ言っておく。俺を怒らせるな。いいな?」
「あの・・・」
「それともう一つ。ここから逃げようと思っても無駄だ。まぁ、そうはいってもきっと逃げ出そうと無駄な努力をするんだろうが・・・」
と言った堂本が、由一の顎から指を離す。
次の日の朝、白いポロシャツとベージュのチノパン姿の由一が店の戸を開けると、そこには顔面蒼白の佐川がコンクリートの床にしゃがみこんでいた。
「佐川さん?どうしたんですか?」
驚いた由一が側に駆け寄り、佐川の肩を揺する。
「う・・・ん・・・ぐぇっ」
佐川は、まだ酔っぱらっていて、衣服がひどく汚れていた。
床には、佐川が吐いたものが散らばっている。
酒の飲み過ぎかと思った由一だったが、それにしてもいつもと様子が違う。
「何かあったんですか?」
こんな醜態を見せるまで佐川が飲むのは、珍しかった。
「や・・・やっちまった・・・。またやっちまった・・・うう゛っ・・・」
泣いているのか呻いているのか分からないくらい汚れてグチャグチャの顔で、佐川が何度も同じことを言う。
「何をやっちゃったんですか?佐川さんっ?」
由一は強く肩を揺さぶって、宙をさ迷っている佐川の目を自分の目に向かせた。
すると、由一の顔を見たとたん、佐川は驚いてしゃがんだまま後ずさる。
「ゆ、由一っ!うわぁぁーーーーーぁぁ・・・許してくれぇぇー。どうしようもなかったんだ!」
「佐川さんっ!?」
「俺は・・・俺は・・・全然その気はなかったんだけど。だけど・・・あいつらが帰してくれなくて・・・。それで、つい・・・」
言っている意味がまったく分からない。
由一は眉間に皺を寄せるようにして、佐川の顔を覗き込んだ。
「すまない由一っ。俺のせいで・・・俺のせいで・・・」
「だから、何がどうしたんですか?ちゃんと説明をしてくれないと分かりません」
「俺が・・・俺がぁぁ・・・・・」
と、佐川が訳を話そうとしたその時、いきなり店の扉が開いて、ドカドカと数人の男たちが店の中に入ってきた。
その男たちは、普通のサラリーマンの風貌ではなかった。
派手なスーツと派手なネクタイ。そして磨いたばかりのような洒落たデザインの革靴。
金髪もいれば、角刈りもいる。
「その先の説明は、俺たちがしてやるぜ?」
中でもひときわ体格のいい金髪の男が、由一の前にズカズカと近寄ってきて、そう言った。
「誰ですか・・・あなたたちは?お店はまだですけど・・・」
と、由一が真面目な顔で答えると、数人のヤクザ風の男たちは『ガハハ』と下品な笑い声を上げてのけ反った。
「俺たちは花を買いに来たんじゃねーんだ」
と、目つきの鋭い男が、指でポンッと向日葵の花を叩く。
「早い話が借金の取り立てだ」
「借金の取り立て?」
由一は、おもむろに綺麗な顔を顰めた。
「佐川さは昨夜、賭けマージャンでひどく負けたんだよ。その結果、この店の何もかもが借金の抵当ってわけだ。分かったか?」
金髪男の言葉に、由一はようやく事の次第をのみ込んだ。
あれほどやめると言っていたのに、またマージャンをしたのだ。
しかも、この店の抵当権まで賭けて。
「・・・本当なんですか、佐川さん?」
由一の問いに、佐川は涙でグチャグチャになった顔を何度も頷かせた。
だが、心底脅え切っている佐川の様子は、問題がそれだけではないことを由一に知らせていた。
「・・・まだ何かあるんですね?」
「おおっ、察しがいいじゃねーか。そうなんだよ。実はな、このオヤジ。最後には賭けるものがなくなっちまってな。で、ついに・・・店の看板であるお前を賭けたってわけだ」
「・・・・・・・・!?」
由一は、何を言われたのか分からない。
「分からねーか?そうだろうな。まっ、普通は分からねーよ。だが、俺たちについてくれば嫌でも分かるさ」
と、ヤクザたちが由一の腕を掴み、強引に引き寄せて連れていこうとする。
由一はとっさに逃げようとしたが、すぐに捕まってしまった。
「は、離してくださいっ」
「だめだ。お前は借金の形に連れていく。堂本さんがお呼びなんだ」
「堂本さん?誰ですかっ、それは?」
由一はヤクザたちに捕まりながらも、手足をバタつかせて聞いた。
「そのうちに分かるさ。さてと、行こうか?」
「あっ・・・離してっ!どこに連れていくんですか?離してくださいっ」
由一は、狭い店の中で必死に抵抗する。
するとその拍子に、花瓶に挿してあった向日葵の花が倒れ、床に散る。
ヤクザたちはその花を踏み散らしながら、由一を店から連れ出した。
由一は、踏まれてグシャグシャになってしまった向日葵を悲しげに見て、それから、佐川に視線を向けた。
佐川は、店の隅でブルブルと震えている。
「す、済まないっ。由一・・・本当に済まないっ。こうするしかなかったんだ。お前を差し出せば店は取らないって脅されて・・・つい・・・。俺が悪いんだっ、俺が・・・。許してくれぇーーーーーっ」
「佐川さんっ!佐川さんっ」
「許してくれぇぇーーーーーっ」
佐川の震える叫び声が聞こえる。
だが由一は、佐川の叫び声を最後まで聞けずに、薬によって意識を奪われていた。
「・・・・・んっ・・・・・」
鼻と口を押し当てられたハンカチには、睡眠作用のある薬がたっぷりと染み込んでいた。
黒い日本車の後部座席に、意識のないグッタリとした由一が乗せられ、その横に金髪頭のヤクザが乗り込む。
そして他のヤクザたちは、それぞれ違う車に乗り込み急発進させる。
佐川は、車の走り去る音を聞きながらメチャクチャになってしまった店の中で頭を抱えるようにして震えていた。
由一がフラワーショップ『白樺』で働くようになってからというもの今にもつぶれそうだった白樺は、みるみるうちに経営が上向いていった。
溜まっていた金融業者への借金も少しずつ返済に回り、白樺の経営は順調だった。
一時はつぶれるのを覚悟で、どうしてもここで働きたいと言ってきた由一を、半ばやけくそで雇った佐川だったが、こうなると由一は神様のような存在である。
由一の姿は神様というよりは天使様に近かったが、心まで天使様だったことに驚いていた。
センスがいいだけじゃなくて、つらい仕事を押し付けても文句一つ言わないで、一生懸命働いてくれるのだ。
そんな由一の評判を聞きつけて、白樺は毎日さまざまな客層で溢れていた。
「ありがとうございましたっ」
由一が最後のお客を見送ると、佐川はふーっと大きくため息を吐いて、パイプ椅子にドカッと腰を下ろした。
「やっと終わったか・・・。今日も忙しかったな」
「はいっ。仕入れたお花がほとんどなくなってしまいましたね」
と、由一が箒で床に散らばっている葉っぱをテキパキと掃除しながら嬉しそうに言う。
紺色のエプロンに白いトレーナー。それに黒いジーパンと安物のスニーカーを履いている由一を見て、佐川はずっと心の中で思っていた疑問を口にした。
「・・・由一くらいの容姿があったら、普通はもっといい服を着てもっといい靴を履いて・・・稼ごうと思えばいくらでも稼げるのに、どうして花屋なんだ?」
唐突な質問だった。
だが由一は、ちり取りの中にゴミを箒で掃き入れながら少し笑って答える。
「お花屋さんが好きだからですよ。決まってるじゃないですか」
「だけどな・・・。それだったら別にうちの花屋じゃなくてもいいだろう?他の花屋から引き抜きがきてるのは知ってるし、高給取りになれるのを断ってまでどうしてこんなボロい花屋で時給九百円のバイト代で働いているのか、ちっとも分からないんだよなー。何か特別な理由でもあるのか?いや、俺はとっても助かってるんだ。由一のおかげで借金もだいぶ減ってきたし、この店も売らなくて済んだんだから。だけどな、どーしても分からないんだ。なんでうちなんだ?」
佐川の言っていることはもっともだった。
由一のように素晴らしい技術と教養と美が共存している青年は、滅多にいるものじゃない。
いや、探そうと思っても無理である。
そんな青年がどうして?
「このお花屋さんが好きなんです。理由は、それだけです」
由一はどこかで昔を懐かしむような顔でそう言って、店の奥に行ってしまう。
「ここにある菊、水切りしてから帰りますから」
と、由一が奥の水場から言う。
佐川は『ああ、頼む』と返事をして、由一が答えてくれた言葉の意味を考えていた。
この花屋が好きって、よく分からんなー?
佐川は少し考え込んでいたが、答えが見つからなかったのか、諦めたように椅子から立ち上がると帰り支度を始めた。
「じゃあ、俺は飲みに行くから。由一も早く帰れよ」
「はーい。お疲れさまでしたっ」
「お疲れー」
佐川は、一週間分の売り上げの入った鞄を脇に抱えるようにして、店を出て行く。
これから行きつけの小料理屋で一杯やるつもりなのだ。
酒と賭け事が好きな佐川は、親から引き継いだ花屋をそのために傾かせてしまったのだが、最近は由一のおかげで懐が暖かい。
借金で首がまわらなかった時のことなど、もう頭の中にはなかった。
まったく。どういう理由でうちの花屋にいるのか知らないが、由一のおかげで毎晩酒は飲めるし、負けが祟ってずっと断っていたマージャンだって始められるようになったんだから、感謝しなくちゃな。
佐川は内心そんなことを思いながら、大金が入っている鞄を大切そうに撫でて、行きつけの店の暖簾を潜っていく。
「いらっしゃい」
「あっ。ビール、ビール。それとつまみは適当にね」
「佐川さんっ、最近は景気がいいらしいね。あの由一君のおかげかい?」
「ああ、そうだよ。まったく、由一様、様だ」
佐川は大声で笑いながら、上機嫌でカウンターの席にドカッと座った。
※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは、いっさい関係ありません。
季節は春。
「あの、すみません。花束・・・欲しいんですが。五千円くらいで、できますか?」
今日のお花屋さんは忙しかった。
しかも今日は日曜日。
お花屋さんは、いつもよりずっとずっと忙しいのだ。
「はい。もちろんできますよ。バースデー用ですか?」
籐の籠の中に、スイートピーを使ってフラワーアレンジメントを作っていた綺麗な顔立ちの由一は、少し恥ずかしそうな声で花束を注文してきた男性を振り返った。
グレーのスーツ姿で、ちょっと照れ笑いをしている一人の中年の男性が立っている。
由一は、花屋の前で恥ずかしそうにしている男性を見て、ニッコリと優しく微笑んだ。
「花束でよろしいですか?」
男性とは思えないくらいの美しい由一の微笑みを見て、そのサラリーマンははっとしてしまう。
妻のために花束を買いに来たことなど、一瞬忘れてしまったほどだ。
由一の年齢は二十歳ぐらいだった。
大きな二重の黒い瞳がとても印象的で、日に焼けていない白い肌には染み一つなかった。
眉は少し細めで、形のよい朱色の唇と睫を伏せた時の表情には、ドキッとするような色香が漂っていた。
「どのような花がお好みですか?」
「えっと・・・その・・・」
サラリーマンはそんな由一に見とれてしまい、一瞬言葉を失ってしまう。
だが由一は、そんな男性を違った観点で見ていた。
お花屋さんという、華やかで花の甘い香りが立ちこめている店は、サラリーマンにしてみれば、デパートの女性下着売り場と同じくらい恥ずかしくて居心地の悪いところ。
だからちょっと照れているのだと。
正直店に入ってきたときはそういう感情もあったが、今は由一の可憐な美しさに度肝を抜かれてしまった。
「なんでもいいんですが・・・」
栗色のフワフワッとした短めの髪がとても清潔感を感じさせる由一は、キーパーの前でうろうろとしてさまざまな花を物色している、サラリーマンを優しく見つめて聞く。
こんなふうに顔を赤らめている男性は、大体いつも同じようなことを言う。
「・・・つ、妻の・・・誕生日なんだ。その・・・花束を贈るのは久しぶりで・・・いや、結婚して初めてかな?とにかく、どんな花を贈ったら喜ばれるか分からなくて・・・」
サラリーマンは、由一にチラッと視線を合わせてから、スーツの内ポケットに手を入れた。
そして黒い財布を取り出し、必死になんとか落ち着きを取り戻そうとしている。
愛する妻のために、花束を買うことは恥ずかしいことじゃないのに。
と、由一はサラリーマンの落ち着きのない様子をいつも勝手にそう思い込んでいたのだ。
実は、由一の姿の美しさに男性たちが圧倒されているとも知らないで。
「奥様はどんな花がお好きか、ご存知ですか?」
「・・・そうだな・・・。白い百合とか・・・好きだったかな?」
「百合ですか。分かりました」
由一は、これから作る花束を頭の中で思い描きながら、キーパーの戸を開けた。
そして、冷房が十分に効いてさまざまな花でひしめき合っている、四方をガラスで囲まれた小さなキーパーと呼ばれる部屋の中に入った。
百合が好きかぁ。
だったら、メインの花はこれで決まりだな。
由一が最初に手に取ったのは、真っ白で大輪の花が見事な、カサブランカだった。
カサブランカは普通の百合よりはだいぶ高価だが、気品に溢れた姿がなんとも美しく、とてもいい香りがして、バースデーやお祝いにはピッタリの花なのだ。
「このカサブランカに霞草と、真っ赤な薔薇を二本でどうでしょうか?薔薇だけの花束よりもずっと高貴に見えますし、何よりもいい香りがするんです」
大輪の花を誇らしく咲かせ、大きな蕾を二つつけた気品溢れるカサブランカを見せて、真っ赤な薔薇と霞草を組み合わせながら由一が言うと、男性の目は嬉しそうに細められた。
本当はもうなんだっていいのだ。
この店員さんが作ってくれる花束だったら、どんな花だって綺麗に見える。
「あっ。それ、いいね。すごくいいよ。とても綺麗だし妻が喜びそうだよ。だけど・・・五千円で足りるんですか?なんか・・・とても高そうだけど?」
思っていた以上に豪華な花束は、男性に給料日前であることを思い出させた。
由一の顔に見とれていたが、やっと我に返ったのだ。
五千円の花束は、きっとこのサラリーマンの男性にしてみたら、とても高価な代物なのだ。
由一は、せっせと一生懸命に花束を作りながら両目を細めて言った。
「大丈夫ですよ。ちゃんと五千円以内で仕上げますから」
「・・・ありがとう。やっぱりここに来てよかったよ。いや、会社で噂に聞いてちょっと寄ってみたんだ。とてもセンスのいいお花屋さんがあるって。でもセンスがいいのは花屋じゃなくて、店員さんのことだったんだな。店員さん・・・なんだかとても綺麗だし・・・」
同性対して綺麗だなんて言ってしまって、果たしてそれは褒め言葉なのだろうかと、一瞬考えたサラリーマンだったが、綺麗なものは綺麗なのだからしょうがない。
どうみても、自分の妻よりもずっと綺麗なのだ。
でもやはり唐突で失礼だったのかもしれない。
「ありがとうございますっ」
由一は、素直に綺麗と言われたことを受け止め、礼を言った。
「・・・い、いえ」
サラリーマンの客は、照れたようにそう言って頭を掻き、嬉しそうに由一が持っている花を見つめた。
本当は花束じゃなくて、由一の顔をもっとじっくりと見ていたいのだが。
中心にカサブランカを挿し、真っ赤な薔薇がアクセントになっている花束は、もう出来あがろうとしていた。
「ラッピング代は結構ですから」
由一は花束の口を裁ちバサミで切って揃え、輪ゴムで結わえて、ピンク色の和紙と透明なラッピングペーパーで見栄え良くラッピングしていく。
そして最後に真っ赤なリボンを結ぶと、『はい』とサラリーマンに手渡した。
その花束を受け取った時のお客様の顔が、由一は一番好きだった。
本当に心から『うわっ、綺麗だ』『嬉しいっ』というような顔をしてくれるからだ。
どんな人でも、花束を受け取る瞬間は、至福の顔をするものだ。
これは、花が持つ純粋で可憐な美しさと魅力のせいだろうか。
と、由一は思っているのだが、実は男性は由一から花束を渡されたのが嬉しくて、ついニターッと笑ってしまっていたのだ。
「五千円いただきます」
「はい、じゃあ、これ。綺麗に作ってくれてありがとう。また・・・来年の結婚記念日にもここに来ますから。いや、クリスマスにも来るかもしれないけど・・・」
サラリーマンは嬉しそうにそう言って、由一に五千円を手渡すと何度も振り返って帰っていく。
花束を持ち慣れていないのか、行き交う人たちの視線に恥ずかしそうにしている。
だが、サラリーマンの後ろ姿からは、妻への愛情が満ち溢れているように由一には見えた。
「いいなー。あの照れながら持っていくっていうのが、いいんだよなー」
と、由一は思わず呟く。
だが実際には、男性は由一が作ってくれた花束が嬉しくて嬉しくてしょうがなかったのだ。
それに、ここに花を買いに来れば、また由一に会える。
その事実がサラリーマンを喜ばせていた。
サラリーマンの後ろ姿が見えなくなると、店の奥の方から一人の中年男性が姿を現した。着ているものは薄汚れた茶色いスラックスに、黒いポロシャツ。それに汚れた合皮の靴。
見た感じは少し太りぎみで、ちょっと不潔っぽい感じがして、黒いフレームの眼鏡を掛けている。華やかでお洒落を売り物にしているお花屋さんには、ちょっと不似合いな感じの中年男性だった。
「・・・またか?」
「あっ、佐川さん。見られちゃいましたか?すみません。今の薔薇のお金は私のバイト代から引いてください」
由一は、ペロッと舌を出しつつも申し訳なさそうに言う。
するとこの小さなフラワーショップのオーナーである佐川は、本当に困ったように顔を歪めた。
「いつもいつも・・・おまけばかりして。薔薇は二本で七百円だぞ。由一君の約一時間分のバイト代じゃないか。気がいいのもたいがいにしとかないと、あとで大変な目に遭うぞ?」
由一の優しすぎる性格を心配しているのか、さっきの二本の薔薇がもったいなくて言っているのか由一には分からなかったが、あまり深くオーナーの言っていることは考えなかった。
なぜなら、花が大好きな由一はお花屋さんで働くことが大好きだった。
だから、多少オーナーから怒られても全然気にならないし、そのためにバイト代が減ったとしても構わないと思っていた。
だってその代わりに、花束を受け取ったお客様の、零れんばかりの笑顔が見られるから。
ありがとうっていう顔が見られるから。
また来ますって、言ってくれるから。
「まぁ、由一君がバイトで来てくれてからというもの、つぶれかけていたこの店もなんとか持ち直して、今では結構有名になって遠くからもお客さんが足を運んでくれるようになったんだから。あまりうるさくは言いたくないけど・・・ 」
「すみません。今度は気を付けますから」
「・・・いいよ。さっきのお客さんはまたクリスマスに来てくれるだろうから」
「はいっ」
「薔薇は、さっきのサラリーマンの奥さんに、俺からの誕生日プレゼントだよ。まったく・・・」
「ありがとうございますっ」
由一は、いつも文句を言いながらもほんとはやっぱり優しいオーナーが、ちょっとだけ好きだった。
花が大好きな由一は、フラワーアレンジメントや花束を作るのがとてもうまかった。
美的センスが抜群にいいのだ。
全国なんとか、というような賞を持っているわけではない。
コンテストに出たことがあるわけでもないのに、由一はいつに間にかフラワーショップの経営者の間では、有名人になっていた。
今日も、由一が作った花束をキーパーの中に並べると、飛ぶように売れていく。
由一の優しさとセンスの良さと、何よりも純粋な心の美しさが溢れている花束は、何の気なしに通りがかった人にも、思わず買わせてしまう不思議な魅力があったのだ。
だが、花が飛ぶように売れていくのは美的センスだけの問題ではなく、もちろん由一の綺麗な姿を見たくて何度も足を運ぶ客もいるからだった。
そういうお客たちは、由一から買った花束を手渡される瞬間が嬉しくて、またやって来るのだ。
そんな由一の噂があっという間に広がり、都内の有名なフラワーショップは、こぞって由一をなんとか自分の店で働かせたいと望み、あの手この手を使って引き抜こうとしていた。
美的センスが抜群によくて人当たりのいい店員は、フラワーショップでは何物にも代えがたい、逸材なのだ。
しかも、見目麗しい男性店員となれば、女性客はもちろんのこと、男性客まで見込めるのだ。
だがどういうわけか由一自身は、このダサい格好のおじさんが一人でやっている小さなお花屋さんにバイトとして入ってしまった。
近所に次々と出店した近代的でモダンなフラワーショップに押されて、今にもつぶれそうになっていた『白樺』にどうして?と、誰もが疑問に思った。
だが由一は、どんなに破格な給料を提示されても、良い条件を出されても、他のフラワーショップに乗り換えようとはまったく思っていなかった。
由一が白樺にバイトで入ったのは、今から約一年前の春だった。
それから由一は、文句一つ言わずに時給九百円でこの白樺に雇われている。
「いらっしゃいませ」
「お見舞いの花束、作ってもらえますか?えっと・・・三千円ぐらいで・・・」
大学生らしいこの男性は、由一のファンの一人で、週に一度くらいの割合で通いつめている。毎週毎週、それなりの理由を見つけては花を買いに来るのだ。
先週は確か、友人の結婚祝いだったっけ?
「はい。分かりました」
「あの、私にも花束を作ってください。部屋のリビングに飾りたいんです」
次に声を掛けてきた中年の女性も由一の作るセンスのいい花束のファンであり、由一自身のファンでもある。
「はいっ。ありがとうございます」
キーパーに出入りして、さまざまな花束を作っていると、次々と客がやって来ては由一が作った花束を買っていく。
一見、女性と見間違うばかりに美しい顔立ちをしている由一は、いつもの優しい笑顔で応対している。
そしてあっという間に、魔法のように可憐な花束を作っていくのだ。
その手際の良さは見事だった。
そんな由一を、白樺の店主である佐川茂紀はさっきからずっと見つめている。
またいつもの癖が出るんだろうなーという、ちょっと困ったようなしかめっつらで。
きっとあのピンクのスイートピーを何本か、おまけで入れてやるつもりなのだ。
まぁ、それが由一のいいところなんだから仕方がないか。
そう思って諦めた佐川は、少し笑って大きな花瓶の水換えの仕事を続けた。
すべてが終わって帰るところなのだろう。
少し待っていると、裏の出口から出た宇宙と遼一が、表通りに出てきた。
遼一は少し足取りがフラフラしている宇宙の腰を支えるようにして歩いている。
二人の顔には、幸せが滲み出ていた。
愛される喜びを噛みしめている宇宙と、愛する者と一緒にいられる喜びに浸っている遼一。
桜庭は、しばらくそんな二人の後ろ姿を眺めていた。
一度は断り、父親の跡はつがないと断言した遼一だが、一度目覚めてしまった修羅の心はいつか必ず生まれた場所に戻ってくる。
修羅の群れの中に戻ってくるのだ。
桜庭には、それがよく分かっていた。
血が血を引き寄せるとでもいうのだろうか。
今は嫌だと言っても、一年後は分からない。
三年後はもっと分からない。
「もう行っていい」
桜庭は運転手にそう言うと、静かに車を発進させた。
二人の横を通り過ぎる時、桜庭は不思議と藤堂四代目とその恋人である真琴の出会いを思い出していた。
どんなに逃げようともがき苦しんでも、真琴は決して藤堂の腕から逃れられなかった。
そして最後には自らの運命を受け入れ、藤堂を求めるようになった。
今では、裏の世界の人間なら誰でも聞いたことがある真琴も、数年前は田舎から出てきたばかりの何も知らない一般人だった。
三年間の間にきっと紅林組の組長を継ぐようにしてみせる。
きっとだ。
桜庭は心の中でそう呟いた。
そしてそんなこととはまったく知らない遼一は、最愛の宇宙の腰を抱きしめながら歩道を歩いていた。
今日はオープン初日を祝して、イタリアンレストランで食事をする約束をしているのだ。
だがウルトラスペシャルマッサージを受けた宇宙の足腰がフラフラで、今にも倒れてしまいそうである。
顔も上気していて、目は虚ろで、イッてしまったままの状態だった。
「大丈夫か?」
と、遼一が聞くと、宇宙は「うん、うん」と言って力なく頷いた。
これは大丈夫ではない。
イタリアンレストランは諦めたほうがよさそうである。
遼一は進路を変更して、コンビニに寄った。
そこでシャンパンとチーズ、クラッカー、生ハムなどを買い込むとそのまま帰路についた。
アパートで二人だけでのお祝いをしようと考えたのだ。
「イタリアンレストランに行かないの?」
まだ目が虚ろな宇宙が、コンビニで買い物をしている遼一に向かって聞く。
遼一は会計を済ませると、宇宙の手を引っ張ってそのままコンビニを出た。
「誰かさんの目が虚ろだからね。色っぽい顔をしてるし、その顔に誰かがそそられないとも限らない」
「・・・だって・・・それは・・・」
それは遼一の責任だよと、言いかけてやめた。
そんなことを言っても、遼一には勝てないことを知っている。
宇宙はそっと遼一の腕に手を絡ませた。
「アパートに着いたら二人だけでお祝いしよう」
「ああ、そうしよう」
遼一が優しく笑って頷く。
その男らしい笑顔を見て、宇宙は心の底からこの男性に出会えてよかったと思っていた。
巡り合えて愛し合えて本当によかった。
これから先、遼一と自分にどんな運命が待ち受けているか分からないが、ずっと遼一についていこうと心に誓った。
「ね、遼一。僕のこと愛してる?」
宇宙の可愛い問いに、遼一はふふっと笑った。
「さー、どうだろう?宇宙はどう思う?」
「もちろん、愛してる」
自信満々の宇宙の答えに、遼一はただ朗らかに笑っていた。
空には満天の星が輝いていた。
桜庭は、店に入れずに困っていた。
窓のブラインドの隙間から、二人が激しく互いを求めている光景を見てしまったのだ。
男同士のセックスは、藤堂四代目とその恋人である真琴との行為で見慣れている。
だが見慣れているからといって、店の中に入っていく気にはならなかった。
「入らないのですか?」
ドアの前でしばらく考えている様子の桜庭に、部下の者が声をかける。
道端には黒い高級外車のベンツが止まっていた。
運転手がエンジンをかけたまま待っている。
スーツ姿の桜庭は、まだ若い部下には何も答えずに車の後部座席に戻った。
そして携帯を取り出し、リダイヤルを押す。
電話の相手は藤堂だった。
「私です。紅林組の跡目の件ですが、あと三年間待っていただくように紅林組の組長に話してもらえませんか?今は何を言っても無理だと思うのです。宇宙と遼一は深く愛し合っていて、組の存続よりも二人の未来や一緒の時間を過ごすことのほうが大事なのです。今は焦らず、しばらく時間をおいたほうがいいと思います」
桜庭はシルバーメタリックの携帯を握りしめ、店の中を見つめながら言葉を続けた。
「あちらの言い分もわかりますが、やはり遼一には時が必要です。今まで十年間という時を失っていた分、冷静になって自分を見つめ、この先どうするのかを考える時が必要です。二人で三年間暮らすうちに本来の自分を取り戻し、自分に課せられた運命からは逃れられないのだということを遼一は知るはずです。そうなれば、考えも変わるでしょう。その時に改めて話をしたほうがいいと思います。それに、一度目覚めた修羅の心がそう簡単には消えません」
桜庭がそう言うと、隣に部下が乗り込んだ。
二人のセックスが終わったと、手で合図する。
桜庭は無言で頷いた。
「はい、申し訳ありません。ではこのままもう一度戻ります」
桜庭はそう言って携帯を切った。
「四代目はなんとおっしゃってましたか?」
少し間を置いてから、桜庭の側近である男は聞いた。
桜庭は、らしくなく長いため息を漏らす。
「お前に任せたのだから最後まで任せるとおっしゃってくださった。紅林組の組長のほうには話をつけておくと」
「ですが、三年間の間に本当に結論が出るんですか?」
桜庭の右腕的存在のまだ若いその男は、慎重な口調で聞いた。
車の外から話を聞いていたのだ。
桜庭は横目で側近を見た。
「結論が出るようにいろいろと仕向けるつもりだ。店も今は景気がよさそうだが、いつだめになるとも限らない。どんな世界も一寸先は闇だからな」
桜庭が、何やら意味ありげに言う。
側近はその一言ですべて承知したのか、あとは何も聞かなかった。
マッサージ店を見ると、ちょうど電気が消えたところだった。
遼一は宇宙を股間の上に跨がせると、そのまま腰を落とすように言った。
「・・・でも・・・恥ずかしい・・・」
ためらいながら、宇宙が少しだけ腰を落とす。
すると蕾に遼一の逞しい分身の先端が当たって、ビクッと身体を震わせた。
熱くて逞しくい遼一自身が、宇宙の蕾の中に入りたいと待ち構えている。
宇宙はいったん腰を引いてしまったが、すぐに欲望に従うように腰を落としていった。
「あんっ・・・太いっ」
思わず、宇宙が呻く。
亀頭の半分まで入っていた。
「もっと・・・深く・・・」
遼一が宇宙の腰を掴み、そのまま引き寄せる。
ズルンッと音がして、亀頭の部分が宇宙の蕾に入ってしまった。
「あぁぁ・・・・・」
「もっと腰を落として・・・。それじゃ宇宙がつらいだろう?」
中腰でしゃがんでいるような格好をしている宇宙に、遼一が笑いを含んだ声で言う。
だが宇宙は亀頭の感触に酔いしれていて、うまく答えられなかった。
「こうして、私の上にしゃがんでしまえば楽だろう?」
と、言った遼一が、宇宙の腰を思いきり引き寄せる。
その瞬間、ガクンッと膝が崩れて、宇宙の蕾は自身の重みで肉棒を深々とのみ込んでいた。
「あっ・・・あぁぁーーーーーーーっ」
「根元まで入ると気持ちいいだろう?」
「遼・・・ちゃ・・・ん・・・・・」
「少し、腰を揺らしてやろうか?」
「りょ・・・りょ・・・・・」
「それとも、ここを握ったまま下から突き上げてやろうか?」
宇宙の反応を面白そうに見上げながら分身を握り、遼一が言葉を続ける。
その言葉に答えることなどできないくらい、宇宙は感じてしまっていた。
昨夜よりもずっと逞しい遼一自身が宇宙の奥深くまでズンズンッと入ってくる。
ズンズン突き上げている。
「遼ちゃん・・・そんなにしたら・・・あっ・・・あっ・・・」
胸に両手をついて少しでも奥に入ってしまうのを防ごうとしている宇宙が、首を左右に振る。
こういう体位は初めてで、しかもウルトラスペシャルマッサージの後だったから、身体中のどこもかしこも感じすぎてしまっていた。
イッたばかりの分身も、いっこうに衰えない。
それどころか、下から突き上げられるたびに、先走りが溢れ、オイルと混じっていく。
「あんっ・・・あん・・・遼ちゃーん・・・死んじゃうよぉ・・・・・」
宇宙は、ヒクヒクと泣きながら分身の感触に身悶えていた。
一番感じる深くて柔らかい部分に、先端が当たっている。
宇宙の足の指先が、自然にピクピク痙攣する。
遼一のシルクのシャツを掴んでいる手に、力がこもっていく。
「あぁぁ・・・あん・・・死んじゃうっ」
だが面白いことに、宇宙の腰は自然と上下に揺れていた。
嫌だと言いながらも、身体はより深い快楽を求めて自ら肉棒をのみ込んでいた。
クチャクチャッと、宇宙の腰が上下に揺れるたびにいやらしい音が聞こえる。
そして宇宙の喘ぎ声も、途切れることなく店の中に響いている。
「遼ちゃん・・・お願い・・・もう・・・死んじゃう・・・・・」
「いいよ、死んじゃっても。どうせまたすぐに生き返って喘ぐんだから」
「あぁぁぁ・・・・・遼ちゃーん・・・・・」
宇宙は、ひときわ早く腰を動かして自分から絶頂の中に飛び込んでいった。
「知ってた宇宙?宇宙がイクとこね、ここがキュッと幾重にも締まって私に目眩がするような、経験がしたことがないような快感を与えてくれるんだ。ほら・・・ここがキュッと締まる・・・」
遼一はそう言って、腰を上げた宇宙との間に手を忍び込ませ、目いっぱい開いている蕾を指の腹で撫でてやる。
「あぁぁ・・・いいっ・・・遼ちゃん・・・いいよぉ・・・・・」
蕾の入り口を指の腹で触られた宇宙は、背筋にゾクッとするような快感を感じた。
分身を握られ、蕾に肉棒を挿入させられ、蕾の入り口を指の腹で弄られている宇宙に、絶頂感を押しとどめることはできなかった。
そのまま一気に高みへと昇っていく。
「あぁぁぁぁーーーーーーイクーーーーーーっ」
宇宙の張り上げた声が、店の中で響き渡る。
外にまで聞こえてしまうのではないだろうかというような、大きな喘ぎ声だった。
「遼ちゃーん・・・中が・・・中が・・・クチュクチュしてて・・・もうだめぇぇ・・・・・」
宇宙は絶頂感を十分に味わいながら、叫び続けた。
「あぁぁ・・・いいのぉ・・・すごくいいのぉぉ・・・・・」
だが遼一の分身はまだ元気なままだった。
宇宙のようには、まだ頂点を極めていない。
「宇宙、愛してるよ」
宇宙の乳首を指先で摘みながら、遼一はすべての想いを込めて言った。
「あんっ・・・遼ちゃーん・・・」
だが絶頂を味わっている宇宙には、その想いが伝わったかどうかは分からない。
だがそれでも遼一は、左右の乳首を摘み、指先で丹念に愛撫しながら言った。
「愛してる」
「遼・・・ちゃん・・・もう・・・も・・・・・」
宇宙は意識を失う寸前だった。
ビクビクッと下半身が震え、勃起したままの分身はピクピクと震えている。
指先で愛撫されている左右の乳首もツンっと突き出ていて、まるで強く吸われたようだった。
「遼・・・ちゃ・・・ん・・・・・」
意識を手放す寸前、宇宙は遼一の愛の囁きに応えるように遼一を呼んだ。
遼一はその言葉を聞きながら、満足したように再奥の部分に飛沫を吐いた。
ドクンドクンッと遼一の分身が激しく脈を打つ。
その脈が伝わったのか、宇宙は意識を失ってからも小さな声で喘いでいた。
グッタリと前のめりで倒れている宇宙の背中を優しくさすりながら、遼一は耳元で何度も囁いた。
「愛してる」
自分で囁いているその言葉を聞きながら、遼一は安息の一時を味わうようにゆっくりと瞼を閉じていった。
遼一は何度も詰るようにそう言って、宇宙をいじめていく。
宇宙はもう、泣き出してしまいたい心境に陥っていた。
「だって・・・気持ちいいから・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」
三本に増やされた指が、ゆっくりと挿入されていく。
もう片方の手は、パンパンに張りつめている自身をクチャクチャと音を立てながら撫でている。
その強弱をつけた撫で方が絶妙で、宇宙はいつの間にか子猫のような鳴き声を上げていた。
「あっ・・・にゃあ・・・あぁぁぁ・・・ん・・・・・」
甘ったるいその喘ぎ声を聞きながら、遼一は亨に犯されながらも決して自分自身を失わなかったあのときの宇宙を思い出していた。
自由を束縛された中で、宇宙は自分の身代わりとなって亨に抱かれた。
あのまま逃げればよかったのに。
どうしてまた捕まるような馬鹿をしたのか。
遼一は恭也の手に握られた玩具に貫かれ、喘ぎまくっている宇宙を瞬きもしないで見つめながら心の中で思った。
こういう痛みを甘んじて受け、その痛みに耐えなければ遼一を愛する資格はないのだと、自分自身に言い聞かせているのだと。
そのことに気づいた時、遼一は再び修羅の心を目覚めさせた。
そして、足枷の鎖を引きちぎったのである。
「遼ちゃん・・・もう・・・もう・・・お願いっ・・・・・」
宇宙は涙を流して遼一に訴えた。
もう今すぐにでも、遼一が欲しいのだ。
目がそう訴えている。
だが遼一は、まだやる気にはならなかった。
もう少し、ウルトラスペシャルマッサージで宇宙を酔わせてみたい。
宇宙を愛してあげたい。
「まだ、だめだよ。もっと私を楽しませてくれなくちゃ・・・」
「遼ちゃん・・・。許して・・・ほんとに・・・もう・・・」
と、宇宙が可愛い声で訴える。
その可愛らしさに、実は遼一はもうメロメロだった。
本当は自身もいきり立ち、すぐにでも突っ込みたい衝動に駆られていた。
だがその本能をギリギリのところで抑え、宇宙を感じさせるためのウルトラスペシャルマッサージへと集中していく。
宇宙の蕾からは、指が出入りを繰り返すたびにベビーオイルが溢れ出している。
ベビーオイルだけではなく、自然と潤っている体液も混じっていた。
そんな中、指が三本に増やされる。
宇宙自身への愛撫も、いっそう熱を帯びていく。
「あっ・・・あっ・・・もう・・・・・」
三本の指が挿入されたとたん、宇宙はまたイッてしまった。
今度は分身ではなく、三本の指を飲み込まされている蕾で絶頂を迎えた。
極めた瞬間、蕾の内壁が別の生き物のようにキューッと指を締めつける。
その巧みな刺激がまた快感となって、宇宙の思考を激しく揺さぶった。
「あんっ・・・あっ・・・遼ちゃん・・・そんなにしたら感じすぎちゃって・・・」
「いいよ、感じて」
クスッと笑いながら遼一が言う。
「もう・・・どうにかなっちゃう・・・。中がクチャクチャしてて・・・蕩けちゃうっ」
両目を閉じた宇宙が、感じるまに訴える。
遼一はその素直すぎる反応に、またクスッと笑った。
「蕩けちゃっていいよ。昨日も・・・いつでも宇宙は蕩けてるだろう?」
「い、意地悪・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」
宇宙が両脚を抱えたまま、ひときわ大きな喘ぎ声を発する。
立て続けにもう一度、蕾で絶頂を極めてしまったためであった。
昨夜、嫌というほど肉棒で責め抜かれた余韻が残っているせいもあるが、宇宙はもともと、とても感じやすい身体をしているのだからしょうがなかった。
それにしても、今日は久しぶりのせいもあるかもしれないが、感じ方が尋常ではなかった。
蕾から溢れているオイルが宇宙の愛液と混じり合い、遼一の手首まで滴っていた。
三本の指を深々とのみ込みながらも、蕾はまだ欲しいと訴えていた。
その貪欲さと宇宙の初な可愛い顔が一致しないところがまたいい。
たまらなくいいのだ。
遼一は、クチュクチュッと動かしていた三本の指を引き抜いて言った。
「・・・・・宇宙、私が欲しい?」
遼一の言葉に、宇宙が縋るような眼差しを向ける。
そして力のない両手を伸ばして言った。
「・・・欲しい・・・。今すぐに遼一が欲しい・・・」
「だったら、それを証明して見せて。どうしたら私に抱いてもらえるのか、知ってるだろう?」
遼一がベッドに腰を下ろして言う。
宇宙は狭いベッドの上で一生懸命起き上がると、そのまま遼一のスラックスのファスナーを下げた。
分身がすっかり元気になっていて、うまくファスナーが下がらない。
だが、ようやくファスナーの中から逞しい遼一自身を剥き出しにすることに成功した宇宙は、無我夢中でそれをしゃぶり始めた。
「・・・・・んっ・・・んんっ・・・はぁ・・・・・」
口の中いっぱいに、遼一自身が入り込む。
「・・・ぐうっ・・・んん・・・・・」
喉の奥まで無理にのみ込んでも、まだ少し根元のほうが余っていた。
それでも遼一は一生懸命両手を使いながら、分身を愛撫し続ける。
「宇宙・・・いいよ。とてもいい」
宇宙の柔らかな髪を優しく撫でながら、遼一が呻くように言う。
「・・・はぁ・・・んっ・・・んくっ・・・」
宇宙は抱いて欲しいという一心で、遼一の分身を口で愛撫していた。
遼一が欲しい。
遼一の太くて逞しい分身が欲しい。
とろとろに蕩けてしまっている蕾の奥深くに、思いきり突っ込んでほしい。
脳天に突き抜けるくらい、激しく貫いてほしい。
「遼・・・ちゃん・・・んんっ・・・早く・・・欲しい・・・・・」
可愛い舌先で愛撫しながら、宇宙が潤んだ熱い瞳で訴える。
いつの間にかベッドで仰向けになった遼一は、そんな宇宙に向かって両目を細めた。
「これが欲しかったら、私の上に乗るんだ。昨夜もやったからできるだろう?」
「う・・・うん・・・」
遼一の上に乗るということは、騎乗位ということである。
昨夜、初めて騎乗位を試してみた。
すると想像以上に宇宙は喜び、新たな快感に酔いしれていた。
下から見上げる宇宙の感じている姿に酔いしれながら、遼一もとろとろに蕩けている蕾の感触を味わい楽しんでいた。
昨夜の快感を身体が覚えている。
遼一の手が上下に揺れると、宇宙の腰も自然と浮いた。
遼一の手が与えてくれる特別な快感を、目いっぱい感じて喘いでいた。
クチャクチャッと、手が上下に揺れるたびに淫らな音がする。
その音を聞きながら、宇宙の快感がもっと増していく。
「宇宙はここをこうされるのが、好きだよね?」
亀頭の部分で指を止め、張っているそこを何度も指の腹で弄る。
「あっ・・・あんっ・・・遼ちゃんーん・・・・・」
「それと、ここもこうされると感じちゃってたまらない?」
と言った遼一の指が、先端の割れ目に小指の先を挿入する。
「あぁぁ・・・・・」
小指はギリギリまで入るそこで止まってしまうが、宇宙に与える快感は最高潮に達していた。
小指を上下に動かし、クチュクチュッと音を立ててやると、宇宙は腰を左右に振って喜んだ。
「あんっ・・・あっ・・・あっ・・・だめぇぇ・・・・・」
遼一のもう片方の手は、根元の部分で上下に動いている。
上と下からの刺激に、宇宙は呆気なく果ててしまう。
「あんっ・・・イッちゃう!」
宇宙のひときわ大きな声。
その声が発せられると同時に、小指が挿入されている先端から白い体液がドピュッと飛び出す。
その勢いで、小指が押し出される。
「あぁぁぁーーーーーーーっ」
絶頂を極めた声が、マッサージルームに響く。
ピクピクッと、白い内股が痙攣する。
「もうイッちゃったの?」
わざと呆れるように、遼一が言う。
顔を見ると、少し笑っているようだった。
わざとイクように愛撫しておいて『もうイッちゃったの?』と呆れてみせるなんて、遼一の意地悪。エッチ。
「いま、エッチって顔したな?」
遼一は、指先で白い飛沫をオイルで混ぜながら、クスッと笑って言う。
宇宙はどうして分かっちゃったんだろうという顔をして、恨めしそうに遼一の男前の顔を見上げた。
どこからどう見ても大人の魅力に溢れているステキな遼一。
こうして見ているだけでも頭の中がポーッとしてくる。
エッチな遼一も、大好き。
「だって・・・」
「私はエッチだよ。宇宙のことになるとエッチになる。宇宙のすべてが欲しいから、宇宙のすべてを見たいから、だからもっとエッチになるんだ。分かった?」
「ーーーーーーうん」
顔を赤らめて、恥ずかしそうに宇宙が返事をする。
こういうときの遼一は、決して反抗できない帝王のような威圧感を持っていた。
あの一件が、遼一の中で眠っていた修羅の心を目覚めさせ、本当の遼一をあらわにしたのがきっかけだったが、宇宙はそんな遼一も腰が砕けてしまいそうなくらい好きだった。
優しい遼一も好き。
でもエッチで強引で、さまざまなことを命令してくれる遼一はもっと好きだった。
「今の返事はとてもよかったよ。素直で可愛くていじらしくてーーーーー」
「遼ちゃん・・・・・」
「その潤んだ瞳もとてもいい。すごくそそられる。もっともっといろいろなことをしてあげたくなる。こんなことも・・・・・・」
と、言った遼一の指が、ヌルンッと滑るように宇宙の蕾の中に入っていく。
「あっ!」
あまりにも突然のことだったので、宇宙はびっくりしたような声を上げ遼一を見上げた。
「遼ちゃん・・・指が・・・入っちゃってる・・・」
蕾の奥深くまで、中指が一本入っている。
「入れたんだから入ってるよ。ほら・・・」
「あんっ。あっ・・・ヌルヌルして・・・動いてるぅぅ・・・」
宇宙が、ベッドの上でのけ反って喘ぐ。
腰が自然に浮いて、前後左右に動いてしまう。
昨夜もずっと遼一の分身を迎え入れていた蕾の内部は、熱くとろとろに溶けていた。
その延長からか、挿入された指を難なく受け止め、時折キュッと締めつけてしまう。
「そんなに締めたら動かせないよ。もっと緩めて・・・」
「そんなこと言われても・・・あんっ・・・無理・・・あぁぁ・・・・・ 」
「無理じゃない。ほら・・・ここから力を抜いて・・・こっちに集中してごらん」
遼一がここと言った箇所は蕾で、こっちと言った部分はいまだに衰えることのない分身の先端だった。
気がつかなかったが、いつの間にかまた先端の割れ目に小指が入っている。
「あんっ・・・そっちもだめぇぇ・・・・・・・」
「どうして?宇宙は挿入されたままここを弄られるのが大好きでしょ?」
「あぁーん、いやいやっ・・・そんなことない・・・」
「正直に言わないと、ずっとこのままにしてるよ。いいの?」
遼一の言葉には、いやらしい冷たさが含まれていた。
その冷たさが、ゾクリとするぐらい心地いい。
「あっ・・・あんっ・・・このままはいやっ」
「だったら正直に言いなさい。宇宙はこっちに指を挿入されたまま小指を突っ込まれるのが好きでしょ?」
「あーんっ、好きっ。大好きっ。蕾に指を入れられて・・・先端に小指を入れられるの大好きっ。もう・・・どうにかなっちゃうぐらい好きなのぉ・・・・・」
そう言った宇宙の瞳に、涙がうっすらと浮かんでいる。
指をのみ込んでいる腰は相変わらず、いやらしい動きをくり返していた。
遼一が、ふふっと満足げに笑う。
「そう、それでいい。私は素直な宇宙が一番好きだよ」
「あんっ・・・遼ちゃん・・・遼ちゃーん・・・・・」
宇宙の蕾に挿入される指が二本に増やされ、そして挿入される。
「あぁぁーーーーーーっ」
ズルッと音がした二本の指は、一気に奥深くまで挿入した。
中は、まるで蝋で溶かされた蜂蜜のように熱くヌルヌルしている。
それは女性の愛液よりも、もっと濃厚なヌルヌル感だった。
「宇宙、どこが一番気持ちいい?」
遼一は、意地悪な質問をしてみた。
宇宙は身体をくねらせて喘ぎながら「全部」と言った。
「全部じゃ分からないよ」
遼一が言う。
宇宙は、気持ちよくてどうにかなってしまいそうな感覚の中で、必死にどこが気持ちいいのか探っていた。
だがそうやって探れば探るほど、どんどんそこが敏感になっていって、もっと感じてしまう。
「あぁぁ・・・いいっ・・・。全部・・・感じるっ・・・」
「だから、全部じゃ分からないって」
くすっと柔らかく笑いながら、遼一が言う。
宇宙は狭いベッドの上で肢体をくねらせながら喘ぎ、そして首を振る。
蕾に挿入されている指先が、一番感じる部分を何度も突っついていたのだ。
しかももう片方の手は、勃起した自身の割れ目を出たり入ったりを繰り返している。
パンパンに張り詰めた宇宙自身は、今にも爆発しそうだった。
「もう・・・どう・・・にかなっち・・・ ゃうっ!」
宇宙が、とぎれとぎれにせつなげに言う。
意識を保つのがとても苦しい状態だった。
チョットでも気を緩めればイッてしまって、その拍子に意識を手放してしまいそうだった。
「指を増やしてあげようか?それとも、このままもう一回、イク?」
遼一の言葉には、愛しさと意地悪さが入り交じっていた。
宇宙は涙ぐんだ瞳でじっと見上げて「ううん」と言って首を振る。
どっちも嫌だと言いたかったのだが、遼一には通じなかった。
「そうか。もう一本、増やしたいのか」
「ち、違うっ・・・あっ・・・遼ちゃん・・・だめっ」
遼一の指が、ズルッと抜ける。
その隙に宇宙が必死に脚を閉じようとする。
だが下半身からはすっかり力が抜けていて、脚を閉じるどころか、膝を立てることもできなかった。
遼一はそんな宇宙の両脚を持ち上げ、自分で抱え込むような格好をさせる。
こうすると、もっと蕾が見えて、しかも奥深くまで指が入りやすかった。
オイルが、白いお尻を伝ってベッドのシーツに落ちていくさまがよく見える。
「いやらしい格好だな、宇宙。お前の恥ずかしい部分まで丸見えだぞ」
と、その格好をさせた遼一が詰るように言う。
宇宙はその言葉を聞いて、耳まで真っ赤にさせて首を横に振った。
「いやいやっ・・・いやっ・・・・・」
「私の指を二本ものみ込んでおきながら、まだ足りないと言って口を広げている。ほら、ピクピクしてる、分かるだろう?」
と、指の腹で蕾の入り口を愛撫する。
するとさっきまで開いていた蕾は、すぐにピクピクッと反応を返して口を広げた。
「宇宙の蕾は本当にいやらしい蕾だな。こんなにいやらしい蕾は珍しいよ」
ラベンダーが最後のお客様を送り出すと、外はもう真っ暗だった。
「ありがとうございました」
二人で丁寧にお辞儀をする。
OLの客は、そんな二人に満足したような笑みを浮かべて帰っていった。
「つ、疲れたぁぁーーーーーっ」
宇宙は店の中に入るなり、ドタッとベッドに横になった。
今日はオープンから手の休まるときがないくらい忙しく、大盛況だった。
初めてということもあって、宇宙はもう、手脚を動かすこともできないくらい疲れ切っていた。
「・・・マッサージ、されたい」
宇宙がボソッとそんなことを呟く。
身体があっちこっちで悲鳴を上げていて、正直そんな気分だった。
するとその一言を耳にした遼一は、うつ伏せで寝ている宇宙の肩にそっと触れた。
「特別にマッサージしてあげるよ。今日は初日で疲れただろうから」
「ほんとに?やったぁーーーーーっ」
素直に喜んで、宇宙が手脚をベッドの上で伸ばす。
そして顔をベッドに開いている穴に当てた。
「よろしくお願いしますっ」
急に元気になった宇宙が言う。
すると遼一はクスクスと笑いながら、宇宙の凝っている肩や背中に触れていった。
「き、気持ちいい・・・。あぁ・・・そこそこ・・・いいぃぃ・・・・・」
「ここ?」
「うん、そこっ。あっ・・・いいっ・・・・・」
遼一がツボを押してくれるので、色っぽい声が自然と出てしまう。
肩から背中、腰まで丹念にマッサージしながら、遼一は嬉しそうにその声を聞いていた。
宇宙の身体にマッサージをしてあげるのは久しぶりだった。
マッサージの仕方を教えている間は、他人の身体で実習し覚えていく。
だから宇宙の身体に触れたり、反対に遼一の身体に触れたりする機会は、夜の甘い時を除けばあまりなかった。
昨夜は、狭いアパートでたっぷりと愛し合った。
だけど、こうしていると、まだ愛し足りないような気がしてくるから不思議である。
「遼ちゃん・・・そこ・・・だめ・・・」
宇宙が、腰のツボを押されると、とたんによがってしまう。
遼一はわざと宇宙の弱いツボを押しながら、宇宙が発する甘い声を楽しんでいた。
セックスしているときとはまた一味違う甘い声。
遼一は耳を擽るような宇宙の喘ぎ声がたまらなく好きだった。
「宇宙。久しぶりにウルトラスペシャルマッサージ、してあげようか?」
不意に、遼一は言った。
その言葉を聞いた宇宙が驚いたように「えっ?」と言って振り返る。
「でも、それはもう誰にもしないって・・・」
「宇宙は別だよ」
「でも、嫌なこと思い出しちゃうんじゃないの?」
宇宙は、亨の囲われ者として過ごしてきた屈辱の十年間を思い出してしまうのではないかと。
そのことが心配だった。
だからもうウルトラスペシャルマッサージも、スペシャルマッサージも二度としないって誓ったはずなのに。
「宇宙のためにしてあげたいんだ」
遼一が、両目を細めて言う。
宇宙はその瞳を見つめて、小さく頷いた。
「・・・遼一がしたいなら・・・」
「ああ、したい。宇宙をウルトラスペシャルマッサージで愛してあげたい」
遼一の言葉には、迷いなどいっさいなかった。
心の底から宇宙を愛したい、そう思ってくれているのが伝わってくる。
宇宙は仰向けにベッドに寝ると、シルクのシャツと黒いスラックスを脱ぎ出した。
そして下着までもすべて脱ぎ捨てると、裸の状態で遼一が来るのを待っていた。
その間に遼一は店の戸締りをして、ブラインドを閉めていた。
遼一が再び宇宙の前に現れると、その手にはベビーオイルが握られていた。
ベビーオイルを見ただけで、宇宙の心臓がドキンッと大きく高鳴ってしまう。
半年前のあのとき、ラブホテルで、たった一度だけしてもらったことがあるウルトラスペシャルマッサージ。
セックスとはまったく異なる快感を与えてくれるウルトラスペシャルマッサージを、実は宇宙は大好きだった。
ずっとしてほしいと、密かに思っていたのも事実なのだ。
「用意はいい?」
遼一が、男前の顔で優しく聞く。
仰向けで寝ている宇宙は、頬をほんのりと朱色に染めながら「うん」と可愛らしく頷いた。
遼一がベッドの横に腰を下ろし、ベビーオイルをたっぷりと手にとる。
そしてとろりと垂れるベビーオイルを、直接宇宙の分身の根元に垂らした。
「あっ・・・」
たったそれだけのことなのに、とたんに喘ぎ声が上がる。
宇宙の分身は、ウルトラスペシャルマッサージを期待してか、もうすっかり勃起していた。
ピクンピクンッと、遼一の前で動いている。
「もう、感じてるの?」
「だって・・・久しぶりだから・・・」
宇宙は顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で見つめる。
遼一は、オイルがたっぷりと付着した手で、そんな分身をやんわりと包み込んだ。
「あんっ」
また、宇宙の口が上下に開く。
ベビーオイルの感触は、ヌルヌルしていてとても甘美な感じがした。
口で愛撫されているときと、少し違う。
もっと刺激的で、もっと熱くて、もっと官能的で。
でも、遼一の口で愛撫されるのも大好きな宇宙。
「あっ・・・遼ちゃん・・・」