東京スペシャルナイト 上 2
- 2015年12月06日
- 小説, 東京スペシャルナイト
『心と身体のリラクセーション』
心も身体もボロボロに疲れきっていた宇宙の目に飛び込んできたのは、通勤途中にあるオフィスビルの最上階にできた、マッサージ店の看板だった。
「心も身体も・・・リラクセーション。いい響きだなー。リラクセーションで癒やされてみたいな・・・」
学校からの帰宅途中だった宇宙は、リラクセーションという言葉に引き寄せられるようにエレベーターに乗った。
スーツ姿の宇宙だったが、なんだか肉体と一緒でその外見もよれよれに疲れている。
エレベーターの鏡に映っている自分の疲れた顔をマジマジと見つめた宇宙は、思わずため息を漏らした。
ジャニーズ系の超美形な先生・・・と子供たちの間で言われたことも、遠い昔のように感じてしまう今日この頃である。
こんなはずじゃなかったんだけどなー。
もう一度深いため息を漏らして、宇宙が心の中で呟く。
するとエレベーターが最上階で止まり、ドアが開いた。
そこには、リラクセーションという言葉がピッタリの、グリーンとベージュを基調にしたとても落ち着いた雰囲気の受付があった。
美しいクラシック音楽も流れている。
「いらっしゃいませ」
白いブラウス姿の女性が、宇宙を見て爽やかに笑う。
三ヶ月前は自分も、きっとあんなふうに爽やかに笑っていたんだろうなーと思いながら、カウンターに近づいた。
「初めてなんですが・・・」
「はい。ではこちらにご記入をお願いします。本日のメニューはどうなさいますか?初めての方にはこちらのAコースがお勧めですが・・・」
受付の女性が指し示したメニュー表には、足裏マッサージ二十分と通常のマッサージ二十分がセットになったコースがあった。
足の裏もマッサージしてくれるんだ。
それって、いいかも。
値段もAセットだったら三八〇〇円で手頃だし。
宇宙は迷わず「Aセットでお願いします」と言った。
ソファに座り、用紙にいろいろと書き込んでいく。
いつからどこがどのように具合が悪いのかとか、凝っている部分はどこかとか。
身体で調子が悪いところはどこか、とか・・・。
なんだか本格的なんだな? と感心しながら、宇宙は書き終えた用紙を受付嬢に手渡した。
「では、こちらでガウンに着替えてお待ちください。すぐに担当の者が参りますので」
二畳ほどのライトグリーンに統一された個室に案内された宇宙は、ヒーリング・ミュージックが流れている中でスーツを脱ぎ、部屋の隅に用意されている薄いガウンに袖を通した。
とてもよい香りがする。
ライトグリーンで落ち着いた部屋に森林の香り?
なんだかこの部屋にいるだけでも十分に癒されるような気がして、宇宙はここに来たことに満足していた。
白いシングルサイズのベッドに腰を下ろしながら、しばらく心地のよい音楽と香りに身を委ねていた。
「失礼します」
ノックされると同時にドアが開き、白いオープンカラーのシャツに黒いスラックス姿の男性が現れた。
「失礼します」
二十代後半と思えるその男性は、端正な顔立ちにうっとりするぐらい低音の甘い声をしていた。
「は、はい。どうぞ」
妙に緊張して、宇宙がベッドから立ち上がる。
マッサージ師の男性は、サラサラの長い前髪を掻き上げるようにして、宇宙を見つめた。
「初めての方ですね。本日はAコースでよろしいですか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
近くで見ると、その男性の顔はますますステキだった。
太い眉と少し厚めの唇。
鼻筋の通った綺麗な顔立ち。
女性に人気のある、反町なんとかという俳優に似ている。
いや、それ以上かもしれないと、宇宙は思った。
宇宙の担当のマッサージ師は、驚くほど格好よくてダンディでステキだった。
思わず、男の宇宙が見惚れてしまうくらい・・・。
「では、最初は足の裏のマッサージから始めますので、ベッドに仰向けで寝てください」
「はいっ」
ぼんやりと見惚れていた宇宙は、ハッとして膝丈ほどのガウン姿で言われたとおりに白いシーツのベッドに仰向けになる。