COMITIA115参加決定!!

この度、何と『COMITIA115』に参加することになりました!!

 

雅桃子のスペースです!!

 

是非イベントにいらして下さね。お待ちしております(*^^*)

 

 

 

COMITIA115

 

日時    2016年1月31日(日)   11:00 〜 16:00

場所    有明・東京ビッグサイト東5・6ホール

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 2

 

『心と身体のリラクセーション』

 

心も身体もボロボロに疲れきっていた宇宙の目に飛び込んできたのは、通勤途中にあるオフィスビルの最上階にできた、マッサージ店の看板だった。

 

「心も身体も・・・リラクセーション。いい響きだなー。リラクセーションで癒やされてみたいな・・・」

 

学校からの帰宅途中だった宇宙は、リラクセーションという言葉に引き寄せられるようにエレベーターに乗った。

 

スーツ姿の宇宙だったが、なんだか肉体と一緒でその外見もよれよれに疲れている。

 

エレベーターの鏡に映っている自分の疲れた顔をマジマジと見つめた宇宙は、思わずため息を漏らした。

 

ジャニーズ系の超美形な先生・・・と子供たちの間で言われたことも、遠い昔のように感じてしまう今日この頃である。

 

こんなはずじゃなかったんだけどなー。

 

もう一度深いため息を漏らして、宇宙が心の中で呟く。

 

するとエレベーターが最上階で止まり、ドアが開いた。

 

そこには、リラクセーションという言葉がピッタリの、グリーンとベージュを基調にしたとても落ち着いた雰囲気の受付があった。

 

美しいクラシック音楽も流れている。

 

「いらっしゃいませ」

 

白いブラウス姿の女性が、宇宙を見て爽やかに笑う。

 

三ヶ月前は自分も、きっとあんなふうに爽やかに笑っていたんだろうなーと思いながら、カウンターに近づいた。

 

「初めてなんですが・・・」

 

「はい。ではこちらにご記入をお願いします。本日のメニューはどうなさいますか?初めての方にはこちらのAコースがお勧めですが・・・」

 

受付の女性が指し示したメニュー表には、足裏マッサージ二十分と通常のマッサージ二十分がセットになったコースがあった。

 

足の裏もマッサージしてくれるんだ。

 

それって、いいかも。

 

値段もAセットだったら三八〇〇円で手頃だし。

 

宇宙は迷わず「Aセットでお願いします」と言った。

 

ソファに座り、用紙にいろいろと書き込んでいく。

 

いつからどこがどのように具合が悪いのかとか、凝っている部分はどこかとか。

 

身体で調子が悪いところはどこか、とか・・・。

 

なんだか本格的なんだな? と感心しながら、宇宙は書き終えた用紙を受付嬢に手渡した。

 

「では、こちらでガウンに着替えてお待ちください。すぐに担当の者が参りますので」

 

二畳ほどのライトグリーンに統一された個室に案内された宇宙は、ヒーリング・ミュージックが流れている中でスーツを脱ぎ、部屋の隅に用意されている薄いガウンに袖を通した。

 

とてもよい香りがする。

 

ライトグリーンで落ち着いた部屋に森林の香り?

 

なんだかこの部屋にいるだけでも十分に癒されるような気がして、宇宙はここに来たことに満足していた。

 

白いシングルサイズのベッドに腰を下ろしながら、しばらく心地のよい音楽と香りに身を委ねていた。

 

「失礼します」

 

ノックされると同時にドアが開き、白いオープンカラーのシャツに黒いスラックス姿の男性が現れた。

 

「失礼します」

 

二十代後半と思えるその男性は、端正な顔立ちにうっとりするぐらい低音の甘い声をしていた。

 

「は、はい。どうぞ」

 

妙に緊張して、宇宙がベッドから立ち上がる。

 

マッサージ師の男性は、サラサラの長い前髪を掻き上げるようにして、宇宙を見つめた。

 

「初めての方ですね。本日はAコースでよろしいですか?」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

近くで見ると、その男性の顔はますますステキだった。

 

太い眉と少し厚めの唇。

 

鼻筋の通った綺麗な顔立ち。

 

女性に人気のある、反町なんとかという俳優に似ている。

 

いや、それ以上かもしれないと、宇宙は思った。

 

宇宙の担当のマッサージ師は、驚くほど格好よくてダンディでステキだった。

 

思わず、男の宇宙が見惚れてしまうくらい・・・。

 

「では、最初は足の裏のマッサージから始めますので、ベッドに仰向けで寝てください」

 

「はいっ」

 

ぼんやりと見惚れていた宇宙は、ハッとして膝丈ほどのガウン姿で言われたとおりに白いシーツのベッドに仰向けになる。

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 1

※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは、いっさい関係ありません。

 

この物語の主人公は、小学校の教師になったばかりの二十四歳。

 

名前は『春日宇宙』。

 

宇宙と書いて、そらと読む。

 

広大でとってもいい名前である。

 

宇宙の容姿はというと、一見女性のように綺麗な顔立ちをしていた。

 

唇は品のよい形をしていて瞳は薄茶色、大きな二重で、少し長めの髪を自然に流している美形の青年といった感じだった。

 

背はあまり高くなく、腰も華奢で細身なため、男性の逞しさよりも女性の可憐さを連想させた。

 

そんな宇宙が、可愛くて無邪気な子供たちが集う小学校の教師になるという夢を果たし、憧れだった教壇に立った。

 

そして、教師になった喜びと熱意をわかりやすく熱く語った。

 

しかし語った・・・ところまではよかったのだが、実際は誰も宇宙の言うことなど聞いていなかった。

 

まぁ、教師の話を聞かないなんて、そんなことはよくあることである。

 

だが感情をこらえる宇宙をあざわらうかのように、教室の中でドタンバタンッと暴れる子供たち。

 

後ろの席の子と喧嘩して泣いている子供もいる。

 

消したばかりの黒板には、いつの間にか所狭しと落書きされて、掃除をしたばかりの床はゴミだらけ。

 

少しもじっと席に座っていない子供たち。

 

最初はそのうちに言うことを聞いてくれるだろうと高をくくっていた宇宙だったが、実際はそんな甘いものではなかった。

 

入学式からずっと、宇宙の受け持つ一年三組は騒がしかった。

 

学級担任になって三カ月が経ち、他のクラスは授業を受ける態勢が整っているというのに、宇宙のクラスだけは毎日ドンちゃん騒ぎだった。

 

頭の中に描いていた、可愛くて愛らしくて無邪気な子供たちのイメージが、日々崩れていくのだ。

 

それもこれも、悪ガキ集団のせいだった。

 

三組のリーダー的存在である一人の男の子。

 

その子が、クラスの静けさと平穏を奪い去っていた。

 

「・・・・国くん。机から下りて、もう少し静かにしてくれると嬉しいんだけどな」

 

今朝も机の上で仁王立ちになっている悪がきのボスである国ちゃんに、宇宙が顔を引きつらせながら言う。

 

ベッカムカットの国ちゃんは、右手に持っている一メートルの物差しを刀のように構えて宇宙に言った。

 

「だーめ。今は俺、暴れんぼう将軍やってるんだから」

 

「あ、暴れんぼう将軍?」

 

「そっ。俺が将軍様だぜ。先生、よかったらお姫様にしてやるけど?」

 

「僕がお姫様?」

 

小学一年生がそんな時代劇を見ているのかと呆れながらも、宇宙はめげずに言った。

 

「だけど、もうすぐ一時間目が始まるよ。暴れんぼう将軍ごっこは休み時間にしなさい」

 

と、と言っても、素直に聞く相手ではない。

 

国ちゃんは、宇宙の言うことなど頭から無視して、悪ガキたちとチャンバラを始めてしまった。

 

数人が机の上を次から次へと飛び移り、教室内は大騒ぎである。

 

「少し静かにしてくださいっ!授業ができないでしょう!」

 

いつものように、隣のクラスからクレームが飛んでくる。

 

宇宙はペコペコと頭をさげて他の教師に謝りながら、ドアを閉めた。

 

「お願いだから・・・静かにして・・・。ねっ、国ちゃん?」

 

どうしても子供を怒ることが出来ない宇宙は、最後にはいつも暴れんぼう将軍の国ちゃんに懇願する。

 

すると国ちゃんは気が済んだのか、やっと机の上から下りて椅子に座った。

 

それにつられて、他の悪ガキたちも渋々と席に着く。

 

「・・・しょうがないな、先生可愛いから許してやるよ。でもちょっとでも飽きたら、またやるからね」

 

「あっ・・・はは・・・・・・」

 

宇宙は思わず苦笑いをしてしまう。

 

これでやっと授業ができる。

 

いつものことながら、宇宙は朝からどっと疲れてしまっていた。

 

僕の描いていた教師像って、こんなのだった?

 

もっと希望と熱意に溢れていて、子供たちも先生の一挙一動に注目していて、いつも『は〜い』という可愛い声で返事をしてくれる。

 

それが小学校の教師なのではないだろうか?

 

しかし現在は全然違う。

 

可愛いはずの他の子供たちまでもが、悪魔のように見えてくる。

 

宇宙は今、思うように言うことを聞いてくれない子供たちを目の前に、自分の力のなさを痛感していた。

 

そして同時に、とても疲れてしまっていた。

 

せめてもう少し、国ちゃんが素直に言うことを聞いてくれたら。

 

このクラスも静かに授業を受けてくれるようになるのに。

 

宇宙は、心の中でいつもそう思っていた。