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東京スペシャルナイト 下 17

ヌプッと音がして、三つ目のパールが挿入されていく。

 

「あうっ・・・あぁぁ・・・だめぇ・・・・・」

 

呻くように言った宇宙の眉間に皺が寄る。

 

蕾の入り口は蝋の熱によって十分に解れて柔らかくなっていたが、内部はまだ解れていなかった。

 

時間的に余裕がなかったため、最初から媚薬を使うつもりだったのだが、遼一が瓶を割り、媚薬をダメにしてしまった。

 

媚薬を塗り込めていればパールのバイブを挿入されるたびに、おかしくなるくらい感じまくって喘ぐはずだ。

 

だが媚薬がないのだから、仕方がない。

 

パールの感触を、まだ未熟な肉壁は快感として受け止められなくてもしょうがなかった。

 

それに、傷ついてかわいそうなどという情は、亨も恭也も持ち合わせていなかった。

 

宇宙が傷つこうが傷つくまいが、そんなことは関係なかった。

 

「あっ・・・もう・・・・・入らないっ」

 

三つ目のパールをのみ込んだ宇宙が、呻くように訴える。

 

だがまだアナル用のパールバイブは、だいぶ残っていた。

 

「三つで降参か?だらしがない、最初の勢いはどこにいったんだ?ここに突っ込まれるのは初めてじゃないんだろう?」

 

恭也はくくっと笑いながら言う。

 

遼一に散々突っ込まれているはずだ・・・とでも言いたげな口調だった。

 

だがそれもたった一度きりで、しかもひんやりとして冷たい玩具を受け入れて感じるほど、慣れてはいなかった。

 

蝋燭の蝋で蕾の入り口は解れていても、中の肉壁までは異物を受け入れるほど十分に柔らかくなってはいなかった。

 

それを承知で、恭也が四つ目のパールを押し込んでいく。

 

「うっ・・・うぁ・・・あぁ・・・・・だめっ」

 

どんどんと迫ってくる圧迫感。

 

身体の中心部分に次々と巨大なパールを挿入される違和感。

 

苦痛は少ししか感じなかったが、腹の中がいっぱいになっていくような不思議な感覚はあった。

 

「四つ目・・・ と・・・」

 

恭也が、嬉しそうにそう言いながら宇宙の蕾に四つ目のパールを押し込んでいく。

 

「あっ・・・だめっ・・・入らないっ・・・」

 

「だめじゃなくて、ちゃんとのみ込め。パールはまだこんなに残ってるんだ・・・」

 

「いやっ・・・あっ・・・入れないでっ」

 

「入れないでと言われると、無理やりにでも入れたくなるんだよ、俺は」

 

そう言った恭也の手に、ググッと力がこもる。

 

バイブは押し込まれ、四つ目のパールが宇宙の蕾の中に消えていった。

 

「あぁぁ・・・・・・・・・・」

 

宇宙は、どうしても拒むことのできないパールの感触に首を振って喘いだ。

 

だが喘げば喘ぐほど、ロープがきつくなっていって、どんどん動けなくなっていく。

 

どんどん両脚が左右に開き、もっと奥へとバイブを導くことになってしまう。

 

一人のヤクザはパールが可愛い蕾にのみ込まれていく様を、アップにして撮り続けた。

 

蝋を取り去ってやったばかりの分身が、ピクピクッと何度も震えている。

 

「あっ・・・あんっ・・・お願い・・・抜いて・・・」

 

宇宙は喘ぎながらも、バイブを抜いてほしいと哀願した。

 

だが恭也の手は、止まらない。

 

椅子に座ってその様子を見ている亨も、さっきから顔が緩みっぱなしだった。

 

下手なまな板ショーよりもずっとそそられ、ゾクゾクした。

 

宇宙の喘ぐ姿やロープに縛られているいやらしい姿が、亨の下半身を硬くさせていた。

 

股間がパンパンに張っているのが分かる。

 

「もう・・・やめてくださいっ」

 

遼一は、涙を流しながら亨に向かって訴えた。

 

すぐそばで愛する宇宙が弄ばれているというのに、助けてあげることも手を差し伸べてやることもできないのだ。

 

己の無力さに絶望を感じながら、遼一は亨の足元に縋った。

 

亨はそんな遼一を見据え、ふふっと笑う。

 

「・・・・・助けてやらないこともない」

 

亨のその言葉は、天の助けのように感じられた。

 

遼一は、必死に亨を見上げる。

 

「ど、どうすればいいんですか?」

 

答えは分かっている。

 

「答えは簡単だ。いつものように俺を楽しませればいい」

 

やはり、亨は遼一の手と口技を望んでいた。

 

宇宙が感じている姿を見ながら自分も感じるつもりなのだ。

 

「どうした?宇宙の気がふれるまで犯されるところを見たいのか?」

 

無情な亨の言葉に、遼一は激しく首を横に振った。

 

机の上には浣腸器やムチ、もっと太いバイブまでさまざまな仕置き道具が揃っているのだ。

 

あんなもので宇宙を責められたら、本当に殺されてしまう。

 

遼一は迷わず、自分のプライドを捨てる決心をした。

 

「言われたとおりにします。だから宇宙は・・・・・」

 

「早くしろっ。俺の気が短いことぐらい知っているだろう?」

 

椅子から立ち上がった亨が、ベッドに腰を下ろして怒鳴るように言う。

 

「・・・はい」

 

遼一は床からベッドにはい上がると、そのまま亨のスラックスのファスナーを下げた。

 

いつもしている行為なのに、とても汚らわしい行為に思えてしょうがなかった。

 

いつもはこんな屈辱など感じないのに。

 

ただ義務的にそれが仕事なのだと思いながらしてきた行為なのに。

 

「どうした?やる気がないのか?それとも、マッサージの仕方を忘れたか?」

 

亨は、勃起した自身を見下ろして言った。

 

両手でそれを握りしめ、遼一がゆっくりとマッサージを始める。

 

何百回となくやってきた行為なのに、こんなにつらいと思ったのは初めてだった。

 

それと同時に、亨の命令を聞かなければならない自分自身が無性に情けないと感じた。

 

「あっ・・・あっ・・・だめっ・・・遼一っ。そんなこと・・・しちゃだめっ・・・」

 

宇宙は、自分のために遼一が亨の言いなりになっていることに気づいた。

 

遼一が背を向けているのでベッドの上での行為は見えなかったが、だいたいの想像はついた。

 

以前遼一にやってもらったことのある、スペシャルマッサージをしているのだ。

 

もう決して亨の言いなりにはならないと決心したのに。

 

遼一が、自分のためにその決心を破ろうとしている。

 

「やめてぇぇーーーーー・・・遼一っ」

 

宇宙はパールのバイブで串刺しにされたまま、遼一に向かって叫んだ。

 

遼一の背中がピクっと震える。

 

だが、遼一は両手を動かすことをやめなかった。

 

「うるせーな。お前は黙ってこれでも銜えてろっ」

 

と、言った恭也は、机の上からボールが付いた口枷を一人のヤクザに取らせた。

 

そして革製の口枷を、宇宙の口に嵌めていく。

 

「あっ・・・やだっ・・・んっ・・・ぐぅう・・・・・・・」

 

ボールを銜えるように口枷を嵌められてしまった宇宙は、首を振ってもがいた。

 

だが、頭の後ろできつく縛られてしまった口枷は、宇宙の力では外すことはできなかった。

 

無理に開かせられた口端から、唾液がツーッと滴り落ちていくのが分かる。

 

「んぐっ・・・んんーーーーーっ」

 

宇宙が何かを訴えようとする。

 

だが口中ボールに阻まれ、言葉にはならなかった。

 

遼一が、そんな宇宙を振り返る。

 

「やめろっ。それ以上ひどいことをするなっ!」

 

と叫んだものの、すぐに亨に前を向くように命令され、遼一は奥歯を噛みしめながら手を動かした。

 

宇宙を救ってやる方法はただ一つ。

 

亨にマッサージをして喜んでもらって、宇宙への怒りをなんとか鎮めてもらうしかない。

 

到底、納得できない答えだったが、今はそれしかなかった。

 

こんなことになるんだったら、宇宙を愛さなければよかった。

 

そんな考えが浮かんだが、それは切り捨てた。

 

宇宙を愛したことは悔やんでいない。

 

宇宙に巡り合えてよかったと思っている。

 

だが、やはり考えが甘かったのだ。

 

愛の力があればなんとかなる。

 

亨を説き伏せることができると、簡単に思い込んでいた自分自身に腹が立った。

 

「そうだ。いいぞ・・・もっと根元までちゃんとやるんだ」

 

亨が、気持よさそうに呻きながら言う。

 

遼一は手にオイルをたっぷり付けると、いつもやっているように上下に揺らして愛撫していった。

 

クチャクチャッと、淫らな音が病室に響く。

 

グチャグチャッと、宇宙の蕾を出入りするパールのバイブの音も交じっていく。

 

「んんっーーーーーーっ」

 

四つまでパールをのみ込んだ宇宙は、五つ目のパールをのみ込まされている最中だった。

 

小指の先ほどもあるパールが、もう四つも蕾の中に入っている。

 

感覚的には、もういっぱいいっぱいだった。

 

だが恭也はもっと入れようとしている。

 

もっと奥のほうまで、パールで犯そうとしていた。

 

「ぐぅ・・・・・んんっ・・・・・」

 

宇宙が苦しそうに、くぐもった声を上げる。

 

その声を聞いた遼一は、両手を巧みに動かしたまま亨に言った。

 

その問いに、気持ちよさそうに両目を閉じていた亨がくくっと笑う。

 

「誰が助けてやると言った?お前が勝手にそう思っているだけだろう?だが、そこにあるすべての道具を使って死ぬほど責めるのはやめてやる。適当に・・・責めてやる。お前の柔順さに免じてな」

 

亨の非情な言葉に、遼一の両手が震えた。

 

「どうした?手が止まってるぞ?」

 

遼一が、憤りから涙で溢れている瞳を向けて、亨を睨みつける。

 

「いいのか、そんな目で睨んで?俺のひと声で宇宙を殺すこともできるんだぞ?」

 

遼一のオイルで濡れている手が、怒りで震えてしまう。

 

どうしようもない怒りと憎悪が、遼一の中で暴れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 16

亨は、宇宙が感じる姿をもっと見たいと思った。

 

そして一人のヤクザに、机の上に並べてあるアナルバイブで責めるように命令する。

 

まだ若いヤクザが手に取ったアナルバイブは、大きなパールが一列に並んだバイブだった。

 

アナル初心者向けのそのバイブは、挿入した後、手元のスイッチで振動するようになっていた。

 

それを見た遼一は、ガシャガシャと足枷を鳴らして宇宙の名を呼ぶ。

 

「宇宙っ!?しっかりしろ宇宙?」

 

その声に正気に戻った宇宙は、少し離れた床に伏している遼一を見つめた。

 

遼一は枷の嵌められた足首から大量の血を流している。

 

「遼一・・・足・・・血が・・・流れている・・・」

 

「宇宙、すまないっ。私のせいで・・・こんなことになってしまって・・・。こんなひどい目に遭わされてしまって・・・」

 

遼一が、涙を流しながら訴える。

 

だが宇宙は、小さく喘ぎながら「ううん」と言った。

 

「そんなことない・・・。絶対に遼一を助けてみせるって・・・約束したから。あっ・・・二人で幸せになろうって・・・約束したから・・・」

 

宇宙は惨めな姿のまま、喘ぎながらそう言った。

 

唇を噛みしめた遼一が思わず目を閉じる。

 

もうこれ以上、悲惨な宇宙の姿を直視することができなかった。

 

真っ赤な蝋で塗り固められた乳首。

 

両脚は左右に割り開かれ、蝋から解放された分身は、クチャクチャと淫らな音を立てて恭也の手の中で震えていた。

 

自分にさえ出会わなかったら、こんなひどい目に遭わなくて済んだのに。

 

自分のせいで宇宙の運命や人生が大きく変わってしまったのだ。

 

どうしたらいいのだろうか?

 

この危機から脱して宇宙を救い出すには、いったいどうしたらいいのだろうか?

 

遼一が考えを巡らせている間に、アナルバイブが恭也の手に渡される。

 

パールが一列に並んでいる細身のバイブは、アナルを最高に感じさせるように工夫されていた。

 

恭也は、そのバイブを宇宙に見せびらかすようにしてスイッチを入れた。

 

するとパールの一つ一つが振動し、ブルルッと震える。

 

「今からこのバイブをお前の尻の中に入れてやる。どこまで入るか、楽しみだな?」

 

恭也が面白そうに言うと、遼一がカッと両目を見開き、床を拳で何度も叩く。

 

だがどんなにもがいても、宇宙には届かない。

 

「お前はそこで見物していればいい。亨様を裏切ったらどういうことになるか、たっぷりと思い知るんだな」

 

「よせっ、やめろっ。恭也・・・頼む・・・やめてくれ・・・」

 

遼一が涙を流して訴える。

 

だが恭也は、そんなもがき苦しむ遼一を見るのが楽しくて仕方がなかった。

 

亨の囲われ者として一目置かれていた遼一のこんな姿は、滅多にお目にかかれるものではなかった。

 

いつも目障りだった遼一の心を踏みにじることが、こんなにも楽しくて愉快だったとはまったく知らなかった。

 

ヤクザたちに宇宙の身体を押さえさせ、恭也が蝋を取り去ったばかりの蕾にパールの先端を押しつける。

 

蝋の熱によって想像以上に柔らかく解れている宇宙の蕾は、すぐにそのパールをのみ込みんだ。

 

「まず、一つ・・・」

 

恭也がそう言いながら、バイブを蕾の内部へゆっくりと押し込んでいく。

 

「あっ・・・遼一・・・見ないでっ」

 

宇宙は、自分が今されている行為が恥ずかしくて、思わずそう叫んでいた。

 

こんな破廉恥な姿で巨大なパールを一つずつのみ込んでいく姿を、愛する遼一にだけには見られたくないと思ったのだ。

 

こんな無様な姿を見られてしまったら、きっと遼一はもう自分を愛してくれなくなる、そう思ったのだ。

 

「そら・・・二つ・・・」

 

恭也がそんな宇宙の心をあざ笑うかのように、二つ目のパールを挿入した。

 

「あぁぁ・・・・・・・遼一っ・・・」

 

パールの圧迫感に、宇宙がのけ反るようにして喘ぐ。

 

恭也の手に握られているバイブのパールは、まだ10個ほども残っていた。

 

「この間、身体を売るのが嫌だと言って逃げ出した男にこのパールを根元まで一気に押し込んでやったが、あと少しというところで気を失った。果たしてお前はどうだろうな、宇宙?ちゃんと全部のみ込めるかな?」

 

恭也はニヤッと笑ってそう言った。

 

それを聞いていた遼一の心の奥底にまだ微かに残っていた、闘争心に火がつく。

 

「そら、三つ目だ」

 

宇宙の蕾の中に、三つ目のパールが押し込まれた。

 

 

東京スペシャルナイト 下 15

「分かりました」

 

ニヤッと笑って、恭也が蝋を再び垂らしていく。

 

真っ赤に溶けた蝋は、ポタポタッと内股から股間へと落ちていく。

 

「あっ・・・あひっ・・・ひぃぃぃ・・・・・」

 

蝋が、足の付け根に落ちる。

 

とたんに宇宙の下半身が飛び上がった。

 

だが苦痛を感じての反応ではなく、むしろその逆だった。

 

 

「あっ・・・あっ・・・熱い・・・ぃぃ・・・・・・」

 

「熱くて気持ちいいんだろう?そら、ここにも垂らしてやるぞ」

 

そう言った恭也の手から落ちた蝋は、剥き出しになった双玉の上に落ちる。

 

「あぁぁ・・・・・・・・」

 

その瞬間、ひときわ色っぽい喘ぎ声を上げて宇宙は床の上でのけ反った。

 

今までの箇所など問題にはならないくらい、そこは熱く感じた。

 

そしてすぐに蝋は冷めて固まるが、いつまでもじんじんとしていて熱いのだ。

 

熱くて熱くて、気持ちいい。

 

「そら、ここはどうだ?もっと気持ちいいぞ?」

 

恭也の手が少し動く。

 

蝋が落ちたところは、剥き出しになった蕾の周りだった。

 

「ぎゃ・・・っ・・・」

 

子猫のような短い悲鳴が、宇宙の口から飛び出る。

 

遼一は宇宙の蕾に次々と落ちていく真っ赤な蝋を見つめたまま、亨に哀願した。

 

「お願いだからやめさせてくださいっ。私が代わりになりますから。どんなことでもしますから。もうあなたから逃げたいなんて言いませんから。だからどうか・・・お願いですっ・・・」

 

遼一は足首を傷つけ、幾筋もの血を流しながら亨に向かって訴えた。

 

だが亨の機嫌はそんなことでは直らない。

 

一度傷つけられたプライドを修復するには、まだ宇宙をいじめる必要があった。

 

宇宙をいじめて泣かすことで、遼一の心をもっとひどく傷つけることができるのだ。

 

遼一の目覚めた修羅の心と反抗心を削ぐには、この方法が一番だと亨は心の中で思っていた。

 

遼一自身をどんなに責めても、遼一は心を変えないことは分かっていた。

 

だが、遼一が愛している宇宙を目の前で嬲り者にして仕置きをすれば、遼一はきっと自分から折れてくる、そう思ったのだ。

 

亨のその考えは、間違っていなかった。

 

遼一が涙を流しながら哀願してくる。

 

なんでもすると言ってきた。

 

亨は内心、高笑いをしたい心境だった。

 

「もっともっと責めろ。責めれば責めるほど、そいつは感じるはずだ。遼一のスペシャルマッサージを受け、身体が快感を覚えている。熱さや苦痛も快感として受け止める身体になっているはずだからな」

 

亨の言葉は真実だった。

 

最初は熱さしか感じなかったのに、蝋が垂らされた瞬間のあの感覚に慣れてくると、どういうわけか熱さより快感の方が増していった。

 

蝋の熱さが、感じてしまうのだ。

 

双玉や蕾に落とされた蝋に感じてしまって、自分でもどうしようもなかった。

 

卑猥な喘ぎ声が自然と漏れ、まるでもっとと媚びるように、腰を振ってしまうのだ。

 

ロープでぐるぐる巻きにされているのに、まるで娼婦のように腰を振ってしまう。

 

「感じてきたようだな?遼一が気に入っただけあって、素直で柔順な身体だ」

 

亨は、椅子に座ったままふふっと笑った。

 

宇宙の反応やいやらしい姿に、十分に満足している笑いだった。

 

恭也がそんな亨の心中を察して、最も敏感な箇所に蝋を移していく。

 

蕾や双玉を真っ赤に固まらせた蝋は、先ほどから勃起してピクピクと動いている分身の根元に落ちた。

 

「あひっ・・・ひぃぃ・・・」

 

ピクピクッと、分身の先端が痙攣する。

 

「や、やめて・・・そこだけは・・・」

 

「やめて?そうじゃない、もっとだろう?」

 

恭也はそう言って、蝋を先端に向かってポトポトッと垂らしていく。

 

「きぃ・・・あひぃーーーーーーーっ」

 

宇宙の勃起した分身が、見る見るうちに真っ赤に固まっていく。

 

「いやっ・・・あっ・・・熱い・・・熱いよぉーーーーっ」

 

宇宙が思わず泣き叫ぶ。

 

だんだんと蝋の熱さに慣れてきたとはいえ、神経が集中している最も敏感な箇所だけはもろに熱かった。

 

火傷をしてしまうのではないだろうかと思うぐらい、熱い。

 

「あぁぁ・・・・・っ」

 

先走りが周りで濡れていたために、最初は固まった蝋が腹の上に落ちてしまっていた。

 

だが続けて何度も蝋を垂らしているうちに、滑らなくなりその場で固まった。

 

蕾から双玉、そして分身が真っ赤な蝋で固まっていく。

 

「ゆ、許して・・・うぇっ・・・えぇっ・・・」

 

宇宙は、いつの間にか泣きじゃくっていた。

 

熱さと快感に耐えられず、理性と感情をコントロール出来なくなっていた。

 

そんな宇宙をせつなそうに見ていた遼一は、心がズキッと痛むのを感じていた。

 

宇宙が泣くと、遼一の心に激痛が走るのだ。

 

どうしようもないせつなさに襲われる。

 

自分自身がひどい拷問を受けているときよりも、心も身体も何十倍も痛んだ。

 

せっかく目覚めた修羅の心が、萎えていくのが分かる。

 

亨に対して反抗心や敵対心が、どんどんなくなっていく。

 

「もう・・・やめてぇぇーーーーー」

 

宇宙が堪えきれずに泣き叫んだ。

 

蝋が、先端にポトリッと落ちたのだ。

 

その瞬間、ピクピクッと激しく痙攣した分身からは、白い体液が飛び散った。

 

それは、蝋の熱さと快感で宇宙が今までにない絶頂を極めてしまった瞬間だった。

 

「ふふっ・・・。嫌だ嫌だと言っても、身体は正直だな?こんなに喜んでいるじゃないか?」

 

恭也はいったん蝋を垂らすのをやめて、宇宙の分身の先端から白い飛沫が飛び散るさまを見つめていた。

 

勢いがあるその飛沫は、胸のあたりまで飛んでいた。

 

真っ赤に固まった蝋の上に白い体液が飛び散る。

 

そのさまはひどく淫靡でいやらしくて、恭也も思わずゾクリと背筋を震わせた。

 

「いやっ・・・あぁぁ・・・いやぁぁ・・・・・・・」

 

全部吐き出したのに、まだ絶頂感が遠のいていかない。

 

宇宙はずっと頂点に上り詰めたまま、首を左右に振った。

 

「宇宙!?しっかりしろ・・・宇宙?」

 

遼一が、そんな宇宙に声をかける。

 

だが宇宙は、遼一の声が届いていないのか、ただ首を左右に振っているだけだった。

 

今までにない絶頂感を味わったために、意識が朦朧としているのだ。

 

「宇宙・・・」

 

遼一は、また胸がギューッと締めつけられるように痛むのを感じた。

 

このままでは本当に宇宙の身体が殺されてしまう。

 

宇宙の精神が壊されてしまう。

 

「このぐらいで音を上げられたんじゃ困るな・・・。最高のビデオを撮るんだからな」

 

冷たい口調でそう言った恭也は、左手で蝋燭を持ち替えて、床に転がっている宇宙の分身に右手を伸ばした。

 

そして真っ赤な蝋で固まっている分身を握り、そのまま上下に扱いてやる。

 

「ああぁぁーーーーーーっ」

 

すると、固まっていた蝋がボロボロと腹の上に落ちて、さっきよりもずっと艶やかな朱色になった分身が姿を現した。

 

先端に付いている蝋も丁寧に取り去り、二、三度軽く扱いてやる。

 

「あんっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

すると驚いたことに、剥き出しになった分身は艶やかさを増したばかりか、蝋を垂らされる前よりもずっと感じるようになっていた。

 

何倍にも敏感になった分身を愛撫され、宇宙は甘い声を上げて腰をくねらせる。

 

恭也の手が、蝋で固まっている双玉をギュッと握り、その奥の蕾を覆っている蝋までも、丁寧に取り去っていく。

 

「あっ・・・・あっ・・・あんっ・・・・・・・・」

 

もう宇宙は、喘ぎ声を上げて身悶えるしかなかった。

 

一度蝋を垂らされた箇所が、どこもかしこも先ほどよりもずっと感じるのだ。

 

恭也に蝋を取り去られているだけなのに、指の感触に感じてしまう。

 

指の動きに、イッてしまいそうになるくらい蕾も分身も敏感になっていた。

 

「蝋燭は気に入ったようだな?たった一度でこんなに柔らかくなるくらい感じるとは。亨様、こいつなかなか見込みがあります。お手元に置いて玩具として楽しむには申し分ないかと・・・ 」

 

恭也はそう言って巧みに指を動かし蕾を刺激しながら、亨を見つめた。

 

亨も宇宙の喘ぎぶりに満足している様子だった。

 

囲っていた遼一の心を奪ったことは許せない。

 

だがこうして見ればなかなかどうして、顔も綺麗だし、興味をそそられる身体をしているじゃないか。

 

快感に対する反応が今までに見たこともないぐらい素直で、何よりもそこが気に入った。

 

遼一に口で奉仕させながら、宇宙が他の男に犯され感じるさまを見るのも一興かもしれないと、亨は思い始めていた。

 

玩具として弄ぶにはもってこいの男である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 14

手に何かを持っている。

 

手の中に入ってしまうようなガラスの小瓶のキャップを外している。

 

それを見ていた遼一の顔が一変する。

 

ヤクザが持っているのは、輸入品の媚薬だった。

 

液体を股間に垂らせば、媚薬の効力がその者の理性を失わせ、気が狂うほどに男を求め続けるというとても高価な代物だった。

 

遼一は以前に一度、その媚薬によって気が狂ってしまった男を一人見て知っていた。

 

恭也に逆らい、逃げようとしたその男は、媚薬によって完全に理性を失い、まるで野獣のように次々と男を食らい込み、絶頂の声を上げ続け、ついには気が狂ってしまったのだ。

 

あの時は媚薬の量が多すぎてしまったのと、目の焦点も合わず口端から唾液をだらしなく垂らしている男を見下ろして、恭也が言ったのを聞いた。

 

廃人同様になった男のその後を遼一が知ることはなかったが、だいたいの想像はできる。

 

十年近く亨に囲われてきた遼一は、亨が裏でやっている人身売買のことも承知していた。

 

亨はやると言ったら絶対にやる男である。

 

残酷で情などはいっさい持ち合わせていない亨に、宇宙を自由にさせてはならない。

 

「おい、たっぷりと塗ってやれ。尻の穴にも十分にな。媚薬が効いた頃には自分から尻を振って男に犯してほしいと哀願してくる。さぞかし色っぽい姿だろうな、そう思わないか、遼一?」

 

亨の言葉にヤクザの一人が媚薬の瓶の口を宇宙の股間に傾け、中の液体を垂らそうとする。

 

遼一は、自由なほうの脚を思いきり伸ばすと、ヤクザが持っているその瓶を足先で蹴飛ばした。

 

飛ばされた瓶が、ガシャーンッと床に落ちて割れる。

 

「こいつ・・・なんてことを!」

 

ヤクザが慌てて床にしゃがみこむ。

 

液体の媚薬は、すっかり床に零れ染み込んでしまっていた。

 

これでは使いものにならない。

 

遼一は、ニヤッと顔を綻ばせた。

 

だが次の瞬間、恭也の拳が塞がったばかりの胸に叩きつけられる。

 

「はぐぅ・・・ぐぅう・・・・・」

 

遼一が、胸の傷を押さえて激しくのけ反る。

 

傷口が少し、開いたような感覚だった。

 

遼一にひどい仕打ちをしたのに、亨は恭也を叱らなかった。

 

というよりも、恭也が殴らなくても亨が同じことをしていたからである。

 

媚薬はもう用意していなかった。

 

床に零れた媚薬を見て、亨はチッと舌打ちをした。

 

だがこれで宇宙に対する仕置きをしなくなったわけではない。

 

亨は椅子にドカッと腰を下ろすと、煙草に火を点けながら恭也に命じた。

 

「お前の好きにやっていい。もともと、この男はお前にやった男だからな」

 

亨の言葉に、恭也はニヤッと口端を上げて笑った。

 

なんの抵抗もできない宇宙を見下ろし、恭也がテーブルの上から真っ赤な蝋燭を手に取る。

 

蝋燭はSM用の蝋燭で、女性の腕ほども太く長かった。

 

「誰か、火を点けろ」

 

恭也が言うと、ヤクザの一人が蝋燭の芯に火を点けた。

 

とたんに、溶けやすい真っ赤な蝋がポタポタと垂れていく。

 

その蝋燭を見上げていた宇宙の顔が、引き攣った。

 

「これはSM用の蝋燭だ。見た目ほどは熱くはない・・・」

 

と言うなり、恭也が蝋燭を斜めにして宇宙の上半身に蝋が落ちるようにする。

 

ポタッ・・・と、最初の蝋が宇宙の右の乳首の周りに落ちた。

 

「あっ・・・ひぃぃ・・・・・」

 

熱くないなどというのは嘘だと、宇宙はとっさに思った。

 

熱いじゃないかっ。

 

しかも、落ちた瞬間が特に熱い。

 

その熱さが、蝋が固まると同時にじんわりと身体の中に浸透していくのが分かる。

 

蝋が肌の上で真っ赤に固まり、熱さが消えると、また溶けた蝋が乳首の周りに落ちてきた。

 

「あっ・・・熱いっ・・・あっ・・・」

 

身体が自然とビクビクッと痙攣する。

 

卑猥な格好で寝かされている宇宙の身体は、まるで飛び魚のように蝋が落ちると跳ね上がった。

 

蝋がポトポトっと、柔らかな皮膚に続けざまに落ちていく。

 

「あっ・・・やだっ・・・熱い・・・熱いよぉー・・・・・」

 

「宇宙っ!」

 

遼一は蝋燭の蝋で責められ、もがき苦しんでいる宇宙に耐えられず声を上げて手を伸ばした。

 

だがどうしても宇宙に手が届かない。

 

足枷が邪魔をしていて、宇宙を助けることができない。

 

遼一は、足が折れてもいいと思いながら、なんとか足枷を外そうと暴れる。

 

そんな遼一を見て、椅子に足を組んで座っている亨が皮肉を込めて言った。

 

「そんなに暴れても宇宙を助けることは無理だ。諦めろ、遼一。それよりよく見ろ。お前の愛しい宇宙がもがき苦しんでいるだけなのか・・・」

 

と言われて、遼一は暴れるのをやめて宇宙を見た。

 

床に寝かされたまま、両脚を目いっぱい開いた状態でロープで縛られている宇宙は、ただ苦痛に顔を歪め、もがき苦しんでいるだけではなかった。

 

白い裸体が真っ赤な蝋で塗り固められていくうちに、甘い声が漏れるようになっていたのだ。

 

「あっ・・・あっ・・・熱い・・・やっ・・・あぁ・・・・・」

 

宇宙自身は気づいていないようだったが、確かに蝋を垂らされて感じていた。

 

左右の乳首が真っ赤な蝋で固まり、その蝋がポタリポタリと腹のほうへと移っていく頃には、宇宙は完全に蝋が与えてくれる感覚を快感として受け止めていた。

 

「あ・・・んっ・・・ひぃ・・・あっ・・・」

 

蝋燭を握っていた恭也は、そんな宇宙の変化を感じ取り、腹の次に白い内股へと蝋を移していく。

 

左右に開かれている宇宙の内股にポタリポタリッと蝋が落ちていく。

 

「あんっ・・・だめっ・・・そこは・・・あっ・・・」

 

「だめじゃなくて、本当は気持ちいいんだろう?」

 

恭也が、蝋を垂らすのをいったん止めて宇宙に聞く。

 

宇宙は、ロープでぐるぐる巻きにされたまま、首を必死に振って違うと訴えた。

 

だが、蝋の熱さによって敏感になってしまった身体が恭也の言葉のとおりだと訴えている。

 

宇宙の隠すことのできない分身が、いつの間にか勃起していたのだ。

 

しかも、先端の割れ目からとめどなく先走りを滴らせ、根元まで垂らしている。

 

その様子を目の当たりにした周りの者たちの間から、苦笑が漏れた。

 

遼一は直視できず、とっさに目を瞑ってしまう。

 

「どうした遼一?しっかりと見るんだ。自分の愛した者が恭也の仕置きによってどう変わっていくか。仕置きされた者がどうなっていくか、ちゃんと自分の目で見て確かめろ」

 

「亨さんっ、お願いです。仕置きをやめさせてくださいっ。宇宙への仕置きは私が代わりに受けます。だからもう・・・もう・・・・・」

 

遼一は囲われていた自分を思い出したように、亨に哀願した。

 

目には涙が溢れている。

 

だが亨はそんな遼一を楽しそうに見つめるだけで、恭也に仕置きをやめるように命令はしなかった。

 

それどころか、もっといやらしく過激にするように恭也に言う。

 

ちょうど、一人のヤクザがビデオをセットしたところだった。

 

「ここからビデオを撮るんだ。もっと売れるように過激に責めろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 13

「やだっ・・・離せっ・・・。離せっ・・・」

 

裸にされた宇宙は、何度も叫びながら抵抗した。

 

だがどんなに抵抗しても、喧嘩に慣れているヤクザたちの手の動きを止めることはできなかった。

 

宇宙はあっという間に床に押さえつけられ、ロープで両手を後ろで縛られてしまう。

 

「離せっ・・・嫌だ・・・」

 

そして両脚を左右に広げさせられると、脚を折り曲げるようにして縛り上げられてしまった。

 

仰向けで床にゴロンと転がっている宇宙の姿は、両脚を思いきり開かせられた、とても淫靡な姿だった。

 

まるでおしめでもされるような情けない格好で、立っている亨を見上げる。

 

亨はロープでぐるぐる巻きにされた惨めな宇宙の格好を見下ろし、満足したのかふふっと鼻で笑った。

 

両脚を閉じようにも閉じられない。

 

いやらしい部分の何もかもが、亨と恭也、そして数人のヤクザたちの目の前に晒されていた。

 

こんな恥ずかしい格好、まだ遼一にだって見せたことないのに。

 

どうして見ず知らずの男たちに見せなければならないんだ。

 

しかも、遼一の脚は自由を奪われたまま、まるで芋虫のような宇宙を両目で見開いて見つめている。

 

遼一の瞳には、涙が溢れていた。

 

もうこれ以上はやめてほしい、そんな願いがこもっているのが分かる。

 

「遼一・・・」

 

「宇宙・・・なんてひどいことを・・・」

 

遼一は、ベッドを動かすような勢いで足を引っ張り、亨の足元に縋った。

 

「お願いだから、やめてくれっ。宇宙には関係ないんだっ。私が惚れてしまっただけなんだから・・・」

 

そう訴えた遼一の瞳には涙が溢れていた。

 

だが亨は、そんな遼一の腹を靴の先で蹴飛ばしてしまう。

 

「うぐっ・・・」

 

腹を押さえ苦しそうに顔を歪める遼一。

 

だがその瞳は、裸にされた卑猥な格好で床に転がされている宇宙を見つめていた。

 

「遼一っ!?」

 

宇宙が遼一の身を気遣う。

 

だがそんな宇宙の声も、大きなスーツケースから取り出された調教道具や器具を見たとたん、短い悲鳴に変わった。

 

ロープはもちろん、さまざまな種類の鞭や赤くて太い蝋燭。

 

さまざまな大きさの乳首クリップや浣腸器、洗面器までテーブルの上に並べていく。

 

細長い透明なチューブやおしゃぶりのような形をした初めて見るアナルストッパー。

 

丸いポンプとチューブが着いている小さなゴム状の挿入物。

 

見るものすべてが初めてのものばかりだったが、どこにどのようにして使われるのか、なんとなく理解している宇宙だった。

 

エッチな本の巻末に載っていた、イボのような突起物のついたバイブまでもテーブルの上に所狭しと並べられていく。

 

宇宙はヤクザの手から手へと渡っていくそれらを見上げたまま、得体の知れない恐怖を初めて感じていた。

 

どうしようっ。

 

あんなものを使われたら、本当に殺されてしまうかもしれない。

 

本当にシャブ漬けにされて海外に売り飛ばされてしまうかもしれない。

 

そんなことになるのは絶対に嫌だ。

 

あんなもので犯されて正気を失うぐらいだったら、ここで遼一と心中したほうがましだっ。

 

そんな考えが宇宙の脳裏によぎる。

 

だがてっちゃんが言った言葉を思い出し、その考えを捨てた。

 

『ヤクザに喧嘩を売ろうっていうんだ、必ず苦痛は伴う。だが、その苦痛に耐える決意はあるのか?愛する人のために、どんなことがあっても死なないと断言できるのか?』

 

『はい、できますっ』

 

宇宙はそう答えたのだ。

 

こうなることは初めから分かっていた。

 

ヤクザの巣窟に乗り込めば、少なからずこうされることは分かっていたのだ。

 

だが、それでも宇宙は来た。

 

愛する遼一を助けたい一心で。

 

遼一と自由を勝ち取りたい、ただその一心で。

 

「遼一・・・お願い・・・。これからどんなに卑猥な僕を見ても・・・嫌いにならないでね・・・。僕がどんなに淫らになってしまっても、軽蔑しないでね・・・」

 

宇宙は震える声でそう言って、遼一を見つめた。

 

宇宙の薄茶色の瞳には、涙が溢れていた。

 

これから何をされるのか、だいたいは分かる。

 

だけど想像を絶するその感覚と快感、そして苦痛に耐えられるかは、自信がなかった。

 

理性を保っていられるのか、とても自信がなかった。

 

『てっちゃん、丸君、早く助けに来て・・・』

 

宇宙は心の中で祈るように呟いた。

 

『俺がなんとかするから』

 

てっちゃんの別れ際の言葉を思い出した宇宙は、泣き出してしまいたいのを必死に堪えていた。

 

唇をギューッと噛みしめ、恐怖と戦っている。

 

そんな宇宙の顔を見て、遼一はますます焦っていた。

 

どうしたらいいのだろうか。

 

足枷を嵌められ、胸の傷もいまだに癒えないこのとき、いったいどうやって宇宙を救ってやったらいいのだろうか?

 

「遼一。いい加減諦めて、おとなしくそこでお前の愛する男がどうなっていくか、じっくりと見物しているがいい。じきに面白いものが見られる・・・」

 

亨の言葉に、ヤクザの一人が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 12

だが怒りが頂点に達している亨の耳には、すでに何も聞こえていなかった。

 

今はこの生意気な小僧に一泡ふかせ、想像もできないほどひどい目に遭わせてやりたい。

 

それだけだった。

 

「服を脱がせろっ」

 

恭也がそう言うと、違うヤクザが宇宙のボロボロの衣服を脱がしにかかる。

 

まるでホームレスのようなその出で立ちに、恭也は呆れたように言った。

 

「どこに逃げ隠れしていたのか思えば、ドブの中だったのか?いくら捜しても見つからないわけだ」

 

裸になっていく宇宙を両目を細めるようにして見つめて、恭也が品定めをする。

 

宇宙の裸体を見るのはこれが二度目だったが、やはり美しかった。

 

高額な金を要求するどんな男娼よりも綺麗で、凛とした美しさがあった。

 

服を脱がせていたヤクザたちも、ボロボロの衣服の下から現れた艶やかな肌色の輝きに一瞬驚いたようだった。

 

本当に、ただの教師にしておくにはもったいない・・・そんな考えが恭也の頭をよぎる。

 

「さてと、俺としては裏切り者の遼一の前で仕置きをしたいのだが、遼一はどうしたい?」

 

裸になった宇宙を満足げに見て、亨は初めて遼一を振り返った。

 

遼一は、必死の顔で亨に懇願する。

 

「お願いですから・・・宇宙にひどいことはしないでください。責めるなら・・・私を責めてください」

 

遼一は、これから宇宙がどんなひどい目に遭わされるかと思うと、生きた心地がしなかった。

 

亨は、独占欲とプライドが高く、しかも残虐なのだ。

 

嫉妬に狂っている今の亨に仕置きをされてしまったら、きっと宇宙のような一般人では正気を失うのに半日とかからないだろう。

 

できるなら代わってやりたい。

 

宇宙を守ってやりたい。

 

だが亨はそんな遼一の心を察しているのか、あざ笑うかのように拒否した。

 

「俺に逆らった罪の深さをようやく思い知ったようだな?だがもう遅い。お前が心底惚れた宇宙を、お前の目の前でたっぷりと仕置きしてやる。そしてヤクザたちに散々犯させ、その後はシャブ漬けにして・・・俺の玩具にして弄び、飽きたら海外に売り飛ばしてやる。どうだ?これがお前が招いた結果だ。面白いだろう?」

 

亨はそう言って、足だけをベッドに残し床に倒れ込んでいる遼一を、支配者のように見下ろした。

 

遼一は宇宙を助けようにもどうしようもなくて、バンバンッと強く床を叩いた。

 

その音が、廊下を歩いていた医師の耳にも届く。

 

医師は騒ぎを看護婦から聞きつけ、急いでやってきたのだった。

 

「何を・・・しているんですか?」

 

特別室のドアを開けた気の弱そうな医師が、中の様子に愕然とする。

 

数人のヤクザたちに一糸まとわぬ姿にされている宇宙とベッドから転げ落ちている遼一を交互に見て、震える声で恭也に訴える。

 

「病室で・・・いったい何をしようというのですか?」

 

恭也は医師の言葉など無視して、手下たちに命令した。

 

「ロープで縛れ。両腕は後ろ、脚は左右に開かせたままだ」

 

手下のヤクザたちが、言われたとおりに宇宙の裸体をロープで縛り上げていく。

 

ここは特別室だが、病院の一室である。

 

その中でこんな破廉恥で不埒なことなどしていいはずがなかった。

 

医師は、拳を握りしめて亨に向かって言う。

 

「ここは病院です。そういうことはやめてください」

 

それを聞いた亨の手が、そんな医師の首元に伸びる。

 

そして白衣姿の医師の首を、ぐぐっと絞め上げていく。

 

「あぐっ・・・ぐぅぅ・・・・・」

 

「お前はいつからそんな偉そうなことを言えるようになったんだ?ん?」

 

「ぐうっ・・・うっ・・・亨様・・・」

 

「この病院の院長でいられるのは誰のおかげだ?なんなら、借金のかたに何もかも奪い取ってやってもいいんだぞ」

 

亨はそう言ってから、医師の首元から手を離した。

 

よろよろとした足取りの医師は、ゴホゴホッとはげしく咳き込んだ。

 

「お前が医者の顔をしていられるのは俺のおかげだということを、ちゃんと覚えておけよ」

 

廊下には、見張り役のヤクザが二人立っている。

 

ここにヤクザが出入りするようになってから、評判はガタ落ちだった。

 

借金のかたに取られなくても、経営不振で潰れるのは目に見えていた。

 

どうせ潰れてしまうのなら、借金のかたに取られてしまうなら、遼一とその恋人だけでも助けなければ。

 

ここに僚一が運ばれてきて治療するようになってから二週間。

 

その間、遼一はとても紳士的に優しく接してくれた。

 

自分のことを心配して、なんとか亨から逃れられるようにいろいろと真剣に考えてくれたのだ。

 

自分の身が危ないというのに、命の恩人だからと言い、いつか必ず道は開けると希望を抱かせてくれた。

 

そんな優しい遼一をなんとか助けてやりたい。

 

そして遼一が話を聞かせてくれた、恋人の宇宙も助けてやりたい。

 

細面の医師は、まだ痛い喉元を手で押さえながら廊下を歩いていった。

 

階段を下り、一階にある自室へと入る。

 

そしてリクライニングの椅子に座り、どうしたらいいのかと考えた。

 

誰かに助けを求めなければならない。

 

しかも、恭也や亨よりも力のあるヤクザに。

 

だが医師はチンピラのような輩は知っていても、恭也の組以上に力のある組織に知り合いはいなかった。

 

「どうしたらいいんだろうか?このまま放っておいたら、あの若者は殺されてしまうかもしれない」

 

医師は、頭を抱えてしばらく悩んでいた。

 

そして先日、見張りのヤクザたちが話していたことをふと思い出した。

 

紅林組が動いているとかなんとか言っていた。

 

紅林組といえば、恭也が所属している竜胴組と同等の力を持つ巨大な暴力団組織である。

 

なぜ今の時期に紅林組が?

 

医師は直感で、今回の一件に紅林組が絡んでいるのではないかと思った。

 

どのようにかかわっているかは分からないが、助けを求めるのは紅林組しかないと思った。

 

そして固く決心し、デスクの上の受話器を取る。

 

そのとき、院長室のドアが静かに開いた。

 

「・・・・・?」

 

見ると、そこには見たことのない中年男性が立っていた。

 

グレーのスーツとダークグレー色のネクタイ。

 

細められた目と目尻の皺。

 

だが白髪交じりの少し長めの髪は、ワックスできっちりと固められていた。

 

今まで見たこともない顔だった。

 

「あ、あなたは?」

 

医師が受話器を握りしめたまま聞くと、院長室に入ってきた五十代前半の男性は静かにドアから入ってきた。

 

「私は相模といいます。人は私のことをてっちゃんと呼びます。宇宙とその恋人の遼一を助けに来ました」

 

ボロボロの衣服に身を包み、ホームレスであった偽りの自分を捨てたてっちゃんは、落ち着いた口調でそう言って医師に対して頭を下げた。

 

医師はわけが分からず、しばらくの間ただ呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 11

遼一が治療を受け、監禁されている病院の裏口に降り立った宇宙は、やっと遼一に会えるという喜びと、これから亨や恭也と対決しなければならないという恐怖の入り交じった感情を抱えながら病院の中へと入っていった。

 

午前の診療時間が終わった医院の中は、とても静かだった。

 

ヤクザたちに周りを囲まれたまま二階へ上がり、特別室と書かれている病室のドアを一人のヤクザがノックする。

 

するとドアが中から開き、恭也が宇宙を出迎えた。

 

その向こうのベッドの上では、胸の包帯を取り換えた遼一がいた。

 

「遼一、遼一っ!」思わず、宇宙が叫ぶ。

 

すると宇宙の声を聞いた遼一も、驚いてドアのほうを向き、宇宙の名前を叫んだ。

 

「宇宙っ!?」

 

ガウンを羽織ったばかりの遼一は、ベッドから飛び降りて宇宙のもとに駆け寄ろうとする。

 

だが足に嵌められた枷がそれを阻んでいた。

 

ガシャンッと鎖の大きな音がして、遼一の身体がベッドからガクンッと床に落ちる。

 

「遼一危ないっ!そのままじっとしてて・・・」

 

「宇宙・・・本当に宇宙なのか?ああ・・・宇宙・・・無事だったんだな?」

 

「遼一のほうこそ・・・無事でよかった・・・。もう心配で・・・心配で・・・本当に死んじゃったらどうしようかと思って・・・」

 

「私は大丈夫だ。宇宙のほうこそ大丈夫なのか?」

 

優しく労わるような遼一の声を聞いたとたん、宇宙の瞳に涙が溢れた。

 

無事な遼一の姿を見て、ずっと堪えていたものが緩んだのだ。

 

「遼一・・・遼一・・・」

 

ボロボロの衣服を着ている宇宙は、遼一のそばに駆け寄ろうとする。

 

だがすぐに、恭也の腕に捕まってしまった。

 

「おっと・・・。感動の再会はここまでにしてもらおうか。亨様がお前に用があると言って、こちらに向かっている」

 

と、恭也は言って宇宙の顎を捕らえる。

 

宇宙は涙で潤んでいる瞳で、遼一を撃った恭也をキッと睨みあげた。

 

「・・・よくも遼一をこんな目に・・・。これじゃ刑務所にいるのと同じじゃない。足枷を解いて自由にしてやって。足首から・・・血が出ててかわいそうじゃない・・・」

 

身体は震えていたが、決して恭也を恐れてのものではなかった。

 

宇宙の身体が震えているのは、遼一に再会できた喜びからのほうが強かった。

 

恭也は、そんな宇宙の秘められた強さと健気さが、胸の奥が痛くなるほど心地よかった。

 

自分のことよりもまず遼一の安否を心配する宇宙の心の優しさが、憎らしいほど可愛く感じた。

 

遼一に抱かれて喘いでいる宇宙を見たときのあの感覚を、恭也は思い出す。

 

ぞわわっと全身に血が騒ぐのが分かる。

 

そのときだった。

 

宇宙が入ってきたばかりのドアから、亨が入ってきたのだ。

 

「お前が噂の宇宙か・・・。なるほど、着ているものはボロボロだが、遼一が惚れそうな実に綺麗な顔をしているじゃないか。男にしておくにはもったいないな・・・」

 

初めて見る亨は、高価なブランドもののスーツに身を包み、髪は短くワイルドな感じだったが、どこからどう見てもエリートの青年実業家に見えた。

 

だが、宇宙を品定めするように見つめる、ねっとりとした瞳には上辺の青年実業家という顔とは違い、裏の極道の世界と繋がっている非情さが見え隠れしていた。

 

そして冷酷な威圧感も、亨から感じられた。

 

宇宙は一瞬、ゾクっと背筋を震わせた。

 

少なくとも、宇宙の知り合いにこんな冷酷な瞳を持つ人間はいなかった。

 

「遼一は、俺が十年近くも囲っている。それは知ってるな?」

 

恭也に捕らわれている宇宙に近づき、顎を捕らえてグイッと上を向かせる。

 

力強い指に抵抗することができず、宇宙はされるがままだった。

 

「人の物にちょっかいを出すとどういうことになるか、知ってるか?んん?」

 

享が、真っすぐに自分を見ている薄茶色の瞳を食い入るように見つめて言う。

 

宇宙は何も言わず、知らないと目で訴えた。

 

こんな脅しには決して屈しないという強い意志を見せなければ、この手の人間には勝てない。

 

力で屈服させることは無理なのだと、相手に分からせなければならない。

 

それは、てっちゃんが別れ際に言ってくれた言葉だった。

 

だから宇宙は決して目を逸らさなかった。

 

亨の今にも食らいついてきそうな視線からも、目を逸らさなかった。

 

そして・・・・・。

 

「り、遼一は・・・あなたのものじゃありません。遼一の自由を束縛する権利は・・・あなたにはありません・・・」

 

と、言う。

 

その言葉を聞いた亨は、思わず目を丸くした。

 

信じられなかったのだ。

 

数人のヤクザに囲まれ、監禁されている僚一を目の前にしても、自分に対してこんな生意気を利く小僧がいることが、信じられなかった。

 

普通なら許してくださいと涙ながらに訴えるか、泣き叫ぶかのどちらかだ。

 

これはなんとも、いじめがいのある小僧ではないか。

 

遼一の心を奪ったばかりでなく、眠っていた修羅の心を呼び覚まし、この俺にまで逆らうとは。

 

見た目とは違い、いい根性をしているじゃないか。

 

亨は、心の中でメラメラと燃える嫉妬のようなものを感じていた。

 

このままにはしておかない。

 

一気に殺してしまうのはもったいない。

 

二人は自分の手の内にいるのだ。

 

遼一の前で、じわりじわりと嬲り殺しにしてくれよう。

 

大物政治家を父に持つ、この大江原亨に逆らったらどうなるのか、たっぷりと味わわせてやる。

 

亨は、恭也に向かって言った。

 

「お前、こいつをどうしたい?」

 

亨の突然の問いにも、恭也は少しも臆することなく答えた。

 

「以前は煮るなり焼くなり好きにしろと、そうおっしゃいました」

 

「そうだったな・・・。では・・・そうしてやれ。この俺に対して二度と生意気な口が利けないように、たっぷりと仕置きをしてから・・・殺してやれ」

 

その言葉を聞いていた遼一の目が、大きく見開く。

 

「待てっ!宇宙は関係ないっ!私が勝手に宇宙に惚れたんだっ!宇宙にはなんの関係もない」

 

だがいくらそう叫んでも、亨は聞かなかった。

 

たとえそうであったとしても、宇宙の態度をどうしても許すことはできなかった。

 

可愛い顔をして、ただの教師でありながら、どうしてこうも冷静でいられるのだ?

 

泣き叫び、許しを請う宇宙を想像していたのに。

 

そんな宇宙の前で遼一に口で奉仕させ、遼一はどうあがいても今の状況から逃げ出すことはできないのだと思い知らせ、たっぷりと優越感に浸ろうと思っていたのに。

 

この落ち着きようはなんなのだっ!?

 

亨は、どうしようもなく苛立っていた。

 

「恭也っ、さっそく仕置きを始めろ。俺は忙しいんだ」

 

「はい、喜んで」

 

恭也はそう返事をすると、数人のヤクザたちに仕置きのための道具を持ってくるように命令した。

 

その様子をベッドから転げ落ちた状態で見ていた遼一は、思わず床を拳で叩いた。

 

「よせっ。やめてくれっ。宇宙に仕置きをするのはやめてくれっ。頼むっ」

 

亨が言った仕置きというものがどういうものか、遼一はよく知っていた。

 

ソープランドを逃げ出した女や男娼を懲らしめ、見せしめのために行われる仕置きは、とても口では言い表せないほど淫靡な行為だった。

 

客の要求にはなんでも応えられるように、ソープランドの女や男娼を教育する。

 

そういうときも、仕置きは行われた。

 

「持ってきました」

 

道具が入った黒い鞄を持った一人のヤクザが、病室に入ってくる。

 

鞄は海外旅行用のスーツケースほどもあり、強靭な肉体のヤクザでさえ一人で持ち運ぶのはとても大変そうだった。

 

「やめろっ、頼むから・・・仕置きだけはやめてくれ・・・」

 

遼一が、懇願するように亨に向かって言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 10

てっちゃんは、普段はあまり使わない携帯電話をボロボロのショルダーバッグの中から取り出した。

 

「てっちゃん、本当に宇宙を助けるんつもりなんだ」

 

その様子を驚いたように見ていた丸君は、地面にしゃがみ込んだまま煙草を吸っていた。

 

「人助けはしない主義だったんじゃなかったっけ?」

 

丸君が、そう付け足す。

 

ボロボロの衣服を身にまとい、見るからにホームレスという出で立ちのてっちゃんは、不精髭を手で撫でながら携帯のダイヤルを押した。

 

すぐに相手が出る。

 

「相模鉄男です」

 

てっちゃんは、自分の名前をフルネームで言った。

 

ホームレスのてっちゃんがすでに捨てたはずの自分の名前を言う相手は、この世でただ一人だった。

 

携帯の相手は、日本の裏の世界に君臨している藤堂組四代目、藤堂弘也だった。

 

「四代目、お久しぶりです」

 

てっちゃんはどこか懐かしそうにそう言った。

 

「四代目がお捜しの紅林組の跡取り息子ですが、どうやら見つかりそうです。ですがトラブルに巻き込まれているようで・・・この一件、私に一任していただけますか?」

 

てっちゃんがそう言うと、丸君はちょっと呆れたような顔をして両手を広げた。

 

てっちゃんの悪い癖が出た、そんな素振りだった。

 

「はい。実は紅林組の跡目の一件には裏があるような気がするのです。紅林組の動きも気になりますし・・・」

 

と、てっちゃんが公園の隅のベンチで話している間、丸君は空き缶を蹴って遊んでいた。

 

「分かりました。では・・・また連絡します」

 

てっちゃんはしばらく話をしてから携帯を切った。

 

そしてまた、ボロボロのショルダーバッグの中にしまい込んでしまう。

 

そのショルダーバッグをコートの上から斜め掛けにすると、空き缶で遊んでいる丸君を呼んだ。

 

「丸君、仲間に召集をかけて情報を集めさせてくれないか?もちろん、礼はする」

 

と、ダンボールの小屋を片付けながらてっちゃんが言うと、黒いジャンパーと穴空きだらけのジーパン姿の丸君は『OK』というように親指と人差し指でサインを出した。

 

「それにしてもさ、まさかホームレスのてっちゃんが、日本の裏社会のドンである藤堂四代目の情報屋とは誰も思わないよなー。それもただの情報屋じゃないっていうんだから、驚いちゃうよなー。あの四代目と直通の携帯持ってるなんて、日本広しといえども幹部以外ではてっちゃんだけなんじゃないの?」

 

と、丸君が感心したように言うと、てっちゃんは厳しい目つきで丸君を睨んだ。

 

「丸、それ以上言うとお前でも許さんぞ」

 

そう言ったてっちゃんは、さっきまでの人情味に溢れた優しいてっちゃんではなかった。

 

凄みのある目つきは、恭也と同じ側の人間であることを教えていた。

 

世間を捨ててホームレスになる以前のてっちゃんを知っている丸君は、思わず首を横に振る。

 

「言わない、言わない。もう言いません」

 

「だったらさっさと駆けずり回って、夜までに情報を集めてこい。俺はY桟橋の下で待ってるからな。報酬は望むがままだと言うんだ。いいな?」

 

「はーい。分かりました。行ってきまーす」

 

丸君はそう言うなり、ものすごい勢いで公園を走っていく。

 

ダンボールの小屋をすっかり片付けたてっちゃんは、ショルダーバッグ以外はすべて他のホームレスに譲ってやった。

 

ボロボロだが、衣服や毛布をもらったホームレスたちは、公園を去っていくてっちゃんに向かって手を振った。

 

ホームレスのてっちゃんがここに戻ってくることはもうないだろう。

 

「さてと、宇宙はうまく遼一に会えたかな?」

 

そう呟いたてっちゃんは、賑やかな新宿の街中に消えていった。

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 9

宇宙は、数人の派手なスーツ姿のチンピラたちに捕らえられ、黒い日本車の後部座席に乗せられていた。

 

捕らえられたというよりは、宇宙自身から捕らわれたと言ったほうが正解だった。

 

だが、宇宙を捕らえたチンピラたちはそのことには気づいていなかった。

 

これでやっと恭也の機嫌もよくなると、チンピラたちは内心ホッとしていた。

 

「ここだ。ここで恭也さんの手下に渡すことになっている」

 

車は高速を降りた空き地で止まり、そこでは白いベンツが宇宙が連れてこられるのを待っていた。

 

「あ、あの・・・謝礼のほうは?」

 

チンピラの一人が、宇宙を黒いスーツ姿のヤクザに渡し、頭を下げながら遠慮がちに聞く。

 

ロープで後ろ手に縛られている宇宙をベンツの後部座席に乗せた黒いサングラスを掛けているヤクザが、札束をチンピラに手渡した。

 

「あ、あ、ありがとうございますっ」

 

札束を見たチンピラたちは一斉に頭を下げる。

 

渡したヤクザは、無言のまま後部座席に乗り込み、宇宙の隣に座り宇宙の顔を品定めするように見回した。

 

必ず無傷で連れてこいという、恭也の命令だった。

 

顔に擦り傷の一つでもついていたら大変なことである。

 

幸い、宇宙はどこにも傷を付けていなかった。

 

「よし、行けっ」

 

ヤクザが命令すると、宇宙を乗せた黒いベンツは恭也と亨が待っている私立病院に向かって走っていった。

 

その車中で、じっとおとなしくしている宇宙は、ホームレスのてっちゃんが言った言葉を思い出していた。

 

『どんな犠牲を払ってでも、恋人を助けたいと思う気持ちが本当にあるのなら手を貸す』

 

てっちゃんの重みのある言葉に、宇宙は即座に頷いて答えた。

 

『あります』

 

するとてっちゃんは、宇宙の純粋な薄茶色の瞳をずっと見つめて言葉を続けた。

 

『二人でこのまま逃げてもなんの解決にもならないんだ。ヤクザってヤツは逃げれば逃げるほど追いかけてくるんだ。そういう性分なんだろうか、たとえ地の果てに逃げても一生追いかけてくる。そんな脅えた生活は嫌だろう?』

 

てっちゃんの言葉に、宇宙はまた頷く。

 

どういうわけか、ホームレスであるてっちゃんの言葉にはズシンと胸の奥に重く響く何かがあった。

 

『じゃあ、どうしたらいいんですか?』

 

と宇宙が尋ねると、てっちゃんは不精髭の顔でにこっと笑ってこう言った。

 

『逃げられないんなら、正面から対決するしかないだろう?』

 

『た、対決して勝てますか?相手はヤクザですよ?』

 

宇宙の真剣な問いに、てっちゃんは言いきった。

 

『お前さんに死ぬ覚悟があるなら勝てるよ。それには少しばかり苦痛を伴うかもしれないが、仕方ないだろうな。どうだ、やるか?』

 

てっちゃんはそう言って、宇宙の肩を叩く。

 

宇宙はその手に押されるように、大きく頷いた。

 

そんな宇宙を見て、てっちゃんがにこっと笑う。

 

てっちゃんのあのときの大らかな笑みを思い出しながら、宇宙はじっと黙って後部座席に座っていた。

 

ヤクザと対決するときは街のごろつきやチンピラではなく、ヤクザの組長と話をつけること。

 

それが肝心だとてっちゃんは最後に言ってくれた。

 

遼一の自由を束縛している亨という人に会い、直接自由にしてほしいと談判する。

 

どんなに断られ罵られひどい仕打ちをされても、自分の意思を曲げてはいけない。

 

自分の意思を最後まで貫き通すこと。

 

遼一を愛しているその気持ちを、貫き通すこと。

 

それが大事なのだとてっちゃんは教えてくれた。

 

そして敵の本拠地に乗り込む決心がついたとき、宇宙はわざと人目につくように繁華街をうろついてみせた。

 

「おとなしいな?これからどこに連れて行かれるのか気にならないのか?」

 

チンピラに札束を手渡したヤクザが、さっきからずっと黙ったまま目を瞑っている宇宙に向かってそう言った。

 

街で徘徊しているようなチンピラと違い、威圧感があるヤクザはそう言って宇宙を見据えた。

 

宇宙はうっすらと目を開け、真っすぐ前を見つめたまま「別に」とだけ答えた。

 

ヤクザがふふっと笑う。

 

「強がりを言っていられるのも今のうちだ。恭也さんがお前をお望みなんだからな」

 

恭也という名前を聞いても、もうビビらなくなっていた。

 

てっちゃんの言葉を聞いているうちに、肝が据わったのだ。

 

宇宙は、拳銃で撃たれ血まみれ状態だった遼一のことをヤクザに聞いた。

 

「遼一は・・・無事なんですか?」

 

宇宙の言葉にヤクザは少し驚いたような顔をした。

 

自分の身の安全よりも、他人のことを心配していることに驚いたのだ。

 

「桜井遼一なら病院にいる。今からそこにお前を連れていく」

 

「じゃあ、無事だったですね。怪我も大したことなかったんですね?」

 

「あの恭也さんが致命傷を与えるような撃ち方をするはずがないだろう?ちゃんと計算して撃ったんだ」

 

ヤクザの言葉を聞いた宇宙が、思わず肩の力を抜く。

 

「・・・よかった」

 

宇宙は心底ホッとしたようにそう言って、大きく息を吐いた。

 

遼一の安否を案じ、ずっと張り詰めていた緊張がやっと解けた、そんな感じだった。

 

本当によかった。

 

遼一が無事なら、なんとかなるかもしれない。

 

宇宙は本当は、おしっこをチビってしまいそうなほど怖かった。

 

だがそんな中で、ほんのわずかな希望を抱いていた。

 

もうすぐ遼一に会える。

 

冷静を装っている宇宙の胸は、その想いで張り裂けてしまいそうだった。

 

宇宙を乗せたベンツは、真っすぐ遼一が捕らえられている医院へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 下 8

亨の容赦のない言葉に紐を緩める遼一の手が震えてしまう。

 

亨が遼一を抱くのはこれが初めてだった。

 

今まで、亨が遼一の身体を求めたことはない。

 

亨が求めるものは、遼一の口技と手のマッサージだけだった。

 

何が亨の欲望を変えさせたのか。

 

それはまぎれもなく宇宙への嫉妬心と遼一への征服心だった。

 

ベッドの上でガウンを脱ぎ、裸になる遼一の姿を、亨は満足そうにじっと見つめていた。

 

ヌラヌラと赤く光っている巨根が、遼一の裸体を見てもっと大きくなる。

 

「よし・・・。そのまま尻をこっちに向けろ」

 

四つん這いになった遼一に、冷たい言葉が浴びせられる。

 

遼一は自制心と戦いながら、わなわなと震える下半身を亨に向けた。

 

そしてすべてが見えるように卑猥な格好をして、くやしそうにギュッとシーツを掴む。

 

「いい眺めだな、遼一。お前のこういう格好も悪くない。俺は男を抱く趣味はないが、お前は別だ。俺に対して反抗心を剥き出しにすればするほど、犯したいと思ってしまう。なぜだろうな?」

 

くくっと卑猥な笑い声を上げながら、亨が言う。

 

遼一はただ、歯を食いしばってこの状況に耐えるしかなかった。

 

こんな屈辱なことはなかった。

 

口でフェラチオをするより、手で性感マッサージをしてイカせることより、ずっと耐え難い屈辱を味わっていた。

 

だが言うとおりにしなければ、亨はまたあの女を呼びつけ、今度こそ使いものにならなくなるまで犯し続けるだろう。

 

ヤクザたちに命じて、媚薬を塗り込めた花園や蕾を死ぬまで犯し続けるに違いない。

 

自分のために他人を犠牲にすることだけは、避けたかった。

 

きっと愛する宇宙も、心優しい宇宙も自分と同じことをするだろう。

 

恥辱にまみれながら、遼一は一瞬そう思った。

 

そして宇宙の可愛い顔を思い出す。

 

宇宙、すまない。約束を守れそうにない。

 

遼一は、心の中で宇宙に詫びた。

 

「とうとう観念したようだな?最初からおとなしくしていれば、あの女もあんなひどい目に遭わなくて良かったものを・・・」

 

そう言った亨の手が、遼一の尻に触れる。

 

まだ誰にも見せたことがない秘密の部分は、初めての恐怖に縮こまっているようだった。

 

「男のここを・・・こうしてまじまじと見るのは初めてだが、女とは別の意味でそそられるな」

 

と言った亨が手を伸ばし、遼一の蕾に触れようとする。

 

そのとき、許しもなくいきなりドアが開いた。

 

「亨様っ、宇宙を捕まえましたっ」

 

いきなりそう言って特別室に飛び込んできたのは、恭也だった。

 

亨は絶好のチャンスを逃したくやしさと、宇宙を捕らえたという嬉しい報告が重なり、なんとも微妙な表情をして恭也を睨みつける。

 

「・・・申し訳ありません、お邪魔だったようで・・・」

 

恭也が、言葉とは裏腹にまったく悪びれる様子もなく頭を下げる。

 

仕方なく手を引っ込めてガウンを遼一の下半身に掛けた亨は、すぐに恭也に向き直った。

 

「で、その宇宙は今どこにいるんだ?」

 

「はい、事務所のほうに監禁しています」

 

「そうか。ではここに連れてこい。遼一の目の前でシャブ漬けにし、ヤクザたちに死ぬほど犯させてやる」

 

亨の言葉を聞いた遼一が上体を起こし「やめろ!」と叫ぶ。

 

「宇宙には手を出すなっ。宇宙は関係ないっ」

 

「関係ないだと?お前を俺に楯突くように変えた小僧を、関係ないだと?」

 

「宇宙は一般人だ。あなたや恭也がいるような裏の世界とは無関係だろう?許してやってくれ、頼むっ」

 

遼一は、足枷をガシャガシャと音を立てながら亨に懇願した。

 

足首からは血が流れている。

 

だがそんなことなど構わず、遼一は言葉を続けた。

 

「その裏の世界に引きずり込んだのは誰だ?お前じゃないのか、遼一?」

 

亨の言葉は、遼一の身体を硬直させた。

 

一番触れてほしくない部分に亨が触れる。

 

深手を負った傷口に塩を塗られているような気分だった。

 

「すべてはお前が招いたことだ。土下座をして謝るならまだしも、あれだけの大口を叩いた代償はきっちりと払ってもらうからなっ。恭也、早く宇宙という男を連れてこいっ」

 

亨の声に、恭也は携帯を取り出す。

 

そして組事務所の若い者に宇宙を急いで連れてくるように命じた。

 

「あと、三十分ほどで到着します」

 

「そうか・・・。では宇宙がここに来る三十分の間に、自分の犯した罪の深さをよくよく思い知るんだな」

 

亨は上機嫌でそう言って、高笑いをする。

 

遼一は拳を握りしめ、唇を噛みしめたまま何も言い返せないでいた。

 

宇宙がとうとう捕まってしまった。

 

その事実が、遼一から覇気や抵抗心をなくさせていた。

 

「宇宙という男の未来は決まったな?いいところ、エロじじいの玩具だ」

 

「やめろっ!」

 

「だが、こうなることを初めから分かっていただろう?亨様を敵に回すということがどういうことか十分に分かっていたはずだ。だがそれでもお前は逆らった。それは宇宙との愛を貫き通すと決めたからだ。そうだろう?」

 

「・・・・・・・」

 

遼一は俯いたまま、何も答えなかった。

 

自由を奪われている今の状況では、どうすることもできない。

 

宇宙のために何もしてあげられないのだ。

 

それが何よりもつらく苦しかった。

 

「もう、諦めるのか?何もしないでこのまま亨様の言いなりか?」

 

恭也は、目を細めて淡々とした口調で言った。

 

遼一がゆっくりと顔を上げる。

 

そして恭也が何を言おうとしているのか、探った。

 

「ヤクザたちに犯される宇宙を、ただ見ているだけか?お前の宇宙への愛情はそんな程度のものなのか?」

 

まるで、遼一の闘志を再び燃え上がらせるような恭也の言い方に、遼一は素直に疑問を抱いた。

 

だが確かにその通りだった。

 

こうなることは最初から分かっていて宇宙を愛したのだ。

 

危険を覚悟で、自由を奪い束縛していた亨に対して自由にしてほしいと訴えていたのだ。

 

ここで頭を垂れてはいけないのだ。

 

亨に屈してはいけないのだ。

 

今ここで奮起しなければ、また元の生活に逆戻りである。

 

宇宙が自分のために命をかけてくれている。

 

その気持ちに答えなければっ。

 

「まぁ、結局はそんな程度のものだったということか。お前と宇宙の愛情は」

 

恭也は最後にそう言って、病室を出ていく。

 

一人ベッドの上に残された遼一は、握り拳でベッドのパイプを殴った。

 

鈍い音が病室に響く。

 

「宇宙はどんなことをしてでも守ってみせる。宇宙だけは・・・亨の食い物にはさせないっ」

 

遼一の決意の言葉を廊下で聞いていた恭也は、思いどおりの遼一の反応にニヤッと顔を綻ばせた。