東京スペシャルナイト 上 27
- 2016年01月27日
- 小説, 東京スペシャルナイト
「お前が提供してくれた情報は、どうやら本物のようだな」
マッサージルームの特別室から出て来た亨は、店の前に横づけにされていた黒いベンツの後部座席に乗り込み、隣に座っていた恭也に言った。
肩まで無造作に髪を伸ばしている恭也は、亨の裏の世界の側近的役割を果たしていた。
ダークグレーの高価なスーツに身を包んでいる亨は、短めの髪を立たせワイルドに決めていた。
明るいシルバーグレーのネクタイがよく似合っている。
「・・・・・そうですか。それで、桜井は認めましたか?」
亨が煙草を口に銜える。
恭也はライターを灯し、煙草の先端に火を点けながら何気ない顔で聞いた。
「いや。とぼけていた」
外国製の葉巻の煙をくねらせるように一服した亨が革のシートに身を沈めて言う。
細められた黒い瞳がとても冷たく感じられる恭也は、言葉少なめな亨の様子を窺いながら、次の言葉を待っていた。
「・・・・・桜井は本気なのか?」
ベンツが走り出し、しばらくして亨が言った。
「・・・おそらく。二人でラブホテルに入るところを見ましたから。それにそのホテルでアルバイトをしている男に聞いたんですが、自分のことを遼一と呼ぶようにと、相手の男に言ったそうです。桜井がその男を風呂場でマッサージしているビデオも入手しています」
と、いったん言葉を切ってから黒いスーツ姿の恭也は窺うように言った。
「・・・・・見ますか?」
とたんに、亨の顔色が変わる。
「隠し撮りしたのか?」
「私たちの財産の一つですので」
と、恭也が淡々とした口調で言うと、亨は手元のスイッチを押して窓を少し開けた。
葉巻の煙を外に出したのだ。
「そのテープは処分しろ」
「はい、承知しました」
恭也は、穏やかな口調でそう言って頭を下げる。
恭也の細められた瞳には冷淡さが浮かんでいた。
この機を逃すことはない。
桜井から亨を奪う、絶好のチャンスなのだ。
亨の寵愛を桜井から奪い去り、自分のほうに向けるチャンスなのだ。
絶妙な手技で亨の寵愛を受けている桜井という男を、恭也はずっと目の上のタンコブのように思っていた。
いつかは桜井を追い落とし、自分がその地位につけたら。
亨を密かに愛している恭也は、誰にも知られることなく密かにそう思っていた。
恭也はニヤッと笑った。
恭也の頭の中には、すでに桜井を追い落とすストーリーができあがっていた。
「それで、相手の男のほうはどうしますか?」
長めの髪を掻き上げるようにして恭也が聞くと、亨は忌々しそうに舌打ちをした。
「桜井が本気で惚れた相手がどんな男か、一度会ってみたいものだな」
嫉妬心だけではない、別の感情も窺える亨の言葉に、恭也は静かに『分かりました』とだけ答えていた。