東京スペシャルナイト 上 20

だが今さら迷ったところでしょうがない。

 

それにせっかくこんな素晴らしいラブホテルに入ったのだから、楽しまなければ損である。

 

桜井さんも裸だし、それに自分の裸は嫌というほどこの前のスペシャルマッサージのときに見られているし。

 

恥ずかしがる要素など何もないのだ。

 

「よしっ。プールに入っちゃう」

 

宇宙は決心すると、急いでスーツをソファに脱ぎ捨て、全裸になった。

 

そしてそのまま、桜井が泳いでいるプールの階段を駆けのぼり、勢いをつけてドボンッと中に入る。

 

温水プールの中に入ると、すぐに桜井が後ろから抱きついてきた。

 

桜井の硬い分身が、お尻の割れ目に当たってるぅ。

 

「もう少し待たせたら、お仕置きするつもりだったんですけど、まぁいいでしょう」

 

「お、お仕置き?」

 

上品な桜井さんからは想像もできない言葉に、宇宙は驚いてしまう。

 

でもなんだかとっても卑猥でエッチな響きがあって、ゾクッとしてくる。

 

それに、さっきからお尻に当たっている桜井の分身の存在が気になるぅ。

 

「お仕置きはこの次にして・・・今はせっかくだから遊びましょう」

 

と言った桜井が、宇宙の身体をプールに沈めてしまう。

 

ブクブクブク・・・・・。

 

宇宙は突然のことに驚きながらも、必死に水中で桜井の手から逃れようともがいた。

 

溺れそうになっていることに気づいた桜井が、宇宙の頭を水中から出してあげる。

 

「さ、桜井さんっ!」

 

少し怒って、宇宙が叫ぶ。

 

すると桜井はクスクスと笑って、宇宙の唇にキスをした。

 

「遼一でいいですよ。私のことは遼一って呼んでください」

 

「り、遼一・・・?」

 

遼一って呼んでくださいって、急に言われても。

 

姿のとおり綺麗でいい名前だなーと改めて感心しながらも、遼一と呼び捨てに呼んでもいいと言ってくれたことに、なぜか胸の奥がキュッと痛くなる。

 

心地よくて思わず涙が出ちゃいそうなその胸の痛みを、宇宙は大切にしなければいけないと直感で感じていた。

 

男同士の裸の付き合いって、いいなー。

 

「そんなにボーっとしてると、また沈めてしまいますよ」

 

水中に潜った桜井が、宇宙の足を引っ張ってまた沈めてしまう。

 

慌ててもがく宇宙だったが、桜井の力強い手によって引き込まれてしまっていた。

 

水中で激しく絡み合う二つの裸体。

 

そしてディープキス。

 

宇宙は、まるで夢の世界にいるような気がしていた。

 

あんなに恋い焦がれていた桜井と裸同士でプールに入り、抱き合い、キスまでしているのだ。

 

しかしファーストキスである。

 

夢物語の、人魚にでもなったような気分だった。

 

「ぷはぁーーーーーっ」

 

息が苦しくなって水面に顔を上げ思い切り息を吸い込むと、また水中に引きずり込まれる。

 

そして抱きしめられて、ディープキス。

 

宇宙の両脚はいつの間にか左右に開き、その間に桜井の股間が入り込んでいた。

 

ゆらゆらとした水中で押し合い擦れ合う、勃起した二人の分身。

 

その感触が、エロティックでたまらないっ。

 

「ーーーーーんんっーーーーー」

 

なんとも言えないくらい気持ちよくて、焦らされているような感じがたまらなくて、宇宙は水中で何度もイキそうになってしまった。

 

頭の中がクラクラするほどのディープキスと、密着した肌の感触と擦れる股間の感覚。

 

どれもこれも、宇宙には初めてのものばかりだった。

 

こんなことを二十分も繰り返し続けていると、宇宙の身体からはすっかり力が抜けていた。

 

自分の足で水中に立っていられないくらい、水中で体力を奪われていた。

 

「そろそろ、上がりましょうか?」

 

そう言って、桜井が力の抜けきった宇宙の身体を引き上げる。

 

そして抱き上げて階段を下りると、そのままバスルームへと直行した。

 

広いバスルームには、マットレスのようなものが敷いてあった。

 

そこにグッタリとしている宇宙の裸体を仰向けで寝かせ、桜井はチュッと唇にキスをした。

 

宇宙が愛おしくてたまらない、そんなキスだった。

 

「桜井さん?」

 

「遼一でいいと言ったでしょう?」

 

優しく笑って、桜井が言う。

 

だが宇宙は、遼一と呼んでしまうのがもったいなく思えた。

 

もっと関係が深くなって、互いに愛し合うようになったら、そのときは迷わず遼一と呼びたい。

 

だけど今は桜井さんでも十分だと思っていた。

 

こうして二人きりでホテルに入って、キスをされて・・・・・。

 

桜井さんの時間を独り占めできるこの幸せは、例えようもなかった。

 

今はそれだけでいい。

 

そうじゃないと、一度に何もかも独り占めしてしまったら、もったいない。

 

幸せすぎて、桜井さんを失ってしまいそうで、怖いのだ。

 

「今はまだ、桜井さんでいいんです。今はまだ・・・・・」

 

宇宙の控えめな言葉に、桜井は優しく微笑んだ。

 

そして備え付けのボディソープを手の中にたっぷりと垂らし、泡立ていく。

 

泡立てたソープは、そのまま宇宙の身体の上に落としていく。

 

「・・・桜井さん?」

 

「大丈夫ですよ。心配しないでそのままじっとしててください。言ったでしょう?宇宙が嫌がることは何もしませんって」

 

「・・・はい」

 

宇宙はすぐに素直に返事をして、ヌルンっとした泡の感触に神経を集中させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 19

そんな二人を、黒いベンツの後部座席から一人の人物がじっと見ていた。

 

彼の名前は恭也、三十五歳。

 

先ほどのチンピラたちが属している組の若頭をしている男だった。

 

だが、互いに心を通わせている二人は、そんな恭也の存在にはまったく気づいていなかった。

 

桜井にこうして肩を抱かれて歩いていると、まるで恋人同士である。

 

宇宙の胸は、今にも爆発してしまいそうなくらいドキドキしていた。

 

このままマッサージを受けたら、きっと以前のとき以上に感じてしまうに違いない。

 

目を覆いたくなってしまうような、両耳を塞いでしまいたくなるような醜態を見せてしまうかもしれない。

 

だがそんなことよりも、今ここで桜井に出会えた偶然を尊重したかった。

 

偶然?

 

ううん、違う。

 

これは運命かもしれないのだ。

 

だったらなおのこと、この瞬間を大切にしなければ。

 

そんなことを考え、覚悟を決めた宇宙の肩を抱いている桜井が、ラブホテルの自動ドアの前に立つ。

 

「・・・・・・・えっ?」

 

驚いている暇もなく、目の前のドアは静かに開き、宇宙と桜井を招き入れた。

 

肩を抱かれたまま少し歩くと、そこには部屋の間取りの写真が並べられていた。

 

明るく灯っている部屋もあるし、すでに暗いものもある。

 

「どの部屋がいいですか?」

 

桜井が、宇宙の耳元で優しく聞く。

 

宇宙は大胆な桜井の行動に驚きながらも、今さら後には引けないことを察していた。

 

「ど、どこでも・・・いいです」

 

やっとの思いで宇宙が言うと、桜井はプール付きの部屋をチョイスしてくれた。

 

その部屋のボタンを押すと、カードキーが出てくる。

 

カードキーを持った桜井は、多少震えている宇宙の肩を抱き寄せたままエレベーターに乗った。

 

「こういうところは、初めてですか?」

 

狭いエレベーターの中で、桜井が聞いてくる。

 

宇宙は、素直に大きく頷いた。

 

緊張してて、声が出ないのだ。

 

「そんなに緊張しなくていいですよ。宇宙が嫌がることは、何もしませんから」

 

宇宙って、呼んでくれたことが妙に嬉しく感じる。

 

それに嫌がることは何もしないと言ってくれたことに、安心感を覚えた。

 

実際には、桜井にされることに、嫌なことなんてなかったのだが、言葉でそう言ってもらえると心が落ち着いた。

 

エレベーターから降りて、ドアの上についているランプが点滅している部屋の前に立つ。

 

桜井はこういうところは慣れているのか、カードキーを手慣れた手つきで使い、ドアを開けた。

 

「・・・うわぁ・・・・・」

 

驚いたことに、部屋の中にはラブホテルといういやらしい感じはまるでなかった。

 

まるでどこかの水族館のようだった。

 

明るい部屋の中には円形のベッド、品のよいソファとテーブル、そしてジャグジーバスとトイレ。

 

そして宇宙を驚かせたのは、円形のベッドのまわりを取り囲んでいる、巨大な水槽だった。

 

熱帯魚が、ベッドのまわりを気持ちよさそうに泳いでいる。

 

「すごいっ!ベッドのまわりが水族館だっ」

 

驚きの声を上げて、宇宙が思わずベッドの上に飛び上がる。

 

枕元にあったスイッチ適当に押すと、ベッドが静かに回り出した。

 

これには宇宙は素っ頓狂な声を上げてベッドの上で飛び上がるほど驚いた。

 

「すごいっ。すごーい。ベッドが回ってる。熱帯魚が回ってて・・・とても綺麗・・・」

 

驚きのあまり、不安などどこかに飛んでしまった宇宙を見て、桜井は部屋のライトを調節する。

 

すると部屋の明かりがトーンダウンして、水槽だけが明るく照らされた。

 

「すごーいーーーーーーー!」

 

唖然とした宇宙が、神秘的なその様子に見入ってしまう。

 

さっきまで、街のチンピラに絡まれ身に危険が迫っていたことなど、もうすっかり忘れてしまっていた。

 

宇宙は、熱帯魚に釘付けになりながらまるで子供のようにはしゃいでいた。

 

そんな中、桜井は一人でワイシャツやスラックスを脱ぎ裸になる。

 

「宇宙も、服を脱いで泳ぎませんか?」

 

桜井の言葉に無防備に振り返った宇宙は桜井の逞しい裸体を目の当たりし、とっさに熱帯魚たちに顔を戻す。

 

今、桜井さん、裸だった?

 

うそっ、うそぉ!?

 

でも・・・今裸だった・・・。

 

顔を真っ赤にして、今一瞬だけ見た桜井の裸体を頭の中に思い出しながら宇宙は急にソワソワした。

 

バランスの取れた裸体。

 

広い肩と厚い胸板。そして逞しい下半身。

 

宇宙の顔がもっと真っ赤になる。

 

そうだった。

 

ここはラブホテルで、自分たちはエッチなスペシャルマッサージをするためにここに入ったんだった。

 

すっかり忘れてた。

 

「宇宙?早く服を脱いで、こっちに来てごらんなさい。とても気持ちいいですよ」

 

一人でベッドの上で固まったまま顔を真っ赤にしている宇宙を残し、桜井は裸のまま隣の部屋へと入っていく。

 

するとそこには、十人は軽く入れるくらいの透明な円形のプールがあった。

 

階段を上がった桜井は、深さが胸のあたりまであるプールに入り、気持ち良さそうに泳ぎながら宇宙を呼ぶ。

 

スーツ姿の宇宙はどうしようかと迷っていた。

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 18

チンピラたちに路地に連れ込まれながらも、必死に宇宙は泣き叫ぶ。

 

このままでは、本当にラブホテルに連れ込まれてしまう。

 

ホテルに連れ込まれたが最後、本当に狼のようなこのチンピラたちに犯されてしまう。

 

男が男を襲うなんてとても信じられなかったが、現実に犯されそうになっていた。

 

「誰かっ!助けてぇぇーーーーー!」宇宙が思いっきり叫ぶ。

 

「だから、無駄だって言ってんだろうが!」

 

「いい子にしてれば、朝には解放してやるよ」

 

目をギラつかせたチンピラたちが口々に言う。

 

路地を抜けた目の前には、派手なラブホテルの看板が立ち並んでいる。

 

それを見た宇宙の顔面からは、サーッと血が引いていった。

 

どうしよう。

 

このままでは本当にチンピラたちの玩具にされてしまう。

 

こんな路地裏のラブホテル街に引き込まれてしまっては、もう誰も助けてくれない。

 

どうしようっ。

 

大好きな桜井さんにもすべてを捧げてないのに。

 

こんなことになるんだったら、キャンセルなんてしないでマッサージに行けばよかった。

 

マッサージに行って、ちゃんと自分の気持ちを桜井さんに打ち明ければよかった。

 

スペシャルマッサージをもう一度して欲しいって、言えばよかった。

 

好きだって言えばよかった。

 

宇宙は、ホテルの入り口で一生懸命に抵抗しながらそんなことを思っていた。

 

ああ、桜井さん。

 

僕はもう、本当にあなたに会えなくなってしまう。

 

宇宙がそう思ったとき、チンピラたちの強引な動きがピタッと止まった。

 

不思議に思って見ると、チンピラたちの視線が一点に集まっている。

 

宇宙は、チンピラたちの視線を辿った。

 

そしてそこで見たものは、宇宙がずっと会いたいと望んでいた桜井の姿だった。

 

「・・・その辺で許してあげなさい」

 

険しい表情の桜井は、チンピラの前に進み出て、厳しい表情でそう言った。

 

チンピラたちが、無言のまま顔を見合わせる。

 

チンピラたちは、桜井を見知っている様子だった。

 

黒いサングラスをしている男が桜井の前に歩み寄る。

 

だが桜井は一歩も引かずに言った。

 

「こんなところで素人さんを相手にしてるんじゃない。もう帰りなさい」

 

見るからに強そうな黒いサングラスの男を目の前にしても、まったく動じない。

 

そんな男らしい桜井を見て、宇宙の胸はドキンッと高鳴った。

 

桜井さんが助けてくれた。

 

嘘みたい。

 

でも、相手は喧嘩に慣れているチンピラだし、このままでは桜井さんが。

 

宇宙の心配をよそに、桜井は黒いサングラスの男の耳元で何かを囁く。

 

それを聞いた男の顔から、サーッと血の気が引いたのを宇宙は見逃さなかった。

 

いったい何を言ったのだろうか?

 

「お、おい。帰るぞ」

 

サングラスの男が、そう言って背を向けた。

 

手下のチンピラたちも、男の後を追って背を向けた。

 

突然割り込んで来た桜井に対して喧嘩を売ったり、いちゃもんをつけたりする者は誰もいなかった。

 

まるで満ち潮が引いていくみたいに、チンピラたちが賑やかなホテル街から消えていく。

 

その様子を道路にしゃがみ込んで見ていた宇宙は、何がなんだかさっぱり分からなかった。

 

桜井はあの黒いサングラスの男に何を言ったのだろうか?

 

どうしてチンピラたちは手を引いたのか。

 

チンピラたちは桜井を見たとたん、驚きと同時に脅威のようなものを表情に浮かべていた。

 

でもどうして?

 

「・・・大丈夫ですか?」

 

しゃがみ込んだまま考えていた宇宙の頭の上から、桜井が声をかける。

 

「は、はい」

 

宇宙は慌てて返事をして、桜井を見上げた。

 

いつもの男らしくステキな顔が、自分を優しい眼差しで見つめている。

 

細められたその瞳を見て、宇宙は胸の奥がキュンッと痛くなるのを感じていた。

 

会いたかった桜井さんが、目の前にいる。

 

しかも、チンピラたちを追い払った雄々しい姿で立っているのだ。

 

宇宙はもう、天にも昇るような心境だった。

 

「マッサージの予約をキャンセルしたでしょう?何か用があったんですか?それとも・・・大切な人とデートとか?」

 

宇宙を立たせた桜井が、ずっと気になっていたことを率直に聞く。

 

すると宇宙は、急に顔を真っ赤にして『いいえ』と言って首を振った。

 

「デートなんて・・・そんなことありません・・・。だって・・・付き合っている人なんていないし。今は桜井さんに夢中だから」

 

と言ってしまってから、宇宙は『あっ』と言って慌てて口を両手で塞いだ。

 

だがもう遅かった。

 

ずっと抑えてきた宇宙の気持ちは、桜井に伝わってしまった。

 

宇宙は顔をもっと赤くして、両手で口を塞いだままその場にガクッと崩れてしまった。

 

まさかこんなところで、こんなふうに桜井に告白するつもりなんてなかったのに。

 

チンピラに絡まれていたのを助けてもらった嬉しさと、桜井に偶然にも出会えた喜びから、つい本心を言ってしまったのだ。

 

崩れたまま、アスファルトの上で蹲る宇宙。

 

宇宙はもう、桜井の顔を見上げる勇気などなかった。

 

「・・・・・・・」

 

桜井は、そんな宇宙の顔にそっと手を置いた。

 

そして優しく労るように、髪を撫でていく。

 

「・・・マッサージ、していきませんか?」

 

「・・・えっ?」

 

「もちろん、スペシャルマッサージです」

 

と、桜井が言うと、宇宙は驚いて顔を上げた。

 

薄茶色の瞳には、涙が溢れていた。

 

「ス、スペシャルマッサージですか?」

 

「嫌ですか?」

 

と桜井が聞くと、宇宙はいきなり立ち上がって『いいえっ!』ときっぱり言った。

 

「全然嫌じゃないですっ。スペシャルマッサージ、ぜひお願いしますっ」

 

もうこうなったら、恥ずかしいことなんて何もない。

 

いくとこまでいってやる。

 

桜井さんにだったら、何をされてもいいんだ。

 

すべてを捧げたって、いい。

 

宇宙は、そんな心境だった。

 

「では、行きましょうか」

 

背の高い桜井は宇宙の細い肩を抱き寄せて、ホテル街を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 17

一瞬、目の錯覚かと思った桜井だが、確かにあれは宇宙だった。

 

「・・・宇宙?」

 

慌てて後を追いかける桜井の目に、宇宙の後ろ姿が映った。

 

すっかり疲れている宇宙は、足取りも重く覇気も感じられなかった。

 

桜井に素っ気なくされていることも、宇宙の足取りを重くさせているように思えた。

 

だが宇宙の綺麗な顔立ちは、行き交う人たちの視線を集めていた。

 

紺のスーツ姿の宇宙は、疲れきった表情をしていても、間違いなく目立っていた。

 

桜井は、宇宙に声をかけようかどうしようか迷った。

 

ここで声をかけてしまったら、すぐにでも店に連れ帰って、スペシャルマッサージをしてあげたくなってしまうからだ。

 

いや、今日はスペシャルマッサージだけでは済みそうになかった。

 

スペシャルマッサージよりもいっそう強力な快感が得られる、ウルトラスペシャルマッサージで、宇宙をヘロヘロにしてしまいたい。

 

そんな淫靡な衝動に駆られていた。

 

もう、だれに知られたって構わない。

 

たとえあの人に知られても・・・この想いはどうしようもないのだ。

 

そう決心した桜井の目に、数人のチンピラ風の男たちに囲まれている宇宙の姿が目に入った。

 

よろめいた宇宙の身体が、チンピラの一人の肩にドンッとぶつかってしまったのだ。

 

宇宙を取り囲んでいるチンピラたちの顔に見覚えがあった桜井は、一瞬足を止めた。

 

『あの人』がよく金の力で利用しているチンピラたちだった。

 

「おいっ!どこに目をつけてんだよ!?いてーじゃねーか!」

 

ぶつかった派手なスーツに黒いサングラス姿の男が、肩を押さえるようにして叫ぶ。

 

その声を聞いた通りすがりの人たちは危険を感じたのか、一斉にその場から遠ざかった。

 

「す、すみません」

 

気づいた宇宙は、慌ててチンピラに謝る。

 

だがチンピラは、痛くもない肩を大袈裟に摩りながら、大声で叫んだ。

 

「こりゃあ・・・もしかすると肩の骨が折れているかもしれねーな?どうしてくれるんだ?えっ、顔の綺麗なおにーさんよぉ?」

 

「慰謝料を払うだけじゃ足りねーな。やっぱりここは・・・おにーさんの身体で払ってもらわなくっちゃな」

 

仲間のチンピラたちも、クチャクチャとガムを噛みながら、宇宙のまわりをグルグルと歩き回った。

 

「で、でも・・・。ちょっとぶつかっただけですし・・・。折れてるなんて・・・」

 

宇宙が怖々言うと、ぶつかったチンピラは急に身を乗り出して宇宙の襟元を掴み上げた。

 

「俺が折れてるって言ったら、折れてるんだよっ。文句あるのか?」

 

「ででも・・・」

 

震える声で反論しようとしたが、すぐに言葉を突っ込まれて口を噤んだ。

 

「うっせーな。ゴチャゴチャ言ってると、この場で犯すぞ!」

 

その荒々しい声に、遠巻きに見ていた人たちまでも逃げるように去っていく。

 

宇宙を助けてくれる人は誰もいなかった。

 

みんな、見て見ないふりをしている。

 

派手なスーツ姿の横柄な態度のチンピラたちは、すっかり脅えている宇宙の腕を引っ張りあげた。

 

「こんなところではなんだから、ちょっと落ち着いた場所に行って話ししようや」

 

ぶつかった黒いサングラスを掛けた男が、ニヤッと笑って耳元で言う。

 

角刈り頭のその男は、チンピラたちの長のような男だった。

 

「落ち着いた場所?」

 

「おにーさん、顔が綺麗だからさ。ちょっと付き合ってほしいんだよな。ラ、ブ、ホ、テ、ル」

 

「ホ、ホテル?でもラブホテルで何をするんですか?」

 

宇宙の真剣な問いに、チンピラたちが思わず顔を見合わせ、プッと噴き出して大笑いする。

 

下品な笑いの中、宇宙はとっさに逃げ出そうとした。

 

だが、黒いサングラスを掛けた男が、そんな宇宙の腕を強く掴んで引き寄せる。

 

「おいっ!俺たちから逃げようったって無駄だぜ。慰謝料をちゃんと身体で払ってもらうからな。覚悟しなよ」

 

角刈り頭の男が言うと、他のチンピラたちが一斉に宇宙を取り囲み細い路地に連れ込もうとする。

 

このときになって、ようやく宇宙は自分の身に迫る危険を察知した。

 

ラブホテルに行ってすることといったら・・・セックスしかない。

 

ということは・・・つまり・・・・・。

 

「は、離してっ!誰か・・・誰か・・・助けてっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 16

宇宙がキャンセルの電話を入れてきたことを受付の女性から聞いた桜井は、思わず顔をしかめた。

 

少し、冷たくしてしまったことがいけなかったのか。

 

最初は、桜井はそう思った。

 

仕事が忙しくてどうしても時間内に来れないという場合も考えられる。

 

だがどういうわけか、桜井は後者のほうではないと直感で思っていた。

 

桜井が宇宙に対し、少し素っ気ない態度を取っていたことには、理由があった。

 

スペシャルマッサージを受けているときの宇宙の喘いでいる姿が、想像を絶するほど可愛くて、愛しくて、たまらなくなってしまったからだった。

 

マッサージに通ってくる宇宙を見るたびに、またスペシャルマッサージをしたくてたまらなくなる衝動を抑えるために、桜井はわざと冷たい態度を取っていた。

 

まさか、あんなにも可愛いなんて。

 

性感帯を刺激するスペシャルマッサージは、ある特別な人の心と身体を癒すために無理やり覚えさせられたマッサージだった。

 

そのマッサージをある『特別な人』以外に施してしまったのは、これが初めてだった。

 

『特別な人』以外には決してしてはいけないスペシャルマッサージ。

 

それをどうしても宇宙にしてみたくて、その反応を見てみたくて、桜井はずっと守ってきた約束を破ったのだった。

 

このことをもし『特別な人』が知ったらただでは済まないことは承知している。

 

だが、それでも桜井は宇宙をこの手で感じさせてあげたいと思ったし、喘ぐ姿を見たいと望んだのだった。

 

そして想像以上に、宇宙は可愛い姿を桜井に見せてくれた。

 

シルクのような手触りの肌と薄いピンク色のまだ未熟だが、とても感じやすい可愛い乳首。

 

宇宙が、桜井のマッサージを受けたときから勃起していたことは気づいていた。

 

宇宙が桜井に対して、特別な感情を抱いていることも知っていた。

 

初めは気づかないふりをしていた桜井だったが、宇宙のあまりの素直さと可愛らしさに、とうとう参ってしまった。

 

理性よりも欲望のほうが勝ってしまったのだ。

 

スペシャルマッサージをしてあげようと思ったのも、欲望に負けたからだった。

 

可愛い宇宙を、この手で感じさせてあげたい。

 

宇宙に、未知の快楽を与えてあげたい。

 

そしてその姿をこの目で見たい。

 

そんな欲求に耐えられず、桜井はスペシャルマッサージを宇宙にしてしまったのだ。

 

そしてすべてが終わった後、桜井の心の中には震えるような満足感と不安が入り乱れていた。

 

意識を失うくらい感じまくった宇宙を前に、罪の意識に苛まれていた。

 

宇宙のような経験の少ない素直な青年に、無限の快楽を与えるようなスペシャルマッサージを覚えさせてしまったら、それはきっと罪になるのではないだろうか。

 

桜井自身が宇宙のものになるのなら話は別だが、桜井はある特別な人に縛られていた。

 

囲われている身分なのだ。

 

それなのに、一般のお客様を好きになってしまって、しかもスペシャルマッサージをしてしまうなんて。

 

桜井は、この事実を知ったらきっと激怒するであろうある人物の顔を思い浮かべていた。

 

そして宇宙のためにも、少し距離を置こうと思ったのだ。

 

だがそう思えば思うほど、どんどん宇宙が好きになっていく。

 

マッサージを重ねれば重ねるほど、宇宙の身体にもっと触れていたい衝動に駆られてしまうのだ。

 

スペシャルマッサージをしてほしそうな顔をして、じっと桜井を見つめる宇宙の瞳。

 

だがその瞳から顔を逸らして、わざと冷たい態度を見せなければならない桜井も、実はとても苦しんでいた。

 

マッサージが終わった後、宇宙が自分を慰めていることも知っている。

 

知っていたが、どうしてやることもできなかった。

 

これ以上、宇宙を好きになってしまったら特別なあの人が黙っていないからだ。

 

性感帯へのマッサージを教え込んだ、特別なあの人が黙っていない。

 

宇宙、すまない。

 

桜井は、いつも心の中で宇宙に詫びていた。

 

だが、宇宙からマッサージの予約のキャンセルが入ったと聞いた桜井は、ずっと抑えてきた宇宙への気持ちが一気に燃え上がったのを感じていた。

 

宇宙が来ないと知ったときのショックは、例えようもなかった。

 

今日は、宇宙に会えることを楽しみにしていたのに。

 

スペシャルマッサージはしてあげられなくても、宇宙の身体に触れらるそのことだけで満足を得ようとしていたのに。

 

それに、次の予約もいっさい入っていないと聞いた桜井は、胸がギューッと締めつけられるように痛くなるのを感じていた。

 

もう来てくれないかもしれないのだ。

 

スペシャルマッサージの後、冷たくしていたからなのか。

 

それとも、他にいいマッサージ師でも見つけたのだろうか。

 

まさか、恋人ができたのでは?

 

そんな不安が頭の中を駆け巡り、桜井は居ても立ってもいられなかった。

 

「ちょっと、外に出てくる」

 

受付の女性そう言って、桜井は外に出た。

 

帰宅を急ぐサラリーマンたちをかき分けるように街中を歩きながら、宇宙のことを想っていた。

 

今まで、数えきれないくらいの客の身体に触れ、マッサージをしてきた。

 

有名な女優や俳優も、桜井のマッサージの腕のよさを見込んで店にやってくる。

 

どんなに美しい人をマッサージしても、こんな気持ちにはならなかった。

 

こんなに会いたいと思う人は、初めてだった。

 

この狂おしいまでの気持ちを言葉にするならば、愛だと桜井は思った。

 

恋などという、生半可な想いじゃない。

 

宇宙のすべてを欲しいと思うこの気持ちは、まさしく愛だった。

 

「こんなことになるんだったら、もっと優しくしてあげればよかった。自分の気持ちに素直になって・・・あの人に知られてもいいから・・・自分の想いを遂げればよかった」

 

賑やかな人混みの中で、白いワイシャツに黒いスラックス姿の桜井は呟いた。

 

このまま会えなくなってしまうくらいなら、いっそのこと・・・・・・・。

 

そんな思いつめた桜井の少し前を、偶然宇宙が通りすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 15

宇宙は、朝からずっとボーっとしていた。暇があれば職員室から外を眺め、葉が落ち始めている大きなポプラ並木を、先ほどからじーっと眺めていた。

 

そんな宇宙を不思議そうに見て、何人かの教師が心配そうに声をかけたが、宇宙は「景色が綺麗なものですから」とだけ答えていた。

 

確かに、初秋の光景は色が様々で美しく、目の保養にもなった。

 

だが宇宙は、実際にはそんな景色には目もくれず、桜井の姿だけを思い描いていた。

 

あの、脳天直撃のスペシャルマッサージを受けてから三ヶ月が経っていた。

 

記録的な猛暑も去り、今ではすっかり街は秋のファッションに溢れている。

 

宇宙はあれから、何度か桜井のもとを訪れ、マッサージを受けていた。

 

だが心も身体も虜になってしまった、あのスペシャルマッサージは、あれから一度もしてくれなかった。

 

今日こそはスペシャルマッサージをしてくれるかもしれないと意気込んで行っても、いつもの足の裏のツボ圧しとマッサージのセットだけなのだ。

 

本当は『スペシャルマッサージをお願いします』と言いたいのだが、恥ずかしさが邪魔をしていてとても言えなかった。

 

いつものマッサージも確かに気持ちいいし、リラックスできる。

 

身体の疲れも癒されるし、桜井に会えた喜びで心も満ち足りてくる。

 

だけど、あの心も身体も蕩けてしまうようなスペシャルマッサージを知ってしまってからというもの、どうもいつものマッサージでは満足できない身体になってしまっていた。

 

それが証拠に、マッサージが終わる頃には宇宙自身が勃起してしまっていて、どうにも収まらなくて、仕方なく桜井が出ていった部屋の中で自分の手で慰めるということが続いていた。

 

しかし自分の手で慰めてあげて満足させても、何か釈然としない。

 

満足感がないというか、心が潤わないというか、かえって寂しくなってしまうというか。

 

だがこうでもしないと、下半身がいつまでも元気でスラックスが穿けないのだ。

 

あのスペシャルマッサージの一夜から、桜井はどことなく宇宙に対して素っ気ない態度をとっていた。

 

それが宇宙を、とても悲しくつらくさせていた。

 

気のせいかもしれないけど、でもやっぱり以前の桜井とはどこか違うのだ。

 

「やっぱり・・・あの時の僕をみて・・・呆れちゃったんだろうな・・・」

 

秋風に吹かれ、木の枝から落ちていくポプラの葉を眺めながら、宇宙はボソッと呟いた。

 

自分のまわりには誰もいない。

 

教科書やテストが積んである机の上で肩肘をつき顎を乗せて、宇宙は一人でボーっとしていた。

 

「だって、あんなマッサージ初めてだったから・・・。つい・・・調子にのっちゃって・・・」

 

反省するように、深く後悔するように宇宙は呟いていた。

 

あのときあまりにも破廉恥に喘ぎすぎて、感じすぎちゃって、そんな卑猥な自分の姿を見た桜井が呆れてしまったのだと宇宙は思い込んでいたのだ。

 

きっともう、嫌われてしまったのだ。

 

そう決まってる。

 

いくら気持ちいいからってあんなにアヘアヘ言っちゃって、娼婦のように喘ぎまくっちゃって。

 

あれから桜井さん、どことなく冷たいし、スペシャルマッサージもしてくれなくなっちゃったんだ。

 

でももっと素直になって、ちゃんと感じなさいと言ったのは桜井さんだし。

 

あのときの桜井さんはいつもの桜井さんと違ってて、とても大人で支配的で、まるで僕の上に君臨する王様のようで。

 

そんな桜井さんに魅せられて、ついあんな大声まで出しちゃって。

 

最後には自分でもどうなったのかわからないくらい感じちゃって。

 

何度もイッちゃって。

 

桜井さんの手の中でオイルと体液が混じり合っていて、クチャクチャしてたっけ。

 

あーあ、もう最悪。

 

どうしたらいいんだろう。

 

桜井さんにまた以前のように優しく接してもらいたいのに。

 

スペシャルマッサージを、もう一度だけでもいいからしてほしいのに。

 

「・・・・・はぁ・・・」

 

宇宙は、思わずため息を漏らした。

 

するとちょうど、午後の授業が始まるチャイムが鳴る。

 

校庭や廊下では、キャーキャーと走り回っている子供たちの声がする。

 

宇宙は、重い腰を上げて算数の教科書を持った。

 

「今日も予約入っているけど、やっぱりしてくれないよね。スペシャルマッサージ」

 

疲れきった顔で、宇宙は廊下に出た。

 

とたんに、まだ教室に入っていない一年生の子供たちに囲まれてしまう。

 

「せんせー!早く教室に行こうよ」

 

「宇宙せんせ、最近一緒に遊んでくれないからつまらない」

 

宇宙のクラスの子供たちだった。

 

そう言えばそうだった。

 

夢と希望に燃えていた四月頃は、暇さえあれば一緒に子供たちと遊んでいたっけ。

 

「どっか、具合悪いの?ねぇ・・・せんせ?」

 

「せんせー、大丈夫?」

 

腕にまとわりついている子供たちが、純粋な瞳をキラキラと輝かせて聞いてくる。

 

問題児の国ちゃんがいないと、この子どもたちは本当に素直で優しい子供たちだった。

 

宇宙は一瞬、子供たちの優しさに触れ、胸がキュンッとなる。

 

だがそんな感じのいい雰囲気を壊したのは、問題児の国ちゃんだった。

 

「先生はどこも具合なんて悪くないよ。きっと・・・惚れた相手のことでも考えていたんじゃねーの?」

 

子供らしからぬ言葉に、宇宙は一瞬絶句してしまう。

 

後ろを振り返ると、そこには、面白くなさそうな顔をして数人の悪ガキ集団と立っている国ちゃんがいた。

 

「く、国ちゃん・・・。惚れた相手とかって・・・そんなこと言っちゃいけないよ」

 

「あっ、図星だな先生?顔が赤いよ」

 

すぐに国ちゃんに切り返され、宇宙は反射的に顔を両手で覆ってしまう。

 

実際、桜井のことを考えていただけに、図星という言葉は見事に的中していた。

 

「く、国ちゃん!」

 

「まったく、最近の教師は・・・エッチなことばかり考えているんだからな」

 

国ちゃんは呆れたようにそう言って、悪ガキ集団を従えて教室に戻っていく。

 

国ちゃんの言葉を聞いた他の子供たちも、慌てて宇宙の腕から離れて教室に駆け込んでいった。

 

「あ、あの・・・。ちょっと待ちなさい。そうじゃないんだ。違うんだって」

 

と慌てて言い繕っても、もう遅かった。

 

宇宙の顔は真っ赤だったし、子供の純粋な目はすぐに嘘を見抜いてしまう。

 

一人廊下に取り残された宇宙は、ガクッと肩を落とした。

 

「・・・・・・なんで分かっちゃったんだろう」

 

ボソッと呟いてから、気を取り直して教室へと向かう。

 

そして午後の授業は、国ちゃんが大暴れしてもう散々な状態だった。

 

他の教師からは怒られ、放課後には校長から呼び出された。

 

悪ガキ集団の素行と生活態度を直すように厳重に注意され、やっと校長室から解放されたときには、もう外は真っ暗だった。

 

時計を見ると、七時を回っている。

 

今日のマッサージの予約は八時だから今から行けば間に合うが、なんだか今日はマッサージに行く元気もなかった。

 

数人の教師が残っている職員室で、宇宙はマッサージの予約のキャンセルの電話を入れた。

 

『次回のマッサージの予約を入れますか?』

 

本当は、今すぐにでも桜井に会いたい。

 

だが、桜井に素っ気なくされることを思えば、しばらくの間会わないほうがいいのではないだろうかと考えたのだ。

 

電話を切った後、妙な寂しさが全身を駆け巡った。

 

そしてこのとき思った。

 

もしかしたら、自分は桜井に恋をしているんじゃないだろうか・・・と。

 

このせつない想いは、正真正銘の恋じゃないだろうか・・・と。

 

「まさか・・・。桜井さんは男なんだし・・・・・」

 

宇宙は、湧き上がる熱い想いを否定するかのように独り言を言う。

 

だが、暇があればいつも桜井のことを考えてしまう今の状況は、誰が見ても『恋』だった。

 

勘のいい、国ちゃんに指摘されたとおりである。

 

「桜井さんが・・・好き?」

 

自分に問いかけるように宇宙は呟いた。

 

そして自分の嘘偽りのない心を知る。

 

桜井さんが好き。

 

それは、宇宙が初めて真剣に人を好きになった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 14

ヌチャヌチャッと音がして、腰から脳天に快感が走り抜ける。

 

宇宙にとって、こんな感覚は初めてのものだった。

 

ついさっき、乳首の快感に目覚めたばかりなのに、もっと強烈で生々しいこんな快感があったなんて。

 

自分の手でするときの快感なんて、まるで子供のお遊びのように感じた。

 

弄られている分身が、与えられる快感を喜んで受け入れている。

 

まるでずっと、こうされることを待ち望んでいたかのように。

 

「あっ・・・うそ・・・だめ・・・そんな・・・」

 

気持ちよくて、雲の上にいるような気分を味わいながらも、恥ずかしくてしょうがない。

 

ずっと会いたいと思っていた桜井さんから、まさかこんなマッサージをされるなんて夢にも思っていなかった宇宙である。

 

もう、心も身体もメロメロだった。

 

本当に、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。

 

「だめぇ・・・あっ・・・あぁぁ・・・・・」

 

上ずった甘い声が、どうしても宇宙の唇から出てしまう。

 

無理に唇を噛みしめても、桜井がオイルをたっぷりと垂らした分身の先端を上下に弄くると、どうしても喘ぎ声が漏れてしまった。

 

自分の声だとはとても信じられない、甘くて色っぽくて男を誘うような声を聞きながら、宇宙は思った。

 

これは自分の声じゃない。

 

今の自分は本当の自分じゃない。

 

自分は今、夢を見ているんだ。

 

こんな破廉恥でいやらしい声で喘いでいるのは、自分じゃない。

 

宇宙は必死にそう思おうとした。

 

だけど、どんなにそう思い込もうとしても、甘い喘ぎ声は自分の声だった。

 

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいですよ。もうここには・・・私とあなたしかいないんですから。心と身体を解き放して・・・快感に身を委ねるのです」

 

「あっ・・・でも・・・そんな・・・」

 

桜井の色香が漂う言葉に心をときめかせながら、宇宙は首を横に振った。

 

だめ、だめっ。

 

心も身体も蕩けてしまうくらい気持ちいいけど、この快楽に身を委ねてしまってはいけない。

 

信じられないくらい破廉恥でいやらしい自分を、桜井さんにさらけ出してしまうかもしれない。

 

これ以上、淫靡な自分を見られてしまったら、きっと桜井さんは呆れてしまう。

 

呆れて、きっと嫌われてしまう。

 

そんなことになったら、もうここには来れなくなってしまう。

 

そんなのは、絶対に嫌だ。

 

絶対に、だめ。

 

宇宙は、すぐにでも気が遠くなるような快楽に身を委ねてしまいそうなのを必死に堪えていた。

 

だがそんな宇宙をあざ笑うかのように、すべてを知り尽くしている桜井の巧みな愛撫が続き、宇宙の理性を食い尽くしていく。

 

「あっ・・・あんっ・・・」

 

根元から絞り上げるように、分身に絡み付いた桜井の指が上下に揺れる。

 

しかも空いているほうの手で、双玉を強弱をつけて弄っているのだ。

 

宇宙は、もうイッてしまいそうなぐらい感じていた。

 

「あぁぁぁ・・・・・だめぇ・・・・・」

 

「そうやっていつまでも抵抗していると、つらいだけですよ。ほら・・・」

 

と、少し笑いながら言って、桜井は亀頭の部分を集中して責めた。

 

先端の割れ目に、指先の爪をクイッと入れたのだ。

 

「あっ!」

 

それは、ずっと堪えていたものが放出された瞬間だった。

 

「あぁぁぁーーーーーー・・・っ」

 

白い液体が、爪を挿入した割れ目から溢れ出る。

 

「あぁぁ・・・あぁぁ・・・・・・」

 

宇宙はイッてしまった瞬間、頭の中が真っ白になってしまったのを感じていた。

 

そして十分に絶頂感を味わった後、自分が発した娼婦のような声を聞き、はっとして我に返る。

 

頭を持ち上げて見ると、自分の腹の上にはオイルと混じって白い液体が無数に飛び散っていた。

 

「うそ・・・・・」

 

自分の目で見ても、信じられなかった。

 

それは、桜井の手の愛撫によって絶頂感を極めた証だった。

 

「もう少し素直にしていたら、もっとすごい絶頂感を味わえたのに・・・。今度は抵抗しちゃだめですよ」

 

桜井が、クスッと笑いながら白い液体をオイルに混ぜていく。

 

宇宙は絶頂感を極めたというのに、桜井の手はまだ動いたままだった。

 

絶頂の余韻がまだ残っている宇宙は、可愛く喘ぎながら手の行く先を肌で感じていた。

 

「あっ・・・桜井さん・・・」

 

宇宙が、今にも泣きそうな顔で桜井を呼ぶ。

 

桜井は、体液とオイルが混じったヌルヌルの手で、もう一度ピクピクしている分身を包み込んだ。

 

「あんっ」

 

驚いたことに、分身は元気なままだった。

 

たった今イッたばかりだというのに、ピクピク震えてはいるものの、まだ元気いっぱいなのだ。

 

「うそー?」

 

宇宙は思わず呻いた。

 

だが桜井は、それが当然とでも言いたげな顔をして、再び両手を上下に揺らしていく。

 

「・・・今度は素直に・・・私が満足する声を上げて・・・色っぽい顔を見せて・・・イッてくださいね」

 

「さ、桜井さん・・・あっ・・・だめ・・・そんなことしたら・・・」

 

「そんなにしたら、なんです?」

 

桜井の手が大きく上下に揺れていく。

 

宇宙は、反射的に大きく息を吸い込んだ。

 

そしてそのまま、さっきよりもずっと大きな喘ぎ声を上げてベッドの上でのけぞる。

 

もう、抗うことなどできなかった。

 

恥ずかしさなんて、もうなかった。

 

宇宙の中の何かが、生まれ変わった瞬間だった。

 

今までの宇宙が、桜井によって変えられた瞬間だった。

 

「あぁぁぁぁーーーーーーーっ!」

 

宇宙の泣きじゃくるような喘ぎ声は、しばらくの間、狭い部屋の中で響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京スペシャルナイト 上 13

しかも、オイルでグチャグチャの手は、両方の乳首を摘んだり弄くっている。

 

ただでさえ感じちゃってるのに、今にもキスされそうなこの雰囲気に、宇宙はすっかり酔いしれていた。

 

「もっと気持ちよくなりたいですか?」

 

桜井が、耳たぶをペロリと舐めながら聞いてくる。

 

その瞬間、背中から全身に毛が逆立つような甘美な感覚が走った。

 

「・・・は、はい・・・・・」

 

と、消え入りそうな声で返事をするのがやっとだった。

 

「そう・・・。では・・・本格的に気持ちよくしてあげましょう」

 

そう言った桜井の唇が宇宙の頬に触れ、そのまま離れていく。

 

えっ?今のはもしかしてキス?

 

そんな疑問が頭をよぎったが、深く考えている暇などなかった。

 

桜井の指が、乳首をもっと激しくマッサージし始めたのだ。

 

マッサージというよりも、どことなくいやらしい指の動きは、愛撫に近かった。

 

「あんっ・・・」

 

いつの間にかツンっと突き出て硬くなった乳首が、桜井の指先に弄ばれることに喜びを感じているようだった。

 

指先で摘み、そして優しく揉む。

 

「あっ・・・あんっ・・・」

 

それを何度か繰り返されるうち、宇宙は股間を隠すのも忘れて身悶えるようになっていた。

 

これが、スペシャルマッサージ?

 

名前のとおり、とってもスペシャルで気持ちいいっ。

 

しかもどうしよう、これって気持ちいいっていうより快感なんだけど。

 

乳首を弄られているだけなのに、身体が宙に浮いているみたい。

 

身体中が熱くて、いつもの自分の身体じゃないみたい。

 

それに乳首がこんなに感じてしまうなんて、今まで知らなかった。

 

オイルのせいかもしれないけど、乳首がヌルヌルしててピクピクして、卑猥な感じがして、頭の中までクラクラする。

 

宇宙はもう、すっかり桜井のつくり出す快感の魔術に魅せられていた。

 

「あっ・・・あっ・・・んっ・・・ぁっ・・・」

 

宇宙の唇からは、途切れることなく喘ぎ声が漏れていく。

 

唇を閉じて無理にその声を押し殺そうとしても、桜井の巧みな指が乳首を責めるので、どうしても色っぽい声が出てしまうのだ。

 

しかも、まるで娼婦のような喘ぎ声が。

 

「んっ・・・だめっ・・・もう・・・弄らないで・・・・・」

 

感じすぎてしまった宇宙は、思わず首を左右に激しく振った。

 

だが桜井のスペシャルマッサージは止まらない。

 

どんどん激しく淫らになり、宇宙を快感の世界へと誘っていく。

 

他人の手でこんなに感じさせられたことなどない宇宙は、どうにかなってしまいそうだった。

 

そんな中、桜井のヌルヌルとしている指が、宇宙の脇腹から下腹部へスーッと降りていく。

 

そして何も隠されていない宇宙の分身を見つけると、そのままやんわりと手の中に包み込んだ。

 

「あっ!」

 

その温かくてヌルッとした感触に、宇宙が新たな快感を予感したかのような声を上げる。

 

「こちらのほうも・・・マッサージしておきましょうね。こんなに硬くなって・・・だいぶ苦しそうだから・・・」

 

桜井がビクっと脈を打っている分身を優しく撫でながら言う。

 

宇宙は恥ずかしくて恥ずかしくて、今にも顔から火が出そうだった。

 

そうだった。

 

乳首へのマッサージがあまりにも心地よくて、分身が勃起していることをすっかり忘れていたのだ。

 

しかも真っ裸だったことも忘れていた。

 

「あっ・・・あっ・・・あの・・・?」

 

パニックに陥った宇宙は、慌てて両手で分身を隠そうともがく。

 

だがその手は、桜井によって優しく窘められた。

 

「だめですよ。ちゃんといい子にしててくれないと」

 

「で、でも・・・そこはっ・・・」

 

「だから言ったでしょう。スペシャルマッサージだって」

 

「スペシャルマッサージ・・・って、つまりは・・・」

 

宇宙は、このときになってようやく、スペシャルマッサージの意味を理解した。

 

つまり、スペシャルマッサージって、こういうエッチなマッサージのことなの??

 

うそ、うそ、うそぉぉぉーーーーー!

 

思わず絶叫してしまいそうなのを必死に堪え、頬を真っ赤にした宇宙が桜井を見つめる。

 

桜井はその視線を受けながら、ゆっくりと手を上下に揺らし始めた。

 

「あっ・・・あっ・・・」